説明

熱可塑性スターチ及び合成ポリマーのブレンド並びに製造方法

本発明は、合成ポリマー中に不連続な熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む組成物を開示し、その組成物は、熱可塑性スターチドメインの平均直径が約0.2〜約1.5μmであることに特徴がある。また、合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含み、最終製品の持つ重要な機械的特性が、純粋な合成ポリマーと比べて本質的に維持されるか、ある場合には改善されることを特徴とする組成物も開示される。さらの別の態様では、本発明は、本発明の材料の製造方法を提供する。関連する態様では、本発明は、その材料の製造方法から生じる新規材料を提供する。他の態様では、本発明は、フィルム又は成型品の形状の新規な最終製品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性スターチ及び合成ポリマーのブレンドの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥した粒状のスターチと異なり、熱可塑性スターチ(TPS)は流動可能であって、そのためポリマーブレンド手順をそのような材料に応用できる。スターチは極性の、従って親水性の材料である。
【0003】
スターチは安価、再生可能、かつ生分解性の資源であるため、合成ポリマー及びTPSのブレンドは、環境的かつ経済的に実施可能なプラスチックへの道筋を示す。
【0004】
しかしながら、合成ポリマーはTPSの投入(loading)に敏感であることが知られており、合成ポリマーの機械的特性はTPSが存在すると即座に損なわれる。従って、TPSを投入しても、純粋な(未処理の)合成ポリマーと比較したときに、最終生成物の機械的特性を維持する又はさらには改善する、新しい材料及び関連する方法を提供することが重要である。
【0005】
本明細書で使用する用語「スターチ」とは、例えば、小麦スターチ、コーンスターチ、ジャガイモスターチ及びライススターチなどのスターチを含む、加工、化学修飾又は処理されていようとなかろうと、天然由来の任意のスターチを指す。スターチは、キャッサバ、タピオカ及びエンドウ豆のような植物源に由来してもよい。多糖類はアミロース及びアミロペクチンのブレンドから本質的になる。
【0006】
スターチには、化学処理したスターチ及び架橋したスターチなどの修飾スターチ、及び置換度が0〜3の範囲の、ヒドロキシル基を有機酸で置換してエステルとしたスターチ、あるいは有機アルコールで置換してエーテルとしたスターチが含まれる。
【0007】
また、スターチには、タンパク質、例えば大豆タンパク質を用いて拡張した(extended)もののような、拡張スターチ(extended starches)も含まれる。
【0008】
本明細書で使用する表現「合成ポリマー」とは、以下に列記する材料及びそれらの混合物を指し、実質的に非極性、従って非水溶性又は疎水性で、熱可塑性又は熱硬化性の任意の合成材料を含む。実質的に非水溶性の熱可塑性ホモポリマー樹脂の例は、ポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイソブチレン;ビニルポリマー、例えばポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(酢酸ビニル)(PVA)、ポリ(ビニルカルバゾール);ポリスチレン;実質的に非水溶性のポリアクリレート又はポリメタクリレート、例えばポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル;ポリアセタール(POM);ポリアミド、例えばナイロン6、ナイロン−6,6、脂肪族及び芳香族ポリアミド;ポリエステル、例えばポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT);ポリアリールエーテル;ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、及び高分子量の実質的に非水溶性又は結晶性のポリ(アルキレンオキシド)、例えばポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)である。
【0009】
さらに含まれるのは、短期間で生分解可能であると考えられるポリエステル及びポリラクチドである。これらの非水溶性材料の例は、ポリラクトン、例えばポリ(ε−カプロラクトン)及びε−カプロラクトンとイソシアネートの共重合体;細菌性ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、例えばポリ(ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート);並びにポリラクチド、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸及び両方の繰り返し単位を含む共重合体である。
【0010】
さらに含まれるのは、実質的に非水溶性の熱可塑性α−オレフィン共重合体である。そのような共重合体の例は、アルキレン/ビニルエステル共重合体、例えばエチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVAL);アルキレン/アクリレート又はメタクリレートの共重合体、好ましくはエチレン/アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン/エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン/メチルアクリレート共重合体(EMA)である。
【0011】
さらに含まれるのは、ランダム、ブロック、グラフト又はコア−シェル構造を備えたスチレン共重合体である。そのようなスチレン共重合体の例は、α−オレフィン/スチレン共重合体、好ましくは水素化及び非水素化スチレン/エチレン−ブチレン/スチレン共重合体(SEBS)、スチレン/エチレン−ブタジエン共重合体(SEB);スチレンアクリロニトリル共重合体(SAN)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)である。
【0012】
他の共重合体、例えばアクリル酸エステル/アクリロニトリル共重合体、アクリルアミド/アクリロニトリル共重合体、アミド−エステルのブロック共重合体、ウレタン−エーテルのブロック共重合体、ウレタン−エステルのブロック共重合体もさらに含まれる。
【0013】
熱硬化性樹脂、例えばエポキシ、ポリウレタン及びポリエステルもさらに含まれる。
【0014】
TPS及びポリオレフィン材料の非混和性ブレンドを調製することが知られている。一方の材料が疎水性であって他方が親水性であるため、これらの材料は区別されるドメイン又は「島」を形成する傾向がある。これらのドメインはポリオレフィンの機械的特性を備えていないため、大きい島はほとんどの用途で望ましくない。
【0015】
米国特許第6605657号(特許’657)は、TPSとポリエチレンのようなポリオレフィンとのブレンドを作ることを教示している。特許’657の開示は参照することにより本明細書に援用する。特許’657に従って得られた材料は、典型的にはTPSを50〜60質量%含有しながらも、良好な機械的特性を維持している。
【0016】
特許’657は、十分な機械的特性を維持しながら、高度に連続したTPS相を有する材料、さらにはTPS及びポリオレフィンが完全に共連続(co-continuous)のブレンドを得るための、1段階押出加工を教示している。大まかに言うと、所定比率のスターチ、水及びグリセロールのような可塑剤を用いてスターチの懸濁物を調製する。押出システムは、ツインスクリュー押出機に連結したシングルスクリュー押出機から構成されている。ツインスクリュー押出機は2つの部分に分けられる。第1部分は、スターチ懸濁物をゼラチン化及び可塑化するために使用する。第2部分は、水蒸気を含む揮発物を放出し、溶融した合成ポリマーが供給されたシングルスクリュー押出機からの投入物を受け入れるために使用する。得られるブレンドは、TPS及び合成ポリマーを含有し、本質的に水を含まず、従来の装置を用いてさらに処理することができる。米国特許第6605657号の開示部分における詳細な製造方法を参照することにより本明細書に援用する。
【0017】
米国特許第6605657号に従って製造した材料は、本発明に従って後ほど使用するために、ペレット形状に簡便に粒状化及び冷却してもよい。しかしながら、特許’657に従って製造した材料は、直接処理するために溶融状態のままで、本発明に従って使用してもよい。
【0018】
TPSは、環境的により実施可能かつより安価なポリマーブレンドを提供するのに単に有用であるとこれまでは考えられていた。しかしながら、本発明の方法で処理されたTPS含有材料が、物理化学的修飾によって実際に新しい材料となりうること、そして新しい材料として、TPS非含有材料と比べて、重要な機械的特性を本質的に維持しうる、さらには改善しうることは、これまで予期可能ではなく予期されてもいなかった。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0019】
米国特許第6605657号の教示に従って作られた材料を、さらなる量の合成ポリマーを用いた溶融処理によって希釈して、フィルム製品の製造及び射出成型のような用途に優れた特性を有する材料を提供できることが見出された。
【0020】
また、米国特許’657の教示に従って作られた材料を、(さらなる量の合成ポリマーを用いた希釈を必要とせずに)溶融処理によって再処理して、フィルム製品の製造及び射出成型のような用途に優れた特性を有する材料を提供できることも見出された。
【0021】
驚くべきことに、合成ポリマー中での希釈があろうとなかろうと、再処理は材料に物理化学的変化を及ぼし、存在する細長いTPSドメインを複数のかなり小さいTPSドメインへと断片化するといった注目すべき効果を有している。このことから、本発明の組成物の最終特性における驚くべき効果が説明されうる。
【0022】
ある態様では、本発明はTPS含有合成ポリマーブレンドを提供し、TPSドメインは他のTPSドメインに対して不連続のTPSドメインを示す。
【0023】
本明細書で使用する用語「不連続」とは、スターチドメインの50%未満が抽出可能である特徴を指す。抽出可能なTPSの百分率は、1mm長(機械方向)×7.5mm幅(横断方向)の試験サンプルを、60℃のHCl溶液中で96〜150時間加水分解したときのTPSの質量損失に基づく。質量測定前に、抽出したサンプルを蒸留水でよく洗浄し、真空オーブン中、60℃で48時間乾燥する。
【0024】
「不連続」のTPSドメインは、特許’657で定義された「共連続(co-continuous)」又は「高度に連続」したTPSドメインと対照的である。
【0025】
実際のところ、特許’657は、「連続」を、相互連結したドメインの網目構造から本質的に構成されるTPS相又はポリマー相のいずれかを指すものとして定義した。「共連続(co-continuous)」という用語は、TPS及びポリマー相の両方が連続である組成物として定義された。最後に、「高度に連続したTPS相」という表現は、TPS相がポリマー相に分散しておりTPSドメインがほとんど全て相互連結している組成物として定義された。「高度に連続」は、上記定義したのと同じ試験手順を用いて、分散したTPSの50%以上が抽出可能である場合としてさらに定義された。
【0026】
本発明では、不連続のTPSドメインは、直径が約0.2〜1.5μmと小さい平均ドメインサイズを有することが好ましいと分かった。
【0027】
合成ポリマーを用いた希釈があろうとなかろうと、特許’657に記載の材料をさらに溶融再処理することによって、新しく有用な材料が作り出されることが見出された。これらの新規材料では、複数の不連続のTPSドメインが作り出されることが、製品の最終特性の維持又は改善に有益であることが示された。
【0028】
不連続のTPSドメインは、約0.2〜1.5μm程度の小さいTPSドメインであることが好ましい。このことにより、純粋な合成ポリマー又はそのブレンドと比較して、フィルム及び成型品の機械的特性が本質的に維持され、多くの場合実際には改善する。改善する特性の例は、以下参照する標準手順に従って測定した、引裂強度、フィルムについてはダート衝撃強度、並びに成型品についてはノッチありなしの衝突強度である。
【0029】
本明細書で使用する表現「本質的に維持する」とは、純粋な(未処理の)合成ポリマーと比較したときに、最終製品のいくつかの重要特性の少なくとも40%、好ましくは60%以上、最も好ましくは80%以上が維持されていることを示す状況を指す。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の材料の製造方法を提供する。
【0031】
関連する態様では、本発明は、その材料の製造方法から生じる新規材料を提供する。
【0032】
他の態様では、本発明は、フィルム又は成型品の形状の新規な最終製品組成物を提供する。
【0033】
従ってある態様では、本発明は、合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む組成物を提供し、その組成物は、熱可塑性スターチドメインの平均直径が約0.2〜約1.5μmであることに特徴がある。
【0034】
他の態様では、本発明は、合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む、フィルム製品の形状の組成物を提供し、その製品は、ダート試験限界及び/又は引裂強度限界が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比べて、本質的に維持される又は改善される(40%以上、好ましくは60%以上、最も好ましくは80%以上に維持される)ことに特徴がある。
【0035】
他の態様では、本発明は、合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む、成型品の形状の組成物を提供し、その成型品は、衝撃強度試験の性能が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比べて、本質的に維持される又は改善される(40%以上、好ましくは60%以上、最も好ましくは80%以上に維持される)ことに特徴がある。
【0036】
上述の組成物が、組成物の全質量に対して、熱可塑性スターチを0.1質量%〜約40質量%含有し、好ましくは10質量%〜30質量%、最も好ましくは15質量%〜25質量%含有することが好ましい。
【0037】
熱可塑性スターチ及び合成ポリマーのブレンドを製造する本発明の方法は、
(a)スターチと、水と、可塑剤、好ましくはグリセロールとを含むスターチ懸濁物を用意する工程と;
(b)第1押出ユニット内で熱及び圧力を前記スターチ懸濁物に加えることによって、前記スターチ懸濁物のゼラチン化及び可塑化を引き起こして、前記スターチ懸濁物から熱可塑性スターチを得る工程と;
(c)前記熱可塑性スターチから残留水を蒸発及び放出して、実質的に無水の熱可塑性スターチを得る工程と;
(d)第2押出ユニット内で合成ポリマー又は合成ポリマーブレンドの溶融物を得る工程と;
(e)工程(d)で得られた溶融物を、前記実質的に無水の熱可塑性スターチと合わせる工程と;
(f)工程(e)で得られた溶融状態の材料を、合成ポリマー又は合成ポリマーブレンドで希釈する工程と;
(g)工程(f)の材料を回収する工程と
を一般的に含む。
【0038】
この方法は、工程(e)及び(f)の間に、工程(e)の材料を冷却及び粒状化する工程をさらに含んでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)を含む様々な合成ポリマーを用いて、米国特許第6605657号に開示された方法に従ってペレットを調製した。これらのペレットは、追加の合成ポリマーと一緒に溶融、希釈及びブレンドされた。
【0040】
非混和性TPS/ポリマー組成物を指す場合に本明細書で使用する用語「連続」とは、TPS相又はポリマー相のいずれかが、相互連結したドメインの網目構造から本質的に構成されることを指す。「共連続」という用語は、TPS及びポリマー相の両方が連続である組成物を指す。「高度に連続したTPS相」という表現は、TPSドメインがほとんど全て相互連結している、TPS相がポリマー相に分散している組成物を指す。「高度に連続」は、分散したTPSの50%以上が抽出可能である場合として定義可能である。抽出可能なTPSの百分率は、1mm長(機械方向)×7.5mm幅(横断方向)の試験サンプルを、60℃のHCl溶液中で96〜150時間加水分解したときのTPSの質量損失に基づく。質量測定前に、抽出したサンプルを蒸留水でよく洗浄し、真空オーブン中、60℃で48時間乾燥した。TPS相の連続性という概念は、材料の生分解性を測定する場合に特に重要である。TPS相が連続又は高度に連続でない場合、TPSドメインは非生分解性ポリマーで封じ込められて、TPSドメインは実質的に生分解をより受けにくくなる。
【0041】
本明細書で使用する用語「可塑剤」は、TPSを製造するのに適した任意の可塑剤を指す。可塑剤として、例えば、アジピン酸誘導体、例えばアジピン酸トリデシル;安息香酸誘導体、例えば安息香酸イソデシル;クエン酸誘導体、例えばクエン酸トリブチル;グリセロール自体及び誘導体;リン酸誘導体、例えばリン酸トリブチル;ポリエステル;セバシン酸誘導体、例えばセバシン酸ジメチル;尿素が挙げられる。
【0042】
可塑剤は、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレンジグリコール、プロピレンジグリコール、エチレントリグリコール、プロピレントリグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,3,5−ヘキサントリオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール並びにこれらの酢酸ソルビトール誘導体、エトキシレート誘導体及びプロポキシレート誘導体からなる群から有利に選択することができる。
【0043】
さらに、可塑剤は、ソルビトールエトキシレート、グリセロールエトキシレート、ペンタエリスリトールエトキシレート、酢酸ソルビトール、及び酢酸ペンタエリスリトールからなる群から選択することもできる。
【0044】
このようにして得られた材料を、次に、Jeol JSM 840 走査型電子顕微鏡(SEM)で10〜15kVにて調べた。全てのサンプルの平滑面は、ガラスナイフを備えたミクロトーム(Leica−Jung RM2165)を用いてSEM用に用意した。TPS相の抽出は、6N HClを用いて行い、金−パラジウム合金のコーティングを適用した。
【0045】
比較として未希釈のペレットを同様に処理した。
【0046】
図1A〜1Dを参照すると、70LDPE/30TPS及び50LDPE/50TPSの高度に連続した形態の機械方向を見たところであり、比率は質量で表される。
【0047】
図2A、A’、B、B’、C、C’を参照すると、米国特許第6605657号に従って調製したペレットの横断面が、今度は横断方向について示されている。より詳細には、ペレットを以下のPE/TPS比率で調製した:A及びA’ 70%LDPE/30%TPS;B及びB’ 50%LDPE/50%TPS;C及びC’ 40%LDPE/60%TPS。
【0048】
I)フィルム製品
本発明の方法に従って、上述のように得られたペレットのサンプルを160℃で溶融し、溶融したPEを用いて様々な比率で希釈し、従来の装置を用いてブローンフィルムとして加工した。
【0049】
図3A〜3Cは、様々な比率で希釈した製品を示す。図3Dは未希釈の製品を示す。
【0050】
上述の図を参照すると、フィルムとして一度加工された未希釈又は希釈した混合物は、非常に小さいTPSドメイン及び優れた機械的特性を示しかつ保持することが分かった。図4、5及び6は、様々な比率でTPSを用いたLDPE及びLLDPEのブレンドのSEM写真を示す。これは、様々なポリオレフィンである異種の合成ポリマーを用いても同等の結果が得られることを示す。
【0051】
TPSドメインの平均サイズを測定すると、図8〜11に示すように約0.5μmであることが示された。
【0052】
以下の表1〜5は、驚くべきことに、(合成ポリマーを用いたさらなる希釈があろうとなかろうと)米国特許第6605657号から得られたペレットの再処理により、純粋な(未処理の)LDPEと比べてダート衝撃及び/又は引裂強度及び/又は破断伸びが顕著に改善されること、及び他の特性が純粋なLDPE又はLLDPEと同等又はさらに優れた値に維持されることに特徴のある、フィルム製品が提供されることを示す。
【0053】
全ての試験はASTM規格に従って行った。より詳細には、フィルムに関する、落錘(Dart Drop):ASTM D4272及びエルメンドルフ引裂試験:ASTM D1922である。
【0054】
表に使用した記号の一覧表
σmax 最大引張強度
E ヤング率
ε 破断伸び
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
図8は、本発明に従って作られたフィルム材料について、どのようにTPSドメインサイズ分布が計算されるかを示す。
【0061】
図9〜11は、本発明に従って作られたフィルム材料のドメインサイズ分布を示す。
【0062】
II)成型品(HDPE/TPSブレンド)
全ての試験はASTM又はISO規格に従って行った。より詳細には、射出成型品に関する、ノッチなしアイゾット衝撃強度:ASTM D4812及びノッチありアイゾット衝撃強度:D256Aである。
【0063】
質量比が70HDPE/30TPSである上述のブレンドも、従来の射出成型装置における性能について試験した。高密度ポリエチレン(HDPE)は、衝撃強度、弾性率及び冷却時の低収縮係数において高性能であることで知られている。当然ながらこれらは射出成型品に望ましい特性である。以下の表6に得られた結果を示す。
【0064】
【表6】

【0065】
驚くべきことに、本発明に従って調製した射出成型品は、他の重要な特性を維持しながらより高い衝撃強度を有していることが分かった。また、米国特許第6605657号に従って作られた最初のペレット中のグリセロール含量を減らすことにより、ヤング率を容易に増加できることも分かった。
【0066】
図7A及び7Bは、85HDPE/15TPSに希釈した70HDPE/30TPS(TPS中のグリセロールは36%)の横断面(破断したドッグボーン)を示す。7Aは流れ方向であり、7Bは流れ方向を横断する方向である。
【0067】
表7は、純粋な(未処理の)HDPE(M.I.=8)と比較した、本発明に従って作られた様々な材料の、ノッチなしのアイゾット衝撃強度の結果を示す。
【0068】
【表7】

【0069】
表8は、純粋な(未処理の)HDPE(M.I.=8)と比較した、本発明に従って作られた様々な材料の、ノッチありのアイゾット衝撃強度の結果を示す。
【0070】
【表8】

【0071】
上記結果は、比較的大量のTPSを投入した場合であっても、最終材料がノッチありなしのアイゾット衝撃強度を本質的に維持していたことを実証する。未処理の合成ポリマーは、TPSの投入に非常に敏感であることが一般に知られており、そのような特性がかなり低下することが予想されたため、この結果は非常に驚くべきことである。実際に、そのような非常に類似しない分子組成を有するポリマーのブレンドは、分散された相の投入に非常に敏感であることが知られており、衝撃強度のような特性がかなり低下することが予想された。例えば、ポリ(ブチレンテレフタレート)30%をポリプロピレン70%とブレンドした場合、純粋なポリプロピレンの衝撃強度が24ジュール、ポリ(ブチレンテレフタレート)については20ジュールであるのと比べて、ブレンドの衝撃強度は2ジュールである。これは、界面改質剤を用いない、非常に類似しないブレンドシステムの典型例であり、純粋なポリプロピレンと比較して特性がわずかに8%保持されていることを示す(7)。
【0072】
III)先行技術と比較した形態
以下の表9は、6つの先行技術の引用例(行1〜6に示し、表9の下に内容を示した)及び本発明に従って作られた材料(行7に示す)についての、TPSドメインサイズ分布の平均を比較して示す。本発明に従って作られた材料の平均サイズ分布は、先行技術で特徴が明らかにされ報告された材料よりもかなり小さいことがはっきりと分かる。
【0073】
また、TPSを製造する際に使用するグリセロール又は他の可塑剤の量を変更することにより、TPSドメインのサイズを随意に調節できることも分かった。グリセロール量を増やす方向に変化させると、TPSドメインはより小さくなって観察された。グリセロール量を減らすとTPSドメインがより大きく成長した。従って、選択した用途がフィルム製品、成型品又は他のプラスチック製品であるかに応じて、TPSドメインのサイズを少なくとも0.2〜4μm、好ましくは0.5〜1.5μmの範囲内に調節して最終製品の機械的特性を調節してもよい。
【0074】
【表9】

【0075】
本発明をその好ましい実施態様によって本明細書で上述したが、本発明は、特許請求の範囲に定義した発明主題の精神及び性質から逸脱することなく変更できる。
【0076】
引用文献
1. D. Bikiaris, J. Prinos, K. Koutsopoulos, N. Vouroutzis, E. Pavlidou, N. Frangi, C. Panayiotou, "LDPE/plasticized starch blends containing PE-g-MA copolymer as compatibilizer" Polymer Degradation and Stability 59: 287-291 (1998)
2. D. Bikiaris, C. Panayiotou "LDPE/Starch Blends Compatibilized with PE-g-MA Copolymers", Journal of Applied Polymer Science 70: 1503-1521 (1998)
3. Shujun Wang, Jiugao Yu, Jinglin Yu, "Compatible thermoplastic starch/polyethylene blends by one-step reactive extrusion" Polym Int 54: 279-285 (2005)
4. St-Pierre N., Favis B.D., Ramsay B.A., Ramsay J.A., Verhoogt H., "Processing and characterization of thermoplastic starch/polyethylene blends" Polymer 38(3): 647-655 (1997)
5. F.J. Rodriguez-Gonzalez, B.A. Ramsay, B.D. Favis, "High performance LDPE/thermoplastic starch blends: a sustainable alternative to pure polyethylene" Polymer 44: 1517-1526 (2003)
6. F.J. Rodriguez-Gonzalez, N. Virgilio, B.A. Ramsay, B.D. Favis, "Influence of Melt Drawing on the Morphology of One and Two-Step Processed LDPE/Thermoplastic Starch Blends" Advances in Polymer Technology 22(4): 297-305 (2003)
7. J.S. Yi, G.-H. Hu, M. Lambla, H.K. Kotlar, "In situ compatibilization of polypropylene and poly(butylene terephthalate) polymer blends by one-step reactive extrusion" Polymer 37: 4119-4127 (1996)
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1A】米国特許第6605657号に従って作った出発材料のブレンドを冷却及び固化したときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、機械方向を見たところを示す。
【図1B】米国特許第6605657号に従って作った出発材料のブレンドを冷却及び固化したときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、機械方向を見たところを示す。
【図1C】米国特許第6605657号に従って作った出発材料のブレンドを冷却及び固化したときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、機械方向を見たところを示す。
【図1D】米国特許第6605657号に従って作った出発材料のブレンドを冷却及び固化したときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、機械方向を見たところを示す。
【図2】図2A、図2A’、図2B、図2B’は、横断方向で示す、図1A〜1Dの材料のSEM写真であり、図2C、図2C’は、横断方向で示す、40%LDPE/60%TPSの材料のSEM写真である。
【図3A】TPSを様々に希釈して本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は97%LDPE/3%TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図3B】TPSを様々に希釈して本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は94%LDPE/6%TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図3C】TPSを様々に希釈して本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は88%LDPE/12%TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図3D】TPSを様々に希釈して本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は70%LDPE/30%TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図4A】希釈していない70%LDPE/30%TPS、及び50%LDPE/50%TPSから希釈した70%LDPE/30%TPSについて、本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は様々なLDPE/TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図4B】希釈していない70%LDPE/30%TPS、及び50%LDPE/50%TPSから希釈した70%LDPE/30%TPSについて、本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は様々なLDPE/TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図4C】希釈していない70%LDPE/30%TPS、及び50%LDPE/50%TPSから希釈した70%LDPE/30%TPSについて、本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は様々なLDPE/TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図4D】希釈していない70%LDPE/30%TPS、及び50%LDPE/50%TPSから希釈した70%LDPE/30%TPSについて、本発明に従って作った材料のSEM写真であり、SEM写真は様々なLDPE/TPSフィルムサンプルの横断方向の形態を示す。
【図5A】図4A〜4Dと同じ材料を機械方向で示す。
【図5B】図4A〜4Dと同じ材料を機械方向で示す。
【図5C】図4A〜4Dと同じ材料を機械方向で示す。
【図5D】図4A〜4Dと同じ材料を機械方向で示す。
【図6A】50/50LLDPE/TPSからsuperhex LLDPEで希釈した90/10LLDPE/TPSのフィルムの形態を示す。
【図6B】50/50LLDPE/TPSからsuperhex LLDPEで希釈した90/10LLDPE/TPSのフィルムの形態を示す。
【図6C】50/50LLDPE/TPSからsuperhex LLDPEで希釈した90/10LLDPE/TPSのフィルムの形態を示す。
【図6D】50/50LLDPE/TPSからsuperhex LLDPEで希釈した90/10LLDPE/TPSのフィルムの形態を示す。
【図7A】85/15HDPE/TPSに希釈した、70/30HDPE/TPS(36%グリセロール)のブレンド(破砕した射出成型ドッグボーン)を流れ方向で示す。
【図7B】85/15HDPE/TPSに希釈した、70/30HDPE/TPS(36%グリセロール)のブレンド(破砕した射出成型ドッグボーン)を、流れ方向に横断する方向で示す。
【図8】本発明に従って調製した材料についてドメインサイズ分布の計算及び結果を示す。
【図9】本発明に従って調製した材料についてドメインサイズ分布の計算及び結果を示す。
【図10】本発明に従って調製した材料についてドメインサイズ分布の計算及び結果を示す。
【図11】本発明に従って調製した材料についてドメインサイズ分布の計算及び結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含み、熱可塑性スターチドメインの平均直径が約0.2〜約1.5μmであることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む、フィルム製品の形状の組成物であって、ダート試験限界及び/又は引裂強度限界が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比べて、本質的に維持される又は改善されることに特徴がある、フィルム製品の形状の組成物。
【請求項3】
合成ポリマー中に不連続の熱可塑性スターチドメインのブレンドを含む、成型品の形状の組成物であって、ノッチあり及びノッチなしのアイゾット衝撃強度試験の性能が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比べて、本質的に維持される又は改善されることに特徴がある、成型品の形状の組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性スターチが、前記組成物の合計質量に対して、0.1質量%〜約40質量%、好ましくは10質量%〜30質量%、最も好ましくは15質量%〜25質量%の比率で存在する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
ダート試験限界及び/又は引裂強度限界が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比較して、40%以上の水準、好ましくは60%以上の水準、最も好ましくは80%以上の水準に維持されている、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
ノッチあり及びノッチなしのアイゾット衝撃強度試験の限界が、同じ方法で処理及び試験したブレンドしていない純粋な合成ポリマーと比較して、40%以上の水準、好ましくは60%以上の水準、最も好ましくは80%以上の水準に維持されている、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1、2及び5のいずれか1つに記載の組成物から本質的になる、フィルム材料。
【請求項8】
請求項1、3及び6のいずれか1つに記載の組成物から本質的になる、成型品。
【請求項9】
(a)スターチと、水と、可塑剤、好ましくはグリセロールとを含むスターチ懸濁物を用意する工程と;
(b)第1押出ユニット内で熱及び圧力を前記スターチ懸濁物に加えることによって、前記スターチ懸濁物のゼラチン化及び可塑化を引き起こして、前記スターチ懸濁物から熱可塑性スターチを得る工程と;
(c)前記熱可塑性スターチから残留水を蒸発及び放出して、実質的に無水の熱可塑性スターチを得る工程と;
(d)第2押出ユニット内で合成ポリマー又は合成ポリマーブレンドの溶融物を得る工程と;
(e)工程(d)で得られた前記溶融物を、前記実質的に無水の熱可塑性スターチと合わせる工程と;
(f)工程(e)で得られた溶融状態の材料を、合成ポリマー又は合成ポリマーブレンドで希釈する工程と;
(g)工程(f)の材料を回収する工程と
を含む、熱可塑性スターチ及び合成ポリマーのブレンドの製造方法。
【請求項10】
工程(e)及び(f)の間に、工程(e)の材料を冷却及び粒状化する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(f)の材料が、前記材料の合計質量に対してTPSを0.1質量%〜40質量%有する、請求項9又は10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程(g)で得られた材料をフィルムとして加工する工程をさらに含む、請求項9〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
工程(g)で得られた材料を成型品として加工する工程をさらに含む、請求項9〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記成型品が射出成型品である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1つに記載の方法によって得られる組成物。
【請求項16】
フィルムの形状の、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
成型品の形状の、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
射出成型品の形状の、請求項17に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−539284(P2008−539284A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508043(P2008−508043)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000695
【国際公開番号】WO2006/116861
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507354943)
【Fターム(参考)】