熱可塑性ポリカーボネート及び表面変性された無機ナノ粒子を含む透明ポリマー材料の製造方法

本発明は、次の工程を含む透明ポリマー材料の製造方法を提供する。
(i)無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの間の界面における物理化学的相互作用を促進するのに適した少なくとも1種のモノマー及び/又は少なくとも1種のポリマーで少なくとも部分的に被覆された無機ナノ粒子を含む複合ナノ粒子を得る工程:この工程は、
・前記モノマー及び/若しくはポリマーを前記無機ナノ粒子の表面上に直接グラフトさせ若しくは直接吸着させることによって;又は
・ラジカル経路で反応することができる官能基を含むクロロシラン若しくはオルガノシランから選択されるカップリング剤を介して:
該無機ナノ粒子を前記モノマー及び/又は前記ポリマーで表面変性することによって実施される。
(ii)工程(i)で得られた複合ナノ粒子と溶融状態の熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとを混合して前記透明ポリマー材料を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリカーボネート及び表面変性された無機ナノ粒子を含む透明ポリマー材料の製造方法並びに該方法によって得られる透明ポリマー材料に関する。
【0002】
本発明は、典型的には光学の分野、特に自動車ガラスタイプの光学物品、及び照準器レンズタイプ、ヘルメットバイザータイプ、又は眼科用レンズタイプの光学物品の分野に適用されるが、これらに限定されるわけではない。
【0003】
より特定的には、用語「自動車ガラス」とは、例えばリアライト(尾灯)、サイドパネル(側板)、サイドウインドウ(横窓)、ガラスルーフ(サンルーフ)、ヘッドライト(前照灯)又はサイドライト(側灯、車幅灯)ガラス等の外側の透明な車体部品を意味するだけではなく、計器盤、文字盤又はスクリーンガラス等のインテリア用の透明部品をも意味する。
【0004】
用語「眼科用レンズ」とは、目を保護する機能及び/又は視力を矯正する機能を有し、めがねに取り付けるのに特に適したレンズを意味し、斯かるレンズは、無限焦点レンズ、単焦点レンズ、二焦点レンズ、三焦点レンズ及び多重焦点レンズから選択される。
【背景技術】
【0005】
ポリカーボネートは、特に有利な光学的特性、特に優れた透明性、優れた耐衝撃性、高い屈折率及び非常に軽い重量という利点を示すが、その根本的な欠点は、剛性がそれほど高くなく、引掻き及び摩擦に対して敏感であるということである。
【0006】
ポリマーの機械的特性、特にその剛性並びにその摩擦及び引掻き耐性を改善するために、ポリマーに無機ナノ粒子を加えることが知られている。
【0007】
典型的には、この無機ナノ粒子は、溶融状態のポリマーに直接加えられる。
【0008】
しかしながら、無機ナノ粒子のナノメートル規模の寸法は、溶融状態の熱可塑性ポリカーボネートマトリックス中に混合される際に該ナノ粒子の凝集現象をどうしても引き起こしてしまう。
【0009】
この理由で、その方法を用いて得られたポリマー材料は透明性を失い、変色、特に黄変の問題を有し、光学分野で用いるのが難しい。
【0010】
さらに、無機ナノ粒子を加えると、ポリマー材料の機械的特性の低下、例えばその耐衝撃性の低下等がもたらされることがある。
【0011】
従って、ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートとの間の界面の品質を改善し、それによってポリマー材料の機械的特性及び光学的特性を改善するために、欧州特許公開第1767562号公報から、熱可塑性ポリカーボネートと表面変性された無機ナノ粒子とを含む透明ポリマー材料を製造する方法を用いることが知られている。
【0012】
その方法は、熱可塑性ポリカーボネートマトリックス用のモノマーを無機ナノ粒子の表面に脂肪族エーテル結合を介してグラフトさせ、次いで該モノマーをその場で重合させて熱可塑性ポリカーボネートマトリックスを生成させることから成る。
【0013】
かくして、該無機ナノ粒子の表面の変性は、熱可塑性ポリカーボネートマトリックスから切り離すことができない。
【0014】
結果として、その先行技術の製造方法は、該無機粒子の表面を変性するためにポリカーボネートを用いることができるだけなので、工業的に制約がある。
【0015】
さらに、その方法においては、熱可塑性ポリカーボネートマトリックスを重合させるために特定の反応器が使用される。その使用は比較的制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許公開第1767562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、特に容易に工業化することができる透明ポリマー材料の製造方法であって、得られるポリマー材料の光学的及び機械的特性を維持し又はさらには改善さえする前記製造方法を提供することによって、先行技術の解決策の欠点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に従う解決策は、次の工程を含む透明ポリマー材料の製造方法を提供することにある:
(i)無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの間の界面における物理化学的相互作用を促進するのに適した少なくとも1種のモノマー及び/又は少なくとも1種のポリマーで被覆された無機ナノ粒子を含む複合ナノ粒子を得る工程:この工程は、
・前記モノマー及び/若しくはポリマーを前記無機ナノ粒子の表面上に直接グラフトさせ若しくは直接吸着させることによって;又は
・ラジカル経路で反応することができる官能基を含むクロロシラン若しくはオルガノシランから選択されるカップリング剤を介して:
該無機ナノ粒子を前記モノマー及び/又は前記ポリマーで表面変性することによって実施される;
(ii)工程(i)で得られた複合ナノ粒子と溶融状態の熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとを混合して前記透明ポリマー材料を得る工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法は、こうして変性された無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの結合力を有意に改善し且つ該ナノ粒子を該マトリックス中に均一に分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前記カップリング剤は、モノマー及び/又はポリマーが無機ナノ粒子の表面に直接結合することができない場合に、このカップリング剤を介して該モノマー及び/又はポリマーを無機ナノ粒子の表面に結合させることができるものである。
【0021】
本発明に従う無機粒子とモノマー及び/又はポリマーとの間の水素結合又はファンデルワールス結合タイプの物理的又は化学的相互作用を作るものとして、特定態様のグラフト又は吸着を構想することができる。
【0022】
吸着タイプの無機ナノ粒子の表面変性、又はモノマー及び/若しくはポリマーとの水素結合若しくはファンデルワールス結合タイプの物理的若しくは化学的相互作用を作るタイプの無機ナノ粒子の表面変性を、該ナノ粒子の表面に直接、言い換えればカップリング剤を用いずに、実施するのが好ましい。
【0023】
第1の特定製造方法P1(カップリング剤を用いるものと規定される)においては、一方で無機ナノ粒子とカップリング剤との間の共有結合を作り、他方でカップリング剤とモノマー及び/又はポリマーとの間の共有結合を作ることによって、無機ナノ粒子の表面変性を有利に達成することができる。
【0024】
第2の特定製造方法P2(直接的なもの又はカップリング剤を用いないものと規定される)においては、無機ナノ粒子とモノマー及び/若しくはポリマーとの間で直接的に共有結合を作ることによって、又はモノマー及び/若しくはポリマーを無機ナノ粒子の表面に直接吸着させることによって、無機ナノ粒子の表面変性を有利に達成することができる。
【0025】
さらに、そして本発明の製造方法の工程(i)に従えば、無機ナノ粒子の表面をポリマーで変性する場合、このポリマーは、カップリング剤の存在下であるか存在下ではないかに拘らず、そのモノマーの重合(現場重合)によって得たものであることができる。
【0026】
より特定的には、工程(i)のモノマーを無機ナノ粒子の表面にグラフトさせ、次いで重合させる。
【0027】
一般的に、この重合は、化学線又は熱放射の作用下で遊離基を発生させることができる開始剤の存在を必要とする。
【0028】
この重合の第1の態様に従えば、本発明に従ってカップリング剤を用いて表面変性を得る場合、特にオルガノシランを用いる場合には、この剤を最初に無機粒子の表面にグラフトさせる。次いで、前記オルガノシランを介して無機ナノ粒子の表面にモノマーをグラフトさせる。言い換えれば、モノマーは典型的には前記オルガノシランにグラフトされる。最後に、モノマーを重合させる。
【0029】
第2の重合の態様に従えば、表面変性が直接的なものである場合、即ちカップリング剤を用いない場合には、無機ナノ粒子の表面にモノマーを直接グラフトさせ、次いでこれを重合させる。
【0030】
もちろん、本発明に従って無機ナノ粒子の表面をモノマーで変性する場合、このモノマーを必ず重合させるわけではない。その場合、無機ナノ粒子の少なくとも一部は、そのままのモノマーで被覆される。
【0031】
本発明に従えば、工程(i)で得られる複合ナノ粒子は、少なくとも60重量%の有機コーティング、好ましくは5〜50重量%の範囲の量の有機コーティングを有利に含むことができる。
【0032】
用語「有機コーティング」とは、無機ナノ粒子の周りに形成される有機層であり、この層は、モノマー及び/又はポリマー並びに随意としてのカップリング剤から得られるものである。
【0033】
用語「透明ポリマー材料」とは、この材料を通して見た時に像のコントラストの有意の損失が観察されない材料を意味する。
【0034】
言い換えれば、像とその観察者との間に該透明ポリマー材料を介在させた時に像の品質が有意に低下しないものである。
【0035】
用語「溶融状態」とは、工程(ii)の熱可塑性ポリカーボネートマトリックスが柔軟な状態(展延性状態)にあることを意味する。この柔軟な状態は、当業者によく知られているものであり、慣用的には、該マトリックスを該熱可塑性ポリカーボネートのガラス転移温度又は軟化温度より高い温度に加熱した時に得ることができる。
【0036】
本明細書において、「ある値x〜ある値yの範囲」と言った時、値x及びyはこの範囲に含まれる。
【0037】
無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの間の界面における物理化学的相互作用(より特定的には無機ナノ粒子と該マトリックスとの間の混和性、相溶性及び/又は化学的親和性)は、複合ナノ粒子の表面のモノマーが特にスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、ビスフェノールA、ホスゲン、炭酸ジフェニル、及び/又はアクリルアミドである場合に、有利に促進することができる。
【0038】
ビスフェノールA、ホスゲン及び炭酸ジフェニルは、ポリカーボネート用のよく知られたモノマーである。
【0039】
前記の物理化学的相互作用はまた、複合ナノ粒子の表面のポリマーが特にポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート及び/又はポリアクリルアミドである場合、より特定的にはスチレン、ポリカーボネートモノマー、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、ビスフェノールA及び/又はアクリルアミドのコポリマーである場合にも、有利に促進することができる。
【0040】
本発明に従えば、オルガノシランの官能基は、ラジカル経路で反応することができる官能基、例えば開始剤の存在下でラジカル付加メカニズムによって共有結合を作ることができる官能基であり、前記開始剤は化学線又は熱放射の作用下で遊離基を発生することができるものである。
【0041】
この反応性官能基は、アクリレート、メタクリレート、ビニル、アリル、又はアルケニル基から有利に選択することができ、ビニル基が好ましい。
【0042】
本発明のオルガノシランはまた、加水分解性官能基を含むこともできる。
【0043】
この官能基は、特に、無機ナノ粒子の表面上に共有結合を形成することができるものであり;より特定的には、該ナノ粒子の表面に存在することがあるヒドロキシル基と共有結合を形成することができるものである。
【0044】
この加水分解性官能基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、カルボキシ又はアルコキシ基(好ましくはC1〜C6)から選択することができる。エトキシ又はメトキシ基を特に挙げることができる。
【0045】
本発明に従うオルガノシランの例としては、ビニルトリメトキシシラン及びメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0046】
典型的には、本発明の無機ナノ粒子の寸法の少なくとも1つは、ナノメートル(10-9メートル)規模である。
【0047】
用語「寸法」とは、所定ナノ粒子母集団の数平均寸法を意味し、この寸法は当業者によく知られた方法を用いて慣用的に決定される。
【0048】
ナノ粒子のサイズを測定するための前記方法に従えば、本発明に従うナノ粒子の寸法は、ストークス直径(用いる方法が遠心分離による沈降及びX線分析のものである場合)又は拡散直径(用いる方法がレーザーグラニュロメトリーによる光の拡散のものである場合)又は回折直径(用いる方法がレーザーグラニュロメトリーによる光の回折のものである場合)又はナノ粒子の最小寸法と規定されるナノ粒子の幅(l)(用いる方法が走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)のような顕微鏡分析のものである場合)のいずれかを参照する。後者の方法が好ましい。
【0049】
ナノ粒子の寸法を測定するためのこれら4つの方法は、かなり異なる結果をもたらすことがある。この理由で、得られた結果は、上記の4つの方法の少なくとも1つについて、好ましくはこれらの方法の少なくとも2つ、好ましくはこれらの方法の少なくとも3つ、より一層好ましくはこれら4つの方法について、本発明に従うナノ粒子のナノメートルサイズの寸法条件を満たしていなければならない。
【0050】
本発明の無機ナノ粒子の寸法は、特に最大400nm、好ましくは最大300nm、より一層好ましくは最大100nmである。
【0051】
特に好ましくは、前記無機ナノ粒子の寸法は、0.1nm〜80nmの範囲、より一層好ましくは10nm〜70nmの範囲、例えば40nmである。
【0052】
本発明の無機ナノ粒子は、アルカリ土類金属カーボネート(炭酸塩)、アルカリ土類金属サルフェート(硫酸塩)、金属酸化物、メタロイドの酸化物及び/又はシロキサンのナノ粒子から有利に選択することができる。
【0053】
例として、アルカリ土類金属カーボネートのナノ粒子は炭酸カルシウムのナノ粒子であることができ、アルカリ土類金属サルフェートのナノ粒子は硫酸バリウムのナノ粒子であることができ、金属酸化物のナノ粒子はアルミナのナノ粒子、酸化亜鉛のナノ粒子又は二酸化チタンのナノ粒子であることができ、メタロイドの酸化物のナノ粒子は二酸化ケイ素のナノ粒子であることができ、そしてシロキサンのナノ粒子はシルセスキオキサンのナノ粒子、より特定的にはトリシラノールフェニルポリヘドラールシルセスキオキサン(TP−POSS)のナノ粒子であることができる。
【0054】
このリストの中からの好ましい無機ナノ粒子は、炭酸カルシウム及びアルミナのナノ粒子である。
【0055】
特定実施態様に従えば、工程(ii)の混合は、押出機を用いて達成することができる。
【0056】
しかしながら、この混合方法は何ら限定的なものではなく、当業者によく知られた任意の他の方法を用いることもできる。
【0057】
さらなる局面において、本発明は、上記の製造方法によって得られる透明ポリマー材料を提供するものでもある。
【0058】
この透明ポリマー材料は、剛性を有すると共に、最適化された透明性、非常に良好な耐摩擦性及び耐衝撃性をも有し、しかも黄変タイプの変色は実質的にない。
【0059】
この透明ポリマー材料は、最大15重量%の無機ナノ粒子を含むことができる。
【0060】
この最大量は、満足できる透明性を維持しつつ、まず最初に工程(ii)において複合ナノ粒子を熱可塑性ポリカーボネートマトリックス中に混合する際のレオロジーの問題を抑制することができ、そして第2にポリマー材料のコストを抑えることもできる。
【0061】
さらに、非常に良好な機械的及び光学的特性を保証するために、前記透明ポリマー材料は、最大10重量%の無機ナノ粒子を含むものであることができ、好ましくは最大5重量%の無機ナノ粒子、より一層好ましくは約1重量%程度の量の無機ナノ粒子を含むものであることができるものである。
【0062】
さらなる局面において、本発明は、自動車ガラス、照準器レンズ、ヘルメットバイザー又は眼科用レンズ等の光学物品の製造のための前記透明ポリマー材料の使用を提供するものでもある。
【0063】
例として、前記光学物品の厚さは、最大でも15mm、好ましくは0.1mm〜5mmの範囲、より一層好ましくは0.5mm〜4mmの範囲であることができる。
【0064】
典型的には、前記光学物品は、前記透明ポリマー材料から、当業者によく知られた任意の造形方法、例えば熱成形、押出、カレンダー加工、延伸、射出、射出−圧縮又は吹込成形等を用いて、製造することができる;この光学物品は、前記ポリマー材料のすべての機械的及び光学的特性を保持する。
【0065】
より特定的には、工程(ii)の混合は、押出機を用いて達成することができる;押出機から出て来た棒状体は、粒状物(粒体)にされ、次いで押出、射出又は射出−圧縮によって造形されて、前記光学物品が得られる。
【0066】
さらなる局面において、本発明は、透明ポリマー材料の製造のための、無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの界面における物理化学的相互作用を促進することができる少なくとも1種のモノマー及び/又は少なくとも1種のポリマーで少なくとも一部被覆された無機ナノ粒子の使用を提供するものでもある。該無機ナノ粒子は、前記モノマー及び/又は前記ポリマーにより表面変性されたものであり、この表面変性は直接的なもの又はラジカル経路で反応することができる官能基を含むクロロシラン若しくはオルガノシランから選択されるカップリング剤を介したものである。
【0067】
この無機ナノ粒子の変性は、上記の通りのものであることができる。
【0068】
本発明の他の特徴及び利点は、以下に単に非限定的例示として与えた実施例から明らかになる。
【実施例】
【0069】
本発明の製造方法によって得られる透明ポリマー材料の利点を示すために、該材料の機械的特性及び光学的特性を研究した。
【0070】
ポリマー材料を製造する前に、以下の実施例で用いた無機ナノ粒子及びポリカーボネートを120℃において少なくとも12時間オーブン乾燥させた。
【0071】
以下の実施例に記載した無機ナノ粒子の表面を変性するための様々な工程は、電磁的に又は機械的に撹拌しながら実施した。
【0072】
製造方法P1:カップリング剤の存在下におけるモノマー又はポリマーによる無機ナノ粒子の表面の変性
【0073】
本発明の第1の製造方法P1に従い、工程(i)をカップリング剤(CgA)の存在下で実施する。
【0074】
方法P1の第1態様V1:クロロシランの存在下における無機ナノ粒子の表面へのビスフェノールA又はポリカーボネートのグラフト
【0075】
P1の工程(i)の第1態様V1において、20gの無機ナノ粒子を不活性雰囲気中で60℃において600gのクロロホルム中に混合した。
【0076】
この混合物に過剰量のクロロシランを添加し、次いで過剰分のクロロシランが蒸発するまで2時間反応させておく。こうして、シランがグラフトした無機ナノ粒子が得られた。
【0077】
同時に、50gのビスフェノールA又はポリカーボネートを500gのクロロホルム中に溶解させた溶液を調製した。
【0078】
この溶液を前記の混合物に添加し、12時間反応させて、前記のシランがグラフトした無機ナノ粒子の表面にビスフェノールA又はポリカーボネートをグラフトさせた。
【0079】
次いで温度を130℃に上昇させて溶媒を蒸発させた。こうして変性された無機ナノ粒子を、ソックスレー抽出により16時間クロロホルムで洗浄し、次いで80℃において24時間オーブン乾燥させた。
【0080】
こうして、方法P1の工程(i)の第1態様V1に従った複合ナノ粒子、即ち、
・ポリカーボネートで被覆されたアルミナのナノ粒子に相当するAl−CgA−PC複合ナノ粒子;
・ビスフェノールAモノマーで被覆されたアルミナのナノ粒子に相当するAl−CgA−BPA複合ナノ粒子;及び
・ポリカーボネートで被覆された炭酸カルシウムのナノ粒子に相当するCC−CgA−PC複合ナノ粒子:
が得られた。
【0081】
方法P1の第2態様V2:オルガノシランの存在下における無機ナノ粒子の表面へのスチレンモノマーのグラフト及び続いてのこのモノマーの重合
【0082】
P1の工程(i)の第2態様V2に従い、無機ナノ粒子の表面にスチレンモノマーをグラフトさせ、次いでこのモノマーを熱の作用下で遊離基を発生することができる開始剤の存在下で重合させた。
【0083】
300gのエタノール中に20gの無機ナノ粒子を50℃において混合し、次いで100gのエタノール中に希釈した20gのビニルトリメトキシシランを含有する溶液を添加した。この混合物を50℃において16時間撹拌した。
【0084】
シランがグラフトした無機ナノ粒子を、エタノール中で遠心分離することによって洗浄して回収した。
【0085】
凝縮器を備えた三角フラスコ中で、非水性媒体中で空気中において、前記モノマーを重合させた。
【0086】
シランがグラフト無機ナノ粒子を最初にテトラヒドロフラン(THF)中に分散させ、次いでこの混合物を70℃の温度に加熱し、撹拌を保った。
【0087】
混合物が70℃に達した時に、この混合物に開始剤としての過酸化ベンゾイルをスチレンモノマーと共に添加した。
【0088】
この混合物を9時間反応させてモノマーを重合させた(現場重合)。
【0089】
こうして変性された無機ナノ粒子を次いでソックスレーで洗浄し、80℃において24時間乾燥させた。
【0090】
こうして、方法P1の工程(i)の第2態様V2に従った複合ナノ粒子、即ち、
・スチレンモノマーの現場重合から得られたポリスチレンで被覆されたアルミナのナノ粒子に相当するAl−CgA−mPS複合ナノ粒子;及び
・スチレンモノマーの現場重合から得られたポリスチレンで被覆された炭酸カルシウムのナノ粒子に相当するCC−CgA−mPS複合ナノ粒子:
が得られた。
【0091】
方法P1の工程(i)の第1態様又は第2態様の後に、この工程(i)に続いて、複合ナノ粒子とポリカーボネートマトリックスとを約270〜290℃の温度において混合するための工程(工程(ii))を実施した。
【0092】
工程(ii)の混合は、Clextral社より販売されているBC 21 C900共回転二軸スクリュータイプの押出機を300回転/分のスクリュー速度で用いて実施した。
【0093】
第1の製造方法P1を用いて得られた様々な透明ポリマーPMは、1重量%の無機ナノ粒子を含んでいた。
【0094】
製造方法P2:カップリング剤の存在なしでのモノマー又はポリマーによる無機ナノ粒子の表面の変性
【0095】
本発明の第2の製造方法P2に従い、工程(i)をカップリング剤を存在させずに実施する。
【0096】
方法P2の第1態様V1:無機ナノ粒子の表面へのポリメチルメタクリレートの直接吸着
【0097】
P2の工程(i)の第1態様V1に従い、無機ナノ粒子をクロロホルム中に分散させ、クロロホルム中に溶解させたポリメチルメタクリレートを含有する溶液を添加した。
【0098】
用いたポリマーの質量は、処理すべき無機ナノ粒子の質量に等しくなるようにした。
【0099】
この混合物を周囲温度において48時間撹拌して無機ナノ粒子の表面に該ポリマーを直接吸着させた。
【0100】
こうして変性された無機ナノ粒子を遠心分離により回収し、次いでクロロホルムで数回洗浄した後に、80℃において12時間オーブン乾燥させた。
【0101】
こうして、方法P2の工程(i)の第1態様V1に従って、ポリメチルメタクリレートで被覆されたアルミナのナノ粒子に相当する複合Al−PMMAナノ粒子が得られた。
【0102】
方法P2の第2態様V2:無機ナノ粒子の表面へのメタクリル酸メチルモノマーの直接グラフト及び続いてのこのモノマーの重合
【0103】
P2の工程(i)の第2態様V2に従い、無機ナノ粒子の表面にメタクリル酸メチルモノマーをグラフトさせ、次いでこのモノマーを紫外線の作用下で遊離基を発生させることができる開始剤の存在下で重合させた。
【0104】
10gの無機ナノ粒子を晶出装置中で200gのエタノール中に分散させ、次いで超音波を用いて3分間撹拌した。
【0105】
次に、この混合物に開始剤としての0.2gのベンゾフェノンを添加し、この混合物に紫外線ランプ下で2時間照射する。
【0106】
用いたランプは、UV Fisher Bioblockランプであり、波長365nmおよび電力30Wとした。晶出装置をランプから約5cmのところに置いた。照射の間、混合物を不活性雰囲気中で撹拌した。
【0107】
2時間後に、10gの前記モノマーを添加し、照射を1時間30分間保った(現場重合)。
【0108】
こうして変性された無機ナノ粒子を遠心分離によって数回エタノール洗浄した。
【0109】
非グラフトポリマーを溶解させるために、変性無機ナノ粒子をTHF中に分散させ、数回遠心分離し、80℃において12時間オーブン乾燥させた。
【0110】
こうして、方法P2の工程(i)の第2態様V2に従って、メタクリル酸メチルモノマーの現場重合によって得られたポリメチルメタクリレートで被覆されたアルミナナノ粒子に相当するAl−mPMMA複合ナノ粒子が得られた。
【0111】
方法P2の工程(i)の第1態様又は第2態様の後に、この工程(i)に続いて、複合ナノ粒子とポリカーボネートマトリックスとを方法P1についてのものと同じ条件下で混合するための工程(工程(ii))を実施した。
【0112】
第2の製造方法P2を用いて得られた様々な透明ポリマーPMは、1重量%の無機ナノ粒子を含んでいた。
【0113】
さらに、以下のような「参照用」ポリマー材料RMも製造した。
・第1の参照用材料RM1は、そのままのポリカーボネートのみから製造した。
・第2の参照用材料RM2は、工程(ii)の条件下でアルミナタイプの無機ナノ粒子をポリカーボネートマトリックス中に直接加えることによって製造した。
・第3の参照用材料RM3は、工程(ii)の条件下で炭酸カルシウムタイプの無機ナノ粒子をポリカーボネートマトリックス中に直接加えることによって調製した。
【0114】
ポリマー材料RM2及びRM3は、1重量%の無機ナノ粒子を含んでいた。
【0115】
製造方法P1及びP2又はポリマー材料RM1〜RM3を得る方法において挙げた様々な成分の起源は、次の通りだった:
・工程(i)のポリカーボネートは、Acros-Organics社よりPolycarbonate resin(ポリカーボネート樹脂)として販売されている熱可塑性ポリカーボネートだった(CAS No. 24936-68-3)。
・工程(ii)のポリカーボネートマトリックス及び参照用ポリマー材料製造用ポリカーボネートは、Bayer社よりMakrolon Al2647の名称で販売されている熱可塑性ポリカーボネートだった。
・ビスフェノールAは、Acros-Organics社より4,4'-Isopropylidenediphenol(イソプロピリデンジフェノール)として販売されているものだった(CAS No. 80-05-7)。
・スチレンモノマーは、Acros-Organics社よりStyrene(スチレン)として販売されているものだった(CAS No. 100-42-5)。
・メタクリル酸メチルモノマーは、Aldrich社よりMethyl methacrylate(メタクリル酸メチル)として販売されているものだった(CAS No. 80-62-6)。
・ポリメチルメタクリレートは、Arkema社よりAltuglasの名称で販売されているものだった。
・アルミナナノ粒子は、13nmの寸法を有し、Degussa社よりAeroxide AluCの名称で販売されているものだった。
・炭酸カルシウムナノ粒子は、Solvay社よりSocal(登録商標)31の名称で販売されている70nmの寸法の沈降炭酸カルシウム粒子だった。
・クロロシランは、Acros-Organics社よりSilicon (IV) chloride(塩化ケイ素IV)の名称で販売されているものだった(CAS No. 10026-04-7)。
・ビニルトリメトキシシランは、Dow Corning社よりZ-6300の名称で販売されているものだった。
・ベンゾフェノンは、Acros-Organics社よりBenzophenone(ベンゾフェノン)として販売されているものだった(CAS No. 119-61-9)。
・過酸化ベンゾイルは、Acros-Organics社よりBenzoyl peroxide(過酸化ベンゾイル)として販売されているものだった(CAS No. 94-36-0)。
【0116】
より正確には、Socal(登録商標)31ナノ粒子の寸法及びAeroxide AluCナノ粒子の寸法は、TEMを40000倍の拡大率で用い、約20個の像に対して、これらのナノ粒子を最初にエタノール中に分散させ、次いでそれらを銅スクリーン(格子)上に置き、最後にそれらを非晶質透明ポリマーフィルムで覆って、測定した。これは、Socal(登録商標)31ナノ粒子については70nmの、そしてAeroxide AluCナノ粒子については13nmの、幅l又は数平均寸法を与えた。
【0117】
そして、ポリマー材料PM及びRMの機械的特性及び光学的特性を研究するために、棒状体の形で押出されたポリマー材料から得られた粒体を射出することによって、サンプルを作った。
【0118】
得られた材料について研究した機械的及び光学的特性は、曲げ弾性率及び光透過性だった。
【0119】
曲げ弾性率:
【0120】
曲げ弾性率の測定は、ISO標準527−2タイプ1Aに従い、4mmの厚さのダンベル形状の試験片の形のサンプルに対して、実施した。
【0121】
ダンベル状物は、SANDRETTO SERIE OTTO A.T.射出プレスを用いて造形したポリマー材料RM及びPMの粒体から得られた。
【0122】
曲げ弾性率は、ポリマー材料の剛性を特徴付ける。曲げ弾性率が高ければ高いほど、材料の剛性が良好である。
【0123】
これは、ISO標準178に従い、TestWorksソフトウエアにより制御されたADAMEL LHOMARGY DY 26汎用電磁式プレスを用いて測定した。
【0124】
光透過度:
【0125】
光透過度の測定は、ISO標準527−2タイプ1Aに従い、4mmの厚さのダンベル形状の試験片の形のサンプルに対して、機械的特性の測定についてのものと同じ条件下で、実施した。
【0126】
光透過度は、ポリマー材料の透明性を特徴付ける。光透過度が高ければ高いほど、材料の透明性が良好である。
【0127】
これは、ISO標準8980−3に従い、Varian社より販売されているCary 50タイプの分光光度計を用い、メガネのレンズに対して測定した。
【0128】
この標準に従えば、光透過度値を得るために、サンプルの光透過度スペクトルが、用いた光源の分光分布の産物(produits)により、そして選択した観察タイプの関数として、決定される。
【0129】
用いた光源は、日光を再現するD65であり、観察角度は2°だった。
【0130】
機械的特性及び光学的特性の測定結果を下記の表にまとめる。
【0131】
【表1】

【0132】
これらの結果から、まず最初に透明ポリマー材料PM1、PM2及びPM4が、そして次にPM5が、各ポリマー材料RM2及びRM3と比較して最適化された曲げ弾性率及び光透過性を有することがわかる。
【0133】
さらに、透明ポリマー材料PM3及びPM7も、ポリマー材料RM2及びRM3と比較して、曲げ弾性率が有意に増大したのに加えて、光透過性も満足できるものだった。
【0134】
最後に、透明ポリマー材料PM6も、満足できる光透過性及び満足できる曲げ弾性率の両方を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(i)無機ナノ粒子と熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとの間の界面における物理化学的相互作用を促進するのに適した少なくとも1種のモノマー及び/又は少なくとも1種のポリマーで少なくとも部分的に被覆された無機ナノ粒子を含む複合ナノ粒子を得る工程;並びに
(ii)工程(i)で得られた複合ナノ粒子と溶融状態の前記熱可塑性ポリカーボネートマトリックスとを混合して透明ポリマー材料を得る工程:
を含む、透明ポリマー材料の製造方法であって、
前記工程(i)が、
・前記モノマー及び/若しくはポリマーを前記無機ナノ粒子の表面上に直接グラフトさせ若しくは直接吸着させることによって;又は
・ラジカル経路で反応することができる官能基を含むクロロシラン若しくはオルガノシランから選択されるカップリング剤を介して:
該無機ナノ粒子を前記モノマー及び/又は前記ポリマーで表面変性することによって実施される、前記製造方法。
【請求項2】
前記モノマーがスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、ビスフェノールA、ホスゲン、炭酸ジフェニル及び/又はアクリルアミドであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーがポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート及び/又はポリアクリルアミドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーがスチレン、ポリカーボネートモノマー、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、ビスフェノールA及び/又はアクリルアミドのコポリマーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記オルガノシランの官能基がアクリレート、メタクリレート、ビニル、アリル又はアルケニル基から選択され、好ましくはビニル基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記オルガノシランが加水分解性官能基、好ましくはアルコキシ又はカルボキシ基から選択される加水分解性官能基をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記オルガノシランがビニルトリメトキシシラン又はメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記無機ナノ粒子の寸法が最大300nm、好ましくは最大100nm、より一層好ましくは10nm〜70nmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記無機ナノ粒子がアルカリ土類金属カーボネートのナノ粒子、アルカリ土類金属サルフェートのナノ粒子、金属酸化物のナノ粒子、メタロイドの酸化物のナノ粒子及び/又はシロキサンのナノ粒子から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記無機ナノ粒子が炭酸カルシウムのナノ粒子、硫酸バリウムのナノ粒子、アルミナのナノ粒子、トリシラノールフェニルポリヘドラールシルセスキオキサン(TP−POSS)のナノ粒子、酸化亜鉛のナノ粒子、二酸化ケイ素のナノ粒子及び/又は二酸化チタンのナノ粒子から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(i)のモノマーを前記ナノ粒子の表面にグラフトさせ、次いでこれを重合させることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程(ii)の混合物を押出機を用いて製造することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法によって得られた透明ポリマー材料。
【請求項14】
最大10重量%の無機ナノ粒子、好ましくは最大5重量%の無機ナノ粒子、より一層好ましくは約1重量%程度の量の無機ナノ粒子を含むことを特徴とする、請求項13に記載のポリマー材料。
【請求項15】
自動車ガラス用光学物品の製造のための、請求項13又は14に記載の透明ポリマー材料の使用。
【請求項16】
照準器レンズタイプ、ヘルメットバイザータイプ又は眼科用レンズタイプの光学物品の製造のための、請求項13又は14に記載の透明ポリマー材料の使用。
【請求項17】
厚さが最大15mm、好ましくは0.1mm〜5mmの範囲、より一層好ましくは0.5mm〜4mmの範囲である光学物品を製造するための、請求項13又は14に記載の透明ポリマー材料の使用。

【公表番号】特表2011−510163(P2011−510163A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546228(P2010−546228)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067076
【国際公開番号】WO2009/074554
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(500392287)
【出願人】(504268065)エシロル アンテルナショナル(コンパーニュ ジェネラル ドプテーク) (16)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】