説明

熱可塑性エラストマー組成物の製造方法

【課題】架橋剤としてアルキルフェノール樹脂を使用する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、改善された外観を有する押出シートを与え得る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】成分(A)、成分(B)、成分(C)、および成分(D)を、溶融混練装置内で動的熱処理する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム
成分(B):ポリオレフィン系樹脂
成分(C):鉱物油にアルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液
成分(D):金属ハロゲン化物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有し、自動車部品、家電部品、医療用機器部品、電線等各種の用途に広く用いられている。このオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物は、オレフィン系ゴムとポリオレフィン系樹脂とを架橋剤の存在下で動的熱処理することで得られる。
【0003】
当該架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄、アルキルフェノール樹脂等が使用されている。また、架橋剤と共に架橋助剤が使用されることがあり、当該架橋助剤としては、N,N−m−フェニレンビスマレイミド及びトリメチロールプロパントリメタクリレート等の重合性二重結合を2個以上有する化合物、塩化第一スズ及び塩化第二鉄等の金属ハロゲン化物、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム等の金属酸化物などが使用されている。
【0004】
このようなオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法としては、例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂とエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体ゴムとパラフィン系オイルと塩化第一スズとからなる成分およびアルキルフェノール樹脂をバンバリーミキサーに投入し、ポリプロピレン系樹脂とエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体ゴムとパラフィン系オイルとを、架橋剤であるアルキルフェノール樹脂と架橋促進剤である塩化第一スズとの存在下、バンバリーミキサーで動的熱処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−235949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、架橋剤としてアルキルフェノール樹脂を使用した場合、得られた熱可塑性エラストマーの押出シート外観が劣る場合があった。
【0007】
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、架橋剤としてアルキルフェノール樹脂を使用する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、改善された外観を有する押出シートを与え得る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、および成分(D)を、溶融混練装置内で動的熱処理する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法にかかるものである。
成分(A):エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム
成分(B):ポリオレフィン系樹脂
成分(C):鉱物油にアルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液
成分(D):金属ハロゲン化物
【発明の効果】
【0009】
本発明により、架橋剤としてアルキルフェノール樹脂を使用して、改善された外観を有する押出シートを与え得る熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。また、該方法で製造した熱可塑性エラストマー組成物を押出成形することにより、改善された外観を有する押出シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
成分(A)はエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムである。エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムは、エチレンに基づく単量体単位(すなわち、エチレン単位)と炭素原子数3〜10のα−オレフィンに基づく単量体単位(すなわち、炭素原子数3〜10のα−オレフィン単位)とを有し、JIS K−6253(1997)のA硬度が85以下の共重合体である。炭素原子数3〜10のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等があげられ、成分(A)のエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムは、1種以上のα−オレフィンを含有することができる。炭素原子数3〜10のα−オレフィンとしては、好ましくは、プロピレン、1−ブテンであり、より好ましくは、プロピレンである。
【0011】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムは、エチレン単位および炭素原子数3〜10のα−オレフィン単位に加え、他の単量体に基づく1種以上の単量体単位を有していてもよい。該他の単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(すなわち、イソプレン)、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等の炭素原子数4〜8の共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ジシクロオクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンおよび5−ビニル−2−ノルボルネン等の炭素原子数5〜15の非共役ジエン;酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸があげられる。好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0012】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムのエチレン単位の含有量は、通常30〜85重量%であり、好ましくは40〜80重量%であり、炭素原子数3〜10のα−オレフィン単位の含有量は、通常5〜70重量%であり、好ましくは15〜60重量%であり、エチレン単位およびα−オレフィン単位以外の他の単量体単位の含有量は、通常0〜30重量%であり、好ましくは0〜20重量%である。ただし、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム中の単量体単位の総量を100重量%とする。
【0013】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムとして、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−オクテン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体ゴム、およびエチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体ゴムがあげられる。成分(A)としては、1種以上のエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムを用いることができる。好ましくは、エチレン単位の含有量が40〜80重量部であり、プロピレン単位の含有量が20〜60重量部であるエチレン−プロピレン共重合体(但し、エチレン単位の含有量およびプロピレン単位の含有量の合計は100重量部である。)、またはエチレン単位の含有量が40〜79.9重量部であり、プロピレン単位の含有量が20〜59.9重量部であり、5−エチリデン−2−ノルボルネン単位の含有量が0.1〜20重量部であるエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体(但し、エチレン単位の含有量、プロピレン単位の含有量、および5−エチリデン−2−ノルボルネン単位の含有量の合計は100重量部である。)である。
【0014】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムのムーニー粘度(ML1+4100℃)は、熱可塑性エラストマー組成物成形体の機械的強度を高めるために、好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。また、当該成形体の外観を良好にするために、好ましくは350以下であり、より好ましくは300以下である。なお、該ムーニー粘度(ML1+4100℃)は、JIS K6300に従って測定される。エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムのムーニー粘度は、重合温度、水素添加量、重合時間、触媒を構成する各成分の量比などを制御することにより調節することができる。
【0015】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムの135℃テトラリン中で測定した極限粘度は、熱可塑性エラストマー組成物成形体の機械的強度を高めるために、好ましくは0.5dl/g以上であり、より好ましくは1dl/g以上である。また、当該成形体の外観を良好にするために、好ましくは8dl/g以下であり、より好ましくは6dl/g以下である。エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムの極限粘度は、重合温度、水素添加量、重合時間、触媒を構成する各成分の量比などを制御することにより調節することができる。
【0016】
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムは公知の方法で製造することができる。
【0017】
(B)成分は、ポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどの炭素原子数2〜10のオレフィン1種または2種以上から誘導される繰り返し単位を50重量%以上含有する重合体であって、JIS K−6253(1997)のA硬度が98を超える重合体である。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどの単独重合体又は共重合体があげられる。好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂は、重合体中の単量体単位の総量を100重量%として、重合体中のプロピレンに基づく単量体単位(プロピレン単位)の含有量が50〜100重量%である結晶性の重合体である。重合体中のプロピレン単位の含有量は、好ましくは80〜100重量%である。結晶性の重合体とは、JIS K 7122(1987)に従う示差走査熱量測定(DSC)において−50℃〜200℃の温度範囲に結晶融解ピークが観測され、そのピークの結晶融解熱量が30J/gを超える重合体をいう。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン)からなるコモノマー群から選ばれる少なくとも1種のコモノマーとプロピレンとの共重合体をあげることができる。該共重合体は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体であってもよい。該共重合体として、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体があげられる。ポリプロピレン系樹脂として好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体である。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂の立体構造として、アイソタクチック構造、シンジオタクチック構造、およびこれら両構造が混合した構造を例示することができる。主たる構造がアイソタクチック構造であることが好ましい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂は、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒等を用いた公知の重合方法で製造することができる。該重合方法としては、溶液重合法、バルク重合法、スラリー重合法、気相重合法などがあげられる。
【0022】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(JIS K7210に従って、21.18Nの荷重下、温度230℃で測定される。)は、好ましくは0.1〜300g/10分であり、より好ましくは0.5〜200g/10分である。ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、重合温度、水素添加量、重合時間、触媒を構成する各成分の量比などを制御することにより調節することができる。
【0023】
成分(C)は鉱物油にアルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液である。該アルキルフェノール樹脂としては、ゴム用架橋剤として一般的に使用されている下記式で表される化合物があげられる(米国特許3287440号公報および同3709840号公報参照)。

(式中、nは0〜10の整数を表し、XおよびYはそれぞれ独立に水酸基、ハロゲン化アルキル基またはハロゲン原子を表し、Rは炭素原子数1〜15の飽和炭化水素基を表す。)
また、アルキルフェノール樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒドや、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒドを例示することができる。好ましくは、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂である。
【0024】
上記式で表される化合物は、置換フェノールとアルデヒドとをアルカリ触媒で縮重合させることによって製造することができる。
【0025】
アルキルフェノール樹脂の形状は、通常、固体である。
【0026】
アルキルフェノール樹脂は、金属酸化物およびステアリン酸のような分散剤と組み合せて用いることが好ましい。
【0027】
本製造方法においては、鉱物油にアルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液(C)を溶融混練装置に供給する。
【0028】
成分(C)に含まれる鉱物油の例としては、アロマ系鉱物油、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油があげられる。好ましくは、熱可塑性エラストマー組成物の着色性の観点から、パラフィン系鉱物油である。
【0029】
該鉱物油は、好ましくは40℃における動粘度が1.0〜500mm/sであり、成分(C)の貯蔵安定性の観点から、より好ましくは40℃における動粘度が2.0〜250mm/sであり、さらに好ましくは40℃における動粘度が3.0〜90mm/sである。40℃における動粘度とは、JIS K 2283に準拠して測定された粘度指数である。
【0030】
成分(C)に含まれる鉱物油としては、好ましくは環分析により求められる芳香族炭素の割合が20%C以下であり、熱可塑性エラストマー組成物の着色性の観点から、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは2以下であり、該値が0であれば特に好ましい。なお、本発明における芳香族炭素の割合(%C)とは、ASTM D 3238に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる芳香族炭素数の全炭素数に対する割合(百分率)である。
成分(C)に含まれる鉱物油としては、硫黄分が好ましくは0.7wt%以下であり、より好ましくは0.2wt%以下であり、さらに好ましくは0.1wt%以下である。
【0031】
成分(C)中のアルキルフェノール樹脂の含有量は、好ましくは1.0重量%〜50重量%であり、より好ましくは2.0重量%〜45重量%であり、さらに好ましくは3.0重量%〜40重量%である(成分(C)の総量を100重量%とする。)
アルキルフェノール樹脂を鉱物油に分散および/または溶解させる方法は、アルキルフェノール樹脂および鉱物油を攪拌機付きガラス容器に一括して入れ、攪拌しながら70〜100℃のウォーターバスにて2〜5時間加温する方法が挙げられる。溶解液の変色性の観点から、攪拌温度は70〜90℃が好ましい。
溶解液の色相はJIS K 0071に準拠して判定し、APHAの値が500以下が好ましく、更に好ましくは400以下である。
【0032】
成分(D)は金属ハロゲン化物である。金属ハロゲン化物としては、塩化第一スズ・無水物、塩化第一スズ・二水和物および塩化第二鉄があげられる。反応性の観点から、好ましくは、塩化第一スズ・二水和物である。成分(D)の形状は、通常、粉体である。
【0033】
成分(E)は鉱物油であり、アロマ系鉱物油、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油があげられる。好ましくは、パラフィン系鉱物油である。また、好ましくは40℃における動粘度が10〜1000mm/sである鉱物油であり、より好ましくは40℃における動粘度が15〜800mm/sである鉱物油である。動粘度は、JIS K 2283−3に従い測定される。
【0034】
本製造方法においては、成分(A)のエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムを、鉱物油が配合された油展エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムの形で用いてもよい。エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムに鉱物油を配合する方法として、(1)ロールやバンバリーミキサーのような混練装置を用い、両者を機械的に混練する方法、(2)エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムの溶液に鉱物油を添加し、その後、スチームストリッピングのような方法によって脱溶媒する方法を例示することができる。
【0035】
上記添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、粘着付与剤、着色剤、中和剤、滑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、抗菌剤、殺菌剤、カーボンブラック、タルク、クレー、シリカ、ガラス繊維等の無機フィラー類、炭素繊維等があげられる。
【0036】
本製造方法においては、成分(C)及び成分(D)の存在下、成分(A)と成分(B)とに加え、下記成分(E)及び/又は添加剤を動的熱処理してもよい。本発明における「動的熱処理」とは、剪断力下で溶融混練する処理を意味する。
【0037】
動的熱処理を行う溶融混練装置としては、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、二軸押出機等公知のものを使用することができる。または二種以上の複数の装置を組み合わせることも可能である。好ましくは二軸押出機である。
【0038】
動的熱処理を行う成分(A)の量は、成分(A)、成分(B)及び成分(E)の総量を100重量部として、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性を高めるために、好ましくは10重量部以上であり、より好ましくは15重量部以上である。また、熱可塑性エラストマー組成物の流動性を高め、かつ熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体の外観を良好にするために、好ましくは60重量部以下であり、より好ましくは55重量部以下である。
【0039】
動的熱処理を行う成分(B)の量は、成分(A)、成分(B)及び成分(E)の総量を100重量部として、熱可塑性エラストマー組成物の流動性を高め、かつ熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体の外観を良好にするために、好ましくは5重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上である。また、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性を高めるために、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは45重量部以下である。
【0040】
動的熱処理を行う成分(C)の量は、熱可塑性エラストマー組成物の架橋度を高めるために、成分(A)、成分(B)及び成分(E)の総量を100重量部あたり、好ましくは0.5〜100重量部であり、より好ましくは1〜90重量部である。
【0041】
動的熱処理を行う成分(D)の量は、成分(A)、成分(B)及び成分(E)の総量を100重量部として、熱可塑性エラストマー組成物の架橋度を高めるために、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部である。
【0042】
動的熱処理を行う成分(E)の量は、成分(A)、成分(B)及び成分(E)の総量を100重量部として、熱可塑性エラストマー組成物の流動性を高め、かつ熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体の外観を良好にするために、好ましくは5重量部以上である。また、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体の外観を良好にするために、好ましくは70重量部以下であり、より好ましくは65重量部以下である。
【0043】
動的熱処理の温度は、通常は150〜300℃であり、好ましくは170〜280℃であり、動的熱処理の時間は0.1〜30分であり、好ましくは0.2〜20分である。
動的熱処理を行う成分(C)の供給方法は、架橋剤供給装置のオイルポンプにより二軸押出機に連続的に供給することが好ましい。成分(C)を押出機等の溶融混練装置に連続的に供給した場合、成分(C)の供給量の時間変動を抑えられ、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体の外観を高める効果がある。
【0044】
本発明により得られる熱可塑性エラストマー組成物は一般に使用される成型法、例えば、射出成型法、押出成型法、中空成型法、圧縮成型法等により成形される。用途としては自動車部品(ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、カップホルダー、サイドブレーキグリップ、シフトノブカバー、シート調整ツマミ、フラッパードアシール、ワイヤーハーネスグロメット、ラックアンドピニオンブーツ、サスペンションカバーブーツ、ガラスガイド、インナーベルトラインシール、ルーフガイド、トランクリッドシール、モールデッドクォーターウィンドガスケット、コーナーモールディング、グラスエンキャプシュレーション、フードシール、グラスランチャンネル、セカンダリーシール、各種パッキン類など)、土木・建材部品(止水材、目地材、建築用窓枠など)、スポーツ用品(ゴルフクラブ、テニスラケットのグリップ類など)、工業用部品(ホースチューブ、ガスケット等)、家電部品(ホース、パッキン類など)、医療用機器部品、電線、雑貨などの広汎な分野での資材として使用される。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0046】
以下の実施例で使用した原材料および評価方法は次の通りである。
[使用した原材料]
成分(A),(E):エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム100重量部にパラフィン系鉱物油100重量部を添加した油展ゴム(ムーニー粘度(ML1+4100℃)=63、エチレン単位の含有量=66重量%、5−エチリデン−2−ノルボルネン単位の含有量=4重量%)
成分(B):ポリプロピレン樹脂(プロピレン単独重合体、住友化学(株)製 商品名ノーブレンD101、MFR(230℃、21.18N)=0.7g/10分)
成分(C):アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体(田岡化学工業(株)製 商品名タッキロール201)
成分(D):塩化第一スズ・二水和物(日本化学産業(株)製)
成分(E):パラフィン系鉱物油(出光興産(株)製 商品名ダイアナプロセスオイル)
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(チバ・ジャパン(株)製 商品名イルガノックス1010)
【0047】
アルキルフェノール樹脂を分散及び/又は溶解させるために用いられた鉱物油は次の通りである。
・パラフィン系オイル−1(ダイアナプロセスオイルPW32、動粘度(40℃)=30.9mm/sec、%CA=0、硫黄分=7ppm、出光興産株式会社製)
・パラフィン系オイル−2(ダイアナプロセスオイルPW90、動粘度(40℃)=95.5mm/sec、%CA=0、硫黄分=10ppm、出光興産株式会社製
・パラフィン系オイル−3(ダイアナプロセスオイルPW380、動粘度(40℃)=381.6mm/sec、%CA=0、硫黄分=6ppm、出光興産株式会社製)
・パラフィン系オイル−4(ダイアナプロセスオイルPS32、動粘度(40℃)=31.4mm/sec、%CA=0.1、硫黄分=0.01wt%、出光興産株式会社製)
・パラフィン系オイル−5(ダイアナプロセスオイルPS90、動粘度(40℃)=92.4mm/sec、%CA=0.2、硫黄分=0.01wt%、出光興産株式会社製)
・パラフィン系オイル−6(Sunpar115、動粘度(40℃)=30.0mm/sec、%CA=2、硫黄分=0.13wt%、日本サン石油株式会社製)
・パラフィン系オイル−7(Sunpar150、動粘度(40℃)=92.6mm/sec、%CA=3、硫黄分=0.01wt%、日本サン石油株式会社製)
・パラフィン系オイル−8(コウモレックスH30、動粘度(40℃)=94.7mm/sec、%CA=4.8、硫黄分=0.57wt%、新日本石油株式会社製)
【0048】
[評価方法]
(1)貯蔵安定性の評価方法
鉱物油およびアルキルフェノール樹脂を80℃にて加熱し、分散及び/又は溶解させた液を無色透明な瓶に入れ、温度23℃および10℃の恒温槽にて24時間保管した。その後、液中のアルキルフェノール樹脂の分散および溶解状態を目視にて判定した。アルキルフェノール樹脂が液中に分散もしくは溶解している場合を「貯蔵安定性 優良」と判定し、アルキルフェノール樹脂が液中に一部沈殿している場合を「貯蔵安定性 良好」と判定し、アルキルフェノール樹脂が液中に完全に沈殿している場合を「貯蔵安定性 不良」と判定した。色相(APHA)については、JIS K0071に準拠し判定した。
【0049】
(2)押出シート外観
ユニオンプラスチック製USV型25mmφ押出機を用いて、フルフライトタイプスクリュー、Tダイを使用し、0.2mm厚の押出シートを作製した。該押出シート中に存在する直径0.5mm以上のしこりをブツと判定し、該押出シートの無作為に選択された長さ40cm、幅8cmの領域に確認されるブツの数の多少によりシート外観を目視で判定した。シート肌が良好でブツの数が20個以内の場合を「良好」と判定し、シート肌が悪くブツの数が20より多い場合を「不良」と判定した。
【0050】
(4)物性評価方法
熱可塑性エラストマー組成物を200℃で圧縮成型することにより厚み2mmの試験片を作成し、以下の方法で物性測定を行った。
・ 硬度:JIS K6253に準拠してShore−A瞬間値を測定した。
・ 引張物性:JIS K6251に従い、熱可塑性エラストマー組成物の平板をJIS3号ダンベルで打ち抜いた試験片を用い、引張速度200mm/分の条件で引張試験を実施し、引張破断強度および引張破断伸びを求めた。
・ 圧縮永久歪み: JIS K6262に準拠して、圧縮率25%、保持温度70℃、保持時間22時間の条件で圧縮永久歪みを測定した。
・ 耐油性:JIS K6258に準拠して、100℃のJIS3号オイル中に試料を22時間浸漬した後、浸漬前の重量に対する重量変化率を求め、これを耐油性の尺度とした。
・ 耐熱老化性:JIS K6257に準拠して、試料を150℃で168時間で保持することにより、耐熱老化性を評価した。
【0051】
[熱可塑性エラストマー組成物の調製]
実施例1
二軸押出機に、粉砕された油展ゴム77重量部、ポリプロピレン樹脂ペレット23重量部、フェノール系酸化防止剤粉体0.1重量部、濃度30重量%でアルキルフェノール樹脂がパラフィン系鉱物油(PW32)に溶解している液8重量部、塩化第一スズ・二水和物0.6重量部を連続的に供給し、200±10℃で動的熱処理を行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
二軸押出機に、粉砕された油展ゴム77重量部、ポリプロピレン樹脂ペレット23重量部、フェノール系酸化防止剤粉体0.1重量部、濃度20重量%でアルキルフェノール樹脂がパラフィン系鉱物油(PW90)に溶解している液8重量部、塩化第一スズ・二水和物0.6重量部を連続的に供給し、200±10℃で動的熱処理を行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
二軸押出機に、粉砕された油展ゴム62重量部、ポリプロピレン樹脂ペレット24重量部、パラフィン系鉱物油14重量部、フェノール系酸化防止剤粉体0.1重量部、濃度30重量%でアルキルフェノール樹脂がパラフィン系鉱物油(PW32)に溶解している液5重量部、ポリプロピレンパウダーと塩化第一スズ・二水和物粉体との混合物2.4重量部(ポリプロピレンパウダー2.0重量部;塩化第一スズ・二水和物粉体0.4重量部)を連続的に供給し、200±10℃で動的熱処理を行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0054】
実施例4
成分(C)に含まれる鉱物油にPS32を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0055】
実施例5
成分(C)に含まれる鉱物油にSUNPAR115を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0056】
実施例6
成分(C)に含まれる鉱物油にPW90を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0057】
実施例7
成分(C)に含まれる鉱物油にPS90を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0058】
実施例8
成分(C)に含まれる鉱物油にSUNPAR150を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0059】
実施例9
成分(C)に含まれる鉱物油にコウモレックスH30を用いたこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0060】
比較例1
濃度30重量%でアルキルフェノール樹脂がパラフィン系鉱物油(PW32)に溶解している液8重量部を、アルキルフェノール樹脂粉体2.4重量部とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0061】
[アルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液の性状]
試験例1
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(PW32)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においても優良であった。APHAは40であった。
【0062】
試験例2
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(PW90)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においては良好であった。APHAは40であった。
【0063】
試験例3
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(PW380)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においては良好であった。APHAは40であった。
【0064】
試験例4
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(PS32)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においても優良であった。APHAは30であった。
【0065】
試験例5
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(PS90)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においては良好であった。APHAは30であった。
【0066】
試験例6
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(SUNPER115)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においても優良であった。APHAは300であった。
【0067】
試験例7
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(SUNPER150)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は、23℃では優良であり、10℃においては良好であった。APHAは500以上であった。
【0068】
試験例8
アルキルフェノール樹脂20重量部とパラフィン系鉱物油(コウモレックスH30)80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、23℃での評価結果は優良であり、10℃においては良好であった。APHAは500以上であった。
【0069】
試験例9
アルキルフェノール樹脂20重量部と水80重量部とを密閉式ガラス容器内で加温しながら攪拌混合した。得られた混合液の貯蔵安定性を評価したところ、貯蔵安定性は23℃、10℃のいずれも不良であった。























【0070】
【表1】





























【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)、成分(B)、成分(C)、および成分(D)を、溶融混練装置内で動的熱処理する熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム
成分(B):ポリオレフィン系樹脂
成分(C):鉱物油にアルキルフェノール樹脂が分散及び/又は溶解された液
成分(D):金属ハロゲン化物
【請求項2】
成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、および成分(E)を、溶融混練装置内で動的熱処理する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(E):鉱物油
【請求項3】
成分(C)における鉱物油は、パラフィン系鉱物油である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
成分(C)における鉱物油は、40℃における動粘度が1.0〜500mm/sである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
成分(C)における鉱物油は、環分析により求められる芳香族炭素の割合が20%C以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項6】
成分(C)中のアルキルフェノール樹脂の含有量が1.0重量%〜50重量%である(成分(C)の総量を100重量%とする。)、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項7】
溶融混練装置が二軸押出機であり、成分(C)を連続的に当該二軸押出機に供給する請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
成分(A)と成分(B)と成分(E)の総量を100重量部として、10重量部〜60重量部の成分(A)と、5重量部〜50重量部の成分(B)と、0.5重量部〜100重量部の成分(C)と、0.1重量部〜20重量部の成分(D)と、0重量部〜70重量部の成分(E)とを動的熱処理する請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−57060(P2013−57060A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176749(P2012−176749)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】