説明

熱可塑性樹脂フィルム

【課題】 フラーレン類を含有しているにもかかわらず凝集による表面の高突起が少なく、機械的特性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂50〜99.9999重量%およびフラーレン類0.0001〜50重量%からなるフィルムであって、該フィルムの表面高突起数が100cm2あたり10個以下であり、かつフィルム厚みが0.5〜500μmの範囲である熱可塑性樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン類を含有し、表面平坦性に優れた熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレン類(本発明においてフラーレン類とは、フラーレン、フラーレン誘導体、フラーレン誘導体、およびフラーレンならびにフラーレン誘導体の混合物をいう。)に関する研究が精力的に展開されるとともに、フラーレン類の用途開発が望まれている。これら用途のうちでも、電気電子機器、自動車、建築資材、工業機械の部品など様々な製品へ応用される樹脂組成物への適用は、フラーレン類の用途として大きく期待される分野の一つである。
【0003】
熱可塑性樹脂との複合化の例として、ポリエステル類とフラーレン類とを含む組成物(特許文献1参照)、フラーレンに代表される炭素クラスターを配合した結晶性熱可塑性樹脂組成物(特許文献2参照)が開示されている。しかし、フラーレンを熱可塑性樹脂のモノマー中に添加して、フラーレンが溶解していない状態で重合反応を行うことにより得られるフラーレン複合体や、あるいはフラーレンを単に熱可塑性樹脂と溶融混練することだけでは、フラーレンが熱可塑性樹脂中で凝集し、フラーレンをナノメートルオーダーで均一分散させることは困難であった。また、フラーレンをいったん高濃度で熱可塑性樹脂に溶融混練した後に同種の樹脂でさらに希釈した組成物(特許文献3)や、水酸基やスルホン酸エステル基などの置換基を有するフラーレン誘導体を使用することにより、フラーレン粒子がナノレベルで分散した熱可塑性樹脂組成物が開示されている(特許文献4参照)。しかしながらこれらの組成物でもフラーレン粒子が局部的に凝集してしまい未だ十分な分散性ではなく、フラーレンの添加による樹脂特性の機械特性などの改良効果が不十分であるのみならず、たとえばフィルムのような形態に成形したときに、大きな凝集体が高い突起となって、搬送時のロール等との接触による脱落による汚れの発生や、印刷時のはじきなどコーティング適正不良、あるいは蒸着時のシャドウイングなどの表面加工時のトラブル、さらには製品としたときの特性不良などさまざまな問題を引き起こすことが考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−49116号公報
【特許文献2】特開平10−310709号公報
【特許文献3】特開2004−182768号公報
【特許文献4】特開2004−75933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フラーレン類を含有しているにもかかわらず凝集による表面の高突起が少なく、機械的特性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、フラーレンの分散性を向上させることによって凝集による高突起を少なくし、機械特性や表面平坦性を大きく改良できることを見出し本発明を完成するに至ったものである。すなわち本発明は、熱可塑性樹脂50〜99.9999重量%およびフラーレン類0.0001〜50重量%からなるフィルムであって、該フィルムの表面高突起数が100cm2あたり10個以下であり、かつフィルム厚みが0.5〜500μmの範囲である熱可塑性樹脂フィルムによって達成される。また本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、その好ましい態様として、熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂であること、熱可塑性樹脂がポリエステルであることの少なくともいずれか1つを具備するものを包含し、また熱可塑性樹脂フィルムが少なくとも1軸方向に延伸されてなること、熱処理が施されてなることの少なくともいずれか1つを具備するものである。さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、同一の熱可塑性樹脂100重量%からなるフィルムに対し、同じヤング率におけるクリープ値が8%以上小さいこと、フィルムの表面粗さRzが5〜500nmであること、フィルム表面粗さRaが0.5〜50nmであることの少なくともいずれか1つも好ましい態様として挙げられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フラーレンの分散性を向上させて、凝集による表面の高突起を少なくすることで、優れた表面平滑性、力学特性を有する熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、データストレージテープ、ビデオテープなどの磁気記録用途、コンデンサー、フレキシブルプリント回路基板、ICカード、アンテナ機材、モーター絶縁紙、フラットケーブルなどの電気電子用途、液晶表示装置や有機ELディスプレイなどに代表されるフラットパネルディスプレイの基材用途、太陽電池基材などのエネルギー関連素材用途、バリア性に優れた包装用途のフィルムなどとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
<熱可塑性樹脂>
本発明において用いられる熱可塑性樹脂としては、一般に用いられる熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えばポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレートおよび液晶ポリマーが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、好ましくは結晶性熱可塑性樹脂が用いられ、例えばポリオレフィンとしてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンとしてシンジオタクチックポリスチレン、ポリアミドとしてナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、MXD6、ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、およびポリフェニレンサルファイドが挙げられ、これらの結晶性熱可塑性樹脂の1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0009】
これらの結晶性熱可塑性樹脂の中でも特にポリエステルが好ましい。本発明におけるポリエステル樹脂は、ジオールとジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーである。かかるジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。特に耐熱性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0010】
本発明におけるポリエステル樹脂は、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、繰返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下、さらに10モル%以下であることが好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が挙げられる。
【0011】
本発明におけるポリエステル樹脂の固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40以上であることが好ましく、0.40〜0.80であることがさらに好ましい。固有粘度が0.4未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.8を超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0012】
本発明における熱可塑性樹脂の配合量は、熱可塑性樹脂フィルム全重量を基準として50〜99.9999重量%である。熱可塑性樹脂の配合量は、好ましくは70〜99.999重量%、より好ましくは80〜99.99重量%、更に好ましくは90〜99.9重量%、特に好ましくは95〜99.9重量%である。該熱可塑性樹脂の配合量が下限に満たない場合は、フィルム製膜性が十分ではなく、一方上限を超える場合は本願発明の課題である機械特性の改善が十分ではない。
【0013】
<フラーレン>
本発明に用いられるフラーレン類としては、フラーレン、フラーレン誘導体、およびこれらの混合物を挙げることができる。フラーレンとは、球殻状または楕円状の炭素分子であり、本発明の目的を満たす限り限定されないが、C60、C70、C74、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96、C98、C100など、およびこれら化合物の2量体ならびに3量体などを挙げることができる。
【0014】
本発明において、これらフラーレンの中でもC60、C70、またはこれらの2量体、3量体が好ましい。C60、C70は工業的に得やすく、また樹脂に対する分散性に優れているので特に好ましい。また、これらのフラーレンの中から2種以上を併用してもよく、複数を併用する場合はC60、C70を併用することが好ましい。
【0015】
また、本発明に用いられるフラーレン誘導体とは、フラーレンを構成する少なくとも1つの炭素に有機化合物の一部分を形成する原子団や無機元素からなる原子団が結合した化合物をいう。フラーレン誘導体を得るために用いるフラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されず、上記に具体的に示したフラーレンのいずれを用いてもよい。フラーレン誘導体としては、例えば水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン等を用いることができる。さらにはカルボキシル基、アルキル基、アミノ基などを含んでいてもよい。なお、本発明においては、これらフラーレン誘導体の中から2種以上を併用してもよい。
【0016】
フラーレンは、例えば、抵抗加熱法、レーザー加熱法、アーク放電法、燃焼法などにより得られたフラーレン含有スートから抽出分離することによって得られる。この際、必ずしも完全に分離する必要はなく、性能を損なわない範囲でフラーレンの含有率を調整することができる。また、フラーレン誘導体は、フラーレンに対して従来公知の方法を用いて合成することができる。例えば、求核剤との反応(求核付加反応)、環化付加反応、光付加(環化)反応、酸化反応などを利用して、所望のフラーレン誘導体を得ることができる。
【0017】
本発明におけるフラーレンは、熱可塑性樹脂フィルム全重量を基準として0.0001〜50重量%配合される。フラーレンの配合量は、好ましくは0.001〜30重量%、より好ましくは0.01〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%である。該フラーレンの配合量が下限に満たない場合は、フラーレンの添加効果が発現しないため本願発明の課題である機械特性の改善が十分ではなく、一方上限を超える場合はフラーレンの凝集による高突起を形成し、またフィルム製膜性も十分ではないことがある。
【0018】
<表面高突起数>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおける表面高突起数は、100cm2あたり10個以下である。本発明における表面高突起数とは、2枚のフィルムを重ねて波長589nmのNaランプを照射しながら5cm×10cmの範囲を観察し、突起によって形成されるニュートンリングの個数をカウントし、5R以上のニュートンリングを有する突起数を表面高突起数と定義する。
【0019】
かかる表面高突起数は、好ましくは100cm2あたり7個以下、より好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下である。また本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおける表面高突起数の下限は少なければ少ないほど好ましく、0個以上である。フィルムにおける表面高突起数が上限を超える場合、フラーレンの分散性が十分ではなく、所望の機械特性が得られないことがあり、またこれら高突起が原因となって、例えば磁気記録媒体のベースフィルムとして用いた場合に電磁変換特性が十分でないことがある。
【0020】
上述の表面高突起数を達成するためには、樹脂の製造段階のモノマー状態の状態でフラーレンを添加するか、または溶液にフラーレンを溶解させてからポリマーに添加するか、のいずれかの方法で得られたペレットを二軸混練機などで再度分散すること、さらに目開き小さいフィルターでろ過処理を行うことが有効であり、これらの分散化処理およびフィルターろ過処理を組み合わせて用いること、より好ましくは3つの工程を経ることによって達成されるものである。
【0021】
<フィルム厚み>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、0.5〜500μmの範囲であり、好ましくは、0.5〜250μm、より好ましくは0.5〜125μm、特に好ましくは0.5〜75μmである。フィルムの厚みがかかる範囲を満たさない場合、製膜工程および加工工程におけるハンドリング性が低下することがある。
【0022】
<クリープ値>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムのクリープ値は、同一の熱可塑性樹脂100重量%からなるフラーレンを含まないフィルムを用いて同じヤング率が得られる延伸倍率で延伸して得られたフィルムに対して8%以上小さいことが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは12%以上、特に好ましくは14%以上、最も好ましくは16%以上小さい。
【0023】
ここでクリープ値とは、熱機械特性試験機(TMA)を用い、フィルムに室温にて2MPaとなるよう荷重を加えて30分放置後、1分間でさらに20MPaに相当する荷重を加え1時間放置し、下記式(1)に従って1時間放置する直前と放置後後のサンプル長の変化の割合を求めたものである。ここで、クリープ値の単位は1/GPaである。
クリープ値=(放置後サンプル長−放置前サンプル長)/初期チャック間距離/20・・(1)
【0024】
熱可塑性樹脂フィルムのクリープ値がフラーレンを含まない同一熱可塑性樹脂フィルムの同一ヤング率におけるクリープ値に較べて下限の数値より小さい場合、フラーレン添加による補強効果が十分ではないことがある。
本発明のクリープ値を達成する手段としては、フラーレンの含有量および分散処理を既述の如く行うことが好ましい。
【0025】
<表面粗さ>
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの表面粗さRz(十点平均粗さ)は、5〜500nmであることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの表面粗さRzは、5〜300nmであることがより好ましく、5〜100nmであることが特に好ましい。Rzが下限に満たないと、フィルムの滑り性が悪く、フィルムをロールに巻き取ったとき、空気溜りによる転写や折れシワが発生し平面性が損なわれることがある。一方、Rzが上限を超えると磁気用途などに使用する際に満足しうる電磁変換特性が得られない場合があり、またフラーレンが凝集しており分散性が十分ではないことから、クリープ特性などが発現しない場合がある。
上述の表面粗さRzを達成するには、熱可塑性樹脂フィルム中に平均粒径1.0μm以上の滑剤を含有しないことが好ましく、またフラーレンの分散性を高めて粗大突起を本発明の範囲にすることが好ましい。
【0026】
また、本発明における熱可塑性樹脂フィルムの表面粗さRa(中心線平均粗さ)は0.5〜50nmであることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの表面粗さRaは、0.5〜30nmであることがより好ましく、0.5〜10nmであることが特に好ましい。Raが下限に満たないと、フィルムの滑り性が悪く、フィルムをロールに巻き取ったとき、空気溜りによる転写や折れシワが発生し平面性が損なわれることがある。一方、Raが上限を超えると磁気用途などに使用する際に満足しうる電磁変換特性が得られない場合があり、またフラーレンが凝集しており分散性が十分ではないことから、クリープ特性などが発現しない場合がある。
上述の表面粗さRaを達成するには、熱可塑性樹脂フィルム中に平均粒径1.0μm以上の滑剤を含有しないことが好ましく、平均粒径0.50μm以上の滑剤を含有しないことがより好ましい。
【0027】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、単層で用いられるが、積層フィルムも好ましい態様として包含される。積層フィルムとしては、例えば上述の熱可塑性樹脂50〜99.9999重量%およびフラーレン類0.0001〜50重量%からなり、表面高突起数が100cm2あたり10個以下であり、フィルム厚みが0.5〜500μmの範囲である熱可塑性樹脂フィルム層(A)の少なくとも一方の面に、フラーレン類を含まない熱可塑性樹脂100重量%からなる層(B−1)、または熱可塑性樹脂とフラーレン類とからなり、かつフラーレン類の含有量が層(A)未満である層(B−2)から形成される積層フィルムが例示される。このような積層フィルムは共押出によって形成することができる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム表面に各種の機能を付与するため熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面にコーティング層が設けられてもよい。コーティング方法としては、例えば延伸可能な熱可塑性樹脂フィルムに塗膜を形成する成分を含む水溶液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。
【0029】
さらに本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、各種機能性を付与する目的でコーティング層を介して機能層が設けられてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、接着性などの表面改質を目的として、さらに表面処理されてもよい。表面処理方法は特に限定されないが、溶剤処理、プラズマ処理、コロナ処理といった方法が例示される。
【0030】
なお、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の課題を損なわない範囲において上述の熱可塑性樹脂およびフラーレン以外の添加剤を併用しても構わない。かかる添加剤として、例えば滑剤、各種吸収剤、難燃剤が挙げられる。かかる滑剤としては、例えば球状シリカ、多孔質シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、二酸化チタン、カオリンクレー、硫酸バリウム、ゼオライトの如き無機粒子、或いはシリコン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子の如き有機粒子を挙げることができる。無機粒子は粒径が均一であること等の理由で、天然品よりも合成品であることが好ましく、あらゆる結晶形態、硬度、比重、色の無機粒子を使用することができる。かかる不活性粒子の平均粒径は1.0μmを超えないことが好ましく、より好ましくは0.50μmを越えないことが好ましい。また平均粒径の下限は少なくとも0.05μmであることが好ましい。フィルムに添加する不活性粒子は、上記に例示した中から選ばれた単一成分でもよく、あるいは二成分以上を含む多成分でもよい。不活性粒子の添加時期は、製膜する迄の段階であれば特に制限はなく、例えば重合段階で添加してもよく、また製膜の際に添加してもよい。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、樹脂の種類や用途に応じて、少なくとも1軸延伸、好ましくは2軸延伸、熱処理が施されることが好ましい。結晶性樹脂においてはかかる2軸延伸および/または熱処理された方が、結晶による構造固定により、より良好なクリープ特性が得られる。また、得られた結晶性熱可塑性樹脂フィルムをアニーリング処理することによっても、より良好なクリープ特性が得られる。
【0032】
<製造方法>
本発明においてフラーレンの分散性を左右する添加および分散方法は重要である。本発明においては、i)フラーレン類の熱可塑性樹脂への添加は、溶融樹脂に直接添加することは避け、熱可塑性樹脂のモノマーにあらかじめ溶解しておいてから重合するか、または溶液に溶解させたものを熱可塑性樹脂に添加した後に溶媒を除去することにより組成物を得る方法、ii)得られた組成物を1軸または2軸の押出機に供給して再分散させる方法、iii)高精度のポリマーフィルターによって凝集した粒子を解砕する方法の少なくとも1つの手法を用いることによって達成されるものである。ii)の方法を用いる場合、スクリュー構成は1軸よりも2軸のほうが好ましく、2軸のなかでは、異方向回転よりも同方向回転の方が好ましい。スクリューの回転数は分散性の向上のためには高いことが好ましいが、温度制御が不安定となって熱可塑性樹脂の分子量低下を招くため、適正な範囲を選ぶ必要がある。好ましい回転数の範囲は100-3000rpm、さらに好ましくは200-2000rpm、より好ましくは250-1500rpm、特に好ましくは300-1200rpmである。再分散操作における温度条件は熱可塑性樹脂のガラス転移温度+150℃から+250℃の範囲内が好ましい。再分散の回数は1回以上必要であるが、この操作を複数回行なうことは分散性の向上に有効ではあるものの、熱可塑性樹脂の分子量が極端に低下しない範囲内にとどめる必要がある。iii)の方法を用いる場合、ポリマーフィルターの形状はニードルタイプ、リーフディスクタイプなどが好適に使用できる。フィルターメディアとしてはステンレス鋼線を使用した不織布や、ブロンズあるいはステンレスの焼結タイプなどが使用できる。メディアの好ましい目開きは60μm以下、さらに好ましくは45μm以下、より好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
【0033】
本発明においては、分散性をさらに向上させるためには、i)、ii)およびiii)の方法の少なくとも2つを組み合わせることがフラーレンの分散性向上の点から好ましく、特に好ましくは(i)〜(iii)の全ての方法を組み合わせることである。
【0034】
フィルムへの加工は、以上のようにして得られたペレットまたは粉末を押出機に供給するか、または再分散直後の溶融状態の樹脂組成物を、加熱されたスリット状の口金から吐出させてシート状に加工したり、ペレットまたは粉末をプレス成型することができる。いったんペレット化した後に再度1軸または2軸押出機に供給してスリット状の口金から吐出させても良いし、再分散前にペレット化した樹脂を用いて、再分散、フィルター濾過、および口金からの吐出を行なっても良い。
結晶性熱可塑性樹脂の場合、延伸および/または熱処理を施すことは、配向あるいは熱による結晶化により機械特性や寸法安定性が向上するため好ましい。
【0035】
得られたペレットを押出機に供給して延伸フィルムに製膜する方法は以下のとおりである。
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上述の再分散化させたペレットをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+100)℃で縦方向、横方向に延伸速度10〜1000000%/min、倍率1.1〜10倍で1軸方向あるいは2軸方向に延伸し、用途に応じて(Tm−100)〜(Tm―5)℃の温度で1〜100秒間熱固定することで所望のフィルムを得ることができる。延伸は一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、縦方向、横方向を同時に延伸してもよく、また縦方向、横方向に逐次延伸してもよい。また、加熱方法として、加熱ロール、赤外線ヒーター、熱風によるゾーン延伸のいずれでもよい。ここで、Tgは、ポリマーのガラス転移温度、Tmはポリマーの融点を表わす。熱処理を行う場合は、延伸直後にテンターで行ってもよく、または延伸後巻き取ってから懸垂式またはフローティング方式で行ってもよい。またはいずれの方法を組み合わせてもよい。いずれの方法においても、Tm−5℃からTm−100℃の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0036】
用途に応じて1軸配向フィルム、2軸配向フィルムを選択することができるが、ポリエステルフィルムの場合、高温下で使用されることが多いことから、耐熱寸法安定性の点で2軸配向フィルムを用いることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明における種々の物性値および特性は以下の如く測定されたものであり且つ定義される。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
(1)表面高突起数
2枚のフィルムを重ねてNaランプ(波長589nm)を照射しながら5cm×10cmの範囲を観察し、突起によって形成されるニュートンリングの個数をカウントした。5R以上のニュートンリングを有する突起数を表面高突起数とした。
(2)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
(3)表面粗さRz、Ra
小坂製作所製2次元高精度表面粗さ計SE−3FATを使用し、カットオフ0.8mmにて測定し、算術平均粗さRaおよび10点平均粗さRzを求めた。
(4)クリープ特性
SEIKO株式会社製の熱機械特性試験機TMA/SS6000を用い、4mm幅に切り出したサンプルに、室温にて2MPaとなるよう荷重を加えて30分放置後、1分間でさらに20MPaに相当する荷重を加え1時間放置する。1時間放置する直前と放置後のサンプル長の変化を読み取り、下記式によりクリープ値を算出する。単位は1/GPaである。
クリープ値=(放置後サンプル長−放置前サンプル長)/初期チャック間距離/20
(5)ヤング率
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/min、チャート速度500mm/minでインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる荷重-伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算した。ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
(6)フィルム中の添加剤の粒子径
フィルムをエポキシ樹脂に包埋した後にウルトラミクロトームにて60nm厚みの超薄切片とし、透過型電子顕微鏡にて粒子50個を撮影し、その長径を測定し、平均値を粒子径とした。
【0038】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル194重量部、エチレングリコール128重量部、酢酸マンガン四水和物0.0735重量部を仕込み、窒素雰囲気下160℃から230℃まで昇温してエステル交換反応を行いビスヒドロキシエチルテレフタレートを得た。得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートにフラーレン(アルドリッチ製)0.96重量部、三酸化アンチモン0.0584重量部、燐酸トリメチル0.056重量部を添加して0.5Torr以下の減圧下で250℃から290℃まで昇温して重縮合反応を行いペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。得られたペレットを神戸製鋼製2軸混練装置KTXに供給し、バレル温度200℃、回転数400rpmにて再混練を行い再度ペレット化した。このようにして得られたペレットを170℃にて含有水分率50ppm以下となるように乾燥した後単軸押出機にて290℃で溶融し、平均目開き10μmのステンレス鋼細線フィルターにてろ過した後に、スリット幅1mmの口金から25℃に保持された鏡面冷却ロール上に吐出させ、急冷して未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを80℃にて予熱し低速、高速のロール間でIRヒーターにより加熱して縦方向に3.5倍延伸した。続いてテンターに供給し95℃で3.8倍に延伸した後フィルム幅一定のまま225℃で熱処理して厚み25μmの二軸配向したPETフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
2−メチルナフタレン40重量部にフラーレン0.125重量部を加えて200℃にてよく攪拌した後、ポリエチレン−2,6−ナフタレート250重量部を少量ずつ添加した。全量添加後温度を290℃まで上昇させてから減圧を開始し、2-メチルナフタレンを除去してペレット状に成型した。得られたペレットを神戸製鋼所製二軸混練機KTXを用いてバレル温度220℃、回転数400rpmにて再混練を行い再度ペレット化した。このようにして得られた再混練済のペレットを170℃にて含有水分率50ppm以下となるように乾燥した後単軸押出機にて300℃で溶融し、平均目開き10μmのステンレス鋼細線フィルターにてろ過した後に、スリット幅3mmの口金から55℃に保持された鏡面冷却ロール上に吐出させ、急冷して未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、低速、高速のロール間でIRヒーターにより加熱して縦方向に3.5倍延伸した。続いてテンターに供給し140℃で3.7倍に延伸した後フィルム幅一定のまま235℃で熱処理して厚み0.8μmの二軸配向したPENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0040】
[実施例3]
フラーレンの添加量、延伸倍率、熱処理温度、フィルム厚みを表1に記載のように変更する以外は実施例2と同様にして二軸配向したPENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
フラーレンの種類と添加量を表1に記載のとおりに変更する以外は実施例2と同様にして未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを同時2軸延伸機に供給し、150℃にて縦3倍、横3倍の倍率で同時に延伸を行った。さらに熱処理ゾーンにて230℃にて熱処理を施し、二軸配向PENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
フラーレンを添加しない以外は実施例1と同様にして二軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。同一ヤング率でのクリープ特性はフラーレンを添加したときと比較して劣っていた。
【0043】
[比較例2]
フラーレンを添加しない以外は実施例3と同様にして二軸配向PENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。同一ヤング率でのクリープ特性はフラーレンを添加したときと比較して劣っていた。
【0044】
[比較例3]
フラーレンの代わりにカーボンブラック(三菱化学株式会社製、カーボンブラック#30)を用いた以外は実施例3と同様にして二軸配向PENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。フィルム中での粒子の分散状態が不良で高突起が多く、表面は粗れており、またクリープ特性は比較例2と同様であった。
【0045】
[比較例4]
フラーレンの添加量を表1に示すとおりに変更する以外は実施例3と同様にして未延伸フィルムまでを得た。しかし延伸性が極めて悪く、二軸配向フィルムを得ることはできなかった。
【0046】
[比較例5]
フラーレン2.5重量部とポリエチレン−2,6−ナフタレート247.5重量部を直接神戸製鋼所製2軸混練機KTXにて混練し、得られたペレットを再度同装置にて混練してペレットを得た。このようにして得られたペレットを実施例3と同様に乾燥、溶融押出し、延伸熱処理して二軸配向PENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。高突起数が多く表面は粗れており、クリープ特性の改良効果も小さかった。
【0047】
[比較例6]
実施例4と同様に最初のペレットを作成した後、そのペレットを再混練しないで単軸押出機に供給し、フィルターろ過も行わないで未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、実施例4と同様に延伸、熱処理を行い、二軸配向PENフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは高突起数が多く、表面は粗れており、クリープ値も実施例4と比較して大きかった。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によって得られた熱可塑性樹脂フィルムは、フラーレンが熱可塑性樹脂フィルム中に高度に分散していることにより、高突起が少なく、表面平坦性に優れたフィルムを得ることができ、またクリープ特性をはじめとした機械特性の向上に有効であることから、データストレージテープ、ビデオテープなどの磁気記録用途、コンデンサー、フレキシブルプリント回路基板、ICカード、アンテナ機材、モーター絶縁紙、フラットケーブルなどの電気電子用途、液晶表示装置や有機ELディスプレイなどに代表されるフラットパネルディスプレイの基材用途、太陽電池基材などのエネルギー関連素材用途、バリア性に優れた包装用途のフィルムなどとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂50〜99.9999重量%およびフラーレン類0.0001〜50重量%からなるフィルムであって、該フィルムの表面高突起数が100cm2あたり10個以下であり、かつフィルム厚みが0.5〜500μmの範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリエステルである請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
少なくとも1軸方向に延伸されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
熱処理が施されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
同一の熱可塑性樹脂100重量%からなるフィルムに対し、同じヤング率におけるクリープ値が8%以上小さい、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
フィルムの表面粗さRzが5〜500nmである請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
フィルムの表面粗さRaが0.5〜50nmである請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。

【公開番号】特開2006−282971(P2006−282971A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108570(P2005−108570)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】