説明

熱可塑性エラストマー粉体の製法

【課題】優れた粉体流動性を付与可能な熱可塑性エラストマー粉体の製法の提供。
【解決手段】JIS K6253規定のA硬度が100以下の熱可塑性エラストマー粉体の製法において、まず平均直径が0.5mm以上、1.0mm以下の粗粉体を製造した後に、0.001mm以上、0.5mm未満の微粉体を製造することを特徴とする熱可塑性エラストマー粉体の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー粉体の製法に関するものである。更に詳しくは、優れた粉体流動性を付与可能な熱可塑性エラストマー粉体の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品等の表皮材は、エラストマー組成物を冷凍粉砕する等の機械的粉砕により得られた熱可塑性エラストマー粉体を、粉末成形することにより製造される。
【0003】
しかしながら、従来の熱可塑性エラストマー粉体は、形状が複雑であるために粉体流動性が劣り、複雑な形状の成形体のエッジ部分にピンホールや欠肉が生じるという問題があった。
【0004】
一方、特定の溶融特性及び特定の性状を有する熱可塑性エラストマー粉体を製造する方法として、溶剤処理法、ストランドカット法、ダイフェースカット法(水中カット法)(下記特許文献1〜3を参照)が知られているが、粉体の流動特性が不十分であるために、このような製造法により得られた熱可塑性エラストマー粉体は、必ずしも市場では満足されていない。
【特許文献1】特開平8−225654号公報
【特許文献2】特開平10−81793号公報
【特許文献3】特開2003−71833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような現状に鑑み、上記のような問題点のない、即ち優れた粉体流動性を有する熱可塑性エラストマー粉体の製法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、粉体流動性に優れた熱可塑性エラストマー粉体の製法を鋭意検討した結果、特定の製造方法により、驚くべきことに、粉体流動性を飛躍的に向上せしめることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、JIS K6253規定のA硬度が100以下の熱可塑性エラストマー粉体の製法において、まず平均直径が0.5mm以上、1.0mm以下の粗粉体を製造した後に、0.001mm以上、0.5mm未満の微粉体を製造することを特徴とする熱可塑性エラストマー粉体の製法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製法により得られた熱可塑性エラストマー粉体は、粉体流動性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して具体的に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー粉体の製法は、多段階、例えば二段階のプロセスを含んでいることが重要である。即ち、まず平均直径が0.5mm以上、1.0mm以下の粗粉体を製造した後に(この粗粉体の製造工程については二段階以上としてもよい)、0.001mm以上、0.5mm未満の微粉体を製造する方法であり、特に機械粉砕法で一段階で目標平均粒子直径を製造すると、粉砕速度を高く設定せざるを得ないために、粉体表面に「ヒゲ」状のものが多数生成し、粉体流動性を著しく低下させる。ここで、上記二段プロセスを採ることにより、比較的粉砕速度を低く設定できるために飛躍的に粉体流動性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
以下に本発明の各成分について詳細に説明する。
本発明における熱可塑性エラストマーはJIS K6253規定のA硬度が100以下の熱可塑性を有するエラストマーであれば特に制限されない。例えば、ポリブタジエン、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)等のジエン系ゴム及び該ジエン系ゴムを水素添加した飽和重合体ゴム(水素添加共重合体ゴム)、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレ共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレンン−ジエンモノマー三元共重合体(EPDM)等のエチレン・α―オレフィン共重合体等の非架橋、並びに動的に架橋された熱可塑性エラストマー等である。
【0011】
本発明における熱可塑性エラストマーの中でもオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましく、具体的にはオレフィン系ゴム状重合体(A)とオレフィン系樹脂(B)とからなるオレフィン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
(A)成分
本発明における(A)は融点が20〜100℃のオレフィン系ゴム状重合体であることが好ましい。例えば、エチレン−プロピレ共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー三元共重合体(EPDM)等のエチレン・α―オレフィン共重合体等である。
また(A)は、ガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であることが好ましい。
そして、(A)の100℃で測定したムーニー粘度(ML)(ISO 289−1985(E)準拠)は、20〜150が好ましく、更に好ましくは50〜120である。
【0012】
本発明において(A)の中で好ましい。重合体の一つはエチレン・α−オレフィン共重合体であり、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体が更に好ましい。α−オレフィンとして、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1等が挙げられる。中でもヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1が好ましく、特に好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンであり、とりわけプロピレン、ブテン−1、オクテン−1が最も好ましい。
【0013】
また、(A)は必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を含有することができ、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1,4−ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物、及びアセチレン類が挙げられる。とりわけエチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)が最も好ましい。
【0014】
本発明において(A)の好ましい共重合体の一つであるエチレン・α−オレフィン共重合体(以下、(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体という。)は、公知のメタロセン系触媒を用いて製造することが好ましい。
【0015】
一般にはメタロセン系触媒は、チタン、ジルコニウム等のIV族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒からなり、重合触媒として高活性であるだけでなく、チーグラー系触媒と比較して、得られる重合体の分子量分布が狭く、共重合体中のコモノマーである炭素数3〜20のα−オレフィンの分布が均一である。
【0016】
本発明において用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、α−オレフィンの共重合比率が1〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは20〜45重量%である。α−オレフィンの共重合比率は組成物の硬度、引張強度等の観点から60重量%以下が好ましく、一方、柔軟性、機械的強度の観点から1重量%以上が好ましい。
【0017】
(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、0.8〜0.9g/cmの範囲にあることが好ましい。この範囲の密度を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることにより、柔軟性に優れ、硬度の低い本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0018】
本発明にて用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有していることが望ましい。長鎖分岐が存在することで、機械的強度を落とさずに、共重合されているα−オレフィンの比率(重量%)に比して、密度をより小さくすることが可能となり、低密度、低硬度、高強度のエチレン・α−オレフィン共重合体を得ることができる。長鎖分岐を有するエチレン・α−オレフィン共重合体としては、米国特許明細書第5278272号明細書等に記載されている。
【0019】
また、(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、室温以上に熱天秤(DSC)の融点ピークを有することが望ましい。融点ピークを有するとき、融点以下の温度範囲では形態が安定しており、取扱い性に優れ、ベタツキも少ない。
【0020】
また、本発明にて用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体のメルトインデックスは、0.01〜1000g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられ、更に好ましくは10〜1000g/10分である。上記範囲内では粉体流動性、加工性のバランス特性が優れる。
【0021】
本発明にて用いられる(A)は、複数の種類のものを混合して用いても良い。そのような場合には、加工性のさらなる向上を図ることが可能となる。
(B)成分
本発明における(B)は融点が80〜150℃の結晶性オレフィン系樹脂が好ましい。例えば、エチレン系またはプロピレン系樹脂等の炭素数2〜20であるエチレン及び/またはα−オレフィンの単独もしくは二種以上を含有する共重合樹脂であり、特にプロピレン系樹脂が好ましい。
【0022】
本発明で最も好適に使用されるプロピレン系樹脂を具体的に示すと、ホモのアイソタクチックポリプロピレン、プロピレンとエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1等の他のα−オレフィンとのアイソタクチック共重合樹脂(ブロック、ランダムを含む。)等が挙げられる。
【0023】
本発明において、(B)成分の中でも、(B−1)エチレンとプロピレンとのランダム共重合樹脂等のプロピレン系ランダム共重合樹脂が好ましい。
【0024】
(B−1)の中で最も好ましいプロピレンを主体としたα−オレフィンとのランダム共重合樹脂は、高圧法、スラリー法、気相法、塊状法、溶液法等で製造することができ、重合触媒としてZiegler-Natta触媒、シングルサイト、メタロセン触媒が好ましい。特に狭い組成分布、分子量分布が要求される場合には、メタロセン触媒を用いたランダム共重合法が好ましい。
【0025】
ランダム共重合樹脂の具体的製造法は、欧州特許0969043A1または米国特許5198401に開示されており、液状プロピレンを攪拌機付き反応器に導入した後に、触媒をノズルから気相または液相に添加する。次いで、エチレンガスまたはα−オレフィンを反応器の気相または液相に導入し、反応温度、反応圧力をプロピレンが還流する条件に制御する。重合速度は触媒濃度、反応温度で制御し、共重合組成はエチレンまたはα−オレフィンの添加量により制御する。
【0026】
また、本発明にて好適に用いられるオレフィン系樹脂のメルトインデックスは、0.1〜1000g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられる。上記範囲内では熱可塑性エラストマーの耐熱性、機械的強度、粉体流動性、成形加工性のバランス特性に優れる。
【0027】
本発明において、(A)と(B)からなる組成物100重量部中の各成分は、(A)は1〜99重量%が好ましく、更に好ましくは10〜80重量%、最も好ましくは20〜70重量%であり、(B)は1〜99重量%が好ましく、更に好ましくは90〜20重量%、最も好ましくは80〜30重量%である。上記範囲内では、粉体流動性と機械的強度のバランスが向上する。
【0028】
本発明において、(A)と(B)からなる熱可塑性エラストマーは、別個の(A)と(B)を押出機で溶融混合したものであっても良いし,また(A)と(B)を重合時に製造した重合型オレフィン系熱可塑性エラストマーであっても良い。このような重合型オレフィン系熱可塑性エラストマーは、オレフィン系ゴムの分散相とオレフィン系樹脂の連続相からなる重合法によって製造された熱可塑性エラストマーである。通常は多段重合法により製造される。
【0029】
本発明において、多段重合法とは、重合が1回で終了するのではなく、2段階以上の多段重合を行うことにより、複数の種類のポリマーを連続して製造することができる重合法を意味し、機械的な手法を用いて異種類のポリマーからなる混合樹脂を得るところの通常のポリマーブレンド法とは異なる手法である。
【0030】
多段重合法によって得られるオレフィン系熱可塑性エラストマーは、反応器中で(1)ハードセグメントと、(2)ソフトセグメントとが二段階以上で多段重合されてなる共重合体である。(1)ハードセグメントとしては、プロピレン単独重合体ブロックや、あるいはプロピレンとα−オレフィンとの共重合体ブロックが代表的であり、例えばプロピレン/エチレン、プロピレン/1−ブテン、プロピレン/エチレン/1−ブテン等の二元または三元共重合体ブロックが挙げられる。また(2)ソフトセグメントとしては、エチレン単独重合体ブロックおよびエチレンとα−オレフィンとの共重合体ブロックが代表的であり、例えばエチレン/プロピレン、エチレン/1−ブテン、エチレン/プロピレン/1−ブテン等の二元または三元共重合体ブロックが挙げられる。
(C)成分
本発明における熱可塑性エラストマーにおいて、必要に応じて、非晶性オレフィン系重合体(C)を添加することができる。(C)はエチレン系またはプロピレン系重合体等の炭素数2〜20であるエチレン及び/またはα−オレフィンの単独もしくは二種以上を含有する共重合重合体であり、特にプロピレン系重合体が好ましい。
【0031】
上記(C)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した場合の1J/g以上の結晶融解ピーク及び結晶化ピークのいずれも有しない点が特徴である。(B)と(C)は結晶融解ピーク及び結晶化ピークの有無で判断される。
【0032】
本発明における上記(C)の中で最も好適に使用されるプロピレン系重合体を具体的に示すと、ホモのポリプロピレン、プロピレンとエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1等の他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
【0033】
また(C)は、分子量分布不均一指数Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)が5以下好ましく、更に好ましくは3.5以下である。このような条件を満足させるためには通常、メタロセン触媒を用いて重合することが好ましく、例えば特開平9−309982号公報に触媒構造や重合方法が開示されている。
【0034】
そして、(C)のメルトフローレートは、0.1〜1000g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられる。上記範囲内では粉体流動性、成形加工性のバランス特性に優れている。
【0035】
本発明における熱可塑性エラストマーにおいて、(A)と(B)とからなる組成物100重量部に対して、(C)は、1〜99重量部が好ましく、更に好ましくは10〜90重量部、最も好ましくは20〜80重量部である。
【0036】
本発明において、(B)成分に加えて、その他の熱可塑性樹脂を配合することができ、(A)(B)(C)と分散し得るものであればとくに制限はない。たとえば、ポリスチレン系、ポリフェニレンエーテル系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリカーボネート系、ポリメタクリレート系等の単独もしくは二種以上を混合したものを使用することができる。
(D)成分
本発明において、必要に応じて(D)軟化剤、ポリオルガノシロキサン、結晶性向上剤から選ばれる剤を含有することができる。
【0037】
上記軟化剤は、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系などの炭化水素からなるプロセスオイルが好ましい。とりわけ、パラフィン系炭化水素主体またはゴムとの相容性の観点からナフテン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましい。熱・光安定性の観点から、プロセスオイル中の芳香族系炭化水素の含有量については、ASTM D2140−97規定の炭素数比率で10%以下であることが好ましく、更に好ましくは5%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0038】
これらの軟化剤は組成物の硬度、柔軟性の調整用に、(A)と(B)の合計100重量部に対して、5〜500重量部、好ましくは10〜150重量部用いる。上記範囲内では柔軟性と耐ブリード性のバランスが優れる。
【0039】
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)ポリオルガノシロキサンは、耐磨耗性を向上させる成分であり、JIS−K2410規定の25℃における動粘度が5000センチストークス(5×10−3m/sec)以上であることが好ましい。
【0040】
上記ポリオルガノシロキサンは、粘調な水飴状からガム状の様態であり、アルキル、ビニル及び/またはアリール基置換シロキサン単位を含むポリマーであれば特に制約されない。その中でもポリジメチルシロキサンが最も好ましい。
【0041】
本発明に用いられるポリオルガノシロキサンの動粘度(25℃)は、5000CS(5×10−3m/sec)以上であり、更に好ましくは、1万CS(1×10−2m/sec)以上1000万(10m/sec)未満、最も好ましくは5万CS(0.05m/sec)以上200万(2m/sec)未満である。
【0042】
本発明において、ポリオルガノシロキサンの添加量は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜10重量部、最も好ましくは0.5〜5重量部である。
【0043】
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)結晶性向上剤は、高温の圧縮永久歪または機械的強度等の高温ゴム特性を向上させるための成分であり、リン酸エステル塩系、ソルビトール系、カルボン酸塩系で分類される結晶核剤、または無機フィラーが代表的である。
【0044】
上記結晶核剤の具体例として、リン酸2、2’ーメチレンビス(4,6ージーtーブチルフェニル)ナトリウム、ビス(pーメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(pーエチルベンジリデン)ソルビトール等を挙げることができる。 また上記無機フィラーの具体例として、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の単体または、それらの複合体(合金)、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、ゼオライト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズの水和物等の無機金属化合物の水和物、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、ムーカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、クレー、マイカ、タルク等を挙げることができ、中でも板状フィラーが好ましく、タルク、マイカ、カオリンが特に好ましい。
【0045】
上記結晶性向上剤の量は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、0.01〜200重量部が好ましく、更に好ましくは0.1〜150重量部、最も好ましくは0.1〜100重量部、極めて好ましくは0.1〜50重量部である。
【0046】
(E)成分
本発明において、粉体流動性を更に向上させるためには、(E)100℃で溶融しない粉末状化合物を熱可塑性架橋ゴム組成物粉体の表面に付着することが好ましい。例えば、金属石鹸等の有機酸金属塩類、シリカ等の金属酸化物類、炭酸カルシウム等の無機塩類、ワックス類、タルク、珪藻土等の鉱物類、鉄、アルミナ等の金属類、綿、パルプ等の繊維類、粉末状熱可塑性樹脂、安定剤等であり、これらの一種または二種以上を用いることができる。中でも粉末状熱可塑性樹脂、金属酸化物、無機塩類が好ましい。また粉末状化合物の平均粒子径は0.001〜300μmが好ましく、更には0.01〜100μmが好ましくい。
【0047】
上記(E)の一つの粉末状化合物としての有機酸金属塩は、例えば酪酸、カプロン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の直鎖飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸;イソステアリン酸等の分岐脂肪酸;リシノール酸、12ーヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシル基含有脂肪酸;安息香酸;ナフテン酸;アビエチン酸;デキストロピマル酸等のロジン酸を代表とする有機カルボン酸類のリチウム塩、銅塩、ベリリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、カドミウム塩、アルミニウム塩、セリウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩、鉛塩、クロム塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩等を挙げることができる。
【0048】
前記(E)の一つの粉末状化合物としての金属酸化物類は、例えば酸化亜鉛、アルミナ(酸化アルミニウム)、ケイ酸アルミニウム、シリカ(酸化ケイ素)、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化バリウム、二酸化マンガン、酸化マグネシウム等を挙げることができ、特にアルミナ、鉱物類としても挙げられているシリカが好ましく、乾式法のナノ粒子シリカが更に好ましい。
【0049】
(E)の中の上記金属酸化物の中でも、疎水化変性した、疎水性シリカまたは疎水性アルミナ等の疎水化金属酸化物が更に好ましい。その製造方法としては、金属酸化物の表面を化学的あるいは物理的に不活性化すればよく、例えばアルキルアルコキシシラン、アルキルハロゲン化シラン等のシランカップリング剤を用いる方法、ジメチルシロキサン等のポリシロキサンを用いる方法、合成ワックスや天然ワックスを用いる方法、カルシウム等により金属表面処理する方法等を挙げることができる。
【0050】
(E)の添加量は、(A)と(B)からなる組成物100重量部に対して、好ましくは0.05〜300重量部、更に好ましくは、0.1〜100重量部、最も好ましくは、0.2〜50重量部である。
【0051】
本発明における熱可塑性エラストマーは必要に応じて、公知の動的架橋法により熱可塑性を保持しつつ、架橋することができる。
【0052】
また、本発明の組成物には、その特徴を損ねない程度にその他の無機フィラー、可塑剤、有機・無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、シリコンオイル、発泡剤、帯電防止剤、抗菌剤を含有することが可能である。
【0053】
本発明のオレフィン系重合体組成物の製造には、通常の樹脂組成物、ゴム組成物の製造に用いられるバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機、等の一般的な方法を採用することが可能である。とりわけ二軸押出機が好ましく用いられる。二軸押出機は、(A)と(B)とを均一かつ微細に分散させ、さらに他の成分を添加させて、本発明における熱可塑性エラストマーを連続的に製造するのに、より適している。
【0054】
また本発明において用いられる製造装置の一つの二軸押出機は、二軸同方向回転押出機でも、二軸異方向回転押出機でもよい。また、スクリュ−の噛み合わせについては、非噛み合わせ型、部分噛み合わせ型、完全噛み合わせ型があり、いずれの型でもよい。低いせん断力をかけて低温で均一な樹脂を得る場合には、異方向回転・部分噛み合わせ型スクリュ−が好ましい。やや大きい混練を要する場合には、同方向回転・完全噛み合わせ型スクリュ−が好ましい。さらに大きい混練を要する場合には、同方向回転・完全噛み合わせ型スクリュ−が好ましい。
【0055】
本発明の熱可塑性エラストマー粉体の製造法は、熱可塑性エラストマーを室温またはそのガラス転移温度以下でミルを用いて粉砕する機械粉砕法、該エラストマーをそのガラス転移温度以下の温度で粉砕し、次いで溶剤処理して球状化する溶剤処理法、押出機等を用いて溶融した該エラストマーを複数の孔を有するダイスから押出してストランドとし、次いでこれを引き取り、あるいは引き伸ばしながら引き取り、冷却後に切断するストランドカット法、上記と同様に複数の孔を有するダイスを通して水中に押出した後、ダイス面に沿って回転するカッターにより切断する水中カット法等が知られている。
【0056】
本発明の製法は上記の製法を組み合わせても良いし、単独の製法を用いても良い。例えば、機械粉砕法の場合は粉砕機の刃またはピンのクリアランスや回転数を制御しつつ、本発明の粗粉体を製造し、その後に微粉体を製造する。
【0057】
また水中カット法を用いる場合は、粉体の形状は、ダイスの孔径と孔数及びダイス面に沿って回転するカッターの回転数により制御することができる。平均直径を小さくする場合は、孔数を増やし、かつ孔径を小さくことにより達成することができる。
【0058】
こうして得られた熱可塑性エラストマー粉体は任意の成形方法で各種成型品の製造が可能である。特に粉体成形等が好ましく用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これら実施例および比較例において、各種物性の評価に用いた試験法は以下の通りである。
(1)融点
示差走査熱量測定法(DSC法)により測定する。具体的には、日本国(株)マックサイエンス(MAK SCIENCE)製、熱分析装置システムWS002を用いて、10mg試料を窒素気流下、室温から10℃/分で昇温し、200℃に到達した後に、直ちに10℃/分で0℃まで降温した後に、再度10℃/分で昇温し、200℃に到達させる。この段階で検出されたピークトップ温度(℃)を本願では融点と定義する。
(2)熱可塑性エラストマー粉体の平均直径
電子顕微鏡により粉体の数平均粒子直径を算出する。すなわち、各粉体の断面を円と仮定し、長径と短径の算術平均を各粉体の平均直径とし、100個の粉体の平均直径の算術平均により数平均粒子直径を求める。
(3)粉体流動性
10gの粉体を容器に入れ、10cmの高さから落下させて、粉体の広がりを観察する。落下した粉体の広がりを円と仮定して、長径と短径の算術平均を平均広がり直径とし、粉体流動性の指標とする。
【0060】
粉体流動性は以下の基準で評価を行なう。
◎広がりの範囲は広く、極めて均一である。
○ 均一に広がっている。
△ 全体として均一であるが、不均一な部分も存在している。
× 広がりはなく、不均一である。
【0061】
(4)ゴム特性(回復角度)
2mm厚さのシートを23℃の環境で180度折り曲げ、その状態で水平面に置き、1kgの分銅を10秒間載せた後に取り除き、形状が十分に回復してから水平面と折り曲げシートとの角度を測定し、回復角度とする。回復角度が小さいほど回復性が高く、高いゴム特性を示す。
【0062】
上記シートを指で押さえた時のクッション感をゴム特性の指標とし、以下の基準で評価を行なう。
【0063】
◎ 極めて良好
○ 良好
△ 良好であるが、少し硬い
× 硬く、クッション感はない
【0064】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いた。
(イ)オレフィン系ゴム状重合体(エチレン・α−オレフィン共重合体)
1)エチレンとオクテン−1との共重合体(TPE)
エチレンとオクテンー1の組成を変化させ、通常のチーグラー触媒または特開平3−163088号公報に記載のメタロセン触媒を用いた方法により製造する。(TPEと称する)表1に各種共重合体の融点とMFRを記載した。尚、チーグラー法でのTPEは融点を有しない。
(ロ)結晶性オレフィン系樹脂
(1)ポリプロピレン
市販のランダムポリプロピレン(r−PPと称する) 融点135℃
MFR 30g/10分
(2)重合型ポリプロピレン
市販のプロピレンとエチレン・プロピレンゴムからなる重合型(R−TPOと称する) 融点100℃ MFR 30g/10分
(ハ)非晶性オレフィン系重合体
(1)非晶性ポリプロピレン(a−PP)
特開平9−309982号公報に記載の方法により製造する。
DSCにより非晶性を確認し、a−PPと称する。 MFR 10g/10分
【0065】
[実施例1〜7および比較例1〜3]
押出機として、2条スクリューを有した2軸押出機を用い、表1に記載の組成の混合物を180℃で溶融押出を行ないペレットを得る。
このようにして得られたペレットをピンが立てられたディスクミルで周速度70m/分の条件で粉砕し粉体を得る。この条件を基準に周速度を変化させて各種平均粒子径の粉体を製造する。ついで、この粉体を200℃に加熱された金属の金型に投入して2mm厚のシートを作成し、各種評価を行う。ここで、粉体の平均粒子径について、小さくする場合は、周速度を高め、大きくする場合は周速度を低くすることで制御することができる。
【0066】
粉体の製法については、粗粉体を製造した後に、微粉体を製造するプロセスを二段プロセスと称し、一段で目標の微粉体を製造するプロセスを一段プロセスと称する。
その結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製法により得られた熱可塑性エラストマー粉体は、自動車用部品、自動車用内装材、エアバッグカバー、機械部品、電気部品、ケーブル、ホース、ベルト、玩具、雑貨、日用品、建材、シート、フィルム等を始めとする用途に幅広く使用可能であり、産業界に果たす役割は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6253規定のA硬度が100以下の熱可塑性エラストマー粉体の製法において、まず平均直径が0.5mm以上、1.0mm以下の粗粉体を製造した後に、0.001mm以上、0.5mm未満の微粉体を製造することを特徴とする熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項2】
該熱可塑性エラストマーがJIS K7210規定の、230℃、2.16kgf荷重のメルトフローレート(MFR)が10〜1000g/10分である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項3】
該熱可塑性エラストマーが架橋されている請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーがオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項5】
オレフィン系ゴム状重合体(A)とオレフィン系樹脂(B)とからなるオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項4に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項6】
(A)の融点が20〜100℃のオレフィン系ゴム状重合体及び/または(B)の融点が80〜150℃の結晶性オレフィン系樹脂である請求項5に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項7】
(A)がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有する、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン・α−オレフィン共重合体である請求項5または6に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項8】
更に(C)非晶性オレフィン系重合体を含有する請求項5〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項9】
(B)(C)がプロピレン系樹脂である請求項5〜8のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項10】
(C)がメタロセン触媒を用いて製造された請求項8または9に記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。
【請求項11】
溶融押出機で溶融後、水中カット法及び/または機械粉砕法で製造する、請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー粉体の製法。

【公開番号】特開2008−81521(P2008−81521A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259857(P2006−259857)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】