説明

熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物

【課題】 層状粘土鉱物が均一に分散されてなることから、力学物性、ガスバリア性等に優れた特性を有し、新規なガスバリア材料として期待される熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物、ガスバリア材料、ガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】 芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を配合してなる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及びそれよりなるガスバリア材料に関するものであり、特に層状粘土鉱物が均一に分散されてなることから、透明性、力学物性、ガスバリア性等に優れた特性を有し、新規なガスバリア材料として期待される熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、引張強度、圧縮永久歪みなどの力学物性、耐摩耗性に優れ、幅広い温度範囲でゴム弾性を示すことから、工業部品、日用品、車両内装材、スポーツ用品等として幅広く利用されている。一般的に熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネートおよび低分子量ジオールなどの鎖延長剤を反応することにより得られ、ジイソシアネート及び鎖延長剤からなるハードセグメント、およびポリオールを主成分とするソフトセグメントにより構成される。
【0003】
そして、該熱可塑性ポリウレタン樹脂の力学物性や耐熱性、ガスバリア性等を向上させるため、熱可塑性ポリウレタン樹脂に層状粘土鉱物を分散させる試みがなされている。しかしながら、層状粘土鉱物は親水性が高く、単に熱可塑性ポリウレタン樹脂と混合する方法では、熱可塑性ポリウレタン樹脂中で層状粘土鉱物が凝集してしまい均一に分散することが困難であり、層状粘土鉱物の添加効果が十分に得られない、という課題があった。
【0004】
そこで、層状粘土鉱物を熱可塑性ポリウレタン樹脂中に均一に分散する方法として、様々な方法が提案されており、例えば陽イオン交換容量が30ミリ当量/100g以上の層状珪酸塩を、灰分量として0.01ないし10重量%含むことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン組成物とすること(例えば特許文献1参照。)、層状物質と水素結合を形成し得る官能基と、イソシアネート化合物とウレタン結合を形成し得る官能基とを有するオリゴマーを、有機オニウムイオン処理した層状物質と混合して有機化粘土膨潤体とし、該膨潤体をイソシアネートと反応させてポリウレタン複合材料を製造する方法(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【0005】
また、ポリウレタン樹脂、膨張性無機層状化合物およびポリアミン化合物を有するガスバリア層が熱可塑性樹脂基材に積層されたガスバリアフィルムが提案されている(例えば特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−041315号公報(特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開平10−168305号公報(特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特許4344673号公報(特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1における層状珪酸塩の均一な分散性とは、分散粒子の平均粒径が5000オングストローム以下である状態を指し、該平均粒径は、例えば透過型電子顕微鏡観察による画像により求められる量であることが記載されている。また、特許文献2における層状粘土鉱物の均一な分散性とは、マトリクス中における層状粘土鉱物の分散密度が著しく不均一ではないことを指し、より好ましくは層状粘土鉱物がポリウレタンのマトリクス中に平均して50オングストローム以上の層間距離をもって分散していることであることが記載されており、これら分散性は、層状粘土鉱物の機能性を十分に発揮させるうえで依然課題を有するものあり、更なる分散性の向上が望まれていた。
【0008】
また、特許文献3においては、ポリウレタン樹脂に膨張性無機層状化合物として、水膨潤性雲母またはモンモリロナイトを分散させたガスバリア層が記載されているが、該ポリウレタン樹脂はウレタン基およびウレア基を高濃度に含有し、ソフトセグメント成分が乏しいことから、該ガスバリア層は引張強度、柔軟性などの力学物性が乏しくなり、クラックを生じ易いという課題を有するものであった。
【0009】
そこで、本発明は、層状粘土鉱物が均一に分散されてなり、透明性、力学物性、ガスバリア性等に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及びガスバリア材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定の熱可塑性ポリウレタン樹脂及び有機化処理した層状粘土鉱物との組み合わせからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が、層状粘土鉱物の分散性に優れ、優れた透明性、力学物性、ガスバリア性等を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関するものである。
【0012】
以下に本発明に関し、詳細に説明する。
【0013】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を配合してなるものである。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成する芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂として知られる範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、特に層状粘土鉱物と芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂との親和性が向上し、層状粘土鉱物が均一に分散することにより、その配合効果がより顕著に発揮され易くなり、透明性、力学特性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、ポリオール、芳香族系ジイソシアネートおよび鎖延長剤である低分子量ジオールを反応して得られる芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。ここで、脂肪族系熱可塑性ポリウレタン樹脂である場合、たとえ脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化した層状粘土鉱物であっても優れた分散性で分散できず、目的の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得ることはできない。
【0015】
該芳香族系ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと記すこともある。)、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0016】
また、該ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、フマル酸等の2塩基酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコ−ル,ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の低分子量ジオール成分との重縮合により得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトンやメチルバレロラクトン等の環状エステルの開環重合によって得られるラクトン系ポリエステルポリオール;1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の低分子量ジオール成分に炭酸ジフェニルあるいはホスゲンを作用させて縮合させたポリカーボネートジオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレレンポリオール、およびこれらの水添物等のポリオレフィンポリオール;ヒマシ油変性ポリオール、ダイマー酸変性ポリオール、大豆油変性ポリオール等の植物油系ポリオールなどが挙げられる。
【0017】
該ポリオールの分子量としては、目的とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に応じて選択すればよく、特に柔軟性と強度のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、500〜3000のものが好ましい。該ポリオールは1種類又は2種以上が組み合わされたものであってもよく、また、その比率は特に制限はなく、用途に応じて任意に設定できる。
【0018】
該低分子量ジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール,ジエチレングリコ−ル,2−メチル−1,3−プロパンジオール,3−メチル−1,5−ペンタンジオール,シクロヘキサンジオール,シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0019】
そして、該芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、市販品であってもよく、例えば(商品名)P485RSUI(日本ポリウレタン工業株式会社製)、(商品名)P25MRNAT(日本ポリウレタン工業株式会社製)、(商品名)E990PNAT(日本ポリウレタン工業株式会社製)などが市販品として入手できる。
【0020】
また、該芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、柔軟性と力学強度のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が得られることから、ハードセグメント濃度30〜60重量%の芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。なお、一般的にハードセグメント濃度とは熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるジイソシアネートと鎖延長剤である低分子量ジオールからな構成単位の濃度であり、本発明でいうハードセグメント濃度とは、該芳香族系ジイソシアネートと鎖延長剤である低分子量ジオールからな構成単位の芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂中における濃度である。因みにポリオールからなる構成単位は一般的にソフトセグメントと称する。
【0021】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成する層状粘土鉱物としては、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化した層状粘土鉱物であれば如何なるものを用いることも可能であり、該脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化した層状粘土鉱物は、層状粘土鉱物を脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウム塩で処理し、層間に存在するナトリウムやカルシウムなどの交換性陽イオンをアンモニウムイオンによりイオン交換する方法、層状粘土鉱物の表面に存在する水酸基を利用し、化学結合あるいは水素結合により変性する方法、等の方法により得ることができる。ここで、未処理層状粘土鉱物又は脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオン以外のイオンにより有機化した層状粘土鉱物である場合、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂に優れた分散性で分散できず、目的の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得ることはできない。
【0022】
その際の層状粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物;バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられ、これら層状粘土鉱物は天然物であっても、合成物であってもよく、更に、1種類又は2種以上が組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限されるものではない。
【0023】
また、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンとしては、特に制限はなく、例えばジ(ヒドロキシメチル)ジメチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)ジエチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチルエチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチルオクチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)エチルオクチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチルプロピルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)エチルプロピルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチル牛脂アンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)エチル牛脂アンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチルココアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)エチルココアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)メチルアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシメチル)エチルアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)ジエチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチルエチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチルオクチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)エチルオクチルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチルプロピルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)エチルプロピルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチル牛脂アンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)エチル牛脂アンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチルココアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)エチルココアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)メチルアルキルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)エチルアルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0024】
そして、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物は、市販品であってもよく、例えばジ(ヒドロキシエチル)メチル牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理されたモンモリロナイト(Southern Clay Products社製、(商品名)Cloisite30B)、ジ(ヒドロキシエチル)メチルアルキル4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性マイカ(コープケミカル株式会社製、(商品名)ソマシフMEE)などが市販品として入手できる。
【0025】
該脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物は、特に透明性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから10nm〜10μmの平均粒径を有するものであることが好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を配合してなるものであり、特に透明性、力学特性、ガスバリア性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから1〜10重量部を配合してなるものであることが好ましい。ここで、該層状粘土鉱物の配合量が0.1重量部未満である場合、得られるポリウレタン樹脂組成物は力学特性、ガスバリア性に劣るものとなる。一方、該層状粘土鉱物が10重量部を超える場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物中で該層状粘土鉱物が凝集し、分散性に乏しくなる結果、透明性、力学物性等が著しく低下した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となる。
【0027】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂と脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物を組み合わせてなることを特徴とするものであり、これにより、該層状粘土鉱物と芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂との親和性が著しく向上し、該層状粘土鉱物が凝集することなく均一に分散し、優れた特性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となるものである。なお、該層状粘土鉱物が芳香族系ポリウレタン樹脂に均一に分散する理由については定かでないが、芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂を構成するハードセグメント内のウレタン基と該層状粘土鉱物の有機化に用いられる脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンの水酸基との間の相互作用により、該層状粘土鉱物の層間および表面にハードセグメントが吸着する結果、該層状粘土鉱物の凝集が抑制され、均一な分散が達成されるものと考える。
【0028】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、該層状粘土鉱物の分散性に優れ、透明性、力学特性、ガスバリア性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、JIS K 7136(2000年版)に準拠し、試料厚み500μmの条件で測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値より同様にして測定した芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を差し引いた値、すなわちデルタヘイズが0〜15%の範囲内を有するものであることが好ましい。
【0029】
そして、従来より層状粘土鉱物の分散性を評価する方法として、透過型電子顕微鏡(TEMと称することもある。)による分散状態の直接観察、X線回折法による層状粘土鉱物の層間距離の測定が利用されている。しかし、TEMによる直接観察は試料の極めて限られた部分の分散状態を観察する場合に適した評価方法であり、TEM観察の結果が必ずしも試料全体の平均的な分散性を示すものとは言えない。また、層状粘土鉱物の層間距離については、該評価方法により必ずしも層状粘土鉱物の凝集の有無を判断できるものではない。一方、デルタヘイズの増加は、ヘイズを指標とした熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の透明性が層状粘土鉱物を配合することで悪化することであり、これは層状粘土鉱物の凝集物がポリウレタン樹脂内に生成し、分布していることを示す。そして、このような凝集物の生成により、層状粘土鉱物の配合効果が乏しくなるばかりか、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の透明性、力学特性の著しい低下を意味するものである。従い、該デルタヘイズによる評価は本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における層状粘土鉱物の分散性評価に適したものであり、透明性、力学物性、ガスバリア性等の指標ともなるものである。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成する層状粘土鉱物を熱可塑性ポリウレタン樹脂中に均一に分散させた場合の力学物性に対する効果としては、例えば引張強度の低下を最低限に抑制しつつ、弾性率を大幅に向上するなどが挙げられる。
【0031】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法としては、例えば該芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂と脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機処理した層状粘土鉱物を一般的な方法により混合、混練することにより製造することができ、その際の混合、混練の装置としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を挙げることができる。
【0032】
また、該脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機処理した層状粘土鉱物を芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料である例えばポリオールに混合、分散させた後、該混合物に芳香族系ジイソシアネートおよび低分子量ジオールを添加し、重合反応させる方法、あるいは、該層状粘土鉱物を芳香族系ジイソシアネートに混合、分散させた後、該混合物に鎖延長剤およびポリオールを添加し、重合反応させる方法、さらには、ポリオールと芳香族系ジイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーに該脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機処理した層状粘土鉱物を混合、分散させた後、該混合物に低分子量ジオールを添加し、重合反応させる方法などにより製造することができる。さらに、これらの反応は、溶媒中にそれぞれの成分を溶解あるいは分散させて行うこともできる。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、従来公知の成形方法により成形体とすることができ、例えば射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト法射出成形、溶融押出成形、多層押出成形、溶液キャスティング(溶液流延)、カレンダー成形、回転成形、熱プレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、発泡成形などの方法により、射出成形体、フィルム、チューブ、シート、パイプ、ボトルなどに成形することができる。
【0034】
また、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は優れた透明性、力学特性、ガスバリア性を有することから、例えば下記の用途に使用することができる。
【0035】
自動車部品;タイヤ用インナーライナー、ボールジョイント、ダストカバー、ペダルストッパー、ドアーロックストライカー、ブッシュ、スプリングカバー、軸受け、防振部品、内外装部品、タイヤチェーン、サイドモールド、タイミングベルト、ヘッドレスト、座席シート。
【0036】
機械工業部品;各種ギアー、シール材、ローラー、パッキン、防振部品、ピッカー、ブッシュ、軸受け、キャップ、コネクター、ラバースクリーン、印字ドラム、Oリング、キャスター。
【0037】
靴;野球、ゴルフ、サッカーシューズ等のソールおよびポイント、エアークッション、婦人靴トップリフト、スキー靴、安全靴。
【0038】
ホース、チューブ;高圧ホース、医療用チューブ、油・空圧チューブ、エアチューブ、燃料チューブ、塗装用ホース、消防用ホース。
【0039】
電線、ケーブル;電力・通信ケーブル、コンピュータ・自動車配線、各種カールコード。
【0040】
その他;コンベアーベルト、エアーマット、ダイアフラム、キーボードシート、防水シート、合成皮革、ライフジャケット、ウェットスーツ、ローラー、グリップ、時計バンド、ゴルフボール、イヤータッグ、各種ロープ、丸ベルト、Vベルト、スリップ止め、視線誘導標、フレキシブルコンテナー、バインダー、ホットメルト、接着剤、合成皮革、ロープ・ワイヤ・手袋等のコーティング、食品・医療用包装材料、人工臓器、人工皮膚、紙おむつ、傷バンド、壁紙。
【0041】
さらに、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は優れたガスバリア性を有することから、食品あるいは医療用の包装フィルム、自動車燃料用ホースおよびチューブ、複層ガラスのシール材、キャップ、スポーツシューズ用インソール、スポーツ競技用ボール、タイヤのインナーライナー、土木・防水シートなどのガスバリア性能が要求される用途においてガスバリア材料として好ましく用いることができ、その中でも特にガスバリア性を有したフィルム、すなわちガスバリアフィルムとした場合に優れた性能を発揮する。
【0042】
該ガスバリアフィルムの成形法としては、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形方法と同様の方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、層状粘土鉱物が均一に分散され、透明性、力学物性、ガスバリア性等に優れるものであることから、様々な用途において使用することができ、特に、ガスバリアフィルムを始めとするガスバリア材料として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0045】
以下に、各物性値の測定方法を示す。
【0046】
〜ハードセグメントの濃度〜
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒として測定したH−NMR、13C−NMRの結果より算出した。
【0047】
〜デルタヘイズの測定〜
JIS K 7136(2000年版)に準拠して測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値より芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を差し引いた値をデルタヘイズとして求めた。なお、評価試料は厚み:500μmのフィルムとした。
【0048】
〜貯蔵弾性率の比〜
動的粘弾性測定装置を用い、引張モードにおいて周波数:10Hz、変位量:3μm、昇温速度:2℃/分の条件で芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の動的粘弾性を測定した。そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の23℃における貯蔵弾性率の値を芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂の23℃における貯蔵弾性率の値で除した値を貯蔵弾性率の比として求めた。なお、評価試料は厚み:500μmのフィルムとした。
【0049】
〜引張強度の比〜
JIS K 7311(1995年版)に準拠し、引張速さ:300mm/分の条件で芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の引張強度を測定した。そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の引張強度の値を芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂の引張強度の値で除した値を引張強度の比として求めた。なお、評価試料は厚み:500μmのフィルムとした。
【0050】
〜酸素透過係数の比〜
JIS K 7126 A法に準拠し、23℃の条件で芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の酸素透過係数を測定した。そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の酸素透過係数の値を芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂の酸素透過係数の値で除した値を酸素透過係数の比として求めた。なお、評価試料は厚み:300μmのフィルムとした。
【0051】
以下に、実施例に用いた原料を示す。
【0052】
〜熱可塑性ポリウレタン樹脂〜
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂A(以下、芳香族系PU(A)と記す。);日本ポリウレタン工業株式会社製、(商品名)P485RSUI、(構成原料)MDI/1,4−ブタンジオール/ポリ−1,4−ブタンアジペート、ハードセグメント濃度:37重量%。
【0053】
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂B(以下、芳香族系PU(B)と記す。);日本ポリウレタン工業株式会社製、(商品名)P25MRNAT、(構成原料)MDI/1,4−ブタンジオール/ポリ−1,4−ブタンアジペート、ハードセグメント濃度:45重量%。
【0054】
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂C(以下、芳香族系PU(C)と記す。);日本ポリウレタン工業株式会社製、(商品名)E990PNAT、(構成原料)MDI/1,4−ブタンジオール/ポリカーボネートジオール、ハードセグメント濃度:39重量%。
【0055】
熱可塑性ポリウレタン樹脂D(以下、PU(D)と記す。);日本ポリウレタン工業株式会社製、(商品名)XN−2002、(構成原料)ヘキサメチレンジイソシアネート/1,4−ブタンジオール/ポリカーボネートジオール、ハードセグメント濃度:45重量%。
【0056】
〜層状粘土鉱物〜
ジ(ヒドロキシエチル)メチル牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理されたモンモリロナイト(以下、層状粘土鉱物Aと記す。);Southern Clay Products社製、(商品名)Cloisite30B。
【0057】
ジメチルジ水添牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理されたモンモリロナイト(以下、層状粘土鉱物Bと記す。);Southern Clay Products社製、(商品名)Cloisite20A。
【0058】
有機化処理されていないモンモリロナイト(以下、層状粘土鉱物Cと記す。);Southern Clay Products社製、(商品名)CloisiteNa
【0059】
ジ(ヒドロキシエチル)メチルアルキル4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性マイカ(以下、層状粘土鉱物Dと記す。);コープケミカル株式会社製、(商品名)ソマシフMEE。
【0060】
ジメチルジ牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性マイカ(以下、層状粘土鉱物Eと記す。);コープケミカル株式会社製、(商品名)ソマシフMAE。
【0061】
参考例
芳香族系PU(A)〜(C)、PU(D)のヘイズ、23℃における貯蔵弾性率、引張強度、および酸素透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0062】
実施例1
芳香族系PU(A)100重量部に対し、層状粘土鉱物A7重量部を配合し、100mlのバッチ式溶融混錬ミキサーに供して、190℃の条件で10分間、溶融混錬を行い、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0063】
次いで、得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用い、200℃の条件で熱プレス成形を行い、厚み:300μmと500μmの熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物製フィルムのそれぞれを得た。得られたフィルムは透明性に優れるものであった。
【0064】
本フィルムを用いて物性を測定した結果と参考例の結果より、デルタヘイズ、貯蔵弾性率の比、引張強度の比、および酸素透過係数の比を求めた。その結果を表2に示す。
【0065】
実施例2〜7
芳香族系PU(A)〜(C)、層状粘土鉱物A,Dの配合割合を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物製フィルムを得た。得られたフィルムは透明性に優れるものであった。
【0066】
本フィルムを用いて物性を測定した結果と参考例の結果より、デルタヘイズ、貯蔵弾性率の比、引張強度の比、および酸素透過係数の比を求めた。その結果を表2に示す。
【0067】
比較例1〜7
芳香族系PU(A)〜(C),PU(D)、層状粘土鉱物A〜Eの配合割合を表3に示ように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物製フィルムを得た。得られたフィルムは透明性に劣るものであった。
【0068】
本フィルムを用いて物性を測定した結果と参考例の結果より、デルタヘイズ、貯蔵弾性率の比、引張強度の比、および酸素透過係数の比を求めた。その結果を表3に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ポリオール、芳香族系ジイソシアネート及び低分子量ジオールよりなる芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ハードセグメント濃度30〜60重量%の芳香族系熱可塑性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族系ジ(ヒドロキシアルキル)アンモニウムイオンにより有機化処理した層状粘土鉱物が、ジ(ヒドロキシエチル)メチル牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理したモンモリロナイト及び/又はジ(ヒドロキシエチル)メチルアルキル4級アンモニウムイオンで有機化処理した膨潤性マイカであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K 7136(2000年版)に準拠し、試料厚み500μmの条件で測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値より同様にして測定した芳香族熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を差し引いた値が0〜15%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなることを特徴とするガスバリア材料。
【請求項7】
ガスバリアフィルムであることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア材料。

【公開番号】特開2011−127005(P2011−127005A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287201(P2009−287201)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】