説明

熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物

【課題】 耐熱性・耐湿熱性が高く、白色の発光ダイオードの導光色が着色せず、白色の発光ダイオードの導光輝度が高い熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いた導光板を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネートポリオール(A)、鎖延長剤(B)として奇数の炭素数を有する直鎖状ジオール、および脂肪族・脂環族系の有機ジイソシアネート(C)を反応させて得られる導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用いることで解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及びそれを用いた導光板に関する。更に詳細には、導光色が着色せず、導光輝度が高く、柔軟性や屈曲性に富み、適度な硬度を有する、長期使用での耐熱性や非粘着性等の耐久性に優れた導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及びそれを用いた導光板に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、一般に、ジイソシアネートと鎖延長剤から成るハードセグメントブロックとポリオールとジイソシアネートから成るソフトセグメントブロックを繰り返し単位とするブロック共重合体である。
従来より熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ロール、チューブ、塗料、接着剤、磁気記録媒体用バインダー等、広範囲の分野に用いられている。また熱可塑性ポリウレタン樹脂は、他の樹脂より低温特性に優れ、柔軟性に富み、耐久性も良好であるので、このような特性を生かした、合成皮革、フィルム、成形用シートとしても広く用いられている。
【0003】
中でも熱可塑性ポリウレタン樹脂製の成形品は、自動車計器パネルの表皮、水着やブラジャー、電子機器のキーパッド、電子部品のトレー、エアーマット、ウォーターベッド、各種保護ケース、導光体用途等に用いられている。
【0004】
LED(発光ダイオード)を光源とし、液晶ディスプレイ等を発光させるための導光モジュールのひとつに導光板があるが、この導光板を形成する材料としては、通常透明性に優れた重合体又はそれを含む組成物が用いられ、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が知られている。
【0005】
特許文献1には、脂肪族イソシアネート、C4系ポリエーテルポリオール(A)とC2−C3系ポリエーテルポリオール(B)の混合物、及び鎖伸長剤からなる柔らかで透明で加工可能な光学用途に適した熱可塑性ポリウレタンが記載されている。
本文献には導光色の着色に関する記述はなく、柔軟性に関しての記述はあるが、実使用を想定した耐久性、特に重要な耐熱性に関する視点が一切ない。
ポリエーテルポリオールの骨格は、特に耐熱性が劣ることが公知であり、本文献の発明は耐熱性を要求される用途には適さない。
また、明細書中に列記されている鎖伸長剤の中にも炭素数が奇数のものは側鎖をもつ1,2−プロパンジオールが記載されているが、直鎖で炭素数が奇数のジオールは記載されていない。
【0006】
特許文献2には、(A)ポリエーテルポリオール、(B)ポリカーボネートジオール、(C)脂肪族及び/又は脂環族のポリイソシアネートと(D)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるプレポリマーを含有する導光体形成用組成物及び該組成物で形成された被膜に活性エネルギー線を照射して硬化させた導光シートに関する特許が記載されている。
本文献は、電子線硬化型樹脂の発明であり、本願の熱可塑性樹脂の製造方法とは技術分野が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−114859号公報
【特許文献2】特開2010−180328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、導光板等の光学用途に用いられていた熱可塑性ポリウレタン樹脂用のイソシアネートとしては、黄変しない特性を有する脂肪族系・脂環族系のジイソシアネートが用いられてきた。
また鎖延長剤としては、入手のし易さ、使い勝手等から1,4−ブタンジオールが主に使われている。
しかしながら、ポリカーボネートジオール、脂肪族のヘキサメチレンジイソシアネート、および鎖延長剤に1,4−ブタンジオールを用いた熱可塑性ポリウレタン樹脂から作成した導光体では、白色LED透過光色が黄色から薄赤色を帯び、透過光も暗いという欠点があった。
これに対しては顔料添加等で対処してきたが、時間及び手間がかかり、顔料を添加することでコストもかかるという欠点があった。
また、脂環族イソシアネートを用いた場合は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の軟化温度が脂肪族イソシアネートを用いた場合と比べて低くなり、耐熱性に難があった。
そこで、耐熱性が高く、白色LED光を透過させた時に導光色が着色せず、高輝度で透過可能な熱可塑性ポリウレタン樹脂の導光板が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリオール、鎖延長剤として奇数の炭素数を有する直鎖状ジオール、および有機ジイソシアネートを反応させて得られる導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を使うことにより、白色LED光を透過させた時に導光色が着色せず、耐熱性・耐湿熱性が良好で、熱成形が可能であることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(5)に示されるものである。
【0010】
(1) ポリオール(A)、鎖延長剤(B)として奇数の炭素数を有する直鎖状ジオール、および有機ジイソシアネート(C)を反応させて得られる導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【0011】
(2)有機ジイソシアネート(C)が、脂肪族ジイソシアネートであることを特徴とする前記(1)に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【0012】
(3)鎖延長剤(B)の炭素数が、3〜15で奇数の直鎖状ジオールであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【0013】
(4)ポリオール(A)が、ポリカーボネートポリオールであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【0014】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする導光板。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用いて成形した導光板は、白色LED光を変色させること無く高輝度で透過させることが可能となった。
また、本発明の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用いた導光板は、高い機械物性と柔軟性を併せ持つものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を詳しく説明する。
まず、本発明に用いられる原料について説明する。
【0017】
本発明に用いられるポリオール(A)は、1分子中に水酸基を実質的に2つ有し、数平均分子量が400〜5000の高分子ポリオールである。
ポリオールの数平均分子量は、JIS K1557に従い、水酸基価より算出できる。
また、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いてポリエチレン、ポリスチレン等に換算することでポリオールの数平均分子量を測定できる。
ここで「実質的に2つ」とは、水酸基数が平均で1.7〜2.3の範囲にあることを意味する。
高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。
【0018】
ポリエステルポリオールとしては、低分子量ポリオールと多塩基酸とを、公知の条件下、反応させて得られる重縮合物が挙げられる。
【0019】
低分子量ポリオールとは、水酸基を2つ以上有する数平均分子量60〜400未満の化合物であって、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロパンジオール、1,2−または1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール(以後1,4−BDと略称する)、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール(以後1,6−HDと略称する)、ネオペンチルグリコール、アルカン(7〜22)ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−または1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびそれらの混合物、1,4−シクロヘキサンジオール、アルカン−1,2−ジオール(C17〜20)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(以後MPDと略称する)、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ノルマルプロピル−1,3−プロパンジオール、2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−ノルマルブチル−1,3−プロパンジオール、2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2−ターシャリーブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ノルマルプロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ノルマルブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−3−エチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−エチル−1,4−ブタンジオール、2,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,3,4−トリエチル−1,5−ペンタンジオール、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、p−キシリレングリコール、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソフタレート、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、レゾルシン、ヒドロキノン、2,2´−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,6−ジメチル−1−オクテン−3,8−ジオール、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール、テトラメチロールメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、D−ソルビトール、キシリトール、D−マンニトール、D−マンニットなどの水酸基を4つ以上有する多価アルコールなどが挙げられる。
【0020】
多塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、1,1−ジメチル−1,3−ジカルボキシプロパン、3−メチル−3−エチルグルタール酸、アゼライン酸、セバチン酸、その他の脂肪族ジカルボン酸(炭素数11〜13)、スベリン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、メチルヘキサン二酸、シトラコン酸、水添ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トルエンジカルボン酸、ダイマー酸、ヘット酸などのカルボン酸、および、それらカルボン酸から誘導される酸無水物、酸ハライド、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。
【0021】
低分子量ポリオールと多塩基酸との重縮合物として、具体的には、ポリ(エチレンブチレンアジペート)ポリオール、ポリ(エチレンアジペート)ポリオール、ポリ(エチレンプロピレンアジペート)ポリオール、ポリ(プロピレンアジペート)ポリオール、ポリ(ブチレンヘキサメチレンアジペート)ポリオール、ポリ(ブチレンアジペート)ポリオール、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ポリオールなどが挙げられる。
【0022】
また、ポリエステルポリオールとして、前記低分子量ポリオールを開始剤として、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られる、ポリカプロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオール、さらには、それらに前記2価アルコールを共重合したラクトン系ポリオールなどを挙げることが出来る。
【0023】
ポリカーボネートポリオールは、一般的に低分子ジオールと低分子カーボネートとの縮合反応によって得られる。
【0024】
この低分子ジオールとしては、前記の低分子量ポリオールの2価アルコールが挙げられる。
【0025】
低分子カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(以後DECと略称する)等のジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0026】
ポリオール(A)の好ましい数平均分子量は400〜5,000であり、特に好ましくは500〜3,000である。数平均分子量が400未満の場合は得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂(以後TPUと略称する)の柔軟性が不十分となりやすい。5,000を越える場合は、機械的強度が不十分となりやすい。
本発明に用いられるポリオール(A)としては、ポリカーボネートポリオールが好適に用いられる。ポリカーボネートポリオールを構成する低分子量ポリオールとしては、炭素数2〜10の脂肪族低分子量ポリオールが好ましく、なかでもMPDは得られるTPUにブリードがほとんど起きず、透明性も良好であるので特に好ましい。
ポリカーボネートポリオール中のMPDのような分岐ジオール成分は当量比で1.00から0.60が好ましい。分岐ジオール成分が0.60よりも少なくなるとLED透過光色が着色したり、輝度が低下する。
【0027】
本発明に用いられる鎖延長剤(B)は、奇数の炭素数を有する直鎖状ジオールで、数平均分子量が40〜600の化合物である。
炭素数が3〜15で奇数の直鎖状ジオール(1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール)が好ましい。
これら奇数の炭素数を有する直鎖状ジオールは、単独あるいは2種以上の混合物のいずれの形態で用いても良い。
さらに、これら直鎖状ジオールと低分子ポリオール、ジアミンを併用しても良い。
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミンを挙げることができる。
1,1−メタンジオールは入手が非常に困難であり、炭素数が17以上で奇数の直鎖状ジオールから得られるTPUは、硬度が発現しない。
ポリオールに対する鎖延長剤の当量比は0.50〜2.50が好ましい。当量比が0.50よりも低くなると耐湿熱性が悪くなり、硬度が発現しない等の問題が生じる。また当量比が2.50を超えるとLED透過光色が悪くなる。
【0028】
炭素数が奇数の直鎖状低分子ジオールは、1,4−BD等の炭素数が偶数の低分子ジオールに比べて分子配列の規則性が乱れ、分子間の凝集力がより小さくなる。このため、TPUのジイソシアネートと鎖延長剤からなるウレタン結合が多く集まるハードセグメントの形成が阻害され、相構造が不均一になり、白色LED透過光色が良くなると考えられる。
【0029】
本発明に用いられる有機ジイソシアネート(C)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、および前記イソシアネートのビウレット体、ダイマー体、トリマー体、ダイマー・トリマー体、カルボジイミド体、ウレトンイミン体、2官能以上のポリオール等と前記イソシアネートとの反応で得られるアダクト体が挙げられる。
【0030】
これらの有機ジイソシアネートは、単独あるいは2種以上の混合物のいずれの形態で用いても良い。本発明では得られる導光板用途TPUの耐候性等の点を考慮すると、脂肪族、芳香脂肪族、脂環族から選ばれる無黄変ジイソシアネートが好ましく、特に耐熱性の面から脂肪族のヘキサメチレンジイソシアネート(以後HDIと略称する)が、より好ましい。
鎖延長剤と有機ジイソシアネートからなるハードセグメントの凝集力を小さくする意味で、炭素数が3〜10で、側鎖を有する短鎖ジオールをHDIと反応させたHDIアダクト体をHDIと併用するのがさらに好ましい。
側鎖があると水素結合が形成されにくくなるのでハードセグメントが生成しにくくなる。
この場合HDIとHDIアダクト体との比率は、当量比で70/30〜99/1が好ましい。
HDIアダクト体の当量比が30を超えるとTPUフィルムの強度が出ない。
HDIアダクト体は、2種類以上併用しても良い。
【0031】
TPU製造時において、いわゆるウレタン化触媒の使用は特に限定はないが、使用するほうが反応時間の短縮、反応の完結等の利点があるので好ましい。この触媒としては、通常用いられているウレタン化触媒がいずれも使用できるが、例えばビスマス、鉛、錫、鉄、チタン、ジルコニウム、アンチモン、ウラン、カドミウム、コバルト、トリウム、アルミニウム、水銀、亜鉛、ニッケル、セリウム、モリブデン、バナジウム、銅、マンガン、カルシウム等の有機化合物、無機化合物等が挙げられる。
【0032】
好ましい触媒としてはチタン系触媒、ジルコニウム系触媒が挙げられる。
チタン系触媒としては、チタン酸、テトラアルコキシチタン化合物、チタンアシレート化合物、チタンキレート化合物などを挙げることができ、より具体的には、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのテトラアルコキシチタン化合物、ポリヒドロキシチタンステアレート、ポリイソプロポキシチタンステアレートなどのチタンアシレート化合物、チタンアセチルアセトネート、トリエタノールアミンチタネート、チタンアンモニウムラクテート、チタンエチルラクテートなどのチタンキレート化合物などを挙げることができる。他にも四塩化チタン、二塩化ジブチルチタン、シュウ酸チタンカリウムなどが挙げられる。
ジルコニウム系触媒としては、ジルコニウム水酸化物(ジルコン酸)、ジルコン酸エステル(テトラブチルジルコネート、ジルコニウムイソプロポキサイド、アセチルアセトンジルコニウム等)、酸化ジルコニウム、及びジルコニウム有機酸金属塩(酢酸ジルコニル等)、カルボン酸ジルコニウム塩(カルボン酸としては、酢酸、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、芳香脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のモノカルボン酸類、フタル酸、アジピン酸等の芳香族カルボン酸のポリカルボン酸類など)等が挙げられる。
【0033】
これらの触媒は、単独あるいは2種以上の混合物のいずれの形態で用いてもよい。
使用する触媒の量は他の原料の性質、反応条件、所望の反応時間等によって決定されるものであるので、特に制限されるものではないが、おおむね、触媒は反応混合物の全質量の0.0001〜5質量%、好ましくは約0.001〜2質量%の範囲で使用される。
【0034】
本発明のTPUは更に添加剤を用いることができる。添加剤としては滑剤、溶媒、加水分解防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、充填剤、可塑剤、難燃剤、ブロッキング防止剤、補強用繊維等を必要に応じて使用することができる。
【0035】
次に具体的な製造手順について説明する。
本発明において、TPUは、前記各成分(必須成分としてポリオール(A)、鎖延長剤(B)、有機ジイソシアネート(C)、任意成分として触媒等)を、ワンショット法やプレポリマー法などの公知の合成方法により、合成することが出来る。
【実施例】
【0036】
本発明について、実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例において「%」は「質量%」を意味する。
【0037】
実施例1
70℃に加熱した高分子ポリオールA1(563.35kg)とアセチルアセトンジルコニウム触媒(0.03kg)を均一に混合し、これと60℃に加熱した鎖延長剤B3(166.11kg)、および60℃に加熱した有機ジイソシアネートC1(263.75kg)とC2(6.76kg)の均一混合物とを、混合吐出装置を用いて上記括弧内の質量比で撹拌混合し、この混合液をステンレス製の容器に流し込んだ。
その後、85℃の雰囲気下で16時間キュアし、常温まで放冷後、塊状の熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。
粉砕機を用いてこの塊状物をフレーク状に粉砕し、単軸押出機にてペレット形状に加工した。
得られたペレットを脱水し乾燥させ、別の単軸押出機に供給して溶融混練し、押出機先端のTダイでシート状に押し出し、表面温度30℃の冷却ロールに接触させて冷却した後、巻き取って200μm厚のフィルムを作製した。
得られたフィルムを流れ方向に120mmの長さ及び幅40mmでカットし、白色LEDの透過光色(導光色)及び導光輝度を観察した。さらに、JIS−K7311に規定された方法に準拠して、その他の物性値を測定した。その結果を[表1]〜[表5]に示す。
【0038】
実施例2〜17および比較例1〜18
実施例2〜17,比較例1〜18については、[表1]〜[表5]に記載の原料処方で実施例1と同様の方法で試験片(フィルム)200μm×120mm×40mmを作成し、白色LEDの透過光色(導光色)及び導光輝度を観察した。さらに実施例1と同じ方法でその他の物性値を測定した。その結果を[表1]〜[表5]に示す。
【0039】
実施例1〜17、比較例1〜18、および[表1]〜[表5]において

(A)高分子ポリオール
A1:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A2:MPD/1,6−HD=9/1のジオール成分とDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A3:MPD/1,6−HD=7/3のジオール成分とDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A4:MPD/1,6−HD=6/4のジオール成分とDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A5:MPD/1,6−HD=5/5のジオール成分とDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A6:1,6−HDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量1,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=112.2mgKOH/g)
A7:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量750のポリカーボネートジオール(水酸基価=149.6mgKOH/g)
A8:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=56.1mgKOH/g)
A9:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量3,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=37.4mgKOH/g)
A10:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量500のポリカーボネートジオール(水酸基価=224.4mgKOH/g)
A11:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量3,500のポリカーボネートジオール(水酸基価=32.1mgKOH/g)
A12:MPDとDECとの脱エタノール反応(縮合反応)から得られる数平均分子量4,000のポリカーボネートジオール(水酸基価=28.1mgKOH/g)

(B)鎖延長剤 B1:1,3−プロパンジオール
B2:1,5−ペンタンジオール
B3:1,9−ノナンジオール
B4:1,15−ペンタデカンジオール
B5:1,4−BD
B6:1,6−HD
B7:1,12−ドデカンジオール
B8:1,17−ヘプタデカンジオール

触媒 :アセチルアセトンジルコニウム

(C)ジイソシアネート C1:HDI
C2:HDIに1,3−ブタンジオールを配合したアダクト体
HDI/1,3−ブタンジオール=2/1(モル比)
C3:HDIにネオペンチルグリコールを配合したアダクト体
HDI/ネオペンチルグリコール=2/1(モル比)

[試験方法、および評価方法]
(1)白色LED透過光色評価は、フィルムを120mm×40mmサイズにカットし、120mmの端面からLED光を入射させ、反対側の端面の光の色および輝度を観察し、入射光の色および輝度と比較した。
(2)白色LED透過光の輝度は、(1)の方法で行い、光源と遜色のないものを「○」と判定し、やや劣るものを「△」、さらに劣るものを「×」と判定した。
(3)硬度(HDA)(JIS−A硬度)は、JIS K6253に準じて測定した。
(4)耐湿熱性試験:表面の平滑なPETフィルム上にTPUフィルムをのせ、試験片とした。この試験片を、85℃×85%RH×48時間の雰囲気下に放置後、TPUフィルムとPETフィルムを引き剥がした際に、TPUフィルムに粘着がみられるか否かを確認した。
<評価方法>
取り出した試験片をPETフィルムから剥がした際に、TPUフィルムに粘着が見られない場合を「○」と判定し、フィルムに粘着が見られたり,フィルムが著しく変形した場合を「×」と判定した。
(5)引張強度(MPa)は、JIS K7311に準じて測定した。
(6)引張伸び(%)は、JIS K7311に準じて測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
[表1]は、鎖延長剤の炭素鎖数が奇数(3〜15)の直鎖状ジオールを単独或いは2種類混合した実施例1〜5と、鎖延長剤の炭素鎖数が偶数(4〜12)の直鎖状ジオール、炭素鎖数が奇数で17個の直鎖状ジオール、及び炭素鎖数が偶数と奇数の直鎖状ジオールを混合した比較例1〜5を試験、評価結果を記載したものである。
[表1]から分かるように、鎖延長剤の炭素鎖数が奇数(3〜15)の直鎖状ジオールを用いることにより、白色LED透過光を変色させること無く高輝度で透過させることが確認された。炭素鎖数が偶数(4〜12)の直鎖状ジオールを用いた比較例2〜4、及び炭素鎖数が偶数と奇数の直鎖状ジオールを混合した比較例5は、透過光色が着色し、輝度が低いという結果になった。
【0042】
【表2】

【0043】
[表2]は、HDI(C1)とアダクト体(C2)のイソシアネート成分中のアダクト体の当量比を0.01と0.30に振った実施例1,2,6及びアダクト体を2種類(C2とC3)混合した実施例7と、アダクト体の当量比を0.35と0.00(アダクト体不使用)に振った比較例6〜8を試験、評価結果を記載したものである。
[表2]から分かるように、アダクト体の当量比を0.01と0.30に振ったものはすべて良い結果であった。これは、鎖延長剤を炭素数5,9の直鎖状ジオールに代えても、アダクト体を2種類混合しても同様の結果であった。
アダクト体の当量比を0.35にした比較例6は耐湿熱性が悪く、アダクト体不使用の比較例7,8は透過光色が着色した。また鎖延長剤に偶数の1,4−BDを用いた比較例9はアダクト体の当量比が0.30でも、透過光色が着色し、輝度が低い結果となった。
【0044】
【表3】

【0045】
[表3]は、ポリオール中の分岐ジオール(実施例中ではMPD(3−メチル−1,5−ペンタンジオール))成分の当量比を1.00〜0.60まで振った実施例1,8,9,10と分岐ジオール成分の当量比を0.50,0.00にした比較例10,11を試験、評価結果を記載したものである。
[表3]から分かるようにポリオール中の分岐ジオール成分の当量比が0.60以上の実施例1,8,9,10はすべて良い結果であった。分岐ジオール成分の当量比が0.50,0.00の比較例10,11は透過光色が着色し、輝度が低い結果となった。また、分岐ジオール成分の当量比が0.00(分岐していない直鎖ジオール)に分岐ジオール成分の当量比が1.00のジオールを併用した比較例12は分岐ジオール成分の当量比が実施例9と同じ0.70であるにもかかわらず、透過光色が黄色く着色していた。
【0046】
【表4】

【0047】
[表4]は、ポリオールに対する鎖延長剤の当量比を0.50〜2.50まで振った実施例1及び11〜14と当量比を0.25,3.00,4.00にした比較例13〜15を試験、評価結果を記載したものである。
[表4]から分かるようにポリオールに対する鎖延長剤の当量比が0.50〜2.50の範囲の実施例1及び11〜14はすべて良い結果であった。当量比が0.25の比較例13は硬度の低下と、耐湿熱性の悪化が問題となった。当量比が3.00,4.00の比較例14,15は、透過光色が着色していた。
【0048】
【表5】

【0049】
[表5]は、ポリオールの数平均分子量を750〜3,000まで振った実施例1及び15〜17と数平均分子量を500,3500,4000にした比較例16〜18を試験、
評価結果を記載したものである。
[表5]から分かるようにポリオールの数平均分子量が750〜3,000の範囲の実施例1及び15〜17はすべて良い結果であった。ポリオールの数平均分子量が500の比較例16は耐湿熱性が悪く、数平均分子量が3500,4000の比較例17,18は透過光色が着色し、輝度が低いという結果になった。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(A)、鎖延長剤(B)として奇数の炭素数を有する直鎖状ジオール、および有機ジイソシアネート(C)を反応させて得られる導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
有機ジイソシアネート(C)が、脂肪族ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
鎖延長剤(B)の炭素数が、3〜15で奇数の直鎖状ジオールであることを特徴とする請求項1または2に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオール(A)が、ポリカーボネートポリオールであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の導光性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする導光板。




【公開番号】特開2012−233088(P2012−233088A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102644(P2011−102644)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】