説明

熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末の製造方法

【課題】本発明の課題は、低臭気性に優れる成形品が得られる低臭気性熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末を提供することである。
【解決手段】ジアミン(A)とケトン(B)を下記の有機溶媒(D)の存在下で(A)と(B)のケチミン化率が70〜95%になるようにケチミン化反応させて、ケトン(B)の2分子縮合物(C)の合計含有量が0.05〜2.0mol%であるケチミン化合物(K)を得て、(K)を鎖伸長剤として用い、ウレタンプレポリマー(U)と反応させることにより、臭気の少ない熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末を得る熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の製造方法。
有機溶媒(D):30〜100℃で水と共沸し、誘電率2.0〜20である有機溶媒

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低臭気性に優れるポリウレタンウレア樹脂粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体成形法は、複雑な形状(アンダーカット、深絞り等)の製品が容易に成形できること、肉厚が均一にできること、材料の歩留まり率が良いこと等の利点から、近年、自動車の内装材、芯地用接着剤等を中心にした用途に広く利用されている。
粉体成形法には主に軟質のポリ塩化ビニル粉末が使用されていたが、近年ポリウレタン樹脂も使用されている。ポリウレタン樹脂は有機溶媒中で合成するため高コストで、環境的にも問題があったが、最近、水性媒体中でウレタン樹脂粉末を作る方法が提案されている。特許文献1および2は、ウレタン樹脂粉末組成物としてジアミンとケトンを脱水縮合反応させ、ジアミンをケトンでブロックしたジアミン鎖伸長剤(ケチミン化合物)を使用して製造している。(特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−120041号公報
【特許文献2】特開平12−313733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、車内環境への要求が厳しくなり、快適性に関わる低臭気性については改善の余地を残すものであった。
本発明の課題は、低臭気性に優れる成形品が得られる低臭気性熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、ジアミン(A)とケトン(B)を下記の有機溶媒(D)の存在下で(A)と(B)のケチミン化率が70〜95%になるようにケチミン化反応させて、ケトン(B)の2分子縮合物(C)の合計含有量が0.05〜2.0mol%であるケチミン化合物(K)を得て、(K)を鎖伸長剤として用い、ウレタンプレポリマー(U)と反応させることにより、臭気の少ない熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末を得る熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の製造方法
有機溶媒(D):30〜100℃で水と共沸し、誘電率2.0〜20である有機溶媒
;上記製造方法により得られた熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)に、さらに添加剤(H)を加えて、臭気の少ない熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物を得る熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法で得られるウレタン樹脂粉末、又はウレタン樹脂粉末組成物を成形して得られる成形品は、従来に無い低臭気性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ケチミン化合物(K)は、好ましくは温度計、撹拌機及び還流管を備えたSUS製又はガラス製の反応容器に、ジアミン(A)とケトン(B)を有機溶媒(D)の存在下で反応させ、(A)と(B)のケチミン化率が70〜95%に達した時点で反応を終了する方法で得ることができる。
【0008】
ジアミン(A)としては、炭素数6〜18の脂環式ジアミン[4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等];炭素数2〜12の脂肪族ジアミン[エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等];炭素数8〜15の芳香脂肪族ジアミン[キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジアミン等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂環式ジアミンおよび脂肪族ジアミンであり、特に好ましいものはイソホロンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンである。
【0009】
ケトン(B)としては、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKと記載する。)、メチルイソブチルケトン(以下MIBKと記載する。)、ペンタノン及びヘキサノン等が挙げられ、これらの中でもアセトン、MEK及びMIBKが好ましい。
ケトン(B)の仕込量は、ジアミン(A)1molの仕込量に対して好ましくは4.5〜10.0molであり、より好ましくは4.5〜8.0mol、さらに好ましくは4.5〜6.0molである。
(B)を4.5mol〜10.0molとすることでケトン2分子縮合物(C)の副生を抑えることができる。
【0010】
有機溶媒(D)とは、40〜100℃で水と共沸し、かつ誘電率2.0〜20である有機溶媒である。
【0011】
(D)は水と共沸し、その共沸温度は30〜100℃、好ましくは35〜90℃であり、さらに好ましくは35〜70℃である。30℃より低い温度では、ケチミン化の反応速度の遅延の原因となる。100℃を超える温度ではケトン2分子縮合物(C)を生じ、臭気の原因となる。(D)の誘電率は2.0〜20であり、好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.0〜2.4である。誘電率2未満は40〜100℃の温度範囲で液体として存在しないため用いることができない。20を越えるものはケチミン化反応不良の原因となり、ケチミン化率が低下する。
【0012】
有機溶媒(D)としては、炭素数5〜9の炭化水素化合物[n−ペンタン(水との共沸点35℃、誘電率2.0)、n−ヘキサン(水との共沸点62℃、誘電率2.0)、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、トルエン(水との共沸点85℃、誘電率2.4)等];炭素数3〜9のアルコール[n−ブタノール(水との共沸点93℃、誘電率17.5)、n−ペンタノール(水との共沸点96℃、誘電率14.0)、n−ヘキサノール(水との共沸点98℃、誘電率13.3)等];炭素数3〜9のエステル[酢酸エチル(水との共沸点71℃、誘電率6.0)等]が挙げられる。これらのうち好ましいのは炭化水素化合物であり、さらに好ましいのはn−ヘキサン(水との共沸点62℃、誘電率2.0)、n−ペンタン(水との共沸点35℃、誘電率2.0)、トルエン(水との共沸点85℃、誘電率2.4)であり、特に好ましいのはn−ヘキサンである。
炭素数5〜9の炭化水素化合物である上記n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナンは、分岐鎖体、又は直鎖体と分岐鎖体の混合物であってもよい。
【0013】
ジアミン(A)とケトン(B)の反応は有機溶媒(D)存在下で行う。ジアミン(A)1molに対して、(D)を好ましくは1.1〜2.0mol、より好ましくは1.1〜1.8mol存在させる。(D)が1.1〜2.0molのとき、より効率よく生成水をケチミン反応系中から除くことができ、ケチミン化率の向上とケトン2分子縮合物(C)の副生成を抑えることができる。
(D)の存在下、(A)と(B)の反応は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは40〜70℃で反応させる。反応は生成する水を除去しながら行う。反応時の圧力は特に限定されず、減圧〜常圧で製造することができる。
(A)と(B)の反応は、(A)と(B)のケチミン化率が70〜95%に達した時点で終了とする。
【0014】
具体的にはケチミン化反応工程中にケチミン化合物(K),ケトン(B)及び有機溶媒(D)混合液を以下に示すケチミン化率測定方法に従ってサンプリングし、分析を行うことができる。
ケチミン化率は70〜95%、好ましくは80〜92%である。反応率が70%未満では水および分散安定剤存在下で該ケチミンを原料としたポリウレタンウレア樹脂が分散できず、粗大粒子や異形粒子が生じる。
ケチミン化反応は平衡反応であるため、95%を超えることは反応上、困難である。
ケチミン化率70〜95%に達したことを確認後、反応温度のまま減圧下(2kPa)で未反応のケトン(B)及び有機溶媒(D)を除去する。その後室温下まで冷却し、ケチミン化合物(K)を得ることができる。
【0015】
ケチミン化合物(K)の反応率であるケチミン化率は、以下の分析によって求めることができる。
【0016】
<ケチミン化率測定法>
(1)装置:電位差滴定装置[例えば(株)エクレア 製、AUT−501]
(2)ケチミン化量測定法
ケチミン化合物(K)を次の採取量で小数点以下3桁まで精秤し、採取量をS1とする。ケチミン化反応工程時(ケチミン化合物(K)、ケトン(B)及び有機溶媒(D)を含有)の採取量は2.5gとし、ケトン(B)及び有機溶媒(D)を除去したケチミン化合物(K)の採取量は1.0gとする。
これにイソプロパノール(JIS試薬1級)50mlと、1mlのジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI−H)を加え、マグネティックスターラーで5分間±30秒撹拌後、電位差滴定装置にセットして0.5mol/L塩酸メタノール滴定溶液を7ml定量注入した後、滴定を行った。(定量注入量+滴定量)をAmlとする。
(3)アミン価測定法
ケチミン化合物(K)を次の採取量で小数点以下3桁まで精秤し、採取量をS2とする。
ケチミン化反応工程時(ケチミン化合物(K)、ケトン(B)及び有機溶媒(D)を含有)の採取量は2.5gとし、ケトン(B)及び有機溶媒(D)を除去したケチミン化合物(K)の採取量は1.0gとする。
これにイソプロパノール(JIS試薬1級)50mlを加え溶解した後、0.5mol/L塩酸メタノール滴定溶液で滴定した。滴定量をBmlとする。
(4)計算式
ケチミン化量、アミン価について各2回測定を行い、次式よりケチミン化量、アミン価を算出し、それぞれの平均値からケチミン化率を算出して有効数字2桁にまとめる。
ケチミン化量=(A/S1)×28.05×f
アミン価=(B/S2)×28.05×f
ケチミン化率(%)=(ケチミン化量)×100/(アミン価)
(f:0.5mol/L塩酸メタノール滴定溶液のfactor)
【0017】
ケチミン化合物(K)は、ケトン(B)の2分子縮合物(C)の含有量が少ないという特徴を有する。
具体的には(C)の合計含有量は好ましくは0.05〜2.0mol%、さらに好ましくは0.05〜1.0mol%である。(C)の含有量0.05mol%は下記分析方法の検出下限である。
【0018】
ケトン2分子縮合物(C)としては、アセトンの2分子縮合物(C1)である4−メチルペント−3−エン−2−オン、MEKの2分子縮合物(C2)である5−メチルヘプト−4−エン−3−オン、及び3,4−ジメチルヘキサ−3エン−2オンの両者を合わせた物、MIBKの2分子縮合物(C3)である3−イソプロピル−4,6−ジメチルヘプト−3−エン−2−オン、及び2,6,8−トリメチルノン−5−エン−4−オンの両者を合わせた物である。
【0019】
ケチミン化合物(K)中のケトン2分子縮合物(C)の含有率は、下記のケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(NMR法)で行う。
【0020】
<ケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(NMR法)>
(1)装置:核磁気共鳴装置[例えばULTRASHIELD 400PLUS:日本ブルカー(株)製]
(2)試料調製:ケチミン化合物(K)を30mgNMRチューブに採取し、重クロロホルム溶媒でNMRチューブ内容液面高が4cmとなるように希釈した。
(3)解析方法
ケチミン化合物(K)のN原子に隣接する炭化水素の水素原子シグナル領域である3.3〜3.1ppm及び、ケトン2分子縮合物(C)のアルケンの水素原子シグナル領域である6.1〜4.9ppmのシグナル2種類の積分面積値を取る。3.3〜3.1ppmの積分面積値を100とし、そのときの6.1〜4.9ppmの積分値を読み取り、以下の式で2分子縮合物の含有量を算出した。
ケトン2分子縮合物(C)含量(mol%)=
[(6.1〜4.9ppmの積分)/(3.3〜3.1ppmの積分値)]×100
上式から算出された数値は、ケチミン化合物(K)に対するケトン2分子縮合物(C)の含有量(mol%)を表している。
【0021】
ウレタンプレポリマー(U)を本製造方法で得られるケチミン化合物(K)で鎖伸長反応させることにより、臭気の少ない成形物を得ることのできる熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)を得ることができる。
高分子ジオール(F)とジイソシアネート(G)を反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(U)を製造する。
製造する際の反応温度は、ウレタン化を行う際に通常採用される温度と同じでよく、溶剤を使用する場合は通常20℃〜100℃であり、溶剤を使用しない場合は通常20℃〜220℃、好ましくは80℃〜200℃である。上記プレポリマー化反応において、反応を促進するために必要によりポリウレタンに通常用いられる触媒を使用することができる。該触媒としては、例えばアミン系触媒[トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなど]、錫系触媒[トリメチルチンラウレート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレートなど]などが挙げられる。
ウレタンプレポリマー(U)と上記ケチミン化合物(K)を、水および分散安定剤存在下で分散させ、伸長反応させ熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂(E0)を含有するスラリーを製造し、含有する水および有機溶媒を除去し、熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)を製造する。含有する水および有機溶媒を除去する方法としては、公知の方法(脱溶媒、遠心脱水、常温および減圧下での乾燥等)により除去することができる。
具体的には、例えば、特開平8−120041号公報等に記載されたものを使用することができる。
上記反応は、水中の替わりに非極性有機溶媒中でも行うことが可能である。
【0022】
反応率が70%未満のケチミン化合物(K)を使用した場合は水および分散安定剤存在下で分散できず、95%を超える(K)を使用した場合は熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の成形物の臭気が発生する。
熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)は熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂(E0)からなる。(E0)は、高分子ジオール(F)、ジイソシアネート(G)、低分子ジアミン、必要に応じて低分子ジオール等を反応してなる樹脂である。
(E0)の数平均分子量は、通常5,000〜50,000、好ましくは10,000〜30,000である。
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)[測定機器は、例えば昭和電工のSHODEX−KFタイプ、溶媒は、DMFを使用]で測定される。
【0023】
高分子ジオール(F)としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルエステルジオールが挙げられる。これらの中で、耐熱性、耐光性の観点からエーテル結合を含まないポリエステルジオールが好ましい。
【0024】
ポリエステルジオールとしては、グリコールとジカルボン酸の組み合わせからなるポリエステルジオール、ラクトンモノマーより合成されるポリエステルジオールが挙げられる。
特にエチレングリコールと炭素数6〜15の脂肪族ジカルボン酸からなるポリエステルジオール、炭素数が4〜10の脂肪族ジオールと炭素数4〜15の脂肪族ジカルボン酸もしくは炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸からなるポリエステルジオールが好ましい。これらの中でも、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートが好ましい。
【0025】
ポリエーテルジオールとしては、2個の水酸基含有化合物(たとえば前記低分子ジオール、2価のフェノール類など)にアルキレンオキサイドが付加した構造の化合物があげられる。上記2価のフェノール類としてはビスフェノール類[ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなど]、単環フェノール類[カテコール、ハイドロキノンなど]などが挙げられる。
これらのうち好ましいものは、2価フェノール類にアルキレンオキサイドが付加したものであり、さらに好ましいものは2価フェノール類にエチレンオキサイド(以下EOと記載。)が付加したものである。
【0026】
ポリエーテルエステルジオールとしては、前記ポリエステルジオールにおいて原料の低分子ジオールに代えて上記ポリエーテルジオールを用いたもの、例えば上記ポリエーテルジオールの1種以上と前記ポリエステルジオールの原料として例示したジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体の1種以上とを縮重合させて得られるものが挙げられる。
【0027】
ジイソシアネートとしては、(i)炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)2〜18の脂肪族ジイソシアネート[エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等];(ii)炭素数4〜15の脂環式ジイソシアート[イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロへキセン等];(iii)炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート[m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等];芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、1,3−及び/又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−及び/又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’−及び/又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、粗製MDI、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−及びp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等;(v)これらのジイソシアネートの変性物(カーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ウレア基等を有するジイソシアネート変性物);およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートであり、特に好ましいものはHDI、IPDI、水添MDIである。
【0028】
ジアミンとしては、炭素数6〜18の脂環ジアミン[4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等];炭素数2〜12の脂肪族ジアミン[エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等];炭素数8〜15の芳香脂肪族ジアミン[キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジアミン等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂環ジアミンおよび脂肪族ジアミンであり、特に好ましいものはイソホロンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンである。
【0029】
低分子ジオールとしては、例えば[エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、炭素数4〜24の1,2−アルカンジオール(ドデカン−1,2−ジオール等)など];環状基を有するジオール類[1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、m−またはp−キシリレングリコール、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物など]等およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)、下記に記載の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)、熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)及び熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の成形物、たとえばスラッシュ成形法で成形した表皮等のウレタン樹脂成形物中のケトン(B)の2分子縮合物(C)の含有量が少ない。
具体的には(B)がアセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンのいずれかの場合、これらの2分子縮合物(C)の合計含有量が10〜1000ppmであり、好ましくは10〜500ppm、さらに好ましくは10〜100ppmである。(C)が1000ppmを越えて含有する場合は臭気発生の原因となる。(C)の含有量を10ppm未満にすることは、通常の製造方法では困難である。
【0031】
熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末(E)又は熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)及び(E)又は(X)の成形物中のケトン2分子縮合物(C)の含有率は以下のケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(GC/MS法)によって求めることができる。
本分析法はケトン2分子縮合物(C1)アセトンケチミン化合物、(C2)MEKケチミン化合物及び(C3)MIBKケチミン化合物の合計含有量を分析する方法である。
<ケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(GC/MS法)>
(1)装置:ガスクロマトグラフ質量分析計[例えば(株)島津製作所 製:GC/MS QP2010plus]
(2)試験サンプル作製方法
300mlナスフラスコに試験サンプルの熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末(E)又は熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)及び(E)又は(X)の成形物50.0gを入れる。(E)または(X)を入れたナスフラスコをTenax管捕集装置に取り付け、ナスフラスコをシリコンオイルバスにて100℃で1時間加熱することで揮発成分をTenax管に捕集する。
【0032】
(3)測定
Tenax管を室温で、ガスクロマトグラフ分析装置のオートサンプラーに取り付け、以下の条件でケトン2分子縮合物(C)の含有量を測定する。
カラム:ZB−5[(株)島津製作所 製]
カラムの長さ:30mm、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm
カラム昇温プログラム:40℃から300℃(10℃/分)
Tenax管を取り付けた気化室温度:25℃
キャリアガス:ヘリウム
スプリット比:10
【0033】
(4)検量線
ケトン2分子縮合物(C1)、(C2)及び(C3)を合成し標品とする。(C1)、(C2)及び(C3)それぞれを30ppm、100ppm、500ppm、2000ppm、10000ppmとなるようにメタノールで希釈し検量線用サンプルとする。各マイクロシリンジで5μlずつTenax管に注入した後、Tenax管に窒素を5分間吹き込んでメタノールを除去した。
調製した検量線用サンプルを上記測定条件にて測定し、濃度−ピーク面積値で検量線をプロットしてGC/MS検量線を作成した。
(5)計算
ケトン2分子縮合物(C)のピーク面積値を求め、作成したそれぞれのケトン2分子縮合物(C)検量線を用いてケトン2分子縮合物(C)の含有量を算出する。含有量は樹脂粉末50グラムに対する量である。
【0034】
本発明の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)は、さらに添加剤(H)を含有させて、樹脂粉末組成物(X)とすることができる。
添加剤(H)としては無機フィラー、顔料、可塑剤、離型剤、有機充填剤、ブロッキング防止剤、安定剤及び分散剤等が挙げられる。
添加剤の含有量(重量%)は、(E)の重量に対して、0〜50が好ましく、さらに好ましくは1〜30である。
【0035】
無機フィラーとは、カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、ガラス繊維、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、ウィスカー及び金属粉末等が挙げられる。
無機フィラーは(E)とドライブレンドされてもよいし、(E)の製造工程中に添加されてもよい。
【0036】
顔料粒子としては特に限定されず、公知の有機顔料および/または無機顔料を使用することができ、(E)100重量部あたり、通常10重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部配合される。
顔料粒子は(E)とドライブレンドされてもよいし、(E)の製造工程中に添加されてもよい。
【0037】
可塑剤としては公知の可塑剤等が使用できる。
可塑剤の含有量(重量%)は、(E)の重量に対して、0〜50が好ましく、5〜20がより好ましい。
可塑剤は(E)に含浸されてもよいし、(E)の製造工程中に添加されてもよい。
【0038】
離型剤としては公知の離型剤等が使用できる。
離型剤の含有量(重量%)は、(E)の重量に対して、0〜1が好ましく、0.1〜0.5がより好ましい。
離型剤は(E)に含浸されてもよいし、(E)の製造工程中に添加されてもよい。
【0039】
安定剤とは、分子中に炭素−炭素二重結合(置換基を有していてもよいエチレン結合等)(ただし芳香環中の二重結合は除く)、炭素−炭素三重結合(置換基を有していてもよいアセチレン結合)を有する化合物等が使用でき、安定剤の含有量(重量%)は、(E)の重量に対して、0〜20が好ましく、1〜15がより好ましい。
安定剤は(E)とドライブレンドされてもよいし、(E)の製造工程中に添加されてもよい。
【0040】
本発明の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)は、粉体流動性向上剤、ブロッキング防止剤として、公知の無機系ブロッキング防止剤及び有機系ブロッキング防止剤等を使用することができる。ブロッキング防止剤(流動性向上剤)の含有量(重量%)は、(E)の重量に対して、0〜5が好ましく、0.5〜1がより好ましい。粉体流動性向上剤、ブロッキング防止剤は(E)とドライブレンドされる。
【0041】
本発明の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)を上記混合して生産するときに使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタ−ミキサ−(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウタ−ミキサ−(登録商標、以下省略)等)を使用するのが好ましい。
【0042】
本発明の熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末(E)または熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)の体積平均粒径は、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは70〜300μmの範囲にある。
【0043】
本発明の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)又は樹脂粉末(E)は、たとえばスラッシュ成形法で成形し、表皮等のウレタン樹脂成形物を製造することができる。スラッシュ成形法としては、本発明の粉末組成物が入ったボックスと加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後、冷却後、固化させ、表皮を製造する方法を挙げることができる。
上記金型温度は好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは210〜280℃である。
【0044】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末組成物(X)又は樹脂粉末(E)で成形された表皮厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0046】
製造例1
数平均分子量(以下Mnと記す)が900のポリエチレンフタレート(テレフタル酸/イソフタル酸=50/50)(F1−1)の製造
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、テレフタル酸393部、イソフタル酸393部、モノエチレングリコール606部を入れ、210℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら5時間反応させた後、5〜20kPaの減圧下で反応させ、所定の軟化点でポリエチレンフタレートジオール(F1−1)を取り出した。回収されたモノエチレングリコールは245部であった。得られたポリエチレンフタレートジオールの水酸基価を測定し、Mnを計算した結果900であった。
【0047】
製造例2
同様の製造方法で減圧時間の調整により、Mnが2500のポリエチレンフタレートジオール(F1−2)を得た。回収モノエチレングリコールは270部であった。
【0048】
製造例3
プレポリマー溶液(U−1)の製造
温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に、ポリエステルジオール(F1−1)(304部)、Mnが1000のポリブチレンアジペート(1214部)、1−オクタノール(27.6部)を仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら110℃に加熱して溶融させ、60℃まで冷却した。続いて、ヘキサメチレンジイソシアネート(313.2部)を投入し、85℃で6時間反応させた。次いで、60℃に冷却した後、テトラヒドロフラン(317部)、及び安定剤(2.7部)[チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製 イルガノックス1010]、カーボンブラック(1部)を加え、均一に混合してプレポリマー溶液(U−1)を得た。得られたプレポリマー溶液のNCO含量は、0.8%であった。
【0049】
製造例4
分散媒(Y−1)の製造
分散剤としてジイソブチレンとマレイン酸との共重合体のNa塩を含む分散剤[三洋化成工業(株)製サンスパールPS−8]20部を水980部に溶解させ25℃に温調して、分散媒(Y−1)を得た。
【0050】
製造例5
アセトンケチミン化合物(K−1)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とアセトン348部(6.0mol)、トルエン(水との共沸点85℃、誘電率2.4)184部(2.0mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下加熱し、反応温度70℃で還流させながら生成水を系外に除去した。20時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率88%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してアセトン、トルエンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたアセトンケチミン化合物(K−1)の最終ケチミン化率及び(C)含有量を分析した。アセトンケチミン化合物(K−1)のケチミン化率(下記の方法で測定した。以下同様である。)は90%、ケトン2分子縮合物(C)の含有量[下記のケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(NMR法)で測定した。以下同様である。]1.0mol%であった。
【0051】
製造例6
MEKケチミン化合物(K−2)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMEK389部(5.4mol)、トルエン(水との共沸点85℃、誘電率2.4)138部(1.5mol)を仕込み、窒素置換をした後、13kPa下、反応温度60℃で還流させながら生成水を系外に除去した。15時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率82%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してMEK、トルエンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMEKケチミン化合物(K−2)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。MEKケチミン化合物(K−2)のケチミン化率は84%、2分子縮合物(C)の含有量0.9mol%であった。
【0052】
製造例7
MEKケチミン化合物(K−3)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMEK389部(5.4mol)、ヘキサン(水との共沸点62℃、誘電率2.0)129部(1.5mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度70℃で還流させながら生成水を系外に除去した。10時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率88%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してMEK、ヘキサンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMEKケチミン化合物(K−3)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。MEKケチミン化合物(K−3)のケチミン化率は90%、2分子縮合物(C)の含有量0.07mol%であった。
【0053】
製造例8
MIBKケチミン化合物(K−4)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMIBK387部(4.5mol)、ヘキサン(水との共沸点62℃、誘電率2.0)129部(1.1mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度80℃で還流させながら生成水を系外に除去した。15時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率93%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してMIBK、ヘキサンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMIBKケチミン化合物(K−4)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。MIBKケチミン化合物(K−4)のケチミン化率は95%、2分子縮合物(C)の含有量0.05mol%であった。
【0054】
製造例9
アセトンケチミン化合物(K−5)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とアセトン348部(6.0mol)、ペンタン(水との共沸点35℃、誘電率2.0)144部(2.0mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度40℃で還流させながら生成水を系外に除去した。15時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率83%を確認した後、70℃、2kPaまで減圧してアセトン、ペンタンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたアセトンケチミン化合物(K−5)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。アセトンケチミン化合物(K−5)のケチミン化率は85%、2分子縮合物(C)の含有量1.4mol%であった。
【0055】
製造例10
MIBKケチミン化合物(K−6)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMIBK387部(4.5mol)、ペンタン(水との共沸点35℃、誘電率2.0)79部(1.1mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度60℃で還流させながら生成水を系外に除去した。20時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率83%を確認した後、80℃、2kPaまで減圧してMIBK、ペンタンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMIBKケチミン化合物(K−6)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。MIBKケチミン化合物(K−6)のケチミン化率は76%、2分子縮合物(C)の含有量1.2mol%であった。
【0056】
比較製造例1
アセトンケチミン化合物(K’−7)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とアセトン348部(6.0mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度100℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率81%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してアセトンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたアセトンケチミン化合物(K’−7)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
アセトンケチミン化合物(K’−7)のケチミン化率は90%、2分子縮合物(C)の含有量4.3mol%であった。
【0057】
比較製造例2
MEKケチミン化合物(K’−8)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMEK389部(5.4mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度70℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率85%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してMEKを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMEKケチミン化合物(K’−8)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
MEKケチミン化合物(K’−8)のケチミン化率は87%、2分子縮合物(C)の含有量3.8mol%であった。
【0058】
比較製造例3
MIBKケチミン化合物(K’−9)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMIBK387部(4.5mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度100℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率80%を確認した後、反応温度のまま2kPaまで減圧してMIBKを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMIBKケチミン化合物(K’−9)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
MIBKケチミン化合物(K’−9)のケチミン化率は82%、2分子縮合物(C)の含有量3.5mol%であった。
【0059】
比較製造例4
アセトンケチミン化合物(K’−10)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とアセトン174部(3.0mol)、トルエン(水との共沸点85℃、誘電率2.4)184部(2.0mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度85℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率60%を確認した後、ケチミン化率が変化しなくなったため、反応温度のまま2kPaまで減圧してアセトン、トルエンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたアセトンケチミン化合物(K’−10)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
アセトンケチミン化合物(K’−10)のケチミン化率は62%、2分子縮合物(C)の含有量1.5mol%であった。
【0060】
比較製造例5
MEKケチミン化合物(K’−11)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMEK180部(2.5mol)、ヘキサン(水との共沸点62℃、誘電率2.0)129部(1.5mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度60℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率55%を確認した後、ケチミン化率が変化しなくなったため、反応温度のまま2kPaまで減圧してMEK、ヘキサンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMEKケチミン化合物(K’−11)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
MEKケチミン化合物(K’−11)のケチミン化率は57%、2分子縮合物(C)の含有量0.2mol%であった。
【0061】
比較製造例6
MIBKケチミン化合物(K’−12)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMIBK189部(2.2mol)、ペンタン(水との共沸点35℃、誘電率2.0)79部(1.1mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度80℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率67%を確認した後、ケチミン化率が変化しなくなったため、反応温度のまま2kPaまで減圧してMIBK、ペンタンを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMIBKケチミン化合物(K’−12)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
MIBKケチミン化合物(K’−12)のケチミン化率は69%、2分子縮合物(C)の含有量1.8mol%であった。
【0062】
比較製造例7
MEKケチミン化合物(K’−13)の製造
温度計、攪拌機及び還流管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジアミン86部(1mol)とMEK387部(5.4mol)、エタノール(水との共沸点78℃、誘電率25)48部(1.6mol)を仕込み、窒素置換をした後、常圧下、反応温度70℃で還流させながら生成水を系外に除去した。50時間後、ケチミン化率分析を行い、ケチミン化率63%を確認した後、ケチミン化率が変化しなくなったため、反応温度のまま2kPaまで減圧してMEK、エタノールを減圧除去した。その後、室温下まで冷却し、得られたMEKケチミン化合物(K’−13)の最終ケチミン化率及び(C)含量を分析した。
MEKケチミン化合物(K’−13)のケチミン化率は65%、2分子縮合物(C)の含有量2.8mol%であった。
【0063】
ケチミン化合物(K)の製造例5〜10、比較製造例1〜7の結果を表1に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
ウレタンプレポリマー(U)をケチミン化合物(K)で鎖伸長反応させることにより、熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)を得て、(E)にさらに添加剤(H)を添加し熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)を製造した。なお、(H)は場合により(E)の製造過程で添加する場合もある。
【0066】
実施例1
熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X―1)の製造
反応容器に、プレポリマー溶液(U−1)(100部)とアセトンケチミン化物(K−1)(2.5部)を投入混合し、そこにポリカルボン酸型アニオン界面活性剤(三洋化成工業(株)製サンスパールPS−8(30部))を溶解した水溶液300部を加え、ヤマト科学(株)製ウルトラディスパーサーを用いて8000rpmの回転数で1分間混合した。この混合物を温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に移し、窒素置換した後、撹拌しながら50℃で10時間反応させた。反応終了後、濾別及び50℃、常圧で3時間乾燥を行い、樹脂粉末(E−1)を製造した。(E−1)のMnは1.9万、体積平均粒径は145μmであった。
【0067】
100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末(E−1)(100部)、ラジカル重合性不飽和基含有化合物ジペンタエリスリトールペンタアクリレート[三洋化成工業(株)社製; DA600](4.0部)、紫外線安定剤ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)[商品名:TINUVIN 765、チバ社製](0.3部)を投入し70℃で4時間含浸した。含浸4時間後、2種類の内添離型剤であるジメチルポリシロキサン[日本ユニカー(株)製;ケイL45−1000](0.06部)、カルボキシル変性シリコン[信越化学工業(株)製;X−22−3710](0.05部)、を投入し1時間混合した後室温まで冷却した。最後に、ブロッキング防止剤架橋ポリメチルメタクリレート[ガンツ化成(株);ガンツパールPM−030S](0.5部)を投入混合することで樹脂粉末組成物(X―1)を得た。(X−1)の体積平均粒径は146μmであった。
ケトン2分子縮合物含有量の分析方法に従って分析を行い、アセトン2分子縮合物(C1)370ppm、MEK2分子縮合物(C2)0ppm、MIBK2分子縮合物(C3)0ppmであり、(X−1)のケトン2分子縮合物(C)の合計含有量[下記のケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(GC/MS法)で測定した。以下同様である。]は370ppmであった。
【0068】
実施例1において(K−1)の代わりに、ケチミン化合物(K−2)〜(K−6)、比較ケチミン化合物(K’−7)〜(K’−13)を用いて、上記記載の実施例1に従って実施例2〜6、比較例1〜7を行い、熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X−2)〜(X−6)、比較熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X’−7)〜(X’−13)を得た。そのうち、(X−1)〜(X−6)、(X’−7)〜(X’−9)については表皮成形物を得た。比較熱可塑性ウレタンウレア樹脂粉末組成物(X’−10)〜(X−13)については、粗大粒子、異形粒子を含有したため、成形が困難となり、正常な外観の表皮が得られなかった。
表皮は下記の表皮の作成方法に従って作成した。作成した表皮は下記の官能試験を行い、表皮の臭気強度、快不快度を評価した。
結果を表2に示した。
【0069】
【表2】

【0070】
<表皮の作成方法>
予め230℃に加熱されたしぼ模様の入ったNi電鋳型に熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)を充填し、10秒後余分な樹脂粉末組成物を排出した。60秒後水冷して表皮(厚さ1mm)を作成した。
【0071】
<表皮の臭気官能試験方法>
(1)臭気選定人(パネラー)の選定方法
嗅覚測定用基準臭「中心濃度」(パネラー選定用5種類)[第一薬品産業(株)製]に正解した者をパネラー合格とした〔有効期間:5年(40歳未満)、3年(40歳以上)〕。被験者は試験前1時間の間、飲食禁止とした。
試験者はサニメント手袋着用の下、1〜5の番号を記入したにおい紙のうち、任意の2本を基準臭Aに先端から1cm浸し、残りの3本は対象液(無臭の流動パラフィン)に同様に浸した。被験者は1本ずつにおいを嗅ぎ、においの有無を調べる(1度で判断できない場合は再度におってもかまわない)。被験者はにおいの感じられた2本のにおい紙の番号を報告する。基準臭B〜Eについても同様に試験を行い、基準臭5種類すべてに正解した者をパネラーとして選定した。
【0072】
(2)官能試験準備
試験環境は温調室(23±2℃、相対湿度50±5%)にて行った。
官能試験に用いる容器は順風乾燥機を使用し、使用前日に6時間以上250℃で空焼きを実施した(官能試験専用に順風乾燥機を設置することが望ましい)。
試験に用いる容器としてはステンレス製またはスチール製の1〜20L容器(4Lが妥当、開口部の内径が70mm以上)を用いた。試験前に容器をアズワン社製スキャット(ノニオン系)で洗浄し、水洗後に水を拭き取ってアセトンまたはエタノールで洗浄した。溶剤臭がなくなるまで室温放置後、空焼きを実施した順風乾燥機内で30分間110℃乾燥した。
【0073】
(3)試験片作成、保管方法
試験片は上記<表皮の作成>の項で記載の条件で成形した2週間以内のサンプルを使用し、表皮から試験片として3×3cmを採取した。切り出した試験片を保管する際はアルミホイルで2重に包んだ後、洗浄したジップロックで保管することが可能。保管は標準状態(23±2℃、相対湿度50±5%)が望ましい。
【0074】
(4)官能試験条件
試験片をステンレス製またはスチール製の容器に入れ、順風乾燥機内で100±2℃、1時間加熱した。加熱後、容器を取り出して室温まで冷却した(最低30分以上放置した)。
官能試験手順
室温冷却した試験片の臭気を嗅ぐ。容器の蓋をスライドさせるように開け、パネラー1人ずつ順番に臭気を嗅いだ。評価は必ず5人以上で行い、パネラーは臭気判定に支障が出ないよう試験1時間前から飲食を禁止とした。用いた4L容器で評価を行ったため、1つの容器で3人までで評価を行った。
【0075】
(5)試験評価方法
成形表皮から発せられる臭気を、以下の判定基準で評価した。
判定基準はにおい紙に臭気基準物質C10−5(第一薬品産業(株)製、強度:3.0、快不快度:−2.0)を先端から1cm浸したもののにおいと比較することによって行った。パネラーのにおい結果データを集計し、強度、快不快度を平均値で評価した。
強度、快不快度の評価基準については以下の通りで行った。
【0076】
(6)強度
5.0…基準臭よりも強い(強烈な)におい
4.0…基準臭よりもやや強い(強い)におい
3.0…基準臭と同じ(楽に感知できる)におい
2.0…基準臭よりもやや弱い(何のにおいかわかる弱い)におい
1.0…基準臭よりも弱い(やっと感知できる)におい
0 …無臭
【0077】
(7)快不快度
3.0 …非常に快
2.0 …快
1.0 …やや快
0 …快でも不快でもない
−1.0…やや不快
−2.0…不快(基準臭と同じ不快度)
−3.0…非常に不快
【0078】
<ケチミン化率測定法>
電位差滴定装置として(株)エクレア 製、AUT−501を使用して、上記記載の方法で測定した。
<ケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(NMR法)>
核磁気共鳴装置として日本ブルカー(株)製ULTRASHIELD 400PLUSを使用して、上記記載の方法で測定した。
<ケトン2分子縮合物(C)の含有率測定法(GC/MS法)>
ガスクロマトグラフ質量分析計として(株)島津製作所 製:GC/MS QP2010plusを使用して、上記記載の方法で測定した。
<数平均分子量測定法>
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)[昭和電工のSHODEX−KFタイプ、溶媒は、DMFを使用]で測定した。
<体積平均粒径測定法>
平均粒子径および粒子径分布は、レーザー回折式粒子径分布測定装置[日機装(株)製:HRA−9320−X100]で測定した。
【0079】
有機溶媒(D)存在下でケチミン化反応を行ない、かつケチミン化率を70〜95%とした製造例5〜10では、ケトン2分子縮合物(C)を低減できたことが表1の結果よりわかった。特に、有機溶媒(D)としてヘキサンを用いた製造例7,8においてよりケトン2分子縮合物(C)を低減できたことがわかった。
さらに製造例5〜10のケチミン化合物を使用して得られた熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X−1)〜(X−6)を成形して得られた表皮は、臭気が少ないことが表2の結果よりわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の製造方法で得られるジアミン鎖伸長剤(ケチミン化合物)を使用して製造されるウレタン樹脂粉末を成形して得られる成形品は、従来に無い低臭気性に優れるので、例えば自動車内装材等に適用できる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン(A)とケトン(B)を下記の有機溶媒(D)の存在下で(A)と(B)のケチミン化率が70〜95%になるようにケチミン化反応させて、ケトン(B)の2分子縮合物(C)の合計含有量が0.05〜2.0mol%であるケチミン化合物(K)を得て、(K)を鎖伸長剤として用い、ウレタンプレポリマー(U)と反応させることにより、臭気の少ない熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末を得る熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の製造方法。
有機溶媒(D):30〜100℃で水と共沸し、誘電率2.0〜20である有機溶媒
【請求項2】
有機溶媒(D)が炭素数3〜9の炭化水素化合物、炭素数3〜9のアルコール及び炭素数3〜9のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒(D)がヘキサン、トルエン、ペンタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ケトン(B)がアセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ジアミン(A)1molに対して、有機溶媒(D)1.1〜2.0mol、ケトン(B)4.5〜10.0molを仕込み、ジアミン(A)とケトン(B)を反応させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
40〜100℃でジアミン(A)とケトン(B)を反応させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)の製造方法により得られた熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末(E)に、さらに添加剤(H)を加えて、臭気の少ない熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物を得る熱可塑性ポリウレタンウレア樹脂粉末組成物(X)の製造方法。


【公開番号】特開2012−251010(P2012−251010A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122108(P2011−122108)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】