説明

熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルト

【課題】適切な量の抗菌剤及び防かび剤が添加されることにより、細菌の繁殖やかびの発育を防止しつつ、光吸収による変色も抑制できる、熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトを提供すること。
【解決手段】歯付ベルト1は、長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、背部と、複数の歯部又は背部に埋設された心線を有し、複数の歯部と背部は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを基材とするものであり、歯部及び背部を形成する熱可塑性ポリウレタンには、銀を主成分とする抗菌剤と、チアベンゾールを主成分とする防かび剤とが添加されている。さらに、それらの配合量は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、抗菌剤が0.6〜1.0質量部、防かび剤が0.15〜0.25質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性及び防かび性を備えた熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品類の搬送等に使用されるベルトとして、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂を基材とするベルトが広く用いられている。さらに、このようなベルトにおいて、搬送面における細菌の繁殖やかびの発育を抑制するために、基材である熱可塑性樹脂に、抗菌剤や防かび剤が添加されたものが知られている。例えば、特許文献1には、ポリウレタン等の樹脂に、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛を主成分とする抗菌剤が添加された抗菌・防かび性ベルトが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−29212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一般的に使用されている抗菌剤や防かび剤は光を吸収してベルトに変色を生じさせるため、必然的に、抗菌剤や防かび剤の樹脂への添加量が多い程、光の吸収量が多くなりベルトの変色がひどくなる。従来の抗菌・防かび性ベルトにおいては、不必要に多くの抗菌剤や防かび剤が添加されていることが多く、使用開始後早い段階でベルトがひどく変色してしまうという問題があった。そこで、抗菌剤と防かび剤は、十分な抗菌・防かび性を発揮するのに必要な最低限の量が配合されていることが好ましい。
【0005】
本発明の目的は、ベルト基材に適切な量の抗菌剤及び防かび剤が添加されることにより、細菌の繁殖やかびの発育を防止しつつ変色の抑制も可能な、熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
第1の発明の熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトは、長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、背部と、前記複数の歯部又は前記背部に埋設された心線を有し、さらに、前記複数の歯部と前記背部とが熱可塑性ポリウレタンエラストマーを基材とする、熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部を形成する熱可塑性ポリウレタンに、銀を主成分とする抗菌剤と、チアベンゾールを主成分とする防かび剤とが添加され、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、前記抗菌剤が0.6〜1.0質量部、前記防かび剤が0.15〜0.25質量部配合されていることを特徴とするものである。
【0007】
この熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトにおいては、複数の歯部及び背部を形成する熱可塑性ポリウレタンに、銀系の抗菌剤とチアベンゾール系の防かび剤とが添加されており、それらの配合量は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、抗菌剤が0.6〜1.0質量部、防かび剤が0.15〜0.25質量部となっている。これにより、細菌の繁殖やかびの発育が防止されるとともに、光の吸収に伴うベルトの変色も抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、食品類の搬送に用いられる搬送用歯付ベルトに本発明を適用した一例である。
【0009】
図1は、本実施形態の歯付ベルトの一部拡大斜視図である。図1に示すように、歯付ベルト1は、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部2と、複数の歯部2と反対側に配置された背部3と、複数の歯部2又は背部3に埋設された心線4と、複数の歯部2を被覆する帆布5を有する。尚、図1には、一例として背部3に心線4が埋設された歯付ベルト1が示されている。
【0010】
複数の歯部2と背部3はともに熱可塑性ポリウレタンエラストマーを基材とするものである。この熱可塑性ポリウレタンを生成するためのイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネートやメチレンジイソシアネート等が使用される。また、ポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等が使用される。
【0011】
さらに、この熱可塑性ポリウレタンには、銀を主成分とする抗菌剤と、チアベンゾールを主成分とする防かび剤とが添加されており、背部3の表面(搬送面:図1における下側の面)の抗菌性及び防かび性が高められている。ここで、抗菌剤と防かび剤の配合量は、十分な抗菌性と防かび性が発揮されるとともに、これら抗菌剤と防かび剤が光を吸収することによって生じるベルト1の変色が極力抑制されるように、適切な量に設定されている。具体的には、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、抗菌剤が0.6〜1.0質量部、防かび剤が0.15〜0.25質量部配合されている。
【0012】
心線4は、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等からなる。そして、この心線4は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを基材とする複数の歯部2又は背部3に埋設されるとともに、ベルト1の長手方向(図1の紙面垂直方向)に沿って延在している。
【0013】
歯部2を被覆する帆布5としては、6ナイロン、66ナイロン、ポリエステル、アラミド繊維等であって、これらが単独あるいは混合されたものを使用できる。また、帆布5の経糸(ベルト幅方向)や緯糸(ベルト長さ方向)の構成も前記繊維のフィラメント糸または紡績糸であり、織構成も平織物、綾織物、朱子織物のいずれでもよい。尚、緯糸には伸縮性を有するウーリーナイロン糸、ウレタン弾性糸、またはウレタン弾性糸とナイロンとの混撚りを一部使用するのが好ましい。
【0014】
以上説明したように、本実施形態の熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルト1においては、複数の歯部2及び背部3を形成する熱可塑性ポリウレタンに、銀系の抗菌剤とチアベンゾール系の防かび剤とが配合されている。さらに、それらの配合量は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、抗菌剤が0.6〜1.0質量部、防かび剤が0.15〜0.25質量部となっている。これにより、食品類が載置される搬送面における細菌の繁殖やかびの発育が防止されるとともに、抗菌剤や防かび剤が光を吸収することに伴う、ベルト1の変色も抑制される。
【0015】
次に、本発明の具体的な実施例として、抗菌剤及び防かび剤を前述した配合量で熱可塑性ポリウレタンに配合して試料を作製した。そして、この実施例の試料の抗菌性、かび抵抗性、及び、変色度合について、抗菌剤及び防かび剤が配合されていない試料(比較例)と比較して、本発明の効果を検証した。
【0016】
(試験試料)
実施例及び比較例とも、基材の熱可塑性ポリウレタン樹脂を生成するためのイソシアネートとして、メチレンジイソシアネートを使用し、また、ポリオールとしてポリブチレンアジペートを使用して試料を作製した。また、実施例(実施例1〜3)の試料は、上述の熱可塑性ポリウレタンに、銀を主成分とする抗菌剤(ビオサイドTB−B10K、株式会社タイショーテクノス研究所製)と、チアベンゾールを主成分とする防かび剤(ビオサイドR−TZ、株式会社タイショーテクノス研究所製)とを、表1の配合量(単位:熱可塑性ポリウレタン100質量部に対する抗菌剤または防かび剤の質量部)で配合して作製した。一方、比較例の試料には、抗菌剤及び防かび剤を配合しなかった。
【0017】
【表1】

【0018】
(抗菌性試験)
抗菌性試験は、JIS Z 2801:2000抗菌加工製品−抗菌性試験方法に準じて行い、実施例の試料が十分な抗菌効果を有することを検証した。具体的な試験方法は以下の通りである。
【0019】
1)供試菌株
この試験で使用する供試菌株は以下の通りである。
Escherichia coli(大腸菌) NBRC 3972
Staphylococcus aureus(黄菌、ブドウ球菌) NBRC 12732
【0020】
2)抗菌活性値の算出と抗菌効果の判定
抗菌活性値Rは以下の式から算出される。
R=log(B/C)
ここで、R:抗菌活性値、B:無加工試験試料の24時間後の生菌数の平均値(個)、C:抗菌加工試験試料の24時間後の生菌数の平均値(個)である。即ち、Bが比較例試料の24時間後の生菌数に相当し、Cが実施例試料の24時間後の生菌数に相当する。そして、上式より算出された抗菌活性値Rが2より大きい場合に、抗菌効果有りと判定する。
【0021】
以上の抗菌性試験の結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示すように、大腸菌と黄色ブドウ球菌の何れの場合でも、実施例1〜3の試料においては24時間後の生菌数が10未満であり、抗菌活性値Rは2よりも大きくなっている。これにより、実施例1〜3が十分な抗菌効果を有することが実証された。
【0024】
(かび抵抗性試験)
かび抵抗性試験は、JIS Z 2911:2000附属書1(規定)プラスチック製品の試験に準じて行い、実施例の試料が十分なかび抵抗性を有することを検証した。具体的な試験方法は以下の通りである。
【0025】
1)供試菌株
この試験で使用する供試菌株は以下の通りである。
Aspergillus niger van Tidghem NBRC 6431
Penicillium funiculosum Thom(青かび) IAM 7013
Paecilomyces variotii Bainier IAM 5001
Gliocladium virens Miller,Giddens &Foster NBRC 6355
Chaetomium globosum Kunze ex Fries(けたまかび) NBRC 6347
【0026】
2)試験方法
JIS Z 2911には、試験方法として2つの方法(A法、B法)が規定されている。A法は無機塩寒天培地を栄養源とするもので、かびが材料成分を食害する程度を評価するものである。B法は無機塩寒天培地にグルコースを加えたもので、かびが発生しやすい環境におけるかび抵抗性を評価するものである。これらの詳細についてはJIS Z 2911に記載されていることから、ここでは省略することにする。
【0027】
3)判定基準
A法及びB法において、試料におけるかびの発育を観察し、それぞれ以下の基準によってかび抵抗性を評価する。
(A法における観察結果)
0:肉眼及び顕微鏡下でかびの発育は認められない。
1:肉眼ではかびの発育が認められないが、顕微鏡下で確認する。
2:菌糸の発育が肉眼で認められるが発育部分の面積は試料の全面積の25%を超えない。
3:菌糸の発育が肉眼で認められる。発育部分の面積は試料の全面積の25%を超える。
(A法判定基準)
そして、上記観察結果が、
0の場合:材質は、かびの栄養源とはならない。
1の場合:材質は、かびをわずかに発育させる程度の栄養源となる物質を含むか、汚染されている。
2or3の場合:材質は、かびに対して抵抗力がなく、かびの発育に適当な栄養源を含む。
と判定する。
【0028】
(B法における観察結果)
0:肉眼及び顕微鏡下でかびの発育は認められない。試料の周囲に発育阻止帯が認められる場合は、括弧内にその幅をmmで記載する。
1:肉眼ではかびの発育が認められないが、顕微鏡下では確認する。
2:菌糸の発育はわずかで、発育部分の面積は試料の全面積の25%を超えない。
3:菌糸の発育は中程度で、発育部分の面積は試料の全面積の25〜50%
4:菌糸はよく発育し、発育部分の面積は試料の全面積の50〜100%
5:菌糸の発育は激しく、試料前面を覆っている。
(B法判定基準)
上記観察結果が、
0の場合:強力なかび発育抑制効果
0(阻止帯あり)の場合:拡散性の物質による強力なかび発育抑制効果
1の場合:不完全なかび発育抑制効果
2〜5の場合:徐々にかび発育効果は減少し、完全になくなる。
と判定する。
【0029】
以上のかび抵抗性試験において、試験開始から4週間経過後において、試料のかび発育度合を観察した結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、実施例1〜3では、A法、B法ともに観察結果が0である。つまり、肉眼及び顕微鏡下でかびの発育が認められなかった。これにより、実施例の試料が十分なかび抵抗性(防かび性)を有することが実証された。
【0032】
(変色試験結果)
変色試験は、JIS K 6266に準じて行った。具体的には、実施例1〜3と比較例の試料に対して紫外線カーボンアークランプを光源とする光を、雰囲気温度63±3℃の条件で7日間照射し、色差測定器を用いて基準体との色差ΔE*をそれぞれ測定した。その結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示すように、実施例1〜3と比較例の色差は同等であり、実施例の試料における変色は、抗菌剤及び防かび剤が配合されていない比較例と同じ程度の変色にとどまることがわかる。
【0035】
以上の試験により、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、抗菌剤が0.6〜1.0質量部、防かび剤が0.15〜0.25質量部配合されることで、細菌の繁殖やかびの発育が確実に防止されるとともに、抗菌剤や防かび剤が光を吸収することに伴う変色が、これらが添加されない場合と同程度まで小さく抑えられることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の歯付ベルトの一部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 歯付ベルト
2 歯部
3 背部
4 心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、背部と、前記複数の歯部又は前記背部に埋設された心線を有し、さらに、前記複数の歯部と前記背部とが熱可塑性ポリウレタンエラストマーを基材とする、熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部を形成する熱可塑性ポリウレタンに、銀を主成分とする抗菌剤と、チアベンゾールを主成分とする防かび剤とが添加され、
熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、前記抗菌剤が0.6〜1.0質量部、前記防かび剤が0.15〜0.25質量部配合されていることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルト。


【図1】
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【公開番号】特開2008−137732(P2008−137732A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322807(P2006−322807)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】