説明

熱可塑性エラストマー組成物、その成形方法、並びにその成形体

【課題】天然ゴム及びポリ乳酸を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、機械的強度が改善されるとともに所望の成形性を、短時間の金型成形で得ることのできる樹脂組成物、及びそれを用いた成形方法、並びに成形方法により得られる成形体を提供すること。
【解決手段】天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、結晶化促進剤、架橋剤及び加水分解抑制剤を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、質量比[(天然ゴム+エポキシ化天然ゴム)/ポリ乳酸]が20/80〜99/1である、熱可塑性エラストマー組成物。上記熱可塑性エラストマー組成物を加熱溶融させながら架橋を行ない均一に分散させたものを90〜120℃で10秒〜10分の保持にて成形する、熱可塑性エラストマー組成物の成形方法。上記成形方法により得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱可塑性エラストマー組成物、その成形方法、並びにその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生分解性樹脂組成物の材料としてポリ乳酸が用いられている。しかし、ポリ乳酸は一般に硬くて、脆く、その用途が限られてしまう傾向があり、これに対処するため天然ゴムを含む樹脂組成物を架橋剤により架橋された組成物が提案されている(特許文献1及び2)。
特許文献1は、下記の(A)を主成分とし、下記の(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物を、動的架橋することにより、下記(β)の溶融物からなる海相中に、下記(α)からなる島相を固定化した、常温時のエラストマー特性に優れた、環境対応型の熱可塑性エラストマー製品の製法を開示している。
(A)下記の(α)と(β)とからなり、両者の重量混合比が、(α)/(β)=55/45〜95/5の範囲である熱可塑性エラストマー。
(α)天然ゴム。
(β)植物由来の樹脂。
(B)架橋剤
特許文献2は、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体などの非石油原料由来熱可塑性樹脂(A)の存在下で、天然ゴム、ジエン系重合体ゴム、オレフィン系重合体ゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム(B)を、架橋剤(C)により動的に架橋してなる、柔軟性およびゴム弾性、成形性、リサイクル性を有する熱可塑性エラストマー組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−184543号公報
【特許文献2】国際公開第2008/026632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献では、熱可塑性エラストマー組成物成分の混練ならびに架橋剤を用いた動的架橋時に、ポリ乳酸と、天然ゴムに含まれる水分やイオウなどの架橋剤との反応によってポリ乳酸の分子量が著しく低下し、機械的特性が低下するという問題が生じた。
また、このような熱可塑性エラストマー組成物は、長期使用により歪が大きくなるという問題もあった。
このような組成物は、耐用年数の長い自動車部品、特に自動車内装部品、ドアシール材、或いは家電製品の使用環境などとして使用できないものであり、更に改善の余地があることが判明した。特に、自動車部品などとして使用するためには、機械的特性とともに成形性(柔軟性)を満たすことが重要であり、機械的特性が改善されるとともに所望の成形性を得ることのできる熱可塑性エラストマー組成物が望まれていた。
本発明は、天然ゴム及びポリ乳酸を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、機械的強度が改善されるとともに所望の成形性を、短時間の金型成形で得ることのできる樹脂組成物、及びそれを用いた成形方法、並びに成形方法により得られる成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
1)天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、結晶化促進剤、架橋剤及び加水分解抑制剤を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、質量比[(天然ゴム+エポキシ化天然ゴム)/ポリ乳酸]が20/80〜99/1である、熱可塑性エラストマー組成物。
2)上記1)の熱可塑性エラストマー組成物を加熱溶融させながら架橋を行ない均一に分散させたものを90〜120℃で10秒〜10分の保持にて成形する、熱可塑性エラストマー組成物の成形方法。
3)上記2)の成形方法により得られる成形体。
本発明は、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム等のゴム成分にブレンドされるポリ乳酸を含む、架橋又は架橋性の熱可塑性エラストマー組成物に結晶化促進剤を用いたことが重要な技術思想であり、ポリ乳酸の結晶化を改善することができ、更に熱可塑性エラストマー組成物のゴム成分が架橋された成形体を型成形にて所定の温度で所定の時間で保持することで、特に圧縮永久歪を改善することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、各成分がキット化されていてもよいし、単に混合されていてもよいし、部分的あるいは完全に架橋されていてもよい。キットとしては、単独、種々の成分を2種以上単に混合又は混練したものでよく、例えば、ゴム成分(天然ゴム及びエポキシ化天然ゴム、又は天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、及び架橋剤)をペレット化したもの、樹脂成分(ポリ乳酸、結晶化促進剤、加水分解抑制剤)をペレット化したもの等の組み合わせにより、本発明の組成物の成分を充足させたものが挙げられる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、質量比[(天然ゴム+エポキシ化天然ゴム)/ポリ乳酸]が好ましくは、30/70〜99/1、更に好ましくは、40/60〜95/5、特に好ましくは、50/50〜90/10そして、60/40〜80/20である。本発明は、特にポリ乳酸と天然ゴムのブレンドでポリ乳酸の配合率を上げると圧縮永久歪が低下するという特性を改善するものであり、できるだけポリ乳酸の配合率を高く維持しつつ圧縮永久歪、柔軟性等の機械的特性を改善するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は機械的強度及び圧縮永久歪が改善されるとともに製品に適した硬度とすることが容易であり、かつ高い植物度とすることができ、汎用熱可塑性エラストマーの代替として広く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(「本発明の組成物」ともいう)の成分について説明する。
(結晶化促進剤)
本発明に用いられる結晶化促進剤とは、本発明の組成物の成形時の結晶化を促進し、短時間での硬化成形に寄与するものをいう。
本発明に用いられる結晶化促進剤としては、ポリ乳酸の結晶化を促進する機能を有するものであれば特に限定されない。結晶化促進剤としては、有機結晶核剤、無機結晶核剤、金属酸塩等が挙げられ、単独または組み合わせて用いられる。
有機結晶核剤としては、ポリ乳酸とはキラリティの異なる乳酸をモノマー単位として少なくとも含む単独重合体又は共重合体が挙げられる。共重合性モノマーとしては、デンプン、グルコマンナン等の多糖、ブドウ糖等の単糖、ショ糖、マルトース等の二糖、シクロデキストリン等のオリゴ糖等が挙げられ、具体的には、当該ポリ乳酸とはキラリティの異なるポリ乳酸、同乳酸−デンプン共重合体樹脂等が挙げられ、これらのいずれを用いてもよいが、0.1質量%〜1質量%の糖の入った乳酸−デンプン共重合樹脂等が挙げられる。また、有機系結晶核剤の分子量は、特に限定されないが、1,000〜2,000,000の範囲である。具体的には、特許3739003号公報に記載のD−乳酸および糖類の共重合樹脂、D−乳酸および糖類の共重合樹脂[例えば、西川ゴム工業製COPLA−D(D−乳酸−0.1wt%デンプン共重合樹脂)]、等が挙げられる。
また、有機結晶核剤は、リン酸エステルであっても良い。リン酸エステルとしては、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルおよびこれらの縮合物である縮合リン酸エステルが挙げられる。リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート、ならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステルを挙げることができる。
無機結晶核剤としては、タルク、マイカ、等が挙げられる。
金属酸塩としては、フェニルリン酸亜鉛、乳酸亜鉛、等が挙げられる。
本発明の組成物に用いられる結晶化促進剤の添加量は本発明の組成物中0.1質量%以上含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、0.3質量%以上含有することが更に好ましく、特に上限はないが略1.0質量%以上では効果の改善はみられない。
【0008】
(天然ゴム)
本発明の組成物に用いられる天然ゴムとは、通常に天然に産するゴムだけでなく合成されるポリイソプレンも含まれる。しかし、近年、植物由来であることが望まれるため天然に産するゴムをメインとする。合成ポリイソプレンを用いる場合は、シス−1,4結合含量の高いものが好ましい。天然ゴムとしては、例えば天然ゴムラテックス、リブドスモークドシート、ホワイトクレープ、ペールクレープ、エステートブラウンクレープ、コンポクレープ、薄手ブラウンクレープ、厚手ブランケットクレープ、フラットバーククレープ、及び純スモークドブランケットクレープ等のシートゴム、ブロックゴム等が挙げられる。
本発明において、天然ゴムは、本発明の組成物中20〜80質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、40〜75質量%含有することが更に好ましい。
【0009】
(エポキシ化天然ゴム)
本発明に用いられるエポキシ化天然ゴムとは、過酸化水素、過酢酸等のエポキシ化剤により上記天然ゴムにエポキシ基を導入したものであり、特に限定されないが、エポキシ基の導入量は天然ゴムの二重結合のモル数に対して20%〜50%が好ましい。
本発明において、エポキシ化天然ゴムは、本発明の組成物中1〜50質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、更に2〜30質量%含有することが好ましく、更に3〜10質量%が好ましい。
ここで、天然ゴムとエポキシ化天然ゴムの合計は、本発明の組成物中の30質量%以上が好ましく、また40質量%以上が好ましく、更には50または60質量%以上が好ましく、ポリ乳酸が50質量%以下であることが好ましい。また、天然ゴムとエポキシ化天然ゴムの比率は、9:1〜5:5で、更には9:1〜7:3または9:1〜8:2が好ましい。
【0010】
(ポリ乳酸)
本発明において、ポリ乳酸とは、L−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位で構成されるポリマーであり、L−乳酸及びD−乳酸のランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体、並びにL−乳酸単独重合体(ポリL−乳酸)、D−乳酸単独重合体(ポリD−乳酸)を含む。本発明において、ポリL−乳酸又はポリD−乳酸を乳酸単独重合体ともいう。
本発明で用いるポリ乳酸は、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸またはD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良い。他のモノマー単位としては、単糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられ、10mol%以下含むことができる。また、ポリ乳酸の質量平均分子量は、50,000〜300,000の範囲が好ましい。かかる範囲を下回ると機械物性等が十分発現されない場合があり、上回る場合は加工性に劣る傾向にある。
本発明に用いられる乳酸単独重合体として、ポリL−乳酸が好ましく、ポリL−乳酸としては、特に限定されないが、90%発酵乳酸とデンプンの混合物中に重合触媒を添加し、脱水重合を行ったものを使用するか、市販のポリL−乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100など)または耐熱性のナノコンポジット充填剤入りのポリL−乳酸など、いずれを用いてもよい。なお、本発明において、充填剤等の添加剤を含むポリ乳酸の該添加剤は、本発明の組成物の配合割合の算定においては、ポリ乳酸とは別に取り扱う。また、結晶化促進剤としてのポリ乳酸の使用も同様に別扱いとする。
【0011】
(加水分解抑制剤)
本発明に用いられる加水分解抑制剤としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸等のポリマー成分の加水分解を抑制する機能を有するものであれば、特に制限はないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、エチレン−ビニルアルコール共重合体、オキサゾリンまたはオキサゾリン誘導体、イソシアネートまたはイソシアネート誘導体、エポキシ化合物またはエポキシ化合物の誘導体、カルボジイミド化合物等が挙げられる。加水分解抑制剤としては、中でもカルボジイミド化合物が好ましい。
本発明の組成物に用いられるカルボジイミド化合物は、カルボジイミド基を1以上有する化合物であり、主としてポリ乳酸の加水分解を抑制し得る機能を有する。カルボジイミド化合物としては、低分子でも高分子でもよいが、高分子化合物が好ましい。このカルボジイミド化合物の質量平均分子量Mwは、500〜60,000が好ましく、1,000〜40,000が更に好ましい。また、カルボジイミド化合物の数平均分子量は、500以上で、好ましくは1000以上、更には1300以上が好ましく、2000以上が更に好ましい。この数平均分子量Mnの上限は質量平均分子量Mwと同程度である。そして、多分散度Mw/Mnは、1.0〜6.0が好ましい。また、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基の含有量は、2〜2,000個/分子が好ましく、2〜500個/分子が更に好ましい。カルボジイミド化合物としては、分子量が500以下の低分子化合物では、スタバクゾール1−LF(ラインケミー社製)等が挙げられ、高分子化合物では市販のカルボジライトLA−1(日清紡製)が好ましい。なお、カルボジイミド基が1分子中に3個以上含むものをポリカルボジイミド化合物ともいう。数平均分子量が500未満だと樹脂組成物の製造時において装置への供給が困難であるため好ましくない。
本発明の組成物に用いられる加水分解抑制剤の添加量は本発明の組成物中0.1質量%以上含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、0.5質量%以上含有することが更に好ましく、特に上限はないが略10質量%以上では効果の改善はみられない。
加水分解抑制剤は、天然ゴム等の各成分からなる当該混合物に含まれる水分除去等による加水分解抑制機能の外、前記エポキシ化天然ゴムとのエポキシ基との架橋反応のように、成分に含まれる官能基を介して架橋反応等を行う機能を有する。このような架橋反応を行う化合物として、ポリアミン、ポリオール、ポリカルボン酸、酸無水物、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩等を併用することもできる。
【0012】
(架橋剤)
本発明の組成物に用いられる架橋剤としては、例えば、硫黄;有機硫黄化合物;芳香族ニトロソ化合物などのような有機ニトロソ化合物;オキシム化合物;酸化亜鉛や酸化マグネシウムなどの金属酸化物;ポリアミン類;セレン、テルルおよび/またはそれらの化合物;アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂や臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂などの樹脂架橋剤;分子内にSiH基を2つ以上持つ有機オルガノシロキサン系化合物;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(パーヘキサ(日油(株)登録商標)25B、同25B−40)、ジクミルペルオキシド(パークミル(日油(株)登録商標)D、同D−40)、2,5−ジメチル2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(パーヘキシン(日油(株)登録商標)25B、同25B−40)、等の有機過酸化物;などを挙げることができ、ゴムの種類などに応じて、架橋剤の1種または2種以上を用いることができ、中でも水素引き抜き反応による架橋が可能な有機過酸化物が好ましい。
本発明の組成物に用いられる架橋剤の添加量は本発明の組成物中0.01〜5質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、0.1〜3.5質量%含有することが更に好ましい。
【0013】
(その他)
また、本発明の組成物は、必要に応じて、大豆油などの植物油や中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの可塑剤、加硫促進剤、老化防止剤、充填材として、セルロース粉末、カーボンブラック、シリカ、酸化チタン、などを添加しても良い。
また、本発明は、所望の特性を得るための助剤として、天然ゴムを上記以外の手法により化学修飾したものや、ポリカプロラクトン等の柔軟性付与剤を併用してもよい。例えば、ポリカプロラクトン等を併用し、樹脂組成物の耐熱性を向上させること等が挙げられる。しかしながら、ポリカプロラクトンを添加すると樹脂の植物度が低下する。
これら添加剤は、架橋剤を添加する前に原料組成物中に十分にブレンドされていることが好ましい。
【0014】
(本発明の組成物の成形方法)
本発明の組成物の成形方法は、1)本発明の組成物を加熱溶融させながら架橋を行ない均一に分散させる工程、2)前記分散させたものを90〜120℃で10秒〜10分の保持にて成形する工程を含む。
工程1)について説明する。
架橋は、架橋剤とその他の本発明の組成物の架橋し得る成分、例えば、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム等のゴム成分等が架橋反応を行うことにより形成される。前記成分は、前述のように本発明の組成物の一部であってもよいし、全部であってもよい。また、架橋は、加熱溶融により促進、完遂されるが、前述のように加熱溶融前に部分的に架橋されていてもよい。更に、加熱溶融は本発明の組成物が均一に分散されるのであれば混練しても混練しなくともよいが、混練しながら、動的に架橋されることが好ましい。
【0015】
工程1)の処理時間は、通常、10秒〜10分、好ましくは、30秒〜3分であり、処理温度は、少なくともポリ乳酸の融点から天然ゴムの分解開始温度に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは150〜300℃であり、特に好ましくは180〜280℃である。
【0016】
工程2)について説明する。
成形は、均一に分散された組成物を90〜120℃に保持し、主としてポリ乳酸の結晶化を促進させつつ硬化させることにより行われる。また、成形は、上記温度で10秒〜10分、好ましくは、30秒〜5分、さらに好ましくは1分〜3分の保持にて該結晶化と硬化が完遂される。
成形は型成形でも押し出し成形でも、型を用いない単なるフローでもよく、特に制限はない。型成形としては、金型でも金型以外の型でもよく、加熱源としては、射出成形装置、熱風加熱炉、加熱湯浴等が挙げられる。また、型への組成物の移行は、射出でも流し込みでも、任意である。
工程1)及び2)について補足する。
工程1)と工程2)は、明確に区別されなくともよく、架橋反応も工程2)にて一部ないし全部行っても良い。例えば、工程1)を工程2)で用いる型内で行うこともできる。
【0017】
以下、本発明の成形方法について、更に説明する。
架橋としては、少なくともゴム成分分子間を架橋させるのであれば、任意の架橋剤及び公知の方法が適用できる。架橋剤は、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、結晶化促進剤、及び加水分解抑制剤等とともに混練機へ同時に投入ないし適当な添加手順で添加して動的架橋等を行うことができる。動的架橋等を行う上で特に加水分解抑制剤、架橋剤等を用いるタイミングは、重要であり、適宜選定し得るが、多くの場合、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、結晶化促進剤等の各々を混練機に同時又は別時に投入し、十分に溶融、混練を行いつつ又は行った後、これら混合物に加水分解抑制剤を添加し、次いで架橋剤を最後に投入して動的架橋等を行う方が有効である。但し、反応速度の遅い架橋剤又は遅効性架橋剤を使用するような場合には、架橋剤を他の成分の前又は同時に添加することができる。
【0018】
架橋等を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。
通常、こうして架橋された樹脂組成物は、ゴム成分分散相(天然ゴム、エポキシ化天然ゴム等)と樹脂成分マトリクス相(ポリ乳酸等)からなる相構造(海島構造)を形成すると考えられ、ゴム成分が架橋されているにも係わらず、本発明の組成物は熱可塑性を示すことができる。
従って、本発明の組成物は、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等のような従来の熱可塑性樹脂の成形方法(加工技術)及び成形装置により加工して成形体を形成することができ、かつその加工後の成形体の再加工を行うことができる。
【0019】
本発明の組成物、成形体は、例えば、上記天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、老化防止剤等のゴム成分をバンバリーミキサーやロールで可塑化させる工程、この可塑化させたものに架橋促進剤や架橋剤などを添加しリボン状または角型ペレットにする工程、2軸の押出機などを用いてゴム成分とポリ乳酸、結晶化促進剤等の樹脂成分等とを混合させながら、架橋と分散を行ないペレット化した本発明の組成物を得る工程、ペレットを射出成形機や押出機を用いて最終製品である成形体を製造する工程から構成することができる。得られた成形体は、自動車部品や電気製品の部品などとして使用可能である。なお、本発明は、上記ペレット化をすることなく成形し、最終製品とすることもできる。また、該ペレット化した本発明の組成物は、他の樹脂又はゴムとともに用いて射出成形機や押出機により成形体を製造することもできる。
【0020】
(成形体)
本発明の成形方法により、機械的特性に優れた成形体を得ることができる。
この成形体は、JIS K7113準拠で、引張強度が3〜10MPa、伸びが50〜500%、弾性係数が1〜100MPaであり、硬度がJIS A型硬度計で、30〜95であり、圧縮永久歪(Cs)[100×(処理前厚−処理後厚)/処理前厚]が、K−6262に準拠した、100℃×22h×25%圧縮で、0〜70%、好ましくは、0〜50%である特性を有する。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例1A〜4A、1B〜4B
表1に記載の配合成分の内、NR(天然ゴム)、ENR(エポキシ化天然ゴム)、RD(老化防止剤)、及びパナセート800(オクチル酸トリグリセリド、日油(株)製)をバンバリーミキサーで可塑化したものにオープンロールを用いて架橋剤を添加し、リボン状ペレットとし、このペレットとPLA(乳酸単独重合体)、加水分解抑制剤、ならびに結晶化促進剤をあらかじめ加熱溶融ブレンドして予備的架橋反応させてペレット化し、本発明の組成物を得た。このペレット化した本発明の組成物を、樹脂温180℃に設定した二軸押出機(クリモト製S1KRCニーダ)に投入し、混合させながら、動的架橋と分散を行ない、本発明の組成物が架橋されたペレットを製造した。
この架橋されたペレットを(株)山城精機製作所製の射出成型機SAV−30を用いて、JIS 7113の1号引張試験片を成形した。シリンダー温度を180℃に、金型温度(成形温度)を40℃又は120℃に設定し、前者は1分、後者は2分保持し、各々例1A〜4A、1B〜4Bの成形体を得た。
得られた試験片は、JIS K7113に準拠して引張強度および破断時の伸び、並びに弾性係数も併せて測定した。また、試験片を温度50℃、湿度95%の雰囲気で6週間処理後の引張強度の保持率(強度保持率)を100×(処理後/処理前)として求めた。更に、試験片の硬度をJIS A型硬度計により、試験片のCsをK−6262に準拠した、100℃×22h×25%圧縮にて測定した。結果を表1に示す。なお、表中、樹脂分は、便宜的に、PLA、加水分解抑制剤、及び結晶化促進剤の総和を、同じく、ゴム分は、NR、ENR、RD、及びパナセート800の総和とした。
配合成分の詳細は以下の通りである。
NR:スリランカ製ペールクレープ
ENR:ENR50(タイ国のMuang Mai Guthrie Public Company Limited製50モル%エポキシ化天然ゴム)
加水分解抑制剤:カルボジイミド化合物、カルボジライトLA−1(日清紡(株)製)
架橋剤:パーヘキサ25B−40(日油(株)製)
PLA:ポリL−乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100)
結晶化促進剤は、以下の3者を用いた。
COPLA−D
エコプロモート:日産化学工業製フェニルリン酸亜鉛
乳酸亜鉛:ピューラック社製
【0022】
【表1】

【0023】
例1A〜4A、及び例1B〜4Bの成形前のペレットは、共に本発明の組成物であるが、成形体としては、後者は、本発明の形成方法を適用したものであり、前者は本発明の形成方法を適用しなかった例である。
上表から、本発明の形成方法を適用した例は、圧縮永久歪が改善され、硬度も本発明法の方が小さく、柔軟性も改善されていることが理解される。また、例1B〜4Bの成形体は、他の機械的特性も実用範囲であり、自動車のドアシール材等に適用可能である。なお、例1A〜4Aの成形体も用途、規格、仕様等を選択することにより、実用可能であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、結晶化促進剤、架橋剤及び加水分解抑制剤を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、質量比[(天然ゴム+エポキシ化天然ゴム)/ポリ乳酸]が20/80〜99/1である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記結晶化促進剤は、有機結晶核剤、無機結晶核剤、及び金属酸塩から選択される、請求項1の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記架橋剤は、イオウまたは過酸化物である、請求項1又は2の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
架橋後に90〜120℃で結晶化する特性を有する、請求項1〜3のいずれか1項の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項の熱可塑性エラストマー組成物を加熱溶融させながら架橋を行ない均一に分散させたものを90〜120℃で10秒〜10分の保持にて成形する、熱可塑性エラストマー組成物の成形方法。
【請求項6】
前記成形は、金型、熱風加熱炉または加熱湯浴を用いて行われる、請求項5の熱可塑性エラストマー組成物の成形方法。
【請求項7】
請求項5又は6の成形方法により得られる成形体。

【公開番号】特開2012−197364(P2012−197364A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62592(P2011−62592)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】