説明

熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法

【課題】低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦抵抗の増加に伴う糸たるみ発生の課題を改善し、安定した生産スタートを実施することが可能な熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法を提供する。
【解決手段】一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法において、延伸仮撚加工機における延伸仮撚部以降に設置した交絡ノズルの圧空流量を、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、生産時の圧空流量対比0.05〜3.0Nm/h上げ、巻取開始前に生産圧空流量に下げるようにしたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工装置において、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時の急激な摩擦抵抗差による糸たるみを抑制し、ひいてはフィードローラーへの巻付を減少し、安定生産させるための熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一斉スタート、ストップ方式の多錘を同時に並行して生産する熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工機では、生産をスタートするにあたり、低速の糸掛け速度にてドライブローラーに隣接する屑巻取部分へ糸掛けを行い、巻取速度まで増速させた後、紙管へ糸を移行し、テールをとった後、巻取開始させている。低速の糸掛け速度から巻取速度までの増速中は、主に、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦抵抗が急速に大きくなるため、糸のたるみが発生し、ひいてはたるんだ糸がフィードローラーに巻付、糸切れを発生するといった現象が散発している。このようなフィードローラーへの巻付が発生すると、ローラーに巻き付いた糸の処置や、高速の巻取速度で再糸掛けをする必要があり、生産性が損なわれるだけでなく、安全面でも大きな問題となっている。
【0003】
特に近年の熱可塑性合成繊維は、様々な機能を付与することを目的に、断面形状の制御や粒子添加等を行うことが多く、摩擦の大きな糸を仮撚する機会が増えてきており、摩擦抵抗差による糸たるみ発生の課題が顕著になっている。
【0004】
糸摩擦を変更する方法においては、パッケージが満巻きになり糸切断を行う直前に、交絡処理装置の流体の供給を停止し、パッケージ表面の糸が交絡処理を行っていない糸とすることにより糸摩擦を上げ、パッケージからの糸引きを防ぐ方法が示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1で示されている圧空流量を停止、再開させる方法では、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時における急激な摩擦抵抗差の発生時には、糸たるみが散発するといった課題があった。
【特許文献1】特開平09−241934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦抵抗の増加に伴う糸たるみ発生の課題を改善し、安定した生産スタートを実施することが可能な熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した本発明の目的は、以下の構成を採用することにより達成できる。すなわち、
(1)一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法において、延伸仮撚加工機における延伸仮撚部以降に設置した交絡ノズルの圧空流量を、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、生産時の圧空流量対比0.05〜3.0Nm/h上げ、巻取開始前に生産圧空流量に下げるようにしたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法。
【0007】
(2)供給糸の動摩擦係数μdが0.6〜2.0の熱可塑性合成繊維を仮撚加工することを特徴とする前記(1)に記載の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工機における延伸仮撚部以降に設置した交絡ノズルの圧空流量を、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に生産時の圧空流量対比高くし、高交絡を付与することによりオイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦抵抗を低減させ、摩擦抵抗に起因する糸たるみを抑制し、巻取開始前に生産圧空流量に下げることにより、安定した生産スタートを実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法について、図1、図2に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本発明の延伸仮撚加工方法は、例えば、図2に示すように、半延伸糸1は糸ガイド2を介して引き出され、第1フィードローラー3と第2フィードローラー7間で延伸され、延伸仮撚ヒーター4、冷却プレート5を経由して仮撚部材(図の例では摩擦仮撚型ディスクユニット)6で仮撚が付与されるとともに、第2フィードローラー7と第3フィードローラー9との間に設置された交絡ノズルにより交絡が付与され、さらに、第3フィードローラー9と糸道転換ガイド11との間に設けられた追油用オイリングローラー10で油剤を付与され、糸道転換ガイド12を経て、巻取ローラー13上に延伸仮撚加工糸パッケージ14として巻き取られるようになっている。
【0011】
このような延伸仮撚加工方法において、低速の糸掛け時(図1の区間a)は、交絡ノズル8からの糸の飛び出しを防ぐために圧空流量は0とすることが好ましい。糸掛け後、巻取速度までの増速時(図1の区間b)は、速度の上昇に伴いオイリングローラー10や糸道転換ガイド11、12での摩擦抵抗が大きくなるため糸たるみが発生し、第3フィードローラー9への糸の巻付が発生する。そこで、速度変更開始と同時に圧空流量を生産圧空流量対比0.05〜3.0Nm/h上げ、高交絡付与によりオイリングローラー10や糸道転換ガイド11、12での摩擦抵抗を低減し、摩擦抵抗に起因する糸たるみを抑制することにより、第3フィードローラー9への糸の巻付を減らすことができる。さらに、巻取速度まで増速後、巻取開始前(図1の区間c)に、圧空流量を生産圧空流量に下げることにより、製品への不良糸の混入を防ぐことができる。
【0012】
本発明の一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法では、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、交絡ノズルの圧空流量を生産圧空流量対比0.05〜3.0Nm/h上げることとする。圧空流量が生産圧空流量対比3.0Nm/hより高くなると、交絡数が飽和するため、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦低減効果が小さくなるばかりか、交絡ノズルから糸が飛び出し、糸道異常による製品不良が発生する。一方、圧空流量を生産圧空流量対比0.05Nm/h未満の上げ幅とすると、交絡付与数が少なくオイリングローラーや糸道転換ガイドでの糸摩擦低減効果が小さく、本発明による糸たるみの抑制効果はほとんど見られなくなる。
【0013】
また、本発明の一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法では、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に上げた圧空流量を、巻取開始前に生産圧空流量に下げることとする。低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時の圧空流量を生産圧空流量と同じとすると、増速中のオイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦抵抗が大きく、糸たるみが発生する場合がある。この現象は、主に動摩擦係数の大きい糸の場合に顕著となる。一方、巻取開始後に圧空流量を生産圧空流量に下げると、製品の内層部の交絡数が高くなり、製品異常が発生する。
【0014】
本発明の一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法による糸たるみの抑制効果は、供給糸の動摩擦係数μdが0.6以上2.0以下の熱可塑性合成繊維を仮撚加工する場合に特に効果が大きくなる。動摩擦係数μdが0.6未満では本発明の仮撚加工方法を用いずとも増速中の糸たるみは発生しない。一方、動摩擦係数μdが2.0より大きくなると、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの抵抗が大きくなり、速度変更時の圧空流量を高くしても、十分な糸たるみの抑制効果が得られない場合がある。
【0015】
本発明の一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法による糸たるみの抑制効果はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル仮撚加工糸を製造する場合に適用することができるが、カチオン可染ポリエステル仮撚加工糸を製造する場合に特に効果が大きくなる。カチオン可染ポリエステル仮撚加工糸はスルホン酸金属塩含有共重合成分を含むため動摩擦係数が大きくなり、従来の一斉スタート、ストップ方式の延伸仮撚加工方法で増速した場合、オイリングローラーや糸道転換ガイドでの摩擦により糸たるみが発生し、フィードローラーへの糸巻付が発生する。一方で本発明の延伸仮撚方法を用いることにより、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時の糸たるみ抑制効果が大きくなり、スタート失敗を減らすことができ、生産性の高いカチオン可染ポリエステル仮撚加工糸を得ることが可能となる。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の測定、評価項目は以下に述べる方法で測定した。
(1)動摩擦係数
英光産業(株)製μメーターを用い、試料を55m/minで走行させ、金属(鏡面)との動摩擦係数を算出した。
(2)スタート成功率
200錘で同時に、低速の糸掛け速度から巻取速度へ増速させ、巻取開始する際に、糸のたるみによるフィードローラーへ巻き付きや交絡ノズルからの糸外れが起こらなかった割合を、スタート成功率(=(200−(増速中のフィードローラーへの巻付数)−(交絡ノズルからの糸外れ数))/200)とし、95%以上を合格とした。
【0017】
実施例1
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを2.0モル%共重合したポリエチレンテレフタレートのチップをメルターにて溶融した後、計量し紡糸口金から吐出し、3000m/minの速度で巻取り動摩擦係数μdが1.2である125dtex、36フィラメントのカチオン可染ポリエステル半延伸糸を得た。この半延伸糸を、図2に示す延伸仮撚加工装置により、仮撚部材6として、ポリウレタン製のフリクションディスクを用い、巻取速度600m/min、延伸倍率1.50、加熱温度180℃で延伸仮撚し、追油用オイリングローラー10で成分の90%が鉱物油からなる追油剤を仮撚加工糸に対し1.0重量%付着し、84dtex、36フィラメントのカチオン可染ポリエステル延伸仮撚加工糸を得た。延伸仮撚するに際し、糸掛け速度50m/minから巻取速度600m/minまでの速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比0.60Nm/h高くした際のスタート成功率は表1に示すとおり98.0%と良好な結果が得られた。
【0018】
実施例2
実施例1と同様の方法で延伸仮撚加工糸を得るに際し、カチオン可染ポリエステル仮撚加工糸のフィラメント数を72フィラメント、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空対比0.30Nm/h高くした際のスタート成功率は表1に示すとおり97.5%と良好な結果が得られた。
【0019】
実施例3
カチオン可染ポリエステル半延伸糸が891dtex、72フィラメントであり、延伸倍率1.80で500dtexの延伸仮撚加工糸を得ることを除き、実施例1と同様の方法で製糸、延伸仮撚するに際し、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比3.0Nm/h高くした際のスタート成功率は表1に示すとおり96.0%と良好な結果が得られた。
【0020】
実施例4
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを0.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートチップを用いることを除き、実施例1と同様の方法で製糸し動摩擦係数μdが0.6であるカチオン可染ポリエステル半延伸糸を得た。この半延伸糸を実施例1と同様の方法で延伸仮撚するに際し、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比0.05Nm/h高くした際のスタート成功率結果は表1に示すとおり、98.0%と良好な結果が得られた。
【0021】
実施例5
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを3.0モル%共重合したポリエチレンテレフタラートチップを用いることを除き、実施例1と同様の方法で製糸し動摩擦係数μdが2.0であるカチオン可染ポリエステル半延伸糸を得た。この半延伸糸を実施例1と同様の方法で延伸仮撚するに際し、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比1.0Nm/h高くした際の動スタート成功率結果は表1.に示すとおり95.0%と合格レベルであった。
【0022】
実施例6
実施例1と同様の方法で延伸仮撚加工糸を得るに際し、延伸仮撚時の生産速度を1000m/min、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比0.80Nm/h高くした際のスタート成功率結果は96.0%と合格レベルであった。
【0023】
比較例1
実施例1と同様の方法で延伸仮撚加工糸を得るに際し、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量と同じとした際のスタート成功率結果はフィードローラーへの糸巻付の発生のため90.0%と不合格であった。
【0024】
比較例2
実施例1と同様の方法で延伸仮撚加工糸を得るに際し、糸掛け速度から巻取速度への速度変更時の圧空流量を生産時の圧空流量対比3.5Nm/h高くした際のスタート成功率結果は交絡ノズルからの糸外れが多発し70.0%と不合格であった。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の延伸仮撚方法の速度と圧空流量の関係の一例を示す説明図である。
【図2】本発明で用いる仮撚加工装置の一実施態様を示した概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1:半延伸糸パッケージ
2:糸ガイド
3:第1フィードローラー
4:延伸仮撚ヒーター
5:冷却プレート
6:仮撚部材(摩擦仮撚型ディスクユニット)
7:第2フィードローラー
8:交絡ノズル
9:第3フィードローラー
10:追油用オイリングローラー
11、12:糸道転換ガイド
13:巻取ローラー
14:延伸仮撚加工糸パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一斉スタート、ストップ方式の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法において、延伸仮撚加工機における延伸仮撚部以降に設置した交絡ノズルの圧空流量を、低速の糸掛け速度から巻取開始までの速度変更時に、生産時の圧空流量対比0.05〜3.0Nm/h上げ、巻取開始前に生産圧空流量に下げるようにしたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法。
【請求項2】
供給糸の動摩擦係数μdが0.6〜2.0の熱可塑性合成繊維を仮撚加工することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性合成繊維の延伸仮撚加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74207(P2009−74207A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245240(P2007−245240)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】