説明

熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品

【課題】成形加工性、熱伝導性、耐寒性、密着性、低糊残り性、耐ポンプアウト性に優れた熱伝導性部材を形成することができる熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品を提供すること。
【解決手段】一般式(a)で表されるブロック共重合体が水素添加されてなる水添ジエン系共重合体と、(A)水添ジエン系共重合体100部に対して5〜1000部の(B)液状成分と、(C)熱伝導性フィラーとを含有し、重合体ブロック(i)はビニル結合含量が25%未満であり、重合体ブロック(ii)はビニル結合含量が35%以上であると共に、ブロック共重合体は重合体ブロック(i)及び重合体ブロック(ii)の合計に対して重合体ブロック(i)の含有割合が5〜90質量%であり、カップリング率が70〜90%である熱可塑性エラストマー組成物。
[(i)−(ii)]−X (a)
(一般式(a)において、Xは、カップリング剤残基を示し、nは、3又は4を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品に関する。更に詳しくは、電子機器等の放熱対策に用いられる熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、CPUやLED基板等の発熱部からの発熱量が大きくなり、製品性能の低下、製品寿命の短縮、安全性の低下(火傷、火災)等の問題が顕在化しており、ヒートシンクや製品筐体等の放熱部を通じて発生した熱を外部に逃がす放熱対策が重要となっている。
【0003】
一般的に、CPUやLED基板等の発熱部の材料、及びヒートシンクや製品筐体等の放熱部の材料は、金属、セラミック、樹脂等の柔軟性が乏しい材料である。また、発熱部や放熱部の表面には凹凸が存在するため、発熱部と放熱部の間に隙間が生じ、熱伝導効率が悪くなってしまうことがある。そこで、発熱部と放熱部の密着性を高めて効率よく熱伝導させるために、発熱部と放熱部の間に熱伝導性グリースを用いることが知られている。
【0004】
熱伝導性グリースとしては、熱伝導性を高めるために酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭化ケイ素等の熱伝導性フィラーをシリコーンオイルに添加した熱伝導性グリースが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、このような熱伝導性グリースは、加熱・冷却により熱伝導性グリース自体が熱膨張・熱収縮することや、発熱部と放熱部との熱膨張率の差により反りが発生することにより、熱伝導性グリースが発熱部と放熱部との間から流出して熱伝導性が低下する「ポンプアウト」と呼ばれる現象が問題となっている。また、電子機器の補修や修理等のために発熱部と放熱部を分離する際、熱伝導性グリースを有機溶剤等で拭き取る作業が必要となる。これらポンプアウトや作業性の問題を改善するために、熱伝導性グリースと同等の密着性を有するシート状の熱伝導性部材の開発が期待されている。
【0006】
このようなシート状の熱伝導性部材として、エチレン−酢酸ビニル共重合体やワックス等の電子機器の作動温度に軟化点を有する材料に、窒化アルミニウム、アルミナ等の熱伝導性フィラーを添加することで、作動温度では密着性に優れ、室温ではシート状で作業性に優れるフェイズチェンジシートと呼ばれる材料が提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3891969号公報
【特許文献2】特許第2580348号公報
【特許文献3】特許第3794996号公報
【特許文献4】特許第4030399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3又は4に記載の熱伝導性部材は、材料強度が低いため、薄いシート状とした場合に、発熱部又は放熱部から剥がす際に熱伝導性シートが破損し、その一部が発熱部又は放熱部に残ってしまう、所謂、「糊残り」が発生してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、優れた成形加工性、熱伝導性、耐寒性、密着性、及び耐ポンプアウト性を維持しつつ、低糊残り性に優れた熱伝導性部材を形成することができる熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマー組成物に、星型のブロック構造を有する水添ジエン系共重合体と、液状成分と、熱伝導性フィラーと、を必須要素として含ませることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品が提供される。
【0012】
[1] (A)第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(i)、第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(ii)、及びカップリング剤残基を有し、下記一般式(a)で表されるブロック共重合体が水素添加されてなる水添ジエン系共重合体と、(B)軟化剤、可塑剤、及び液状重合体からなる群より選択される少なくとも一種の液状成分と、(C)熱伝導性フィラーと、を含有し、前記(B)液状成分の含有比が、前記(A)水添ジエン系重合体100質量部に対して、5〜1000質量部であり、前記重合体ブロック(i)は、ビニル結合含量が25%未満である重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(ii)は、ビニル結合含量が35%以上である重合体ブロックであると共に、前記ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(i)及び前記重合体ブロック(ii)の合計に対して、前記重合体ブロック(i)の含有割合が5〜90質量%であり、且つ、前記重合体ブロック(ii)の含有割合が10〜95質量%であり、カップリング率が70〜90%である熱可塑性エラストマー組成物。
[(i)−(ii)]−X (a)
(一般式(A)において、(i)は重合体ブロック(i)を示し、(ii)は重合体ブロック(ii)を示し、Xは、カップリング剤残基を示し、nは、3又は4を示す。)
【0013】
[2] 前記水添ジエン系共重合体(A)が、前記共役ジエン化合物に由来する二重結合の水素転化率が80%以上である前記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[3] 前記水添ジエン系共重合体(A)の重量平均分子量が50,000〜700,000である前記[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[4] 前記重合体ブロック(i)中、1,3−ブタジエンに由来する構成単位の含有割合が、前記重合体ブロック(i)の全構成単位の合計の90質量%以上である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[5] 前記重合体ブロック(ii)中、前記第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合が、前記重合体ブロック(ii)の全構成単位の合計の50質量%以上である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[6] 前記重合体ブロック(ii)が、ビニル芳香族化合物に由来する構成単位を更に含有する前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[7] 前記(B)液状成分の含有比が、前記(A)水添ジエン系共重合体100質量部に対して、20〜500質量部である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0019】
[8] 前記(B)液状成分が、前記軟化剤と前記液状重合体を含む前記[1]〜[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0020】
[9] 前記液状重合体が、液状ポリブテンである前記[1]〜[8]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0021】
[10] (D)表面処理剤を更に含む前記[1]〜[9]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0022】
[11] 前記(D)表面処理剤の含有比が、前記(C)熱伝導性フィラー100質量部に対して、0.05〜5質量部である前記[10]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0023】
[12] 前記(D)表面処理剤が、飽和脂肪酸である前記[10]又は[11]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0024】
[13] 前記[1]〜[12]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品。
【0025】
[14] 厚みが30〜3000μmの熱伝導性シートである前記[13]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0026】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品は、優れた成形加工性、熱伝導性、耐寒性、密着性、及び耐ポンプアウト性を維持しつつ、低糊残り性に優れた熱伝導性部材を形成することができるという効果を奏するものである。具体的には、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)水添ジエン系共重合体を含むことによって、形成される熱伝導性部材の成形加工性、耐寒性、密着性、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性を向上させることができる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(C)熱伝導性フィラーを含むことによって、熱伝導性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0028】
[1]熱可塑性エラストマー組成物:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)水添ジエン系共重合体と、(B)液状成分と、(C)熱伝導性フィラーとを含む組成物である。以下、その詳細について説明する。
【0029】
[1−1](A)水添ジエン系共重合体:
(A)水添ジエン系共重合体は、第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(i)、第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(ii)、及びカップリング剤残基を有し、下記一般式(a)で表されるブロック共重合体が水素添加されてなり、前記重合体ブロック(i)は、ビニル結合含量が25%未満である重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(ii)は、ビニル結合含量が35%以上である重合体ブロックであると共に、前記ブロック共重合体が、前記重合体ブロック(i)及び前記重合体ブロック(ii)の合計に対して、前記重合体ブロック(i)の含有割合が5〜90質量%であり、且つ、前記重合体ブロック(ii)の含有割合が10〜95質量%であり、カップリング率が70〜90%である水添ジエン系共重合体である。
[(i)−(ii)]−X (a)
(一般式(a)中、(i)は、前記重合体ブロック(i)を示し、(ii)は、前記重合体ブロック(ii)を示し、Xはカップリング剤残基を示し、nは3又は4を示す。)
【0030】
上述のような、(A)水添ジエン系共重合体は、一般式(a)中のカップリング剤残基(X)を中心として、水添された共重合体が重合体ブロック(ii)側から、3つ又は4つ結合(カップリング)されている、所謂、星型の構造を有する。そのため、このような(A)水添ジエン系共重合体は、材料強度と柔軟性とのバランスに優れた材料となる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、このような(A)水添ジエン系共重合体を含むことにより、発熱部や放熱部の凹凸に対して良好な凹凸追従性を示し、成形加工性、耐寒性、密着性、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性にも優れたものとなる。
【0031】
なお、本明細書中、ビニル結合含量は、赤外分析法を用いて、ハンプトン法により算出した値である。なお、赤外分析には、赤外吸収分析装置(HORIBA社製の「FT−720」(商品名))を使用した。また、本明細書中、1,2−ビニル結合と記載したときは、3,4−ビニル結合も含むものとする。即ち、例えば、1,3−ブタジエン中の1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合とを区別しないものとする。
【0032】
[1−1−1]ブロック共重合体(a):
ブロック共重合体(a)は、前記一般式(a)で表されるブロック共重合体である。
【0033】
ブロック共重合体(a)中、重合体ブロック(i)の含有割合は、重合体ブロック(i)及び重合体ブロック(ii)の合計に対して、5〜90質量%であり、10〜80質量%であることが好ましい。即ち、重合体ブロック(ii)の含有割合が、重合体ブロック(i)及び重合体ブロック(ii)の合計に対して、10〜95質量%であり、20〜90質量%であることが好ましい。重合体ブロック(i)の含有割合が5質量%未満(即ち、重合体ブロック(ii)の含有割合が95質量%超)であると、ブロック共重合体(a)の機械的強度が低下してしまう。一方、重合体ブロック(i)の含有割合が90質量%超(即ち、重合体ブロック(ii)の含有割合が10質量%未満)であると、ブロック共重合体(a)の強度が過度に上昇してしまう。
【0034】
重合体ブロック(i)は、第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有し、ビニル結合含量が25%未満である重合体ブロックである。第一の共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等を挙げることができる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0035】
重合体ブロック(i)中、第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合は、重合体ブロック(i)の全構成単位の合計の90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合が上述の範囲内であることにより、低糊残り性に優れた成形品を得ることができる。
【0036】
重合体ブロック(i)中、1,3−ブタジエンに由来する構成単位の含有割合は、重合体ブロック(i)の全構成単位の合計の90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。重合体ブロック(i)中の1,3−ブタジエンに由来する構成単位の含有割合が上述の範囲内であることにより、(A)水添ジエン系共重合体中の水添された重合体ブロック(i)は低密度ポリエチレンと類似した構造となるため、低糊残り性に優れた成形品を得ることができる。
【0037】
重合体ブロック(i)のビニル結合含量は、25%未満であり、20%未満であることが好ましく、15%未満であることが更に好ましい。重合体ブロック(i)のビニル結合含量が25%以上であると、(A)水添ジエン系共重合体の結晶の融点が著しく降下し、機械的強度が低下してしまう傾向にある。
【0038】
重合体ブロック(i)の重量平均分子量は、25,000〜630,000であることが好ましく、30,000〜480,000であることが更に好ましい。重合体ブロック(i)の重量平均分子量が上述の範囲内であることにより、得られるブロック共重合体(a)の分子量を適当なものとすることができる。
【0039】
なお、本明細書中、重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)分析により、ポリスチレン換算で求めた値である。なお、GPC分析には、GPC装置(東ソー・ファインケム社製の「HLC−8120GPC」(商品名)、カラム:東ソー社製の「GMH−XL」(商品名))を使用した。
【0040】
重合体ブロック(ii)は、第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有し、ビニル結合含量が35%以上である重合体ブロックである。第二の共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等を挙げることができる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンが更に好ましい。なお、重合体ブロック(ii)は、これら第二の共役ジエン化合物のうち、一種を単独で有していても良く、二種以上を有していても良い。
【0041】
重合体ブロック(ii)中、上述の第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合は、重合体ブロック(ii)の全構成単位の合計の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。上述の第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合が上述の範囲内であることにより、(A)水添ジエン系共重合体中の水添された重合体ブロック(ii)はゴム状のエチレン−ブテン共重合体等と類似した構造となるため、柔軟性に優れた成形品を形成することができる。
【0042】
重合体ブロック(ii)は、第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位に加えて、ビニル芳香族化合物に由来する構成単位を更に含有する重合体ブロックであることが好ましい。このような、ビニル芳香族化合物の具体例としては、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0043】
重合体ブロック(ii)中、ビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有割合は、重合体ブロック(ii)の全構成単位の合計の35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。ビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有割合が35質量%を超えない範囲で大きくすることにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品の機械的強度が向上し、また、(B)液状成分の浸出(ブリード)を抑制することができる、即ち、耐寒性に優れるため好ましい。また、ビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有割合が35質量%超であると、熱可塑性エラストマー組成物の低温特性(耐寒性)が低下してしまう。
【0044】
重合体ブロック(ii)のビニル結合含量は、35%以上であり、40〜95%であることが好ましく、40〜90%であることが更に好ましく、45〜80%であることが特に好ましい。重合体ブロック(ii)のビニル結合含量が35%未満であると、低温で重合体ブロック(ii)の結晶化が進行するため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物又はその成形品から(B)液状成分の浸出(ブリード)が発生し、耐寒性が低下してしまう。
【0045】
重合体ブロック(ii)の重量平均分子量は、25,000〜650,000であることが好ましく、30,000〜540,000であることが更に好ましい。重合体ブロック(ii)の重量平均分子量が上述の範囲内であることにより、得られるブロック共重合体(a)の分子量を適当なものとすることができる。
【0046】
ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(i)及び重合体ブロック(ii)からなる部分(以下、単に「重合体ブロック部分」とも記載する)、即ち、前記一般式(a)中、[(i)−(ii)]で表される部分を重合する方法としては、特に限定されないが、例えば、不活性有機溶媒中、第一及び第二の共役ジエン化合物と、第一及び第二の共役ジエン化合物と共重合可能な他の単量体とを、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として、リビングアニオン重合することにより重合することができる。
【0047】
重合反応に用いる不活性有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒等を挙げることができる。
【0048】
重合開始剤として用いる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物等を挙げることができる。これらの中でも、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物を好適に用いることができる。有機アルカリ金属化合物の使用量については特に制限はなく、必要に応じて適宜使用量を調節ことができるが、単量体成分100質量%当たり、0.02〜15質量%の量を用いることが好ましく、0.03〜5質量%の量を用いることが更に好ましい。
【0049】
重合温度は、−10〜150℃であることが好ましく、0〜120℃であることが更に好ましい。重合系の雰囲気は窒素等の不活性ガスをもって置換することが望ましい。なお、重合圧力は、上記重合条件で単量体及び溶媒を液相に維持するに十分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されるものではない。
【0050】
また、ブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分を重合する過程において、各化合物の単量体を重合系に投入する方法としては、特に限定されず、一括、連続的、間欠的、又はこれらを組み合わせた方法を挙げることができる。更には、ブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分を重合する際の、重合容器の個数及び種類や、上記単量体の投入方法等は、得られる(A)水添ジエン系共重合体、(A)水添ジエン系共重合体を含有する組成物、この組成物からなる成形品等の物性が好ましくなるよう適宜選択することができる。
【0051】
ブロック共重合体(a)は、上述の重合体ブロック部分を、カップリング剤を用いてカップリング反応させることにより、重合体ブロック部分からなる3つ又は4つの分子鎖がカップリング残基を介して結合しているブロック共重合体であり、下記一般式(a)で表すことができる。
[(i)−(ii)]−X (a)
(一般式(a)中、(i)は、前記重合体ブロック(i)を示し、(ii)は、前記重合体ブロック(ii)を示し、Xはカップリング剤残基を示し、nは3又は4を示す。)
【0052】
カップリング剤としては、例えば、1,2,4−トリビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロスズ、1,3−ジクロロ−2−プロパノン等を挙げることができる。これらの中でも、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0053】
カップリング反応におけるカップリング率は、70〜90%であり、70〜85%であることが好ましく、70〜83%であることが更に好ましく、70〜80%であることが特に好ましい。カップリング率が上述の範囲内であることにより成形加工性と低糊残り性のバランスに優れた成形品を成形することができる。また、カップリング率が70%未満であると、ブロック共重合体(a)の生成量が不十分であるため、熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形品の機械的強度が低く、低糊残り性に劣るものとなってしまう。一方、カップリング率が90%超であると、成形品の工業的規模での製造における生産性や加工性が低下してしまう。
【0054】
なお、本明細書中、カップリング率は、(A)水添ジエン系共重合体のゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)ピーク解析により、カップリング反応後の反応溶液中、未反応のブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分とカップリングされて生成したブロック共重合体(a)とのピーク面積比から算出した比率である。また、分子量分布が単峰性の共重合体については、カップリング前のブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分の重量平均分子量とカップリングされて生成したブロック共重合体(a)の重量平均分子量からカップリング率を算出した。なお、重量平均分子量はGPC分析により求めた。
【0055】
ブロック共重合体(a)は、官能基で変性された変性ブロック重合体であってもよい。このような官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、エポキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、イソシアネート基、スルホニル基、及びスルホネート基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を挙げることができる。変性する方法としては、従来公知の方法を挙げることができる。この変性ブロック重合体中の官能基の含有割合は、ブロック共重合体(a)を構成する構造単位の合計の0.01〜10.0モル%であることが好ましく、0.10〜8.00モル%であることが更に好ましく、0.15〜5.00モル%であることが特に好ましい。
【0056】
官能基を導入するための単量体としては、特に制限されないが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチルが好ましい。
【0057】
[1−1−2]水素添加:
(A)水添ジエン系共重合体は、上述のブロック共重合体(a)を水素添加することにより製造することができる。
【0058】
水素添加する方法や反応条件については、特に制限はなく、例えば、20〜150℃、0.1〜10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。この場合、水添率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより適宜調整することができる。
【0059】
水添触媒としては、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、レニウム(Re)、白金(Pt)等の金属原子を含む化合物を挙げることができる。
【0060】
より具体的には、上記のTi、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等の金属原子を含むメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ruなどの金属原子をカーボン、シリカ、アルミナ、珪藻土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Coなどの金属原子の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rhなどを含む有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらの中でも、不活性有機溶媒中、均一系で水素添加できる点で、Ti、Zr、Hf、Co、及びNiのいずれかの金属原子を含むメタロセン化合物が好ましく、Ti、Zr、Hfのいずれかの金属原子を含むメタロセン化合物が更に好ましい。また、チタノセン化合物とアルキルリチウムとを反応させた水添触媒は安価で工業的に特に有用な触媒であるため特に好ましい。なお、これらの水添触媒は、一種単独で用いてもよく、又は二種以上を併用しても良い。
【0061】
添加する水添触媒の量としては、特に制限はなく、重合体の種類、水添触媒の種類、水添率等に応じて適宜選択することができるが、通常、第一の共役ジエン化合物及び第二の共役ジエン化合物の合計量の0.005〜0.05モル%であることが好ましく、0.008〜0.03モル%であることが更に好ましく、0.01〜0.02モル%であることが特に好ましい。
【0062】
このような水添触媒を用いて水素添加した後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系又はアミン系の老化防止剤を添加し、その後、反応溶液から(A)水添ジエン系共重合体を単離する。(A)水添ジエン系共重合体の単離は、例えば、反応溶液にアセトン、アルコール等を加えて沈殿させる方法、反応溶液を熱湯中に撹拌下投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により行うことができる。
【0063】
(A)水添ジエン系共重合体は、前記ブロック共重合体(a)中の前記重合体ブロック(i)が含有する1,2−ビニル結合、及び前記ブロック共重合体(a)中の前記重合体ブロック(ii)が含有する1,2−ビニル結合の合計の80%以上が水素添加されていることが好ましく、90%以上が水素添加されていることが更に好ましく、95〜100%が水素添加されていることが好ましい。即ち、(A)水添ジエン系共重合体の水添率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95〜100%であることが特に好ましい。水添率が低い(80%未満である)と、(A)水添ジエン系共重合体の熱安定性及び耐久性が低下し易くなる傾向にある。
【0064】
なお、本明細書中、水添率は、四塩化炭素溶液を用いて、270MHzにおけるH−NMRスペクトル分析から算出した。なお、H−NMRスペクトル分析には、核磁気共鳴装置(日本電子社製の「JEOL EX−270」(商品名))を使用した。
【0065】
(A)水添ジエン系共重合体の重量平均分子量は、50,000〜700,000であることが好ましく、100,000〜600,000であることが更に好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると、耐熱性、機械的強度が低下する傾向にある。一方、重量平均分子量が700,000超であると、成形加工性が低下してしまうおそれがある。
【0066】
[1−2](B)液状成分:
(B)液状成分は、軟化剤、可塑剤、及び液状重合体からなる群より選択される少なくとも一種である。以下、詳細に説明する。
【0067】
[1−2−1]軟化剤:
軟化剤は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を軟化させ、電子機器等の発熱部及び放熱部への密着性を向上させるために用いられる液状成分である。
【0068】
このような軟化剤としては、例えば、パラフィン系油、ナフテン系油、アロマティック系油等の鉱物油、エチレン・α−オレフィン系オリゴマー等の合成油、オレイン酸、リシノール酸等の脂肪酸、ヒマシ油、綿実油、亜麻仁油、なたね油、大豆油、パーム油、落花生油等の植物油等を挙げることができる。
【0069】
[1−2−2]可塑剤:
可塑剤は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に熱可塑性を付与し、電子機器等の作動温度において、発熱部及び放熱部への密着性を向上させるために用いられる液状成分である。
【0070】
このような可塑剤としては、例えば、フタル酸誘導体、イソフタル酸誘導体、テトラヒドロフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、セバシン酸誘導体、フマル酸誘導体、クエン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、リン酸誘導体、マレイン酸誘導体等の各種脂肪酸の誘導体等を挙げることができる。
【0071】
[1−2−3]液状重合体:
液状重合体は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から形成される成形品の成形加工性や密着性を向上させるために用いられる液状成分である。
【0072】
このような液状重合体としては、例えば、液状ポリブタジエン、液状イソプレン、液状ポリブテン、液状スチレン・ブタジエンゴム、ポリイソブチレン、シリコーンオイル等を挙げることができる。なお、これらの液状重合体は変性されていても良い。
【0073】
(B)液状成分としては、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を柔軟性及び密着性に優れたものとすることができるため、軟化剤と液状重合体とを組み合わせた液状成分が好ましい。なお、成形品の耐熱性が低下することを抑制することができるという観点から、液状プリブテンが特に好ましい。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中、(B)液状成分の添加量は、(A)水添ジエン系共重合体100質量部に対して、5〜1000質量部であり、10〜800質量部であることが好ましく、20〜500質量部であることが更に好ましい。(B)液状成分の添加量が5質量部未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が低下してしまうおそれがある。一方、(B)液状成分の添加量が1000質量部超であると、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下し、成形加工性や低糊残り性が劣化してしまう傾向にある。
【0075】
[1−3](C)熱伝導性フィラー:
(C)熱伝導性フィラーは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、熱伝導性を付与するために添加されるものである。
【0076】
(C)熱伝導性フィラーとしては、カーボン系材料、金属系材料、セラミック系材料、シリカ系材料、及びこれらの複合材料等を挙げることができる。
【0077】
カーボン系材料の具体例としては、ケッチェンブラック等のファーネスブラック;アセチレンブラック、チャンネルブラック、ガスブラック等のカーボンブラック;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等のカーボンファイバー;球状黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等のグラファイト;ダイヤモンド、フラーレン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブ、グラフェン等を挙げることができる。
【0078】
金属系材料の具体例としては、銀粉、金粉、銅粉、鉄粉、ステンレス粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、白金粉等の金属粉末;アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム等の金属酸化物;銅繊維、ステンレス繊維、アルミ繊維、ニッケル繊維等の金属繊維を挙げることができる。
【0079】
セラミック系材料の具体例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ−チタンカーバイド系セラミック、ジルコニア系セラミック、炭化ケイ素等のセラミックを挙げることができる。
【0080】
シリカ系材料の具体例としては、石英、結晶性シリカ、非晶性シリカ等のシリカ粉末を挙げることができる。
【0081】
これらの(C)熱伝導性フィラーは、一種単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0082】
なお、マトリックスとなる(A)水添ジエン系共重合体との濡れ性を改良する等の目的から、表面処理されている(C)熱伝導性フィラーを用いることが好ましい。
【0083】
上述の各(C)熱伝導性フィラーを構成する粒子の形状は特に限定されないが、例えば、球状、針状、繊維状、鱗片状、樹枝状、平板状、不定形状等の形状を挙げることができる。窒化ホウ素や炭素繊維等、(C)熱伝導性フィラーを構成する粒子のアスペクト比が1より大きく、熱伝導率の異方性を持つ場合、電場、磁場、せん断場、重力場、及びそれらの組み合わせにより、(C)熱伝導性フィラーを配向させ、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形品に熱伝導率異方性を付与することができる。せん断場の具体例としては、押出成形、ロール成形、射出成形、発泡成形などを挙げることができる。
【0084】
上述の各(C)熱伝導性フィラーを構成する粒子の数平均粒子径は、0.01〜500μmであることが好ましく、0.1〜400μmであることが更に好ましく、1〜300μmであることが特に好ましい。(C)熱伝導性フィラーを構成する粒子の数平均粒子径が小さ過ぎると、得られるエラストマー組成物の粘度が増大してしまい、加工性が著しく低下する傾向にある。一方、(C)熱伝導性フィラーを構成する粒子の数平均粒子径が大き過ぎると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形品の意匠性が低下する傾向にある。
【0085】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中、(C)熱伝導性フィラーの添加量は、熱可塑性エラストマー組成物100体積部に対して、20〜80体積部であることが好ましく、30〜75体積部であることが更に好ましく、35〜70体積部であることが特に好ましい。(C)熱伝導性フィラーの添加量が過少であると、熱可塑性エラストマー組成物の熱伝導性が低すぎる傾向にあり、過多であると、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性及び加工性が低下してしまう傾向にあるため好ましくない。
【0086】
また、(C)熱伝導性フィラーとして、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を用いることにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物に難燃性を付与することができる。更に、難燃性を向上させるため、必要に応じてテトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル等の臭素系難燃剤、赤リン、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステル等のリン系難燃剤、三酸化アンチモン、シリコーン系難燃剤等を更に添加しても良い。また、ドリップ防止のため、窒化珪素短繊維等を添加しても良い。
【0087】
[1−4](D)表面処理剤:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述の(A)水添ジエン系共重合体、(B)液状成分、(C)熱伝導性フィラーに加えて、(D)表面処理剤を更に含有していることが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(D)表面処理剤を含有することにより、上述の(C)熱伝導性フィラーの表面がコーティングされることにより、(C)熱伝導性フィラーの(A)水添ジエン系共重合体との濡れ性が改良され、熱可塑性エラストマー組成物中での(C)熱伝導性フィラーの分散性を向上させることができる。そのため、熱可塑性エラストマー組成物の熱伝導性や柔軟性を向上させることができる。
【0088】
(D)表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、硬化油、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を挙げることができる。
【0089】
脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、モンタン酸、ヒマシ油、亜麻仁油等を挙げることができる。
【0090】
脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸メチル、ミスチリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミスチリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、長ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸ベヘニル、ミスチリン酸セチル等のモノエステル;ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステルの部分エステル化物、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオールC9鎖脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル等の特殊脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0091】
脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の金属塩を挙げることができる。これらの金属塩の金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)、コバルト(Co)、錫(Sn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)等を挙げることができる。
【0092】
硬化油としては、例えば、牛脂硬化油、ヒマシ硬化油等を挙げることができる。
【0093】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−〔β−(N−ビニルベンザルアミノ)エチル〕−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等を挙げることができる。
【0094】
チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等を挙げることができる。
【0095】
これらの(D)表面処理剤の中でも、飽和脂肪酸が耐熱性に優れるため好ましい。なお、これらの(D)表面処理剤は、一種単独で用いても良く、又は二種以上を併用しても良い。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中、(D)表面処理剤の添加量は、(C)熱伝導性フィラー100質量部に対して、0.05〜5質量部となる量であることが好ましく、0.05〜2質量部となる量であることが更に好ましい。(D)表面処理剤の添加量が過少であると、(D)表面処理剤の添加効果が見られない傾向にある。一方、(D)表面処理剤の添加量が過多であると、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度の低下やブリードが発生し、成形加工性、耐寒性、低糊残り性が劣化する傾向にある。
【0097】
[1−5]添加剤:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、必要に応じて、各種添加剤を更に含有させることができる。
【0098】
このような添加剤としては、例えば、発泡剤、滑剤、熱安定剤、HALS等の耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤等の安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、難燃剤、粘着付与剤、酸化チタン、カーボンブラック、有機顔料等の着色剤、ガラスクロス、アラミド繊維等の繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、珪藻土、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズ、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉、木粉等の充填剤又はこれらの混合物、エチレン・プロピレン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体、シリコーンゴム等のゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0099】
[2]成形品:
本発明の成形品は、上述の熱可塑性エラストマー組成物を成形することにより作製することができる。成形品の形状としては、特に制限されず、様々な形状とすることができるが、それらの中でも、例えば、電子機器等の放熱対策に用いられる熱伝導性部材とするため、厚み30〜3000μmのシート状とすること、即ち熱伝導性シートとすることが特に好ましい。
【0100】
成形品を成形する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができ、例えば、ロールプレス成形、押出成形、プレス成形、射出成形、ロール成形等を挙げることができる。
【0101】
[2−1]熱伝導性シート:
熱伝導性シートは、例えば、電子機器等の放熱対策に用いられる熱伝導性部材として用いることができ、発熱部から発生する熱を効率よく放熱部へ伝導する、即ち、熱伝導率に優れると共に、耐寒性、密着性、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性にも優れる熱伝導性部材である。
【0102】
熱伝導性シートの厚みは、30〜3000μmであることが好ましく、30〜500μmであることが更に好ましく、30〜200μmであることが特に好ましい。熱伝導性シートの厚みを上述の範囲内とすることにより、熱伝導率に優れると共に、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性にも優れた熱伝導性シートを形成することができる。
【0103】
本発明の熱伝導性シートは更に他の部材を備えていても良い。例えば、本発明の熱伝導性シートは自己粘着性を有するため、取り扱い性を向上させる等の目的で、熱伝導性シートの少なくとも1面に保護フィルムを有していても良い。即ち、本発明の熱伝導性シートの片面又は両面に保護フィルムを備えても良い。このような保護フィルムを備える熱伝導性シートは、使用の際に、保護フィルムを剥離し、熱伝導性シートの表面を露出させて使用する。また、保護フィルムは、単層であっても良く、多層であっても良い。
【0104】
保護フィルムの構成材料は特に限定されない。保護フィルムの構成材料としては、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ポリブテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、アイオノマー等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリイミド、熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、この保護フィルムの厚みは、10〜1000μmであることが好ましく、10〜500μmであることが更に好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。
【0105】
保護フィルムの剥離を容易にするために、保護フィルムと本発明の熱伝導性シートとの間に、シリコーン系又はフッ素系の剥離コート層を設けることができる。更に、保護フィルムが設けられる本発明の熱伝導性シートの表面は、凹凸を有しても良い。
【0106】
更に、本発明の熱伝導シートは支持層を有していても良い。即ち、本発明の熱伝導性シートは、支持層の両面に配設されていても良い。支持層の構成材料は特に限定されない。支持層の構成材料としては、前述の保護フィルムの構成材料の他に、ガラスクロス、金属メッシュ等挙げることができる。また、この支持層の厚みは、保護フィルムと同様であるが、熱伝導効率の観点から薄いことが好ましい。
【0107】
本発明の熱伝導性シートは、ロールプレス成形により成形され、熱可塑性エラストマー組成物を、PETフィルムの保護フィルム2枚で両面を狭持した状態で成形することが特に好ましい。このように成形することで、熱伝導性シートがロールプレス機へ粘着することによる成形加工性の低下や、熱伝導性シート同士が互着することを防止し、また、形成される熱伝導性シートの取り扱い性を向上させることができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0109】
[水添率(%)]:
四塩化炭素溶液を用いて、270MHzにおけるH−NMRスペクトル分析から算出した。なお、H−NMRスペクトル分析には、核磁気共鳴装置(日本電子社製の「JEOL EX−270」(商品名))を使用した。
【0110】
[重量平均分子量]:
重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)分析により、ポリスチレン換算で求めた値である。なお、GPC分析には、GPC装置(東ソー・ファインケム社製の「HLC−8120GPC」(商品名)、カラム:東ソー社製の「GMH−XL」(商品名))を使用した。
【0111】
[ビニル結合含量(%)]:
ビニル結合含量は、赤外分析法を用いて、ハンプトン法により算出した値である。なお、赤外分析には、赤外吸収分析装置(HORIBA社製の「FT−720」(商品名))を使用した。
【0112】
[カップリング率(%)]:
(A)水添ジエン系共重合体のゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)ピーク解析により、カップリング反応後の反応溶液中、未反応のブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分とカップリングされ、生成したブロック共重合体(a)とのピーク面積比から算出した値である。また、分子量分布が単峰性の共重合体については、カップリング前の重量平均分子量とカップリング後の重量平均分子量からカップリング率を算出した。
【0113】
[メルトフローレート(g/10分)]:
JIS K7210に準拠して、230℃、21.2Nで測定した。なお、測定する対象によって、適宜温度(℃)及び荷重(N)を変更して測定した。
【0114】
[成形加工性]:
各熱可塑性エラストマー組成物を、保護フィルムとしてPETフィルム(帝人・デュポン社製の「ピューレックスA31」(商品名)及び「ピューレックスA43」(商品名))を用いて、180℃、1m/分の送り速度でロールプレス機(ヒラノ技研工業社製、ロール直径300mm、有効面長500mm、表面粗度0.1s)を使用して成形し、厚み50μm、幅400mmのプレス成形シート(熱伝導性シート)を作製した。この際、厚み公差が平均厚みの10%以内であり、且つ、保護フィルムを剥離しても材料破壊等が起こらないシートが成形された場合を「成形加工性に優れる」と評価し、表中、「評価結果」として、「A」で示し、厚み公差が平均厚みの10%超であるシートが得られた場合、及び成形後に保護フィルムを剥離した際、材料破壊を起こす等シートを成形することができなかった場合の少なくとも一方である場合を「成形加工性に劣る」と評価し、表中、「評価結果」として、「B」で示した。また、表中、測定した厚み公差の値を、「厚み公差(μm)」の行に示した。なお、以下の各評価方法は、上述の各熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形された熱伝導性シートと同様のものを、保護フィルムを剥離した状態で用いて評価した。
【0115】
但し、実施例15、16、及び17で成形するプレス成形シート(熱伝導性シート)については、その厚みを、それぞれ30μm、200μm、3000μmであるシートに成形した。
【0116】
[熱伝導率(W/Km)]:
JIS R1611に準拠して、各熱伝導性シートの熱伝導率を測定した。測定結果(W/Km)を表中に示した。
【0117】
[耐寒性]:
各熱伝導性シートを低温槽(タバイ社製)に投入し、−40℃で500時間の耐寒試験を実施した。次いで、各熱伝導性シートを低温槽から取り出し、シート外観を目視観察した。この際、熱伝導性シートに液状成分のブリードが観察されない場合を「耐寒性に優れる」と評価し、表中「A」で示し、熱伝導性シートに液状成分のブリードが観察された場合を「耐寒性に劣る」と評価し、表中「B」で示した。
【0118】
[密着性]:
JIS Z0237に準拠した圧着ローラー(ローラー質量2000g)を使用して、10mm×100mmに裁断した各熱伝導性シートを、JIS R6001による240番で研磨仕上げをしたSUS304板に貼合せ、熱伝導性シート積層体とした。貼合面が垂直になるように熱伝導性シート積層体を傾斜させ、貼合面を目視観察した。熱伝導性シートの脱離又はズレが観察されない場合を「密着性に優れる」と評価し、表中「A」で示し、熱伝導性シートの脱離又はズレが観察された場合を「密着性に劣る」と評価し、表中「B」で示した。
【0119】
[低糊残り性]:
上記密着性の評価においてSUS304板に貼合せた熱伝導性シート積層体を、80℃に設定したギヤーオーブン(東洋精機製作所社製の「ACR60」(商品名))に500時間投入した。ギヤーオーブンから取り出した後、23℃、50%相対湿度の条件で1日静置した。その後、熱伝導性シートをSUS304板から剥離した。この際、SUS304板に糊残りが観察されなかった場合を「低糊残り性に優れる」と評価し、表中「A」で示し、SUS304板に糊残りが観察された場合を「低糊残り性に劣る」と評価し、表中「B」で示した。
【0120】
[耐ポンプアウト性]:
各熱伝導性シートを厚み5mmのガラス板で挟んでガラス積層体とした。熱伝導性シートの形状に沿ってガラス積層体の表面にマジックで輪郭を描いた。次いで、このガラス積層体を冷熱衝撃装置(エスペック社製の「TSA−41L−A」(商品名))に投入し、100℃で1時間の加熱及び−40℃で1時間の冷却を1サイクルとして、100サイクルのヒートサイクル試験を実施した。試験後の熱伝導性シートの形状を目視観察した。熱伝導性シートの形状が、ガラス積層体表面の輪郭からはみ出していなかった場合を「耐ポンプアウト性に優れる」と評価し、表中「A」で示し、熱伝導性シートの形状が、ガラス積層体表面の輪郭からはみ出していた場合を「耐ポンプアウト性に劣る」と評価し、表中「B」で示した。
【0121】
(合成例1 水添ジエン系共重合体(A−1)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を50℃としてテトラヒドロフラン130g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。50分後、テトラクロロシラン1.8gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−1)を得た。
【0122】
得られた水添ジエン系共重合体(A−1)の水添率は99%であり、重量平均分子量は330,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は50%であり、カップリング率は80%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−1)の230℃、98.1Nで測定したメルトフローレートは、0.5g/10分であった。
【0123】
(合成例2 水添ジエン系共重合体(A−2)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン1200g、及びn−ブチルリチウム2.9gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を5℃としてテトラヒドロフラン340g、及び1,3−ブタジエン1800gを添加して断熱重合を行った。30分後、テトラクロロシラン1.8gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン6.6gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−2)を得た。
【0124】
得られた水添ジエン系共重合体(A−2)の水添率は99%であり、重量平均分子量は320,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は80%であり、カップリング率は75%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−2)の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、4.5g/10分であった。
【0125】
(合成例3 水添ジエン系共重合体(A−3)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム2.6gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を45℃としてテトラヒドロフラン34g、及び1,3−ブタジエン1600g、スチレン500gを添加して断熱重合を行った。30分後、テトラクロロシラン1.8gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン6.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−3)を得た。
【0126】
得られた水添ジエン系共重合体(A−3)の水添率は99%であり、重量平均分子量は300,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリ(ブタジエン/スチレン共重合)ブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は37%であり、カップリング率は78%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−3)の230℃、98.1Nで測定したメルトフローレートは、0.3g/10分であった。
【0127】
(合成例4 水添ジエン系共重合体(A−4)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン100g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、40℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を5℃としてテトラヒドロフラン340g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。30分後、テトラクロロシラン1.8gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−4)を得た。
【0128】
得られた水添ジエン系共重合体(A−4)の水添率は99%であり、重量平均分子量は330,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は45%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は80%であり、カップリング率は75%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−4)の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、6.5g/10分であった。
【0129】
(合成例5 水添ジエン系共重合体(A−5)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を30℃としてテトラヒドロフラン26g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。30分後、テトラクロロシラン1.8gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−5)を得た。
【0130】
得られた水添ジエン系共重合体(A−5)の水添率は99%であり、重量平均分子量は320,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリ(ブタジエン/スチレン共重合)ブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は33%であり、カップリング率は79%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−5)の230℃、98.1Nで測定したメルトフローレートは、0.3g/10分であった。
【0131】
(合成例6 水添ジエン系共重合体(A−6)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を50℃としてテトラヒドロフラン130g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。50分後、テトラクロロシラン2.1gを添加し、180分反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−6)を得た。
【0132】
得られた水添ジエン系共重合体(A−6)の水添率は99%であり、重量平均分子量は360,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は50%であり、カップリング率は95%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−6)の230℃、98.1Nで測定したメルトフローレートは、0.1g/10分未満であった。
【0133】
(合成例7 水添ジエン系共重合体(A−7)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を50℃としてテトラヒドロフラン130g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。50分後、テトラクロロシラン1.3gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−7)を得た。
【0134】
得られた水添ジエン系共重合体(A−7)の水添率は99%であり、重量平均分子量は270,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は50%であり、カップリング率は65%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−7)の230℃、98.1Nで測定したメルトフローレートは、2.0g/10分であった。
【0135】
(合成例8 水添ジエン系共重合体(A−8)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム2.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を50℃としてテトラヒドロフラン130g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。50分後、メチルジクロロシラン1.9gを添加し、30分間反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン5.7gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である[(i)−(ii)]−Si構造の水添ジエン系共重合体(A−8)を得た。
【0136】
得られた水添ジエン系共重合体(A−8)の水添率は99%であり、重量平均分子量は320,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は50%であり、カップリング率は65%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−8)の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、1.0g/10分であった。
【0137】
(合成例9 水添ジエン系共重合体(A−9)の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1.2g、1,3−ブタジエン900g、及びn−ブチルリチウム3.3gを投入し、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を50℃としてテトラヒドロフラン130g、及び1,3−ブタジエン2100gを添加して断熱重合を行った。50分後、水素ガスを0.4MPaGの圧力で供給し、20分間撹拌し、重合末端のリチウムイオンと反応させ、リビングアニオン重合反応を停止させた。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である(i)−(ii)構造の水添ジエン系共重合体(A−9)を得た。
【0138】
得られた水添ジエン系共重合体(A−9)の水添率は99%であり、重量平均分子量は110,000であり、水添前のブロック共重合体の1段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(i))のビニル結合含量は15%(1末端当たり)であり、水添前のブロック共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(重合体ブロック(ii))のビニル結合含量は50%であった。また、水添ジエン系共重合体(A−9)の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、70g/10分であった。
【0139】
(実施例1)
水添ジエン系共重合体(A−1)100質量部、液状成分(B−1−1)200質量部、熱伝導性フィラー(C−1)1242質量部、表面処理剤(D−1)1.8質量部、老化防止剤0.3質量部を、予め150℃に加熱した加圧型ニーダー(容量1.5リットル、モリヤマ社製)に投入した。各成分が均一に分散するまで、40rpm(ずり速度200/秒)で20分間混練することにより、溶融状態の混練物を得た。この混練物を実施例1の熱可塑性エラストマー組成物とした。得られた実施例1の熱可塑性エラストマー組成物について、各種評価を行った。実施例1の熱可塑性エラストマー組成物の配合処方及び評価結果を表1に示す。また、熱可塑性エラストマー組成物の配合処方中の、各配合成分の合計に対する(C)熱伝導性フィラーの配合割合(体積%)(表1中、「(C)熱伝導性フィラー配合割合(体積%)」と記載する)を、併せて表1に示した。
【0140】
(実施例2〜17、及び比較例1〜11)
表1及び表2に示す配合処方としたこと以外は、実施例1と同様にして、各実施例2〜17、及び比較例1〜11の熱可塑性エラストマー組成物と得た。得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、各種評価を行った。これらの評価結果をそれぞれ表1又は2に示す。
【0141】
(比較例12)
液状成分(B−1−1)100質量部、熱伝導性フィラー(C−1)379質量部、表面処理剤(D−1)0.6質量部、老化防止剤0.1質量部を、予め100℃に加熱したプラネタリーミキサーに投入し、40rpmで20分間撹拌することにより、熱伝導性グリースを得た。得られた熱伝導性グリースを2枚の厚み5mmのガラス板に挟み、熱伝導性グリースの厚みが50μmになるまで圧縮したものをガラス積層体として、耐ポンプアウト性の評価に供した。熱伝導性グリースの配合処方及び評価結果を表2に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
なお、表1及び表2中の配合処方に記載した水添ジエン系共重合体(A−10)及びオレフィン系重合体(A−11)、(B)液状成分、(C)熱伝導性フィラー、(D)表面処理剤、並びに老化防止剤としては以下に示すものを用いた。
【0145】
水添ジエン系共重合体(A−10):ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン(クラレ社製の「SEPTON4077」(商品名)、メルトフローレート(230℃、98.1N)0.1g/10分未満、スチレン含量:33質量%)
オレフィン系重合体(A−11):エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製の「エバフレックスEV150」(商品名)、メルトフローレート(190℃、21.2N)30g/10分、酢酸ビニル含有量33質量%、軟化温度32℃)
【0146】
液状成分(B−1−1):鉱物油系軟化剤(出光興産社製の「PW−380」(商品名)、40℃における動粘度:381.6mm/秒)
液状成分(B−1−2):合成鉱物油系軟化剤(出光興産社製の「リニアレンダイマーA−2020H」(商品名)、40℃における動粘度:5.0mm/秒)
液状成分(B−2−1):液状ポリブテン(新日本石油社製の「日石ポリブテンHV−1900」(商品名)、40℃における動粘度:160,000mm/秒)
液状成分(B−2−2):末端水酸基変性液状イソプレン(出光興産社製の「エポール」(商品名)、30℃における粘度:75Pa・秒)
【0147】
熱伝導性フィラー(C−1):水酸化アルミニウム(新日本軽金属社製の「BF083」(商品名)、平均粒子径:10μm)
熱伝導性フィラー(C−2):酸化アルミニウム(アドマテックス社製の「アドマファインAO509」(商品名)、平均粒子径:10μm)
熱伝導性フィラー(C−3):窒化ホウ素(デンカ社製の「デンカボロンナイトライドJP75」(商品名)、平均粒子径:25μm)
熱伝導性フィラー(C−4):炭素繊維(帝人社製の「ラヒーマA301」(商品名)、平均繊維径:8μm、平均繊維長:200μm)
【0148】
表面処理剤(D−1):ステアリン酸(花王社製の「ルナックS−50V」(商品名))
老化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・ジャパン社製の「Irganox1010」(商品名))
【0149】
表1及び表2に示す結果から、実施例1〜17の熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1〜12の熱可塑性エラストマー組成物に比して、成形加工性、熱伝導性、耐寒性、密着性、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性に優れていることが明らかである。
【0150】
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は(B)液状成分を含んでいないため、比較例1の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは密着性に劣るものであった。比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、(B)液状成分の配合比が、(A)水添ジエン系共重合体100質量部に対して1150質量部と過多であるため、成形後に保護フィルムを剥離する際、材料破壊が起こり、比較例2の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは成形加工性に劣るものであった。また、比較例3の熱可塑性エラストマー組成物は熱伝導性フィラーを含んでいないため、比較例3の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは熱伝導性に劣るものであった。
【0151】
比較例4の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−4)は、重合体ブロック(i)のビニル結合含量が40%と高いため、水添ジエン系共重合体(A−4)の機械的強度が低く、比較例4の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは低糊残り性及び耐ポンプアウト性に劣るものであった。
【0152】
比較例5の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−5)は、重合体ブロック(ii)のビニル結合含量が33%と低く、比較例5の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートではブリードが発生し、耐寒性に劣るものであった。
【0153】
比較例6の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−6)は、カップリング率が95%と高く、熱伝導性シートの厚み公差が平均厚みの10%超であったため、比較例6の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは成形加工性に劣るものであった。
【0154】
比較例7の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−7)は、カップリング率が65%と低く、ブロック共重合体(a)の生成量が不十分であるため、比較例7の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは機械的強度が低く、低糊残り性に劣るものであった。
【0155】
比較例8の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−8)は、カップリングされた共重合体が2つであり、カップリング率が65%と低く、ブロック共重合体(a)の生成量が不十分であるため、比較例8の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは機械的強度が低く、低糊残り性に劣るものであった。
【0156】
比較例9の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−9)は、カップリングされておらず、低分子量のブロック共重合体(a)の重合体ブロック部分であるため、比較例9の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは低糊残り性及び耐ポンプアウト性に劣るものであった。
【0157】
比較例10の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添ジエン系共重合体(A−10)は、従来公知のポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体であり、本発明の範囲外であるため、比較例10の熱可塑性エラストマー組成物からなる熱伝導性シートは、低糊残り性に劣るものであった。
【0158】
比較例11の熱可塑性エラストマー組成物は、室温では固体、ヒートサイクル試験の高温では溶融する従来公知のフェイズチェンジシートであるが、水添ジエン系共重合体が本発明の範囲外であるため、耐寒性、低糊残り性、及び耐ポンプアウト性に劣るものであった。
【0159】
比較例12は(A)水添ジエン系共重合体を含有していないグリース状組成物のため、耐ポンプアウト性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、電子機器等の放熱対策に用いられる熱伝導性部材を形成するための材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第一の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(i)、第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する重合体ブロック(ii)、及びカップリング剤残基を有し、下記一般式(a)で表されるブロック共重合体が水素添加されてなる水添ジエン系共重合体と、
(B)軟化剤、可塑剤、及び液状重合体からなる群より選択される少なくとも一種の液状成分と、
(C)熱伝導性フィラーと、を含有し、
前記(B)液状成分の含有比が、前記(A)水添ジエン系重合体100質量部に対して、5〜1000質量部であり、
前記重合体ブロック(i)は、ビニル結合含量が25%未満である重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(ii)は、ビニル結合含量が35%以上である重合体ブロックであると共に、
前記ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(i)及び前記重合体ブロック(ii)の合計に対して、前記重合体ブロック(i)の含有割合が5〜90質量%であり、且つ、前記重合体ブロック(ii)の含有割合が10〜95質量%であり、カップリング率が70〜90%である熱可塑性エラストマー組成物。
[(i)−(ii)]−X (a)
(一般式(A)において、(i)は重合体ブロック(i)を示し、(ii)は重合体ブロック(ii)を示し、Xは、カップリング剤残基を示し、nは、3又は4を示す。)
【請求項2】
前記水添ジエン系共重合体(A)が、前記共役ジエン化合物に由来する二重結合の水素転化率が80%以上である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記水添ジエン系共重合体(A)の重量平均分子量が50,000〜700,000である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記重合体ブロック(i)中、1,3−ブタジエンに由来する構成単位の含有割合が、前記重合体ブロック(i)の全構成単位の合計の90質量%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記重合体ブロック(ii)中、前記第二の共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有割合が、前記重合体ブロック(ii)の全構成単位の合計の50質量%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記重合体ブロック(ii)が、ビニル芳香族化合物に由来する構成単位を更に含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記(B)液状成分の含有比が、前記(A)水添ジエン系共重合体100質量部に対して、20〜500質量部である請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記(B)液状成分が、前記軟化剤と前記液状重合体を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記液状重合体が、液状ポリブテンである請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
(D)表面処理剤を更に含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
前記(D)表面処理剤の含有比が、前記(C)熱伝導性フィラー100質量部に対して、0.05〜5質量部である請求項10に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項12】
前記(D)表面処理剤が、飽和脂肪酸である請求項10又は11に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品。
【請求項14】
厚みが30〜3000μmの熱伝導性シートである請求項13に記載の成形品。

【公開番号】特開2011−236366(P2011−236366A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110375(P2010−110375)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】