説明

熱可塑性ポリウレタン

【課題】成形性、力学強度、耐摩耗性などの諸性能を損なうことなく、白化を低減した熱可塑性ポリウレタンを提供すること。
【解決手段】数平均分子量が500〜5000である高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、
前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位がセバシン酸単位と炭素数9以下のポリカルボン酸単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として、セバシン酸単位/炭素数9以下のポリカルボン酸単位=60/40〜100/0であり、
かつ、前記高分子ポリオール(A)を構成するジオール単位が、1,3−プロパンジオール単位とアルキル分岐を有するジオール単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として1,3−プロパンジオール単位/アルキル分岐を有するジオール単位=50/50〜97/3であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、力学強度、耐摩耗性などの諸性能を大きく損なうことなく、白化を低減した熱可塑性ポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンは、高弾性であり、耐摩耗性および耐油性などに優れ、通常のプラスチック成形加工法が適用できることなどの多くの特長を有しており、ゴム代替の材料として、広範な用途で使用されるようになっている。しかし、特に低硬度の熱可塑性ポリウレタンの分野で、ゴム等の代替をさらに進めるためには、成形性、力学強度、耐摩耗性などの性能は十分であるとはいい難く、性能改良が求められている。
【0003】
例えば、射出成形性に優れると共に、力学強度、耐加水分解性、耐熱性、耐熱水性、耐カビ性などの諸特性に優れる熱可塑性ポリウレタンとして、ジメチルデカン二酸単位を特定量で含有する熱可塑性ポリウレタンが提案されている(特許文献1および2)。しかし、これらの熱可塑性ポリウレタンでは、ジメチルデカン二酸単位を含有するポリエステルジオールの結晶性が小さくなり、成形性や力学強度、耐摩耗性などでなお改善の余地があった。
本発明者らは、ポリエステルポリオールの結晶性に着目して鋭意研究を重ね、セバシン酸単位および1,3−プロパンジオール単位からなるポリエステルジオールを構成成分とするポリウレタンが成形性に優れ、力学強度、耐摩耗性などの諸特性に優れることを見出した。しかしながら、該熱可塑性ポリウレタンは、ポリエステルジオールの高い結晶性に由来した優れた成形性、力学強度、耐摩耗性などを有する一方、成形品の表面が白化して、外観が悪化するという問題点を有することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−239442号公報
【特許文献2】特開平8−183831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかして、本発明の目的は、成形性、力学強度、耐摩耗性などの諸性能を損なうことなく、白化を低減した低硬度の熱可塑性ポリウレタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定構造の高分子ポリオールを用いて得られる熱可塑性ポリウレタンが、低硬度で、成形性、力学強度、耐摩耗性などの諸性能を損なうことなく、白化を抑制できることを見出した。
すなわち本発明は、
〔1〕数平均分子量が500〜5000である高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、
前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位がセバシン酸単位と炭素数9以下のポリカルボン酸単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として、セバシン酸単位/炭素数9以下のポリカルボン酸単位=60/40〜100/0であり、
かつ、前記高分子ポリオール(A)を構成するジオール単位が、1,3−プロパンジオール単位とアルキル分岐を有するジオール単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として1,3−プロパンジオール単位/アルキル分岐を有するジオール単位=50/50〜97/3であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン、
〔2〕前記高分子ポリオール(A)を構成するジオール単位であるアルキル分岐を有するジオール単位が、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールに由来するものである、上記〔1〕の熱可塑性ポリウレタン、
〔3〕前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位である炭素数9以下のポリカルボン酸単位が、アジピン酸に由来するものである上記〔1〕または〔2〕の熱可塑性ポリウレタン、
〔4〕高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)が30〜79J/gである上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン;
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形性、力学強度、耐摩耗性などの諸性能を損なうことなく、白化を低減した熱可塑性ポリウレタンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、特定構造の高分子ポリオール(A)を使用することを最大の特徴とする。該高分子ポリオール(A)は、射出成形性、押出成形性、力学強度、耐摩耗性等の観点から、ポリカルボン酸単位としてセバシン酸を必須とし、他のポリカルボン酸単位として炭素数9以下のポリカルボン酸を含む。セバシン酸単位と炭素数9以下のポリカルボン酸単位の混合比率は、モル比として、セバシン酸単位/炭素数9以下のポリカルボン酸単位=60/40〜100/0であり、好ましくは70/30〜97/3、さらに好ましくは80/20〜95/5の範囲である。
【0009】
炭素数9以下のポリカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸等の3官能以上のポリカルボン酸などが挙げられる。中でも、アジピン酸が好ましい。炭素数9以下のポリカルボン酸およびその誘導体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0010】
上記高分子ポリオール(A)は、射出成形性、押出成形性、力学強度、耐摩耗性などの観点から、ポリオール単位として1,3−プロパンジオールを必須成分とし、高分子ポリオール(A)の結晶性を制御する観点から、他のポリオール成分としてアルキル分岐を有するジオールを含む。1,3−プロパンジオールとアルキル分岐を有するジオールの比率は、モル比として、1,3−プロパンジオール/アルキル分岐を有するジオール=50/50〜97/3であり、好ましくは50/50〜95/5、より好ましくは50/50〜90/10の範囲である。
【0011】
アルキル分岐を持つジオールとしては、例えば、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール等の炭素数2〜15の脂肪族ジオール;2−メチル−1,1−シクロヘキサンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオールなどが挙げられる。これらの中で、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールが好ましく、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオールがより好ましい。
【0012】
高分子ポリオール(A)は、数種の高分子ポリオールの混合物であってもよい。但し、高分子ポリオール(A)が混合物である場合、高分子ポリオール(A)中のセバシン酸単位、炭素数9以下のポリカルボン酸単位、1,3−プロパンジオール単位、およびアルキル分岐を有するジオール単位の量は、それぞれ、混合物中のポリカルボン酸単位全体およびポリオール単位全体を基準として定められる。
【0013】
高分子ポリオール(A)の数平均分子量は、500以上(好ましくは600以上、より好ましくは800以上)、5000以下(好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下)である。数平均分子量が500未満であると、成形性、力学強度、耐摩耗性などに優れた熱可塑性ポリウレタンを得られない。
一方、数平均分子量が5000を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタンの成形性(特に押出成形性)および引張強度が不良となる。なお高分子ポリオール(A)の数平均分子量は、JIS K−1557に準じて測定した水酸基価に基づいて算出することができる。
【0014】
高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)は、好ましくは30J/g以上、より好ましくは50J/g以上、好ましくは79J/g以下、より好ましくは70J/g以下である。ΔHが30J/gよりも低いと、得られる熱可塑性ポリウレタンの成形性、力学強度、耐摩耗性等が不充分となる傾向にある。また、ΔHが79J/gよりも大きいと、熱可塑性ポリウレタンの成形品表面に高結晶性のブリードが生じ、経時的に白化するという不具合を生じる傾向にある。高分子ポリオール(A)のΔHは、セバシン酸単位、炭素数9以下のポリカルボン酸単位、1,3−プロパンジオール単位およびアルキル分岐を有するジオール単位の含有率を調整することによって、所望の値に設定できる。ΔHは、後述する実施例に記載する装置および条件を用いた示差走査熱量測定(DSC)によって測定できる。
【0015】
高分子ポリオール(A)の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を採用できる。例えば、1,3−プロパンジオールおよびセバシン酸、並びにアルキル分岐を有するジオールおよび炭素数9以下のポリカルボン酸を所定量比で混合して加熱し、エステル化反応、およびそれに続く重縮合反応を進行させることで、高分子ポリオール(A)を製造できる。なお、高分子ポリオール(A)の製造において、チタン系触媒、スズ系触媒などの重縮合触媒を用いてもよい。
【0016】
有機ジイソシアネート(B)としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。有機ジイソシアネート(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを製造する場合は、MDIを使用するのが好ましい。この場合、MDIの含有量は、有機ジイソシアネート(B)中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0017】
鎖伸長剤(C)は、活性水素原子を少なくとも2個有する低分子化合物であり、熱可塑性ポリウレタンの製造において鎖伸長剤として通常使用される化合物であればよい。鎖伸長剤(C)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、シクロヘキサンジメタノール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール等のジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンあるいはその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類などが挙げられる。鎖伸長剤(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、工業的に容易に得られることから炭素数2〜10の脂肪族ジオール(特に1,4−ブタンジオール)または炭素数2〜10の脂肪族ジアミン(特にエチレンジアミンまたはヘキサンジアミンまたはイソホロンジアミン)が好ましい。さらに、溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを製造できることから、炭素数2〜10の脂肪族ジオール、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。この場合、炭素数2〜10の脂肪族ジオール(特に1,4−ブタンジオール)の含有量は、鎖伸長剤(C)中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0018】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、公知のポリウレタンの製造方法に従い、上記高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)を重合することで製造できる。重合法としては、反応に不活性な溶媒中で溶液重合を行うことも可能であるし、溶媒の不存在下で溶融重合することも可能である。溶液重合を行う場合の溶媒としては、重合反応に不活性なものであれば特に制限はなく、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミドが挙げられる。溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを製造する場合、溶融重合が好ましく、多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法がより好ましい。溶融重合温度は特に制限されないが、150℃以上、260℃以下の範囲内が好ましい。150℃以上に保つことによって成形性に優れた熱可塑性ポリウレタンを得ることができ、また260℃以下に保つことによって、得られる熱可塑性ポリウレタンの耐熱性および成形性が向上する。
【0019】
本発明の熱可塑性ポリウレタンの製造では、高分子ポリオール(A)および鎖伸長剤(C)に含まれる活性水素原子の総量1モルに対して、イソシアネート基の量が、好ましくは0.90モル以上(より好ましくは0.95モル以上)、好ましくは1.3モル以下(より好ましくは1.10モル以下)になるような割合で、有機ジイソシアネート(B)を使用することが、熱可塑性ポリウレタンの成形性、力学強度、耐摩耗性等の諸性能を充分に得る観点から好ましい。
【0020】
本発明の熱可塑性ポリウレタンの製造では、熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されているウレタン化反応触媒を使用することができる。ウレタン化反応触媒としては、例えば、有機スズ化合物、有機亜鉛化合物、有機ビスマス化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、アミン化合物などが挙げられる。中でも、有機スズ化合物が好ましい。有機スズ化合物としては、例えば、オクチル酸スズ、モノメチルスズメルカプト酢酸塩、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩、モノブチルスズマレイン酸ベンジルエステル塩、モノオクチルスズマレイン酸塩、モノオクチルスズチオジプロピオン酸塩、モノオクチルスズトリス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、モノフェニルスズトリアセテート、ジメチルスズマレイン酸エステル塩、ジメチルスズビス(エチレングリコールモノチオグリコレート)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸)塩、ジメチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸)塩、ジメチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジステアレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレイン酸塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジブチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸)、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸アルキルエステル)塩、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸アルコキシブチルエステル)塩、ジブチルスズビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチルスズ(3−メルカプトプロピオン酸)塩、ジオクチルスズマレイン酸塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、ジオクチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸)塩等のアシレート化合物、メルカプトカルボン酸塩などを挙げることができる。これらの中でも、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート等のジアルキルスズジアシレート;ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩等のジアルキルスズビスメルカプトカルボン酸エステル;などが好ましい。ウレタン化反応触媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。ウレタン化反応触媒を使用する場合、熱可塑性ポリウレタンの質量に対して、0.1〜100ppmとなるように調整することが好ましい。0.1ppm以上のウレタン化反応触媒を使用すれば、熱可塑性ポリウレタンを成形した後も、当初の分子量が充分に高い水準で維持され、成形品でも、熱可塑性ポリウレタン本来の物性が発揮されやすくなる。熱可塑性ポリウレタンの製造にウレタン化反応触媒を使用する場合、高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)の重合時に該触媒を反応系に添加してもよく(例えば高分子ポリオール(A)と共に反応系に添加)、または高分子ポリオール(A)の製造時に予め該触媒を添加していてもよい。
【0021】
本発明の熱可塑性ポリウレタン中のハードセグメントを構成する窒素原子含有量として、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸張剤(C)に由来する窒素原子の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。窒素原子の含有量が2質量%未満であると、熱可塑性ポリウレタンの成形性、力学強度、耐摩耗性等の諸性能が不充分となることがある。また窒素原子の含有量が6.5質量%を超えると、熱可塑性ポリウレタンの硬度が高く、柔軟性等が不充分になることがあり、しかも押出成形時に未溶融物が発生し易くなる。なお、上記の窒素原子の含有量は元素分析測定、H−NMR測定等の手段により算出できる。
【0022】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、他の添加剤(例えば着色剤、滑剤、難燃剤、紫外線吸収剤、耐光性改良剤、防黴剤など)を含有していてもよい。他の添加剤は、熱可塑性ポリウレタンの重合時または重合後に適宜添加することができる。さらに他の添加剤は、熱可塑性ポリウレタンの重合前に、重合原料{例えば高分子ポリオール(A)}に予め添加していてもよい。
【0023】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、比較的低い硬度(例えば、ショアA硬度で約80以下)であっても成形性に優れる。そのため本発明の熱可塑性ポリウレタンは、射出成形、押出成形、カレンダー成形等の各種成形用途に、好適に使用することができる。本発明の熱可塑性ポリウレタンから得られる成形品は、熱可塑性ポリウレタンと同様に、力学強度、耐摩耗性などの諸性能に優れる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0025】
〔測定方法〕
以下の実施例および比較例において、高分子ポリオール(A)の融点、結晶化エンタルピー(ΔH)及び数平均分子量、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度、並びに射出成形品の固化性、到達硬度、外観(白化)、テーバー摩耗量および加水分解性を、以下の方法によって測定した。
【0026】
(1)高分子ポリオール(A)
[融点および結晶化エンタルピー]
示差走査熱量計[セイコーインスツル株式会社製、DSC2000]によって、高分子ポリオール(A)の融点および結晶化エンタルピー(ΔH)を測定した。サンプル量は約10mgとし、窒素100ml/分の気流下で、−50℃から200℃まで10℃/分の昇温速度の条件で熱量測定を行った。吸熱ピーク温度から融点を求め、吸熱ピーク面積から結晶化エンタルピー(ΔH)を求めた。
〔数平均分子量の測定〕
数平均分子量はJIS K−1557に準じて測定した水酸基価に基づいて算出した。
【0027】
(2)熱可塑性ポリウレタンおよびその射出成形品
[溶融粘度]
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を使用して、80℃で2時間減圧乾燥(1.3×103Pa〔10Torr〕以下)した熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度を、荷重490.3N(50kgf)、ノズル寸法=直径1mm×長さ10mm、温度210℃の条件下で測定した。
【0028】
[固化性]
表面を鏡面仕上げした金型を用いて、射出成形(日精樹脂工業株式会社製FS−80S12ASE、シリンダー温度200〜210℃、金型温度30℃、射出時間5〜8秒、冷却時間30秒)によって円板状の成形品(直径120mm、厚さ2mm)を成形し、金型開放と同時に該成形品を取り出した時から30秒後のショアA硬度を測定し、これを「固化性」とした。固化性(30秒後のショアA硬度)の値が高いほど、固化が早く、成形性に優れることを示す。
【0029】
[到達硬度]
成形品を金型から取り出して、23℃の条件下に1週間放置した後のショアA硬度
を測定し、これを「到達硬度」とした。
【0030】
なおショアA硬度は、JIS K−6301に準じて、得られた厚さ2mmの円板状の成形品を3枚重ね合わせたものを用い、ショアA硬度計によって測定した。
【0031】
[外観(白化)]
成形品を金型から取り出して、25℃の温度条件下に1ヶ月放置した後の成形品の表面状態を目視にて観察し、白化(粉状物によるくもり)の有無を評価した。射出成形1ヶ月放置(25℃の温度条件下)後、成形品表面が白化しないものを○、白化が発生するものを×と表記する。
【0032】
[テーバー摩耗量]
上記の固化性の評価と同じ操作を行い、円板状の成形品(直径120mm、厚さ2mm)を製造し、得られた成形品を23℃の条件下に1週間放置した後、テーバー摩耗試験機(荷重1kg、摩耗輪H−22)を使用して、JIS K−7311に準じて、テーバー摩耗量を測定した。
【0033】
〔実施例で使用した化合物〕
実施例および比較例で使用した化合物は、以下の通りである。以下の実施例および比較例では、使用した化合物を略号によって表示する。
【0034】
(1)高分子ポリオール(A)
〔製造例1〕
電磁攪拌装置を備えた内容積2000mLのガラス製三口フラスコに、1,3−プロパンジオール447g(5.88mol)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール21g(0.18mol)、セバシン酸808g(4.00mol)を入れ、常圧、窒素雰囲気下で徐々に180℃まで加熱して、副生する水を留去しながら4時間エステル化反応を行った。次いで、テトライソプロポキシチタン0.015g(1vol%のトルエン溶液、1.5g)を添加して、エステル化反応を継続した後、減圧下で過剰のジオール成分を留去することにより、数平均分子量1005のポリエステルポリオール1068gを得た(以下、これをPOH−1と略称する)。得られたPOH−1の融点は53℃でΔHは78J/gであった。
【0035】
〔製造例2〜15〕
ジオール量およびポリカルボン酸量を表1に記載の量とした以外は製造例1と同様に反応を行い、ポリエステルポリオール(POH−2〜POH−15)を得た。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

PD:1,3−プロパンジオール
MPD:3−メチル−1,5−ペンタンジオール
SbA:セバシン酸
AA:アジピン酸
MPDiol:2−メチル−1,3−プロパンジオール
【0037】
(2)有機ジイソシアネート(B)
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
(3)鎖伸長剤(C)
BD:1,4−ブタンジオール
(4)ウレタン化反応触媒
SN:ジブチルスズジアセテート
【0038】
〔実施例1〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
10ppmのSNを含むPOH−1、BDおよびMDIを、POH−1:BD:MDI=1.0:0.4:1.4のモル比(MDIに由来する窒素原子の含有量2.83質量%)で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続的に供給して、260℃で連続溶融重合させた。得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断して、得られたペレットを50℃で8時間除湿乾燥することによって熱可塑性ポリウレタンを製造した。該ポリウレタンの溶融粘度は310Pa・sであった。
【0039】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られた熱可塑性ポリウレタンを用いて、固化性の評価で記載した方法によって射出成形を行い、固化性、到達硬度、外観およびテーバー摩耗量を評価した。表2に結果を示す。
【0040】
〔実施例2〜7、比較例1〜6〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
POH−1を、表1に記載の10ppmのSNを含む各高分子ポリオール(POH−2〜7および9〜14)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によって熱可塑性ポリウレタンを製造した。
【0041】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られた熱可塑性ポリウレタンを用いて、固化性の評価で記載した方法によって射出成形を行い、固化性、到達硬度およびテーバー摩耗量を評価した。表2に、その結果を示す。実施例2〜7および比較例2〜4、6で得られた成形品を室温条件下、1ヶ月放置しても、成形品表面の白化は確認されず、良好な外観状態が維持された。一方で、比較例1および5で得られた成形品は、成形後3日程度で、白化が確認され、成形品が不透明になった。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜7の熱可塑性ポリウレタンは、比較例2〜4および6に比べて、固化性が高く、成形性に優れている。また、実施例1〜7の射出成形品は、テーバー摩耗量が少なく、耐摩耗性にも優れている。
【0044】
〔実施例8〕
電磁攪拌装置と冷却管を備えた内容積200mLのガラス製セパラブルフラスコに、POH−1を50g(0.05mol)とイソホロンジイソシアネート(IPDI)22.2g(0.10mol)を入れ、常圧、窒素雰囲気下で80℃に加熱し、3時間反応させて、ウレタンプレポリマーを得た。電磁攪拌装置、冷却管と滴下ロートを備えた内容積500mLのガラス製セパラブルフラスコに、イソホロンジアミン8.14g、ジブチルアミン0.33g、酢酸エチル100mL、2−プロパノール100mLを入れて、常圧、窒素雰囲気下、50℃に加熱し、上記で得られたプレポリマーを滴下し、滴下終了後、さらに50℃で3時間反応することで、固形分濃度32%のポリウレタン溶液を得た。得られたポリウレタン溶液を、バーコーターを用いてガラス上に膜厚100μmとなるように塗布し、80℃で乾燥することでポリウレタン塗膜を得た。得られた塗膜の全光線透過率は91.6、拡散透過率は3.0、ヘイズは3.3であった。
【0045】
〔実施例9〜15〕
高分子ポリオールとしてPOH−2〜POH−8を用いた以外は実施例8と同様の操作を行い、ポリウレタン塗膜の評価を行った。結果を表3に示す。
【0046】
〔比較例7〜9〕
高分子ポリオールとしてPOH−9、13またはPOH−15を用いた以外は、実施例8と同等の操作を行った。得られたポリウレタンは酢酸エチル/2−プロパノール(固形分30%)では溶液状態とならず、室温で固化した。得られた溶媒含みのポリウレタン樹脂を60℃で溶解してガラス上に膜厚100μmとなるように塗布したが、得られた塗膜は白化が確認され、ヘイズ値も高かった。
【0047】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、シート、フィルム等の成形物、弾性繊維、バインダー、接着剤、ロール(紙送りロール等)、ベルト、スクィージ、複写機用クリーニングブレード、スノープラウ、チェーン、ライニング、スクリーン、ギア、キャスター、タイヤ、ホース、チューブ、パッキング材、防振材、制振材、靴底、スポーツ靴、コーキング材、合成皮革、機械部品、自動車部品などの用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が500〜5000である高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、
前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位がセバシン酸単位と炭素数9以下のポリカルボン酸単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として、セバシン酸単位/炭素数9以下のポリカルボン酸単位=60/40〜100/0であり、
かつ、前記高分子ポリオール(A)を構成するジオール単位が、1,3−プロパンジオール単位とアルキル分岐を有するジオール単位の混合物であり、該混合物比率がモル比として1,3−プロパンジオール単位/アルキル分岐を有するジオール単位=50/50〜97/3であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン。
【請求項2】
前記高分子ポリオール(A)を構成するジオール単位であるアルキル分岐を有するジオール単位が、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールに由来するものである、請求項1記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項3】
前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位である炭素数9以下のポリカルボン酸単位が、アジピン酸に由来するものである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項4】
高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)が30〜79J/gである請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン。

【公開番号】特開2012−180467(P2012−180467A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44767(P2011−44767)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】