説明

熱可塑性ポリウレタン成形物

【課題】熱可塑性ポリウレタン成形物に対してX線検知性と耐摩耗性とをバランスよく付与させること。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン成形物であって、前記X線造影剤として三酸化ビスマスが含有され、該三酸化ビスマスが前記熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して3質量部以上35質量部以下含有されており、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン成形物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン成形物に関し、より詳しくは、X線造影剤を含有する熱可塑性ポリウレタン成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品製造ラインにおいては、ゴムや樹脂などからなる成形物が装置を構成する部材として採用されており、例えば、食品搬送装置のコンベヤベルトの形成材料としては、熱可塑性ポリウレタンなどの軟質な樹脂やゴムが採用されている。
特に、熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントやソフトセグメントといった分子構造の調整によって強度等の特性を調整することができ、一般的なゴム成形物がカーボンブラックやプロセスオイルなどの配合剤によって物性の調整を図っているのに対して樹脂単独でも特性を調整し易いという利点を有することからこの種の用途に広く用いられている。
【0003】
ところで、食品製造ラインにおいて混入した異物がそのまま食品中に混入すると大きな問題に発展するおそれを有することから、従来、下記特許文献1に示すようなX線検査装置を用いて食品などに混入した異物検知を実施することが行われている。
【0004】
この種の異物が金属製の部材によるものであれば、比較的容易に検知することができるもののゴムや樹脂製の成形物から発生した破片は磁気やX線で検知することが難しい。
従って、食品製造ラインにおいて熱可塑性ポリウレタンなどで形成された部材を用いようとすると破片が生じた際に検知することが難しくなるという問題を有する。
このような問題について、例えば、特許文献2では、ゴム製の部材にX線造影剤を含有させてX線による検知性を付与させることが試みられており、飲料製造ラインにおける配管のゴム製シール材を硫酸バリウムなどのX線造影剤を含有するゴム組成物で形成させることが開示されている。
【0005】
ここで熱可塑性ポリウレタン成形物に対しても特許文献2のゴム製シール材と同様にX線造影剤を含有させる試みがなされているが(特許文献3)、X線造影剤として用いられる無機粉末の導入によって熱可塑性ポリウレタン成形物の耐摩耗性が損なわれてしまうおそれを有する。
このような熱可塑性ポリウレタン成形物に対するX線検知性の付与と該X線検知性の付与された熱可塑性ポリウレタン成形物の耐摩耗性とを勘案した上での配合検討はこれまで十分になされておらず、耐摩耗性とX線検知性とに優れた熱可塑性ポリウレタン成形物を得ることが困難な状況になっている。
なお、このような問題は、食品製造ラインを構成する部材に特有なものではなく、熱可塑性ポリウレタン成形物に広く一般的にその解決が求められているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−083913号公報
【特許文献2】特開2003−96439号公報
【特許文献3】特開2010−280772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題の解決を図ることを課題としており、熱可塑性ポリウレタン成形物に対してX線検知性と耐摩耗性とをバランスよく付与させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための熱可塑性ポリウレタン成形物に係る本発明は、熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン成形物であって、前記X線造影剤として三酸化ビスマスが含有され、該三酸化ビスマスが前記熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して3質量部以上35質量部以下含有されており、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下であることを特徴としている。
【0009】
なお、DIN摩耗試験による摩耗体積とはJIS K 6264−2「6.DIN摩耗試験」に記載のA法に基づいて測定した、比摩耗体積(mm3)を意図している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、三酸化ビスマスが所定量含有されるため、熱可塑性ポリウレタン成形物をX線検知可能なものとすることができる。
また、DIN摩耗試験による摩耗体積が所定以下となっており、種々の用途において求められている耐摩耗性を満足させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明に係る熱可塑性ポリウレタン成形物として、食品加工場内において材料・製品などの搬送を行う搬送装置の搬送路から搬送物品がこぼれないように搬送路の両サイドや出口に設けられるシート状ストッパなどの形成に好適な熱可塑性ポリウレタンシートを例にその実施形態を具体的に説明する。
【0012】
本実施形態における熱可塑性ポリウレタンシートは、熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン組成物によって形成されている。
【0013】
このような熱可塑性ポリウレタンシートを構成する前記熱可塑性ポリウレタン組成物には、前記X線造影剤として三酸化ビスマスを含有させ、しかも、該三酸化ビスマスを、前記熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して3質量部以上35質量部以下となる割合で含有させることが熱可塑性ポリウレタンシートに優れたX線検知性を付与する上において重要であり、X線検知性と耐摩耗性とをバランスよく両立させる観点から、望ましくは、5〜30質量部、更に望ましくは、10〜20質量部である。
また、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンシートは、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下であることが重要である。
【0014】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物の主成分となる熱可塑性ポリウレタンとしては、特に限定されることなく、公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、又はポリカーボネート系ポリオールと、ジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなど)と、鎖延長剤(エチレンジアミン、1,6−ヘキサンジオールなど)との反応によって得られるポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどを挙げることができる。
なかでも、耐摩耗性、耐久性、屈曲性、耐油性、耐熱性などの特性に優れた熱可塑性ポリウレタンシートを形成させ得る点においてポリエステル系ポリウレタンが好ましく用いられる。
【0015】
ポリエステル系ポリウレタンを構成するポリエステルポリオールとしては、アジペート系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、カーボネート系ポリエステルポリオールなどを挙げることができる。
アジペート系ポリエステルポリオールは、アジピン酸と1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのポリオールとの脱水縮合反応によって得ることが出来る。
ラクトン系ポリエステルポリオールは、ε−カプロラクトン、β―メチル−δ―バレロラクトンなどの開環重合により得ることが出来る。
また、カーボネート系ポリエステルポリオールは、アルキレングリコール(1,6−ヘキサンジオール等)と炭酸エステル(ジフェニルカーボネート等)とのエステル交換反応またはホスゲンとアルキレングリコールとの反応によって得ることができる。
【0016】
本実施形態においては、上記のポリエステルポリオールのなかでも、耐摩耗性、耐久性、屈曲性が特に優れた熱可塑性ポリウレタンシートを形成させ得る点においてポリカプロラクトンポリオールが最も好ましく用いられる。
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンシートに優れた耐摩耗性が付与されることにより該熱可塑性ポリウレタンシートが搬送装置の搬送路の両サイドや出口に設けられるシート状ストッパなどに用いられる場合において、X線検査装置に導入される被検査物との擦れによる摩耗粉の発生を抑制させうる。
また、熱可塑性ポリウレタンシートに優れた耐久性、屈曲性が付与されることにより、前記ストッパの耐用期間の長期化を期待することができる。
【0017】
前記X線造影剤としては、本実施形態においては前記のように三酸化ビスマスが用いられる。
用いる三酸化ビスマスとしては、特に限定されるものではないが焼成工程を経て作製されたものが好ましい。
三酸化ビスマスは、硝酸ビスマス水溶液に水酸化ナトリウムを加えて沈殿させた沈殿物を単に乾燥させただけのもの(以下「塩基製法」ともいう)が一般的ではあるが、該塩基製法による三酸化ビスマスを、例えば、400℃〜600℃の温度で2時間以上加熱する焼成工程を実施して作製されたものが知られており本実施形態に係る三酸化ビスマスとしては、作製する熱可塑性ポリウレタンシートに対してより優れた耐摩耗性を付与し得る点においてこのような焼成工程を経て得られた三酸化ビスマスをX線造影剤として用いることが好ましい。
また、塩基製法によって得られた三酸化ビスマスにガスバーナーで1〜10分間程度の焙焼を行う焼成工程を実施することによっても上記と同等の三酸化ビスマスを得ることができる。
また、これとは別に焼成工程を実施する三酸化ビスマスの製造方法としては、水酸化ビスマス、炭酸ビスマス、又は、ビスマスアルコキシドを焼成する方法等が知られているが、熱可塑性ポリウレタンシートに対してより優れた耐摩耗性を付与し得る点においては、このようなものも同じである。
【0018】
なお、用いる三酸化ビスマスは、600℃まで加熱した際に0.1質量%以下の加熱減量を示す状態になっているものであることが好ましく、0.05質量%以下の加熱減量を示すものが特に好ましい。
この加熱減量については、熱重量分析(TGA)等によって測定することができ、下記条件のTGAを実施して測定することができる。
パージガス:窒素
パージガス流量:パージガス(縦方向)60ml/min、バランス(横方向)40ml/min
昇温速度:10℃/min
試料皿:白金
温度範囲:常温〜600℃
【0019】
また、三酸化ビスマスは、主としてα型(単斜晶型)の結晶構造となっていることが好ましい。
【0020】
本実施形態において三酸化ビスマスの含有量を、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して3質量部以上35質量部以下としているのは、3質量部未満では、熱可塑性ポリウレタンシートに十分なX線検知性が発揮されないおそれを有するためであり、35質量部を超えて含有させても熱可塑性ポリウレタンシートに必要以上に高いX線検知性を付与させることになるばかりでなく、熱可塑性ポリウレタンシートを過度に重たくさせたり、材料コストを過度に増大させたりするおそれを有するためである。
また、35質量部よりも多くなるとX線造影剤の混合を原因とした熱可塑性ポリウレタンの機械的物性(引張強さ、破断伸びなど)の低下が大きくなるおそれを有し、熱可塑性ポリウレタンシートの耐摩耗性の観点からも、過度に三酸化ビスマスを含有させることは好ましいものではない。
【0021】
なお、本実施形態の熱可塑性ポリウレタンシートに用いる熱可塑性ポリウレタン組成物は、実質上、前記熱可塑性ポリウレタン、及び、前記三酸化ビスマスのみからなるものとすることができ、必要であれば、他の配合物を含有させることも可能である。
【0022】
例えば、本実施形態の熱可塑性ポリウレタンシートが、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下となる範囲であれば、他のX線造影剤を含有させることもできる。
この他のX線造影剤としては、硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、タングステン酸ビスマスなどの三酸化ビスマス以外のビスマス系化合物、硫酸バリウムなどのバリウム系化合物、酸化タングステン、タングステンカーバイドなどのタングステン系化合物、あるいは、タングステンなどが挙げられる。
さらには、他のX線造影剤として、モリブデン、錫、タンタル、レニウム等の金属または金属化合物を含有させることも可能である。
【0023】
ただし、これらのX線造影剤をさらに含有させることによって熱可塑性ポリウレタンシートのX線検知性をさらに向上させることができるというメリットと、熱可塑性ポリウレタンシートの耐摩耗性を低下させるというデメリットとを比較すると、他のX線造影剤では前記三酸化ビスマスに比べてデメリットの割合が大きい。
従って、熱可塑性ポリウレタンシートに含有させるX線造影剤の内、50質量%以上が三酸化ビスマスであることが好ましく、X線造影剤には、三酸化ビスマスのみを用いることがより好ましい。
しかも、含有させる三酸化ビスマスの内、質量割合で50%以上に焼成工程を経て得られたものを採用することが好ましく、熱可塑性ポリウレタンシートに含有させる全ての三酸化ビスマスを焼成工程を経て得られたものとすることが特に好ましい。
即ち、熱可塑性ポリウレタンシートに含有させるX線造影剤を、実質上、焼成工程を経て得られた三酸化ビスマスのみとすることが特に好ましい。
【0024】
また、熱可塑性ポリウレタン組成物には、熱可塑性ポリウレタンとの相溶性に優れた他のポリマーを含有させることもでき、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、安定剤、着色剤などの添加剤をその他の成分として加えることができる。
このような添加剤は、熱可塑性ポリウレタンシートを形成させるための熱可塑性ポリウレタン組成物に、通常、5質量%以下となる割合で含有させることができる。
【0025】
なお、熱可塑性ポリウレタンシートは、帆布などを芯材に用いて補強を図ることも可能であり、前記帆布を熱可塑性ポリウレタンシートの構成に採用する場合であれば、ポリエステル繊維、アラミド繊維などからなる糸を用いて織製された帆布などを採用することができる。
この帆布には熱可塑性ポリウレタン組成物との接着性を向上させるための表面処理を施してもよい。
【0026】
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンシートは、一般的なシート形成手段によって作製することができ、例えば、熱可塑性ポリウレタン組成物を押出成形機からシート状に押し出させたり平板形状の内部空間を有する金型を用いたインジェクション成形を実施したりして作製することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、熱可塑性ポリウレタン成形物の好適な態様として搬送装置の搬送路の両サイドや出口に設けられる熱可塑性ポリウレタンシートを挙げているが、欠けなどが生じやすくX線検知性が求められるとともに優れた耐摩耗性が求められる点においては、食品搬送用のコンベヤベルト、Vベルト、歯付ベルトなどの伝動ベルトも同じであり、これらの用途も熱可塑性ポリウレタン成形物の好適な態様として挙げられる。
これらの熱可塑性ポリウレタン成形物も、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下であれば、一般に求められる耐摩耗性を満足させることができる。
【0028】
また、本発明においては、上記の例示の事項に従来公知の技術事項を適宜付加することができ、上記例示の熱可塑性ポリウレタン成形物に種々の変更を加えうるものである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
(使用材料)
熱可塑性ポリウレタンシートを作製するための材料として、以下に示すように熱可塑性ポリウレタンと2種類の三酸化ビスマスを準備した。
・熱可塑性ポリウレタン:
ポリカプロラクトン系ポリウレタン(大日精化株式会社製、商品名:レザミンP−4070)
・三酸化ビスマス(No.1):
焼成工程が実施されて作製された、TGAでの常温から600℃まで加熱した際における加熱減量が0.05%弱のα型(単斜晶系)の三酸化ビスマス。
・三酸化ビスマス(No.2):
焼成工程が実施されておらず、TGAでの常温から600℃まで加熱した際における加熱減量が約0.15%の三酸化ビスマス。
【0031】
(シート作製方法)
前記熱可塑性ポリウレタン100質量部に対する三酸化ビスマスの含有量が下記表1の割合となるように厚み2.0mmの熱可塑性ポリウレタンシートを作製した。
また、比較のために三酸化ビスマスを含有させずに熱可塑性ポリウレタンシートを作製した。
得られたシートの性能を表1に示す。
【0032】
なお、硬度(JIS K 6253のタイプAデュロメータ硬さ)、100%モジュラス、引張り強さ、伸度及び引裂き強さはJIS K7311に基づいて測定した。
なお、摩耗体積については、JIS K 6264−2「6.DIN摩耗試験」に記載のA法に基づいて、比摩耗体積(mm3)を測定した。
【0033】
また、X線検知性については、得られた熱可塑性ポリウレタンシートを5mm角にカットしたテストピースを作製し、市販の鰹節削り節パック(ヤマキ(株)製、商品名「花かつお」、35g入り)の袋を開封し、前記テストピースを入れて再度封入してX線異物検出機(株式会社イシダ製、IX−G−2475)のコンベヤベルト上に載置、電圧30V、電流8mAに設定されたX線管の下方を30m/分の移動速度で通過させて検査画像を観察し、鰹節パックの外観画像と比較してテストピースの画像の判別性(黒色の程度)を見た。
なお、判定基準は以下の通りとした。
○;濃黒色の画像であるので、容易に存在を確認できた。
○〜△;黒色の画像であるので、存在を確認できた。
△;存在を確認できたが淡黒色の画像であるので、商品との色相差は小さい。
△〜×;画像の色相と商品の色相の差がほとんどなく、存在の確認が困難であった。
×;画像の色相と商品との色相に差が実質的になく、存在の確認が極めて困難であった。
【0034】
さらに、目視識別性については、熱可塑性ポリウレタンシートを20mm角にカットしたテストピースを作製し、これを先の鰹節パックから取り出した削り節と混合して、目視によるテストピースの検知性を以下の基準で評価した。
○;色相の差が極めて大きく、容易に見分けることができた。
○〜△;色相の差が大きく見分けることができた。
△;見分けることはできたが、色相の差は小さかった。
△〜×;色相差が小さく見分けることが困難であった。
×;色相差が実質的になく見分けることが非常に困難であった。
【0035】
なお、熱可塑性ポリウレタンシートには、特段着色剤を含有させてはいないが、三酸化ビスマスを含有させることで黄色を呈する状態となっていた。
上記の目視識別性は、この黄色の色相による視認度合いを評価したものである。
例えば、下記表1の「シート4」をKONICA MINOLTA社製の分光測色計「CM−3600d SPECTROPHOTOMETER」で測定したところ、L***表色系で、L*=87.8、A*=−9.01、B*=29.31の測定結果が得られた。
また、この「シート4」を2枚の石英ガラスで挟み込んで同様に測定を行ったところ、L*=86.8、A*=−7.99、B*=26.68の測定結果が得られた。
さらに、上記No.1の三酸化ビスマスを2枚の石英ガラスで挟み込んで同様に測定を行ったところ、L*=90.8、A*=−7.43、B*=30.39の測定結果が得られ、 上記No.2の三酸化ビスマスを2枚の石英ガラスで挟み込んで同様に測定を行ったところ、L*=86.72、A*=−8.79、B*=27.09の測定結果が得られた。
【表1】

【0036】
上記評価においては、シート2〜シート9については、X線検知性にも優れ、耐摩耗性にも優れる結果となった。
以上のことからも、本発明によれば、破片などが発生した際においても、その検知が容易な耐摩耗性に優れた熱可塑性ポリウレタン成形物が提供されうることがわかる。
【0037】
また、シート2とシート8、シート3とシート9を比較すると、焼成工程を経て作製された三酸化ビスマス(No.1)を用いた場合の方が、耐摩耗性に優れた熱可塑性ポリウレタン成形物を得るのに有利であることがわかる。
なお、塩基製法で作製された三酸化ビスマスを含有する熱可塑性ポリウレタンシートは、シートに成形した段階で灰色を呈した。
一方、焼成工程を経て作製された三酸化ビスマスを含有する熱可塑性ポリウレタンシートは黄色を呈しており、焼成工程の有無によってシート成形段階の色相に大きな差が見られた。
また、塩基製法によって作製された(焼成工程の実施されていない)三津和化学薬品社製の三酸化ビスマスを直径85mmのアルミ製の平皿に約30g入れてガスバーナー(家庭用ガスバーナー)にて約5分間加熱し、さらに、同様の操作を実施して合計約60gの三酸化ビスマスに対して焼成工程を実施した後、この焼成工程の施された三酸化ビスマスを用いて熱可塑性ポリウレタンシートを形成させたところ、上記No.1の三酸化ビスマスを用いた場合と同様の傾向を示すことが確認された。
以上のことからも、焼成工程を経て作製された三酸化ビスマスを用いることが耐摩耗性に優れた熱可塑性ポリウレタン成形物を得るのに特に好適であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン成形物であって、
前記X線造影剤として三酸化ビスマスが含有され、該三酸化ビスマスが前記熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して3質量部以上35質量部以下含有されており、DIN摩耗試験による摩耗体積が100mm3以下であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン成形物。
【請求項2】
前記三酸化ビスマスが、焼成工程を経て作製されたものである請求項1記載の熱可塑性ポリウレタン成形物。

【公開番号】特開2013−18834(P2013−18834A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151935(P2011−151935)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000147833)株式会社イシダ (859)
【出願人】(591098628)ユアサ化成株式会社 (2)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】