説明

熱可塑性樹脂およびその製造方法

【課題】高屈折率などの特性を有する新規な熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】芳香族骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリルエーテル化合物)と、ジチオール化合物と、重合開始剤(光重合開始剤など)とを含む組成物に活性エネルギー線を付与する。このような活性エネルギー線の付与により、不飽和化合物とジチオール化合物とがエンチオール反応し、熱可塑性樹脂が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンチオール反応により得られる新規な熱可塑性樹脂、その製造方法および前記熱可塑性樹脂を得るための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)を有する化合物は、光学的特性、耐熱性などにおいて優れた機能を有することが知られている。例えば、フルオレン骨格を含む樹脂材料は、屈折率が高く、複屈折率が低いなどの優れた特性を有しているため、高屈折率レンズ用途などの光学用樹脂材料として用いられている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現し、成形可能とする方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスアミノフェニルフルオレン(BAFL)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを、樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。
【0003】
例えば、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂で構成された成形材料が開示されている。また、特開2002−284834号公報(特許文献2)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有し、架橋剤で架橋されたポリウレタン系樹脂が開示されている。これらの文献では、樹脂を構成するジオール成分の一部として、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンや、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン)などを使用することにより、樹脂中にフルオレン骨格を導入している。
【0004】
しかし、このようなフルオレン骨格を有する樹脂材料であっても、未だ光学的特性(特に屈折率)の向上が不十分な場合がある。特に、成形体(例えば、光学レンズ機器など)の薄型化や小型化にともなって、より一層優れた光学的特性(屈折率など)を有する樹脂材料が要求されている。
【0005】
一方、近年、エチレン性不飽和基を有する成分とメルカプト基を有する化合物とを組み合わせたエン/チオール系硬化性組成物が提案されている。例えば、特開2006−89623号公報(特許文献3)には、不飽和基およびカチオン性基含有エポキシ樹脂とチオール基およびカチオン性基含有エポキシ樹脂とを含むカチオン電着塗料組成物が開示されている。また、特開2008−13690号公報(特許文献4)には、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、多官能チオール化合物またはジスルフィド化合物を所定の割合で含む電子線硬化性組成物が開示されている。さらに、特開2009−58582号公報(特許文献5)には、光重合性化合物(カルボキシル基含有アクリル系樹脂と、重合性基を有する脂環式エポキシ化合物との開環付加反応物など)、光重合開始剤、及びチオール系連鎖移動剤(メルカプト有機酸誘導体及びチオグリコール酸誘導体)を含有する光硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
なお、これらの文献は、いずれも、エンチオール反応を利用して樹脂を三次元的に架橋するための組成物を開示するものであり、エンチオール反応を利用した熱可塑性樹脂については一切開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−284864号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−284834号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−89623号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2008−13690号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2009−58582号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、芳香族骨格(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)を有する新規な熱可塑性樹脂、その製造方法および前記熱可塑性樹脂を得るための組成物(エンチオール反応用組成物)を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、エンチオール反応により得られる高屈折率の熱可塑性樹脂、その製造方法および前記熱可塑性樹脂を得るための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格などの芳香族骨格およびエチレン性不飽和結合を分子中に2つ有する化合物(特に、ジアリル化合物)と、ジチオール化合物とを、光重合開始剤などの存在下で反応させると、エチレン性不飽和結合による三次元的な架橋反応に優先して、エンチオール反応が生じるためか、高屈折率などの優れた特性を有する新規な熱可塑性樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂は、芳香族骨格(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(例えば、フルオレン化合物)と、ジチオール化合物とのエンチオール反応により得られる熱可塑性樹脂である。前記不飽和化合物は、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリル化合物(例えば、ジアリルエーテル化合物)などのジアリル化合物であってもよい。前記不飽和化合物(又はフルオレン化合物)は、代表的には、下記式(1)で表されるジアリルエーテル化合物であってもよい。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RおよびRは同一の又は異なる置換基であって、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基から選択された置換基、kは0〜4の整数、mは0〜4の整数、Rはアルキレン基、nは0以上の整数を示す。)
前記式(1)において、Rは炭化水素基(例えば、アルキル基又はアリール基)であってもよく、mは0〜2程度であってもよい。また、前記式(1)において、屈折率を向上させる観点から、nは0であってもよい。
【0014】
前記ジチオール化合物は、脂肪族ジチオール化合物(例えば、アルカンジチオールなど)を含んでいてもよい。また、前記ジチオール化合物は、芳香族ジチオール化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジチオール化合物)を含んでいてもよい。
【0015】
本発明には、前記不飽和化合物[例えば、前記フルオレン化合物(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有するフルオレン化合物)]と、ジチオール化合物とをエンチオール反応させ、前記熱可塑性樹脂を製造する方法も含まれる。このような方法では、エンチオール反応を利用できるので、溶融重合のような重合方法によらず、穏やかな条件下で重合を進行させることができる。前記方法では、代表的には、前記不飽和化合物(前記フルオレン化合物など)、前記ジチオール化合物および重合開始剤(例えば、熱重合開始剤及び光重合開始剤から選択された少なくとも1種の重合開始剤)を含む組成物に活性エネルギー線[又は活性エネルギー、例えば、熱線(熱エネルギー)及び/又は光線(光エネルギー)]を付与してエンチオール反応させてもよい。例えば、前記不飽和化合物(前記フルオレン化合物など)、前記ジチオール化合物および光重合開始剤を含む組成物に光照射してエンチオール反応させてもよい。
【0016】
本発明には、前記不飽和化合物[例えば、前記フルオレン化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリル化合物)]と、ジチオール化合物とを含む組成物も含まれる。このような組成物は、前記熱可塑性樹脂を得るための組成物(エンチオール反応形成用組成物)として有用である。このような組成物は、さらに、重合開始剤(例えば、光重合開始剤)を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂は、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有している。そして、このような熱可塑性樹脂は、エンチオール反応により得られ、樹脂骨格に導入された硫黄原子および9,9−ビスフェニルフルオレン骨格に由来して、高屈折率などの優れた特性(特に、光学的特性)を有している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂は、芳香族骨格(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物(例えば、フルオレン化合物)と、ジチオール化合物とのエンチオール反応により得られる。
【0019】
(不飽和化合物)
不飽和化合物(芳香族不飽和化合物、芳香環を含む不飽和化合物)において、芳香族骨格(又は芳香環又は芳香環骨格)としては、単環式芳香族骨格、縮合多環式芳香族骨格のいずれであってもよく、芳香族炭化水素骨格、芳香族複素環骨格のいずれであってもよい。
【0020】
また、芳香族骨格は、複数の芳香族骨格が、直接結合又は連結基を介して結合した骨格であってもよい。連結基としては、例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキレン基又はアルキリデン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2−プロピリデン基などのC1−10アルキレン基又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基など)など]、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−OCO−)、イミノ基(−NH−)、アミド基(−NHCO−)、チオエーテル基(−S−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、これらの基がさらに連結した基[例えば、オキシアルキレン基又はオキシアルキリデン基(例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基などのオキシC1−10アルキレン基又はアルキリデン基)など]などが挙げられる。
【0021】
なお、芳香族骨格は、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述の置換基Rの項で例示の置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子など)が含まれる。置換基は単独で又は2種以上組み合わせて芳香族骨格に置換していてもよい。
【0022】
具体的な芳香族骨格としては、例えば、芳香族炭化水素環[又はアレーン環、例えば、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナントレン環、ピレン環、コロネン環、ペンタセン環などの2乃至7環式C10−30縮合芳香環など)]、芳香族複素環[前記芳香環を構成する炭素原子の一部が窒素、酸素、イオウなどのヘテロ原子で置換された縮合多環式複素環、例えば、カルバゾール環、フェノキサジン環、フェノチアジン環など]、2以上(例えば、2〜5、好ましくは2〜3)の芳香族骨格が直接結合を介して結合した骨格又は芳香環[例えば、ビフェニル環、ターフェニレン環、9,9−ビスアリールフルオレン環などの2以上の単環式又は縮合多環式芳香族炭化水素環が直接結合を介して結合した環など]、2以上(例えば、2〜5、好ましくは2〜3)の芳香族骨格が連結基を介して結合した骨格又は芳香環[例えば、ジアリールアルカン環(例えば、ジフェニルメタン環、2,2−ジフェニルプロパン環などのジC6−10アリールC1−10アルカン環)、ジアリールエーテル環(ジフェニルエーテル環など)、ジアリールスルフィド環(ジフェニルスルフィド環など)、ジアリールスルホン環(例えば、ジフェニルスルホン環)、ジアリールスルホキシド環(例えば、ジフェニルスルホキシド環)などの2以上の単環式又は縮合多環式芳香族炭化水素環が連結基を介して結合した環]などが挙げられる。
【0023】
不飽和化合物(フルオレン化合物など)において、2つのエチレン性不飽和結合(又は不飽和結合基)としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などであってもよいが、特に、アリル基であるのが好ましい。すなわち、前記不飽和化合物は、ジアリル化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリル化合物)であるのが好ましい。アリル基を有する不飽和化合物(フルオレン化合物など)を用いると、ジチオール化合物との組合せにおいて、不飽和化合物(フルオレン化合物など)そのものの架橋反応を抑え、効率よくエンチオール反応を進行させることができる。
【0024】
ジアリル化合物には、ジアリルエーテル化合物、ジアリルエステル化合物[芳香族ジカルボン酸(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジカルボン酸)のジアリルエステル化合物など]などが含まれる。好ましいジアリル化合物は、ジアリルエーテル化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオールなどの芳香族ジオール(又は芳香族骨格を有するジオール)のジアリルエーテル化合物)である。
【0025】
代表的な不飽和化合物には、芳香族ジアリル化合物、例えば、ジヒドロキシアレーン[ジヒドロキシベンゼン(1,4−ジヒドロキシベンゼンなど)などのジヒドロキシC6−10アレーン]又はそのアルキレンオキシド付加物(例えば、エチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物などのC2−4アルキレンオキサイド付加物(例えば、2〜10個程度のアルキレンオキシドが付加した付加物)、以下同じ)のジアリルエーテル、ジヒドロキシアルキルアレーン[例えば、ジヒドロキシメチルベンゼン(1,4−ジヒドロキシメチルベンゼンなど)などのジヒドロキシC1−4アルキルC6−10アレーン]又はそのアルキンオキシド付加物のジアリルエーテル、ジ(ヒドロキシアレーン)[例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジ(ヒドロキシC6−10アレーン)]又はそのアルキレンオキシド付加物のジアリルエーテル、ビスフェノール類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン類];1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなどのビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類]又はそのアルキレンオキシド付加物のジアリルエーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)縮合多環式アレーン[例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]又はそのアルキレンオキシド付加体のジアリルエーテルなどの芳香族骨格を有するジオールのジアリルエーテルなどが含まれる。
【0026】
不飽和化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
これらの中でも、高屈折率、高耐熱性などの観点から、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有するフルオレン化合物が好ましい。
【0028】
代表的なフルオレン化合物には、下記式(1)で表されるジアリルエーテル化合物などが含まれる。
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、RおよびRは同一の又は異なる置換基、kは0〜4の整数、mは0〜4の整数、Rはアルキレン基、nは0以上の整数を示す。)
上記式(1)において、基Rで表される置換基としては、非反応性置換基であれば特に限定されず、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などであってもよく、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0031】
また、前記式(1)において、置換基Rとしては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(C5−10シクロアルコキシ基など)、アリールオキシ基(C6−10アリールオキシ基など)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;カルボキシル基;アミノ基;カルバモイル基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など);スルホニル基;これらの置換基同士が結合した置換基[例えば、アルコキシアリール基(例えば、メトキシフェニル基などのC1−4アルコキシC6−10アリール基)、アルコキシカルボニルアリール基(例えば、メトキシカルボニルフェニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニルC6−10アリール基など)]などが挙げられる。
【0032】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などであってもよい。
【0033】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などの炭化水素基(特に、アルキル基)であるのが好ましい。なお、Rは、同一のベンゼン環又は異なるベンゼン環において、同一又は異なる基であってもよい。
【0034】
なお、前記式(1)において、基Rの置換数mは、0〜4であればよく、好ましくは0〜2である。
【0035】
前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、特に、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましい。なお、Rは、同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、nが複数である場合、Rは同一又は異なっていてもよい)。すなわち、nが2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基[−(OR−]は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。また、Rは、異なるベンゼン環において、同一又は異なる基であってもよい。
【0036】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)nは、例えば、0〜15程度の範囲から選択でき、例えば、0〜10(例えば、1〜10)、好ましくは0〜8(例えば、1〜8)、さらに好ましくは0〜6(例えば、1〜6)、特に0〜4(例えば、1〜4)であってもよく、通常0〜2(例えば、1〜2)であってもよい。特に、より高屈折率の熱可塑性樹脂を得る場合には、nが0である化合物を好適に使用してもよい。
【0037】
なお、nが1以上である化合物は、後述の方法の他、nが0である化合物に、オキシアルキレン基(OR)に対応する化合物[例えば、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)、アルキレンカーボネート(例えば、エチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート)など]を反応させて得ることもできる。
【0038】
代表的な前記式(1)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(アリルオキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アリルオキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アリルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アリルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリルオキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリルオキシ−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アリルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリルオキシ−C6−10アリールフェニル)フルオレンなど]などの前記式(1)において、nが0である化合物;9,9−ビス(アリルオキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−アリルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(アリルオキシC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンなど}、9,9−ビス(アリルオキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−アリルオキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−アリルオキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(アリルオキシC2−4アルコキシ)−C1−4アルキルフェニル]フルオレンなど}などの前記式(1)において、nが1以上(例えば、1〜4)である化合物などが含まれる。
【0039】
フルオレン化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。すなわち、2種以上組み合わせる場合には、複数のフルオレン化合物由来の骨格が導入された熱可塑性樹脂が得られる。
【0040】
なお、フルオレン化合物などの不飽和化合物は、市販品を利用してもよく、慣用の方法により合成することもできる。例えば、前記式(1)で表される化合物は、下記式(1A)で表される化合物をアリル化することにより得ることができる。代表的には、下記式(1A)で表される化合物と、アリルハライド(例えば、アリルブロマイドなど)とを反応させることにより得てもよい。
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、R、R、R、k、mおよびnは前記と同じ。)
なお、副生するハロゲン化水素をトラップ(捕捉)するため、アリルハライドを用いるアリル化反応は、塩基存在下で行ってもよい。
【0043】
また、前記式(1)において、nが1以上である化合物は、効率よく得るためには、上記方法により製造するのが好ましいが、前記式(1A)で表される化合物として、nが0である化合物を用いて、前記式(1)においてnが0である化合物を生成した後、生成した化合物(前記式(1)において、nが0である化合物)と、アルキレン基R(又はオキシアルキレン基OR)に対応する化合物とを反応させて製造することもできる。
【0044】
アルキレン基Rに対応する化合物としては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド、特にC2−3アルキレンオキシドなど)、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート、特にC2−3アルキレンカーボネートなど)、ハロアルカノール(例えば、3−クロロプロパノールなどのハロC2−6アルカノールなど)などが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、アルキレンオキシド又はアルキレンカーボネートを反応させると、前記式(1)で表される化合物(nが0である化合物)のヒドロキシル基を介して(ポリ)オキシアルキレン単位を導入できる。アルキレンカーボネートを使用する場合、アルキレンカーボネートが付加したのち、脱炭酸反応が生じることにより、オキシアルキレン単位(アルコキシ単位)が導入される。
【0045】
(ジチオール化合物)
ジチオール化合物としては、分子中に2つのチオール基(メルカプト基)を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、脂肪族ジチオール化合物、芳香族ジチオール化合物などが含まれる。なお、ジチオール化合物は、同一の炭素原子に2つのチオール基を有する化合物(ジェミナルジチオール化合物)であってもよく、異なる炭素原子に2つのチオール基を有する化合物であってもよい。
【0046】
ジチオール化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。すなわち、2種以上組み合わせる場合には、複数のジチオール化合物由来の骨格が導入された熱可塑性樹脂が得られる。
【0047】
脂肪族ジチオール化合物としては、例えば、アルカンジチオール(又はジメルカプトアルカン、例えば、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,1−ジルカプトエタン、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,1−ジルカプトプロパン、2,2−ジルカプトプロパン、1,4−ブタンジチオール、1,1−ジメルカプトブタン、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、1,1−ジメルカプト−2−メチルプロパン、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオールなどのC2−20アルカンジチオール、好ましくはC2−10アルカンジチオール、さらに好ましくはC2−6アルカンジチオール、特にC2−4アルカンジチオール)、ポリアルカンジチオール[又はポリチオキシアルキレンジチオール、例えば、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタンなどのポリC2−10アルカンジチオール、好ましくはポリC2−6アルカンジチオール、さらに好ましくはポリC2−4アルカンジチオール)]、ジメルカプト(ポリ)オキサアルカン[例えば、1,5−ジメルカプト−3−オキサペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオールなどのジメルカプトモノ乃至テトラオキサC2−20アルカン、好ましくはジメルカプトモノ乃至トリオキサC2−16アルカン、さらに好ましくはジメルカプトモノ又はジオキサC2−10アルカン]、シクロアルカンジチオール(例えば、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,2−ジメルカプトシクロヘキサンなどのC5−8シクロアルカンジチオール)、ジメルカプトアルキルチアン[例えば、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1−チアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1−チアンなどのジ(メルカプトC1−4アルキル)チアン]、脂肪族ポリオール[特に、(ポリ)アルカンジオール((ポリ)C2−10アルカンジオールなど)などの脂肪族ジオール]とメルカプト脂肪酸[例えば、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト酪酸、4−メルカプト酪酸などのメルカプトアルカン酸(例えば、メルカプトC2−10アルカン酸、好ましくはメルカプトC2−6アルカン酸、さらに好ましくはメルカプトC2−4アルカン酸)など]とのジエステル{例えば、アルカンジオールジ(メルカプトアルカノエート)[例えば、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,6−ヘキサンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンなどのC2−10アルカンジオールジ(メルカプトC2−10アルカノエート)、好ましくはC2−6アルカンジオールジ(メルカプトC2−6アルカノエート)、さらに好ましくはC2−4アルカンジオールジ(メルカプトC2−4アルカノエートなど]など}などが挙げられる。
【0048】
脂肪族ジチオール化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0049】
芳香族ジチオール化合物としては、ジメルカプトアレーン(例えば、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼンなどのジメルカプトC6−12アレーン、好ましくはジメルカプトC6−10アレーン、さらに好ましくはジメルカプトC6−8アレーンなど)、ジ(メルカプトアルキル)アレーン[例えば、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンなどのジ(メルカプトC1−4アルキル)アレーン、好ましくはジ(メルカプトC1−4アルキル)C6−10アレーン、さらに好ましくはジ(メルカプトC1−2アルキル)C6−8アレーン]、ジ(メルカプトアルキルアリール)アルカン[例えば、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパンなどのジ(メルカプトC1−4アルキルC6−10アリール)C1−10アルカン、好ましくはジ(メルカプトC1−2アルキルC6−10アリール)C1−6アルカン]、ジ(メルカプトアリール)スルフィド[例えば、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィドなどのジ(メルカプトC6−10アリール)スルフィド]、ジ(メルカプトアルキルアリール)スルフィド[例えば、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィドなどのジ(メルカプトC1−4アルキルC6−10アリール)スルフィド]、ジ(メルカプトアリール)エーテル[例えば、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテルなどのジ(メルカプトC6−10アリール)エーテル]、ジ(メルカプトアルキルアリール)エーテル[例えば、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテルなどのジ(メルカプトC1−4アルキルC6−10アリール)エーテル]、ジ(メルカプトアリール)アルカン[例えば、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパンなどのジ(メルカプトC6−10アリール)C1−10アルカン、好ましくはジ(メルカプトC6−10アリール)C1−6アルカン]、ジ(メルカプトアリール)アルカン[例えば、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパンなどのジ(メルカプトC6−10アリール)C1−10アルカン、好ましくはジ(メルカプトC6−10アリール)C1−6アルカン]、ヘテロ環式芳香族ジチオール化合物[例えば、チオフェンジチオール(3,4−チオフェンジチオールなど)など]、フルオレン骨格を有するジチオール化合物などが挙げられる。
【0050】
フルオレン骨格を有するジチオール化合物としては、例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジチオール化合物が挙げられる。このようなジチオール化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物、前記式(1A)で表される化合物とメルカプトカルボン酸{例えば、メルカプト脂肪酸[例えば、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト酪酸、4−メルカプト酪酸などのメルカプトアルカン酸(例えば、メルカプトC2−10アルカン酸、好ましくはメルカプトC2−6アルカン酸、さらに好ましくはメルカプトC2−4アルカン酸)など]など}とのジエステルなどが挙げられる。
【0051】
【化4】

【0052】
(式中、R、R、R、k、mおよびnは前記と同じ。)
代表的なフルオレン骨格を有するジチオール化合物としては、9,9−ビス(メルカプトフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(メルカプト−アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−メルカプト−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−メルカプト−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプト−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(メルカプト−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−メルカプト−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプト−C6−10アリールフェニル)フルオレンなど]などの前記式(2)において、nが0である化合物;9,9−ビス(メルカプトアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−メルカプトエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(メルカプトC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンなど}、9,9−ビス(メルカプトアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−メルカプトエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−メルカプトエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(メルカプトC2−4アルコキシ)−C1−4アルキルフェニル]フルオレンなど}などの前記式(2)において、nが1以上(例えば、1〜4)である化合物などが挙げられる。
【0053】
なお、前記式(2)で表される化合物は、市販品を利用してもよく、慣用の方法(例えば、特開2002−338540号公報に記載の方法など)により合成したものを使用してもよい。
【0054】
また、代表的な前記式(1A)で表される化合物とメルカプトカルボン酸とのジエステルとしては、例えば、9,9−ビス(メルカプトアシルオキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−メルカプトエチルカルボニルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(メルカプトアシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−メルカプトエチルカルボニルオキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(メルカプトアシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシ−C6−10アリールフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシ−C6−8アリールフェニル)フルオレン}などの前記式(1A)において、nが0である化合物とメルカプトカルボン酸とのジエステル;9,9−ビス(メルカプトアシルオキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)エトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシアルコキシフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(メルカプトアシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)エトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)エトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシC2−4アルコキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシC2−4アルコキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(メルカプトアシルオキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−(3−メルカプトプロピルカルボニルオキシ)エトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトC2−10アシルオキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン、好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−6アルカノイルオキシC2−4アルコキシ−C6−10アリールフェニル)フルオレン、さらに好ましくは9,9−ビス(メルカプトC2−4アルカノイルオキシC2−4アルコキシ−C6−8アリールフェニル)フルオレン}などの前記式(1A)において、nが1以上(例えば、1〜4)である化合物とメルカプトカルボン酸とのジエステルなどが含まれる。
【0055】
なお、前記式(1A)で表される化合物とメルカプトカルボン酸とのジエステルとで表される化合物は、市販品を利用してもよく、慣用の方法(例えば、前記式(1A)で表される化合物とメルカプトカルボン酸又はその誘導体(酸ハライド、低級アルキルエステルなど)とのチオエステル形成反応、例えば、特開平8−59775号公報に記載の方法など)により合成したものを使用してもよい。
【0056】
芳香族ジチオール化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
好ましいジチオール化合物は、エンチオール反応性などの観点から、脂肪族ジチオール化合物が含まれる。そのため、ジチオール化合物は、脂肪族ジチオール化合物を少なくとも含んでいてもよい。特に、アルカンジチオール(例えば、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオールなどのC2−10アルカンジチオール、好ましくはC2−6アルカンジチオール、特にC2−4アルカンジチオールなど)、ポリアルカンジチオール(例えば、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタンなどのポリC2−4アルカンジチオール)などの脂肪族ジチオール化合物は、分子に占める硫黄原子の含量が多く、高屈折率化という点でも有利である。また、脂肪族ジチオール化合物を使用すると、脂肪族骨格の導入により、成形性(フィルム成形性など)に優れ、また、脆さが改善された高強度の熱可塑性樹脂を効率よく得ることができる。
【0058】
また、高屈折率化という観点からは、芳香族ジチオール化合物(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジチオール化合物など)を好適に使用してもよい。そのため、ジチオール化合物は、芳香族ジチオール化合物を含んでいてもよい。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂は、後述するように、前記不飽和化合物(前記フルオレン化合物など)と前記ジチオール化合物とのエンチオール反応により得られる熱可塑性樹脂である。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂は、2つのエチレン性不飽和結合(特にアリル基)を有する化合物(フルオレン化合物など)を用いているにもかかわらず、三次元網目状に架橋した樹脂ではなく、熱可塑性を有するポリマーである。例えば、不飽和化合物として、前記式(1)で表されるジアリルエーテル化合物を用いた場合、前記式(1)で表されるジアリルエーテル化合物と前記ジチオール化合物[すなわち、HS−X−SH(式中、Xはジチオール化合物の残基を示す)]とのエンチオール反応により得られる本発明の熱可塑性樹脂は、下記式(a)で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂である。
【0060】
【化5】

【0061】
(式中、Xはジチオール化合物の残基を示し、R、R、R、k、m、およびnは前記と同じ。)
なお、上記式(a)において、Xは前記ジチオール化合物の残基、すなわち、前記チオール化合物から2つのメルカプト基を除いた基を示す。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量で、3000〜500000、好ましくは3500〜200000、さらに好ましくは4000〜100000(例えば、4000〜50000)程度であってもよい。
【0063】
また、本発明の熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、例えば、40〜250℃、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは60〜170℃(例えば、70〜150℃)程度であってもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂は、比較的高い屈折率を有しており、例えば、前記熱可塑性樹脂の波長589nmにおける屈折率は、1.6以上(例えば、1.61〜1.8)、好ましくは1.62〜1.75、さらに好ましくは1.63〜1.72(例えば、1.635〜1.7)程度であってもよく、1.63以上(例えば、1.635〜1.75、好ましくは1.64〜1.70、さらに好ましくは1.645〜1.68程度)とすることもできる。
【0065】
なお、本発明の熱可塑性樹脂は、常温(例えば、15〜25℃程度)で、液状(粘性液体)、固体のいずれであってもよく、特に固体であってもよい。
【0066】
本発明の熱可塑性樹脂は、エンチオール反応(すなわち、付加反応)により得られる樹脂であるため、上記のように、光学的特性のみならず、種々の優れた特性を有している。例えば、本発明の熱可塑性樹脂は、ラジカル重合で得られる樹脂などに比べて、収縮率が低い。また、ラジカル重合開始剤などを使用することなく製造できるため、低黄変性の熱可塑性樹脂である。
【0067】
なお、本発明の熱可塑性樹脂は、選択的にエンチオール反応を効率よく進行させることができるためか、残存したジチオール化合物由来のチオール臭が少なく、実用的な熱可塑性樹脂である。
【0068】
(製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂は、不飽和化合物(フルオレン化合物など)と、ジチオール化合物とを反応(エンチオール反応)させることにより製造できる。
【0069】
エンチオール反応において、不飽和化合物(フルオレン化合物など)とジチオール化合物との割合(使用割合)は、前者/後者(モル比)=1/0.7〜0.7/1、好ましくは1/0.8〜0.8/1、さらに好ましくは1/0.9〜0.9/1、特に1/0.95〜0.95/1程度であってもよく、等モル(又はほぼ等モル)で使用してもよい。本発明では、不飽和化合物(フルオレン化合物など)とジチオール化合物との定量的なエンチオール反応を確実に進行させることができるためか、不飽和化合物とジチオール化合物とのモル比を調整(例えば、等モル又はほぼ等モルで反応させる)することにより、残存ジチオール化合物由来のチオール臭が少ない熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0070】
不飽和化合物と前記式(3)で表される化合物との反応(エンチオール反応)は、重合開始剤の存在下で行ってもよい。重合開始剤としては、不飽和化合物(フルオレン化合物など)におけるエチレン性不飽和結合の種類(ラジカル重合反応性の高さなど)に応じて選択でき、例えば、熱重合開始剤{又は熱ラジカル発生剤、例えば、過酸化物[ジアルキルパーオキサイド類(ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド類(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなど)など]、過酸エステル、ケトンパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、パーオキシケタール類などの有機過酸化物]、アゾ化合物[例えば、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などのアゾニトリル化合物]など}、光重合開始剤(光ラジカル発生剤)などが挙げられる。特に、本発明では、効率よく選択的にエンチオール反応を生じさせて熱可塑性樹脂を得るため、重合開始剤として熱重合開始剤又は光重合開始剤(特に、光重合開始剤)を好適に用いてもよい。重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0071】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類(ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など);アセトフェノン類(アセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−フェニル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなど);プロピオフェノン類(p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなど);ブチリルフェノン類[1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンなど];アミノアセトフェノン類[2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)−ブタン−1−オンなど];ベンゾフェノン類(ベンゾフェノン、ベンジル、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのN,N’−ジアルキルアミノベンゾフェノンなど);ケタール類(アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなど);チオキサンテン類(チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテンなど);アントラキノン類(2−エチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノンなど);(チオ)キサントン類(チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなど);アクリジン類(1,3−ビス−(9−アクリジニル)プロパン、1,7−ビス−(9−アクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス−(9−アクリジニル)ペンタンなど);トリアジン類(2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジンなど);スルフィド類(ベンジルジフェニルサルファイドなど);アシルフォスフィンオキサイド類(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなど);チタノセン系光重合開始剤;オキシムエステル類などが例示できる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0072】
なお、光重合開始剤は、市販品、例えば、商品名「イルガキュア」「ダロキュア」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、商品名「サイラキュア」(ユニオンカーバイド社製)などとして入手できる。
【0073】
重合開始剤(光重合開始剤など)の割合(又はフルオレン化合物などの不飽和化合物、ジチオール化合物および重合開始剤を含む組成物における重合開始剤の割合)は、不飽和化合物及びジチオール化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部(例えば、0.2〜10重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、0.3〜10重量部(例えば、0.5〜7重量部)、好ましくは0.7〜5重量部程度であってもよい。
【0074】
なお、光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよい。光増感剤としては、慣用の成分、例えば、第3級アミン類[例えば、トリアルキルアミン、トリアルカノールアミン(トリエタノールアミンなど)、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸アミルなどのジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノンなどのビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンなど]、トリフェニルホスフィンなどのフォスフィン類、N,N−ジメチルトルイジンなどのトルイジン類、9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセンなどのアントラセン類などが挙げられる。光増感剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0075】
光増感剤の使用量は、前記光重合開始剤100重量部に対して、例えば、0.1〜150重量部(例えば、1〜100重量部)、好ましくは5〜75重量部(例えば、10〜50重量部)程度であってもよい。
【0076】
なお、反応(エンチオール反応)は、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルキルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類など)、炭化水素類(ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルムなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチルなど)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類(メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールなど)、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテルなど)、グリコールエーテルエステル類(エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒が挙げられる。溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0077】
溶媒中の不飽和化合物(フルオレン化合物など)およびジチオール化合物の総量の割合(溶媒を含む組成物中におけるフルオレン化合物およびジチオール化合物の総量の割合)は、例えば、1〜90重量%、好ましくは3〜80重量%、さらに好ましくは5〜50重量%程度であってもよい。
【0078】
エンチオール反応は、不飽和化合物(フルオレン化合物など)とジチオール化合物とを接触させることにより進行するが、通常、フルオレン化合物およびジチオール化合物を含む反応系に、活性エネルギー(又は活性エネルギー線)を付与することにより反応(エンチオール反応)させてもよい。活性エネルギーの付与により、容易にエンチオール反応を進行させることができる。
【0079】
活性エネルギーとしては、重合開始剤の種類などに応じて、熱エネルギー及び/又は光エネルギー(特に、少なくとも光エネルギー)を利用できる。
【0080】
熱エネルギーを付与(又は加熱)する場合、加熱温度としては、例えば、50〜250℃、好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは80〜180℃程度であってもよい。なお、熱エネルギーの付与(加熱)は、開始剤として熱重合開始剤を用いた場合だけでなく、光重合開始剤を使用した場合にも行ってもよい。
【0081】
また、光エネルギーを付与(又は照射)する場合(例えば、光重合開始剤を使用する場合など)、光としては、放射線(ガンマー線、X線など)、紫外線、可視光線などが利用できるが、通常、紫外線である場合が多い。なお、開始剤として熱重合開始剤を使用する場合には、光エネルギーの照射は必ずしも必要ではない。
【0082】
光源としては、例えば、紫外線の場合は、ディープ(Deep)UVランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源(ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザーなどの光源)などを用いることができる。光の波長は、例えば、150〜800nm、好ましくは150〜600nm、さらに好ましくは200〜400nm(特に300〜400nm)程度であってもよい。照射光量(照射エネルギー)は、特に限定されず、1mW〜10000W(例えば、0.05〜7000W)程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜5000W、好ましくは1〜3000W、さらに好ましくは10〜2000W(例えば、30〜1000W)程度であってもよい。また、照射時間は、特に限定されず、例えば、5秒〜5時間、好ましくは10秒〜2時間、さらに好ましくは30秒〜1時間程度であってもよく、通常1〜30分程度であってもよい。
【0083】
なお、熱エネルギー(加熱)と光エネルギー(光照射)とを組み合わせてもよい。
【0084】
上記のようにして、本発明の熱可塑性樹脂が得られる。反応混合物からの前記熱可塑性樹脂の分離精製は、慣用の方法を用いて行うことができる。
【0085】
なお、本発明の熱可塑性樹脂は、前記のように、不飽和化合物(フルオレン化合物など)とジチオール化合物との反応(エンチオール反応)により得られる。そのため、本発明には、不飽和化合物(フルオレン化合物など)およびジチオール化合物を少なくとも含む組成物(エンチオール反応用組成物)も含まれる。すなわち、このような組成物は、前記熱可塑性樹脂を得るための組成物として有用である。なお、前記組成物は、重合開始剤や溶媒を含んでいてもよく、各成分の割合は前記割合(使用割合)と同様である。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0087】
なお、実施例において、各種測定は以下のようにして行った。
【0088】
(1)屈折率
合成例1および2で得られた化合物の屈折率は、多波長アッベ屈折計[アタゴ製、DR−M2(循環式恒温水槽 60−C3使用)]を用い、温度25℃を保持し、589nmでの屈折率を外挿法により測定した。
【0089】
また、実施例で得られた熱可塑性樹脂の屈折率は、次のようにして測定した。サンプル0.3重量部を、シクロヘキサノン10重量部を入れたビーカーに添加し、室温にて攪拌溶解させた。得られた溶液をガラス基板上又はシリコン基板上に1ml滴下し、スピンコーター(ミカサ社製 1H−DX)にてスピンコートし、ホットプレートにて80℃で3分間乾燥させ、透明な膜を得た。得られた硬化膜の屈折率を、光干渉式膜厚計(大塚電子社製 反射分光膜厚計FE−3000)を用いて波長589nmにて測定した。
【0090】
(2)重量平均分子量Mw
GPC装置(昭和電工社製Shodex GPC−101)を用い、カラムにShodex社製LF−804を3本用い、40℃にて、溶媒をTHFにて、スチレン換算の分子量を測定した。
【0091】
(3)H−NMRスペクトル
日本電子社製 AL−300を用い、サンプル0.02gを0.4mlの重クロロホルムに溶解し、サンプルのH−NMRスペクトルを測定した。
【0092】
(4)IRスペクトル
サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 NICOLET 4700を用い、サンプルのIRスペクトルを測定した。
【0093】
(5)融点(ガラス転移温度)
エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 示差走査熱量計(DSC) EXSTAR DSC6000を用い、窒素雰囲気下、ガラス転移温度を測定した。
【0094】
(6)熱分解温度
エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA) EXSTAR TG/DTA6000を用い、窒素雰囲気下、熱分解温度を測定した。
【0095】
(7)LC/MS
島津製作所製 高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS) LCMS−2010Aを用いて、マススペクトルを測定した。
【0096】
(8)HPLC
日立ハイテクノロジーズ製 高速液体クロマトグラフLaChrom Eliteを用いて、LC純度を測定した。
【0097】
(合成例1)
攪拌機を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコに、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF、大阪ガスケミカル(株)製)17.5重量部(0.05mol)、アリルブロマイド(関東化学(株)製)20.1重量部(0.17mol)、炭酸カリウム(関東化学(株)製)30.4重量部(0.22mol)をアセトン100mlで58℃にて7時間還流攪拌して反応させた。HPLCにて原料BPFが消失したことを確認した後に、生成した塩をろ過し、50℃、10torrにて減圧濃縮後、エタノール100重量部を添加し、50℃に昇温して溶解させた後に、10℃以下まで冷却したところ、白色の結晶物が生成した。得られた結晶をろ過し、85℃で24時間乾燥したところ、18.5重量部(収率86%)で得られた。得られた結晶をHPLCにて分析したところ、純度が99.8%であった。また、得られた結晶のNMR、IRおよびMASSを測定し、下記式で表される目的物[9,9−ビス(4−アリルオキシフェニル)フルオレン、分子量430]であることを確認した。
【0098】
【化6】

【0099】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.74(d,2H,J=7.2Hz)、7.22−7.38(m,6H)、7.10(d,4H,J=8.7Hz)、6.75(d,4H,J=8.7Hz)、5.95−6.07(m,2H)、5.22−5.40(m,4H)、4.46(d,4H,J=5.1Hz)
融点79.3℃、屈折率1.646。
【0100】
(合成例2)
攪拌機を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコに、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF、大阪ガスケミカル(株)製)30.4重量部(0.09mol)、アリルブロマイド(関東化学(株)製)35.9重量部(0.30mol)、炭酸カリウム(関東化学(株)製)54.8重量部(0.40mol)をアセトン200mlで58℃にて7時間還流攪拌して反応させた。HPLCにて原料BCFが消失したことを確認した後に、生成した塩をろ過し、50℃、10torrにて減圧濃縮後、エタノール300重量部を添加し、50℃に昇温して溶解させた後に、10℃以下まで冷却したところ、白色の方状結晶が生成した。得られた結晶をろ過し、85℃で24時間乾燥したところ、37.4重量部(収率91%)で得られた。得られた結晶をHPLCにて分析したところ、純度が99.4%であった。また、得られた結晶のNMR、FT−IRおよびMASSを測定し、下記式で表される目的物[9,9−ビス(4−アリルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、分子量458]であることを確認した。
【0101】
【化7】

【0102】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.73(d,2H,J=7.5Hz)、7.21−7.40(m,6H)、6.937(t,4H,J=9.0Hz)、6.62(d,2H,J=8.4Hz)、5.96−6.09(m,2H)、5.20−5.41(m,4H)、4.45−4.48(m,2H)、2.13(s,6H)
融点105.8℃、屈折率1.636。
【0103】
(実施例1)
20mlのサンプル容器に、合成例1で合成した化合物0.86重量部(2mmol)、1,2−エタンジチオール(関東化学(株)製)0.19重量部(2mmol)、光重合開始剤(IRGACURE 184、チバジャパン社製)0.02重量部、テトラヒドロフラン(THF)10重量部を撹拌して溶解させた後、撹拌しながら、紫外線照射装置(ウシオ電機社製 SP−9)を用いて、250Wで600秒間の紫外線照射を行った。得られた反応液を150重量部のヘキサンを入れた300mlのビーカーに滴下したところ、白色の結晶が生成した。得られたスラリーをろ過し、40℃で1時間減圧乾燥したところ、0.95重量部(収率90%)の白色結晶が得られた。得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式(a)で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0104】
【化8】

【0105】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.71(d,2H,J=6.9Hz)、7.22−7.36(m,6H)、7.08(d,4H,J=8.4Hz)、6.70(d,4H,J=8.7Hz)、3.93(s,4H)、2.63−2.71(m,8H)、1.96(t,4H,6.0Hz)
また、得られた結晶の分子量Mwは12000、融点は97.2℃、5%熱重量減少温度は247℃、屈折率は1.668であった。
【0106】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例1で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0107】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0108】
(実施例2)
20mlのサンプル容器に、合成例1で合成した化合物0.86重量部(2mmol)、1,3−プロパンジチオール(関東化学(株)製)0.22重量部(2mmol)、光重合開始剤(IRGACURE 184、チバジャパン社製)0.02重量部、THF10重量部を撹拌して溶解させた後、撹拌しながら、紫外線照射装置(ウシオ電機社製 SP−9)を用いて、250Wで600秒間の紫外線照射を行った。得られた反応液を150重量部のヘキサンを入れた300mlのビーカーに滴下したところ、白色の結晶が生成した。得られたスラリーをろ過し、40℃で1時間減圧乾燥したところ、1.00重量部(収率93%)の白色結晶物が得られた。得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0109】
【化9】

【0110】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.72(d,2H,J=7.5Hz)、7.20−7.36(m,6H)、7.06−7.10(m,4H)、6.69−6.76(m,4H)、3.93−4.00(m,4H)、2.54−2.64(m,8H)、1.95−2.01(m,2H)、1.77−1.87(m,4H)
また、得られた結晶の分子量Mwは11000、融点は79.6℃、5%熱重量減少温度は284℃、屈折率は1.658であった。
【0111】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例2で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0112】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0113】
(実施例3)
20mlサンプル容器に、合成例2で合成した化合物0.92重量部(2mmol)、1,2−エタンジチオール(関東化学(株)製)0.19重量部(2mmol)、光重合開始剤(IRGACURE 184 チバジャパン社製)0.02重量部、THF10重量部を撹拌して溶解させた後、撹拌しながら、紫外線照射装置(ウシオ電機社製 SP−9)を用いて、250Wで600秒間の紫外線照射を行った。得られた反応液を150重量部のヘキサンを入れた300mlのビーカーに滴下したところ、白色の結晶が生成した。得られたスラリーをろ過し、40℃で1時間減圧乾燥したところ、1.00重量部(収率90%)の白色結晶物が得られた。得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式(b)で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0114】
【化10】

【0115】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.71(d,2H,J=7.2Hz)、7.19−7.37(m,6H)、6.92(d,4H,J=9.0Hz)、6.59(d,2H,J=8.1Hz)、3.94(d,4H J=5.1Hz)、2.66−270(m,8H)、2.14(s,6H)、1.95−2.09(m,4H)
また、得られた結晶の分子量Mwは23000、融点は96.1℃、5%熱重量減少温度は199℃、屈折率は1.651であった。
【0116】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例1で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0117】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0118】
(実施例4)
20mlサンプル容器に、合成例2で合成した化合物0.92重量部(2mmol)、1,3−プロパンジチオール(関東化学(株)製)0.22重量部(2mmol)、光重合開始剤(IRGACURE 184 チバジャパン社製)0.02重量部、THF10重量部を撹拌して溶解させた後、撹拌しながら、紫外線照射装置(ウシオ電機社製 SP−9)を用いて、250Wで600秒間の紫外線照射を行った。得られた反応液を150重量部のヘキサンを入れた300mlのビーカーに滴下したところ、白色の結晶が生成した。得られたスラリーをろ過し、40℃で1時間減圧乾燥したところ、1.05重量部(収率92%)の白色結晶物が得られた。得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0119】
【化11】

【0120】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.71(d,2H,J=7.2Hz)、7.20−7.37(m,6H)、 6.92(d,4H,J=9.6Hz)、6.59−6.63(m,2H)、3.93−3.96(m,4H)、2.56−2.70(m,8H)、2.07−2.12(m,6H)、1.97−2.04(m,2H)、1.81−1.88(m,4H)
また、得られた結晶の分子量Mwは9000、融点は86.8℃、5%熱重量減少温度は325℃、屈折率は1.648であった。
【0121】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例2で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0122】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0123】
(合成例3)
攪拌機を備えた2000mlの四つ口セパラブルフラスコに、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪ガスケミカル(株)製)307.0重量部(0.7mol)、3−メルカプトプロピオン酸371.5重量部(2.1mol)および溶媒としてのトルエン1400gを投入した後に、95℃まで加温して完全に溶解させた。その後、触媒としてのパラトルエン酸スルホン15.4重量部を1時間かけて滴下した後、95℃で維持して6時間攪拌下で反応させた。得られた反応液からHPLCにて分取した成分をFD−MSおよびNMRにて分析し、下記式で表される化合物9,9−ビス{4−[2−(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンであることを確認した。
【0124】
【化12】

【0125】
(実施例5)
実施例1において、エタンジチオールに代えて、合成例3で得られた9,9−ビス{4−[2−(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレン1.29重量部(2mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして2.0重量部(収率93%)の白色結晶物を得た。得られた結晶のNMRを測定したところ、前記式(a)において、エタンジチオール由来の骨格(−SCHCHS−(エチレンジチオ基))が下記式で表される骨格に置換した繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0126】
【化13】

【0127】
また、得られた結晶の分子量Mwは5000、融点は79.2℃、5%熱重量減少温度は328℃、屈折率は1.645であった。
【0128】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例1で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0129】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0130】
(実施例6)
実施例3において、エタンジチオールに代えて、合成例3で得られた9,9−ビス[4−(2−(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エトキシ)フェニル]フルオレン1.29重量部(2mmol)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして2.0重量部(収率90%)の白色結晶物を得た。得られた結晶のNMRを測定したところ、前記式(b)において、エタンジチオール由来の骨格(−SCHCHS−(エチレンジチオ基))が下記式で表される骨格に置換した繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0131】
【化14】

【0132】
また、得られた結晶の分子量Mwは5952、融点は84.5℃、5%熱重量減少温度は346℃、屈折率は1.638であった。
【0133】
なお、得られた結晶のIRスペクトルを測定することにより、合成例2で合成した化合物由来のアリル基のピーク(940cm−1付近)が消失していることを確認した。
【0134】
また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0135】
(実施例7)
300mlのセパラブルフラスコに、合成例2で合成した化合物22.9重量部(50mmol)、1,2−エタンジチオール(関東化学(株)製)4.7重量部(50mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(関東化学(株)製)0.5重量部、トルエン70重量部を撹拌して溶解させた後、撹拌しながら、80℃で10時間反応させた。得られた反応液を100重量部のヘキサンおよび200重量部のアセトンを入れた500mlのビーカーに滴下したところ、白色の結晶が生成した。得られたスラリーをろ過し、40℃で1時間減圧乾燥したところ、24.5重量部(収率89%)の白色結晶物が得られた。
【0136】
得られた結晶のNMRを測定したところ、実施例3と同じ繰り返し単位(b)を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0137】
また、得られた結晶の分子量Mwは15500、5%熱重量減少温度は310℃、屈折率は1.645であった。
【0138】
なお、得られた結晶において、合成例2で合成した化合物由来のピークが消失していることをGPCにより確認した。また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0139】
(実施例8)
実施例7において、1,2−エタンジチオールに代えて、1,3−プロパンジチオール(関東化学(株)製)5.4重量部(50mmol)を使用したこと以外は、実施例7と同様にして24.5重量部(収率87%)の白色結晶物を得た。
【0140】
得られた結晶のNMRを測定したところ、実施例4と同じ繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0141】
また、得られた結晶の分子量Mwは16500、5%熱重量減少温度は332℃、屈折率は1.641であった。
【0142】
なお、得られた結晶において、合成例2で合成した化合物由来のピークが消失していることをGPCにより確認した。また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0143】
(実施例9)
実施例7において、1,2−エタンジチオールに代えて、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル(東京化成工業(株)製)6.6重量部(50mmol)を使用したこと以外は、実施例7と同様にして20.5重量部(収率69%)の白色結晶物を得た。
【0144】
得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0145】
【化15】

【0146】
また、得られた結晶の分子量Mwは10400、5%熱重量減少温度は342℃、屈折率は1.634であった。
【0147】
なお、得られた結晶において、合成例2で合成した化合物由来のピークが消失していることをGPCにより確認した。また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0148】
(実施例10)
実施例7において、1,2−エタンジチオールに代えて、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(東京化成工業(株)製)7.7重量部(50mmol)を使用したこと以外は、実施例7と同様にして24.0重量部(収率78%)の白色結晶物を得た。
【0149】
得られた結晶のNMRを測定したところ、下記式で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0150】
【化16】

【0151】
また、得られた結晶の分子量Mwは11200、5%熱重量減少温度は315℃、屈折率は1.648であった。
【0152】
なお、得られた結晶において、合成例2で合成した化合物由来のピークが消失していることをGPCにより確認した。また、得られた結晶の臭気(チオール臭)を確認したところ、チオール臭はほとんどなかった。
【0153】
(合成例4)
攪拌機を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコに、ビスフェノールA(キシダ化学(株)製)57.0重量部(0.25mol)、アリルブロマイド(関東化学(株)製)90.7重量部(0.75mol)、炭酸カリウム(関東化学(株)製)152.0重量部(1.10mol)をメチルエチルケトン200mlで65℃にて8時間還流攪拌して反応させた。HPLCにて原料ビスフェノールAが消失したことを確認した後に、生成した塩をろ過し、50℃、10torrにて減圧濃縮し、72.8重量部(収率94%)の粘性液体を得た。得られた粘性液体をHPLCにて、分析したところ純度が95.0%であった。また、得られた粘性液体が、下記式で表される化合物[ビスフェノールAのジアリルエーテル、2,2−ジ(4−アリルオキシフェニル)プロパン]であることを確認した。
【0154】
【化17】

【0155】
(実施例11)
実施例7において、合成例2で合成した化合物に代えて、合成例4で得られた化合物(ビスフェノールAのジアリルエーテル)11.7重量部(50mmol)、1,2−エタンジチオールに代えて、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(東京化成工業(株)製)7.7重量部(50mmol)を使用したこと以外は、実施例7と同様にして23.0重量部(収率93%)の目的化合物を得た。
【0156】
得られた化合物のNMRを測定したところ、下記式で表される繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0157】
【化18】

【0158】
また、得られた化合物の分子量Mwは6100、5%熱重量減少温度は222℃、屈折率は1.610であった。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の熱可塑性樹脂は、樹脂骨格に導入された硫黄原子および9,9−ビスフェニルフルオレン骨格に由来して、高耐熱性、高屈折率などの優れた特性(特に、光学的特性)を有している。また、熱可塑性樹脂であるため、押出成形、射出成形などの各種成形法を適用でき、実用性が高く、種々の形態の成形品を効率よく得ることができる。そのため、本発明の熱可塑性樹脂は、そのため、本発明の熱可塑性樹脂は、光学レンズ、光学フィルム又は光学シート、ピックアップレンズ、ホログラム、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどに好適に利用できる。また、本発明の熱可塑性樹脂は、塗料、帯電防止剤、インキ、接着剤、粘着剤、樹脂充填材、帯電トレイ、導電シート、保護膜(電子機器、液晶部材などの保護膜など)、電気・電子材料(キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、ホログラム記録材料)、電気・電子部品又は機器(光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、EMIシールドフィルム、フォトクロミック材料、有機EL素子、カラーフィルタなど)用樹脂、機械部品又は機器(自動車、航空・宇宙材料、センサ、摺動部材など)用の樹脂などに好適に利用できる。特に、本発明の熱可塑性樹脂は、光学的特性に優れているため、光学フィルムなどの光学用途の成形体(光学用成形体)を構成(又は形成)するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物と、ジチオール化合物とのエンチオール反応により得られる熱可塑性樹脂。
【請求項2】
不飽和化合物がジアリル化合物である請求項1記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
不飽和化合物が9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリル化合物である請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
不飽和化合物が、下記式(1)で表されるジアリルエーテル化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRは同一の又は異なる置換基であって、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基から選択された置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜4の整数、Rはアルキレン基、nは0以上の整数を示す。)
【請求項5】
式(1)において、Rがアルキル基又はアリール基であり、mが0〜2である請求項4記載の熱可塑性樹脂。
【請求項6】
式(1)において、nが0である請求項4又は5記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
ジチオール化合物が、脂肪族ジチオール化合物を含む請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
ジチオール化合物が、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジチオール化合物を含む請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
芳香族骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物と、ジチオール化合物とをエンチオール反応させ、請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂を製造する方法。
【請求項10】
不飽和化合物、ジチオール化合物および重合開始剤を含む組成物に活性エネルギー線を付与しエンチオール反応させる請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
不飽和化合物、ジチオール化合物および光重合開始剤を含む組成物に光照射してエンチオール反応させる請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
芳香族骨格および2つのエチレン性不飽和結合を有する不飽和化合物と、ジチオール化合物とを含む組成物。
【請求項13】
不飽和化合物が9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジアリル化合物である請求項12記載の組成物。
【請求項14】
さらに、重合開始剤を含む請求項12又は13記載の組成物。

【公開番号】特開2011−236415(P2011−236415A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89616(P2011−89616)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:第19回 ポリマー材料フォーラム 講演予稿集、発行所:社団法人 高分子学会、発行日:平成22年(2010年)11月17日
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】