説明

熱可塑性材料組成物

【課題】複数項目の測定方法から求められる機械的強度がバランス良く高められた成形体が得られる熱可塑性材料組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上の熱可塑性材料10〜95質量%、(B)セルロース繊維3〜60質量%、(C)構成単位中に環を含まず、少なくとも1つのOH基を有しているポリマーからなる繊維2〜50質量%を含有する、熱可塑性材料組成物。(C)成分はポリビニルアルコール繊維が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度がバランス良く高められた成形体が得られる熱可塑性材料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の機械的強度を高めるため、ガラス繊維等の無機繊維を配合したものが汎用されている(特許文献1〜4)。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要があるため、無機繊維を使用しない樹脂成形体が求められている。
【0003】
特許文献5、6の発明では無機繊維を使用していない。しかし、特許文献5の発明では、熱可塑性樹脂発泡体の一面に植物繊維補強熱可塑性シートを貼り付けたものが開示されており、製造工程が煩雑であり、機械的強度も充分ではない。また、特許文献6の発明では、植物資源由来の樹脂や天然由来の有機充填材を配合した樹脂組成物の発泡体が開示されているが、製造工程が煩雑であり、機械的強度も充分ではない。
【0004】
特許文献7の発明は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)セルロース繊維3〜300質量部と、(C)ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維1〜300質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、前記組成物から得られた成形体は高い機械的強度を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−80834号公報
【特許文献2】特開平8−207068号公報
【特許文献3】特開2003−245967号公報
【特許文献4】特公平3−52342号公報
【特許文献5】特開平7−329232号公報
【特許文献6】特開2005−60689号公報
【特許文献7】特開2007−56202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数項目の測定方法から求められる機械的強度がバランス良く高められた成形体が得られる熱可塑性材料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、(A)熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上の熱可塑性材料10〜95質量%、(B)セルロース繊維3〜60質量%、(C)構成単位中に環を含まず、少なくとも1つのOH基を有しているポリマーからなる繊維2〜50質量%を含有する、熱可塑性材料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性材料組成物から得られた成形体は、引張強度、引張伸び、曲げ強度、曲げ弾性率及びシャルピー衝撃強度等の各性質がバランス良く高められている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<(A)成分>
(A)成分の熱可塑性材料である熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(好ましくはポリプロピレン)、スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)、ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂、AES樹脂、ABSM樹脂、AAS樹脂等)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができ、これらの熱可塑性樹脂は単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0010】
また、これらの重合体を主体とする共重合体若しくは混合物、これらにゴム又はゴム状樹脂等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂、及びこれらの樹脂を10質量%以上含有するポリマーアロイ等も挙げることができる。
【0011】
(A)成分の熱可塑性材料である熱可塑性エラストマーとしては、ウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレン系エラストマー等を挙げることができ、これらの熱可塑性エラストマーは単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0012】
また(A)成分の熱可塑性材料として、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーを混合して用いることもできる。
【0013】
<(B)成分>
(B)成分のセルロース繊維としては、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等を挙げることができる。セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0014】
セルロース繊維の平均繊維径は、0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがより好ましく、5〜200μmが更に好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
【0015】
セルロース繊維の平均繊維長さは、0.01〜100mmが好ましく、0.01〜50mmがより好ましく、0.1〜10mmが更に好ましく、0.1〜5mmが特に好ましい。
【0016】
セルロース繊維のアスペクト比(長さ/径)は、2〜1000が好ましく、3〜500がより好ましく、5〜200が更に好ましく、5〜100が特に好ましい。
【0017】
セルロース繊維の平均繊維径と平均繊維長さは、光学又は電子顕微鏡観察を実施し、セルロース繊維の繊維長さと繊維径をn=1000個測定し、その測定結果から、数平均繊維径を平均繊維径とし、重量平均繊維長を平均繊維長として評価する。
【0018】
セルロース繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基等の官能基を有するシランカップリング剤)で表面処理されていてもよい。
【0019】
このように(B)成分として天然由来のセルロース繊維を使用することにより、合成繊維量を増加させた場合と比べると製造コストを低下させることができるほか、二酸化炭素の排出量の抑制にも寄与できる。
【0020】
<(C)成分>
(C)成分は、構成単位中に環を含まず、少なくとも1つのOH基を有しているポリマー又はコポリマーからなる繊維であり、前記ポリマー繊維としては、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール(EVA)繊維等を挙げることができるが、これらの中でも、ポリビニルアルコール繊維が好ましい。
【0021】
(C)成分のポリマー繊維の平均繊維径は、1〜100μmが好ましく、2〜50μmがより好ましく、3〜30μmが更に好ましく、4〜20μmが特に好ましい。
【0022】
(C)成分のポリマー繊維の平均繊維長さは、0.1〜10mmが好ましく、0.2〜6mmがより好ましく、0.3〜5mmが更に好ましく、0.3〜4mmが特に好ましい。
【0023】
(C)成分のポリマー繊維のアスペクト比(長さ/径)は、2〜1000が好ましく、5〜800がより好ましく、10〜500が更に好ましく、15〜300が特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物中、(A)、(B)、(C)成分の割合は、
(A)成分は10〜95質量%であり、好ましくは30〜95質量%、より好ましくは40〜90質量%であり、
(B)成分は3〜60質量%であり、好ましくは3〜55質量%、より好ましくは8〜55質量%であり、
(C)成分は2〜50質量%であり、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは2〜30質量%である。
【0025】
(B)成分のセルロース繊維と(C)成分のポリマー繊維の含有割合〔(B)/(C)〕(質量比)は、成形体の機械的強度をバランス良く高めるため、1/5〜50/1が好ましく、1/3〜20/1がより好ましく、1/2〜10/1が更に好ましい。
【0026】
(A)成分が熱可塑性樹脂であるとき、(B)/(C)(質量比)は1/1〜5/1が特に好ましい。
【0027】
(A)成分が熱可塑性エラストマーであるとき、(B)/(C)(質量比)は1/2〜10/1が特に好ましい。
【0028】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性材料組成物には、必要に応じて、有機顔料、染料、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤等を配合することができる。なお、本発明では、無機繊維、金属繊維、無機顔料は配合しないことが好ましいが、熱可塑性材料組成物の用途に応じて、少量を配合してもよい。
【0029】
(A)成分として熱可塑性樹脂を用いた本発明の熱可塑性材料組成物から得られた成形体は、
(a)引張強度(ISO527)は30N以上、
(b)引張伸び(ISO527)は3%以上、
(c)曲げ強度(ISO178)は30MPa以上、
(d)曲げ弾性率(ISO178)は1500MPa以上、
(e)シャルピー衝撃強度(ISO179)は4kJ/m2以上であることが好ましい。
【0030】
(A)成分として熱可塑性エラストマーを用いた本発明の熱可塑性材料組成物から得られた成形体は、
(a’)引張伸び(ISO527)は10%以上、
(b’)シャルピー衝撃強度(ISO179)は10kJ/m2以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性材料組成物は、(A)成分の熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、(B)成分のセルロース繊維及び(C)成分のポリマー繊維、必要に応じて他の添加剤をミキサー等の公知の混合手段を用いて混合することにより製造することができる。本発明の熱可塑性材料組成物の成形体は、公知の樹脂又はエラストマー成形法(押出成形、射出成形等)を適用して製造することができる。また、本発明の熱可塑性材料成形体は、発泡体にしてもよい。
【0032】
本発明の熱可塑性材料組成物は、(B)成分のセルロース繊維を解繊した上で、(A)成分の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーと(C)成分のポリマー繊維に分散させる方法を適用して製造することが好ましい。このような解繊を用いた製造方法の具体例としては、下記の方法1と方法2を挙げることができる。
【0033】
(方法1)
(A)成分の熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分のポリマー繊維を上記比率範囲で使用し(望ましくは予め予備混合する)、これらをヘンシェルミキサー(例えば、三井鉱山社製、ヒーター付き)に投入し、攪拌しながら加温する。このときの条件は次のとおりである。
【0034】
混合槽容量20Lのミキサー内に、(A)成分の熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分のポリマー繊維の合計1000〜3000gを投入し、使用した樹脂やエラストマーの溶融温度近傍にて、周速10〜50m/secで、10〜30分間混練する。
【0035】
(方法2)
(A)成分の熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分のポリマー繊維を予備混合したもの50kgを、2軸高混練型押出機〔例えば、シーティーイー社製,HTM65,スクリュー径65mm、ホットカット(水中)カット付き〕に投入し、使用した樹脂やエラストマーの溶融温度近傍にて、スクリュー回転数200〜800r/mで溶融混練する。
【実施例】
【0036】
実施例及び比較例
(A)成分の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分のポリマー繊維を上記比率範囲で予備混合した後、これらをヘンシェルミキサー(三井鉱山社製、ヒーター付き)に投入し、攪拌しながら加温して組成物を得た。このときの条件は次のとおりである。
【0037】
混合槽容量20Lのミキサー内に、(A)成分、(B)成分、(C)成分を合計で2000gを投入し、使用した(A)成分の樹脂又は熱可塑性エラストマーの溶融温度近傍にて、周速30m/secで、20分間混練した。
【0038】
(表1の成分)
(A)成分
PP:ポリプロピレン,三井化学(株)製のJ139
PAE:ポリアミドエラストマー,ダイセルエボニック(株)製のE58−S4
(B)成分
セルロース繊維:日本製紙(株)製のパルプNDP−T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%
(C)成分
ポリビニルアルコール繊維:ビニロンRP-040(2)(株式会社クラレ製)
(比較用繊維成分)
ポリエステル繊維:中部パイル工業所製のテトロンカットファイバー,平均繊維径約14μm,平均繊維長さ約5mm,アスペクト比約360。
【0039】
得られた組成物を用い、下記の各試験を行った。結果を表1に示す。
(a)引張強度:ISO527
(b)引張伸び:ISO527
(c)曲げ強度:ISO178
(d)曲げ弾性率:ISO178
(e)シャルピー衝撃強度:ISO179
【表1】

実施例1、2と比較例1、2から明らかなとおり、(A)成分のポリプロピレン(熱可塑性樹脂)と、(B)及び(C)成分の3成分の組み合わせにすることにより、(B)及び(C)成分のいずれか1成分のみを含む例と比べると、特定の測定項目が高かったり、あるいは低かったりすることなく、全ての測定項目でバランスのよい数値が得られた。
【0040】
特に実施例1、2は(B)及び(C)成分が合計で40質量%量であり、比較例1は(B)成分が40質量%量であるから、(B)及び(C)成分の相乗作用により、各測定値が大きく向上されたことが確認できた。
【0041】
また、実施例1、2と比較例3(特許文献7に相当する)から明らかなとおり、(C)成分に代えてポリエステル繊維を配合した場合と比べると、全ての測定項目で高い数値が得られた。
【0042】
実施例3〜5と比較例5との対比から明らかなとおり、(A)成分のポリアミドエラストマー(熱可塑性エラストマー)に対して、(B)及び(C)成分を合計で40質量%量加えた実施例3〜5と、(B)成分のみを40質量%量加えた比較例5では、実施例3〜5の方が、全ての測定項目において良い数値が得られた。この結果から、(B)及び(C)成分の相乗作用により、各測定値が大きく向上されたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の熱可塑性材料組成物から得られる成形体は、電気・電子部品の梱包材料、建築資材(壁材等)、土木資材、農業資材、自動車部品(内装材、外装材)、包装資材(容器、緩衝材等)、生活資材(日用品等)に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上の熱可塑性材料10〜95質量%、
(B)セルロース繊維3〜60質量%、
(C)構成単位中に環を含まず、少なくとも1つのOH基を有しているポリマーからなる繊維2〜50質量%を含有する、熱可塑性材料組成物。
【請求項2】
(A)成分の熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれるものであり、(C)成分がポリビニルアルコール繊維である、請求項1記載の熱可塑性材料組成物。
【請求項3】
(A)成分の熱可塑性エラストマーが、ウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレン系エラストマーから選ばれるものであり、(C)成分がポリビニルアルコール繊維である、請求項1記載の熱可塑性材料組成物。
【請求項4】
(B)成分のセルロース繊維の平均繊維長さが0.01〜100mmで、(C)成分のポリマー繊維の平均繊維長さが0.1〜10mmである、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性材料組成物。

【公開番号】特開2010−215887(P2010−215887A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170700(P2009−170700)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】