説明

熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物

【課題】 摺動部材として用いた場合、摺動性が良好であるのみならず、摺動部材の作動時に発生する摺動音の低減が可能であり、さらには各種樹脂部材としても接触音や衝突音などの低減が可能な熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (a)熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、(b)チタン酸カリウムウィスカーを1〜30質量部及び(c)R1−CONH−R2なる構造をもつ置換アマイド類を0.01〜20質量部含有し、230℃でのメルトフローレートが1〜10g/10分、該樹脂組成物成形品の曲げ弾性率が500〜1500MPaで、かつ滑り摩耗試験による摩耗量が10mg以下で、かつ動摩擦係数が0.1未満であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関するものであり、詳しくは耐摩耗性、摺動性に優れた押出成形品や射出成形品を得ることができる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料の耐摩耗性、摺動性を高めるために、チタン酸カリウムウィスカーを配合することは知られている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、その効果が有効に発揮されるのは、高い剛性の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の場合であり、低い剛性の熱可塑性樹脂、特に熱可塑性ポリエステルエラストマーに対する効果は小さい。熱可塑性ポリエステルエラストマーの耐摩耗性、摺動性を高める方法としては、熱可塑性ポリエステルエラストマーに固体潤滑剤並びに高級アルコール高級脂肪酸、それらの誘導体及び長鎖炭化水素化合物から選ばれた1種以上の化合物を配合する方法(特許文献3)や特定の置換アマイド化合物を配合する方法(特許文献4)などが知られている。
近年になり、摺動性のみならず、摺動部材の作動時に発生する摺動音の低減や各種樹脂部材の接触音や衝突音などを低減する静音化についても要望されるようになっている。
【特許文献1】特開平10−36679号公報
【特許文献2】特開平11−217509号公報
【特許文献3】特開昭52−65552号公報
【特許文献4】特許第3164173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
耐摩耗性、摺動性に優れ、製品設計の自由度に優れる低剛性の成形品を提供でき、摺動部材として用いた場合、摺動性が良好であるのみならず、摺動部材の作動時に発生する摺動音の低減が可能であり、さらには各種樹脂部材としても接触音や衝突音などの低減が可能な熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決することのできた本発明に係る熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、以下の構成を採用するものである。すなわち、
1.(a)熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、(b)チタン酸カリウムウィスカーを1〜30質量部及び(c)R1−CONH−R2なる構造をもつ置換アマイド類(R1及びR2は炭素数6以上の脂環族基、芳香族基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかの基である。)を0.01〜20質量部含有し、230℃でのメルトフローレート(JIS K6760)が1〜10g/10分である樹脂組成物であり、該樹脂組成物成形品の曲げ弾性率が500〜1500MPaで、かつ滑り摩耗試験(JIS K7218 A法)による摩耗量が10mg以下で、かつ動摩擦係数が0.1未満であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物であり、また、
2.前記滑り摩耗試験による摩耗量が1mg以下で、かつ動摩擦係数が0.07以下であることを特徴とする第1の発明に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、チタン酸カリウムウィスカーと置換アミド類とが併用されることにより、相乗的に摺動性、耐磨耗性が向上するため、少ない配合量であっても目的を達成することができる。また、チタン酸カリウムウィスカーの樹脂組成物中での分散性も良好なため、耐磨耗性、摺動性のバラツキが少なく、安定した性能が発揮される。
このように、低剛性の成形品の摺動性、耐磨耗性が改善されるのみならず、摺動部材の作動時に発生する摺動音の低減が可能であり、さらには、各種樹脂部材としても接触音や衝突音などの低減が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマーとは、高融点ポリエステルセグメントと分子量400〜6000の低融点重合体セグメントとからなるブロック共重合体であり、高融点ポリエステルセグメント構成部分だけで高重合体を形成した場合の融点が150℃以上であり、低融点重合体セグメント構成成分のみで測定した場合の融点ないし軟化点が80℃以下であるような構成成分からなる熱可塑性ポリエステルエラストマーであり、その熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は80℃以上である。
【0007】
高融点ポリエステルセグメントを構成するポリエステルはテレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、4,4−スルホニルジ安息香酸などの芳香族ジカルボン酸の残基とエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、テトラメチレングリコ−ル、ペンタメチレングリコ−ル、2,2−ジメチルトリメチレングリコ−ル、ヘキサメチレングリコ−ル、デカメチレングリコ−ル、p−キシレングリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル等のジオール残基とからなるポリエステルあるいはこれら2種類以上のジカルボン酸あるいは2種類以上のジオールを用いたコポリエステル、あるいはp−(β−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、p−オキシ安息香酸等のオキシ酸及びそれらの残基から誘導されるポリエステル、ポリピバロラクトンなどのポリラクトン、1,4−ビス(4,4’−ジカルボキシジフェノキシ)エタンなどの芳香族エーテルジカルボンの残基と前述のジオール残基とからなるポリエーテルエステル、さらに以上述べたジカルボン酸、オキシ酸、ジオール類などを組み合わせたコポリエステルなどのうち、融点が150℃以上のものをあげることができる。特にポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0008】
分子量400〜6000の低融点重合体セグメント構成成分は、ポリエステル系ブロック共重合体のなかで実質的に非晶の状態を示すものであり、そのセグメント構成成分だけで測定した場合の融点あるいは軟化点が80℃以下のものをいう。その分子量は400〜6000が適当である。また熱可塑性ポリエステルエラストマーのなかでの低融点重合体セグメント構成成分の割合は3〜90%である。
【0009】
代表的な低融点重合体セグメント構成成分としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルグリコール及びこれらの混合物さらにこれらのエーテル構成成分を共重合した共重合ポリエーテルグリコール等を示す。さらに炭素数2〜12の脂肪族又は脂環族ジカルボン酸と炭素数2〜10の脂肪族又は脂環族グリコールからなるポリエステル例えばポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリネオペンチルセバケート、ポリテトラメチレンドデカネート、ポリテトラメチレンアゼレート、ポリヘキサメチレンアゼレート、ポリ−ε−カプロラクトン等の脂肪族ポリエステル及び2種の脂肪族ジカルボン酸あるいは2種のグリコールを用いてできる脂肪族コポリエステル等をあげることができる。さらに低融点重合体セグメント構成成分として上記脂肪族ポリエステルと脂肪族ポリエーテルとを組み合わせたポリエステルポリエーテルブロック共重合体などをあげることができる。
【0010】
これらの熱可塑性ポリエステルエラストマーは、溶融粘度が比較的に高いことが必要であり、JIS K6760記載の試験法に準拠し、230℃でのメルトフローレート(MFR)が1〜10g/10分であり、好ましくは3〜9g/10分、より好ましくは4〜8g/10分である。
これらの熱可塑性ポリエステルエラストマーは、通常の重合方法によって製造することができる。好適な方法としては、芳香族ジカルボン酸又はそのジメチルエステルと低融点セグメント形成性ジオールとを触媒の存在下に約150〜260℃に加熱し、エステル化反応又はエステル交換反応を行い、次いで真空下に過剰の低分子ジオールを除去しつつ重縮合反応を行うことにより熱可塑性ポリエステルエラストマーを得る方法、あらかじめ調整した高融点ポリエステルセグメント形成性プレポリマー及び低融点重合体セグメント形成性プレポリマーに、それらのプレポリマーの末端と反応する2官能性の鎖延長剤を混合して、反応させた後、系を高真空に保ち揮発分を除去することにより熱可塑性ポリエステルエラストマーを得る方法、高重合度の高融点ポリエステルとラクトン類とを加熱混合し、ラクトンを開環重合させつつエステル交換反応させることにより熱可塑性ポリエステルエラストマーを得る方法などがある。
【0011】
230℃でのメルトフローレート(JIS K6760)を1〜10g/10分の高溶融粘度に増粘する方法としては、上記のようにして製造された熱可塑性ポリエステルエラストマーをポリエステルの末端と反応しうる2官能以上の化合物と反応させる方法や、さらに固相重合する方法を採用する事ができる。
【0012】
本発明で使用されるポリエステルの末端と反応しうる2官能以上の化合物としては、エチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル、ビスフェノールS−ジグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型グリシジルエーテル、フェノールノボラック型グリシジルエーテル、ポリカルボジイミド、ビスオキサゾリン化合物等が好ましい例として挙げられる。特に好ましい例としてはエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0013】
これらポリエステルの末端と反応しうる2官能以上の化合物の配合量は、用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーの末端に存在する官能基の量、あるいは最終的に得られる樹脂組成物の要求特性によって変わり得る。好ましくは上記熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、0.1〜10質量部、より好ましくは0.3〜8質量部、さらに好ましくは0.5〜6質量部である。0.1質量部未満では、このような化合物を反応させることによって得られる作用効果、例えば、増粘による成形性の向上効果、耐熱性及び耐加水分解性の向上効果が有意に発揮されない。また10質量部を超えると、未反応化合物が残存することによって、成形体の表面性状が粗雑になる等、成形品の品質に悪影響が現れてくることがある。
【0014】
本発明の樹脂組成物において、前記熱可塑性ポリエステルエラストマーとポリエステルの末端と反応しうる2官能以上の化合物との反応は触媒を用いなくとも起こり得るが、反応の促進又は親和性の向上の点から、触媒を用いることが望ましい。触媒としては、一般にアミン類、リン化合物、炭素原子数が10以上であるモノカルボン酸及び/又はジカルボン酸類の、元素周期律表より選ばれたIa族又はIIa族の金属塩類などが挙げられ得る。なかでもトリブチルフォスフィン、トリフェニルフォスフィンなどの3価のリン化合物;及びステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムなどのステアリン酸の金属塩類が好ましい。これらの触媒は、単独で又は2種以上混合して用いられ得る。また、上記触媒は一括して添加しても分割して添加しても、同様の効果が得られ、触媒の添加量は、通常、上記熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して3質量部以下、好ましくは0.03〜2質量部である。
【0015】
本発明に用いられるチタン酸カリウムウィスカーとしては、K2O・nTiO2(式中nは6又は8を示す)で表されるチタン酸カリウムウィスカーであり、一般式K2O・nTiO2(式中nは6又は8を示す。)で表されるチタン酸カリウムウィスカーである。該チタン酸カリウムウィスカーの具体例としては、6チタン酸カリウムウィスカー及び8チタン酸カリウムウィスカーを挙げることができる。これらの中でも、8チタン酸カリウム繊維が好ましい。本発明では市販のチタン酸カリウムウィスカーをも使用でき、その具体例として、例えば、商品名:ティスモN(6チタン酸カリウム繊維、大塚化学製)、商品名:ティスモD(8チタン酸カリウム繊維、大塚化学製)等を挙げることができる。チタン酸カリウムウィスカーは、必要に応じ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等で表面処理を施したものでもよい。チタン酸カリウムウィスカーは1種を単独で使用でき又は2種以上を併用できる。
【0016】
チタン酸カリウムウィスカーの充填量は、熱可塑性ポリエステルエラストマーとチタン酸カリウムウィスカーとの合計量に対して、1〜30質量%、好ましくは3〜20質量%とする。1質量%未満の場合は、機械的物性、特に摺動性や耐摩耗性の向上が不十分になる可能性がある。また、30質量%を超えて充填しても、機械的物性の向上を望めず、却って機械的特性の低下を招く恐れもある。また経済的にも好ましくない。
平均ウィスカー径が0.05〜4μm(好ましくは0.1〜3μm)、平均ウィスカー長が5〜500μm(好ましくは7〜300μm)であり、且つアスペクト比が7以上(好ましくは10以上)のものである。斯かる平均ウィスカー径、平均ウィスカー長及びアスペクト比を備えている限り、従来公知のウィスカーを広く使用することができる
【0017】
本発明に用いる置換アミド類とは、R1−CONH−R2なる構造を有し、そのうちR1 、R2は炭素数6以上の脂環族基、芳香族基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかの基であり、好ましくは少なくともR1 及びR2 のうちの一方には1個以上の2重結合を有している。例えば飽和脂肪族炭化水素基としてはカプリル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘリル基があり、不飽和脂肪族炭化水素基としてはオレイル基、エルカリル基、脂環基としてはシクロヘキシル基、芳香族基としてフェニルメタン基、トルイル基、キシリル基などがる。これらのうちオレイルオレイン酸アマイド、ステフリルオレイン酸アマイド、オレイルステアリン酸アマイドが特に摺動剤として良好な性能を示す。
【0018】
ここで熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して置換アミド類の配合比が0.01〜20質量部では良好な性能を示すが、0.01質量部未満では摺動性改良効果がなく、20質量部を越えると相溶不良が発生する。好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜3質量部である。
【0019】
本発明では、以上のように熱可塑性ポリエステルエラストマーにチタン酸カリウムウィスカーと置換アミド類とが併用されることにより、チタン酸カリウムウィスカーと置換アミド類とが相乗的に摺動性、耐磨耗性を向上させるため、チタン酸カリウムウィスカーと置換アミド類との合計量は、樹脂組成物中で10質量%以下の少ない配合量であっても目的を達成することができる。また、チタン酸カリウムウィスカーの樹脂組成物中での分散性も良好であるため、耐磨耗性、摺動性のバラツキが少なく、安定した性能を発揮できる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、成形品の曲げ弾性率が500〜1500MPaで、低剛性で柔軟性、弾性が高いことが特徴の一つであり、500〜1000MPaが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、230℃でのメルトフローレート(JIS K6760に準拠)が1〜10g/10分であることが必要であり、好ましくは3〜9g/10分、より好ましくは4〜8g/10分である。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、多くの望ましい特性を有するがさらに紫外線に対する安定剤、熱酸化に対する安定剤、加水分解に対する安定剤等を配合することにより極めて容易に上記性質を著しく安定化させることができる。安定剤として有用な代表的なものは、紫外線に対する安定剤としては置換ベンゾフェノン類又は置換ベンゾトリアゾール類など、熱酸化に対する安定剤としてはフェノール誘導体、例えばテトラキス[メチレン−3(3,5−ジタ−シャリブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジタ−シャリブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’−ブチリデンビス(6−ターシャリブチルメタクレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ターシャリブチルフェノ−ル)等があり、芳香族アミン類例えば、N,N’−ビス(β−ナフチル)パラフェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−パラフェニレンジアミン等があり、チオプロピオン酸エステル類、例えばジラウリルジチオプロピネ−ト、ジステアリルジプロピオネート等がある。またこれらの組合せも有効である。加水分解に対する安定剤としてのカルボジイミド類、モノあるいはポリエポキシの配合は溶融混練時又は別に任意の段階で行うことができる。
【0022】
上記安定剤の添加量は、該エラストマーの用途によって適宜変えられ得る。一般にはより高度な安定性を要求される用途では添加量を高める必要があるが、添加量を高めすぎると安定剤が成形時に析出し、成形金型を汚染したり、ポリマー流路に堆積して成形に不都合を生じる原因となる。また、成形品として加工した後でも成形品を使用中にその表面に析出して、見栄えが悪くなったり、衛生上問題を生じる可能性がある。従って、添加量は0.1〜5質量部の範囲が適切であり、より好ましくは0.3〜3質量部である。
【0023】
上記安定剤は単独で又は他の一般的な安定剤と混合して用いうるが、共に用いうる安定剤としては、フェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系、金属塩系、などが挙げられる。本発明においては揮散性と機械的特性、耐熱性、耐加水分解性のバランスを取る観点より、安定剤としても揮散性の低い化合物を選定することが望ましい。
【0024】
さらに、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、必要に応じて難燃剤を含有し得る。前記ポリエステル型ブロック共重合体100質量部に対して、100質量部を超えない範囲で配合することにより難燃性の向上を図ることが可能である。難燃剤としては、ハロゲン系、リン系、メラミン系等の有機添加物、金属水酸化物等の無機添加物等が挙げられる。また、必要に応じて酸化アンチモン、ホウ素化合物等の難燃助剤を添加してもかまわない。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、用途、目的などに応じて、従来公知の結晶化促進剤、結晶核材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、導電性改良剤、耐加水分解改良剤、多官能架橋剤、耐衝撃改良剤、金属劣化防止剤、着色剤などが配合され得る。また、本発明の目的を損なわない限り、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタンのような他の種類の樹脂もブレンドされ得る。
【0026】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、任意の方法で行うことができる。たとえば、熱可塑性ポリエステルエラストマーと各配合物をタンブラーなどで混合後、二軸押出機を用いて150〜260℃の温度範囲で混練し、ストランド状に吐出し水冷後、チップ化するのが簡便である。必要によっては水中カッター、ホットカッター、ミストカッターを使用してもよい。押出機以外にロールミル、バンバリーミキサーなどで加熱・混練することも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明の構成及び作用効果をより詳細に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合しうる範囲で変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例中、単に部あるいは%とあるのは質量部あるいは質量%を示す。
【0028】
なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
〔樹脂の溶液粘度〕
樹脂の溶液粘度(還元粘度ηsp/C)は、樹脂(以下ポリマーともいう)0.05gを25mlの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40質量比)に溶かして、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
〔溶融粘度〕
樹脂組成物のチップについて、JIS K 6760記載の試験法に準拠し、230℃でのメルトフローレート(MFR)を測定した。
〔樹脂組成物の押し出し性の評価〕
40mmφ単軸押し出し機を用い、設定温度230℃、回転数50rpmにて厚さ1mmのシートを押し出し、評価した。
×:吐出時のネッキングが大きい △:ややネッキングが発生する。○:ネッキング等は発生せず、安定に押し出しができる。
【0029】
〔成形品の曲げ物性〕
曲げ弾性率はJIS K6301に準拠して測定した。
〔成形品の滑り磨耗試験〕
JIS K7218のA法に準拠して磨耗量(mg)と動摩擦係数を測定した。相手材料はS45C、試験速度30cm/秒、荷重98N(10kg)、滑り距離500m(50min)である。
【0030】
〔成形品の接触音の評価〕
100mm×100mm、厚さ2mmの成形品同士を打ち当てて、その音の甲高さで4段階にランク付けした。
×:甲高く、金属的音がある。 △:やや金属的音が残る。○:鈍い音がする。◎:響きがなく、非常に弱く鈍い音がする。
【0031】
〔熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造〕
ジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオール及び数平均分子量が約1000であるポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)を用い、PTMGの単位がそれぞれ12%と25%を占めるポリエステル・ポリエーテルブロック共重合体(ポリマ−A及びB)を(a)成分の熱可塑性ポリエステルエラストマーとして常法によって製造した。溶液粘度ηsp/CはポリマーAが1.33dl/g、ポリマーBが1.45dl/gであった。
また、ポリブチレンテレフタレート100質量部とε−カプロラクトン25質量部とを250℃で加熱混合し、60分間反応缶内でラクトンを開環重合させつつエステル交換反応させることによって、ポリエステル・ポリエステルブロック共重合体(ポリマーC)を(a)成分の熱可塑性ポリエステルエラストマーとして製造した。溶液粘度ηsp/Cは1.20dl/gであった。
【0032】
〔実施例1〕
熱可塑性ポリエステルエラストマーとしてポリマーAを100質量部、チタン酸カリウムウィスカーとしてティスモN(6チタン酸カリウム繊維、大塚化学株式会社製)を5.3質量部、置換アマイド類としてオレイルステアリン酸アミドを0.5質量部、増粘剤としてポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテルを0.5質量部、トリフェニルフォスフィンを0.2質量部、さらに酸化防止剤イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.5質量部混合した後、混合物を40mmφ同方向回転2軸押出機を用いて230℃で混練りして、水槽中にストランド状に吐出させて冷却させながらストランドカッターでカッティングして樹脂組成物のチップを得た。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1において、熱可塑性ポリエステルエラストマーとしてポリマ−B、置換アマイド類としてオレイルオレイン酸アミドを用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のチップを得た。
〔実施例3〕
実施例1において、熱可塑性ポリエステルエラストマーとしてポリマーCを用いる以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のチップを得た。
【0034】
〔比較例1〕
熱可塑性ポリエステルエラストマーとしてポリマ−Aを100質量部、チタン酸カリウムウィスカーとしてティスモN(6チタン酸カリウム繊維、大塚化学株式会社製)を5.3質量部を混合して、実施例1と同様にして樹脂組成物のチップを得た。
〔比較例2〕
熱可塑性ポリエステルエラストマーとしてポリマ−Aを100質量部、置換アマイド類としてオレイルステアリン酸アミドを0.5質量部を混合して、実施例1と同様にして樹脂組成物のチップを得た。
〔比較例3〕
樹脂として熱可塑性ポリエステルエラストマーではなくポリブチレンテレフタレート(PBTともいう、東洋紡績株式会社製、ηsp/C=1.20dl/g)100質量部とティスモN(6チタン酸カリウム繊維、大塚化学株式会社製)5.3質量部とを混合して、実施例1と同様にして樹脂組成物のチップを得た。
【0035】
得られた各樹脂組成物のチップを棚式乾燥機で100℃で2時間乾燥させてから、樹脂組成物の評価及び射出成形機による試験用成形品の作製と得られた成形品の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、耐摩耗性、摺動性に優れた成形品を提供でき、成形品同士を打ち当てた場合の発生音が著しく低く、摺動部材として用いた場合、摺動部材の作動時に発生する音の低減が可能なことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、低剛性の成形品の摺動性、耐磨耗性が改善されるのみならず、摺動部材の作動時に発生する摺動音の低減が可能であり、さらには、各種樹脂部材としても接触音や衝突音などの低減が可能で、製品設計の自由度に優れるところから、これまで使われることのなかった広い範囲の成形品に使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、(b)チタン酸カリウムウィスカーを1〜30質量部及び(c)R1−CONH−R2なる構造をもつ置換アマイド類(R1及びR2は炭素数6以上の脂環族基、芳香族基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかの基である。)を0.01〜20質量部含有し、230℃でのメルトフローレート(JIS K6760)が1〜10g/10分である樹脂組成物であり、該樹脂組成物成形品の曲げ弾性率が500〜1500MPaで、かつ滑り摩耗試験(JIS K7218 A法)による摩耗量が10mg以下で、かつ動摩擦係数が0.1未満であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記滑り摩耗試験による摩耗量が1mg以下で、かつ動摩擦係数が0.07以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−146076(P2007−146076A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345520(P2005−345520)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】