説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】縦延伸工程でフィルム表面にキズが発生することが抑制される二軸配向した厚手の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度がTg(℃)である未延伸の熱可塑性樹脂シート11を加熱ロール24から第1冷却ロール26に搬送するとともに加熱ロールと第1冷却ロールとの間で搬送方向に延伸することにより、厚みが500μm以上2000μm以下であるフィルム13Aにする。搬送方向に延伸した後のフィルムを第1冷却ロール26から第2冷却ロール28に搬送するとともに第1冷却ロールと接触した直後から第2冷却ロールと接触するまでの区間で30℃/s以上100℃/s以下の冷却速度で急冷することにより、該フィルムが第2冷却ロールと接触するまでに該フィルムの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にする。第2冷却ロールを通過した後のフィルムを幅方向に延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)の二軸延伸フィルムは、機械的強度、耐熱性、耐薬品性等を有しており、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部材用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイフィルム等のガラス表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
ポリエステルフィルムを製造する場合、例えば、熱可塑性樹脂の溶融物を押出しダイから押し出し、キャスティングロール上に付与してシート状とし、この熱可塑性樹脂シートをさらに加熱ロール、冷却ロールなどを通過させて縦延伸及び横延伸(二軸延伸)を行うことで所定の厚みを有するフィルム状に成形する。
【0004】
このような方法により二軸延伸フィルムを製造する場合、途中のフィルム(ベース)は種々のロールと接触するため、ロールとの接触によってフィルムの表面にキズが発生する場合がある。フィルム表面のキズ対策として、例えば、ロール表面の粗度を小さくしてフィルムの保持力を向上させる方法がある。しかし、ベースのロールへの入り際、剥離際では保持力が低下するため、ロール上でフィルムが滑ってキズが入り易い。
【0005】
また、ロールに細かいキズが入り、それが原因でフィルムにもキズが入ることを防ぐため、延伸部の冷却ロールとして表面の硬度が高いロールを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ロールに付着した異物に起因してフィルムにキズが発生することを抑制するため、ロールとフィルムの摩擦による帯電を抑えた材質のロールを用いること(例えば、特許文献2参照)、あるいは、ロールにレーザー光を間欠照射してロール表面の汚れを除去すること(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0007】
また、延伸前の予熱ロールの温度を熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度以下にするとともに輻射加熱源を用いて熱可塑性樹脂シートを加熱し、延伸することが提案されている(特許文献4参照)。
【0008】
一方、近年、地球環境の保護の観点から、太陽光を電気に変換する太陽光発電が注目されている。この太陽光発電に用いられる太陽電池モジュールは、太陽光が入射するガラスの上に、(封止材)/太陽電池素子/封止材/バックシートがこの順に積層された構造を有している。
【0009】
太陽電池モジュールは、風雨や直射日光に曝される過酷な使用環境下でも、数十年もの長期間に亘って発電効率などの電池性能を保持できるよう、高い耐候性能を備えていることが必要とされる。このような耐候性能を与えるためには、太陽電池モジュールを構成するバックシートや素子を封止する封止材などの諸材料も耐候性が求められる。また、これら諸材料間、例えばバックシートと封止材(例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA))との間の密着性等においても、強靭な耐候性が要求される。バックシートとしては、一般的に耐候性を有するPETやPENなどのポリエステルフィルムが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3287602号公報
【特許文献2】特開2004−322571号公報
【特許文献3】特開2009−40036号公報
【特許文献4】特開2009−233918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
太陽電池モジュールのバックシート(裏面保護膜)のように耐候性が要求される場合、通常、厚手のポリエステルフィルムが使用されるが、厚手のフィルムを二軸延伸により製造する場合、フィルムがロールに接触する面と反対側の面とで温度変化量の差がつき易い。そのため、フィルムを縦延伸する工程では、線膨張により縮む力に抵抗が掛かって滑り易くなり、結果としてフィルム表面に摺りキズが入り易い。フィルム表面にキズが入ると、耐候性の低下につながってしまう。
また、ディスプレイ用フィルムなど光学用途のフィルムは、キズに対する要求が厳しく、延伸工程でフィルム表面にキズが入ると、光学特性の低下や不良品となってしまう。
【0012】
本発明は、縦延伸工程でフィルム表面にキズが発生することが抑制される二軸配向した厚手の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> ガラス転移温度がTg(℃)である未延伸の熱可塑性樹脂シートを加熱ロールから第1冷却ロールに搬送するとともに前記加熱ロールと前記第1冷却ロールとの間で搬送方向に延伸することにより、厚みが500μm以上2000μm以下であるフィルムにする縦延伸工程と、前記搬送方向に延伸した後の前記フィルムを前記第1冷却ロールから第2冷却ロールに搬送するとともに前記第1冷却ロールと接触した直後から前記第2冷却ロールと接触するまでの区間で30℃/s以上100℃/s以下の冷却速度で急冷することにより、該フィルムが前記第2冷却ロールと接触するまでに該フィルムの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にする冷却工程と、前記第2冷却ロールを通過した後の前記フィルムを幅方向に延伸する横延伸工程と、を含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<2> 前記冷却工程において、前記フィルムが前記第2冷却ロールを通過する間の該フィルムの厚さ方向の平均温度の温度変化量を20℃以下に、且つ、前記第2冷却ロールと接触する面の温度変化量と前記第2冷却ロールと接触しない面の温度変化量との差を20℃以下に制御する<1>に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<3> 前記フィルムが前記第2冷却ロールを通過する間の該フィルムの搬送方向及び幅方向の少なくとも1方向の収縮率を0.2%以下にする<1>又は<2>に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<4> 前記第1冷却ロールと接触している時の前記フィルムに対し、該第1冷却ロールと接触しない側の面を強制的に冷却する<1>〜<3>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<5> 前記第1冷却ロールと前記第2冷却ロールとの間の前記フィルムを強制的に冷却する<1>〜<4>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<6> 前記第2冷却ロールと接触している時の前記フィルムに対し、該第2冷却ロールと接触しない側の面を強制的に冷却する<1>〜<5>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<7> 前記第1冷却ロール及び前記第2冷却ロール以外の前記フィルムを冷却する手段として、気体を吹付けて冷却を行う手段、液体を介して冷却を行う手段、及び、固体を接触させて冷却を行う手段から選ばれる少なくとも1種の手段を用いる<4>〜<6>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、縦延伸工程でフィルム表面にキズが発生することが抑制される二軸配向した厚手の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を実施する装置の構成例を示す概略図である。
【図2】横延伸工程を実施する横延伸機の構成例を示す概略図である。
【図3】太陽電池モジュールの構成例を示す概略断面図である。
【図4】フィルムが冷却ロールと接触する側の温度変化量ΔT1(℃)と接触しない側の温度変化量ΔT2(℃)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、厚手の熱可塑性樹脂フィルムを製造する際にロールとの摺擦によって生じるキズについて研究を重ねた。縦延伸を行った後のフィルムの厚みが大きいと、図4に示すように、冷却ロール6と接触する側の温度変化量ΔT1(℃)と接触しない側の温度変化量ΔT2(℃)に差が付き易く、フィルム8は線膨張により縮む力に抵抗がかかって滑り易くなり、ロール6との接触面に擦りキズが入り易い。また、縦延伸後のフィルムの温度がガラス転移温度Tg(℃)以上では、第2冷却ロール6上で残留歪みによる収縮が起き、また、表面の結晶化が進行しているため、キズが付いた際に横延伸工程後もキズが残り易い。一方、縦延伸直後の第1冷却ロールでは、フィルム表面が低結晶領域であるためキズが浅く、横延伸工程で改善することができる。
【0017】
これらの知見に基づいてさらに研究を重ねたところ、溶融押出した未延伸のシートを、加熱ロールと第1の冷却ロールとの間で所定の厚みの範囲内となるように縦延伸するとともに、急速冷却を行い、次の第2の冷却ロールに巻かれる前にフィルムの温度を(Tg−5)℃以下にすれば、第2のロール上での収縮が抑制されて摺りキズが入ることが抑制され、さらに、第1の冷却ロール上で生じた浅いキズは、その後の横延伸工程でほとんど除去することができる結果、表面キズが抑制された厚手の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを製造することができることを見出した。
【0018】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、
ガラス転移温度がTg(℃)である未延伸の熱可塑性樹脂シートを加熱ロールから第1冷却ロールに搬送するとともに前記加熱ロールと前記第1冷却ロールとの間で搬送方向に延伸することにより、厚みが500μm以上2000μm以下であるフィルムにする縦延伸工程と、
前記搬送方向に延伸した後の前記フィルムを前記第1冷却ロールから第2冷却ロールに搬送するとともに前記第1冷却ロールと接触した直後から前記第2冷却ロールと接触するまでの区間で30℃/s以上100℃/s以下の冷却速度で急冷することにより、該フィルムが前記第2冷却ロールと接触するまでに該フィルムの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にする冷却工程と、
前記第2冷却ロールを通過した後の前記フィルムを幅方向に延伸する横延伸工程と、
を含む。
【0019】
図1は、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を実施する装置の構成の一例を概略的に示している。この装置100は、主に、ポリエステルの溶融樹脂をキャストしてポリエステルシートを製膜する製膜工程部10、製膜工程部10で製膜されたポリエステルシートを搬送方向に延伸してポリエステルフィルムにする縦延伸工程部12、縦延伸工程部12で縦延伸されたポリエステルフィルムを急速に冷却する冷却工程部14、冷却工程部14で冷却されたポリエステルフィルムを幅方向に延伸する横延伸工程部16、横延伸工程部16で延伸されたポリエステルフィルムを巻き取る巻取工程部18から構成されている。
【0020】
<製膜工程>
まず、ガラス転移温度がTg(℃)である未延伸の熱可塑性樹脂シートを得るための製膜工程について説明する。
製膜工程部10では、製膜工程部10にはダイ20及びキャスティングドラム22が設けられ、原料となる溶融樹脂を押してシート状に成形する。
原料となる熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、太陽電池裏面保護用フィルムを製造する場合は、チタン系触媒を用いて重縮合したポリエステル樹脂を用いることが好ましい。このポリエステル樹脂については後述する。
ポリエステル樹脂を十分乾燥後、例えば、融点+10〜50℃の温度範囲に制御された押出機、フィルター及びダイを通じてシート状に溶融押し出しし、回転するキャスティングドラム22上にキャストして急冷固化する。これによりポリエステル樹脂シート11を得る。
【0021】
ポリエステル樹脂シート11の厚みは、目標とする二軸延伸フィルムの厚みにもよるが、ポリエステル樹脂シート11を縦延伸した後の厚みが500μm以上2000μm以下である厚手のフィルム13Aにするため、ポリエステル樹脂シート11の厚みは、例えば1500mm以上8000mmとすることが好ましい。
ポリエステル樹脂シート11の厚みは、押出機の吐出量、ダイ20のスリットの幅及び高さなどを調整することによって制御することができる。
【0022】
<縦延伸工程>
製膜工程で得られた未延伸のポリエステル樹脂シート11を、縦延伸工程部12に送り込んで縦延伸する。
縦延伸工程部12には、それぞれ所定の速度で回転する加熱ロール24及び第1冷却ロール26と、各ロール24,26との間でシート11(フィルム13)を挟み込むためのニップロール25,27が設けられている。加熱ロール24の前にはシート11を延伸せずに加熱するための予熱ロール23,23Nが設けられている。なお、図1では、2つの予熱ロール23,23N間は省略されている。また、加熱ロール24と第1冷却ロール26との間にフリーロール(図示せず)が設けられていても良い。予熱ロール23,23Nやフリーロールの数は限定されず、ライン速度やフィルム厚みに応じて適宜設ければよい。
また、加熱ロール24と第1冷却ロール26との間には、縦延伸されるポリエステル樹脂シート11を加熱するための赤外線ヒータ等の加熱手段15を設けてもよい。加熱手段15はロール24,26間を搬送されるシート11の片面側に設けてもよいし、両面側に設けてもよい。例えば、加熱ロール24付近に遠赤外線ヒータを設け、未延伸ポリエステル樹脂シート11を80℃以上110℃以下に加熱する。
【0023】
未延伸ポリエステル樹脂シート11は、予熱された後、それぞれ所定の速度で回転する加熱ロール24から第1冷却ロール26に送られる。出口側の第1冷却ロール26は、入口側の加熱ロール24よりも早い搬送速度でポリエステル樹脂シート11を搬送することにより、加熱ロール24と第1冷却ロール26との間で搬送方向(縦方向)に延伸されてシート11よりも厚みが薄いフィルム13Aに加工される。本発明では、この縦延伸により、500μm以上2000μm以下の厚みを有するフィルム13Aにする。縦延伸後のフィルムの厚みが500μm未満であると、横延伸の倍率を小さく抑えることとなり、横延伸前に生じたキズを横延伸によって除去することが困難となる。一方、縦延伸後のフィルム13Aの厚みが2000μmを超えると、厚さ方向の温度ムラが大きなり、冷却工程においてキズが入り易い。このような観点から、縦延伸後のフィルム13Aの厚みは、700μm以上1500μm以下にすることが好ましく、900μm以上1200μm以下にすることがより好ましい。
【0024】
フィルム13Aの厚みは、未延伸のポリエステル樹脂シート11の厚み、加熱ロール24及び第1冷却ロール26の各回転速度などを調整することによって制御することができる。
縦延伸倍率は、加熱ロール24に導入する未延伸ポリエステル樹脂シート11の厚みなどにもよるが、縦延伸での厚みムラ発生抑制のため、2.0倍以上4.0倍以下が好ましく、2.8倍以上3.5倍以下がより好ましい。
【0025】
<冷却工程>
次に、縦延伸工程で500μm以上2000μm以下の厚さにしたフィルム13Aを冷却工程部14で急冷する。
冷却工程部14では、搬送方向(縦方向)に延伸した後のフィルム13Aを第1冷却ロール26から第2冷却ロール28に搬送するとともに第1冷却ロール26と接触した直後から第2冷却ロール28と接触するまでの区間で30℃/s以上100℃/s以下の冷却速度で急冷することにより、フィルム13Aが第2冷却ロール28と接触するまでにフィルム13Aの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にする。
ここで、上記区間におけるフィルム13Aの冷却速度が30℃/s未満では、フィルム13Aの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にすることが困難であり、一方、100℃/sより大きいとしわが発生し易くなってしまう。
また、フィルム13Aが第2冷却ロール28と接触するまでにフィルム13Aの厚み方向の平均温度が(Tg−5)℃より大きいと、第2冷却ロール28上で残留歪による収縮がおきてしまい、表面が結晶化しているため、キズがついた際に横延伸工程後もキズが残ってしまう。
【0026】
縦延伸されたフィルム13Aを、第1冷却ロール26と接触した直後から第2冷却ロール28と接触するまでの区間で急冷するには、例えば、第1冷却ロール26のみで急冷することを試みてもよいが、縦延伸されたフィルム13Aが高温であり、第1冷却ロール26のみで上記冷却速度と厚み方向の平均温度の両方を達成することが難しい。そこで、第1冷却ロール26及び第2冷却ロール28以外にフィルム13Aを強制的に冷却する手段17を設け、第1冷却ロール26と接触している時のフィルム13Aに対し、第1冷却ロール26と接触しない側の面を強制的に冷却することが好ましい。
また、第1冷却ロール26と第2冷却ロール28との間のフィルム13Aを強制的に冷却してもよい。
【0027】
強制冷却手段17としては、気体を吹付けて冷却を行う手段、液体を介して冷却を行う手段、及び、固体を接触させて冷却を行う手段から選ばれる少なくとも1種の手段を用いることができる。2種以上の冷却手段を組み合わせてより効率的に冷却してもよい。
【0028】
いずれの方式の冷却手段17を用いるにせよ、フィルム13Aが第2冷却ロール28に到達する前にフィルム13Aの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にすることで、第2冷却ロール28上でのフィルム13Aの収縮に起因するキズの発生を抑制することができる。
なお、このようなキズの発生をより確実に抑制する観点から、第1冷却ロール26と接触した直後から第2冷却ロール28と接触するまでの区間でのフィルム13Aの冷却速度を35℃/s以上46℃/s以下とし、フィルム13Aが第2冷却ロール28と接触するまでのフィルム13Aの厚み方向の平均温度を(Tg−10)℃以下にすることが好ましい。なお、キズ深さの観点から、フィルム13Aが第2冷却ロール28と接触するまでのフィルム13Aの厚み方向の平均温度は32℃以上であることが好ましい。
【0029】
第2冷却ロール28に送り込まれたフィルム13Aは第2冷却ロール28上でも冷却される。フィルム13Aは第2冷却ロール28と接触するまでのフィルム13Aの厚み方向の平均温度が(Tg−5)℃以下になっているため、第2冷却ロール28上で冷却されても収縮量が小さく、フィルムが第2冷却ロール28を通過する間の該フィルム13Aの搬送方向(縦方向)及び幅方向(横方向)の少なくとも1方向の収縮率を0.2%以下にすることができる。従って、第2冷却ロール28との接触によりフィルム表面にキズが発生することが抑制される。
【0030】
第2冷却ロール28上では、線膨張によりフィルム表面にキズが入ることを防ぐため、フィルム13Aを徐冷する。具体的には、フィルム13Aが第2冷却ロール28を通過する間のフィルムの厚さ方向の平均温度の温度変化量ΔTを20℃以下に、且つ、第2冷却ロール28と接触する面の温度変化量ΔT1と第2冷却ロール28と接触しない面の温度変化量ΔT2との差を20℃以下に制御することが好ましい。ここで、第2冷却ロール28を通過する間のフィルムの厚さ方向の平均温度の温度変化量ΔTとは、第1冷却ロール26を通過したフィルム13Aが第2冷却ロール28に入り込むときの厚さ方向の平均温度と第2冷却ロール28から離れるときの厚さ方向の平均温度との差を意味する。
すなわち、第2冷却ロール28を通過する間のフィルム13Aの温度変化量を小さく抑えることで、第2冷却ロール28上で線膨張によりフィルム13Aの表面(ロールとの接触面)にキズが入ることをより確実に抑制することができる。
【0031】
第2冷却ロール28に送り込まれたフィルム13Aは縦延伸工程において調整した厚さがほぼ保たれているが、このような厚手のフィルム13Aでは第2冷却ロール28に接触する面と接触しない面とで温度変化量が異なり、フィルム13Aの両面における温度変化量の差が大きくなり易い。両面の温度変化量の差が大きいと、摺りキズの発生原因となるおそれがある。そこで、ここでも強制冷却手段19を設け、第2冷却ロール28と接触している時のフィルム13Aに対し、第2冷却ロール28と接触しない側の面を強制的に冷却することが好ましい。ここでの強制冷却手段19としても、気体を吹付けて冷却を行う手段、液体を介して冷却を行う手段、及び、固体を接触させて冷却を行う手段から選ばれる少なくとも1種の手段を用いることができる。
なお、図1では、第2冷却ロール28以降に、縦延伸したフィルム13Aを横延伸する前にさらに冷却するため冷却ロール29,29Nが設けられている。これらの冷却ロール29,29Nの数は限定されず、ライン速度やフィルム厚みに応じて適宜設ければよい。
【0032】
<横延伸工程>
次に、第2冷却ロール28を通過した後のフィルム13A(縦延伸ポリエステルフィルム)を搬送方向(縦方向)と直交する幅方向(横方向)に延伸する。
横延伸工程部では、縦延伸ポリエステルフィルム13Aを加熱しながらフィルム幅方向に張力を付与して幅方向に延伸する。横延伸機としてはテンターが用いられる。テンターは、図2に示すように、熱風などにより個々に温調可能で遮風カーテン30で区分された多数のゾーンで構成し、入口より、予熱ゾーンT、T、横延伸ゾーンT、T、T、T、熱固定ゾーンT、T、熱緩和ゾーンT〜Tn−3及び冷却ゾーンTn−2〜Tを配置することが好ましい。なお、熱緩和ゾーンT〜Tn−3及び冷却ゾーンTn−2〜Tは、必ずしも必要ではなく、必要に応じて設けるとよい。
【0033】
このように構成された横延伸工程部16で横延伸が行われるが、横延伸工程部16では、縦延伸ポリエステルフィルム13Aをテンター32内に通し、横延伸ゾーンT3、、T、Tでガラス転移温度(Tg)以上、ガラス転移温度(Tg)+70℃以下の範囲で横延伸した後、熱固定ゾーンT、Tで融点(Tm)−30℃以上、融点(Tm)−5℃以下の範囲で熱固定処理を行う。
【0034】
横延伸工程部16においては、例えば、横延伸ゾーンT3、、T、Tでガラス転移温度(Tg)以上、ガラス転移温度(Tg)+70℃以下の範囲で横延伸し、好ましくはガラス転移温度(Tg)+25℃以上、ガラス転移温度(Tg)+60℃の範囲で横延伸する。横延伸温度がガラス転移温度(Tg)未満の場合、横延伸中のポリエステルフィルム13Aに破れが生じるおそれがあり、一方、ガラス転移温度(Tg)+70℃を超える場合、ポリエステルフィルム13Aの幅方向で伸びムラが生じるおそれがある。
【0035】
また、横延伸ゾーンT3、、T、Tにおいて横延伸する倍率は3.0倍以上4.6倍以下が好ましい。横延伸倍率が3.0倍未満の場合は厚みムラが大きくなるおそれがあり、4.6倍を超える場合は破れが生じるおそれがある。
【0036】
このように横延伸した後、二軸延伸ポリエステルフィルム13Bを得ることができ、得られた二軸延伸ポリエステルフィルム13Bは巻取工程部18で巻き取られる。
以上の工程を経て、冷却ロールとの摺擦によるキズが抑制されたポリエステルフィルムを製造することができる。
【0037】
次に、本発明により熱可塑性樹脂シートを製造する場合に熱可塑性樹脂として好適に用いられるポリエステルについて説明する。
【0038】
−エステル化反応−
ポリエステルを重合する際のエステル化反応において、触媒としてチタン(Ti)系化合物を用い、Ti添加量が元素換算値で、1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明により製造するポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
Ti系化合物の量が1ppm以上であると、重合速度が速くなり、好ましい固有粘度IVが得られる。また、Ti系化合物の量が30ppm以下であると、末端COOHを上記の範囲を満足するように調節することが可能であり、また良好な色調が得られる。
【0039】
このようなTi系化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第3996871号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特開2007−204538号公報、特許3436268号、特許第3780137号等に記載の方法を適用することができる。
【0040】
本発明においてポリエステルフィルムを製造するための原料となるポリエステルは、(A)マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体と、(B)エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物と、を周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
【0041】
前記ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0042】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0043】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0044】
これらの中でより好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。
また、前記PETとしては、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるPETが好ましく、より好ましくはTi系触媒を用いたものである。
【0045】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能であり、本発明により製造するポリエステルフィルムにおいて、末端COOH量を所定の範囲に調整するのに好適である。
【0046】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0047】
前記Ti系触媒の中でも、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種を好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0048】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、本発明の添加方法によって末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0049】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0050】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステル樹脂の製造方法により作製されるのが好ましい。
【0051】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂が得られる。
【0052】
このポリエステル樹脂は、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0053】
上記において、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する場合、有機キレートチタン錯体等はエステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよい。また、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0054】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設けることが好ましい。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始することができる。
【0055】
(リン化合物)
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種を用いることができる。本発明における5価のリン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0056】
5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0057】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0058】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは65ppm以上75ppm以下となる量である。
【0059】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
【0060】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0061】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0062】
本発明におけるエステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング、添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用するのみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0063】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0064】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.0≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0065】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0066】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0067】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0068】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0069】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0070】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0071】
本発明においては、上記のエステル化反応工程及び重縮合工程を設けることにより、チタン原子(Ti)、マグネシウム原子(Mg)、及びリン原子(P)を含むと共に、下記式(i)から算出される値Zが、下記の関係式(ii)を満たすポリエステル樹脂組成物を生成することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
【0072】
ポリエステル樹脂組成物は、+0≦Z≦+5.0を満たすものであることで、Ti、P、及びMgの3元素のバランスが適切に調節されているので、重合反応性を保った状態で、色調と耐熱性(高温下での黄着色の低減)とに優れ、かつ高い静電印加性を維持することができる。また、本発明では、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂を得ることができる。
【0073】
前記式(i)は既述のように、リン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物の3者のバランスを定量的に表現したものであり、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表したものである。値Zが+0以上、つまりチタンに作用するリン量が少な過ぎない範囲であると、チタンの触媒活性(重合反応性)を高く保ちつつ、より良好な耐熱性が得られ、得られるポリエステル樹脂の色調も黄色味が抑えられ、重合後の例えば製膜時(溶融時)にも着色が抑えられ、より良好な色調が得られる。また、値Zが+5.0以下、つまりチタンに作用するリン量が多過ぎない範囲であると、得られるポリエステルの耐熱性及び色調がより良好であり、触媒活性、生成性により優れる。
本発明においては、上記同様の理由から、前記式(ii)は、1.0≦Z≦4.0を満たす場合が好ましく、1.5≦Z≦3.0を満たす場合がより好ましい。
【0074】
Ti、Mg、及びPの各元素の測定は、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いてPET中の各元素を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出することにより行なうことができる。
【0075】
また、生成されるポリエステル樹脂組成物は、更に、下記の関係式(iii)で表される関係を満たすものであることが好ましい。
重縮合後にペレットとしたときのb値 ≦ 4.0 ・・・(iii)
重縮合して得られたポリエステル樹脂をペレット化し、該ペレットのb値が4.0以下であることにより、黄色味が少なく、透明性に優れる。b値が3.0以下である場合、Ge触媒で重合したポリエステル樹脂と遜色ない色調になる。
【0076】
b値は、色味を表す指標となるものであり、ND−101D(日本電色工業(株)製)を用いて計測される値である。
【0077】
また更に、ポリエステル樹脂組成物は、下記の関係式(iv)で表される関係を満たしていることが好ましい。
色調変化速度[Δb/分]≦ 0.15 ・・・(iv)
重縮合して得られたポリエステル樹脂ペレットを、300℃で溶融保持した際の色調変化速度[Δb/分]が0.15以下であることにより、加熱下に曝された際の黄着色を低く抑えることができる。これにより、例えば押出機で押し出して製膜する等の場合に、黄着色が少なく、色調に優れたフィルムを得ることができる。
【0078】
前記色調変化速度は、値が小さいほど好ましく、0.10以下であることが特に好ましい。
【0079】
色調変化速度は、熱による色の変化を表す指標となるものであり、下記方法により求められる値である。すなわち、
ポリエステル樹脂組成物のペレットを、射出成形機(例えば東芝機械(株)製のEC100NII)のホッパーに投入し、シリンダ内(300℃)で溶融保持させた状態で、その保持時間を変更してプレート状に成形し、このときのプレートb値をND−101D(日本電色工業(株)製)により測定する。b値の変化をもとに変化速度[Δb/分]を算出する。
【0080】
(添加剤)
本発明におけるポリエステルは、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0081】
本発明により製造するポリエステルフィルムは、光安定化剤が添加されていることが好ましい。光安定化剤を含有することで、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、フィルム等が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。
【0082】
光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤をフィルム中に含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、フィルムによる部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、フィルムの紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0083】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、フィルム中に均一分散できることが望まれる。
【0084】
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0085】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0086】
更に、本発明により製造するポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0087】
また、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、更に、固相重合工程に用いるポリエステルを、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体とジオール化合物とをチタン系触媒の存在下、エステル化反応させて合成する合成工程を有していることが好ましい。なお、ジカルボン酸及びそのエステル誘導体、ジオール化合物、並びにチタン系触媒の詳細については、既述の通りであり、好ましい態様も同様である。
【0088】
−固相重合工程−
本発明における固相重合工程では、ポリエステルを固相重合する。固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。固相重合は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは190℃以上230℃以下で1時間以上50時間以下、より好ましくは5時間以上40時間以下、さらに好ましくは10時間以上30時間以下の条件で行なうのが好ましい。また、固相重合は、真空中あるいは窒素気流中で行なうことが好ましい。
【0089】
固相重合は、バッチ式(容器内に樹脂を入れ、この中で所定の時間熱を与えながら撹拌する方式)で実施してもよく、連続式(加熱した筒の中に樹脂を入れ、これを加熱しながら所定の時間滞流させながら筒中を通過させて、順次送り出す方式)で実施してもよい。
【0090】
前記固相重合工程を経た後のポリエステルを溶融混練して、前記した製膜工程によりポリエステルシート11を製膜し、縦延伸工程、冷却工程、横延伸工程を順次行えばよい。
【0091】
(太陽電池裏面封止用ポリエステルフィルム)
本発明の方法により製造したポリエステルフィルムは、厚手であり、表面のキズが抑制されているため、太陽電池裏面封止用のポリエステルフィルムとして好適である。
【0092】
(太陽電池裏面保護膜)
本発明により製造するポリエステルフィルムは、被着物に対して易接着性の易接着性層、紫外線吸収層、光反射性のある白色層などの機能性層を少なくとも1層設けて構成することができる。例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに下記の機能性層を塗設してもよい。塗設には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0093】
−易接着性層−
本発明により製造するポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成する場合に太陽電池素子が封止材で封止された電池側基板の該封止材と向き合う側に、易接着性層を有していることが好ましい。封止材(特にエチレン−酢酸ビニル共重合体)を含む被着物(例えば太陽電池素子が封止材で封止された電池側基板の封止材の表面)に対して接着性を示す易接着性層を設けることにより、バックシートと被着物(特に封止材)との間を強固に接着することができる。具体的には、易接着性層は、特に封止材として用いられるEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)との接着力が10N/cm以上、好ましくは20N/cm以上であることが好ましい。
さらに、易接着性層は、太陽電池モジュールの使用中にバックシートの剥離が起こらないことが必要であり、そのために易接着性層は高い耐湿熱性を有することが望ましい。
【0094】
(1)バインダー
本発明における易接着性層はバインダーの少なくとも1種を含有することができる。
バインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。中でも、耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂として、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。好ましいバインダーの例として、以下のものを挙げることができる。
前記ポリオレフィンの例として、ケミパールS−120、同S−75N(ともに三井化学(株)製)が挙げられる。前記アクリル樹脂の例として、ジュリマーET−410、同SEK−301(ともに日本純薬工業(株)製)が挙げられる。また、前記アクリルとシリコーンとの複合樹脂の例として、セラネートWSA1060、同WSA1070(ともにDIC(株)製)、及びH7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)が挙げられる。
前記バインダーの量は、0.05〜5g/mの範囲が好ましく、0.08〜3g/mの範囲が特に好ましい。バインダー量は、0.05g/m以上であることでより良好な接着力が得られ、5g/m以下であることでより良好な面状が得られる。
【0095】
(2)微粒子
本発明における易接着性層は、微粒子の少なくとも1種を含有することができる。易接着性層は、微粒子を層全体の質量に対して5質量%以上含有することが好ましい。
微粒子としては、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化錫等の無機微粒子が好適に挙げられる。特にこの中でも、湿熱雰囲気に曝されたときの接着性の低下が小さい点で、酸化錫、シリカの微粒子が好ましい。
微粒子の粒径は、10〜700nm程度が好ましく、より好ましくは20〜300nm程度である。粒径が前記範囲の微粒子を用いることにより、良好な易接着性を得ることができる。微粒子の形状には特に制限はなく、球形、不定形、針状形等のものを用いることができる。
微粒子の易接着性層中における添加量としては、易接着性層中のバインダー当たり5〜400質量%が好ましく、より好ましくは50〜300質量%である。微粒子の添加量は、5質量%以上であると、湿熱雰囲気に曝されたときの接着性に優れており、400質量%以下であると、易接着性層の面状がより良好である。
【0096】
(3)架橋剤
本発明における易接着性層は、架橋剤の少なくとも1種を含有することができる。
架橋剤の例としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。湿熱経時後の接着性を確保する観点から、これらの中でも特にオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
前記オキサゾリン系架橋剤の具体例として、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。さらに、これらの化合物の(共)重合体も好ましく利用することができる。
また、オキサゾリン基を有する化合物として、エポクロスK2010E、同K2020E、同K2030E、同WS500、同WS700(いずれも日本触媒化学工業(株)製)等も利用できる。
架橋剤の易接着性層中における好ましい添加量は、易接着性層のバインダー当たり5〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。架橋剤の添加量は、5質量%以上であることで良好な架橋効果が得られ、反射層の強度低下や接着不良が起こりにくく、50質量%以下であることで塗布液のポットライフをより長く保てる。
【0097】
(4)添加剤
本発明における易接着性層には、必要に応じて、更にポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカ等の公知のマット剤、アニオン系やノニオン系などの公知の界面活性剤などを添加してもよい。
【0098】
(5)易接着性層の形成方法
本発明における易接着性層の形成方法としては、易接着性を有するポリマーシートをポリエステルフィルムに貼合する方法や塗布による方法があるが、塗布による方法は、簡便でかつ均一性の高い薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターなどの公知の方法を利用することができる。塗布に用いる塗布液の溶媒としては、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0099】
(6)物性
本発明における易接着性層の厚みには特に制限はないが、通常は0.05〜8μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。易接着性層の厚みは、0.05μm以上であることで必要とする易接着性が得られやすく、8μm以下であることで面状をより良好に維持することができる。
また、本発明における易接着性層は、ポリエステルフィルムとの間に着色層(特に反射層)が配置された場合の該着色層の効果を損なわない観点から、透明性を有していることが好ましい。
【0100】
−紫外線吸収層−
本発明により製造するポリエステルフィルムには、上記の紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層が設けられてもよい。紫外線吸収層は、ポリエステルフィルム上の任意の位置に配置することができる。
紫外線吸収剤は、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、セルロースエステル樹脂等とともに、溶解、分散させて用いることが好ましく、400nm以下の光の透過率を20%以下にするのが好ましい。
【0101】
−着色層−
本発明により製造するポリエステルフィルムには、着色層を設けることができる。着色層は、ポリエステルフィルムの表面に接触させて、あるいは他の層を介して配置される層であり、顔料やバインダーを用いて構成することができる。
【0102】
着色層の第一の機能は、入射光のうち太陽電池セルで発電に使われずにバックシートに到達した光を反射させて太陽電池セルに戻すことにより、太陽電池モジュールの発電効率を上げることにある。第二の機能は、太陽電池モジュールをオモテ面側から見た場合の外観の装飾性を向上することにある。一般に太陽電池モジュールをオモテ面側から見ると、太陽電池セルの周囲にバックシートが見えており、バックシートに着色層を設けることにより装飾性を向上させることができる。
【0103】
(1)顔料
本発明における着色層は、顔料の少なくとも1種を含有することができる。
顔料は、2.5〜8.5g/mの範囲で含有されるのが好ましい。着色層中における顔料のより好ましい含有量は、4.5〜7.5g/mの範囲である。顔料の含有量が2.5g/m以上であることで、必要な着色が得られやすく、光の反射率や装飾性をより優れたものに調整することができる。顔料の含有量が8.5g/m以下であることで、着色層の面状をより良好に維持することができる。
【0104】
顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、群青、紺青、カーボンブラック等の無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料が挙げられる。これら顔料のうち、入射する太陽光を反射する反射層として着色層を構成する観点からは、白色顔料が好ましい。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルクなどが好ましい。
【0105】
顔料の平均粒径としては、0.03〜0.8μmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5μm程度が好ましい。平均粒径が前記範囲内であると、光の反射効率が低下する場合がある。
入射した太陽光を反射する反射層として着色層を構成する場合、顔料の反射層中における好ましい添加量は、用いる顔料の種類や平均粒径により変化するため一概には言えないが、1.5〜15g/mが好ましく、より好ましくは3〜10g/m程度である。添加量は、1.5g/m以上であることで必要な反射率が得られやすく、15g/m以下であることで反射層の強度をより一層高く維持することができる。
【0106】
(2)バインダー
本発明における着色層は、バインダーの少なくとも1種を含有することができる。
バインダーを含む場合の着色層中における量としては、前記顔料に対して、15〜200質量%の範囲が好ましく、17〜100質量%の範囲がより好ましい。バインダーの量は、15質量%以上であることで着色層の強度を一層良好に維持することができ、200質量%以下であることで反射率や装飾性が低下する。
着色層に好適なバインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。バインダーは、耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂として、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。好ましいバインダーの例として、以下のものが挙げられる。
前記ポリオレフィンの例としては、ケミパールS−120、同S−75N(ともに三井化学(株)製)などが挙げられる。前記アクリル樹脂の例としては、ジュリマーET−410、SEK−301(ともに日本純薬工業(株)製)などが挙げられる。前記アクリルとシリコーンとの複合樹脂の例としては、セラネートWSA1060、WSA1070(ともにDIC(株)製)、H7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)等を挙げることができる。
【0107】
(3)添加剤
本発明における着色層には、バインダー及び顔料以外に、必要に応じて、さらに架橋剤、界面活性剤、フィラー等を添加してもよい。
【0108】
架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。架橋剤の着色剤中における添加量は、着色層のバインダーあたり5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。架橋剤の添加量は、5質量%以上であることで良好な架橋効果が得られ、着色層の強度や接着性を高く維持することができ、また50質量%以下であることで、塗布液のポットライフをより長く維持することができる。
【0109】
界面活性剤としては、アニオン系やノニオン系等の公知の界面活性剤を利用することができる。界面活性剤の添加量は、0.1〜15mg/mが好ましく、より好ましくは0.5〜5mg/mが好ましい。界面活性剤の添加量は、0.1mg/m以上であることでハジキの発生が効果的に抑制され、また、15mg/m以下であることで接着性に優れる。
【0110】
さらに、着色層には、上記の顔料とは別に、シリカ等のフィラーなどを添加してもよい。フィラーの添加量は、着色層のバインダーあたり20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。フィラーを含むことにより、着色層の強度を高めることができる。また、フィラーの添加量が20質量%以下であることで、顔料の比率が保てるため、良好な光反射性(反射率)や装飾性が得られる。
【0111】
(4)着色層の形成方法
着色層の形成方法としては、顔料を含有するポリマーシートをポリエステルフィルムに貼合する方法、ポリエステルフィルム成形時に着色層を共押出しする方法、塗布による方法等がある。このうち、塗布による方法は、簡便でかつ均一性の高い薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターなどの公知の方法を利用することができる。塗布に用いられる塗布液の溶媒としては、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。しかし、環境負荷の観点から、水を溶媒とすることが好ましい。
溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0112】
(5)物性
着色層は、白色顔料を含有して白色層(光反射層)として構成されることが好ましい。反射層である場合の550nmの光反射率としては、75%以上であるのが好ましい。反射率が75%以上であると、太陽電池セルを素通りして発電に使用されなかった太陽光をセルに戻すことができ、発電効率を上げる効果が高い。
【0113】
白色層(光反射層)の厚みは、1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、更に好ましくは1.5〜10μm程度である。膜厚が1μm以上である場合、必要な装飾性や反射率が得られやすく、20μm以下であると面状が悪化する場合がある。
【0114】
−下塗り層−
本発明により製造するポリエステルフィルムには、下塗り層を設けることができる。下塗り層は、例えば、着色層が設けられるときには、着色層とポリエステルフィルムとの間に設けることができる。下塗り層は、バインダー、架橋剤、界面活性剤等を用いて構成することができる。
【0115】
下塗り層中に含有するバインダーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。下塗り層には、バインダー以外にエポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤、アニオン系やノニオン系等の界面活性剤、シリカ等のフィラーなどを添加してもよい。
【0116】
下塗り層を塗布形成するための方法や用いる塗布液の溶媒には、特に制限はない。
塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターを利用することができる。前記溶媒は、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトンのような有機溶媒でもよい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0117】
塗布は、2軸延伸した後のポリエステルフィルムに塗布してもよいし、1軸延伸後のポリエステルフィルムに塗布してもよい。この場合、塗布後に初めの延伸と異なる方向に更に延伸してフィルムとしてもよい。さらに、延伸前のポリエステルフィルムに塗布した後に、2方向に延伸してもよい。
下塗り層の厚みは、0.05μm〜2μmが好ましく、より好ましくは0.1μm〜1.5μm程度の範囲が好ましい。膜厚が0.05μm以上であることで必要な接着性が得られやすく、2μm以下であることで、面状を良好に維持することができる。
【0118】
−フッ素系樹脂層・ケイ素系樹脂層−
本発明により製造するポリエステルフィルムには、フッ素系樹脂層及びケイ素系(Si系)樹脂層の少なくとも一方を設けることが好ましい。フッ素系樹脂層やSi系樹脂層を設けることで、ポリエステル表面の汚れ防止、耐候性向上が図れる。具体的には、特開2007−35694号公報、特開2008−28294号公報、WO2007/063698明細書に記載のフッ素樹脂系塗布層を有していることが好ましい。
また、テドラー(DuPont社製)等のフッ素系樹脂フィルムを張り合わせることも好ましい。
【0119】
フッ素系樹脂層及びSi系樹脂層の厚みは、各々、1μm以上50μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは1μm以上40μm以下の範囲が好ましく、更に好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0120】
−無機層−
本発明により製造するポリエステルフィルムは、更に、無機層が設けられた形態も好ましい。無機層を設けることで、ポリエステルへの水やガスの浸入を防止する防湿性やガスバリア性の機能を与えることができる。無機層は、ポリエステルフィルムの表裏いずれに設けてもよいが、防水、防湿等の観点から、ポリエステルフィルムの電池側基板と対向する側(前記着色層や易接着層の形成面側)とは反対側に好適に設けられる。
【0121】
無機層の水蒸気透過量(透湿度)としては、10g/m・d〜10−6g/m・dが好ましく、より好ましくは10g/m・d〜10−5g/m・dであり、さらに好ましくは10g/m・d〜10−4g/m・dである。
このような透湿度を有する無機層を形成するには、下記の乾式法が好適である。
【0122】
乾式法によりガスバリア性の無機層(以下、ガスバリア層ともいう。)を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により膜形成する真空蒸着法が好ましい。
【0123】
ここで、ガスバリア層を形成する材料が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、無機ハロゲン化物、無機硫化物などを主たる構成成分とする場合は、形成しようとするガスバリア層の組成と同一の材料を直接揮発させて基材などに堆積させることも可能であるが、この方法で行なう場合には、揮発中に組成が変化し、その結果、形成された膜が均一な特性を呈さない場合がある。そのため、1)揮発源として、形成するバリア層と同一組成の材料を用い、無機酸化物の場合は酸素ガスを、無機窒化物の場合は窒素ガスを、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガスを、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガスを、無機硫化物の場合は硫黄系ガスを、それぞれ系内に補助的に導入しながら揮発させる方法、2)揮発源として無機物群を用い、これを揮発させながら、無機酸化物の場合は酸素ガスを、無機窒化物の場合は窒素ガスを、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガスを、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガスを、無機硫化物の場合は硫黄系ガスを、それぞれ系内に導入し、無機物と導入したガスを反応させながら基材表面に堆積させる方法、3)揮発源として無機物群を用い、これを揮発させて、無機物群の層を形成させた後、それを無機酸化物の場合は酸素ガス雰囲気下、無機窒化物の場合は窒素ガス雰囲気下、無機酸窒化物の場合は酸素ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気下、無機ハロゲン化物の場合はハロゲン系ガス雰囲気下、無機硫化物の場合は硫黄系ガス雰囲気下で保持することにより無機物層と導入したガスを反応させる方法、等が挙げられる。
これらのうち、揮発源から揮発させることが容易であるという点で、2)又は3)がより好ましく用いられる。さらには、膜質の制御が容易である点で2)の方法が更に好ましく用いられる。また、バリア層が無機酸化物の場合は、揮発源として無機物群を用い、これを揮発させて、無機物群の層を形成させた後、空気中で放置することで、無機物群を自然酸化させる方法も、形成が容易であるという点で好ましい。
【0124】
また、アルミ箔を貼り合わせてバリア層として使用することも好ましい。厚みは、1μm以上30μm以下が好ましい。厚みは、1μm以上であると、経時(サーモ)中にポリエステルフィルム中に水が浸透し難くなって加水分解を生じ難く、30μm以下であると、バリア層の厚みが厚くなり過ぎず、バリア層の応力でフィルムにベコが発生することもない。
【0125】
(太陽電池モジュール)
太陽電池モジュールは、既述の本発明により製造されるポリエステルフィルム(バックシートを含む)を備えたものであり、好ましくは更に、太陽光が入射する側の透明性の基板、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子、太陽電池素子を封止する封止材などを用いて構成される。
【0126】
太陽電池モジュールは、例えば、図3に示されるように、電気を取り出す金属配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)3をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止材2で封止し、これを、ガラス等の透明基板4と、本発明により製造するポリエステルフィルムを備えたバックシート1とで挟んで互いに張り合わせることにより構成されてもよい。
【0127】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0128】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0130】
−ポリエステル樹脂の合成−
(1)PET:Ti触媒
以下に示す方法に準じて、PETサンプルを得た。
−エステル化反応−
高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更に、クエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下で平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600eq/トンであった。
【0131】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200eq/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽の内部は3ゾーンに仕切られており、3ゾーンのうち、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、また第3ゾーンからリン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0132】
−重縮合反応−
得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10−3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10−4MPa)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽において反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10−4MPa)、滞留時間1.5時間の条件にて、反応(重縮合)を行なってポリエチレンテレフタレートを得た。
【0133】
(2)PEN:Sb触媒
特許第3119067の表3中の「比較実験例6」に記載の条件に準じて重合し、Sb触媒を用いてPENサンプルを得た。
【0134】
−固相重合−
上記で重合したPETサンプル及びPENサンプルをペレット化(直径3mm、長さ7mm)し、得られた樹脂ペレットを用いて、バッチ法、連続法で固相重合を実施した。
【0135】
(実施例1)
PET-Ti触媒系のサンプルを、含水率20ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入し、270℃で溶融して押出した。この溶融体(メルト)をギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を通した後、下記条件でダイから冷却(チル)ロールに押出した。なお、押出されたメルトは、静電印加法を用い冷却ロールに密着させた。
押出し機の吐出量、ダイのスリット高さを調整する。これにより、下記表1に記載のメルト厚み(押出し時の厚み)に調節した。メルト厚みは、ダイ出口に設置したカメラで撮影し、測定した。
(e)冷却ロール中の温度ムラ
中空のチルロールを用い、この中に熱媒(例えば水)を通して温調する。この際、チルロール内に邪魔板を設置し、温度ムラを発生させる。温度ムラは、チルロール表面の温度を非接触温度計(サーモビュアー)で測定しながら、邪魔板を調整する。
【0136】
−延伸−
上記方法で冷却ロール上に押出し、固化した未延伸のポリエステル樹脂シートに対し、以下の方法で逐次2軸延伸を施し、下記表1、2に記載のフィルムを得た。
【0137】
(a)縦延伸工程
未延伸樹脂シート(押出し時の厚み:3000μm)を、図1に示すような構成において、それぞれニップロール25,27を備えた加熱ロール24から第1冷却ロール26に搬送し、搬送方向(縦方向)に延伸を行い、縦延伸後の厚みが1000μmのPETフィルムとした。縦延伸条件は以下の通りである。
・予熱温度:82℃
・加熱ロール温度:82℃
・縦延伸倍率:3倍
・第1冷却ロール温度:30℃
【0138】
ポリエステルフィルムの厚みは、非接触方式のオンライン厚み計によって測定した。
【0139】
(b)冷却工程
縦延伸後のフィルムを第1冷却ロールから第2冷却ロールに搬送し、急速冷却を行った。冷却条件は以下の通りである。
・ライン速度:30m/min
・冷却速度:30℃/s
・第2冷却ロール温度:26℃
・補助冷却手段:エアー吹き付け
【0140】
第2冷却ロールに入る時のフィルム温度(℃)は、以下のようにして算出した。
第1冷却ロール上から第2冷却ロール上のフィルムの表面温度を放射温度計で測定し、熱伝達シミュレーションで実系のフィルム表面温度と合うように第1冷却ロール、第2冷却ロールの熱伝達係数を求め、シミュレーションから第2冷却ロールに入る時のフィルム厚さ方向の平均温度を見積もった。
【0141】
第2冷却ロール上の温度変化量ΔT(℃)は以下のようにして算出した。
上記と同様、熱伝達シミュレーションから第2冷却ロールに入る時と、出る時のフィルム厚さ方向の平均温度を求め、温度変化量ΔT(℃)を見積もった。
【0142】
第2冷却ロール上の接触面の温度変化量ΔT1(℃)と非接触面の温度変化量ΔT2(℃)との差(ΔT1−ΔT2)は以下のようにして算出した。
上記と同様、熱伝達シミュレーションから、第2冷却ロールに接触する面に最も近い100μmの厚みの層および、非接触面に最も近い100μmの厚みの層のそれぞれについて第2冷却ロールに入る時と、出る時の温度変化量ΔT1(℃)、ΔT2(℃)を見積もり、ΔT1−ΔT2を算出した。
【0143】
第2冷却ロール上のフィルムの収縮率(%)を以下のようにして測定した。
第1冷却ロールの非接触面にレーザーマーカで15cm四方のマーキングを幅方向に三箇所入れ、三箇所のマーキングに対し第2冷却ロール入口と出口付近のマーキングサイズを高速カメラで撮影し、流れ方向および幅方向のサイズ変化量を求めた。幅方向三箇所のサイズ変化量に対して平均をとり、流れ方向および幅方向の収縮率(%)を算出した。
【0144】
(c)横延伸工程
冷却工程後のフィルムに対し、テンターを用いて下記条件にて横延伸した。
<条件>
・予熱温度:110℃
・延伸温度:120℃
・延伸倍率:3.9倍
・延伸速度:70%/秒
【0145】
−熱固定・熱緩和−
続いて、縦延伸及び横延伸を終えた後の二軸延伸フィルムを下記条件で熱固定した。さらに、熱固定した後、テンター幅を縮め下記条件で熱緩和した。
<熱工程条件>
・熱固定温度:215℃
・熱固定時間:2秒
<熱緩和条件>
・熱緩和温度:210℃
・熱緩和率:2%
【0146】
−巻き取り−
熱固定及び熱緩和の後、両端を10cmずつトリミングした。その後、両端に幅10mmで押出し加工(ナーリング)を行なった後、張力25kg/mで巻き取った。なお、幅は1.5m、巻長は2000mであった。
以上のようにして、ポリエステルフィルムを製造した。
【0147】
(評価)
−キズの有無−
製造したフィルム表面のキズの有無をレーザー顕微鏡によって評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:キズ長さがフィルム幅の0.05%未満且つ、深さが0.05μm未満
○:キズ長さがフィルム幅の0.1%未満且つ、深さが0.1μm未満
△:キズ長さがフィルム幅の0.15%未満且つ、深さが0.1μm未満
×:キズ長さがフィルム幅の0.15%以上もしくは、深さが0.1μm以上
【0148】
(実施例2〜10及び比較例1〜4)
実施例1に対し、表1、2に示すように条件を変更してポリエステルフィルムを製造し、キズの発生を評価した。
【0149】
ポリエステルフィルムの製造条件、評価等をそれぞれ表1、表2に示す。
【0150】
【表1】



【0151】
【表2】



【0152】
表2に示すように、実施例1〜10のポリエステルフィルムは、比較例1〜4のポリエステルフィルムよりもキズの発生が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、例えば、太陽電池モジュールを構成する裏面シート(太陽電池素子に対し太陽光の入射側と反対側に配置されるシート;いわゆるバックシート)の用途に用いられる厚手のポリエステルフィルムの製造に好適である。
また、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、ディスプレイ用フィルムなど光学用途のフィルムの製造にも好適である。
【符号の説明】
【0154】
1 バックシート(裏面保護膜)
2 封止材
3 太陽電池素子
11 未延伸ポリエステル樹脂シート
12 縦延伸工程部
13A 縦延伸ポリエステルフィルム
13B 二軸延伸ポリエステルフィルム
14 冷却工程部
15 加熱手段
16 横延伸工程部
17 強制冷却手段
18 巻取工程部
19 強制冷却手段
20 ダイ
22 キャスティングドラム
23,23N 予熱ロール
24 加熱ロール
25,27 ニップロール
26 第1冷却ロール
28 第2冷却ロール
29,29N 冷却ロール
30 遮風カーテン
32 テンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度がTg(℃)である未延伸の熱可塑性樹脂シートを加熱ロールから第1冷却ロールに搬送するとともに前記加熱ロールと前記第1冷却ロールとの間で搬送方向に延伸することにより、厚みが500μm以上2000μm以下であるフィルムにする縦延伸工程と、
前記搬送方向に延伸した後の前記フィルムを前記第1冷却ロールから第2冷却ロールに搬送するとともに前記第1冷却ロールと接触した直後から前記第2冷却ロールと接触するまでの区間で30℃/s以上100℃/s以下の冷却速度で急冷することにより、該フィルムが前記第2冷却ロールと接触するまでに該フィルムの厚み方向の平均温度を(Tg−5)℃以下にする冷却工程と、
前記第2冷却ロールを通過した後の前記フィルムを幅方向に延伸する横延伸工程と、
を含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、前記フィルムが前記第2冷却ロールを通過する間の該フィルムの厚さ方向の平均温度の温度変化量を20℃以下に、且つ、前記第2冷却ロールと接触する面の温度変化量と前記第2冷却ロールと接触しない面の温度変化量との差を20℃以下に制御する請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムが前記第2冷却ロールを通過する間の該フィルムの搬送方向及び幅方向の少なくとも1方向の収縮率を0.2%以下にする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第1冷却ロールと接触している時の前記フィルムに対し、該第1冷却ロールと接触しない側の面を強制的に冷却する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第1冷却ロールと前記第2冷却ロールとの間の前記フィルムを強制的に冷却する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第2冷却ロールと接触している時の前記フィルムに対し、該第2冷却ロールと接触しない側の面を強制的に冷却する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第1冷却ロール及び前記第2冷却ロール以外の前記フィルムを冷却する手段として、気体を吹付けて冷却を行う手段、液体を介して冷却を行う手段、及び、固体を接触させて冷却を行う手段から選ばれる少なくとも1種の手段を用いる請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207168(P2011−207168A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79406(P2010−79406)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】