説明

熱可塑性樹脂剥離装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法

【課題】ポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂を金属板から連続的に効率よく剥離させることが可能な熱可塑性樹脂剥離装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂剥離装置1aは、モータで駆動されて同一方向に回転する巻き出しローラ2及び巻き取りローラ3a〜3cと、メチルアルコール等の洗浄剤が添加された脱脂槽4、水洗槽5a,5b、過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが添加された剥離槽6及びドライヤ7と、各槽の内部や上方にそれぞれ回転自在に設置されるガイドローラ8a〜8i及び水切りローラ9a,9bとからなり、樹脂ラミネート金属板10は、巻き出しローラ2と巻き取りローラ3a〜3cの間に設置されるとともに、ガイドローラ8a〜8iに巻回されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ラミネート金属板から熱可塑性樹脂を剥離する装置とその剥離方法に係り、特に、ポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂を金属板から効率よく剥離させることが可能な熱可塑性樹脂剥離装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属缶の製造工程では、腐食を防止するために、エポキシ系やフェノール系等の熱硬化性樹脂を溶剤に溶解、あるいは分散させたものを内面や外面に塗布して金属表面を被覆することが多い。しかしながら、熱硬化性樹脂を金属缶の被覆材として用いると、塗料の乾燥に長い時間を要することから生産効率が悪い。また、作業時に発生する多量の有機溶剤の蒸発や気散によって、健康への悪影響や環境汚染といった問題が生じる。そこで、金属缶の材料として、鋼板、アルミニウム板、マグネシウム板あるいはこれらの金属板にめっき等の各種の表面処理を施し、ポリエステルやポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂をラミネートした金属板が注目されている。
【0003】
フィルム状の熱可塑性樹脂をラミネートした金属板は、電気部品、家具、収納ケース、内外装建材等種々の分野で広く使用されている。
例えば、特許文献1には、ポリエチレンやポリプロピレン等の結晶性又は非晶性のポリオレフィン樹脂を金属板(軟鋼板、アルミニウム板及びこれらの合金板と、亜鉛メッキ鋼板、リン酸塩処理鋼板及びクロム酸塩処理鋼板等の表面処理鋼板)に接着剤を介在して被覆したものが記載され、特許文献2には、加熱された電解クロム酸処理鋼板の表面に二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムをラミネートした樹脂被覆鋼板が記載されている。
また、特許文献3には、樹脂フィルムの融点以上の温度となるように加熱した金属板の表面に、二層構造からなる結晶性飽和ポリエステルからなる樹脂フィルムを接着させたものが記載され、特許文献4には、熱可塑性ポリエステルによって表面を被覆されたアルミニウムシームレス缶が記載されている。
【0004】
フィルム状の熱可塑性樹脂は塗料の乾燥が不要なため、生産効率が良く、このような熱可塑性樹脂をラミネートした金属板は、そのままの状態で再利用することが可能である。ただし、金属資源としての純度を高めるためには、熱可塑性樹脂を金属板から除去することが望ましい。なお、ポリエステルやポリオレフィンからなる樹脂フィルムがラミネートされた金属板を容器用材料や建築材料に使用する場合、ラミネート時に所定の温度域を超えたものは加工耐食性や密着性が劣るため、ラミネート温度の管理幅は製品ごとに厳しく設定されている。そして、この温度管理幅を逸脱したものは不良品となる。また、上記金属板を容器用材料に用いる場合、使用後のスケルトン(シート状の打ち抜きカス)や、トリム代、ブランクなど、再利用可能なものが多い。そこで、このような金属板から熱可塑性樹脂を剥がす方法について、近年では様々な研究や開発がされており、それに関して既に幾つかの発明や考案が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献5には、「リサイクル性に優れた熱可塑性樹脂被覆金属板、熱融着した金属板接合体及び金属板接合体の分離方法」という名称で、分離や解体が容易で、リサイクル性に優れる熱可塑性樹脂被覆金属板と、それを用いた金属板接合体と、それらの分離方法に関する発明が開示されている。
すなわち、特許文献5に開示された発明は、リベット、ネジ、接着剤等を用いる代わりに、熱可塑性樹脂の介在により部材同士を接合するものである。そして、50〜250℃の範囲内の融点を示す結晶性の熱可塑性樹脂を使用することを特徴としている。
このような構造の熱可塑性樹脂被覆金属板においては、熱可塑性樹脂を溶融させることで、接合状態の部材同士の分離と、熱可塑性樹脂被覆金属板自身からの熱可塑性樹脂の分離を容易に行うことができる。
【0006】
また、フィルム状の熱可塑性樹脂を金属板から剥離させる技術に関するものではないが、特許文献6には、「被膜除去方法および被膜除去剤」という名称で、金属板やガラス板から有機被膜を除去する方法に関する発明が開示されている。
特許文献6に開示された発明は、半導体製造工程や液晶製造工程において、ウエーハやガラス基板の表面に付着した有機被膜を除去する方法に関するものであり、具体的には、希弗化水素水溶液や希塩酸を含む混合液中にオゾンを注入して発生させた気泡を、基台に付着した有機被膜に接触させる工程を備えたことを特徴とする。
このような方法によれば、オゾンと有機被膜の接触によりオゾンと有機被膜の中間体が生成され、この中間体が酸の水溶液によって順次除去されるという作用を有する。これにより、基台の表面に付着した有機被膜を簡便かつ効率的に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−141786号公報
【特許文献2】特開昭61−20736号公報
【特許文献3】特公昭60−47103号公報
【特許文献4】特許第3381137号公報
【特許文献5】特開2002−240190号公報
【特許文献6】特開平7−297163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術である特許文献5に開示された発明においては、熱可塑性樹脂自体が溶融してしまうため、フィルム形状を保ったままに連続的に剥離させることができないという課題があった。また、金属板から分離させた熱可塑性樹脂を回収する構成となっていないため、熱可塑性樹脂自体の再利用を図ることができないという課題があった。
【0009】
また、特許文献6に開示された発明をフィルム状の熱可塑性樹脂がラミネートされた金属板に適用した場合、熱可塑性樹脂が酸によって分解され、支持体として機能しなくなるため、熱可塑性樹脂を連続的に効率良く剥離させることができないという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、ポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂を金属板から連続的に効率よく剥離させることが可能な熱可塑性樹脂剥離装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である熱可塑性樹脂剥離装置は、金属板の少なくとも片面にポリエステル又はポリオレフィンからなる熱可塑性樹脂がラミネートされた樹脂ラミネート金属板から熱可塑性樹脂を剥離する装置であって、過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが剥離剤として添加される剥離槽を備えたことを特徴とするものである。
潤滑性を付与するために樹脂ラミネート金属板の表面には、通常、潤滑油等が塗布されているが、上記構造の熱可塑性樹脂剥離装置では、潤滑油が脱脂槽内で除去されるという作用を有する。また、樹脂ラミネート金属板では、化成処理によって金属板の表面に施された皮膜と,熱可塑性樹脂との間に水素結合が形成されているが、本発明の熱可塑性樹脂剥離装置では、剥離槽内において熱可塑性樹脂と金属板との間の水素結合が剥離剤によって切断されるという作用を有する。さらに、このとき熱可塑性樹脂と金属板の間で発生する酸素ガスが熱可塑性樹脂と金属板を互いに引き離すように内側から押圧するという作用を有する。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の熱可塑性樹脂剥離装置において、剥離槽には、剥離剤とともに界面活性剤が添加されることを特徴とするものである。
このような構造の熱可塑性樹脂剥離装置においては、剥離剤を含む水溶液の表面張力が減少するため、剥離剤が熱可塑性樹脂と金属板の間に浸透し易くなるという作用を有する。また、金属板に使用される鉄やアルミニウム等が腐食し難くなるという作用を有する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂剥離装置において、樹脂ラミネート金属板を巻き出す巻き出しローラと、熱可塑性樹脂を巻き取る第1の巻き取りローラと、金属板を巻き取る第2の巻き取りローラと、巻き出しローラの下流であって、かつ第1の巻き取りローラ及び第2の巻き取りローラの上流に設置され、樹脂ラミネート金属板を剥離槽に送入可能又は送出可能に,その搬送方向を調節するガイドローラと、を備えたことを特徴とするものである。
このような構造の熱可塑性樹脂剥離装置においては、モータ駆動等の機械的手段あるいは手動によって巻き出しローラを回転させると、予め巻き出しローラに巻回されている樹脂ラミネート金属板が送出され、ガイドローラによって搬送方向を調節されて剥離槽への送入及び送出が連続的に行われるという作用を有する。そして、剥離槽内では、熱可塑性樹脂と金属板の間の水素結合が剥離剤によって切断されるという作用を有する。さらに、剥離槽内では、熱可塑性樹脂と金属板の間で酸素ガスが発生し、この酸素ガスが熱可塑性樹脂と金属板を互いに引き離すように内側から押圧するという作用を有する。また、熱可塑性樹脂が樹脂ラミネート金属板から剥離されて第1の巻き取りローラに巻き取られるとともに、熱可塑性樹脂と分離された金属板が第2の巻き取りローラに巻き取られるという作用を有する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂剥離装置において、樹脂ラミネート金属板が巻回される芯材と、この芯材とともに巻回された樹脂ラミネート金属板が内部に設置される枠体と、この枠体の回転を抑制した状態で芯材を回転させる第1の回転手段と、剥離槽内において芯材の回転を抑制した状態で枠体を回転させる第2の回転手段と、を備え、樹脂ラミネート金属板の始端部及び終端部は芯材及び枠体にそれぞれ固定されることを特徴とするものである。
このような構造の熱可塑性樹脂剥離装置では、ロール状に巻回された状態の樹脂ラミネート金属板をそのまま剥離槽に入れた場合でも、金属板と樹脂フィルムの間に剥離剤が容易に浸透するという作用を有する。
【0015】
請求項5に記載の発明である熱可塑性樹脂の剥離方法は、金属板の少なくとも片面にポリエステル又はポリオレフィンからなる熱可塑性樹脂がラミネートされた樹脂ラミネート金属板から熱可塑性樹脂を剥離する方法において、剥離処理工程を備え、この剥離処理工程で、過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つからなる剥離剤に樹脂ラミネート金属板が浸漬されることを特徴とするものである。
このような熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、表面に化成処理が施された金属板と,熱可塑性樹脂との間に形成される水素結合が、剥離処理工程において剥離剤によって切断されるという作用を有する。さらに、熱可塑性樹脂と金属板の間で酸素ガスが発生するとともに、酸素ガスが熱可塑性樹脂と金属板を内側から押圧し、両者を互いに引き離すように作用する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の熱可塑性樹脂の剥離方法において、始端部を芯材に固定した後,この芯材の外周に樹脂ラミネート金属板を巻回する芯材取り付け工程と、芯材とともに樹脂ラミネート金属板を円筒状の枠体の内部に設置した後,この枠体に前記樹脂ラミネート金属板の終端部を固定する枠体取り付け工程と、枠体の回転を抑制し,樹脂ラミネート金属板の巻き付け状態が緩むように芯材を回転させる弛緩工程と、樹脂ラミネート金属板を剥離剤に浸漬させるとともに,芯材の回転を抑制し,枠体を回転させる剥離処理工程と、を備えたことを特徴とするものである。
このような熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、ロール状に巻回された樹脂ラミネート金属板に対し、剥離剤が金属板と樹脂フィルムの間に容易に浸透するという作用を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の熱可塑性樹脂剥離装置によれば、ロール状のブランク、トリム代や、シート状のスケルトン、トリム代、ブランク等の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を容易に剥離させることができる。これにより、金属板はそのまま使用できる他、スクラップとしての再利用が可能となる。また、熱可塑性樹脂は造粒品やペレットに加工することにより、樹脂成形加工の樹脂替えの際に使用するパージ材や製品用の加工原料として再利用することができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の熱可塑性樹脂剥離装置によれば、請求項1記載の発明よりもさらに容易に熱可塑性樹脂を樹脂ラミネート金属板から剥離させることができる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の熱可塑性樹脂剥離装置によれば、剥離された熱可塑性樹脂が剥離槽から確実に取り出されるため、槽内が汚れ難く、また、剥離液が希釈されるおそれがない。さらに、ロール状のブランク、トリム代等の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を連続的に効率よく剥離させることができる。そして、剥離されたフィルム状の熱可塑性樹脂は乾燥後、フラフ状に切断・粉砕し、押出装置で造粒品やペレットに加工することにより、樹脂成形加工の樹脂替えの際に使用するパージ材として、あるいは製品用の加工原料として再利用することができる。また、樹脂ラミネート金属板から分離されたフィルム状の熱可塑性樹脂及び金属板は第1の巻き取りローラ及び第2の巻き取りローラに個別に巻き取られてそれぞれがロール状となるため、保管や運搬が容易である。さらに、樹脂ラミネート金属板から分離されたフィルム状の熱可塑性樹脂を巻き取りローラによって巻き取る代わりに、切断・粉砕装置等に連続して供給することによれば、熱可塑性樹脂フィルムを金属板から剥離する工程と、剥離された熱可塑性樹脂フィルムをペレット等に加工する後工程を連続して一体的に行うことが可能である。これにより、作業効率が向上する。
【0020】
本発明の請求項4に記載の熱可塑性樹脂剥離装置によれば、ロール状に巻回された状態のままで樹脂ラミネート金属板を剥離槽に入れる構成となっていることから、剥離槽の小型化を図ることができる。また、樹脂ラミネート金属板の運搬や各処理槽に対する出し入れが容易である。
【0021】
本発明の請求項5に記載の熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、ポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂が金属板の少なくとも片面にラミネートされた樹脂ラミネート金属板から、熱可塑性樹脂を効率よく剥離させ、熱可塑性樹脂と金属板とをそれぞれ個別に再利用することが可能である。
【0022】
本発明の請求項6に記載の熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、ロール状に巻回された状態のままで樹脂ラミネート金属板の剥離処理を行うことができる。この場合、樹脂ラミネート金属板の取扱が容易であるため、作業効率が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂剥離装置の実施例1の構成図である。
【図2】実施例1の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂剥離装置の実施例2の構成図である。
【図4】実施例2の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂剥離装置の実施例3の構成図である。
【図6】実施例3の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂剥離装置は、金属板の少なくとも片面にポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂がラミネートされた樹脂ラミネート金属板から熱可塑性樹脂を剥離させて、金属板や熱可塑性樹脂を再利用するために用いられる。なお、樹脂ラミネート金属板は、通常、ロールやシートの状態で客先に供給されるため、以下、ロール状又はシート状の樹脂ラミネート金属板を例にとって、本発明の具体的な構成とそれに伴う作用及び効果について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
ロール状の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を剥離させる装置とそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法について図1及び図2を用いて説明する(特に、請求項3及び請求項5に対応)。
図1は熱可塑性樹脂剥離装置の実施例1の構成図であり、図2は実施例1の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。
図1に示すように、熱可塑性樹脂剥離装置1aは、図示しないモータによって駆動されて同一方向に回転する巻き出しローラ2及び巻き取りローラ3a〜3cと、脱脂槽4、水洗槽5a,5b、剥離槽6及びドライヤ7と、各槽の内部や上方にそれぞれ回転自在に設置されるガイドローラ8a〜8i及び水切りローラ9a,9bとからなり、樹脂ラミネート金属板10は、巻き出しローラ2と巻き取りローラ3a〜3cの間に設置されるとともに、ガイドローラ8a〜8iに巻回されている。脱脂槽4にはメチルアルコールやエチルアルコール、あるいは水酸化ナトリウム溶液などの洗浄剤が添加されており、剥離槽6には過酸化リチウム、過酸化バリウム、過酸化ストロンチウム、過炭酸ナトリウム等の過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが剥離剤として添加されている。
【0026】
このような構造の熱可塑性樹脂剥離装置1aにおいては、モータの駆動により巻き出しローラ2が回転すると、巻き出しローラ2に巻回された樹脂ラミネート金属板10は矢印Aの方向に送出され、ガイドローラ8a〜8cによって搬送方向を調節されて脱脂槽4内に送入される。樹脂ラミネート金属板10には、通常、潤滑性を付与する目的で表面に潤滑油等が塗布されているが、脱脂槽4においてそれらの油脂が除去される(図2のステップS1に示す脱脂工程)。次に、脱脂槽4から送出された樹脂ラミネート金属板10は、脱脂槽4で付着した洗浄剤がガイドローラ8dと水切りローラ9aによって除去された後、ガイドローラ8c,8eによって搬送方向を調節されて水洗槽5aに送入される。そして、樹脂ラミネート金属板10は水洗槽5a内で洗浄水によって洗浄される(図2のステップS2に示す水洗工程)。
【0027】
水洗槽5aから送出された樹脂ラミネート金属板10は、ガイドローラ8dと水切りローラ9aによって水分が除去された後、剥離槽6内に送入される。これにより、樹脂ラミネート金属板10において金属板10aと熱可塑性樹脂の間の水素結合が、剥離剤の作用によって切断される(図2のステップS3に示す剥離処理工程)。なお、本実施例では、樹脂ラミネート金属板10の剥離剤を含む水溶液(以下、単に剥離液という。)への浸漬時間が長くなるように、複数のガイドローラ8f,8gを上下にそれぞれ間隔をあけて配置することで、樹脂ラミネート金属板10が何重にも折り返された状態で剥離液に浸漬されるようにしている。また、ガイドローラ8fを剥離液中に配置する一方、ガイドローラ8gを剥離液の上方に配置して樹脂ラミネート金属板10の一部を空気中に露出させることで、熱可塑性樹脂からなる外面フィルム11a及び内面フィルム11bの剥離状態の目視確認を容易にしている。
【0028】
剥離槽6から送出された樹脂ラミネート金属板10は、剥離槽6で付着した剥離液がガイドローラ8dと水切りローラ9aによって除去された後、水洗槽5b内に送入され、洗浄液によって再び洗浄される(図2のステップS4に示す水洗工程)。そして、樹脂ラミネート金属板10は、水洗槽5bから送出され、ガイドローラ8hと水切りローラ9bによって水分が除去された後、外面フィルム11aと内面フィルム11bが金属板10aから剥離される(図2のステップS5に示す樹脂フィルムの剥離工程)。その後、ドライヤ7によって乾燥させられて巻き取りローラ3b,3cにそれぞれ巻き取られる(図2のステップS7に示す樹脂フィルムの乾燥及び巻き取り工程)。一方、金属板10aは、ドライヤ7によって乾燥させられ、ガイドローラ8iによって搬送方向を調節されて矢印Bで示すように巻き取りローラ3aに巻き取られる(図2のステップS6に示す金属板の乾燥及び巻き取り工程)。
【0029】
樹脂ラミネート金属板10では、製造時の加熱処理によって、クロメート等の化成処理をした金属板10aの表面と、外面フィルム11a及び内面フィルム11bとの間に水素結合が形成される。そして、樹脂ラミネート金属板10を過酸化水素水に浸漬すると、水和反応により上記水素結合が切断される。また、過酸化水素の分解に伴って金属板10aの表面と外面フィルム11a及び内面フィルム11bの間で酸素ガスが発生する。そして、酸素ガスは外面フィルム11a及び内面フィルム11bと金属板10aを内側から押圧し、両者を互いに引き離すように作用する。
このような作用は、過酸化水素水の代わりに、過酸化リチウム、過酸化バリウム、過酸化ストロンチウム、過炭酸ナトリウム等の過酸化物やオゾンを用いても同様に発揮される。すなわち、熱可塑性樹脂剥離装置1aでは剥離槽6の剥離液として、上記過酸化物や過酸化水素やオゾンを用いているため、前述したように、樹脂ラミネート金属板10を剥離槽6の剥離液に浸漬することで、外面フィルム11a及び内面フィルム11bが金属板10aから容易に剥離可能な状態となるのである。なお、オゾンには過酸化水素や過酸化物の経時劣化を防ぐ作用があるため、剥離液に過酸化水素や過酸化物を使用する場合には、オゾンを併用することが望ましい。
【0030】
金属板10aから外面フィルム11a及び内面フィルム11bを剥離させるという作用は、剥離液として用いる過酸化水素や過酸化物やオゾンの濃度及び温度の影響を受ける。そして、剥離液の濃度や温度は、樹脂や金属の種類及びフィルムの焼付条件によって異なる。従って、剥離液の濃度及び温度は剥離対象である樹脂の種類に応じて調節すると良い。さらに、過酸化水素、過酸化物やオゾンからなる剥離液に対して、ノニオン性、陰イオン性、陽イオン性の界面活性剤を添加すると、剥離剤の水溶液の表面張力が減少するため、剥離剤が熱可塑性樹脂と金属板の間に浸透し易くなる。従って、熱可塑性樹脂の剥離が一層容易となる。また、鉄やアルミニウムなどが腐食し難くなるという作用も有する。なお、樹脂フィルムの剥離作用を高めるために、例えば、剥離液を撹拌しても良い。また、噴流やシャワー状の剥離液を樹脂ラミネート金属板10に直接吹きかける構造や、剥離液に超音波やマイクロジェットによる振動を与えるような構造であっても良い。
【0031】
剥離槽6の剥離液に、熱硬化性樹脂の塗膜で被覆された金属板を浸漬すると、上述の作用により塗膜自身が分解するため、塗膜を連続的に剥離することは困難である。これに対し、樹脂ラミネート金属板10のように外面フィルム11a及び内面フィルム11bがポリオレフィンやポリエステルからなる熱可塑性樹脂である場合には、剥離液が作用してもフィルム自身は分解しないため、巻き取りローラ3b,3cで巻き取ることにより金属板10aから連続的に剥離させることが可能である。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、トリム代(トリミング時の予備部分)やブランク(不良品)等のロール状の樹脂ラミネート金属板からポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂を効率よく剥離させ、熱可塑性樹脂と金属板とをそれぞれ個別に再利用することができる。また、本発明の熱可塑性樹脂剥離装置によれば、樹脂ラミネート金属板10から分離された外面フィルム11a及び内面フィルム11bは巻き取りローラ3b,3cにそれぞれ巻き取られ、金属板10aは巻き取りローラ3aに巻き取られる。すなわち、外面フィルム11a及び内面フィルム11b及び金属板10aがそれぞれ巻き取られて個別にロール状となるため、保管や運搬が容易である。さらに、剥離された外面フィルム11a及び内面フィルム11bが各槽から確実に取り出されるため、各槽内が汚れ難く、剥離液も希釈されない。
このようにして、樹脂ラミネート金属板10から剥離された外面フィルム11a及び内面フィルム11bは、乾燥後、フラフ状に切断・粉砕され(図2のステップS8)、造粒装置もしくは押出装置を用いて造粒品あるいはペレットに加工される(図2のステップS9及びステップS10)。そして、この造粒品やペレットは、樹脂成形加工工程での樹脂替え時のパージ材として、あるいは製品用の加工原料として使用される。なお、上記熱可塑性樹脂の剥離方法では、外面フィルム11a及び内面フィルム11bが連続した状態で得られるため、巻き取りローラ3b,3cによって巻き取る代わりに、切断・粉砕装置等にそのままの状態で直接供給することができる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、外面フィルム11a及び内面フィルム11bを金属板10aから剥離する工程と、剥離された外面フィルム11a及び内面フィルム11bをペレット等に加工する後工程とを連続して一体的に行って、作業効率の向上を図ることが可能である。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂剥離装置の構造は、本実施例に示す場合に限定されるものではない。例えば、ガイドローラ8gは剥離液の上方ではなく、ガイドローラ8fとともに、剥離液中に浸漬されるように設置しても良い。ただし、ガイドローラ8gを剥離液に浸漬させないように設置した方が、目視による点検が容易であり、交換等の保守作業の効率も良い。また、ガイドローラ8a〜8iの個数や設置箇所は図1に示した場合に限らず、適宜変更可能である。なお、樹脂フィルム剥離装置1aに使用する樹脂ラミネート金属板10は必ずしも両面に熱可塑性樹脂がラミネートされた構造でなくともよい。すなわち、外面フィルム11a及び内面フィルム11bのいずれか一方のみが金属板10aにラミネートされた樹脂ラミネート金属板10に対しても樹脂フィルム剥離装置1aは適用可能である。
【実施例2】
【0033】
シート状の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を剥離させる装置とそれを用いた熱可塑性樹脂の剥離方法について図3及び図4を用いて説明する(特に、請求項1、請求項2及び請求項5に対応)。
図3は本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂剥離装置の実施例2の構成図であり、図4は実施例2の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。なお、図1に示した構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
樹脂ラミネート金属板の一部を打ち抜いて使用した場合、スケルトン(シート状の打ち抜きカス)やトリム代(トリミング時の予備部分)やブランク(不良品)等のシート状の樹脂ラミネート金属板が発生する。図3に示す熱可塑性樹脂剥離装置1bは、これらのシート状の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を剥離させる際に使用されるものであり、脱脂槽4、水洗槽5a,5b及び剥離槽6を備えている。なお、実施例1の場合と同様に、脱脂槽4にはメチルアルコールやエチルアルコール、あるいは水酸化ナトリウム溶液などの洗浄剤が添加されており、剥離槽6には過酸化リチウム、過酸化バリウム、過酸化ストロンチウム、過炭酸ナトリウム等の過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが剥離液として添加されている。なお、脱脂槽4、水洗槽5a,5b及び剥離槽6への樹脂ラミネート金属板10の投入や取り出しは、人手による方法及びコンベア等を用いて機械的に行う方法のいずれの方法で行っても良い。
【0034】
上記構造の熱可塑性樹脂剥離装置1bにおいては、まず、シート状の樹脂ラミネート金属板10を脱脂槽4に入れて樹脂ラミネート金属板10の表面に塗布されている潤滑油等の油脂を除去する(図4のステップS1に示す脱脂工程)。その後、樹脂ラミネート金属板10を脱脂槽4から取り出し、脱脂槽4で付着した洗浄剤を十分に除去して水洗槽5a内で洗浄する(図4のステップS2に示す水洗工程)。次に、樹脂ラミネート金属板10を水洗槽5aから取り出し、十分に水を切った後、剥離槽6に入れる。その結果、樹脂ラミネート金属板10の金属板10aと外面フィルム11a及び内面フィルム11bの間の水素結合が剥離液の作用により切断される(図4のステップS3に示す剥離処理工程)。そして、樹脂ラミネート金属板10を剥離槽6から取り出すとともに、剥離液を十分に除去した後、水洗槽5b内で洗浄する(図4のステップS4に示す水洗工程)。その後、金属板10aから剥離して剥離液中に浮遊する外面フィルム11aや内面フィルム11bを回収し、ドライヤ7によって乾燥させる(図4のステップS6に示す樹脂フィルムの回収及び乾燥工程)。さらに、金属板10aを水洗槽5bから取り出し、十分に水を切った後、ドライヤ7によって乾燥させる(図4のステップS5に示す金属板の取り出し及び乾燥工程)。なお、熱可塑性樹脂剥離装置1bは、ロール状の樹脂ラミネート金属板10に対しても使用することが可能である。また、図4に示したステップS7〜ステップS9は、図2に示したステップS8〜ステップS10と同様の工程であるため、その説明を省略する。
【0035】
このように、熱可塑性樹脂剥離装置1bを用いることによれば、スケルトン、トリム代、ブランク等のシート状の樹脂ラミネート金属板からフィルム状の熱可塑性樹脂を容易に剥離することができる。これにより、例えば、金属板はそのまま使用できる他、スクラップとしても再利用できる。また、熱可塑性樹脂は造粒品やペレットに加工することにより、樹脂成形加工工程における樹脂替え時のパージ材や製品用の加工原料として再利用することができる。
【実施例3】
【0036】
実施例1の熱可塑性樹脂剥離装置1aの一部を用いて、ロール状の樹脂ラミネート金属板10(以下、単にロール12という。)からフィルム状の熱可塑性樹脂を剥離させる方法について図5及び図6を用いて説明する(特に、請求項4及び請求項6に対応)。
図5は本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂剥離装置の実施例3の構成図であり、図6は実施例3の熱可塑性樹脂剥離装置を用いた熱可塑性樹脂の剥離方法を示す工程図である。なお、図1に示した構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
本実施例の熱可塑性樹脂剥離装置は、実施例1の熱可塑性樹脂剥離装置1aのうち、巻き取りローラ3a〜3cと、水洗槽5bと、剥離槽6と、ドライヤ7と、ガイドローラ8c〜8e,8h,8i及び水切りローラ9a,9bを備え、さらに、ロール12と内径が等しい芯材13と、ロール12の外径よりも大きい内径を有する枠体14と、枠体14を回転させないように固定する固定板15と、ロール12が装着された状態で芯材13を回転させる巻き取り器(図示せず)と、ロール12が剥離液に浸漬された状態で芯材13を剥離層6に固定する固定具(図示せず)と、ロール12が剥離液に浸漬された状態で枠体14を回転させる歯車式モータ16と、図示しないモータに駆動されることにより巻き取りローラ3a〜3cと同一方向に回転する巻き出しローラ17とを備えている。すなわち、固定板15と巻き取り器は、枠体14の回転を抑制した状態で芯材13を回転させる回転手段を構成し、芯材13を剥離槽6に固定する固定具と歯車式モータ16は、剥離槽6内において芯材13の回転を抑制した状態で枠体14を回転させる回転手段を構成している。
なお、剥離槽6には剥離剤として過酸化リチウム、過酸化バリウム、過酸化ストロンチウム、過炭酸ナトリウム等の過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが添加されている。また、巻き出しローラ17は、ロール12を芯材13ごと装着可能な構造となっている。さらに、芯材13はステンレス製の円柱体であり、枠体14はステンレス製の円筒体である。そして、樹脂ラミネート金属板10は、ガイドローラ8c〜8e,8h,8iによって送出方向を調節されながら、巻き出しローラ17に装着されたロール12から連続的に巻き出される構成となっている。
【0038】
上記構造の熱可塑性樹脂剥離装置においては、まず、芯材13に対してロール12の内側の始端部12aを両面テープ等で貼り付けた後、巻き取り器により図5(a)に示すように芯材13を矢印Cの向きに回転させ、ロール12を芯材13に巻き取る(図6のステップS1に示す芯材13の取り付け工程)。次に、ロール12の外側に配置した枠体14に対してロール12の外側の終端部12bを両面テープ等で貼り付ける(図6のステップS2に示す枠体14の取り付け工程)。さらに、図5(b)に示すように枠体14を固定板15に固定するとともに、巻き取り器により芯材13を矢印Dの向きに回転させ、芯材13に対するロール12の巻き付け状態を緩める(図6のステップS3に示すロール12の弛緩工程)。その後、図5(c)に示すようにロール12を剥離槽6に入れて剥離液に浸漬させるとともに、固定具により芯材13を固定した状態で歯車式モータ16により枠体14を矢印E又は矢印Eの向きに回転させる(図6のステップS4に示す剥離処理工程)。これにより、剥離液がロール12へ容易に浸透する。
【0039】
図5(d)に示すように、剥離槽6から取り出したロール12を芯材13及び枠体14とともに巻き出しローラ17へ装着し、樹脂ラミネート金属板10をガイドローラ8c〜8e,8h,8iに巻回するとともに、金属板10a,外面フィルム11a及び内面フィルム11bの端部を巻き取りローラ3a〜3cに装着する。そして、モータの駆動により巻き出しローラを回転させると、ロール12から樹脂ラミネート金属板10が送出され、ガイドローラ8dと水切りローラ9aによって剥離液が除去された後、水洗槽5b内に送入され、洗浄液によって洗浄される(図6のステップS5に示す水洗工程)。その後、樹脂ラミネート金属板10は、水洗槽5bから送出され、ガイドローラ8eと水切りローラ9bによって水分が除去された後、外面フィルム11aと内面フィルム11bが金属板10aから剥離される(図6のステップS6に示す剥離工程)。さらに、ドライヤ7によって乾燥させられた後、巻き取りローラ3b,3cにそれぞれ巻き取られる(図6のステップS8に示す樹脂フィルムの乾燥及び巻き取り工程)。また、金属板10aは、ドライヤ7によって乾燥させられ、ガイドローラ8iによって搬送方向を調節されて矢印Bで示すように巻き取りローラ3aに巻き取られる(図6のステップS7に示す金属板の乾燥及び巻き取り工程)。なお、図6に示したステップS9〜ステップS11は、図2に示したステップS8〜ステップS10と同様の工程であるため、その説明を省略する。
【0040】
このような熱可塑性樹脂の剥離方法によれば、外面フィルム11aや内面フィルム11bと金属板10aの間に剥離液が十分に浸透するため、外面フィルム11aや内面フィルム11bを金属板10aから容易に剥離させることができる。また、樹脂ラミネート金属板10がロール状に巻回された状態のままで剥離液に浸漬されることから、剥離槽6の小型化を図ることができる。さらに、樹脂ラミネート金属板10の運搬や各処理槽に対する出し入れが容易である。これにより、作業効率が高まる。
【0041】
本実施例では、芯材13や枠体14を用いることにより、ロール状の樹脂ラミネート金属板10への剥離液の浸透性を高める構成となっているが、このような方法によらず、例えば、ロール状の樹脂ラミネート金属板10を一旦解いた後、棒状又は網目状のステンレスワイヤと一緒にロール状に再度巻き直して剥離槽6に入れるようにしても良い。この場合、本実施例と同様に、外面フィルム11aや内面フィルム11bと金属板10aの間に剥離液を十分に浸透させることが可能である。
【0042】
次に、本発明の熱可塑性樹脂の剥離方法を樹脂ラミネート金属板に適用した場合について、表1を用いて説明する。なお、各サンプルはシート状であるため、実施例2の熱可塑性樹脂剥離装置1bを使用し、図4のステップS3に示す剥離工程の後、両面テープを樹脂フィルムの表面に貼り付けて、金属板から引き剥がす作業を行った。そして、金属板から樹脂フィルムを剥離できた場合を「○」、金属板から樹脂フィルムを剥離できなかった場合を「×」として、表1にそれぞれ示す。なお、樹脂フィルムが剥離できた場合には、さらに金属板の表面を光電子分光光度計によって観察した。
【0043】
【表1】

【0044】
サンプル1、サンプル2及びサンプル5の結果は、樹脂ラミネート金属板を剥離液への浸漬時間が長いほど樹脂フィルムが剥離し易く、剥離液への浸漬時間が短いほど樹脂フィルムが剥離し難いことを示している。また、サンプル2及びサンプル4の結果は、界面活性剤を添加することで、剥離液の表面張力が減少し、剥離剤が樹脂フィルムと金属板の間に浸透し易くなった結果、樹脂フィルムの剥離作用が強まったことを示している。さらに、サンプル3及びサンプル6の結果は、剥離液の温度が低いと樹脂フィルムを剥離させる作用が弱まるが、剥離液への浸漬時間を長くすることでその剥離作用が改善されたことを示している。なお、サンプル1、サンプル3及びサンプル4において、樹脂フィルムを剥離させた後の金属板の表面を光電子分光光度計によって観察した結果、いずれも樹脂フィルムに含まれる炭素成分は発見されなかった。これは、熱可塑性樹脂が金属板から完全に剥離されたことを示している。なお、この実験はポリエステル製の樹脂フィルムについてのものであるが、ポリオレフィン製の樹脂フィルムについても同様の実験結果が得られるものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の請求項1乃至請求項6に記載された発明は、ポリエステル又はポリオレフィンからなるフィルム状の熱可塑性樹脂が金属板の少なくとも片面にラミネートされた樹脂ラミネート金属板において、熱可塑性樹脂と金属板を再利用することを目的として、それぞれを分離させる場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b…熱可塑性樹脂剥離装置 2…巻き出しローラ 3a〜3c…巻き取りローラ 4…脱脂槽 5a,5b…水洗槽 6…剥離槽 7…ドライヤ 8a〜8i…ガイドローラ 9a,9b…水切りローラ 10…樹脂ラミネート金属板 10a…金属板 11a…外面フィルム 11b…内面フィルム 12…ロール 12a…始端部 12b…終端部 13…芯材 14…枠体 15…固定板 16…歯車式モータ 17…巻き出しローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面にポリエステル又はポリオレフィンからなる熱可塑性樹脂がラミネートされた樹脂ラミネート金属板から前記熱可塑性樹脂を剥離する装置であって、
過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つが剥離剤として添加される剥離槽を備えたことを特徴とする熱可塑性樹脂剥離装置。
【請求項2】
前記剥離槽には、前記剥離剤とともに界面活性剤が添加されることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂剥離装置。
【請求項3】
前記樹脂ラミネート金属板を巻き出す巻き出しローラと、
前記熱可塑性樹脂を巻き取る第1の巻き取りローラと、
前記金属板を巻き取る第2の巻き取りローラと、
前記巻き出しローラの下流であって、かつ前記第1の巻き取りローラ及び前記第2の巻き取りローラの上流に設置され、前記樹脂ラミネート金属板を前記剥離槽に送入可能又は送出可能に,その搬送方向を調節するガイドローラと、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂剥離装置。
【請求項4】
前記樹脂ラミネート金属板が巻回される芯材と、
この芯材とともに前記巻回された樹脂ラミネート金属板が内部に設置される枠体と、
この枠体の回転を抑制した状態で前記芯材を回転させる第1の回転手段と、
前記剥離槽内において前記芯材の回転を抑制した状態で前記枠体を回転させる第2の回転手段と、
を備え、
前記樹脂ラミネート金属板の始端部及び終端部は前記芯材及び前記枠体にそれぞれ固定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂剥離装置。
【請求項5】
金属板の少なくとも片面にポリエステル又はポリオレフィンからなる熱可塑性樹脂がラミネートされた樹脂ラミネート金属板から前記熱可塑性樹脂を剥離する方法において、剥離処理工程を備え、
この剥離処理工程で、過酸化物や過酸化水素あるいはオゾンのうちの少なくともいずれか1つからなる剥離剤に前記樹脂ラミネート金属板が浸漬されることを特徴とする熱可塑性樹脂の剥離方法。
【請求項6】
始端部を芯材に固定した後,この芯材の外周に前記樹脂ラミネート金属板を巻回する芯材取り付け工程と、
前記芯材とともに前記樹脂ラミネート金属板を円筒状の枠体の内部に設置した後,この枠体に前記樹脂ラミネート金属板の終端部を固定する枠体取り付け工程と、
前記枠体の回転を抑制し,前記樹脂ラミネート金属板の巻き付け状態が緩むように前記芯材を回転させる弛緩工程と、
前記樹脂ラミネート金属板を前記剥離剤に浸漬させるとともに,前記芯材の回転を抑制し,前記枠体を回転させる剥離処理工程と、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25017(P2012−25017A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165222(P2010−165222)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(304022632)株式会社 イチキン (7)
【Fターム(参考)】