説明

熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置および熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】反冷却ドラム面の熱可塑性樹脂フィルムを冷却する冷却装置において、フィルム表面に凹凸を生じさせることによるフィルム厚みムラを発生させることなく、ヘイズに優れた厚物フィルムを高速で生産することができる生産性の高い冷却装置を用いたフィルム製造方法を提供する。
【解決手段】冷却ドラム上の反冷却ドラム面フィルムに、吹き付けノズルよりエアーを吹き付けて冷却を行う冷却装置において、反ドラム面のフィルム表面温度を測定し、
反冷却ドラム面に設置された複数ノズルからフィルムに向けて吹き付けるエアーの風速を任意に調整できる手段を有し、また、冷却ドラム出口に設置されたフィルム厚み測定器によりフィルム流れ方向の厚みムラを測定し、フィルム厚みムラの大きさにより風速を調整することが可能な冷却装置を用いたフィルム製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学用フィルム、表面保護材、電気絶縁材料および離型材等の用途、中でも光学用フィルムおよび表面保護材などの透明性と平面性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置および熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)に代表される各種ディスプレイ部材の軽量化、低コスト化が進められている中、ディスプレイの重要部材として、光学用フィルムの市場が拡大している。光学用フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリカーボネート(PC)等の熱可塑性樹脂からなる各種の透明フィルムを基材とし、機能性付与のため、例えば傷つきを防止する保護膜(ハードコート層)、AR層(反射防止層)、集光・光拡散層、偏光板等を基材に積層する各種表面処理加工が施されて得られるものであり、基材フィルムには透明性が強く求められている。一方で大型ディスプレイ等に組み込んで加工される際、十分な強度が要求されるため、厚みが150μm以上の厚物フィルムが好んで使われている。
【0003】
このようなフィルムの製造工程には、溶融させた熱可塑性樹脂を押出ダイより押出して冷却する工程があり、透明性に優れたフィルムを製造するには押し出された熱可塑性樹脂を速やかに所望の温度まで冷却することが重要となる。熱可塑性樹脂を速やかに冷却する方法としては、冷却ドラムに熱可塑性樹脂を密着させる方法が一般的であり、厚み150μm以上の厚物フィルムの製造時は、冷却ドラムに接しないフィルム面(反冷却ドラム面という)からも冷却する必要がある。なぜなら、厚物フィルムにおいて、冷却ドラムのみによる冷却の場合、反冷却ドラム面のフィルム温度は所望の温度までなかなか下がらないからである。特にポリエステルなどの結晶性樹脂からなるフィルムの場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度近傍における冷却速度が十分でないと、熱可塑性樹脂の結晶化が進行し、結果としてフィルムの透明性(ヘイズ)が低下してしまうからである。反冷却ドラム面を速やかに冷却する方法としては、反冷却ドラム面に補助冷却装置を設置し、前記溶融させた熱可塑性樹脂の冷却を促進する方法が知られている。この補助冷却装置は、たとえば、反冷却ドラム面から熱可塑性樹脂に向けて冷気を吹き付けるノズル(以下吹き付けノズルとする)により構成されているのが一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかしながら、最近の厚物フィルムでは、ヘイズに対する要求が高くなっており、従来の補助冷却装置による冷却では冷却能力が不足し、品質に問題が生じるようになった。公知の技術では冷却ドラム上において降温結晶化温度の200℃から150℃の範囲を5℃/秒以上の冷却速度でフィルムを冷却することでヘイズに優れたフィルムを得られることが公知となっている。(例えば、特許文献3)厚みが150μm以上で厚みが大きくなるほど、反冷却ドラム面ではフィルム温度が下がり難くなるため、フィルムが200℃まで冷却される位置では冷却ドラムの出口位置に近く、降温結晶化温度の200℃から150℃の範囲に吹き付けノズルを設置することが困難であるため、冷却ドラムの回転速度を遅くし、冷却ドラムとフィルムの接する時間を長くする、または、フィルム温度が200℃より高い温度位置のできるだけ押出ダイに近い位置から吹き付けノズルによる冷却開始する、冷気の吹き付け速度を大きくする、吹き付ける冷気の温度を下げる等の方法が取られてきた。しかしながら、冷却ドラムの回転速度を遅くする方法は生産性が低下するため、好ましくない。また、冷気の吹き付け位置を押出ダイに近づける方法と冷気の吹き付け速度を大きくする方法はフィルムの冷却効果が大きいが、フィルム融点付近の軟化しているフィルム表面に冷気を吹き付けるため、フィルム表面に凹凸を生じさせ、フィルムの厚みムラが大きくなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−239525号公報
【特許文献2】特開平7−329153号公報
【特許文献3】特開2007−185898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術では困難であったフィルムの厚みムラを発生させず、かつヘイズに優れた厚物フィルムを高速で生産するため、反冷却ドラム面のフィルム表面を変形させることなく冷却することが可能な、最も冷却効果の高い吹き付けノズルによる熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置および熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、溶融させた熱可塑性樹脂を押出ダイより冷却ドラム上にキャストし、該冷却ドラム上で冷却固化して熱可塑性樹脂フィルムを製造するに際し、冷却ドラムに接しないフィルム面(以下、反冷却ドラム面とする)側に設置された複数ノズルからフィルムに向けてエアーを吹き付ける装置において、吹き付けるエアーの風速を各ノズル個別に調整できる手段を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置である。
【0008】
また、溶融させた熱可塑性樹脂を押出ダイより冷却ドラム上にキャストし、該冷却ドラム上で冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、冷却ドラムに接しないフィルム面(以下、反冷却ドラム面とする)側に設置された複数ノズルからフィルムに向けてエアーを吹き付ける工程を有し、吹き付けるエアーの風速を各ノズル個別に調整できることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反冷却ドラム面の冷却装置の吹き付け風速を、反冷却ドラム面のフィルム表面温度を測定し調整することで、エアーの吹き付け位置を、従来の冷却装置より押出ダイに近づけることが可能となる。結果として、反冷却ドラム面のフィルムを急速に冷却することが可能となり、ヘイズに優れた厚物フィルムを高速で生産することができる。
【0010】
さらに、冷却ドラム出口に設置されたフィルム厚み測定器により、フィルム流れ方向の厚みムラを測定し測定データをフィードバックすることにより、冷却装置の吹き付け風速を再度調整することで、フィルム表面に凹凸を生じさせるフィルム厚みムラの発生を防止できる。
【0011】
この発明により得られるフィルムは、従来、フィルム厚みが150μm程度以上の厚物フィルムの製造技術では両立困難であった、優れたヘイズと小さいフィルム厚みムラの特性を同時に持ち、主にディスプレイ関連のハードコート用途、詳細には、タッチパネル、保護シート、筐体等に使用される光学機能性フィルムの基材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置の一例を示す。(但し、符号1、2、5、11、12は、従来からの装置のため除く。)
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で得られる熱可塑性樹脂フィルムは、特に限定されないが、代表的な例を挙げれば、ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ポリアミドとしてナイロン−6、ポリアリーレンサルファイドとしてポリフェニレンサルファイドなどである(以下、熱可塑性樹脂フィルムを単にフィルムと表現することがある)。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置は、例えば図1に示すものであり(但し、符号1、2、5、11、12は、従来からの装置のため除く。)、押出ダイ1とその下にある冷却ドラム2からなる従来の装置に付加する装置として、冷却ドラムの回転方向に沿って、吹き付けノズル3を、冷却ドラムの中心に向かってエアーを吹き付けるように、冷却ドラムの円周方向に複数配置するものである。
【0015】
上記の吹き付けノズルにエアーを供給するブロアは、吹き付けノズルの形状や、吹き付けエアーの流路となる配管や、ダクトの圧損に応じて静圧仕様を選定する必要があるが、圧損に対してブロアの静圧が小さい場合、必要な吹き付けエアーの風速(風量)が得られないことがあるため、高い静圧と風量を得ることができるターボファンが好ましい。流路となる配管やダクトは、必要な風量より選定する必要があるが、流路内の各箇所において20m/s以下となるような断面積で選定することが好ましい。
【0016】
上記ブロアには、複数ノズルに供給する風量の調整が可能な風量調整機構を有することが望ましく、例えば、風量調整装置7が取付けられている。ブロアの風量調整装置は、例えば、電気式であればブロアモーターの周波数を変更することにより、回転数を変更するインバータや、ブロアへの入力電流を変更するスライダック方式、機械式であれば、ブロアのエアー出口にダンパーを設置する方法を用いることができるが、汎用性が高く、風量の調整が容易であるインバータによるブロア風量の変更が好ましい。使用するインバータは、特に限定されないが、汎用性と信頼性が高いものが好ましく、例えば、三菱電機製や東芝製等が例示される。また、下限に近い周波数でも過電流によるインバータ停止を防止するため、使用するブロアモーターよりも電気容量が大きいインバータを用いることがより好ましい。
【0017】
上記の供給されるエアーは、各吹き付けノズルへと分配された後に、風量調整弁9により、各吹き付けノズル毎に吹き付け風量が調整され、吹き付けノズルより反冷却ドラム面の熱可塑性樹脂フィルムに向けて吹き付けられる。風量調整弁は、全開−全閉のON−OFF式ではなく、電動式アクチュエーターにより入力された指令信号より、自動で弁の開度を無段階に調整し、風量を調整することが可能であることが好ましい。アクチュエーター部にはポジションメーターが取付けられ、バルブ開度を電気信号として出力することが可能であることが好ましい。風量調整弁は、バタフライバルブ(バタフライダンパー)、ボールバルブ、ゲートバルブ、等を用いることができ、完全にエアーを遮断し、風量を0にできる構造であることが望ましく、風量調整が容易なバタフライバルブ(バタフライダンパー)を用いることが好ましい。バルブの材質は、製品となるフィルムに吹き付けるエアーの流路となるため、サビや異物の混入を防止するため、バルブ内面部にはステンレスを用いることが好ましく、シート部にはテフロン(登録商標)を用いることが好ましい。
【0018】
本発明における吹き付けノズルは、冷却ドラムの幅方向に長い形状となるが、幅方向での吹き付け風速ムラが10%以下であることが好ましい。幅方向での吹き付け風速ムラが大きい場合、各吹き付けノズルごとに吹き付け風速が調整されていても、幅方向で局部的に吹き付け風速が速い箇所を作り出し、フィルムの厚みムラを発生させる場合がある。吹き付けノズルは、直径1000〜2000mm、幅1000〜2600mmの冷却ドラムに対して、例えば、間隙2〜10mmのスリット状の先端部を持った吹き付けノズルを設置角5〜15°ピッチで、円周方向に複数設置する構成が好ましい。これは、これまでの吹き付けノズルでは、段数が5段より少ないとフィルムの結晶化速度の速い領域を冷却しきれず、結晶化キズが発生する可能性や、吹き付けノズルの段数が15段より多いと、吹き付けノズル部において、過冷却が生じ、冷却ドラム出のフィルム温度が低くなり、次工程、例えば、縦延伸での延伸ムラを誘発する可能性があったが、本発明では、各吹き付けノズルの吹き付け風速の調整だけでなく、吹き付け開始位置、終了位置の変更も可能となるためである。
【0019】
また、本発明における吹き付けノズルの幅は、冷却ドラム上の熱可塑性樹脂フィルムの幅に対して、100〜500mm広いことが好ましい。また、吹き付けノズルの先端面と熱可塑性樹脂フィルム表面との距離は、5〜30mmが好ましい。吹き付けノズルの先端面とフィルムの距離が5mmより近いと、フィルム表面に発生した昇華物が吹き付けノズルの先端部で析出または落下し、フィルムに異物として付着しやすくなる。また、その距離が30mmより離れると、吹き付けエアーの冷却効率が落ち、ヘイズを悪化させる可能性がある。
【0020】
本発明における吹き付けノズルより吹き付けられるエアーの風速を各ノズル個別に調整できる手段を有することが好ましい。吹き付けノズルより吹き付けられるエアーの風速は、吹き付け風量/吹き付けノズルの開口面積で求まり、風量調整弁により、吹き付け風量を調整することで吹き付けエアーの風速が調整することができる。吹き付けノズルの段数が1段の場合、ブロアの静圧が十分に大きく、吹き付けノズルの形状や吹き付けエアーの流路となる配管やダクトの圧損の影響を受けない場合は、「ブロア風量/(吹き付けノズルの1段の開口面積)」で求まる吹き付けエアー風速を得ることができ、この時の風速が最大吹き付けエアー風速となる。しかしながら、実使用時の吹き付けエアー風速は、60m/sec以下の範囲が好ましく、より好ましくは、完全に吹き付けエアーを止める場合を除けば、10〜35m/secの範囲が好ましい。
【0021】
本発明における吹き付けノズルは、冷却ドラム直上を0°としたとき、40°〜180°の範囲に設置することが好ましいが、0°〜40°の範囲や180°以上の位置でも支障がなければ、設置しても構わない。また、押出ダイに近い吹き付けノズルから吹き付けるエアー速度が速い場合、吹き上がりが大きくなり、溶融させた熱可塑性樹脂が、押出ダイから押し出されて冷却ドラムに着地するまでの間で、振動することで厚みムラを起こす場合がある。そのため、熱可塑性樹脂が冷却ドラムに着地する地点に近い吹き付けノズルの吹き付け風速は遅くし、着地する地点から離れるほど吹き付け風速を速くすることが好ましい。熱可塑性樹脂が冷却ドラムに着地する地点に近い位置の吹き付けノズル風速を遅くしても、厚みムラが発生する場合は、例えば、熱可塑性樹脂が冷却ドラムに着地する地点に近い吹き付けノズル数本の吹き付けエアーを止めて風速0m/secとし、設置した吹き付けノズルの途中から冷却を開始してもよい。また、逆に、冷却装置により、フィルム温度が下がり過ぎてしまう場合は、冷却ドラム出口位置近くの吹き付けノズル数本の吹き付けエアーを止めて風速0m/secとし、設置した吹き付けノズルの途中から冷却を終了してもよい。
【0022】
本発明における吹き付けエアー温度は、好ましくは5〜20℃の範囲であり、また、吹き付けエアーの風速の調整範囲は、各吹き付けノズルから均等にエアーを吹き付けるのであれば、理論的には、「ブロア風量/(各吹き付けノズルの開口面積×吹き付けノズルの総段数)」が最小値となる。一方、吹き付けノズル段数を減らして吹き付ける場合は、均等に吹き付ける場合の風速を超える風速が可能となる。
【0023】
ブロアより供給されたエアーは、熱交換器8を通過する際に冷媒との間で熱交換し、冷却される。熱交換に使用する冷媒は、吹き付けエアーの温度が高い場合は冷水を用いても構わないが、吹き付けエアー温度を低温、例えば5℃とする場合、例えば、フロン式冷凍機を設置し、フロンを直接冷媒として用いたり、フロンと熱交換した冷水を冷媒として用いることが好ましい。フロンと熱交換した冷水を冷媒として用いる場合、凍結を防止するため、冷水には不凍液を混ぜることが好ましい。
【0024】
吹き付けエアーの流路において、熱交換器より下流位置にフィルターを設置し、エアーに混入した異物を除去することが好ましい。吹き付けエアーに僅かな異物が混入してもフィルムの品位が低下することから、設置するフィルターは、HEPAフィルターであることがより好ましい。また、HEPAフィルターより下流位置の配管、ダクト、風量調整弁、ノズル部等には同様に流路内でのサビや異物混入を防止するため、材質としてステンレスを用いることが好ましい。
【0025】
上記、各吹き付けノズル間には、反冷却ドラム面のフィルム表面温度を測定する非接触式表面温度計4を設けることが望ましい。
【0026】
各々のノズルから出るエアーがフィルムに当たる部分よりも、フィルム流れ方向の上流側で、フィルム表面温度を測定し、該フィルム表面温度に応じて、エアーの風速の調整が可能な風速調整機構を有することが好ましい。ここで、各々のノズルから出るエアーの当たる部分は、フィルム流れ方向の上流側で、その直前が好ましい。
【0027】
フィルム表面温度測定は非接触式表面温度計が好ましく、該非接触式表面温度計は、赤外線放射温度計などフィルム表面の温度測定ができる測定器であれば、特に限定されないが、測定温度に応じた電気信号を出力する機能を備えており、比較的安価で、設備的に小型で、設置が容易な赤外線放射温度計(温度センサ)が好ましい。赤外線放射温度計は、雰囲気温度が比較的高い環境で使用することになるため、使用可能温度範囲が55℃以上であることが好ましい。例えば、オムロン製非接触温度センサー:ES1Cや、キーエンス製デジタル放射温度センサー:FT−H20等を用いることが可能である。赤外線放射温度計は、各段の吹き付けノズルに入る直前のフィルム表面温度を測定可能な位置に設置され、少なくともフィルム幅方向の中心位置が測定できるように設置される。また、フィルム幅方向に複数個設置して、フィルム端部付近の温度が測定可能であればより好ましい。
【0028】
測定されたフィルム表面温度に応じた電気出力を制御装置10に送る際、制御装置には、熱可塑性樹脂フィルムの品種、厚み、フィルム表面温度に応じた指令信号を予め設定しておき、フィルム表面温度に応じた指令信号を、各風量調整弁に出力し、吹き付けエアーの風速を最適な風速へと調整することが好ましい。
【0029】
冷却ドラムを通過した熱可塑性樹脂フィルムは、冷却ガイドロール11、12を通過した後、フィルム厚み測定器13により、フィルム流れ方向のフィルム厚みを測定され、フィルムの厚みデータは制御装置へ送信される。制御装置に送られた厚みムラデータが大きい場合には、風量調整弁に指令信号が送られ、吹き付けエアーの風速が再調整される。
【0030】
フィルム流れ方向において、冷却ドラムよりも下流に設置されたフィルム厚み測定器により、フィルム流れ方向の厚みムラを、少なくともフィルム幅方向の1箇所で測定し、厚みムラの大きさにより、エアーの風速の調整が可能な風速調整機構を有することが好ましい。
【0031】
制御装置には、フィルム厚みムラに応じた指令信号値が予め設定しておき、フィルム厚みムラデータをフィードバックし、調整を行うことで、徐々にフィルム厚みムラは小さくなり、規定内のフィルム厚みムラとなる。フィルム厚み測定器は、測定するフィルム厚み、物性等に合わせて、β線、X線、赤外線、光干渉式を用いたセンサーによる非接触方式であることが好ましい。また、十分な精度が得られるのであれば、レーザー変位計等を用いて厚みを測定しても構わない。センサー部は幅方向の移動が可能で、任意の場所に停止可能であることが好ましいが、センサー位置を固定する場合は、少なくともフィルム幅方向のセンター位置に設置し、フィルムの縦(MD)方向厚みを測定する。必要に応じ、フィルム端部近くも測定が可能なように複数台設置することがより好ましい。フィルム厚みを測定する位置のフィルムはバタツキが少ないことが好ましく、フィルム厚み測定器を設置する上下流位置にガイドロール等を設置し、フィルムのバタツキを小さくする構成がより好ましい。
【0032】
その後、フィルムは、公知の方法で、縦方向、横方向にそれぞれ3倍程度に延伸され、必要に応じ、熱処理され、巻き取られ、製品フィルムとなる。
【実施例】
【0033】
本発明における特性の測定方法及び効果の評価方法は次のとおりである。
【0034】
1.フィルム厚みムラ
長さ1m、幅600mmのフィルムから、フィルムの幅方向中心部および端部から100mmの位置をサンプル中央とするようにして、幅40mmの厚み測定用サンプルを3箇所切り出した。その後、接触式厚み計(アンリツ(株)製KG60/A)を用いて、各厚み測定用サンプルの長手方向の厚みを連続的に測定してチャートレコーダに出力した。出力した厚みのプロファイルから厚みの最大値(MAX)と最小値(MIN)の差を厚みムラR(=MAX-MIN)μmとした。厚みムラRは3箇所の値を平均した。
【0035】
なお、以下の実施例、比較例で記載する厚みムラについて、冷却ガイドロール通過後に設置されたフィルム厚み測定器により測定されたフィルム厚みをインラインフィルム厚み、本測定方法により測定される本発明装置を用いて製造される製品としてのフィルム厚みを製品フィルム厚みとし、区別して記載する。
【0036】
2.フイルムヘイズ
JIS−K7105(1981)にもとづき、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製NDH2000)を用いて測定した。長さ1m、幅600mmのフィルムに対して、長さ方向、幅方向の一辺が100mmの正方形の範囲で、但し、隣り合う正方形同士は重ならず、隣り合う正方形同士が一辺を共有するように、長さ方向9個所×幅方向5個所の計45箇所で測定し、その平均値をとった。
【0037】
3.吹き付けエアー風速
開口面積120mm×13mmのカップを吹き付けノズル先端部に密着するように押し当て、
マルチ環境測定器(testo435、株式会社テストー製)にピトー管接続用シリコンチューブ(φ7、長さ2m)を接続し、各吹き付けノズルの幅方向5箇所で測定し、平均値を各吹き付けノズルの吹き付け風速とした。
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
図1に示す冷却ドラム(直径:1600mm、幅:1500mm)上のフィルムの反冷却ドラム面に、吹き付けノズルによりエアーを吹き付けて冷却を行う冷却装置において、吹き付けノズルが、押出ダイ位置を角度0°としたとき、40°〜170°の範囲に10°毎に14カ所設置されている。以下、最も押出ダイに近い吹き付けノズルを吹き付けノズルNo.1、冷却ドラムの回転方向に次の吹き付けノズルを吹き付けノズルNo.2、次を吹き付けノズルNo.3・・・No.14とする。また、同様に各吹き付けノズル直前に設置された非接触式表面温度計を非接触式表面温度計No.1、No.2・・・No.14とする。
【0040】
実質的に不活性粒子を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを、180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して温度290℃で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、溶融樹脂を押出ダイより吐出し、速度:6m/minで回転する表面温度20℃の冷却ドラム上に、厚さ1.8mmのフィルムとして冷却固化させた。全ての吹き付けノズルの先端に設けられた2mmのスリット状間隙より、風速:30m/sec、風温:10℃で反冷却ドラム面のフィルムに吹き付けエアーを吹き付けた。各非接触式表面温度計にて反冷却ドラム面のフィルム表面温度を測定したところ、吹き付けノズルNo.1の直前に設置された非接触式表面温度計No.1が270℃であった。このフィルム表面温度に基づき、吹き付けノズルNo.1のみ風量調整弁の開度を風速:10m/secに変更した。このフィルムが冷却ガイドロールを通過した後、フィルム厚み測定器により、フィルム流れ方向のインラインフィルム厚みを測定し、目標厚み:1.8mm(1800μm)に対してフィルムの厚みムラは3μm以内であり、良好であった。また、得られた製品フィルム厚みムラR値は、1μm、得られたフィルムのヘイズも1.3%〜1.4%であり、良好であった。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様にして、実質的に不活性粒子を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して温度290℃で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、溶融樹脂を押出ダイより吐出し、速度:6m/minで回転する表面温度20℃の冷却ドラム上に、厚さ2.5mmのフィルムとして冷却固化させた。全ての吹き付けノズルの先端に設けられた2mmのスリット状間隙より、風速:40m/sec、風温:10℃で反冷却ドラム面のフィルムに吹き付けエアーを吹き付けた。各非接触式表面温度計にて反冷却ドラム面のフィルム表面温度を測定したところ、非接触式表面温度計No.1が260℃、非接触式表面温度計No.2が256℃、非接触式表面温度計No.3が253℃であった。このフィルム表面温度に基づき、風量調整弁の開度を変更し、吹き付けノズルNo.1〜吹き付けノズルNo.3の風速を0m/sec、吹き付けノズルNo.4の風速を5m/sec、吹き付けノズルNo.5の風速を10m/sec、吹き付けノズルNo.6の風速を20m/secに変更した。このフィルムが冷却ガイドロールを通過した後、フィルム厚み測定器により、フィルム流れ方向のフィルム厚みを測定し、目標厚み:2.5mm(2500μm)に対してフィルムの厚みムラが20μmであったため、この厚みムラ測定値に基づき、各風量調整弁の開度を変更し、吹き付けノズルNo.1〜5の吹き付け風速を0m/sec、吹き付けノズルNo.6の風速を10m/sec、吹き付けノズルNo.7の風速を20m/secに変更した。冷却ガイドロールを通過後のフィルム厚み測定器で目標厚み:2.5mm(2500μm)に対してインラインフィルムの厚みムラは8μm以内であり、良好であった。また、得られた製品フィルム厚みムラR値は、2μm、ヘイズも1.5%〜1.6%であり、良好であった。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様にして、冷却装置において、吹き付けノズルが14カ所設置しているが、非接触式表面温度計と吹き付けノズルの風速調整を行う風量調整弁が設置されていない装置において、実質的に不活性粒子を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して温度290℃で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、溶融樹脂を押出ダイより吐出し、速度:6m/minで回転する表面温度20℃の冷却ドラム上に厚さ1.8mmのフィルムとして冷却固化させた。全ての吹き付けノズルの先端に設けられた2mmのスリット状間隙より、風速:30m/sec、風温:10℃で反冷却ドラム面のフィルムに吹き付けエアーを吹き付けた。得られたフィルムのヘイズは1.3%〜1.4%で良好であったが、製品フィルム厚みムラR値は4.5μmと満足できるものではなかった。
【0043】
(比較例2)
比較例1と同様にして、冷却装置において、実質的に不活性粒子を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して温度290℃で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、溶融樹脂を押出ダイより吐出し、速度:6m/minで回転する表面温度20℃の冷却ドラム上に厚さ2.5mmのフィルムとして冷却固化させた。全ての吹き付けノズルの先端に設けられた2mmのスリット状間隙より、風速:40m/sec、風温:10℃で反冷却ドラム面のフィルムに吹き付けエアーを吹き付けた。この時、得られたフィルムの製品フィルム厚みを測定したところ、製品フィルム厚みムラR値は5.75μmで、全ての吹き付けノズルの風速を10m/secに変更した。しかし、得られたフィルムのヘイズは3.5%〜3.8%と悪く、製品フィルム厚みムラR値は4.0μmになり、変更前よりは小さくなったが、満足できるものではなかった。
【0044】
(比較例3)
比較例1と同様にして、冷却装置において、実質的に不活性粒子を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して温度290℃で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、溶融樹脂を押出ダイより吐出し、速度:10m/minで回転する表面温度20℃の冷却ドラム上に厚さ2.5mmのフィルムとして冷却固化させた。全ての吹き付けノズルの先端に設けられた2mmのスリット状間隙より、風速:40m/sec、風温:10℃で反冷却ドラム面のフィルムに吹き付けエアーを吹き付けた。この時得られたフィルムの製品フィルム厚みを測定したところ、厚みムラR値は7.9μmだったので、全ての吹き付けノズルの風速を10m/secに変更した。しかし、得られたフィルムのヘイズは3.8%〜4.0%と悪く、製品フィルム厚みムラR値は6.0μmになった。再度、全ての吹き付けノズルの風速を7m/secに変更した。しかし、得られたフィルムのヘイズは4.1%〜4.3%と悪く、製品フィルム厚みムラR値は5.8μmになり、変更前よりは小さくなったが、満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳述したように、本発明は、冷却ドラム上の反冷却ドラム面フィルムに、吹き付けノズルよりエアーを吹き付けて冷却を行う冷却装置及びそれを用いたフィルムの製造方法に係わるものであり、本発明により、従来の冷却装置より、反冷却ドラム面のフィルムを急速に冷却することが可能となり、ヘイズに優れた厚物フィルムを高速で生産すること可能となる。また、フィルム流れ方向の厚みムラを測定することでフィルム厚みムラの発生が防止でき、高品質の製品を安定して生産することができ有用である。
【符号の説明】
【0046】
1:押出ダイ
2:冷却ドラム
3:吹き付けノズル
4:非接触式表面温度計
5:熱可塑性樹脂フィルム
6:ブロア
7:ブロア風量調整装置
8:熱交換器
9:風量調整弁
10:制御装置
11:冷却ガイドロール
12:冷却ガイドロール
13:フィルム厚み測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融させた熱可塑性樹脂を押出ダイより冷却ドラム上にキャストし、該冷却ドラム上で冷却固化して熱可塑性樹脂フィルムを製造するに際し、冷却ドラムに接しないフィルム面(以下、反冷却ドラム面とする)側に設置された複数ノズルからフィルムに向けてエアーを吹き付ける装置において、吹き付けるエアーの風速を各ノズル個別に調整できる手段を有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置。
【請求項2】
各々のノズルから出るエアーがフィルムに当たる部分よりも、フィルム流れ方向の上流側で、フィルム表面温度を測定し、該フィルム表面温度に応じて、エアーの風速の調整が可能な風速調整機構を有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置。
【請求項3】
複数ノズルに供給する風量の調整が可能な風量調整機構を有する請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置。
【請求項4】
フィルム流れ方向において、冷却ドラムよりも下流に設置されたフィルム厚み測定器により、フィルム流れ方向の厚みムラを、少なくともフィルム幅方向の1箇所で測定し、厚みムラの大きさにより、エアーの風速の調整が可能な風速調整機構を有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの冷却装置。
【請求項5】
複数ノズルからエアーを吹き付ける装置において、吹き付けるエアーの風速を各ノズル個別に調整できる手段を有することを特徴とするエアー吹き付けノズル。
【請求項6】
溶融させた熱可塑性樹脂を押出ダイより冷却ドラム上にキャストし、該冷却ドラム上で冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、冷却ドラムに接しないフィルム面(以下、反冷却ドラム面とする)側に設置された複数ノズルからフィルムに向けてエアーを吹き付ける工程を有し、吹き付けるエアーの風速を各ノズル個別に調整することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−101398(P2012−101398A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250452(P2010−250452)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】