説明

熱可塑性樹脂シートの製造装置ならびに製造方法

【課題】エンボスパターン2aを彫刻した賦型ロール2と挟圧部材3との間に、ダイ1から連続的に供給投入される溶融した熱可塑性樹脂からなるシート原反7を通過させて、賦型ロール2のエンボスパターン2aをシート原反7に転写しつつ、シート原反7を圧延冷却する熱可塑性樹脂シートの製造装置であって、転写精度を可及的に高めて、品質の高い熱可塑性樹脂シートを製造できるようにする。
【解決手段】賦型ロール2の外表面を加熱するための熱源5と、この熱源5からの放射熱を反射して賦型ロール2の外表面において転写領域8の転写開始位置8aの近傍を照射させて加熱する反射手段6とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリズムシート等からなる熱可塑性樹脂シートの製造装置ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー液晶表示装置は、ノート型パソコンやデスクトップ型パソコンのモニターや、液晶テレビジョン(TV)等、種々の分野で幅広く使用されてきている。
【0003】
液晶表示装置の基本構成は、液晶セルとバックライトとを備えている。バックライトには、光源を液晶セルの直下に設けた直下型や、光源を導光板の側面に設けたエッジライト方式がある。
【0004】
カラー液晶表示装置は、他の表示装置(CRT、PDP、有機EL)と比較して、消費電力が少ないという点で優れているが、視認性の観点から正面輝度が低くなることは容認できない。
【0005】
そこで、バックライトの光学的な効率を改善し、少ない消費電力で正面輝度を高くすることが必要とされており、従来から、バックライトの出射面側に、片面にプリズム列やレンチキュラー列等のレンズ単位を多数形成してなるプリズムシートを設けている。
【0006】
一般的に、プリズムシートのレンズ単位について、断面形状が二等辺三角形でかつ頂角を90度としたものが輝度向上を図るうえで最適であると考えられている。なお、レンズ単位の頂部の曲率半径は「0」、つまり先鋭とされる。
【0007】
なお、より一層の正面輝度の向上を目的として、プリズムシートを複数枚重ね合わせて使用することもある。
【0008】
このようなプリズムシート等のレンズシートは、一般的に、光学的な観点より無色透明で、かつ、成形性の良いポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂等のプラスチック材料が用いられる。
【0009】
この様なレンズシートを製造する方法としては、鋳造、溶剤キャスティング、異形押出・押出成形しながらのロールエンボッシング法、平板への熱プレス法、モノマーキャスティング法、射出成形法などがあるが、前記モノマーキャスティング法とロールエンボッシング法が一般的で汎用的、利便性が高いと考えられる。
【0010】
上記モノマーキャスティング法は、樹脂の状態が液状であるため、プリズムパターンの頂部まで行き渡りやすく、また、UV等の硬化反応により固めるため、形状が安定しやすい等、プリズムシートのプリズムパターンを精度良く確保することが可能である。
【0011】
しかしながら、上記モノマーキャスティング法では使用できる樹脂には限定があり、また、充分な反応を施しても若干の残留物があり、これが臭気の原因となったり十分な硬さが得られなくなる要因となったりする。
【0012】
そのため、顧客に提供する際に、製品にプロテクトフィルム等を貼着する必要があって利便性、コスト的に不利となる。また、比較的連続的な生産には不向きであり、硬化反応に要する時間も必要となる。
【0013】
一方、上記ロールエンボッシング法では、上記モノマーキャスティング法のような不具合はほとんどない。すなわち、熱可塑性樹脂であれば、加工上、樹脂の種類が限定されることがなく、また、化学反応による固化処理が不要であるために、残留物やこれに起因する臭気も発生しない。
【0014】
なお、ロールエンボッシング法でプリズムシートを製造する場合には、プリズムシートのプリズムパターンを反転したエンボスパターンを彫刻した賦型ロールと、挟圧ロールとの間に、ダイから連続的に供給投入される溶融樹脂からなるシート原反を通過させて、賦型ロールのエンボスパターンをシート原反に転写しつつ、圧延冷却する。
【0015】
しかしながら、上記ロールエンボッシング法の場合、一般的に、挟圧ロールとして円柱形のロールを用いていて、賦型ロールに対するシート原反の押圧領域(転写領域)が短くなっているために、賦型時間が極めて短くなっている。そのために、賦型ロールのエンボスパターンの溝底までシート原反の樹脂が入り込みにくくなる等、転写精度が低下することが懸念される。
【0016】
これに対し、挟圧ロールの代わりにフレックスベルトと呼ばれるものとし、賦型ロールに対するシート原反の押圧領域(転写領域)を長くして、賦型時間を長くできるようにしたものがある(例えば特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特許第2808251号公報
【特許文献2】特開平10−235733号公報
【特許文献3】特開平10−291251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記従来例では、賦型ロールの外表面において熱源で瞬間的に加熱される部分が、転写開始位置(賦型ロールにおいてシート原反の接触開始位置)より上流側に遠く離れた場所とされているために、この加熱部分が転写領域に移動するまでの間に加熱部分の温度が低下するおそれがあり、甚だしい場合には転写時にエンボスパターンの溝底までシート原反の樹脂が入り込みにくくなる等、転写精度が低下することが懸念される。
【0018】
これに対しては、単純に加熱部分を転写領域に近くすればよいのであるが、シート原反を供給するダイ等を、シート原反の厚み精度を高める狙いから賦型ロールに可及的に近づけて配置している関係より、熱源を転写領域に接近させて配置することが実用上困難であるために、実現できていない。
【0019】
ところで、上記従来例では、転写領域と剥離領域との温度差を大きくすることを目的として賦型ロールの内径部分に断熱部材を設けているが、この断熱部材の存在によって賦型ロールの加熱部分の熱が径方向内向きへ拡散しにくくなって冷めにくくなるとも考えられるものの、断熱部材によって賦型ロールの構造が複雑になっていることが指摘される。
【0020】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法において、転写精度を可及的に高めて、品質の高い熱可塑性樹脂シートを製造できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、エンボスパターンを彫刻した賦型ロールと挟圧部材との間に、ダイから連続的に供給投入される溶融した熱可塑性樹脂からなるシート原反を通過させて、前記賦型ロールのエンボスパターンをシート原反に転写しつつ、シート原反を圧延冷却する熱可塑性樹脂シートの製造装置であって、前記賦型ロールの外表面を加熱するための熱源と、この熱源からの放射熱を反射して前記賦型ロールの外表面において前記転写領域の転写開始位置の近傍を照射させて加熱する反射手段とを含むことを特徴としている。
【0022】
この構成によれば、熱源からの放射熱を反射手段を利用して賦型ロールの外表面を加熱するようにしているから、熱源を転写領域から遠く離れた場所に設置しても転写領域の近傍を加熱することが可能になる。
【0023】
これにより、加熱部分が転写領域に移動するまでに熱が冷めにくくなる等、転写領域において賦型ロールの外表面温度を好ましい温度に保つことが可能になる。また、賦型ロールについては、外表面から深層部への熱拡散を防止するような複雑な構造とする必要がなくなる。
【0024】
なお、上記製造装置において、前記賦型ロールのエンボスパターンは、プリズムパターンの反転形状とすることができる。
【0025】
また、前記賦型ロールの加熱領域の最下流位置が前記転写領域の転写開始位置に移動するまでの移動時間Sは、0.5秒以下に設定することができる。
【0026】
この移動時間Sは、賦型ロールの直径寸法Dと、賦型ロールの周速度Vと、加熱領域の最下流位置から前記転写領域の転写開始位置までの角度αとに基づいて設定されるものとすることができ、S=[(π×D)×(α÷360)]÷Vにより求めることができる。
【0027】
本発明は、エンボスパターンを彫刻した賦型ロールと挟圧部材との間に、ダイから連続的に供給投入される溶融した熱可塑性樹脂からなるシート原反を通過させて、前記賦型ロールのエンボスパターンをシート原反に転写しつつ、シート原反を圧延冷却する熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、前記賦型ロールの外表面の所定領域を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度に加熱する工程を有し、この工程は、熱源からの放射熱を反射手段で反射して前記賦型ロールの外表面において前記転写領域の転写開始位置の近傍を照射させて加熱することを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、転写精度を可及的に高めて、品質の高い熱可塑性樹脂シートを製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を図1から図4に示して説明する。
【0030】
図1には、熱可塑性樹脂シートの製造装置の概略構成を示している。図中、1はT型ダイ、2は賦型ロール、3はフレックスベルト、4はテイクオフロール、5は熱源、6は反射手段である。
【0031】
フレックスベルト3は、弾性ロール3aと温度調節機能を有する冷却ロール3bとに巻き掛けられており、弾性ロール3aおよび冷却ロール3bにより冷却され、賦型ロール2に対し所定のテンションを介して押圧されている。
【0032】
このフレックスベルト3は、例えば厚み250〜500μm、好ましくは250〜350μmであり、材質は耐久性や鏡面性の点からみて、ハードクロムやニッケル合金が好ましい。また、フレックスベルト3の表面は、鏡面、マット、その他微細模様を施した形状の何れを使用しても良く、光学品質に合わせて適宜変更することができる。なお、フレックスベルト3は、特許第2808251号等に開示されている構成を利用することも可能である。
【0033】
テイクオフロール4は、賦型ロール2からシート原反7を剥離させるためのものであるが、賦型ロール2からのシート原反7の剥離点を幅方向で均一化するために設置されている。
【0034】
熱源5は、賦型ロール2の外径側でT型ダイ1から遠く離れた場所に非接触に配置されており、反射手段6は、賦型ロール2の外径側でT型ダイ1の近くの場所に非接触に配置されている。
【0035】
熱源5は、賦型ロール2の外表面の所定領域を加熱するためのものであり、例えば短時間で加熱可能な各種の赤外線ヒーター等が好適に用いられる。
【0036】
反射手段6は、熱源5から放射する熱を反射して賦型ロール2の外表面の所定領域を照射して加熱させるものである。この反射手段6は、熱源5からの放射熱を吸収しにくいものであれば特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄、ステンレス等が用いられ、必要に応じて鏡面とするように研磨処理したり、ニッケル、金、クロム等のメッキを施したりすることができる。
【0037】
具体的には、熱源5は、外形が側面視略扇形とされており、その凹状湾曲面5aの曲率は例えば賦型ロール2の曲率と略同じに設定されている。
【0038】
また、反射手段6は、帯板形状で短手方向に湾曲されたものからなり、その湾曲の曲率は、熱源5からの放射熱を集めて反射するとともに、転写領域に可及的に近い場所へ照射できるように適宜設定される。
【0039】
このように、熱源5からの放射熱を反射手段6を利用して賦型ロールの外表面を加熱する形態を採用することによって、熱源5をT型ダイ1から遠く離れた場所に設置しても転写領域8の近傍を加熱することが可能になる。
【0040】
また、逆に、熱源5をT型ダイ1から遠く離れた場所に設置すると、図1に示すように、賦型ロール2の外周面において円周方向に広い範囲θを加熱することが可能になる。
【0041】
これらのことから、賦型ロール2における加熱部分が転写領域8に移動するまでに熱が冷めにくくできるので、転写領域8において賦型ロール2の外表面温度を好ましい温度に保つことが可能になる。また、賦型ロール2については、従来例で記載したように外表面から深層部への熱拡散を防止するために複雑な構造とする必要がなくなる。
【0042】
ところで、転写領域8において賦型ロール2の外表面温度を好ましい温度に保つには、賦型ロール2の加熱範囲θの最下流位置θ1が転写領域8の転写開始位置8aに移動するまでの移動時間Sを短くすると、より好ましい。
【0043】
この移動時間Sは、賦型ロール2の直径寸法Dと、賦型ロール2の周速度(ラインスピード)Vと、加熱範囲θの最下流位置θ1から転写領域8の転写開始位置8aまでの角度αとに基づいて設定されるものであり、下記式により求めることができる。
【0044】
S=[(π×D)×(α÷360)]÷V
つまり、反射手段6を用いることによって、角度αを可及的に小さくした場合には、ラインスピードVを遅くすることができる。なお、角度αは、ラインスピードVに応じて、5°〜90°、好ましくは10°〜60°とすることができる。移動時間Sは、0.5秒以下に設定するのが好ましい。
【0045】
次に、上述した製造装置を用いた熱可塑性樹脂シートの製造方法を説明する。
【0046】
まず、図1に示すように、賦型ロール2の外周面における所定角度範囲θの表層部分を熱源5および反射手段6でもって加熱する。
【0047】
このとき、賦型ロール2の外周面における所定角度範囲θの温度は、転写領域で必要な賦型ロール2の表層温度と略同じに設定することができる。
【0048】
なお、転写領域8で必要な賦型ロール2の表層温度は、シート原反7の素材となる熱可塑性樹脂に応じて異なるが、この対象となる素材のガラス転移温度Tg以上、好ましくはガラス転移温度Tg+10℃以上に設定される。
【0049】
ここで、賦型ロール2の表層温度がガラス転移温度Tg未満である場合、賦型ロール2と熱可塑性樹脂が接した瞬間に熱可塑性樹脂の温度が、ガラス転移温度Tg未満に低下することにより流動性が低下し、精密な転写が行えなくなるためである。
【0050】
こうしておいて、T型ダイ1より溶融樹脂をシート状に押出した後に、賦型ロール2とフレックスベルト3との間の転写領域8に供給し、挟圧する。
【0051】
この挟圧直後、あるいは挟圧と同時にシート原反7を速やかに冷却してガラス転移温度Tg以下にし、テイクオフロール4により賦型ロール2からシート原反7を剥離させる。
【0052】
なお、フレックスベルト3によるシート原反7の冷却は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下、好ましくはガラス転移温度Tg−10℃以下、より好ましくはTg−20℃以下に設定することによって、シート原反7に転写された樹脂パターンを変形しないように固化させるようにする。
【0053】
この後、図示していないが、テイクオフロール4より下流において、シート原反7を適宜の温度調節手段でさらに冷却して巻き取り機に巻き取るようにする。
【0054】
以上説明した製造装置ならびに製造方法であれば、精密な転写が可能になり、製品品質の高い熱可塑性樹脂シートを安定的に製造することが可能になる。
【0055】
具体的に、本発明に係る実施例1,2と、比較例1,2,3とを例に挙げて、実験しているので、説明する。
【0056】
実施例1,2、比較例2は、図1に示す製造装置を用いて製造した。比較例1,3は、従来例で提示した特許文献1(特許第2808251号)に示す製造装置を用いて製造した。
【0057】
なお、図1に示す製造装置および従来例で提示した特許文献1に示す製造装置において、賦型ロール2のエンボスパターン2aの形状については、図2に示すように、各突条部2bの断面形状を直角二等辺三角形とし、各突条部2bそれぞれの溝底間の間隔W、つまり直角二等辺三角形の底辺を例えば50μmとしている。また、弾性ロール3aは、ニトリルゴムを素材とし、冷却ロール3bおよびスリーブベルト3は、従来例で提示した特許文献1に示すものとし、熱源5は赤外線ヒーターとしている。
【0058】
図1の製造装置において、反射手段6は磨きアルミニウム製板に金メッキを施したものとしている。
【0059】
実施例1,2および比較例1〜3の製造条件については、表1に示しているが、以下で簡単に説明する。
(実施例1)
【0060】
賦型ロール2の直径を250mm、ラインスピードを20m/分、加熱範囲θの最下流位置θ1から転写領域8の転写開始位置8aまでの角度αを15°とすることにより、移動時間Sを0.10secとした。
(実施例2)
【0061】
ラインスピードを26m/分とし、角度αを40°とすることにより、移動時間Sを0.20secとし、赤外線ヒーターの出力を11KWとし、それ以外は実施例1と同様である。
(比較例1)
【0062】
ラインスピードを22m/分とし、反射手段6を用いずに角度αを120°とすることにより、移動時間Sを0.71secとし、それ以外は実施例1と同様である。
(比較例2)
【0063】
ラインスピードを15m/分とし、角度αを80°とすることにより、移動時間Sを0.70secとし、それ以外は実施例1と同様である。
(比較例3)
【0064】
熱源5および反射手段6を用いないが、賦型ロール2の設定温度を160℃としてラインスピードを26m/分とし、それ以外は実施例1と同様である。この場合、賦型ロール2は、その内部に熱媒体を流すことによって賦型ロール2の外表面温度を調整した。但し、この比較例3では、剥離不良によりプリズムシートを得ることができなかったので、角度α、移動時間S、外表面温度、賦型率を計測できなかった。
【0065】
【表1】

転写性の評価は賦型率に基づいて行い、また、剥離性の評価は剥離時の外観を目視にて行った。
【0066】
ちなみに、図3には賦型率が高い場合のプリズムシート10を示しており、レンズ単位10aの頂部が先鋭となった構造となっている。図4には賦型率が低い場合のプリズムシート10を示しており、レンズ単位10aの頂部がだれた構造となっている。
【0067】
つまり、賦型率Aは、プリズムシート10の溝深さをh(図3参照)とし、賦型ロール2のエンボスパターン2aの山高さをH(図2参照)とすると、下記式により求められる。
A=(h÷H)×100
この値が90%以上を良品とし、90%未満を不良品と判定した。
【0068】
また、以上の結果に基づき、移動時間Sを0.5sec以下とするのが好ましいと考えられる。なお、移動時間Sが0.5秒を超えると、熱源5および反射手段6により賦型ロール2の外表面を加熱しても、この加熱部分が転写領域8に移動するまでに熱が拡散しやすくなり、転写領域8で賦型ロール2の加熱部分が適切な温度に保ちにくくなると考えられる。
【0069】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。
【0070】
(1)上記実施形態では、シート原反7をスリーブベルト3でもって冷却する形態にしているが、冷風により冷却する形態、冷水により冷却する形態等とすることができる。但し、冷風冷却形態は、冷却効率がスリーブベルト3を用いる形態に比べ劣り、また、冷水冷却形態は、冷却効率が高いものの、水の除去装置が別途必要になるうえ、水滴が残るとそれがシート外観を悪化させるおそれがある。もちろん、スリーブベルト3と、冷風冷却形態や冷水冷却形態等を併用してもよい。
【0071】
(2)図5に、本発明の製造装置の他の実施形態を示している。この実施形態に示す製造装置では、挟圧形態と冷却形態とが上記実施形態の製造装置と異なる。
【0072】
具体的に、この実施形態では、挟圧部材として、フレックスベルト3の代わりに、円柱形の弾性ロール20を用いているとともに、空冷式の冷却装置30を用いており、それ以外の構成は上記実施形態の製造装置と基本的に同じである。
【0073】
弾性ロール20は、賦型ロール2と同一外径サイズとされており、賦型ロール2に略平行に横並びに配置されている。この弾性ロール20は、特に限定されるものではないが、例えばニトリルゴム、フッソゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレン共重合ゴム等で形成することができる。
【0074】
冷却装置30は、賦型ロール2の略下半分を覆い囲むようなチャンバ31と、このチャンバ31の内部に横並びに配置された二つの冷風ノズル32,33と、図示していない送風機あるいは冷風発生機等とを備えている。
【0075】
この例では、T型ダイ1より供給されたシート原反7が賦型ロール2と弾性ロール20との間を通過されて賦型された後、常温以下に保たれるチャンバ31内を通過するときに、二つの冷風ノズル32,33から吹き付けられる冷風によってシート原反7が冷却される。
【0076】
(3)上記賦型ロール2は、図示していないが、例えば、内部に加熱用または冷却用の媒体がスパイラル状に流れる構造を持つものとすることができる。このような賦型ロール2において、内部に冷却用の媒体を流すことにより、転写後のシート原反7を幅方向にわたり均一に冷却することができる。また、賦型ロール2は、従来例で説明したような内部に断熱材を有する構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の賦型ロールの外周面の一部の断面を拡大して示す図である。
【図3】図1の装置により得られるプリズムシートのプリズムパターンを示す図である。
【図4】図1の装置により得られるプリズムシートのプリズムパターンを示す図である。
【図5】本発明に係る製造装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0078】
1 T型ダイ
2 賦型ロール
2a エンボスパターン
3 フレックスベルト
4 テイクオフロール
5 熱源
6 反射手段
7 シート原反
8 転写領域
8a 転写開始位置
10 プリズムシート
11 レンズ単位
θ 加熱範囲
θ1 加熱範囲の最下流位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスパターンを彫刻した賦型ロールと挟圧部材との間に、ダイから連続的に供給投入される溶融した熱可塑性樹脂からなるシート原反を通過させて、前記賦型ロールのエンボスパターンをシート原反に転写しつつ、シート原反を圧延冷却する熱可塑性樹脂シートの製造装置であって、
前記賦型ロールの外表面を加熱するための熱源と、この熱源からの放射熱を反射して前記賦型ロールの外表面において前記転写領域の転写開始位置の近傍を照射させて加熱する反射手段とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
前記賦型ロールのエンボスパターンが、プリズムパターンを得るためのものとされることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
前記賦型ロールの加熱領域の最下流位置が前記転写領域の転写開始位置に移動するまでの移動時間Sが、0.5秒以下に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
前記移動時間Sは、賦型ロールの直径寸法Dと、賦型ロールの周速度Vと、加熱領域の最下流位置から前記転写領域の転写開始位置までの角度αとに基づいて設定されるものであり、
S=[(π×D)×(α÷360)]÷Vにより求められることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
エンボスパターンを彫刻した賦型ロールと挟圧部材との間に、ダイから連続的に供給投入される溶融した熱可塑性樹脂からなるシート原反を通過させて、前記賦型ロールのエンボスパターンをシート原反に転写しつつ、シート原反を圧延冷却する熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、
前記賦型ロールの外表面の所定領域を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度に加熱する工程を有し、
この工程は、熱源からの放射熱を反射手段で反射して前記賦型ロールの外表面において前記転写領域の転写開始位置の近傍を照射させて加熱することを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−315295(P2006−315295A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140112(P2005−140112)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】