説明

熱可塑性セルロース繊維

【課題】 溶融紡糸性に優れ、分子量低下が抑制され、粒子分散性、発色性、ドレープ性にも優れた熱可塑性セルロース繊維を提供する。
【解決手段】 セルロース混合エステルおよび可塑剤、屈折率1.3〜1.9であり比重3.5g/cm3以上の無機粒子を少なくとも含んでなる組成物からなる繊維であって、該繊維の初期引張抵抗度が10〜25cN/dtexであることを特徴とするセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性セルロース繊維に関する。より詳しくは、セルロース混合エステルおよび可塑剤、特定無機粒子を含んでなる溶融成形性、粒子分散性に優れたセルロース混合エステル組成物を溶融紡糸して得られる分子量低下が少なくドレープ性、発色性、工程通過性に優れた繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどが挙げられ樹脂、繊維、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。しかしながら、綿やレーヨンから得られる織り編み物は繊維自身の特徴である比重の高さから(綿の比重1.54、レーヨンの比重1.5〜1.52)ドレープ性が良いことが一般的に知られている。また、比重の低いセルロースアセテート繊維(比重約1.3)に高比重粒子を含有させドレープ性を改善させる技術が開示されている(特許文献1参照)。しかし、開示されているセルロースエステルとしてはセルロースジアセテート、セルローストリアセテートであり前記したように有機溶媒を用いる乾式紡糸法のため、紡糸速度が遅いという問題があるだけでなく、使用するアセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えないことや、紡糸原液に高濃度に粒子を分散させた場合、紡糸原液の粘度が上昇したり、紡糸原液から溶媒を蒸発させる段階で添加した微粒無機物が凝集を起こしやすい、さらにアセテートやトリアセテート繊維は一般的に26.5〜39.7cN/dtexのヤング率(非特許文献1)の物となり布帛とした場合に、はり、こしが出てしまい高比重粒子を含有した効果を十分に発現できないなどの問題がある。
【0004】
溶融紡糸法を用いる方法として我々はセルロースエステルに可塑剤を用いることで溶融成形加工性に優れた組成物および繊維を提案している(特許文献2)。しかし、添加される粒子は酸化チタン粒子であり粒子の屈折率が高いため高比重化するために高濃度に含有した場合、セルロース繊維の特徴である発色性や染色性に問題がある。
【特許文献1】特開平09−176915号公報(第2頁)
【非特許文献1】「繊維の百科事典」 平成14年3月25日発行 付録2 繊維の性能表(第1032頁)
【特許文献2】特開2004−196980号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロース混合エステルに可塑剤、低屈折率、高比重の無機粒子を溶融成形時に含有させることにより熱可塑性を有したセルロース混合エステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、分子量低下が少なく、粒子分散性、発色性、ドレープ性にも優れた熱可塑性セルロース繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の課題は、セルロース混合エステルおよび可塑剤、屈折率1.3〜1.9であり比重3.5g/cm3以上の無機粒子を少なくとも含んでなる組成物からなる繊維であって、該繊維の初期引張抵抗度が10〜25cN/dtexであることを特徴とするセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維によって解決が可能である。
【0007】
ここで、セルロース混合エステルの例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート等があげられる。また、本発明のセルロース混合エステル組成物に含有される無機粒子が炭酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸バリウムであることが好適に採用できる。また、繊維の強度が0.5〜2.0cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が2%以下であることも好適に採用できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、溶融成形が可能なセルロース混合エステル組成物とすることでセルロースアセテートの製造方法である湿式、乾式紡糸の溶媒除去時に起こる粒子凝集を抑制し粒子分散性が良好となるばかりか溶融時の分子量低下を抑制でき、さらには粒子の凝集による工程通過性悪化、断糸の問題を解消でき強伸度特性に優れた布帛にした場合のドレープ性良好な繊維を、生産性よく得ることが可能となる。得られる組成物および繊維は、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるセルロース混合エステルは、セルロース混合エステルのアシル基の少なくとも一部が、炭素数3以上のものであることが重要である。炭素数が2であるアセチル基のみによって置換されたセルロースアセテートでは、それ自身の熱可塑性が不十分であるため、良好な熱流動性を有するためには成型温度を上げる必要があることやヤング率を低くする効果が少ない。これに対し、例えば炭素数3のアシル基であるプロピオニル基を有するセルロース混合エステルを用いた場合には、良好な熱流動性を有するために成型温度を低下することができるばかりかヤング率を低下させる効果も合わせ持つという大きな利点を有している。
【0010】
ヤング率を低下することができる理由としては、アシル基の少なくとも一部に炭素数3以上の置換基を有し可塑剤を併用している相乗効果と考えている。
【0011】
本発明のセルロース混合エステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステルが挙げられる。中でもセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0012】
本発明の熱可塑性セルロース繊維は、セルロース混合エステルを主成分とするセルロース混合エステル組成物よりなるが、このセルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、70〜95重量%であることが好ましい。セルロース混合エステルの含有量を70重量%以上とすることによって、強度を受け持つセルロース混合エステルの比率が十分高くなり、繊維の機械的特性が向上する。セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、75重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる繊維の柔軟性を高めるためには、セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの比率は95重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、90重量%以下であり、最も好ましくは85重量%以下である。
【0013】
本発明で用いられるセルロース混合エステル組成物は可塑剤を含んでいることが重要である。可塑剤の量としては5〜30重量%含有する必要がある。5重量%以上の可塑剤を含有することで、組成物の熱流動性が良好となり、溶融紡糸時の生産性を向上することが可能となる。また、30重量%以下の可塑剤量とすることで、繊維表面への可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、室温での膠着などのトラブルを回避することができる。セルロース混合エステル組成物の可塑剤含有量は、溶融紡糸時の生産性の観点から、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが最も好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点からは、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが最も好ましい。
【0014】
本発明において用いられる可塑剤は、本発明のセルロース混合エステルに混和するものであれば特に制限はなく用いることができる。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0015】
また高分子量の可塑剤として、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類などを挙げることができる。これらの高分子量可塑剤は共重合体であってもよいし、重合体の一部が修飾されているものであってもよい。
【0016】
さらには水溶性の可塑剤として、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、一般式(1)で示されるポリエーテル類などを挙げることができる。ここで水溶性とは、20〜100℃の温度の水にその10重量%以上が溶解可能であることをいう。
R1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1とR2は、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数。)。
【0017】
上記の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は、セルロース混合エステルとの相溶性が優れているため好適に採用することができる。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体などを挙げることができる。
【0018】
本発明のセルロース混合エステル組成物は、屈折率1.3〜1.9であり比重3.5g/cm3以上の無機粒子を少なくとも含んでいることが重要である。含有する無機粒子の屈折率を1.3〜1.9とすることでセルロース混合エステルを繊維化した場合の染色性の低下を抑制し良好な発色性を維持することが可能となる。また、比重を3.5g/cm3以上とすることで少量からセルロース混合エステル組成物の比重を向上させることが可能となり、繊維化した場合のドレープ性が良好な布帛を得ることができる。無機粒子の比重としては入手性、ドレープ性から6g/cm以下が好ましい。含有される無機粒子の添加量としては5〜50重量%が好ましい。含有する無機粒子の量を5重量%以上とすることで溶融粘度低下抑制、ドレープ性向上効果が発現する。より好ましくは8重量%以上であり、最も好ましくは10重量%以上である。また、成形品の強度、生産性の点から50重量%以下であることが好ましい。より好ましく40重量%以下であり、最も好ましくは30重量%以下である。含有する無機粒子としては屈折率、比重が本願記載の範囲であれば特に限定されないがアルミナ、炭酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸バリウムを挙げることができる。中でも炭酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸バリウムは染色性、ドレープ性、溶融粘度低下抑制効果を向上でき好ましい。
【0019】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維は含有される無機粒子の特性をさらに引き出すために繊維化後の初期引張抵抗度が10〜25cN/dtexであることが重要である。比重の高い無機粒子を含有させる効果をさらに高め、繊維を布帛とした場合のドレープ性の点から好ましくは15〜20cN/dtexである。初期引張抵抗度は本発明のセルロース混合エステル組成物を用いた場合に発現できるものであり、トリアセテート、ジアセテートでは初期引張抵抗度は高い値となり、高比重粒子を含有させても繊維自体の初期引張抵抗度が高いために十分なドレープ性を発現できなことになる。
【0020】
本発明におけるセルロース混合エステルを主成分とするセルロース混合エステル組成物は、必要に応じて、着色防止用の安定剤を含有することができる。着色防止剤は、ホスファイト化合物、ヒンダードフェノール化合物などを用いることができる。また、その他、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、抗菌剤、潤滑剤、艶消剤、生分解促進剤等の添加剤についても、これらを単独もしくは併用して含有することができる。可塑剤以外の添加剤の含有量については、熱可塑性セルロース繊維の特性を損なわないため、組成物全体に対して0.5重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以下であることが最も好ましい。
【0021】
本発明で用いられるセルロース混合エステル、可塑剤、無機粒子あるいは各種添加剤との混合に際しては、エクストルーダー、ニーダー、ロールミルおよびバンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いることができる。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロース混合エステルを50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロース混合エステル合成時に可塑剤、無機粒子を添加し、セルロース混合エステルの製造と同時に可塑剤、無機粒子を含むセルロースエステルを得ても良いし、混合機に投入する前にセルロース混合エステル、可塑剤、無機粒子を混合しても良い。
【0022】
本発明のセルロース混合エステル組成物の製造方法としては、粒子分散性を高度に満足させるため、可塑剤と無機粒子とをあらかじめ分散処理したスラリーとしてセルロース混合エステルに添加、混合することが好ましい。添加、混合する方法としては上記した混合機を用いセルロース混合エステルと可塑剤、無機粒子を個別に添加する方法、全てを混合して添加する方法などが挙げられる。可塑剤への粒子の分散方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、サンドミル、ボールミル、高速撹拌型分散機、超音波分散機などを挙げることができ、中でもサンドミル、高速撹拌型分散機が短時間で均一に粒子を分散でき好ましい。製造方法としてはセルロース混合エステルへの熱履歴を抑制し、粒子分散性に優れる二軸混練機、ニーダーを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0024】
本発明のセルロース混合エステル組成物からなる繊維は、セルロース混合エステル、可塑剤、無機粒子を主成分とする熱可塑性セルロース混合エステル組成物を、溶融紡糸することにより得ることができる。具体的には、セルロース混合エステル、可塑剤、無機粒子を主成分とする熱可塑性セルロース混合エステル組成物を、公知の溶融紡糸機を用いて加熱溶融した後、口金から紡出し、紡出糸を回転ローラーによって引き取ることができる。この際、紡糸温度は180℃〜280℃の範囲が好ましく、より好ましくは230℃〜270℃の範囲であり、最も好ましくは240〜260℃である。紡糸温度を180℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸における曳糸性が向上する。また、紡糸温度を280℃以下にすることにより、組成物の熱劣化が抑制され、繊維の着色が少なくなる。
【0025】
本発明のセルロース混合エステル組成物からなる繊維の強度は、0.5〜2cN/dtexであることが好ましい。強度を0.5cN/dtex以上とすることで、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましい。また、2cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0026】
本発明のセルロース混合エステル組成物からなる繊維の伸度は、2〜50%である。伸度が2%以上であることによって、製織や製編時などの高次加工工程における糸切れが少なくなるため好ましい。50%以下であることによって、低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。伸度は5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが最も好ましい。
【0027】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる繊維の繊度変動値(U%)は2.0%以下である。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値(U%)が2.0%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを指し、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生せず、また染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な織編物となる。繊度変動値(U%)は小さい程よく、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下である。なお繊度変動値(U%)の測定条件に関しては、実施例にて詳細に説明する。
【0028】
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形および中空などの異形断面糸でも良い。異形断面とすることによって光沢付与、吸水性付与などを図ることが出来る。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお各特性については、下記の方法で測定、評価を行った。
【0030】
(1)重量平均分子量
Waters(株)製Waters2690を用い、ポリスチレンを内部標準とし、カラム温度40℃、移動層クロロホルム、流速1ml/分で測定した。サンプルは絶乾状態としたポリマーを溶媒濃度は0.5%(w/v)に調製した。なお、合成例3については移動層テトラヒドロフランにて測定した。
【0031】
(2)強度、伸度および初期引張抵抗度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力を繊度で除した値を繊維強度(cN/dtex)とし、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
初期引張抵抗度は、JIS L 1013(1999年)(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10(初期引張抵抗度)に基づいて算出した。
【0032】
(3)繊度変動値(U%)
U%測定は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。
【0033】
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/分
なお測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
【0034】
(4)ドレープ係数
JIS L 1096(1990年)「一般織物試験法」に記載の「G法(ドレープ係数)」に従い3枚の平均値で示した。0.400以下を合格とした。
【0035】
(5)C*値(彩度)
染色した布帛を試料とし、ミノルタ社製分光測色計CM−3700d型を用いてD65光源、視野角度10°、光学条件SCEでL*、a*、b*を測定した。色の鮮やかさはC*値で表すことが出来る。C*値は(a*+b*1/2で定義される彩度である。青染料であればC*値が高いほど彩度が良好となる。38以上を合格とした。
【0036】
(6)セルロース混合エステルの平均置換度
セルロースにアセチル基およびアシル基が結合したセルロース混合エステルの平均置換度の算出方法については下記の通りである。
【0037】
80℃で8時間の乾燥したセルロース混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0038】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
(合成例1)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ)1.0kgに、酢酸5.0kgとプロピオン酸1.0kgを加え、50℃で30分間攪拌した。混合物を20℃まで冷却した後、無水酢酸0.7kg、無水プロピオン酸4.3kgおよび硫酸を0.10kg加えてエステル化反応を行った。120分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で12時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
【0039】
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を繰り返し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を行った。
【0040】
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は0.2、プロピオニル置換度は2.4、重量平均分子量167000であった。
【0041】
(合成例2)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ)1.0kgに、酢酸4.0kgとプロピオン酸2.0kgを加え、50℃で30分混合した。混合物を20℃まで冷却した後、無水酢酸2.0kg、無水プロピオン酸3.0kg、および硫酸を0.10kg加えてエステル化反応を行った。120分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で12時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
【0042】
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を繰り返し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を行った。
【0043】
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基置換度は1.9、プロピオニル基置換度は0.7、重量平均分子量172000であった。
【0044】
実施例1
合成例1により得られたセルロースアセテートプロピオネート85重量%と、可塑剤のポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)10重量%と硫酸バリウム(屈折率1.65、比重4.3g/cm3)5重量%を、30mmφニーダーを用いて混合し、熱可塑性組成物のペレットを得た。
【0045】
続いてペレットを真空乾燥した後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、紡糸温度240℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。
【0046】
紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、油剤を付与して集束し、1200m/minで回転するゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取った。
【0047】
得られた繊維は、重量平均分子量が157000、強度が1.3cN/dtex、伸度が25%、初期引張抵抗度23cN/dtex、U%1.2%、と機械的特性、繊維の均一性、粒子分散性に優れていた。得られた繊維を用いてツイル織物(2/2)を作成した。ドレープ係数は0.280と良好であった。
【0048】
ツイル織物を精練溶液で60℃×20分間精練を行った後、120℃×1分乾熱セットを施した。この様にして得られた該織物を用いて、以下の染色を行った。
染料 Kayalon Polyester Blue EBL−E(日本化薬(株)製)
染料濃度 1.0%owf、浴比 1:30、 染液pH 5
染色時間 60分、 染色温度 90℃
染色後の布帛は十分水洗の後、乾燥した。
【0049】
得られた布帛はC*値が41.8と鮮やかな青色を呈しており良好な彩度を示した。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2
表1に示したポリマー(セルロースアセテートブチレートはイーストマンケミカル社製CAB−381−20を用いた)、可塑剤、無機粒子を用いた以外は実施例1と同様にして熱可塑性セルロース繊維を得た。
【0052】
これら得られた繊維の評価結果を表1に示す。いずれの場合においても分子量低下抑制、ドレープ性、彩度(C*値)に優れていた。
【0053】
実施例3〜8
表1に示したポリマー(セルロースアセテートブチレートはイーストマンケミカル社製CAB−381−20を用いた)、可塑剤、無機粒子を用いた以外は実施例1と同様にして熱可塑性セルロース繊維を得た。
【0054】
これら得られた繊維の評価結果を表1に示す。いずれの場合においても分子低下抑制、ドレープ性、彩度(C*値)に優れていた。
【0055】
(合成例3)
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)50gを500mlの脱イオン水に浸して10分間おく。これをガラスフィルターで濾別して水を切り、700mlの酢酸に分散させ、時々振り混ぜて10分間おく。続いて、新しい酢酸を用いて同じ操作を再び繰り返す。
【0056】
フラスコに900gの酢酸と0.9gの濃硫酸をとり、撹拌した。これに180gの無水酢酸を加え、温度が40℃をこえないように水浴で冷却しながら60分撹拌した。反応終了後、酢酸水溶液をゆっくり添加後、室温で一晩撹拌をした。その後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートは80.1gであり、セルロースアセテートの置換度は2.5、重量平均分子量は175000であった。
【0057】
(合成例4)
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)50gを500mlの脱イオン水に浸して10分間おく。これをガラスフィルターで濾別して水を切り、700mlの酢酸に分散させ、時々振り混ぜて10分間おく。続いて、新しい酢酸を用いて同じ操作を再び繰り返す。
【0058】
フラスコに900gの酢酸と0.9gの濃硫酸をとり、撹拌した。これに180gの無水酢酸を加え、温度が40℃をこえないように水浴で冷却しながら60分撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートは85.3gであり、セルロースアセテートの置換度は2.9、重量平均分子量は181000であった。
【0059】
比較例1
合成例3により得られたセルロースアセテート(ジアセ)19重量%、硫酸バリウム(屈折率1.65、比重4.3g/cm3)1重量%をアセトンと水の混合溶剤(9:1)に溶解し濃度20重量%の紡糸原液を調整した。紡速500m/分で乾式紡糸し、83dtex36フィラメントの繊維を得た。
【0060】
得られた繊維は、重量平均分子量は153000であったが、強度が1.1cN/dtex、伸度が22%、初期引張抵抗度31cN/dtex、U%1.1%、と初期引張抵抗度が高かった。得られた繊維を用いてツイル織物(2/2)を作成した。C*値は40.5と良好であったが初期引張抵抗度が高いためにドレープ係数は0.425と顕著な効果が得られないばかりか溶融成形もできないものであった。
【0061】
【表2】

【0062】
比較例2
合成例4により得られたセルロースアセテート(トリアセ)19重量%、炭酸バリウム(屈折率1.52、比重4.4g/cm3)1重量%を塩化メチレンとメタノールの混合溶剤(9:1)に溶解し濃度20重量%の紡糸原液を調整した。紡速500m/分で乾式紡糸し、83dtex36フィラメントの繊維を得た。
【0063】
得られた繊維は、重量平均分子量は164000であったが、強度が1.0cN/dtex、伸度が23%、初期引張抵抗度35cN/dtex、U%1.2%、と初期引張抵抗度が高かった。得られた繊維を用いてツイル織物(2/2)を作成した。C*値は41.0と良好であったが初期引張抵抗度が高いためにドレープ係数は0.415と顕著な効果が得られないばかりか溶融成形できないものであった。
【0064】
比較例3
無機粒子を酸化チタン(屈折率2.52、比重4.1g/cm3)に変更した以外は実施例1と同様の方法でペレット、繊維を得た。繊維化後の重量平均分子量は132000と低下し、酸化チタン粒子は粒子の屈折率が高いためくすんだ色となり彩度も満足できない物であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース混合エステルおよび可塑剤、屈折率1.3〜1.9であり比重3.5g/cm3以上の無機粒子を少なくとも含んでなる組成物からなる繊維であって、該繊維の初期引張抵抗度が10〜25cN/dtexであることを特徴とするセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維。
【請求項2】
セルロース混合エステルが、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載のセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維。
【請求項3】
無機粒子が炭酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸バリウムのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載のセルロース混合エステル組成物からなる熱可塑性セルロース繊維。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のセルロース混合エステル組成物を少なくとも含んでなる熱可塑性セルロース繊維であって強度0.5〜2cN/dtex、伸度2〜50%、U%が2%以下であることを特徴とする熱可塑性セルロース繊維。

【公開番号】特開2007−169855(P2007−169855A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372047(P2005−372047)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】