説明

熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂組成物、及び光学部品

【課題】優れた光学特性、優れた吸水寸法安定性、優れた耐光性及び優れた紫外線硬化樹脂との接着性を有する特定のスチレン系熱可塑性樹脂、該樹脂組成物、および、該樹脂あるいは樹脂組成物を用いた光学部品を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル単位(A)、及び、不飽和ニトリル単位(B)からなるスチレン系熱可塑性樹脂であり、かつ、樹脂全体に対する成分(B)の含有量の平均値(X)が8≦X≦27重量%であり、前記成分(B)を(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、前記成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体が、それぞれ0.5〜5重量%である特定のスチレン系熱可塑性樹脂、または、該樹脂100重量部に対して、アルキル(メタ)アクリレートからなるからなる郡より選ばれる少なくとも1種の成分(C)を0〜20重量部含有する樹脂、該樹脂100重量部に対してヒンダードアミン系安定剤(D)を0.05〜2.0重量部からなる樹脂組成物、これら該樹脂あるいは該樹脂組成物を用いた光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐光性に優れた光学用部品に適した特定のスチレン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂組成物、及び、該樹脂あるいは該樹脂組成物を用いた光学部品に関するものである。本願の光学部品とは、シートからなるフレネルレンズ、レンチキユラーレンズ、背面透過型プロジェクションテレビや液晶テレビ等の前面パネル、拡散板等であり、これらに必要な特性は、透明性、剛性、耐久性、低吸水性、良加工性、耐薬品性(二次加工性)、低コストである。本発明は、これらを技術的に満たす特定のスチレン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂組成物、および該樹脂あるいは該樹脂組成物からなる光学部品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年テレビの大型化に伴い従来の直視型ブラウン管テレビから背面透過型プロジェクションテレビ、PDPテレビ、液晶テレビの需要が増大している。これらには、光学的に透明な樹脂製のスクリーン、拡散板、導光板等が使われている。例えば、プロジェクションテレビのスクリーンの構成は、一般的にはテレビ内部から順にフレネルレンズ、レンチキュラーレンズのレンズ基板の2枚構成の樹脂製レンズからなり、場合によっては、該スクリーンの前に前面パネルが設けられることもある。
【0003】
一般に、光学部品特にフレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等に使用される可能性のある透明樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンーアクリル系共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体及び環状オレフィン等があげられる。具体的には、それらの部品には、従来からアクリル樹脂が使用されてきた。しかし、近年のテレビの大型化に伴うスクリーン自体の大型化により、吸水率が大きいアクリル樹脂を使用していることに起因するスクリーンの反りが目立つようになり、結果的に画面が歪む等の問題が発生した。この問題を改善する為に、最近では吸水率の小さいスチレン−アクリル系共重合体が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズには、従来はアクリル樹脂が使用されていた。しかし、上記したようにアクリル樹脂は吸水による寸法変化が大きい。テレビの大型化に伴いこれらレンズも大きくなっており、吸水によりレンズの寸法が変化することで、特にレンズの中心部が膨らむように反りが発生する。その結果、焦点ボケ、色再現性の低下、2重像といった現象による映像の画質低下の問題が起こった。これらの現象を解決するために、該レンズの材質としてアクリル樹脂に比べて吸水率の小さいスチレンーアクリル系共重合体が採用され主流となっている。
【0005】
しかしながら、最近は更に大型化の薄型テレビが開発されており、スチレン−アクリル系共重合体でも吸水による寸法変化による反りの発生が問題となり始めている。この問題を解決するために、メタクリル酸メチルの含有量を下げたスチレン−アクリル系共重合体の開発が試みられている。しかし、メタクリル酸メチルの含有量を下げると、吸水による寸法変化は小さくすることはできるが、該樹脂基板を使ってフレネルレンズ等レンズを制作する際に基板の上に塗布される紫外線硬化型樹脂との接着性が不十分となり、フレネルレンズ等を加工できないという問題がある。
【0006】
一方、スチレン−アクリロニトリル共重合体に関しては、従来は、単に共重合体として記載されているのみであり、その具体的な組成等についての検討はなされていない(例えば、特許文献2〜6参照。)。
特許文献7には、スチレン−アクリロニトリル共重合体の具体的な開示があるが、光学学用途への応用に関しては一切記載されていない。
【特許文献1】特開2002−40563号公報
【特許文献2】特開平2−245703号公報
【特許文献3】特開平9−26503号公報
【特許文献4】特開平9−281307号公報
【特許文献5】特開2000−296544号公報
【特許文献6】特開2003−279712号公報
【特許文献7】特開平3−269006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたもので、光学的に透明であり、耐光性に優れ、吸水率および寸法変化率が小さく、なお且つ紫外線硬化型樹脂との接着性に優れる従来のスチレン系樹脂に比較してそれらのバランスに優れた特定のスチレン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂組成物、および、該樹脂あるいは樹脂組成物製の光学部品を提供することを目的とするものである。また、大型の映像スクリーンの吸水によるスクリーンの寸法変化を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、以下に記す特定のスチレン系熱可塑性樹脂により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、該樹脂に更に特定のヒンダードアミン系安定剤を組み合わせた樹脂組成物が、更に優れた特性を有することを見出した。
【0009】
即ち、本発明においては、光学特性に優れ、且つ、吸水寸法安定性の高い特定組成の樹脂を見出すことで上記目的を達成し、更にその樹脂に耐光性を更に高める為の安定剤を加えた樹脂組成物が、より優れた特性を有することを見出した。
尚、樹脂の耐光(候)性の向上手法としては、トリアジン系、ベンゾトリアジン系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤と安定剤との併用が一般的に取られる。しかし、本発明の用途などの様に、紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる場合には、紫外線吸収剤が、照射された紫外線を吸収し硬化反応を阻害し、全く硬化しないか、または硬化しても満足する密着性を発揮できない等の問題が生じるため、紫外線吸収剤との併用は好ましくない。この観点から、本発明においては、紫外線吸収剤を併用しないで耐光(候)性を改善し、かつ接着性を阻害しない安定剤についても鋭意研究を行った。
【0010】
本発明の目的は、以下の特定のスチレン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂組成物及び、光学部品により達成された。
1. 芳香族ビニル単位(A)、及び、不飽和ニトリル単位(B)からなるスチレン系熱可塑性樹脂であり、かつ、樹脂全体に対する成分(B)の含有量の平均値(X)が8≦X≦27重量%であり、
前記成分(B)を(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、
前記成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体が、それぞれ0.5〜5重量%であるスチレン系熱可塑性樹脂。
2. 前記成分(A)と前記成分(B)の合計量100重量部に対して、アルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(C)を、0〜20重量部含有する項1に記載のスチレン系熱可塑性樹脂。
3. 前記成分(B)を(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、前記成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体の含有量が、それぞれ0.5〜3.5重量%である項1または2に記載のスチレン系熱可塑性樹脂。
4. 項1〜3いずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤(D)を0.05〜2.0重量部含有するスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
5. 成分(D)が、セバシン酸ジエステル化合物である項4に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
6. 成分(D)が、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートである項4に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
7. 項1〜3のいずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性樹脂、あるいは、項4〜6のいずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物からなる光学部品。
8. 光学部品が押出成形シートからなる項7に記載の光学部品。
9. 光学部品が背面透過型プロジェクションテレビ用スクリーンである項7に記載の光学部品。
10. 光学部品が背面透過型プロジェクションテレビ用スクリーンのフレネルレンズ及びレンチキュラーレンズのレンズ基板である項7に記載の光学部品。
11. 光学部品が薄型テレビ用前面パネル基板である項7に記載の光学部品。
12. 光学部品が液晶テレビ用拡散板である項7に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学用スチレン系熱可塑性樹脂及びスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、優れた光学特性、優れた耐光性、優れた吸水寸法安定性及び紫外線硬化型樹脂との優れた接着性を有しており、家電機器、OA機器等の光学部品等の用途に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル単位(A)、及び、不飽和ニトリル単位(B)からなり、樹脂成分全体に対する成分(B)の含有量の平均値(X)が8≦X≦27重量%である。
好ましくは10≦X≦23重量%であり、更に好ましくは15≦X≦22重量%であり、特に好ましくは16≦X≦21重量%である。
【0014】
上記の成分(B)の含有量は、本発明の樹脂を光学部品用途のレンズ基材に用いる場合の、レンズ基材に接着させる紫外線硬化型樹脂との接着性の観点から8重量%以上であり、飽和吸水時の寸法変化率および黄色度(YI)の観点から27重量%以下である。
成分(B)の平均値(X)とは、組成分布を持つ成分(B)の平均値である。測定方法としては、まず、元素分析よりアクリロニトリル含有量(AN%)が既知の標準アクリロニトリルースチレン共重合体を用いて、液体クロマトグラフを測定し、ピークトップのリテンションタイム(RT)を求める。各標準ポリマーのAN%とピークトップのRTをプロットし、AN%とRTの補正曲線とする。次いでサンプルのクロマトグラフを測定し、RT(i)とピーク強度(PH(i))を読み取り、ピーク強度%比(Hi)を求め、AN%補正曲線よりRT(i)に対応したAN%を読み取り、式(1)よりAN比(i)を求める。
(AN比(i))=(AN%(i))/100 ・・・ (1)
次に式(2)よりサンプルのAN%を求める。これを平均値(X)とする。
(AN%)=Σ(Hi)(AN比(i)) ・・・ (2)
【0015】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂は、成分(B)が(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体が、それぞれ0.5〜5重量%である事が必要である。また、それぞれの共重合体の含有量を0.5〜4.5重量%とすることが好ましく、それぞれの共重合体の含有量を0.5〜3.5重量%とすることが特に好ましい。
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂に用いられる芳香族ビニル単位(A)としては、スチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレンなどを挙げることができるが、特にスチレンが好ましい。また、不飽和ニトリル単位(B)としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができるが、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0016】
また、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂は、成分(A)および/または成分(B)と共重合可能な単量体を含んでも良い。そのような共重合可能な単量体(C)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸;無水マレイン酸等のα、β―不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられる。これらの単量体は1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチルアクリレートが更に好ましい。
成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)との合計量100重量部に対して0〜20重量部とすることが好ましく、7〜15重量部とすることが更に好ましい。
【0017】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂を得る方法としては、例えば、完全攪拌混合槽に、モノマー、開始剤、溶媒等を連続的にフィードし、連続的に反応槽から抜き出し、熱時、脱揮系で揮発分を除去する方法が挙げられる。脱揮系でのポリマー滞留は極力少なくすることが好ましい。
一般に、スチレン−アクリロニトリル共重合体の反応は、アゼオ組成がアクリロニトリル24〜25重量%の範囲にあり、それ以外の組成で重合させると組成分布が広くなり、広い組成分布の共重合体は、透明性が大幅に損なわれるために、従来から種々の工夫がされている。工業的に利用されているのはアクリロニトリル成分がアゼオ組成以上の共重合体であり、これらのスチレンーアクリロニトリル共重合体の製造は、一般的に乳化重合方法、懸濁重合方法及び塊状重合方法が用いられている中で、組成分布を狭くする方法としては、塊状重合における完全混合型反応機が用いる製造方法等が挙げられる。完全混合型反応機を用いて、且つ気層部の存在がない満液状態で重合し、重合後の未反応単量体は、速やかに除去することが好ましい。未反応単量体の除去としては、1段または多段の減圧装置等で行なうことができる。
【0018】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂の重量平均分子量としては、スチレン換算分子量で185,000〜250,000の範囲が好ましい。重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定する。試料 20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン 10mlに溶解し、0.45μmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム温度40℃に100μl注入し、検出器RI温度 40℃で測定しスチレン換算した値を用いる。
【0019】
次に、本発明の光学部品について説明する。 薄型テレビとしては、背面透過型プロジェクションテレビ(又はリアプロジェクションテレビ)、液晶テレビ、PDPテレビ等が挙げられるが、本発明の光学部品は、背面透過型プロジェクションテレビ、液晶テレビに用いられる。具体的には、背面透過型プロジェクションテレビおよび液晶テレビなどに用いられるスクリーン(フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ)、前面パネル、拡散板、導光板等挙げられる。これらの部品においては、部品が吸水して寸法変化が起こり反りが発生した場合、画像が歪む等の不具合が起こる。よって、これらの光学部品には、吸水率及び寸法変化率が低いことが要求されており、本発明の樹脂を用いることでその要求を満たすことができる。
【0020】
また、光学部品であるスクリーン等は、CRT等から照射される光を長時間受けることとなる為に、使用される材質には、耐光性能が高いことが要求される。本発明の樹脂は、優れた耐光性能を有するが、長時間の耐光性を更に高めるために更なる耐光性処方を施すことが好ましい。しかし、該スクリーンのフレネルレンズに塗布される紫外線硬化型樹脂は、紫外線の照射を受けて硬化反応が進行する為、スクリーン用の樹脂に紫外線を吸収する等の硬化反応を阻害するものを添加することは実用的でない。更に、添加したものがスクリーン基材と紫外線硬化型樹脂との接着性を阻害するものであってはならない。また、添加するものが、該スクリーンの透明性を低下させることがあってはならない。
【0021】
本発明者らは、耐光性、硬化反応性及び接着性等を満足する耐光剤について鋭意検討した結果、ヒンダードアミン系安定剤が適することを見出した。即ち、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂にヒンダードアミン系安定剤を加えることで、長時間の耐光性を更に高めることが可能となる。本発明のヒンダードアミン系安定剤(D)としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、及びメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのセバシン酸ジエステル化合物、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物が挙げられ、その1種以上を用いることができる。それらの中でも、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのセバシン酸ジエステル化合物が好ましく、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートが最も好ましい。
【0022】
ヒンダードアミン系安定剤(D)は、スチレン系熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.05〜2.0重量部の範囲で添加することが好ましい。ヒンダードアミン系安定剤(D)の含有量は、好ましくは、樹脂100重量部に対し、0.1〜1.5重量部の範囲内であり、より好ましくは0.2〜1.0重量部の範囲内である。耐光性向上の観点から、安定剤(D)の含有量は、0.05重量部以上であり、紫外線硬化型樹脂との接着性の観点から2.0重量部以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明のヒンダードアミン系安定剤は、スチレン系熱可塑性樹脂の重合時に添加することができる。また、押出機を用いてスチレン系熱可塑性樹脂を溶融する際に、樹脂ペレットと共にホッパー、あるいはサイドフィーダーから添加することもできる。さらにまた、光学部品用として用いる同種のスチレン系熱可塑性樹脂と安定剤とのマスターバッチを事前に準備し、光学部品を押出成形あるいは射出成形する際に、上記マスターバッチを添加する、簡便な方法をとることもできる。
【0024】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂及びスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、光を拡散する目的の拡散材を0.1〜10重量%含有しても良い。一般的には、拡散材としては架橋させたアクリル樹脂、架橋させたスチレンーアクリル系樹脂、架橋したスチレン樹脂、架橋したシリコン系樹脂等の有機系拡散材や、炭酸カルシューム、タルク、酸化チタン、硫酸バリューム等の無機系拡散材があげられる。
【0025】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂あるいはスチレン系熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形あるいは押出成形により所望の成形品を得ることができる。特に大型部品になる程、押出成形のシートから加工するのが好ましい。例えば、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂あるいはスチレン系熱可塑性樹脂組成物を設定温度240℃の65mm単軸押出機(東芝機械(株)製)で溶融し、押出機ヘッドに設けたTダイから押し出し、ついで3本ロール(温度:上ロール 98℃、中ロール 95℃、下ロール 85℃)を介して厚さ1.85mmの光学用のスクリーン基板を得ることができる。該基板に、さらに片側に熱硬化性樹脂を所望の形状、例えばフレネルレンズの形状に成形し、規定の紫外線を必要時間、照射し、熱硬化させることで、所望のリアプロジェクションテレビ用のスクリーンを得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の表中の各物性は、次に示す方法により評価した。
(1)飽和吸水率
射出成形された150mm×150mm×2.0mm厚さの平板試験片を、予め80℃にて3時間乾燥した後に、23℃のデシケーター中で冷却する。この時の試験片の重量をWとする。次に、この試験片を23℃の水中に浸漬し、重量増加が平衡に達した時の重量(W)を測定して、次式から飽和吸水率(重量%)を求める。
飽和吸水率=(W―W)/W×100
【0027】
(2)飽和吸水時の寸法変化
上記で飽和吸水率に達した後に、試験片を取出し、布で表面を拭く。平板の樹脂の流れ方向について、吸水前(L)と後(L)の寸法をノギスで測定し、吸水前後の寸法変化量を求め、その値を吸水前の寸法(L)で除して求める。
寸法変化率(%)=(L−L)/L×100
【0028】
(3)全光線透過率
50mm×90mm×2.5mm厚さの試験片を4枚重ねて、JIS K7105に準じて測定する。 但し、比較例4は、12.7mm×12.7mm×127mmの短冊試験片を、実施例2と比較例1に関しては両方の試験片を用いた。
【0029】
(4)曇り度
50mm×90mm×2.5mm厚さの試験片を4枚重ねて、JIS K7105に準じて測定する。但し、比較例4は、12.7mm×12.7mm×127mmの短冊試験片を、実施例2と比較例1に関しては両方の試験片を用いた。
【0030】
(5)耐光性試験
スガ試験機(株)製サンシャインウエザーメータ−を用いて、50mm×90mm×2.5mm厚さの試験片を下記の条件にて測定する。
BP温度63℃
降雨なし
500時間暴露
【0031】
(6)黄変指数変化(△YI)
耐光性試験500時間後の試料をスガ試験機(株)製多光源分光測色計MSC−5Nにて黄変指数(YI500)を測定し、下式のように、未暴露の試料の黄変指数(YI)との差で表す。
△YI=YI500−YI
【0032】
(7)接着性試験
紫外線硬化型樹脂として、ウレタンーアクリレート(共栄社化学株式会社製
UA−306H)を使用する。硬化剤として、イルガキュア907(日本バガルギー(株)製)を使用し、硬化型樹脂90%に対し、10%の割合で添加する。硬化剤を含んだ硬化型樹脂を試験片(寸法50mm×90mm×2.5mm)上に塗布した後、試験片側から光照射を行い、硬化型樹脂を硬化させる。硬化には高圧水銀灯(波長365nmにおける光強度150mw/cm)を用い、30秒照射とする。硬化させた面にナイフで1mmの碁盤目100個を作り、ニチバン製のセロハンテープを圧着した後に、45度の角度で速やかにセロテープを剥がし、硬化樹脂の接着状態を観察する。
尚、表2では、接着性が十分である場合を“A”、若干剥がれる部分がある場合を“B”、硬化樹脂の大半が剥がれる場合を“C”とした。また、表中の“−”印は、未含有または未測定を示す。
【0033】
(8)樹脂組成分布の測定
試料0.05gを40mlのTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、高速液体クロマトグラフWaters TM600(Waters社製)を用い、カラムはμ BONDASPHERE 3.9mmφ×150mm、カラムオーブン 35℃、キャリアはヘキサン/クロロホルム 1mL/min、グラジエント条件は下記の条件、検出器は、Mass Detector ELSD−1000(Polymer Laboratories社製)で、Neb.温度 40℃、Eva.温度 70℃、キャリア液ガス流量 1.0L/minで共重合体中のアクリロニトリル組成分布を測定した。
グラジエント条件
TIME ヘキサン% クロロホルム%
0 50 50
15 0 100
20 0 100
【0034】
[実施例1〜3(製造例1〜3)]
60リットルの完全混合攪拌槽に下記に示す添加量のスチレン、アクリロニトリル、エチルベンゼンからなる単量体混合物、または、更にブチルアクリレートンからなる単量体混合物を連続的に供給し、開始剤として、t−ブチル−ペロキシ−イソプロピル−モノカーボネイトの存在下で下記条件で重合反応を行った。この際に、反応槽内は満液状態とした。重合率40%で反応生成物を定常的に取り出して、予熱器で255℃に加熱した後、脱揮槽に入れ、225℃、真空度20トールで未反応単量体等の揮発分を速やかに除去し、次いでベント付押出機で減圧下でペレットを得た。詳細条件と得られた樹脂の組成、分子量を表1に示す。
得られた各々の樹脂を東芝機械(株)製IS−55EPNを用いて、温度240℃、金型温度60℃の条件で射出成形し評価用試験片を作成した。評価結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[比較例1]
攪拌機付きの反応槽60リットルに25kgの蒸留水を仕込み、懸濁安定剤として部分懸化ポリビニルアルコール125g、更にラウリル硫酸ナトリウム0.7gを加えて溶解させる。その後スチレン8.3kg、アクリロニトリル3.7kg、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサノエート22g、オクチルメルカブタン19gを次々と投入し、回転数80rpmで攪拌しながら80℃で7.5時間重合反応をさせた。更に、95℃に上げて2時間反応させた。得られた共重合体は、洗浄し、脱水し、乾燥させた。乾燥後のスチレン系樹脂の重量平均分子量は、198,000であった。評価結果を表2に示す。
【0037】
[比較例2]
アクリロニトリル成分等を含有しないポリスチレンが、スチレン系熱可塑性樹脂の中で最も吸水率の低い樹脂であり、その代表としてPSJポリスチレンHF77(PSジャパン(株)製)を用いた。評価結果を表2に示す。
【0038】
[実施例4〜7および比較例3]
実施例4は実施例1の樹脂を用い、実施例5〜7と比較例3は実施例2の樹脂を用いて、表2に示した量の安定剤を配合し、30mmベント式単軸押出機((株)石中鉄工所製 HS−B)を用いて、220℃で混練りし、目的の樹脂組成物を得た。安定剤としては、JF90(城北化学工業(株)製)を用いた。評価結果を表2に示す。
【0039】
[比較例4]
部分懸化ポリビニルアルコール120g、更にラウリル硫酸ナトリウム0.6gを加えて溶解させる。その後スチレン9.7kg、アクリロニトリル2.5kg、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサノエート24g、オクチルメルカブタン20gを次々と投入し、回転数80rpmで攪拌しながら80℃で8時間重合反応をさせた他は、比較例―1と同じように行った。乾燥後のスチレン系樹脂の重量平均分子量は、191,000であった。評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示す通り、実施例1〜7は飽和吸水率が小さく、且つ寸法変化率も小さく、紫外線硬化型樹脂との接着性に優れている。
比較例1のようにアクリロニトリル含有量が高くなると、飽和吸水率は大きく、寸法変化率も大きくなる。比較例2のようにアクリロニトリルを含まないと吸水率は小さく、吸水寸法変化率も小さくなるが、紫外線硬化樹脂との接着性が得られなくなる。また、比較例3のように、実施例2の共重合体を用いても、安定剤の量が多くなると紫外線硬化樹脂との接着性が得られない。また比較例4のようにアクリロニトリルの組成分布が広くなると、光学特性が低下し、寸法変化が大きくなり好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
光学的に透明な樹脂製の大型スクリーン(フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ)、前面パネル、拡散板、導光板等などに使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単位(A)、及び、不飽和ニトリル単位(B)からなるスチレン系熱可塑性樹脂であり、かつ、樹脂全体に対する成分(B)の含有量の平均値(X)が8≦X≦27重量%であり、
前記成分(B)を(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、
前記成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体の含有量が、それぞれ0.5〜5重量%であるスチレン系熱可塑性樹脂。
【請求項2】
前記成分(A)と前記成分(B)の合計量100重量部に対して、アルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(C)を、0〜20重量部含有する請求項1に記載のスチレン系熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記成分(B)を(X−5)重量%以下有する共重合体、及び、
前記成分(B)を(X+5)重量%以上有する共重合体の含有量が、それぞれ0.5〜3.5重量%である請求項1または2に記載のスチレン系熱可塑性樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性樹脂100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤(D)を0.05〜2.0重量部含有するスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
成分(D)が、セバシン酸ジエステル化合物である請求項4に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
成分(D)が、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートである請求項4に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性樹脂、あるいは、請求項4〜6のいずれか一項に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物からなる光学部品。
【請求項8】
光学部品が押出成形シートからなる請求項7に記載の光学部品。
【請求項9】
光学部品が背面透過型プロジェクションテレビ用スクリーンである請求項7に記載の光学部品。
【請求項10】
光学部品が背面透過型プロジェクションテレビ用スクリーンのフレネルレンズ及びレンチキュラーレンズのレンズ基板である請求項7に記載の光学部品。
【請求項11】
光学部品が薄型テレビ用前面パネル基板である請求項7に記載の光学部品。
【請求項12】
光学部品が液晶テレビ用拡散板である請求項7に記載の光学部品。

【公開番号】特開2008−222932(P2008−222932A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65514(P2007−65514)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】