説明

熱可塑性樹脂の多層成形方法

【課題】複雑な構造を採用することなく、また、発泡層を含む多層成形品の成形が可能な熱可塑性樹脂の多層成形方法の提供。
【解決手段】本発明の多層成形方法は、金型に設けられた各ランナ・ゲート部を介して順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置を用いて、第1の金型キャビティ容積となる位置に金型を閉じる型締工程、第1層目樹脂を金型キャビティ内に射出する第1射出工程、第1層目樹脂の射出が完了した時点で所定の時間保持する第1冷却保持工程、第2の金型キャビティ容積となる位置に金型を開く第1型開工程、第2層目樹脂を第1層目樹脂と金型キャビティとの隙間に射出する第2射出工程、第2層目樹脂の射出が完了した時点で所定の時間保持する第2冷却保持工程、及び型開し成形品を取出す工程を含む成形方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望により少なくとも1層の発泡層を含んでいてもよい熱可塑性樹脂の多層成形品の多層成形が可能な多層成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1と2には、熱可塑性樹脂の多層成形用金型として、可動金型コアとキャビティが形成された固定金型からなる金型で、複数のゲートが固定金型に設けられたものが知られている。しかしこの金型では、成形品の意匠面に複数のゲートが設けられた構成となっていることから、意匠性が低下したり、又、意匠性を保持しようとすると、ゲートを意匠面とならない位置、例えば、抜き部に設けるなど、その配設位置に制約を受けたりすることとなり、場合によっては、多層成形品のデザインに応じた自由な成形ができないという問題がある。また、ゲート位置が、意匠面の反対側に位置するときには、先ず、意匠面側の樹脂を射出しなければならならないと言う制約を受けると共に、意匠面側の樹脂を発泡させることが難しいという問題がある。更に、使用する樹脂が比較的軟質のオレフィン系熱可塑性エラストマー等の場合には、発泡層が、2層目の樹脂圧で潰れてしまうことが少なくないという問題もある。
【0003】
さらに、特許文献2に開示の装置の場合には、上述のように、意匠面を有する多層成形品の成形には不向きな上、発泡層を有する多層成形品の成形を予定して居らず、発泡層を含む発泡多層成形品の成形用金型としては使用できないという問題がある。また、特許文献3にも、複数の射出ユニットが設けられた多層品の成形装置が開示されているが、そのものは、複数の射出ユニットの内、1個は固定金型に、残りは、可動金型か金型のパーティションライン面に設けられている。後者の射出ユニットの制御には、型開閉動作に連動した形での機構を配置する必要があると共に、その機構を含めた複雑な動作の制御を要することで、制御に問題がある。
【0004】
また、特許文献4にも、異なる樹脂をキャビティ内に射出する装置として第1と第2のスプルーブッシュが固定金型に設けられた金型が開示されているが、第2のスプルーブッシュは、同部材に相対して設けられるスライドブロックの後退により開口するように構成されており、そのため、第2のスプルーブッシュから射出される樹脂は、キャビティ全面には、射出されず、部分的に射出されるため、全面に複数の樹脂層が積層された積層品の成形は実質的にできないという問題を有している。また、特許文献5には、金型キャビティを2面有するものや、金型キャビティをスライドさせることにより積層する金型が開示されているが、複数のキャビティを設けることを要することから、装置の設置面での制約があり、また、金型キャビティをスライドさせる構造のものは、スライドさせながら駆動させる機構が必要であり、装置が複雑となりがちであり、装置の製造面での制約がある。また、2面の金型キャビティを有するものを使用して、多層成形しようとすると、先ず1層目を成形後、金型を回転又はスライドさせて移動させ、2層目用のキャビティを形成させ、このキャビティに2層目用の樹脂を射出させ成形するという工程を採用せざるを得ず、金型の駆動装置が必要となるなどの不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66500号公報
【特許文献2】特開2005−111820号公報
【特許文献3】特開平9−1582号公報
【特許文献4】特開2005−88527号公報
【特許文献5】特開平6−126769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、多層成形において、意匠面での制約を受けることなく、また、一つの成形装置を使用して、所望により発泡層を含んでいてもよい多層成形品の多層成形が可能な多層成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明者等は、上述の目的を達成するために、種々検討の結果、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる複数の射出装置をそれぞれ独立して配設させることが可能なように、金型キャビティの外側に同キャビティに連通し、外周部が喰切りを有する構造であるランナ・ゲート部を成形する多層成形品の層数に応じて設けること、及び、金型キャビティのパーティションライン面は全周喰切りを有する構造とした多層成形用装置を用いることにより、多層成形品が製造できることを見出し、本発明を完成させたものである。なお、上記多層成形品には、少なくとも1層の発泡層を含む多層成形品を含むものであることはいうまでもない。また、喰切りを有する構造は、半押し込み構造とも称されることがある。
【0008】
即ち、本発明は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる複数の射出装置と、可動盤と固定盤とに取り付けられた金型と、同金型を開閉する型締装置とを備え、前記複数の射出装置から順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置において、金型キャビティのパーティションライン面には喰切りを有する構造が設けられ、また、同キャビティに連通し外周部が喰切りを有する構造であるランナ・ゲート部が多層成形品の積層数に応じて金型キャビティの外側に設けられており、かつ、各ランナ・ゲート部には各射出装置と連通する樹脂流動路と樹脂流動遮断弁とが設けられてなり、前記各ランナ・ゲート部に対して、前記各ランナ・ゲート部に設けられた前記樹脂流動路から熱可塑性樹脂が順次供給され、前記各ランナ・ゲート部を経由して前記金型キャビティ内に少なくとも2種類の熱可塑性樹脂が順次供給されるように構成された多層成形用装置を使用することにより多層成形方法が実現される。なお、前記複数の射出装置には、それぞれ独立して、金型バルブ/ゲート開閉制御手段が備えられていることが好ましい。さらに、発泡性ガス供給装置が設けられていることが好ましい。また、前記射出装置が、前記発泡性ガス供給装置から供給される発泡性ガスの注入圧に充分に耐えうるシール性を有する装置であることが好ましい。
【0009】
なお、本発明に係る別の態様によれば、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる複数の射出装置と、可動盤と固定盤とに取り付けられた金型と、同金型を開閉する型締装置とを備え、前記複数の射出装置から順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置において、射出装置に開閉自在に連通した発泡性ガス供給装置と、射出装置に開閉自在に連通した発泡核形成剤供給装置とを有し、金型キャビティのパーティションライン面には喰切りを有する構造が設けられ、また、同キャビティに連通し、外周部が喰切りを有する構造であるランナ・ゲート部が積層数に応じて金型キャビティの外側に設けられており、各ランナ・ゲート部には各射出装置と連通する樹脂流動路と樹脂流動遮断弁とが設けられてなり、前記各ランナ・ゲート部に対して、前記各ランナ・ゲート部に設けられた前記樹脂流動路から熱可塑性樹脂が順次供給され、前記各ランナ・ゲート部を経由して前記金型キャビティ内に少なくとも2種類の熱可塑性樹脂が順次供給されるように構成された多層成形用装置を使用することにより多層成形方法が実現される。勿論、この場合においても、前記射出装置が、前記発泡性ガス供給装置から供給される発泡性ガスの注入圧に充分に耐えうるシール性を有する装置であることが好ましい。
【0010】
即ち、本発明によれば、上記装置を使用することにより、多層成形を容易に行うことができる多層成形方法が提供される。具体的には、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる複数の射出装置を備え、前記複数の射出装置から、金型に設けられた各ランナ・ゲート部を介して順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置を用いて、第1の金型キャビティ容積となる位置に金型を閉じる型締工程、第1層目樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き溶融樹脂を金型キャビティ内に射出する第1射出工程、所望量の射出が完了した時点で、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する第1冷却保持工程、第2の金型キャビティ容積となる位置に金型を開く第1型開工程、第2層目樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き溶融樹脂を第1層目樹脂と金型キャビティとの隙間に射出する第2射出工程、所望量の射出が完了した時点で、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する第2冷却保持工程、及び型開し成形品を取出す工程を含む多層成形方法が提供される。
【0011】
なお、積層数が3層以上の場合には、積層数に応じて所望の多層成形品が得られるまで、順次、型開工程、射出工程、及び冷却保持工程を繰り返し、所望とする積層数を積層した後、型開し、成形品を取り出せばよい。さらに、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂が、発泡性ガスと発泡核形成剤とが混合されたものであって、該発泡性ガスと発泡核形成剤とが混合された少なくとも1種類の熱可塑性樹脂を射出し、射出完了後は、樹脂流動遮断弁を閉じて所望とする発泡倍率となる金型キャビティ容積に相当する位置まで金型を開く発泡工程を含む多層成形方法が提供される。前記発泡性ガスとしては、炭酸ガス、窒素ガス、空気、又はこれらの混合ガスが好適に使用される。また、前記発泡核形成剤は、後述するように、無機物の微粉や、有機酸、又はこれらの混合物であることが好ましい。発泡性ガスの注入圧は、0.1MPa以上〜1.0MPa未満、例えば、0.1MPa以上〜0.99MPa以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、意匠面の位置を含む製品の形状による制約を受けることなく、多層品の成形が可能となる。また、多層成形品の層数が増加しても、ランナ・ゲート部を追加することで容易に対応できると言う利点がある。また、各樹脂層の厚みは、金型バルブ/ゲート開閉制御手段により容易に制御できる。又発泡層を含む多層成形品の場合には、比較的低い圧力下で発泡性ガスを圧入できるので、操作面での安全性に優れ、また、多層成形品などに好ましくない影響を与える可能性のある有機発泡剤や無機発泡剤を使用することがないので、製品の品質面で安定性に優れ、また、装置面でも、高度の安全性が求められる耐高圧装置を使用することを要しないので装置に多額の投資を要することが無く、加えて、同一装置を使用して発泡層を含む多層成形品を成形できることから、安価で発泡層を含む多層成形品を提供できると言う効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る多層成形方法に用いられる、多層成形品の層数に応じて、金型キャビティの外側に同キャビティに連通し、外周部が喰切りを有する構造であるランナ・ゲート部が配設された金型の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係る多層成形方法の一態様を模式的に示す工程図であり、2a〜2fは、各工程を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る多層成形方法の別の態様を模式的に示す工程図であり、3a〜3fは、各工程を模式的に示す図である。
【図4】発泡性ガス供給手段を備えた、複数の熱可塑性樹脂の多層成形用装置を説明するための参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用する多層成形用装置は、その主要部は、図1に示すように、固定金型3と可動金型4とから形成され、固定金型には、熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる2個の射出装置30a、30bと、可動盤2(図示せず)と固定盤1(図示せず)とに取り付けられており、同金型を開閉する型締装置20(図示せず)とを備え、前記2個の射出装置から順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティ10aに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置であって、金型キャビティのパーティションライン面には喰切りを有する構造6が設けられており、また、金型キャビティの外側には同キャビティに連通し、外周部が喰切りを有する構造であるランナ・ゲート部8a、8bが積層数に応じて設けられており、かつ、各ランナ・ゲート部の固定金型3側には、樹脂流動路11a、11bと樹脂流動遮断弁12a、12bから構成される金型バルブゲート14a、14bが設けられている。この樹脂流動路11a、11bと樹脂流動遮断弁12a、12bは、各射出装置と連通して設けられている。
【0015】
また、各射出装置には、樹脂流動路11a、11bと樹脂流動遮断弁12a、12bから構成される金型バルブゲート14a、14bの作動を制御する金型バルブ/ゲート開閉制御手段13a、13bが設けられている。溶融樹脂をランナ・ゲート部8a又は8bに供給する際には、供給する側の金型バルブ/ゲート開閉制御手段13a又は13bからの指令に基づき、対応する樹脂流動遮断弁12a又は12bが後退して、樹脂流動路11a又は11bが解放され、結果として同流動路からランナ・ゲート部8a又は8bに溶融樹脂が供給されることとなる。型締装置20(図示せず)は、金型10の型開、型閉を作動する型締シリンダ22(図示せず)を備えており、可動金型4が固定金型3に対して図示しないタイバーに案内されて前後進できるように構成されている。なお、この金型において、成形品の意匠面は、固定金型側に形成される。即ち、この構成からも明なように、意匠面は、ゲートとは直接接することはない位置に形成されることとなる。
【0016】
勿論、射出装置は、積層数に応じた数の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうるように配設すればよい。金型に設けられるランナ・ゲート部の数も積層数に応じて、配設すればよい。なお、射出装置30a、30bは、固定金型(図示せず)側に配設してあるが、これに限定されず、例えば、射出装置30bを金型の側面に配設しても良い。また、3層以上の場合には、射出装置は、金型の側面、あるいは、上部に配設すればよい。勿論、それに応じて、上記の構造を有するランナ・ゲート部を配設すればよい。金型の型締・型開きは、型締制御部からインプットされる情報に基づき行われる。第1層目樹脂等の射出は、ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き、予め溶融した溶融樹脂を溶融樹脂流動経路経由で金型キャビティ内に射出する。射出量の制御は、射出制御部からインプットされる情報に基づき、金型バルブ/ゲート制御手段の制御に基づき行われる。所望量の射出が完了した時点で、該ランナ・ゲート部に設けられた樹脂流動遮断弁は閉じられる。冷却保持工程は成形条件設定部からインプットされる情報に基づき行われる。さらに、発泡性ガス供給装置43(図示せず)と、発泡核形成剤供給装置61が配設されていてもよい。特に、発泡層を含む多層成形にはこれらの装置は不可欠である。なお、その場合には、射出装置は前記発泡性ガス供給装置から供給される発泡性ガスの注入圧に充分に耐えうるシール性を有するものであることが好ましい。
【0017】
なお、直圧式の型締装置を有する横型締めタイプの多層成形用装置に限定されることなく、トグル式型締装置や電動サーボモータ式或いは竪型締めタイプの多層成形用装置を使用してもよい。
【0018】
なお、発泡層を含む多層成形品の成形に関して、本発明に係る多層成形方法に使用される装置の別の態様の一つである発泡性ガス供給手段と発泡核形成剤供給装置61、62を備えた多層成形用装置を使用する場合について、参考図である図4に基づいて以下説明することとする。同図に示すように、発泡性ガス供給手段40を備えた射出装置30bにおいては、スクリュー回転手段34(図示せず)によってスクリュー32が回転され、この回転に伴いホッパ35からペレット状の成形材料が可塑化シリンダ31内に供給され、供給されたペレット状の成形材料は、可塑化シリンダ31に取付けられたヒータによって加熱され、また、スクリューの回転によって混練圧縮作用を受ける。その際、発泡性ガスと発泡核形成剤とは溶融された熱可塑性樹脂中に、分散混合され、溶融樹脂と共にスクリューの前方へ送られる。スクリューの前方へ送られた、発泡性ガスと発泡核形成剤を含む溶融樹脂は、スクリュー移動手段33(図示せず)により前進するスクリューによって、可塑化シリンダ31の先端に取付けられたノズル36及び溶融樹脂流動経路11a、又は11bを経由して金型内へ充填射出される。
【0019】
無機物の微粉末などを発泡核形成剤として使用する場合に、図4に示した装置のように、発泡核形成剤供給装置61、62が備えられた多層成形用装置を使用するときには、予め設定された成形条件に基づいて好適な量を供給することができる。なお、このように発泡核形成剤発泡性ガス供給手段40を備えた射出装置30bを使用して、発泡性ガスを供給する場合には、同装置と通常の溶融樹脂のみを供給する射出装置30aとの切り替えは、それぞれ射出装置30a、30bに設けられた13a、13b金型バルブ/ゲート制御手段の制御により行えばよい。なお、発泡核形成剤供給手段としては、上述のような発泡核形成剤発泡性ガス供給手段40だけではなく、予め樹脂と混合した後ホッパ35から射出装置に供給できるような供給手段であってもよく、あるいは、樹脂の製造段階で樹脂に発泡核形成剤が予め混入されたものを使用する方法であっても良い。これらの供給手段又は供給方法は、使用する多層成形用装置の構成に応じて選択すればよい。
【0020】
成形条件設定部71には、それぞれの熱可塑性樹脂の射出条件を制御するための制御部が設けられており、発泡性ガスを含む熱可塑性樹脂の射出条件の制御は射出制御部74により、それ以外の熱可塑性樹脂の射出条件の制御は多層成形制御部73により行う。その他の装置の構成、機能等の内、上記以外の事項については、通常の多層成形用装置において採用される、部材、構成等に準じて採用すればよい。
【0021】
本発明に係る成形方法において使用される熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、等のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、等のオレフィン系樹脂、及びエンジニアリング樹脂と言われるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの様なポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、及び変性ポリフェニレンエーテル、オレフィン系熱可塑性エラストマー、等があげられる。これらの樹脂は、用途等に応じて、2種類以上を混合して使用してもよく、また、これらの熱可塑性樹脂には、必要に応じて可塑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、等の種々の添加剤や、物性改良の為の各種フィラー、ガラス繊維、カーボン繊維、等更には着色剤、染料、等を混合して使用してもよい。
【0022】
また、発泡層を有する多層成形において使用される、発泡性ガスとしては、炭酸ガス、窒素ガス、空気、又はこれらの混合ガスが挙げられるが、得られる多層成形品の性状などの点から見て、空気、又は、炭酸ガスが好ましい。なお、これらの発泡性ガスの選択に際しては、樹脂の耐酸化性を考慮することが必要である。一部に酸化されやすい基を含む樹脂に対しては、空気以外のガスを使用することが好ましい。例えば、ポリプロピレン等、耐酸化性が問題とならない樹脂の場合には、空気が入手の容易性の面でも、好適に採用される。発泡核形成剤としては、酸化鉄、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、ガラス繊維、タルク、炭酸水素ナトリウム(重曹)などの無機物の微粉末、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸の金属塩、クエン酸、酒石酸などの有機酸などが挙げられる。勿論、これらは、発泡核形成剤としての働きを考慮の上、例えば、金属塩と有機酸を混合して使用してもよい。
【0023】
本発明においては、発泡層の形成に使用される発泡性ガスは、通常、0.1MPa以上〜1.0MPa未満の圧力をかけて、成形装置の所定箇所に供給する。この圧力を採用したことで、射出装置のガスシール性の機構を簡素化でき、結果として、所望とする水準以上の可塑化能力を担保することができる。例えば、2ステージスクリューの場合は、通常、射出装置のガスシール性は、第1ステージと第2ステージの境界部のスクリューフライト隙間を狭くすることで確保されるが、あまり、スクリューフライト隙間を狭くしすぎると、溶融樹脂の通過が阻害され、可塑化能力の低下につながることがある。しかし、上記の注入圧の範囲内であれば、スクリューフライト隙間を比較的大きく設定でき、可塑化能力とガスシール性とを同時に満足させることができる。また、上記の圧力内とすることで、充填射出時における樹脂先端部からの発泡性ガスの噴出量を適正な水準に押さえることができるので、所望とする多層成形品の外観を確保できると言う効果が発揮される。なお、発泡性ガスの注入量を圧力制御とすることで、使用する樹脂に最適なガス溶解飽和量が成形条件に左右されることなく得られる。なお、ガス注入量は、2ステージスクリューの減圧部(ガス注入位置)の圧力と注入ガスの圧力差として与えられる。また、ポリスチレンへの窒素ガスの溶解量(200℃)は、0.4mol/kg(1MPa)〜0.6mol/kg(10MPa)と、圧力差による溶解量の差は小さい(成形加工、2001、第2号、第13巻参照)ことから、上述の0.1MPa以上〜1.0MPa未満という圧力範囲内でも、発泡に必要な発泡性ガス量は、十分に確保できるといえる。従って、上述の圧力範囲内で発泡ガスを注入しても、十分な発泡が見込め、得られる製品の性質への影響は実質的にないといえる。
【0024】
なお、0.1MPa未満では、所望する得られる多層成形品において所望とする気泡密度や気泡径を有する発泡層を得ることができず、また、1.0MPa未満としたのは、1.0MPaでも所望とする気泡密度や気泡径を有する多層成形品も得られることはあるが、時として、発泡セルが粗大化したり、或いは、多層成形品の部位により発泡倍率に大きな差異が生ずる等の異常が発生したりすることがあり、また、表面の状態も、スワルマークによる多層成形品の外観不良が認められることがあり、好ましくないからである。加えて、これ以上の高圧では、自動車部品などの大型多層成形品を成形できる成形装置を高度のシール性を持たせることが必要となり、その様な高度のシール性を持たせるのは設計上かなりの困難を伴うだけでなく、施設そのものも、耐高圧化する必要があり、大型の装置を収容する屋社を、耐高圧化するには、莫大な投資が必要だけでなく、現在の技術を持ってしても、完全性を期すには、完全に不安を払拭できないからである。
【0025】
発泡性ガスの射出装置への供給は、多層成形品の発泡状態、外観、ソフト感などの点から見て、0.1MPa以上1.0MPa未満、好ましくは、0.2MPa〜0.99MPaの圧力、更に好ましくは、0.5MPa〜0.9MPaの圧力で行うことが好ましい。発泡性ガスの射出装置への供給は、後述する多層成形用装置に備えられている熱可塑性樹脂を供給するホッパ35内または可塑化シリンダ31内の溶融樹脂中とすることとしたので、発泡性ガスや発泡核形成剤を溶融樹脂中に十分に分散させ、かつ、混合させることができる。なお、発泡性ガスの供給を可塑化シリンダ内に設けられている前記射出装置のスクリューは、2ステージスクリューを採用しているので、発泡性ガスや発泡核形成剤を溶融樹脂中に分散させ、混合させることができる。溶融樹脂と発泡性ガス及び発泡核形成剤の混合分散性を高める目的において、高分散性のスクリューヘッドを備えたスクリューであることがより好ましい。
【0026】
本発明に係る成形方法により得られる多層成形において製造される成形品は、非発泡層と発泡層との2層とから構成されていてもよく、或いは、発泡層が2層の非発泡層の間にサンドイッチ状に挟まれた3層構造であってもよい。勿論、多層成形品のいずれかの位置に発泡層が設けられているものであれば、層の数に関係なく、多層構造の積層体を製造することができるが、通常は、2〜5層の多層成形品の製造方法として好適に使用される。勿論、特定の層を共通とするなどで、射出装置の数を減らすことも可能であるが、通常は、形成する層の数に応じて、射出装置の数を増やすことが好ましい。
【0027】
次に、本発明に係る多層成形について、図2と3を参照しながら、成形操作を説明することとする。まず、図2に基づき説明する。図2に示した多層成形用装置において、図2aにおいて示すように、第1の金型キャビティ容積となる位置に金型を閉じる型締をする。次に、図2bにおいて示すように、第1層目樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き、溶融樹脂を金型キャビティ内に射出する。所望量の射出が完了した時点で、図2cに示すように、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する。冷却保持工程が終了後、図2dに示すように、第2の金型キャビティ容積となる位置に金型を開く。次いで、図2eに示しように、第2層目の熱可塑性樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き、溶融熱可塑性樹脂を第1層目樹脂と金型キャビティとの隙間に射出する。所望量の射出が完了した時点で、図2fに示すように、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、次いで、所定の時間経過後型開して成形品を取り出す。なお、この場合に、第1層目/第2層目の樹脂を充填する際は、成形品の形状などに応じて、金型を開きながらあるいは金型を閉じながら行っても良いことは言うまでもない。
【0028】
次に、発泡層を含む多層成形について、図3を参照しながら説明することとする。
図3に示した多層成形用装置において、図3aにおいて示すように、第1の金型キャビティ容積となる位置に金型を閉じる型締をし、ついで、非発泡層を形成する熱可塑性樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き、非発泡層を形成する溶融樹脂を金型キャビティ内に射出する。所望量の射出が完了した時点で、図3bに示すように、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する。冷却保持工程が終了後、図3cに示すように、第2の金型キャビティ容積となる位置に金型を開く。次いで、図3dに示しように、第2層目の発泡性熱可塑性樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き、発泡性溶融熱可塑性樹脂を非発泡層である第1層目樹脂と金型キャビティとの隙間に、所望量射出する。射出が完了した時点で、図3eに示したように、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じる。次に、図3fに示したように、所望量型開きし、発泡層を発泡させ、所定の時間経過後、型開きし成形品を取り出す。各工程における保持時間、型開き量などは、使用する樹脂の種類、多層成形品の仕様等を考慮して選定すればよい。非発泡層としては、通常、表面の性状を考慮して、ポリプロピレン等の樹脂が、又発泡層を形成する樹脂としては、ソフトタッチ感を所望とする場合には、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用することがある。なお、金型の一部をスライド可能な構成として、非発泡層の一部に発泡層を部分的に積層させてもよい。また、予め金型内の所定の位置に、表皮材をインサートしておいて成形することにより、表皮材との多層成形品の一体成形も可能である。
【実施例】
【0029】
実施例と比較例を用いて、本発明についてより具体的に説明することとする。勿論、これらの例は、本発明の説明するためのものであって、本発明は、これらの例によっては、何ら制限的に解されるべきでなく、当業者であれば、本発明の本旨を逸脱しない範囲内で、これらに改良、修飾などを加えることは、可能であり、これらの態様も本発明の技術的な範囲内に含まれることはいうまでもない。
【0030】
(実施例1)
図2a〜fに示した工程に従い、以下の条件で、1層目及び2層目の樹脂を射出し、イナードーアトリムを成形した。多層成形用装置としては、図1に示した金型を備えた横型トグル式多層成形機(宇部興産機械製 MD850S−IV全自動多層成形機)を使用した。第1層目樹脂としては、ポリプロピレン(プライムポリマー製 自動車内装グレード MRF30/ISO1133)を使用した。また、第2層目の樹脂としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(JSR社製 多層成形グレード品 硬度HAS=40 MFR=10)を用いた。なお、ポリプロピレンには、所定量のタルク、及びゴムを混合したものを使用した。成形品を型開きした後、取り出し、ランナ・ゲート部に相当する部分をトリミング処理して取り除いた。得られた多層成形品は、表面の質感に優れ、また、手触り感も良好であった。
【0031】
(実施例2)
図3a〜fに示した工程に従い、以下の条件で、1層目及び2層目の樹脂を射出し、発泡層を含むイナードーアトリムを成形した。多層成形用装置としては、図1に示した金型を備えた横型トグル式多層成形機(宇部興産機械製 MD850S−IV全自動多層成形機)を使用した。第1層目樹脂としては、ポリプロピレン(プライムポリマー製 自動車内装グレード MRF30/ISO1133)を使用した。また、第2層目の樹脂としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(JSR社製 多層成形グレード品 硬度HAS=40 MFR=10)を用いた。なお、ポリプロピレンには、所定量のタルク、及びゴムを混合したものを、また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、発泡性ガスとして、炭酸ガスを射出装置30bの溶融樹脂中0.9MPaで圧入し、発泡核形成剤は、重曹とクエン酸の混合物を射出装置30bに備えられたホッパから樹脂と共に供給した。なお、かくして調製した発泡性熱可塑性樹脂は非発泡層である第1層目樹脂と金型キャビティ10aとの隙間に、所望量射出した。射出が完了した時点で、射出装置30bに設けられた樹脂流動遮断弁12bを閉じた。所定時間経過後、可動金型4を所望量型開きし、発泡層を発泡させ、所望とする発泡が完了した時点で、成形品を型開きした後、多層成形品を取り出した。次いで、ランナ・ゲート部に相当する部分をトリミング処理して取り除いた。得られた多層成形品は、表面の質感に優れ、また、手触り感も良好で、かつ、優れた製品外観を呈していた。また、切断して、発泡層の状態を観察したところ、微細発泡セルの集合体の形成が認められた。
【0032】
なお、この実施例においては、重曹とクエン酸の混合物を発泡核形成剤として使用しているが、化学発泡剤としての使用量に比較しても量的にその16%強〜33%であり、成形品の性質に影響を与えるような水準ではなく、また使用した樹脂もアルカリにより影響を受けるものではないので、成形品の品質には全く問題はなかった。なお、Alメタリック粒子を使用する成形品の場合には、量的には少ないとはいえ、残存することには変わりはないので、他の発泡核形成剤を使用することが好ましいと考えられる。
【0033】
本発明の成形金型を使用した成形方法によれば、少なくとも2種以上の複数の熱可塑性樹脂を多層成形するに際して、積層数に応じて、金型の所定の位置にインナ・ゲート部を設けることにより、複雑な構造を採用することなく、意匠性に優れた高品質の多層成形品を製造することができる。特に、意匠面について特別な注意を払うことなく成形できるので、成形対象の多層成形品の形状により、特別な制約を受けることがないという優れた方法を提供できる。なお、発泡層を含む多層成形品も同一の金型を使用して、成型できる。特に、従来の装置では、実質的に採用できなかった、0.1MPa以上〜1.0MPa未満という注入圧を採用できる装置であり、かつ、得られた発泡層を含む多層成形品は、発泡倍率、発泡状態、外観、及びソフト感において、多層成形技術において現在汎用されている化学発泡剤と同等乃至優れており、より安全な条件下で、より容易に、かつ、実質的に多層成形品に悪影響を及ぼすような反応残査が残存することのない、成形方法が提供できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上述のように、少なくとも2種以上の複数の熱可塑性樹脂を多層成形するに際して、金型に複雑な構造を採用することもなく、また、成形に際しては、意匠面について特別な注意を払うこともなく成形でき、また、発泡層を含む多層成形品の成形に際しても、発泡性ガスの使用に当たり、高圧ガスを使用することなく、優れた性状を有する発泡層を含む多層成形品が成形できる。従って、産業上の利用可能性は、高いことが確認された。
【符号の説明】
【0035】
1 固定盤
2 可動盤
3 固定金型
4 可動金型
6 喰切りを有する構造
8a、8b ランナ・ゲート部
10 金型
10a キャビティ
11a、11b 溶融樹脂流動経路
12a、12b 溶融樹脂流動遮断弁
13a、13b 金型バルブ/ゲート制御手段
14a、14b 金型バルブゲート
15 製品意匠面
20 型締装置
22 型締シリンダ
30a、30b 射出装置
31 可塑化シリンダ
32 スクリュー
35 ホッパ
36 ノズル
40 発泡性ガス供給手段
41 空気供給源
42 発泡性ガス(炭酸ガス)供給源
43 発泡性ガス供給装置
61 発泡核形成剤供給装置
62 発泡核形成剤供給装置
70 制御装置
71 成形条件設定部
72 型締制御部
73 樹脂射出制御部
74 発泡性ガス含有樹脂射出制御部
100 横型締めタイプの多層成形用装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をそれぞれ独立に可塑化させ、かつ、独立に充填射出しうる複数の射出装置を備え、前記複数の射出装置から、金型に設けられた各ランナ・ゲート部を介して順次熱可塑性樹脂を金型内のキャビティに積層状態で充填射出させることができる多層成形用装置を用いて、第1の金型キャビティ容積となる位置に金型を閉じる型締工程、第1層目樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き溶融樹脂を金型キャビティ内に射出する第1射出工程、所望量の射出が完了した時点で、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する第1冷却保持工程、第2の金型キャビティ容積となる位置に金型を開く第1型開工程、第2層目樹脂を射出するためのランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を開き溶融樹脂を第1層目樹脂と金型キャビティとの隙間に射出する第2射出工程、所望量の射出が完了した時点で、該ランナ・ゲート部の樹脂流動遮断弁を閉じて、所定の時間保持する第2冷却保持工程、及び型開し成形品を取出す工程を含む多層成形方法。
【請求項2】
少なくとも1種類の熱可塑性樹脂が、発泡性ガスと発泡核形成剤とが混合されたものであって、該発泡性ガスと発泡核形成剤とが混合された少なくとも1種類の熱可塑性樹脂を射出し、射出完了後は、樹脂流動遮断弁を閉じて所望とする発泡倍率となる金型キャビティ容積に相当する位置まで金型を開く発泡工程を含む請求項1に記載の多層成形方法。
【請求項3】
前記発泡性ガスが、炭酸ガス、窒素ガス、空気、又はこれらの混合ガスである請求項2に記載の多層成形方法。
【請求項4】
前記発泡核形成剤が、無機物の微粉、有機酸、又はこれらの混合物である、請求項2又は3に記載の多層成形方法。
【請求項5】
発泡性ガスの注入圧が、0.1MPa以上、0.99MPa以下である請求項2〜4のいずれか1項に記載の多層成形方法。
【請求項6】
さらに、積層数に応じて所望の多層成形品が得られるまで、順次、型開工程、射出工程、及び冷却保持工程を繰り返すことを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−25712(P2011−25712A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254030(P2010−254030)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願2005−241635(P2005−241635)の分割
【原出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】