説明

熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、およびこれを用いた光反射体

【課題】 樹脂製の光反射体部品を射出成形等により成形する際の金型汚れを低減しつつ良好な金型離型性、および耐熱性を有し、かつ成形品表面へのブリードアウトを高度に制御した樹脂成形体を得ることができるため、アンダーコート時のはじき現象を抑制させることが可能であり、高温度雰囲気下に曝されても高輝度感の保持が可能で、かつ厚みが薄い成形品においても形状の保持が良好である樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂を、(A)/(B)の質量比率が70/30〜85/15となるよう配合した樹脂成分を70〜95質量部、(C)無機フィラーを5〜30質量部含み、(A)〜(C)の合計100質量部に対して、(D)離型剤を0.1〜1質量部含有する樹脂組成物であって、該組成物を射出成形してなる成形品において、特定の条件を満たす熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ランプなどの部品における、表面に光反射層を設ける光反射体用部品に用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、ならびにこれを成形してなる光反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ランプ等に使用されるエクステンション、リフレクターなど、また照明器具等などの光反射体は、その性能として高い輝度外観(平滑性)、均一な反射性、光源からの光による発熱に対する耐熱性等が要求される。従来、このような製品には、熱硬化性樹脂であるバルクモールディングコンパウンド(以下、BMCと略す)などの表面に、金属薄膜を設けたものが使用されていた。
【0003】
BMCは耐熱性、寸法安定性などに優れるものの成形サイクルが長く、成形時のバリの発生に対する処理に手間がかかり生産性が低下する問題や、モノマー揮発によるガス発生等で作業環境が悪化するという問題があった。こうした問題を改善する手段として、熱可塑性樹脂を用いる方法が実施されている。
【0004】
熱可塑性樹脂を使用した例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂に代表される結晶性樹脂や、ポリカーボネート樹脂に代表される非晶性樹脂等に、各種強化材などを配合した組成が提案されている。中でも、機械的性質、電気的性質、耐熱性、良好な成形加工性などが要求される光反射体では、特にポリブチレンテレフタレート樹脂単独またはポリブチレンテレフタレート樹脂と他の樹脂との混合物に各種強化材を配合したポリエステル樹脂組成物が広く採用されている。
【0005】
上述の熱可塑性樹脂組成物による成形品に対し、光反射体としての性能を付与するため金属薄膜等を形成させる手法として、成形品に光反射金属層を形成する前にアンダーコート処理による前処理を行う方法と、直接金属層を形成させるダイレクト法が実施されている。
【0006】
当然ながら、アンダーコート処理を実施すると工程、コスト等が増加するため、アンダーコート処理を実施しなくても良いダイレクト法が有用であることはいうまでもない。ただ、そのためには樹脂成形品自体が良好な表面平滑性を有しかつ高い光沢性、輝度感を有することが必要である。また、その用途から、樹脂の耐熱性や成形時等におけるガス発生抑制(低ガス性)を高度に制御する必要がある。ダイレクト法での蒸着が可能な樹脂組成物として、例えば特許文献1に提案されているものなどがあるが、材料面、金型面、成形面全てにおいて非常に高いレベルが必要となるため、実際の量産時の不良率が比較的高くなる傾向にある。また、成形時のフィラー浮き出しなどが発生するために、強化材には非常に粒径の細かいものを使用、かつ添加量も少なくする必要があるため、剛性や耐熱性の向上が見込めず、特に近年の薄肉軽量化に対しては樹脂特性として不足する可能性が高い。そのため、複雑な形状が多く、大型の本成形品等においては、まだ広く採用に至っていないのが現状であり、アンダーコート処理を実施する方法が一般的である。
【0007】
ただし、アンダーコート処理を実施する方法にも課題がある。自動車ランプ部品等は形状が複雑なものが多いため、成形時の離型不良が発生する可能性が高い。そのため、樹脂には必ず離型剤が配合されている。当然、離型剤を配合することにより離型性は向上するものの、離型剤そのものがガスとなったり、ブリードアウトしてくることによって、金型が汚れたり、光反射体とした際に曇りが発生したり、金属層との密着性が不足することがあった。
特にダイレクト法ではこれが顕著である。アンダーコート処理を実施する場合には、光反射体とした際の曇り度合いはアンダーコート層の影響で多少抑制されるものの、アンダーコートを塗布する際に離型剤が多く存在しているとアンダーコート成分がうまくのらない現象(以下、はじき現象と記載する)が発生し、蒸着外観不良となってしまう。そのため、これらを改善する手段として、各種離型剤が提案されている(例えば、特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−102581号公報
【特許文献2】特開2008−280498号公報
【特許文献3】特開2005−97563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記文献2は高分子量のオレフィン系離型剤を使用しているため、表面へのブリードアウトがかなり抑制されている影響で離型性が不十分となる場合があった。
上記文献3では、離型性と加熱曇りなどに言及されているが、はじき現象に対し言及したものではない。このように、はじき現象に対し明確な記載がされているものはこれまでなく、特にアンダーコート処理を実施する際のはじき現象を制御し、かつ良好な離型性を有する樹脂組成物が望まれている。よって、本発明の目的は、樹脂製の光反射体部品を射出成形等により成形する際の金型汚れを低減しつつ良好な金型離型性、および耐熱性を有し、かつ成形品表面へのブリードアウトを高度に制御した樹脂成形体を得ることができるため、アンダーコート時のはじき現象を抑制させることが可能であり、高温度雰囲気下に曝されても高輝度感の保持が可能で、かつ厚みが薄い成形品においても形状の保持が良好である樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、はじき現象と離型性を両立させる成分として、特定の離型剤を使用し、かつ離型剤析出度合いが特定の範囲内にあれば目的を達成できることを見出し、かつ特定のフィラーを特定量添加することで耐熱性を保持させることで、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂を、(A)/(B)の質量比率が70/30〜85/15となるよう配合した樹脂成分を70〜95質量部、(C)無機フィラーを5〜30質量部含み、(A)〜(C)の合計100質量部に対して、(D)離型剤を0.1〜1質量部含有する樹脂組成物であって、該組成物を射出成形してなる成形品において、下記条件(1)、(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、シリンダー温度260℃、金型温度100℃で厚み2mmtの平板形状に射出成形し、この平板表面の赤外スペクトルを測定した際、2920cm−1と2964cm−1に現れる吸収の相対強度値をI2920/I2964とし、この数値から、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物から(D)離型剤成分のみを除いた樹脂組成物の相対強度値を引いた値をA値とするとき、このA値が0.10〜0.16の範囲内にある
(2)ISO−75に準拠した樹脂組成物の0.45MPa荷重での熱変形温度が、170℃以上である
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物によれば、樹脂製の光反射体部品を射出成形等により成形する際の金型汚れを低減しつつ良好な金型離型性、および耐熱性を有し、かつ成形品表面へのブリードアウトを高度に制御した樹脂成形体を得ることができるため、アンダーコート処理時のはじき現象を抑制させることが可能であり、高温度雰囲気下に曝されても高輝度感の保持が可能であり、厚みが薄い成形品においても形状の保持が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂を、(A)/(B)の質量比率が70/30〜85/15となるよう配合した樹脂成分を70〜95質量部、(C)無機フィラーを5〜30質量部含み、(A)〜(C)の合計100質量部に対して、(D)離型剤を0.1〜1重量部含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
【0014】
本発明者らは、離型性とアンダーコート処理時のはじき現象抑制を両立させるためには、特定の成分を離型剤に用い、かつ離型剤析出度合いが特定の範囲内であれば良いことを突き止めた。このような熱可塑性樹脂組成物を得るためには、後述する(D)離型剤の種類や配合量を調整すれば良い。また、耐熱性の保持には(C)成分の種類(粒径)や配合量を調整すれば良い。
ここで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の各成分について説明する。
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレートとしては特に制限されず、主としてテレフタル酸と1,4−ブタンジオールからなる単独重合体である。また、成形性、結晶性、表面光沢などを損なわない範囲内において、他の成分を5モル%程度まで共重合することができる。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレートの分子量としては、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定;dl/g)が、0.6〜1.2dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.6〜1.0dl/gの範囲である。還元粘度が0.6未満の場合は、樹脂のタフネス性が低下するために好ましくなく、1.0を超えると流動性が大きく低下するため好ましくない。
【0017】
(B)ポリエチレンテレフタレートは特に制限されず、エチレンテレフタレート単位の単独重合体であっても良いし、エチレンテレフタレート単位を繰り返し単位中70質量%以上含有する共重合体であっても良い。共重合されるモノマーとしては、テレフタル酸以外の二塩基酸成分としてイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸などの芳香族もしくは脂肪族多塩基酸またはそれらのエステルなどが挙げられる。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロへキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチルー1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0018】
(B)ポリエチレンテレフタレートの分子量としては、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定;dl/g)が0.4〜0.8dL/gであることが好ましい。還元粘度が0.4未満では樹脂の強度が低下するため好ましくなく、0.8を超えると樹脂の流動性が低下するので好ましくない。
【0019】
特に成形性、外観の観点より、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートは、併用して用いることが好ましく、この混合比率としては、(A)/(B)が70/30〜85/15(質量比率)であることが好ましい。(A)の比率は70%より少なくなると、樹脂組成物の結晶化特性が低下するため、離型不良、成形サイクルが長くなるといった不具合が発生する懸念がある。一方、(A)の比率が85%より多くなると、逆に樹脂組成物の結晶化が早くなりすぎるため、フィラーの浮き出しなどの外観不良が発生する懸念がある。(A)/(B)は、73/27〜83/17(質量比率)がより好ましい。
【0020】
本発明における(C)無機フィラーは、成形品の大型化、形状複雑化に対して金型離型性と寸法安定性が要求される点から、成形収縮率を低減し、耐熱性を向上させる目的で使用される。(C)無機フィラーとしては石英、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、未焼成クレー類、ガラスビーズ、黒鉛、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、ベントナイト、ゼライト、ワラストナイト、ガラス短繊維であるミルドファイバーなどを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。自動車ランプ部品における成形品外観などの観点から見て、特性を低下させない範囲内において、これらの無機フィラーは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても良い。これらのうち、タルク、マイカなどの板状晶、硫酸バリウムなどを使用することが好ましく、さらに耐熱性の向上効果も考慮にいれた場合、特にタルクを使用することが好ましい。
以上のような無機フィラーの特性を発揮させるためには、(C)無機フィラーの含有量は、(A)、(B)、及び(C)の合計を100質量部としたとき、(A)と(B)からなる樹脂成分70〜95質量部に対して、(C)5〜30質量部である。好ましくは、(A)と(B)からなる樹脂成分75〜90質量部に対して、(C)10〜25質量部である。
【0021】
(C)無機フィラーの粒子径は特に制限されないが、自動車ランプ部品における特性を考慮し、平均粒子径として3〜10μmの範囲にあるものを使用することが好ましい。3μmより小さいものを用いた場合、成形品の外観は良好となるが、フィラーによる補強効果が小さくなるため、剛性や耐熱性が低下するため好ましくない。一方、10μmより粒子径が大きくなると、成形品表面へのフィラーの浮き出しが顕著となり、光反射体とする際にアンダーコート処理を実施しても表面平滑性に劣ることがあるため好ましくない。
(C)無機フィラーは、平均子粒径3〜10μmのタルクであることが好ましい。タルクの平均子粒径は、3〜8μmであることがより好ましく、4〜7μmであることがさらに好ましい。
【0022】
(C)無機フィラーは、相溶性や分散性を高めるために表面処理されていても良い。表面処理されていなくても、本発明の添加量であれば成形および光反射体とした場合に、特に問題になることはない。ただし、表面処理を実施する際は、その表面処理成分がガスとならない程度に実施することが好ましい。表面処理としては、表面処理剤による処理、脂肪酸処理、Si0−Al処理などが挙げられる。表面処理剤としてはアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤などを挙げることができる。
【0023】
本発明の(D)離型剤は、その名の通り離型剤としての作用を発現するものである。成形時に成形品表面に外滑性膜を形成することによって良好な離型性を発現し、かつ光反射体を形成するためにアンダーコート処理を実施する際の、アンダーコートのはじき現象を抑制し、この光反射体を高温環境下に保持した場合において、蒸着層を曇らせることが極めて少ない。(D)離型剤としては、本発明の課題を解決するためには、ポリグリセリン系の離型剤が好ましい。
【0024】
(D)成分を構成するポリグリセリンは、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンなどがあるが、テトラグリセリン以上のポリグリセリンでは分子量が大きくなるために十分な離型性を発現しない。ジグリセリンとトリグリセリンでは、トリグリセリンのほうが揮発性および耐ブリードアウト性に優れている。
本発明においては、離型剤(D)が、全ての水酸基に脂肪酸が結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステルであり、構成するポリグリセリン成分がトリグリセリン、またはトリグリセリンが80質量%以上を占めるポリグリセリンであることが好ましい。
【0025】
(D)成分を構成する脂肪酸は特に制限されないが、C22(ベヘン酸)〜C28(モンタン酸)等の高級脂肪酸を用いることが、成形時の離型性とアンダーコート処理時のはじき現象抑制、およびガス抑制などの観点で好ましく、ベヘン酸を用いることが特に好ましい。
【0026】
(D)成分の含有量は、(A)〜(C)成分の合計を100質量部とするとき、0.1〜1質量部である。(D)成分の含有量は0.1質量部より少ない場合、離型性能が低下し、1質量部より多くなると(D)成分そのものがガスとなって成形品外観を悪くしたり、アンダーコート処理時のはじき現象が多くなるため、好ましくない。離型性とアンダーコート処理時のはじき現象抑制の両立をバランスよく実施するためには、(D)成分添加量は特に0.2〜0.6質量部が好ましい。
【0027】
(D)成分の成形品表面への析出量、つまり離型性とアンダーコート処理時のはじき現象に対する抑制効果を両立させることが可能な領域は、赤外スペクトル測定により定量化することができる。(D)成分は脂肪酸エステルであるため、メチレン基の吸収が観測される。したがって、シリンダー温度260℃、金型温度100℃にて成形した2mmtの平板を用いて、最初に赤外スペクトルより(D)成分のメチレン基に帰属される2920cm−1の吸収強度(I2920)および、樹脂成分である(A)と(B)成分由来の2964cm−1の吸収強度(I2964)を読み、相対強度(I2920/I2964sampleを計算し、離型剤の樹脂成分に対する割合を算出する。次に、元来2920cm−1には樹脂成分由来の吸収もあるため、樹脂分を差し引き、(A=(I2920/I2964sample−(I2920/I2964reference)、離型剤由来のみのメチレン基量をA値として見積もる。このとき、参照試料(reference)として、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物から(D)離型剤成分のみを除いた樹脂組成物を用いて、(I2920/I2964referenceを算出する。この比較は、表面に存在するメチレン基の量という観点からの比較である。場合により、参照試料として、上記の条件にて成形した成形品の表面をIPAなどの溶剤を用いて洗浄し表層の(D)成分を除去したものを使用しても良い。
金型温度を100℃にしているのは、エクステンションなどのランプ部品の実際の成形時(金型温度50〜60℃)よりも高くして、樹脂組成物中の離型剤成分をより多く析出させるためである。
【0028】
本発明におけるA値は、0.10〜0.16の範囲である。このA値を各種(D)成分間で比較し、かつ成形時の離型性、アンダーコート処理時のはじき現象発生頻度と照らし合わせると、上記現象との相関がとれることを確認した。つまり、このA値が0.16より高い値になる場合は、相対的に(D)成分が多く表面に析出していることになるため、離型性には優れるが、はじき現象が多発する傾向にある。対して、A値が0.10より小さい値になる場合には、相対的に(D)成分が表面にあまり析出していないことになるため、はじき現象は抑制されるものの、離型性が低下してしまう。
【0029】
本発明者らは、このA値に着目し、離型性とアンダーコート処理時のはじき現象を抑制するためには特定の範囲内にA値が存在することが非常に有効であることを見出し、かつ特定の範囲にA値を存在させるためには、特定の成分を使用することが有効であることを見出したのである。上記特性が両立されるため、当然ながら成形時の金型汚れも低減可能であり、かつ、光反射体とした際に、この成形品を高温環境下に保持した際の蒸着面の加熱曇りが抑制され、ガス発生も抑制させることが可能となる。
【0030】
エクステンションなどが使用されている自動車ランプは、レンズと部品を収納するケース(ハウジング)で密封された容器中に光源装置、リフレクター、エクステンションなどが組み込まれた構造となっているため、光源点灯時にはかなりの高温環境下にさらされることになる。特に近年は、意匠性の高度化、および製品の軽量化が進む傾向のため、エクステンションなどの部品もどんどんと薄くなっている現状がある。そのため、樹脂の耐熱性が低く、かつ薄い成形品の場合は、高温環境下に曝された際に自重もしくは組み付け部分等から変形が発生し、光の配光状態が変化してしまい、商品価値が低下してしまう可能性がある。
【0031】
現状、光源点灯時のランプ部品内部の温度上昇としては170〜180℃程度になることがわかっている。そのため、樹脂組成物にも、ほぼ同等のレベルの耐熱性が必要となる。したがって、樹脂組成物に求められる耐熱性の指標として、荷重0.45MPaでの熱変形温度が170℃以上であることが好ましいといえる。
【0032】
その他、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の範囲で各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば顔料などの着色剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料などが挙げられる。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)、(B)、(C)、及び(D)成分の合計で、85質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0033】
以上、説明した本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、樹脂製の光反射体部品を射出成形等により成形する際の金型汚れを低減しつつ良好な金型離型性、および耐熱性を有し、かつ成形品表面へのブリードアウトを高度に制御した樹脂成形体を得ることができるため、アンダーコート処理時のはじき現象を低減させることが可能であり、高温度雰囲気下に曝されても高輝度感の保持が可能であり、厚みが薄い成形品においても形状の保持が良好である。
【0034】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を製造する方法としては、上述した各成分および必要に応じて各種安定剤や顔料などを混合し、溶融混練することによって製造できる。溶融混練方法は当業者に周知のいずれの方法を用いることが可能であり、単軸押し出し機、2軸押出し機、加圧ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用することができる。なかでも2軸押出し機を使用することが好ましい。一般的な溶融混練条件としては、2軸押出し機ではシリンダー温度は220〜270℃、混練時間は2〜15分である。
【0035】
本発明の光反射体用部品は、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂を用いて成形されたものである。成形方法としては特に制限されず、射出成形、押出し成形、ブロー成形などの公知の方法を用いることができる。中でも、汎用性の観点から、射出成形法が好ましく使用される。光反射体用部品には、用途や目的に応じて蒸着仕様、無塗装仕様などを使いわけることができる。なお、金型の磨き番手を5000番以上としたりすることで、光反射体用部品表面の平滑性や光沢が増し、より良好な外観の部品を得ることができる。
【0036】
本発明の光反射体は、本発明の光反射体用部品に、アンダーコート処理を実施したのち、光反射金属層を形成させたものである。アンダーコート、蒸着に関しては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0037】
このようにして得られる光反射体は、例えば自動車ランプ(ヘッドランプなど)の光反射体(エクステンション、リフレクター、ハウジングなど)が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
また、以下の実施例、比較例において示した各特性は、下記の試験方法により評価した。
【0039】
(1)ポリエステルの還元粘度(dl/g)
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
(2)A値
シリンダー温度260℃、金型温度100℃にて成形した2mmtの平板を用いて、最初に赤外スペクトルより(D)成分のメチレン基に帰属される2920cm−1の吸収強度(I2920)および、樹脂成分である(A)と(B)成分由来の2964cm−1の吸収強度(I2964)を読み、相対強度(I2920/I2964sampleを計算し、離型剤の樹脂成分に対する割合を算出した。次に、元来2920cm−1には樹脂成分由来の吸収もあるため、樹脂分を差し引き、(A=(I2920/I2964sample−(I2920/I2964reference)、離型剤由来のみのメチレン基量をA値として見積もった。このとき、参照試料(reference)として、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物から(D)離型剤成分のみを除いた樹脂組成物を作製しこれを用いて、(I2920/I2964referenceを算出した。赤外スペクトルは、バリアン社製FT−IR装置FTS7000eを用い、ATR法にて、入射角45°で測定を実施した。
(3)ブリードアウト
シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて射出成形により2mmtの平板(100mm角)を作製し、この成形品を、160℃の熱風乾燥機に20時間放置後、成形品表面へのブリードアウトを目視により観察し、下記4段階にランク付けした。
◎:ブリードアウトが、全く認められない。
○:ブリードアウトが、ほとんど認められない(わずかにあるが問題ないレベル)。
△:ブリードアウトが若干発生している。
×:ブリードアウトが激しく発生している。
(4)離型性
シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて、1〜3mmの段差を有する平板形状(50mm×100mm)の成形品を成形する際、射出3秒、冷却5秒、サイクルタイム15秒の条件で連続50ショット成形した際の離型挙動を観察し、下記3段階にランク付けした。
○:50ショットで問題(固定側へのとられ、離型不良による外観悪化など)が全く認められない。
△:50ショット連続成形は可能であるが、若干の離型不良による外観悪化が認められる。
×:離型性が悪く、連続成形が不可能である。
(5)フォギング性
成形品を10mm×10mm程度の小片に切り取り、試験管(φ50×mm)に10gいれ、その上にガラス板を載せて蓋をしたのち、ホットプレート上にセットした。この状態で、160℃で20時間熱処理を実施したのち、ガラス板内壁に付着した樹脂昇華物などによる曇り度合いを、HAZEメーターにて測定した。
(6)塗装外観(はじき特性)
シリンダー温度260℃、金型温度100℃にて成形した100×100×2mmtの平板成形品に、厚みが均一に約10μmになるよう、スプレーガンを用いて塗料を塗布し、80℃のオーブンにて約1時間乾燥させたあとの塗装面の状態を観察して、下記3段階にランク付けした。塗料としては大日本塗料株式会社製プラニット♯3000を使用した。
○:塗装面に、塗料のはじきがほとんど認められず、良好な塗装状態である。
△:塗装面に、若干の塗料のはじきが認められる
×:塗装面に、かなりの割合ではじきが認められる。
(7)耐熱性
耐熱性の指標として、ISO−75に準拠した試験方法にて、低荷重(0.45MPa)時の熱変形温度(荷重たわみ温度)を測定した。
【0040】
実施例、比較例において使用した原料は以下のようになる。
(A)ポリブチレンテレフタレート:東洋紡績(株)製 還元粘度0.8dl/g
(B)ポリエチレンテレフタレート:東洋紡績(株)製 還元粘度0.7dl/g
(C)無機フィラー
(C−1):タルク 林化成株式会社製 「タルカンPK−P」平均粒子径6.5μm
(C−2):タルク 日本タルク株式会社製「ミクロエースSG−95」平均粒径2.5μm
(D)離型剤
(D−1):クラリアントジャパン株式会社製 モンタン酸部分ケン化エステル「リコワックス−OP」
(D−2):理研ビタミン株式会社製 トリグリセリンベヘン酸フルエステル「ポエムTR−FB」
(D−3):理研ビタミン株式会社製 ペンタエリスリトールステアリン酸エステル「リケスターEW−440A」
(D−4):理研ビタミン株式会社製 ジペンタエリスリトールステアリン酸エステル「L−8483」
(D−5):日東化成工業株式会社製 ステアリン酸カルシウム塩「Ca−St P」
(D−6):クラリアントジャパン株式会社製 モンタン酸カルシウム塩「CAV−102」
【0041】
実施例、比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、上記原料を表1に示した配合比(質量部)に従い計量して、35φ二軸押出し機(東芝機械社製)でシリンダー温度260℃、スクリュー回転数120rpmにて溶融混練した。すべての原料はホッパーから二軸押出機へ投入した。得られた樹脂組成物のペレットは、乾燥後、射出成形機にて各種評価用サンプルを成形した。成形条件は、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、もしくは100℃で実施した。
評価結果は表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜4では、離型剤成分の析出度合い(A値)が適正な範囲内にあり、各種特性のバランスが良くとれていることがわかる。一方、比較例1〜8は、A値が範囲外にあるため、特に塗装外観が損なわれたり、離型性に劣るものがあったりする。また比較例1では、A値は範囲内にあるものの、熱変形温度が低くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を使用することにより、樹脂製の光反射体部品を射出成形等により成形する際の金型汚れを低減しつつ良好な金型離型性、および耐熱性を有し、かつ成形品表面へのブリードアウトを高度に抑制した樹脂成形体を得ることができるため、アンダーコート処理時のはじき現象を低減させることが可能であり、高温度雰囲気下に曝されても高輝度感の保持が可能であり、厚みが薄い成形品においても形状の保持が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂を、(A)/(B)の質量比率が70/30〜85/15となるよう配合した樹脂成分を70〜95質量部、(C)無機フィラーを5〜30質量部含み、(A)〜(C)の合計100質量部に対して、(D)離型剤を0.1〜1質量部含有する樹脂組成物であって、該組成物を射出成形してなる成形品において、下記条件(1)、(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、シリンダー温度260℃、金型温度100℃で厚み2mmtの平板形状に射出成形し、この平板表面の赤外スペクトルを測定した際、2920cm−1と2964cm−1に現れる吸収の相対強度値をI2920/I2964とし、この数値から、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物から(D)離型剤成分のみを除いた樹脂組成物の相対強度値を引いた値をA値とするとき、このA値が0.10〜0.16の範囲内にある
(2)ISO−75に準拠した樹脂組成物の0.45MPa荷重での熱変形温度が、170℃以上である
【請求項2】
離型剤(D)が、全ての水酸基に脂肪酸が結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステルであり、構成するポリグリセリン成分がトリグリセリン、またはトリグリセリンが80質量%以上を占めるポリグリセリンであり、かつ、脂肪酸成分がベヘン酸である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
無機フィラー(C)が、平均粒子径3〜10μmのタルクである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形された、光反射体用部品。
【請求項5】
請求項4に記載の光反射体用部品の表面に、アンダーコート処理後に光反射金属層が形成された光反射体。

【公開番号】特開2013−10856(P2013−10856A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144273(P2011−144273)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】