説明

熱可塑性ポリエステルを製造するプロセス

本発明は、熱可塑性ポリエステルを製造するプロセスであって、少なくとも1種類のカルボン酸系化合物および少なくとも1種類のアルコール系化合物を、触媒として作用する特定の薄片無機ナノ層チタネートの存在下で、エステル化およびその後の重縮合反応において接触させる工程を有してなるプロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン系触媒の存在下で、エステル化およびその後の重縮合反応において、少なくとも1種類のカルボン酸系化合物を少なくとも1種類のアルコール系化合物と接触させることにより、熱可塑性ポリエステルを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルは、鎖内エステル基を含有する実質的に直鎖状の高分子であり、繊維、プラスチックおよびフイルムとして;複合体およびエラストマー中に;そしてコーティングとして一般に使用される、本当に多目的の材料であることが知られている。多官能性カルボン酸の多官能性アルコール(またはそれらのエステル形成誘導体)との縮合によるポリエステルの製造が、当該技術分野においてよく知られており、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0003】
最も一般に使用されているポリエステルはポリエチレンテレフタレート(PET)である。1940年代の最初のPET生産では、前駆体として、テレフタル酸ジメチル(DMT)およびモノエチレングリコール(EG)を使用していた。しかしながら、ほとんどの生産工場では、現在、プロセスの経済上の理由のために、原材料として純粋なグレードのテレフタル酸(PTA)およびモノエチレングリコール(EG)が現在使用されている。この場合、最初に、PTAのEGによるエステル化によりジエチレングリコールテレフタレートおよびそのオリゴマー(DGT)を形成することによって、低分子量プレポリマーが形成され、主な副生成物である水が蒸留により除去される(工程1)。この工程は、一般に、自己触媒反応であるが、触媒を添加することによって、促進してもよい。DGTには、エステル交換反応およびエステル化反応による重縮合がさらに行われて、より高分子量のポリエステルが形成される(工程2)。重縮合の終わりに向かって、エステル交換反応が優勢になる。この工程において、DGTは高真空下で約280℃に加熱されて、溶融相重縮合反応が行われ、反応副生成物、すなわち、EGおよび水が除去される。エステル交換は遅い反応であるので、重縮合工程は一般に触媒される。この触媒は、工程2において添加して差し支えないが、工程1において既に含まれても差し支えない。その溶融物は、固有粘度(IV)値により反映される所望の分子量に到達した後に、排出され、小片に砕かれる。
【0004】
工業規模のPET生産は、一般に、例えば、非特許文献2および3により記載されているような、直列に配置されたいくつかの反応装置を利用した連続PTAシステムに基づく。このシステムでは、EG、PTA、触媒および添加剤がその中で混合される容器、1つまたは2つのエステル化反応装置、1つまたは2つの予備重縮合反応装置、その後の重縮合の最終段階のための高真空仕上反応装置が使用される。形成されたポリエステルは、単繊維に押し出され、水により急冷され、切断されて非晶質チップを形成してもよい。
【0005】
PETは主に、織物繊維、単繊維、フイルムおよびボトルグレードのチップの生産のために業界で使用されている。フイルムおよび繊維用途に使用されるPETは、一般に、0.58から0.64dL/gの範囲にあるIVを有する。PETフイルムおよび繊維は、重縮合反応装置から溶融物を押し出すことによって直接製造することもできる。PETボトルグレードの樹脂について、0.75から0.85dL/gの範囲にあるIVを有し、残留アセトアルデヒドが少ないポリマーが一般に要求される。この場合、アセトアルデヒドの量を最少にしながら、このIV値を達成するために、分割(split)プロセスが使用される。一般の実施は、溶融相重縮合により約0.63dL/gの中間IVを有するポリマーチップを製造し、次いで、その後の固相重縮合(SSP)によりそのIVを約0.75から0.85dL/gに増加させることである。この分割手法により、PETボトルに入れられる飲料の風味に影響を与える分解副生成物であるアセトアルデヒドの量が最少の高IV樹脂を生産することができる。ジエチレングリコール(DEG)は、副反応によりエチレングリコールから生成されるジオールであり、これもPET鎖に含まれる。コモノマーとしてのDEGの存在により、PETのガラス転移温度と溶融温度が低下するが、あまりに高レベルであると望ましくない。溶融相およびSSP技術が、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0006】
工業PET生産に現在使用されている触媒は、一般にアンチモン(Sb)系触媒であり、ほとんどが、三酢酸アンチモンまたは三酸化アンチモンである。アンチモン系触媒化合物を使用する欠点は、アンチモン金属の部分析出により生じるPETの灰色がかった色である。さらに、アンチモンはかなり高価であり、ある程度の環境問題を示す。また、触媒としての二酸化ゲルマニウムの使用は、この触媒がポリエステルに良好な透明性を与えるが、わずかな埋蔵量による高コストのために限られる。様々なチタン(Ti)系化合物が、比較的安価であり安全であるために、重縮合触媒として提案されてきた。記載されたチタン系触媒としては、チタン酸テトラ−n−プロピル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ−n−ブチル、チタン酸テトラフェニル、チタン酸テトラシクロヘキシル、チタン酸テトラベンジル、チタン酸テトラ−n−ブチル四量体、酢酸チタン、グリコール酸チタン、シュウ酸チタン、チタン酸ナトリウムまたはカリウム、ハロゲン化チタン、フッ化チタン酸カリウム、マンガンおよびアンモニウム、アセチル酢酸チタン、チタンアルコキシド、チタネートホスファイト(titanate phosphites)などが挙げられる。
【0007】
特許文献1から3には、必要に応じてMn−、Co−、P−および/または他の化合物を含有する、Sb不含有のTi−系触媒組成物を使用したポリエステルの製造が記載されている。得られたポリエステルの色は、一般に、黄色がかった色を示し、比較的多量のアセトアルデヒドおよび環状副生成物が形成される。
【0008】
特許文献4には、Ti−系触媒および触媒向上剤の存在下でのポリエステルの重縮合が記載されている。その組成物は、Sb−三酸化物、−三酢酸塩または−トリグリコキシド(triglycoxide)とのチタニルシュウ酸リチウムまたはカリウムの組合せ;金属シュウ酸塩触媒向上剤;および必要に応じて、Sb−系助触媒からなるチタニルシュウ酸塩触媒を含む。
【0009】
特許文献5には、Tiアルコキシド、アセチルアセトネート、二酸化物および亜リン酸塩を使用したポリエステル樹脂の調製プロセスが開示されている。このTi−触媒はSb−触媒よりも約4倍活性が高いが、ポリエステルの黄色い色合いを減少させるために、コバルト化合物および他の有機着色剤が添加された。固相重縮合(SSP)に対するTi−系触媒の低い反応性を補うために、芳香族テトラカルボン酸の二無水物も添加された。欠点としては、この添加により分岐が生じることである。
【0010】
グリコール酸チタンも、非特許文献4および特許文献6において、PETの触媒として記載されている。欠点としては、黄変する傾向、およびSSPにおける活性の減少が挙げられる。
【0011】
特許文献7には、Mがアルカリ金属であり、Ti(III)が+3酸化状態にあるTiであり、Ti(IV)が+4酸化状態にあるTiであり、xおよびy≧0であり、x=0のときにy<1/2である、式MxTi(III)Ti(IV)y(x+3+4y)/2を有する触媒の存在下でポリエステルを製造するプロセスが開示されている。実施例において、触媒としてTi23およびLixTiO2が使用され、これらの触媒により得られたPETは黄色がかった色を示す。
【0012】
特許文献8には、Sb−系触媒よりも高い活性を示す、特定のTiO2/SiO2またはTiO2/ZrO2共沈物が触媒として適用されたポリエステルの製造プロセスが開示されている。
【0013】
特許文献9にも、Meがアルカリ土類またはアルカリ金属である、式(MenO)x・(TiO2y・(H2O)zのチタネート(titanate)触媒であって、ポリエステルを製造するために特定の粒径を有する触媒が開示されている。
【0014】
特許文献10には、粒径が100nm以下であり、比表面積が10m2/g以上である、重縮合触媒としてのナノサイズの二酸化チタンを使用することにより、ポリエステルを製造するプロセスが開示されている。この触媒の活性はアンチモン触媒の活性に匹敵する。しかしながら、ナノ結晶の凝集は一般に避けるのが難しく、TiO2は、ポリマーと比べて非常に高い屈折率を有するので、これによりポリマー中に残留ヘイズが生じるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第0699700号明細書
【特許文献2】米国特許第3962189号明細書
【特許文献3】特開昭52−62398号公報
【特許文献4】米国特許第6372879号明細書
【特許文献5】米国特許第6143837号明細書
【特許文献6】欧州特許第1585779号明細書
【特許文献7】米国特許第6034203号明細書
【特許文献8】国際公開第95/18839号パンフレット
【特許文献9】欧州特許第0736560号明細書
【特許文献10】特開2000−119383号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering, 2nd ed, volume 12, John Wiley and Sons, New York (1988)
【非特許文献2】S.M. Aharoni in ”Handbook of Thermoplastic Polyesters”, vol. 1, chapter 2, Editor S. Fakirov, Wiley-VCH, 2002
【非特許文献3】V.B. Gupta and Z. Bashir in ”Handbook of Thermoplastic Polyesters”, vol. 1, chapter 7, Editor S. Fakirov, Wiley-VCH, 2002
【非特許文献4】R. Gutman, Textile Praxis International 1, 1989, 29-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
PETの工業生産の大半は、まだSb−触媒に基づいており、よって、溶融相および/または固相重縮合における生産性が高く、副反応が少なく、より環境に優しい触媒を使用し、良好な透明性と色を持つポリエステル物品を提供する、ポリエステルを製造するプロセスが、産業上必要とされている。
【0018】
したがって、本発明の課題は、そのような改良プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この課題は、触媒としての剥離(exfoliated)形態にある無機ナノ層チタネートの存在下で、エステル化反応およびその後の重縮合反応において、少なくとも1種類のカルボン酸系化合物および少なくとも1種類のアルコール系化合物を接触させる工程を有してなるプロセスによって、本発明にしたがって達成される。
【0020】
意外なことに、本発明によるプロセスにおいて、ナノ層チタネートは、ポリエステルを製造するための重縮合触媒として働く。何故ならば、従来技術には、そのような性質は暗示されていなかったからである。それに加え、いくつかの選択されたナノ層チタネートについて、そのような触媒活性のために、チタネートの別の前処理は必要ないことは意外である。何故ならば、従来技術の文献には、チタネートをナノ層に剥離または分離するために余計な化学処理が必要であると従来は記載されているからである。
【0021】
米国特許第6838160号明細書にもナノ層チタネートが開示されているが、この文献には、チタネートの交互に集積された層および高分子基体からなる多層複合体を調製するためにナノ層チタネートを使用することが記載されており、形成された極薄チタネート多層複合体を、窓材料の紫外線遮断コーティングとして、光電変換のための薄膜として、フォトクロミック材料として、および光触媒薄膜およびセンサとして使用することが示唆されている。米国特許第6084019号明細書には粘土の添加が開示されており、その粘土は、改善された気体遮断特性を有するPETを生成するPTAおよびEGの溶融相重縮合中に、ナノ層に剥離できる層状鉱物である。しかしながら、この文献には、そのような剥離粘土材料の触媒の利点が、開示も示唆もされていない。実際に、米国特許第6084019号明細書には、粘土のナノシートが、EGなどの反応体副生成物の拡散の障壁として働くので、溶融相重縮合速度が粘土のナノシートの添加により低下することが示されている。
【0022】
本発明によるプロセスにおいて、熱可塑性ポリエステルは、ある程度の鎖の分岐を必要に応じて有する、実質的に直鎖であるポリエステルであると理解され、このポリエステルは、成形物品に溶融加工できる。
【0023】
本発明によるプロセスにおいて、カルボン酸系化合物は、カルボン酸またはエステル、特にアルキルエステルまたはヒドロアルキルエステル、または酸塩化物などの、エステル形成誘導体であってよい。カルボン酸系化合物として、Rが直鎖状または分岐鎖アルキル基、アリーレン基、またはそれらの組合せである、式HOOC−R−COOHのジカルボン酸が使用されることが好ましい。Rが好ましくは約2から30、より好ましくは約4から15の炭素原子を有する。カルボン酸化合物の適切な例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、およびジメリン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、およびイタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;およびオルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモ酸、およびアントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられるであろう。構成成分として、他のジカルボン酸、および微量のポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸も使用してよい。
【0024】
カルボン酸系化合物が、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン二酸、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、グルタル酸、シュウ酸、およびマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物であることがより好ましい。カルボン酸系化合物がテレフタル酸であることが最も好ましい。
【0025】
アルコール系化合物は、ヒドロキシ官能性化合物または酢酸などの低級脂肪族カルボン酸のエステル等のそのエステル形成誘導体であってよい。アルコール系化合物は、式HO−R’−OHのアルキレングリコール、式HO−[R”−O−]n−Hを有するポリアルキレングリコール、またはそれらの組合せなどの二官能性アルコールであることが好ましく、ここで、R’は、2から約10、好ましくは2から4の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、R”は、同じかまたは異なる、1から約10、好ましくは1から5の炭素原子を有するアルキレン基である。アルコール系化合物の適切な例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、およびポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族グリコール;およびヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、およびこれらのグリコールにエチレンオキシドを添加することにより得られるグリコールなどの芳香族グリコールが挙げられる。アルコール系化合物が、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、および1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群より選択される少なくとも1種類の化合物であることが好ましい。本発明によるプロセスにおいてエチレングリコールが使用されることがより好ましい。
【0026】
これらのグリコールと一緒に、少量の多価アルコールを使用してもよい。多価アルコールの適切な例は、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、およびヘキサントリオールである。ヒドロキシカルボン酸を組み合わせて使用してもよい。ヒドロキシカルボン酸の例としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびそれらのエステル形成誘導体が挙げられるであろう。また、本発明において、環状エステルを組み合わせて使用してもよい。環状エステルの例としては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、およびラクチドが挙げられる。
【0027】
本発明のプロセスにおいて、ジカルボン酸系化合物とジオール系化合物の初期モル比は、約1:1から約1:3、好ましくは約1:1.2から1:2の範囲にあるであろう。最適な比は、一般に、反応温度と時間に依存する。
【0028】
本発明のポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、およびそれらのコポリマーであることが好ましく、中でも、ポリエチレンテレフタレートおよびそのコポリマーが特に好ましい。少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも70モル%、またはさらには少なくとも80、90、95または98モル%のエチレンテレフタレート反復単位を含有するコポリマーが好ましい。
【0029】
本発明によるプロセスにおいて、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノールまたはそれらの混合物などの任意の適切なコモノマーを必要に応じて添加してもよい。本発明のプロセスにおいてイソフタル酸が添加されることが好ましい。ポリエステルの加工および結晶化挙動、並びに透明性などの、それから製造された物品の性質を制御するために、約25モル%まで、好ましくは約1〜10または1〜5モル%の量でそのコモノマーを添加してもよい。
【0030】
チタネート(titanate)という用語は、有機および無機化合物の両方に広く使用される。有機チタネートは、式Ti(OR)4のチタンアルコキシド、例えば、チタンブトキシドである。これらの化合物をPETの触媒として使用して差し支えないが、それらは、その反応において生成された水と反応し、Ti(OH)2および/またはTiO2に転化され、その触媒を失活させ、ポリマーにヘイズを生じさせる。前記文献では、H、アルカリ金属、およびニオブなどの特定の金属のようなさらに別の元素を含有する様々なチタン酸化物にチタネートという用語を使用している。これらは、無機チタネートと見なすことができ、一般に、様々な試薬のTiO2との反応により製造される。
【0031】
本発明の文脈において、無機ナノ層チタネートは、チタン、酸素、水素、および必要に応じて他の金属を含有し、各層が1〜2nmの範囲のサイズを有する、複数の層、またはナノシートから製造された層状構造を有する化合物を意味する。TiおよびOは共有結合して、ナノ層を形成しており、水素および/または金属、例えば、アルカリ金属は、中間層(ギャラリー(galleries)とも呼ばれる)内にある。これらの層はマクロ陰イオンを形成し、H(またはアルカリ金属)が電荷を補う。この部類のナノ層金属酸化物について、結晶板は、サイズがマイクロメートルであってよいが、共有結合した平板は約1nmの厚さであり、一方でギャラリーの間隔も約1nmである。
【0032】
本発明の文脈において、剥離形態にある無機ナノ層チタネートは、本発明によるプロセスのエステル化および/または重縮合条件下、またはより一般には、重合条件下で、前記チタネートが、剥離層の形態で少なくとも部分的に存在し、エステル化および/または重縮合反応のための触媒として働くことを意味すると理解される。無機ナノ層チタネートは、非剥離形態でプロセスに添加されてよく、剥離がエステル化および/または重縮合反応中に少なくとも部分的に生じることを意味するが、チタネート化合物は、以下により詳しく記載されるように、既に剥離した形態で本発明のプロセスに添加して差し支えない。
【0033】
層状無機化合物には多くの部類があり、典型的に、それらの層は、層間のギャラリー内にある対イオンにより静電結合されて、ナノ層積層体を形成している。その例としては、スメクタイト粘土、バーミキュライト、アルファリン酸ジルコニウムおよびマイカが挙げられる。適切な中間層陽イオンおよび溶媒を有する比較的低い層電荷密度(layer charge-density)により、特定の条件下で、剥離、すなわち、ナノ層への分離が可能になるのに対し、高い電荷密度では、そのような剥離が実質的に不可能になるであろう。例えば、モントモリロナイトなどのスメクタイト粘土は、水中で瞬時に剥離して、単一ナノ層のコロイド分散を生成し得る。範囲内で対照的に一方の側のマイカは、層状であるが、高い電荷密度のために、ナノ層分散には分離できない。アルファZr(HPO42・H2Oおよび式Hmn2n+1(M=Ti,Nb)のチタネートなどの他の層状化合物は、水中で瞬時に剥離しない。しかしながら、これらの化合物は固体のブレンステッド酸であり、それゆえ、アルカリ水酸化物または第一級アミンなどの塩基性化合物と酸−塩基インターカレーションを経ることができ、特定のpH条件下で、インターカレーションされた化合物はさらに、水中で剥離するであろう。それゆえ、ナノ層材料の剥離する傾向は、層の電荷密度、結晶構造、液体媒質の性質、pHおよび温度に依存する。
【0034】
層状化合物、たとえば、フィロシリケート(粘土)において、「層電荷」は、理想的な未置換の複八面体または三八面体組成物からの全負電荷偏差である。粘土は一般に、火山起源のものであり、それゆえ、しばしば、組成中に「欠陥」を有する。例えば、モスコバイトマイカは理想的にはAl2Si410(OH)2であるが、Al3+がSi4+部位での不純物として置き換われば、層組成は、Al2(Si3Al)O10(OH)2となり、層中の残留電荷は−1となる。モスコバイトマイカにおいて、この残留電荷は、中間層陽イオンK+により補われ、よって、その構造は全体的に電荷で中性である。層中のO10(OH)2陰イオン網目構造のために、層の電荷は負であり、電荷の補正は陽イオンに依存する。
【0035】
アルミノケイ酸塩粘土に関するように、同形無機チタネート化合物は、TiをMg2+などの低価数陽イオンと置換することによって製造してもよく、その例は、CsxTi2-x/2Mgx/24である。あるいは、層電荷は、チタネート中のTiの空位から生じてもよい。これは、CsxTi2-x/4x/44に関する場合であり、ここで、□は格子中で欠けたTi原子であり、x=0.7である。
【0036】
粘土などのナノ層状材料における層電荷密度(LCD)を決定するために、2つの最も一般的な技法は、以下である:1)化学組成に基づく構造式の計算を含む構造式法(SFM)、および2)一連のn−アルキルアンモニウムイオンのインターカレーション後の格子面間隔(d-spacing)の測定に基づく、アルキルアンモニウム法(AAM)。これらの方法が、S. Kaufhold in Applied Clay Science 34 (2006), pp 14-21およびA. Czimerova et al. in Applied Clay Science 34 (2006), pp 2-13により精査されている。最も適切な方法の選択および結果は、中でも、材料のタイプに依存するようである。
【0037】
層状チタネートにおける層電荷密度を決定するために、同様の方法が用いられる。異なる方法では異なる結果が生じるかもしれないことを理解した上で、本発明におけるチタネートの層電荷密度を特定するために、佐々木等により報告された方法および結果が使用される(‘Comparison of Protonic Titanates with the Lepidocrocite-Type Layered Structure,’ in Chem. Mater., 1998, 10, pp 4123-4128および“Preparation and Acid-Base Properties of a protonated Titanate with Lepidocrocite-like Layer Structure”, in Chem. Mater., 1995, 7, pp 1001-1007を参照のこと)。
【0038】
原則的に、剥離できる任意のナノ層チタネートを、本発明によるプロセスにおけるPETのための触媒として使用できる。剥離は、例えば、層状チタネートを塩基性化合物の溶液(水性または非水性)により処理し、少なくとも部分的に分離したナノ層の懸濁液を調製することによって、いくつかの様式で達成され、実証されるであろう。
【0039】
本発明によるプロセスの好ましい様式において、無機ナノ層チタネートは、事前剥離(pre-exfoliated)形態で添加される。ナノ層チタネートは、化学または物理処理により、もしくはそれらの組合せにより、事前剥離形態に製造して差し支えない。
【0040】
好ましい剥離方法は、チタネートの層電荷密度に依存する。佐々木等(Chem. Mater. 1995, 7, pp 1001-1007)は、いくつかの層状チタネートおよび他の層状化合物に関する層電荷密度が以下の傾向を示すことを指摘している:スメクタイト粘土<H0.7Ti1.8250.1754・H2O<H2Ti511・3H2O<H2Ti49・1.2H2O<H2Ti37<リン酸ジルコニウム<マイカ。剥離傾向は同様の順序を示す。例えば、層状チタネートH0.7Ti1.8250.1754・H2Oは、水中では剥離しないが、佐々木等は、剥離が、水酸化テトラブチルアンモニウムを含有する水性媒質中で生じることを示している(Journal of the American Chemical Society 118 (1996), pp 8329-8335)。同様に、混合アルカリ金属チタネートK0.8Ti1.73Li0.274に由来する層状チタネートH1.07Ti1.734は、水性水酸化テトラブチルアンモニウム中で剥離する(T. Tanaka et al., Chem. Mater., 2003, 15, pp 3564-3568; T. Nakato, Thin Solid Films Volume 495, 2006, pp 24-28を参照のこと)。Na2Ti37、H2Ti37、H2Ti511・3H2O、H2Ti49・1.2H2O、およびH2Ti37などの比較的高い層電荷密度を有する他のチタネートは、水中または水性水酸化テトラブチルアンモニウム中で剥離しない。しかしながら、これらの内のいくつかは、より厳しい条件下で剥離させることができる。例えば、Na2Ti37およびH2Ti37は、100℃から170℃の温度で濃NaOH水溶液中で剥離させることができる。
【0041】
層状チタネートが、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの塩基性化合物を含む水性媒質中で事前剥離されている場合、得られた懸濁液を、PETを製造するための重合プロセスの開始時にPTA−EGスラリーに添加してもよい。しかしながら、アミンなどの窒素含有塩基性化合物は、重合中の望ましくない発色に鑑みて、PETなどのポリエステルを製造するプロセスにはそれほど適していない。得られたスラリーを添加することは、例えば、添加した塩基性化合物を除去するための洗浄および乾燥よりも、好ましい。何故ならば、層は、元のチタネートと同様の様式で再度積層するであろうからである。層状チタネートは、水酸化アンモニウム化合物、またはアルカリ水酸化物化合物による処理によって、事前剥離されることが好ましい。
【0042】
100℃から170℃の温度での濃NaOH水溶液中での処理(水熱合成法)などのより厳しい剥離条件を必要とする、H2Ti37、H2Ti511・3H2OまたはH2Ti49・xH2Oなどの層電荷密度がより高いチタネートの場合、剥離した層がチタネートナノチューブへと巻物状となる強い傾向がある。得られたチタネートナノチューブの懸濁液は、次いで、そのまま使用してもよいが、過剰の塩基性化合物を除去するために濾過され、洗浄されることが好ましい。チタネートナノシートとは異なり、チタネートナノチューブは、乾燥の際に再度積層できず、よって、乾燥したまたは幾分湿った細繊維塊を、本発明のプロセス中に触媒として添加しても差し支えない。
【0043】
本発明によるプロセスを行うさらに好ましい様式において、無機ナノ層チタネートは、比較的低い層電荷密度を有する。より具体的には、無機ナノ層チタネートは、(前述の刊行物)において佐々木等により定義され与えられるように(以後、「佐々木法により決定されるように」と称する)、約2から4nm-2の範囲の層電荷密度を有する。その利点は、チタネートを、本発明による重合プロセスに、非剥離形態にある固体として添加してもよいことである。いかなる理論にも拘束することを意図せずに、本発明の発明者等は、比較的弱い中間層静電結合のために、これらのチタネート材料は、溶融重合媒質中でナノ層に分離し、それゆえ、活性Ti部位への反応体のアクセスを提供することができ、この部位がその後、エステル化反応および特に重縮合反応を触媒すると考える。佐々木等は、そのような層状チタネートは、水酸化テトラブチルアンモニウムの水溶液中でしか剥離されないことを示しているので、このことは驚くべきことである。一般に、層状チタネートは固体の酸であるので、従来の文献には、その剥離(仮に起こったとしても)は塩基性試薬により誘発されるべきであると述べられている。ポリエステル重縮合媒質は、PTA−EGスラリーで始めるPETの場合、塩基性ではなく、それゆえ、層状チタネートが剥離することは明白ではない。典型的に、層状チタネートの塩基による剥離は、室温(アルキルアンモニウムにより)、またはNaOH水溶液により100〜170℃のいずれかで行われる。重合プロセスにおいて達成される高温(例えば、250〜280℃)は、分子(エチレングリコール、エステル、オリゴマー)がギャラリー中に侵入するのを助け、塩基を必要とせずに剥離を支援すると考えられるであろう。本発明によるプロセスにおけるナノ層チタネートの電荷密度は、佐々木法により決定して、多くとも3.8、3.6、3.4または3.2nm-2であることが好ましい。
【0044】
これらのナノ層チタネート触媒は、環境に優しく;エステル化反応における高い活性、短い溶融相重縮合時間、および特に適切なリン化合物と共に使用したときに速い固相重縮合速度を示し;溶融物における高いIV安定性を与え;副反応を促進せず、すなわち、ポリエステルは、例えば、比較的少ないアセトアルデヒドの形成を示し;剥離したナノ層が光散乱を著しく増加させないので、良好な透明性を有する成形品の製造を可能にする。追加の利点は、文献に記載された有機チタネート触媒とは異なり、剥離した無機チタネートは、水の存在下で失活せず、反応速度は、触媒濃度に依存することである。
【0045】
無機ナノ層チタネート触媒は、xは0.5から1の範囲にあり、□は空位を表すものである、式HxTi2-x/4x/44・H2Oのレピドクロサイト型チタネートからなる群より選択される少なくとも一員であることが好ましい。このチタネートは、比較的低い層電荷密度を有し、穏やかな条件下で、例えば、周囲温度でのテトラブチルアンモニウム水溶液中、また重合媒質中で、剥離する。
【0046】
本発明の触媒は、xは0.67から0.73の範囲にあり、□は空位を表すものである、式HxTi2-x/4x/44・H2Oのレピドクロサイト型チタネートであることがより好ましく、この触媒は、平均化学量論xが約0.7のときに、式H0.7Ti1.8250.1754・H2Oを有する。
【0047】
佐々木等は、Chem. Mater., 1998, 10 (12), pp 4123-4128において、表1に一部が示された、いくつかのチタネートの層電荷密度について報告している。
【表1】

【0048】
それゆえ、本発明のプロセスは、触媒として、全て2〜4nm-2の層電荷密度を有する、H0.7Ti1.8250.1754・H2O、H0.7Ti1.65Mg0.354・yH2O、H0.8Ti1.6Ni0.44・H2OおよびH0.8Ti1.2Fe0.84・H2Oからなる群より選択される少なくとも一員をチタネートに適用することが好ましい。
【0049】
4nm-2超の層電荷密度値を有する表1のチタネートは、Na2Ti37、H2Ti37、H2Ti49・1.2H2O、およびH2Ti511・3H2Oなどの材料と似ている。これらは、本発明のプロセスに使用して差し支えないが、事前に剥離しなければならない。
【0050】
前記ナノ層チタネートは触媒として高い活性を示し、本発明のプロセスにおいて、短い重縮合時間および増加した固相重縮合速度をもたらし、副反応の量を最小にする。これらのチタネート触媒は、反応媒質中の水分による失活に対する感受性をほとんど示さず(有機チタネート、および他の有機金属チタン化合物とは異なり)、ヘイズを生じず(有機チタネートとは異なり)、反応速度がTiの量に対応する(生産性を、標準的なアンチモン触媒の生産性よりも増加させられることを意味する)。さらに、PET重縮合に再循環されたエチレングリコールを使用しても、このチタネート触媒は失活せず、またポリマーにヘイズを生じさせない。
【0051】
ナノ層チタネートは、一般に、従来のルチルまたはアナターゼTiO2粉末、好ましくはマイクロメートルサイズの粉末から出発する、公知の方法によりTiO2から合成できる。ナノ層チタネートは、板状の外観を有し、その板面の寸法は、0.8から6μmの範囲にあり、正しく合成された場合、その生成物はさらさらした粉末になる。合成されたままの剥離されていないチタネート小板の厚さ寸法は、一般に、1マイクロメートル未満、例えば、100〜900nmである。
【0052】
これらのナノ層チタネート材料の調製および必要に応じて剥離に、当該技術分野に公知のどのような方法を使用しても差し支えない。例えば、米国特許第6838160号明細書;T. Sasaki et al. in J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 8329-8335;T. Sasaki et al. in J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1991, 817-818;およびT. Sasaki et al. in Chem. Mater. 1995, 7, 1001-1007には、レピドクロサイト型のような酸化チタン(CsxTi2-x/44、0.5≦x≦1;AxTi2-x/3Lix/34、A=K,RbまたはCsおよび0.5≦x≦1)は、固相合成により製造することができ、ここで、TiO2は、アルカリ金属炭酸塩と反応させられて、対応するアルカリ金属チタネートを形成し、次いで、酸処理、例えば、塩化水素酸処理によって、プロトン化等価物に転化され、その後、剥離剤としての、例えば、適切なアミンの水溶液が添加される。生成物は濾過され、洗浄され、乾燥され、その際に、処理前に層の中に存在する全てのアルカリ金属イオンは、酸処理により水素イオンにより置き換えられ、洗浄および乾燥後に、白色粉末としてプロトン化形態が得られる。本発明によるプロセスにおいて、ナノ層チタネート(プロトン化工程後)は、粉末、または剥離を導入するための塩基によるチタネートの余計な前処理工程後に得られた懸濁液のいずれかとして、重合の開始時に他の反応体に添加されることが好ましい。剥離されたナノ層チタネート材料、特に、比較的高い層電荷密度を有するものを製造するさらに別の様式は、水熱合成によるものである。水熱法は、層状チタネートの合成を、同時の剥離と、しばしば、剥離されたナノシートのナノチューブへの巻き込みと組み合わせる。反応条件に応じて、ナノシート、ナノチューブ、ナノロッドおよびナノリボンが得られる。本出願の内容において、これらは一緒にナノチューブと称される。一例がMa et al. in Chemical Physics Letters, 2003, 380, 577に記載されている。この文献において、水熱合成は、150℃でTiO2を10MのNaOHと反応させ、HCl水溶液で洗浄して、プロトン化された巻き込まれたチタネートナノチューブ(H、TiおよびOからなる)を生成する各工程を含む。M. Wei et al. in Solid State Communications, 2005, 133, 493-497により記載された別の水熱合成手法は、TiO2をNa2CO3と反応させて、層状チタン酸ナトリウムNa2Ti37を形成する工程を含み、次いで、このチタネートはオートクレーブ内において140〜170℃で水と反応させられた。Weiによれば、高温での水分子は、Na2Ti37の層に侵入し、プロトン化チタン酸に転化させ、次いで、このチタネートはナノシートに剥離し、その後、ナノチューブに丸まる。そのようなチタネートナノチューブを濾過し、洗浄し、乾燥させ、次いで、ポリエステル反応体、例えば、PTA−EGスラリーに添加してよい。
【0053】
しかしながら、巻かれた構造において、表面積は、平らなナノシートのものよりも小さく、巻物の外面にあるTi原子しか触媒反応において媒介できないので、触媒効率は減少するであろう。このことは、水熱合成ではNaOHなどの安い試薬を使用し、それゆえ、より高濃度の巻かれたチタネートナノチューブを使用することは経済的であろうという事実により補われる。さらに、高濃度(例えば、1〜5%)の巻かれたナノチューブは、同程度の濃度の平らなナノシートと同じほどはPET重縮合反応を遅くしないであろう。高濃度のナノシートは、重縮合反応の副生成物であるエチレングリコールおよび水の拡散に対する障壁として働き得るであろう。そのような作用が、粘土について報告されてきた。さらに、約1〜5質量%の巻かれたナノチューブは、特にそのアスペクト比が約100≦である場合、強化材として働くであろう。
【0054】
本発明のプロセスにおける触媒としてのナノ層チタネートの量は、幅広い範囲内で様々であってよく、ポリエステルに基づいて、約10ppmから約10000ppmのTiの範囲にあるであろう。その触媒の量は、反応時間を短くするために、少なくとも20、30、40、50、または60ppmであることが好ましい。チタネートは、比較的多量(例えば、1〜5質量%)で存在し得るが、触媒としてだけでなく、同様に充填剤粒子としても機能し、好ましくまたは不利に、他の特性に影響を与えるであろう。例えば、高濃度の剥離シートでは、重縮合速度は、おそらく、生成されたEGの外方への拡散に対する障害として働くシートによって、減少するであろう。他方で、同様の理由により、最終的なポリエステルのガスバリヤ性が改善されるかもしれない。さらに、高濃度により、黄変が増加し得る。したがって、チタネートは、生産効率の理由のために、触媒としてのみ添加されることが好ましく、その濃度は、多くとも約250ppmであることが好ましく、多くとも200、150、100または90ppm(ポリエステルに基づくTi)がより好ましい。
【0055】
本発明のプロセスにおいて、どのような従来の手段を使用して、ナノ層チタネートを添加してもよい。この触媒は、他の成分と共に、エステル化(またはエステル交換)工程の前、最中または後に添加してもよい。あるいは、ナノ層チタネートは、他の成分とは別に(所望であれば、事前剥離された懸濁液の形態で)、エステル化またはエステル交換工程の前、最中または後の異なる時に添加してもよい。
【0056】
ナノ層チタネートは、本発明によるプロセスにおけるたった1つの触媒として、または他の公知の触媒または触媒成分と組合せで使用しても差し支えない。例えば、本発明のプロセスにおいて、アンチモン系化合物および/または亜鉛化合物を助触媒として、さらに添加してもよい。アンチモン系化合物の適切な例としては、アンチモンの酸化物、酢酸塩およびグリコール酸塩が挙げられ、亜鉛化合物は、酢酸亜鉛または酸化亜鉛であって差し支えない。酢酸アンチモンを本発明において使用することが好ましい。助触媒を使用することによって、性能、例えば、固相重縮合速度、副生成物、特にアセトアルデヒドの形成、および生成物の黄変を最適化できる。アンチモンを助触媒として使用する場合、反応速度を速くするために、10〜50ppmまたは好ましくは15〜25ppmなどの少量のTiで十分である。
【0057】
本発明によるプロセスは、さらに、リン系化合物を添加する工程をさらに含んでもよい。そのリン系添加剤としては、典型的に、リン酸とその誘導体、ポリリン酸、有機リン化合物、有機亜リン酸エステル、有機ホスホン酸エステルおよび第四級ホスホニウム化合物が挙げられる。適切な例は、亜リン酸トリフェニル、トリフェニルホスフィン、リン酸トリヘキシル、ホスホノ酢酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリエチルおよびリン酸一ナトリウムが挙げられる。リン酸、リン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルを本発明のプロセスに使用することが好ましい。リン酸は、チタネートによる溶融相重縮合に十分に受け入れられるが、標準的なアンチモン触媒と比べると、SSP速度は低下するであろう。それゆえ、リン酸は、PETなどのポリエステルを溶融相重縮合だけによって製造する場合、チタネートに適している。リン酸トリエチルまたはホスホノ酢酸トリエチルは、チタネート触媒に使用する場合、溶融相および固相両方の重縮合速度を増加させ、それゆえ、これらは、より適しており、分割プロセスにとって好ましい。
【0058】
リン化合物は、ポリエステルの質量に基づいて、約10ppmから約150ppmのPの量で添加してよい。この化合物は、良好な安定性を有するポリエステルを生成するために、ポリエステルの質量に基づいて、約20ppmから約60ppmのPの量で添加される。リン化合物は、様々な段階で添加して差し支えないが、典型的に、本発明によるプロセスにおいて、エステル化の終わりに添加される。
【0059】
少なくとも1種類の適切な色補正剤を本発明のプロセスにおいて添加してもよい。色補正は、重合スラリー中に適切な色トナーパッケージを添加することによって、または重合またはその後の加工中に溶融物にそのトナーパッケージを添加することによって、行ってもよい。適切な色補正剤としては、酢酸コバルト、青色トナー、紫色トナー、および蛍光増白剤が挙げられる。色補正剤の量は、1から25ppmまで様々であってよい。
【0060】
本発明のプロセスにおけるエステル化および重縮合工程は、当業者に公知の温度で行ってよい。例えば、PETエステル化は、典型的に、窒素雰囲気下で約230から約260℃で行ってよく、PET重縮合は、減圧下で、約270から約290℃の温度で行ってよい。
【0061】
重縮合は、例えば、最初に溶融相重縮合工程を、次に固相重縮合工程(SSP)を使用することによって、分割動作で行ってよい。
【0062】
重縮合反応は、溶液重縮合および溶融重縮合などの、どのような従来の経路によって行ってもよい。前駆体ポリエステルの所望の固有粘度、例えば、PETの場合には、約0.55から約0.66dL/g、好ましくは0.60から0.65dL/gが得られるまで、バッチプロセスにおいて、高真空下で溶融相において重縮合を行うことが好ましい。エステル化および重縮合のための直列に接続された一連の反応装置を使用して、連続プロセスで溶融相において重縮合を行うことがより好ましい。連続PETプロセスにおいて、例えば、反応において生成されたエチレングリコールを、必要に応じて縮合させ、プロセスに戻すように添加しても差し支えない。
【0063】
重縮合工程後、形成されたポリエステルは、溶融紡糸などの、当該技術分野に公知の任意の方法を使用することによって、繊維、単繊維、フイルムまたはストランドに直接押し出してもよい。そのようなポリエステル繊維は、衣類の繊維、内装および寝具の繊維などの工業用繊維材料;タイヤコードおよびロープなどの高引張強度ワイヤ;および土木工事および建設材料並びにエアバッグなどの車両用材料;および様々な織物、様々な編み物、ネット、単繊維不織布、長繊維不織布などとして使用してよい(PETおよびそのコポリマーの場合)。
【0064】
固相重縮合工程はさらに、任意の公知の技法を適用することによって行ってもよく、例えば、バッチ式または連続動作で行ってもよい。溶融相重縮合からの前駆体ポリエステルは、任意のサイズおよび形状に造粒またはペレット化してもよく、好ましくはペレットを結晶化させた後に、ポリマーのガラス転移温度と融点との間の温度で固相重縮合に施し、それによって、ポリエステルのIVを、PETの場合には、典型的に約0.72から0.84dL/gの値に、増加させてもよい。SSPは、真空中で、または約180から230℃の範囲の温度で、ペレットまたは顆粒の床に窒素流などの不活性ガス流を通過させることによって、行ってもよい。様々な固相プロセスが当該技術分野において公知であり、そのようなプロセスは、例えば、米国特許第4064112号および同第4161578号の各明細書に記載されている。固相重縮合工程を適用することによって得られるポリエステルは、例えば、PETの場合には、耐圧性容器、様々な種類の飲料のための耐熱性かつ耐アルコール性容器の製造に特に適している。例えば、本発明により得られるポリエステルは、管、パイプ、容器などの中空成形品の製造に使用してよい。中空物品を製造するどのような従来の方法を使用してもよい。例えば、中空成形品を製造する方法は、以下の工程を含んでよい:固相重縮合により得られたポリエステルチップを真空により乾燥させ、乾燥したチップを、例えば、最終的な中空容器を得るために延伸ブロー成形、ダイレクトブロー成形、または押出ブロー成形などのブロー成形を使用して、押出成形装置または射出成形装置などの成形装置によって、成形する工程。
【0065】
本発明によるプロセスにおいて、着色剤、顔料、カーボンブラック、ガラス繊維、充填剤、耐衝撃性改質剤、酸化防止剤、安定剤、難燃剤、再熱助剤などの任意の従来の添加剤を添加してもよい。一般に、そのような添加剤の各々は様々な量で使用して差し支えない。ポリエステルは、多くとも10質量%の、好ましくは多くとも約5質量%の慣例の添加剤を含有する。
【0066】
本発明は、重合媒質中での前処理を必要とせずに瞬時に剥離でき、エステル化および/または重縮合反応のための触媒として上述したように定義された、無機ナノ層チタネート、好ましくは、2〜4nm-2の負の層電荷密度を有するものの使用に関する。本発明は、ポリエステルを製造するための、より好ましくはPETなどのポリアルキレンテレフタレートを製造するための触媒としての前記無機ナノ層チタネートの使用に関することが好ましい。
【実施例】
【0067】
ここで、本発明を、以下の実験によりさらに説明する。
【0068】
試験方法
固有粘度
固有粘度(IV)は、ポリマーの分子量の尺度であり、希釈溶液粘度測定法により測定される。全てのIVは、25℃で、フェノールと1,2−ジクロロベンゼンの3:2の混合溶液中で測定した。概して、約8〜10個のチップを溶解して、約0.5%の濃度の溶液を調製した。IVは、ビルメイヤー(Billmeyer)の式(F.W. Billmeyer, J. of Polymer Sci. 1949 IV, 83参照)を使用することによって、1つのポリマー濃度(0.5%)についての相対粘度ηrの測定値から得た:
IV=[η]=0.25(ηr−1+3Inηr)/c
(cは約0.5〜0.65g/dL)
【0069】

色パラメータを、HunderLab ColorFlexモデル番号45/0、製造番号CX0969により測定した。非晶質チップを、透明状態で、研磨も結晶化も行わずに使用した。概して、測定した変化は目にも見えた。透明な非晶質チップの色は、CIE三刺激L*、a*およびb*値を使用して分類した。L*はサンプルの輝度を表し、高い値が高い輝度を表す。L*=100は完全な白色を意味し、L*=0は完全に黒色である。a*値は緑−赤のコントラストを示し(−値は緑を表し、+値は赤を表す)、b*値は青−黄のコントラストを示す(−値は青を表し、+値は黄を表す)。
【0070】
SSPチップの色の測定は研磨を行わずに行った。SSP後のL*値は、ポリマーの球顆状結晶により生じた白化のために、高くなっている。
【0071】
色の調色は、色を黄色い色合いから、より基準に合った青みを帯びた色調に補正するために、ナノ層チタネートにより製造したPETの内の1つに行った。これは、適切なトナーパッケージを添加し、透明な小板(3mm厚)を射出成形することにより行った。重合中に含まれた調色成分を有する標準的なアンチモンポリマーを使用して、対照小片を製造した。この相対的な色調は、1枚の紙などの白色の背景上に透明な小片を配置することによって、眼で評価できた。同様に、L*、a*およびb*の測定について、透明小片の上にHunerLabからの「白色標準」プレート(L*=94.8、a*=−0.89およびb*=−0.03)を配置することにより、目的に適った結果を得た。
【0072】
DEG
DEG含有量を決定するために、PETを、220℃のオートクレーブ内において、メタノールとエステル交換した。この最中に、PETは解重合し、DEGがジオールとして遊離する。形成された液体を、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して、適切な校正後に、ポリマーのDEG含有量を決定した。
【0073】
COOH末端基
PETを、還流条件下で、o−クレゾールおよびクロロホルムの混合物中に溶解させた。室温まで冷却した後、窒素雰囲気下で、KOHのエタノール溶液による電位差滴定を使用して、COOH末端基を決定した。結果は、COOHのmVal/PETのkg(PET1kg当たりのCOOHのミリ当量)で表されている。
【0074】
SSPチップ中の残留アセトアルデヒド(AA)
ポリマーチップを粉末に低温粉砕した後、AAをヘッドスペースガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。1gの粉末をGCガラス瓶内に入れた。標準的なヘッドスペース法が、樹脂中のAAについて使用され、GCカラム中への注入前に、90分間に亘り150℃でのガラス瓶の加熱を含んだ。GCを、公知の濃度のアセトアルデヒド水溶液で校正した。
【0075】
SSPポリマーの溶融の際のアセトアルデヒドの再生
チップが溶融されるときに再生されるAAは、ボトルグレードのチップの最も重要な性質であり、射出成形中のプリフォームに起きるであろうことを反映している。AA精製試験は、(1)SSPポリマーペレットを低温粉末化する工程、(2)真空中で55分間に亘り粉末を乾燥させる工程、(3)窒素封入して、孔のないダイ挿入物を使用して、4分間に亘り280℃で乾燥粉末を溶融粘度計内で溶融させる工程、(4)ダイ挿入物を取り除き、ロッドで溶融塊を冷水の入ったビーカーに押し出す工程、(5)その塊を切断し、低温粉砕する工程、(6)ガスクロマトグラフィー(GC)ガラス瓶内で粉砕した押出粉末1gを使用し、標準的なヘッドスペースGC(150℃で90分間)によりAAを測定する工程を含んだ。
【0076】
ナノ層チタネートの合成
ナノ層チタネートH0.7Ti1.8250.1754・H2O(□は空位)を佐々木により記載された手法[Chem. Mater. 7, 1001-1007 (1995); J. American Chemical Society, 118, 8329-8335 (1996)]を使用して合成した。最初に、炭酸セシウム粉末およびマイクロメートルサイズのTiO2結晶を1:5.3のモル比で混合し、40時間に亘り800℃でか焼して、チタン酸セシウム粉末を形成することによって、固相合成により、セシウム中間体Cs0.7Ti2-x/4x/44・H2O(平均値xは約0.7)を製造した。次に、この材料を酸処理(Cs+のH+イオンによる交換)によってプロトン化した。1gのCs0.7Ti2-x/4x/44・H2O粉末を室温で100cm3の1Nの塩化水素酸溶液により撹拌しながら処理した。3日間に亘り毎日、この溶液を新しくした。次いで、固相を濾過し、洗浄し、乾燥させて、さらさらした白色粉末としてプロトン化されたチタネートHxTi2-x/4x/44・H2OまたはH0.7Ti1.8250.1754・H2Oを生成した。この質量は170gであった。走査型電子顕微鏡において、この粉末は非凝集プレート型結晶として示され、約0.8から6μmの典型的な横幅および約700nmの厚さであった。粉末における合成されたままの結晶は、その結晶が約700原子層厚であるので、ナノ層に剥離されていない。佐々木の手法におけるのとは異なり、この粉末を、PTA−EGスラリーに添加することによって、重合においてそのまま使用した。すなわち、過酸化テトラブチルアンモニウムによる化学処理をさらに行わなかった。
【0077】
ポリエステルの合成
比較実験A
10リットルの円錐形反応容器に2246gのPTA、41gのIPA、1100gのEG、1.3gの三酢酸Sb(200ppmのSb)、および0.2gのリン酸(23ppmのP)を充填した。理論的なPET収量は2645gであった。エステル化は、窒素雰囲気下において253℃で行い、生成された水は収集した。水の量が、所望のエステル化が完了したことを示したときに、容器を278℃に加熱し、圧力を10〜40Paに減少させた。重縮合は、機械式撹拌機のトルクが上昇したのが観察されたときに開始したと考えられ、トルクが13.5Nmの値(先の実験に基づいて、約0.64dL/gのIVのPETに相当するであろう)に到達するまで続けた。標準的なアンチモンポリマーについて13.5Nmのトルクに到達するまでの重縮合時間は、105分(表2参照)であった。これを、チタネートの触媒効果を比較するための対照として使用する。次いで、ポリエステル溶融物を、反応容器に窒素圧を印加することによって、1つのストランドとして吐出し、これを、水浴中で急冷し、透明なペレットに切り刻んだ。
【0078】
非晶質PETチップを、1時間に亘り170℃で加熱することによって、結晶化させ、次いで、6時間に亘り連続的窒素を流しながら、210℃で固相において重縮合させた。
【0079】
このようにして得られた白色ペレットを上述したように分析し、その結果が表2に収集されている。到達したIVは、標準的なアンチモンポリマーのSSP速度の指標であり、同じ条件下で達成された高いIVが高いSSP速度を表し、反対に、低いIVが低いSSP速度を反映する。
【0080】
比較実験B
この実験は、従来のマイクロメートルサイズのTiO2がPET重縮合において極わずかな触媒活性しか有さないことを示す。比較実験Aの手法を繰り返した。すなわち、三酢酸アンチモンを触媒として使用し、ナノ層チタネートの合成に使用したマイクロメートルサイズのTiO2粒子を添加し、1800ppmのTiが存在した。重縮合時間にはなんの影響もないようであった。表2参照。さらに、PETは半透明であった。同様な結果が、低濃度のTiO2についても得られた。
【0081】
バッチを、アンチモンを含まずに、TiO2で試したときに、重縮合は非常に遅く、トルクは、3時間が経過した後でさえ、13.5Nmまで増加しなかった。
【0082】
実施例1〜4
これらの実験は、ナノ層チタネートH0.7Ti1.8250.1754・H2Oが、PTA−EGスラリー中に粉末として添加されたときに、助触媒として働くことを示す。三酢酸アンチモンに加え、様々な量の先に調製したナノ層チタネートを添加したことを除いて、比較実験Aの手法を繰り返した。実施例1〜3において、93、47および23ppmのTiは、反応混合物への0.484、0.242および0.121gのチタネート粉末の添加に相当する。実施例1〜3において、リン酸(PA)を熱安定剤として使用したが、実施例4においては、リン酸トリエチル(TEP)を安定剤として使用した。表2に要約した結果は、溶融相重縮合時間の著しい減少、より速いSSP、形成されたより少ないDEGおよびCOOH末端基、および得られたPETのより黄色い色を明らかに示す。すなわち、ナノ層チタネートは、助触媒のように働いている。実施例1〜3におけるSSP速度(SSP後に到達したIVにより判断された)は、比較実験Aの標準的なアンチモン触媒に関するものと同じくらい良好であるかまたはそれより良好である。実施例4は、TEPを使用した場合、0.85dL/gのIVに到達するので、さらにより速いSSP速度が達成されることを示している。
【0083】
実施例5〜11
リン酸(実施例5〜7)、リン酸トリエチル(ETP、実施例8〜9)、またはホスホノ酢酸トリエチル(TEPA、実施例10)と共に、触媒として上述したように調製したナノ層チタネートのみを(酢酸アンチモンを添加しない)様々な量で使用したことを除いて、比較実験Aおよび実施例1〜4の手法を繰り返した。チタネートをPTA−EGスラリーに添加した。表2に要約された結果は、チタネートが、特に約50〜90ppmのTiの濃度で、そのままで効果的な溶融相重縮合触媒として機能することを明らかに示している。チタネートを唯一の触媒として使用した場合、SSP速度は、リン化合物により影響を受ける。実施例11は、どのようなリンも添加せずにチタネート(63ppmのTi)を使用した場合、溶融相重縮合速度が、200ppmのSbよりも良好であるが、SSP後には、IVの上昇がほとんどない。標準的なアンチモンの0.79dL/g(比較実験Aを参照のこと)と比べて、IVは、0.65dL/gから0.67dL/gに上昇する。P−化合物を添加すること、特にTEPおよびTEPAについて、著しく速いSSPが得られる。実施例6および7は、リン酸について、SSP後に得られたIVは、それぞれ、0.75および0.73dL/gであるが、これは、標準的なアンチモンの0.79dL/g(比較実験Aを参照のこと)と比べて低い。しかしながら、実施例8〜10は、チタネートのみを触媒として使用する場合、TEPおよび特にTEPAが、SSPの効果的な助剤として働くことを示す。実施例10におけるTEPAについて、SSP後のIVは、比較実験Aの0.79dL/gと比べて、0.88dL/gに到達した。形成されたPETは、Sb−触媒により製造された対照PETと比べて、より少ないDEGおよびCOOH末端基、高い光学的透明性、およびより黄色い色(より高いb*値)を示す。
【0084】
チタネートポリマーの色補正
ナノ層チタネートから製造されたベースポリマーの色は、標準的なアンチモン触媒から製造されたベースポリマーの色とは異なり、したがって、チタネートポリマーの色を、蛍光増白剤と組み合わされた紫色トナーにより補正した。
【0085】
標準的なアンチモンポリマー(200ppmのSb、15ppmのCo(酢酸コバルト(II))および1ppmのEstofil青色トナー、全て重合中に含まれた)を製造し、これにSSPを施した。このSSP樹脂から透明な小片を射出成形した。標準的な白色背景に対する対照小片の色、および実施例8のチタネートポリマー(最も強い黄色の色合いを有するポリマー;SSP後にb*=13)を同様の色合いにするのに必要なカラーパッケージを決定した。チタネート樹脂を乾燥させ、小片に射出成形した。このとき、様々な量の市販の液体着色添加剤パッケージを添加した。表3に示された色測定の結果は、このチタネート系PETの色調節が実施可能であることを示す。チタネートポリマーの調色後、見た目は、小片は許容される色合いを有した。標準的なアンチモンポリマー(酢酸コバルトおよび青色トナーなどの通常の色補正成分を含む)は、緑がかった黄色の色合いを持つ小片を生成し、これは、負のa*値および正のb*値に反映される。実施例8のチタネートポリマーからの小片は、黄色の傾向が減少したので、色補正成分を含む標準的なアンチモンポリマーよりも良好な外観を有した。原則的に、重合の開示時に本発明のプロセスにおいて、同じ色トナーパッケージを添加して差し支えない。
【表2−1】

【表2−2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルを製造するプロセスにおいて、触媒として剥離形態の無機ナノ層チタネートの存在下で、少なくとも1種類のカルボン酸系化合物および少なくとも1種類のアルコール系化合物を、エステル化反応およびその後の重縮合反応において接触させる工程を有してなるプロセス。
【請求項2】
前記無機ナノ層チタネートが事前に剥離された形態で添加されることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記チタネートが水性懸濁液の形態で添加されることを特徴とする請求項2記載のプロセス。
【請求項4】
前記チタネートが乾燥したまたは半湿潤チタネートナノチューブとして添加されることを特徴とする請求項2記載のプロセス。
【請求項5】
前記チタネートが、佐々木法により測定して、2から4nm-2の範囲の層電荷密度を有することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項6】
前記無機ナノ層チタネートが、xが0.5から1.2の範囲にあり、□がチタン部位の空位である、式HxTi2-x/4x/44・H2Oのレピドクロサイト構造を有するチタネートからなる群より選択される少なくとも一員であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のプロセス。
【請求項7】
xが0.67から0.73の範囲にあることを特徴とする請求項6記載のプロセス。
【請求項8】
前記チタネートが、H0.7Ti1.8250.1754・H2O、H0.7Ti1.65Mg0.354・yH2O、H0.8Ti1.6Ni0.44・H2OおよびH0.8Ti1.2Fe0.84・H2Oからなる群より選択される少なくとも一員であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のプロセス。
【請求項9】
前記チタネートのプレートサイズが0.8から6μmの範囲にあり、厚さ寸法が100〜900nmであることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のプロセス。
【請求項10】
Tiが、ポリエステルに基づいて、40から150ppmの量で存在することを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載のプロセス。
【請求項11】
助触媒としてアンチモン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載のプロセス。
【請求項12】
安定剤としてリン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載のプロセス。
【請求項13】
前記リン化合物が、リン酸、リン酸トリエチルおよびホスホノ酢酸トリエチルからなる群より選択される少なくとも一員であることを特徴とする請求項12記載のプロセス。
【請求項14】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであり、前記カルボン酸系化合物がテレフタル酸であり、前記アルコール系化合物がエチレングリコールであることを特徴とする請求項1から13いずれか1項記載のプロセス。
【請求項15】
請求項1から9いずれか1項記載の無機ナノ層チタネートをエステル化反応および/または重縮合反応のための触媒として使用する方法。

【公表番号】特表2012−520907(P2012−520907A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500131(P2012−500131)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001618
【国際公開番号】WO2010/105787
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】