説明

熱可塑性樹脂成形体の破砕方法、熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法および再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法

【課題】表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで大きさの異なる破砕片を形成し、品質の高い再生熱可塑性樹脂成形体を製造する。
【解決手段】熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させる表面劣化工程、前記表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで、その平均最長径が異なるように破砕する破砕工程、前記破砕片(A)および前記破砕片(B)のうち、前記破砕片(B)を分離する分離工程、および前記破砕片(B)を用いて、熱可塑性樹脂成形体を成形し再生させる再生熱可塑性樹脂成形体成形工程を有する再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体の破砕方法、熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法および再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系(PC系)樹脂等の熱可塑性樹脂は、各種用途に使用されており、特に家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されている。また、事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも、PC系樹脂にスチレン系(PS系)樹脂やアクリロニトリルスチレン系(ABS系)樹脂を配合したアロイ樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されている。このため、上記の部品が製造される際や部品の使用後には、PC系樹脂やそのアロイ樹脂等の熱可塑性樹脂の廃材が大量に排出され、近年ではこれらの廃材を有効に利用するマテリアルリサイクル(再生利用)が望まれている。
【0003】
ここで、マテリアルリサイクルとは、回収した熱可塑性樹脂の廃材(廃プラスチック)を分別・破砕・洗浄し、これを原料(以下「破砕材」と称す)としてリサイクルプラスチックを製造することを表す。マテリアルリサイクルには、破砕材の品質により、使用された樹脂と同等レベルでリサイクルされる「水平リサイクル」と、使用された樹脂の品質より低品質の樹脂としてリサイクルされる「カスケードリサイクル」とがある。尚、本明細書においてリサイクルとは上記水平リサイクルを指すものとする。
【0004】
上記の水平リサイクルにおいては、破砕材の品質として、リサイクルされたものではなく新規に製造された樹脂(以下「バージン樹脂」と称す)と同等な品質であることが望まれる。このため、破砕材はバージン樹脂と同等の組成を有することが求められ、リサイクルにおいては、回収した樹脂を同一もしくは近いグレードのものに分別してから破砕する方法が行われている。
【0005】
ここで、破砕材の品質が低くなる要因として、市場での使用条件により異物が付着したり劣化しており、且つその度合いが異なることが挙げられる。これに対し、市場での使用状況や、測定によって劣化度を求め、劣化度に応じたリサイクルを実施することが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
また、劣化や異物は大部分が回収した熱可塑性樹脂(廃材)の表面に存在しているため、その表面部分を除去した破砕材を用いる方法が提案されている。表面を除去する方法として、高圧水を照射する方法(例えば、特許文献3参照)や、破砕時に破砕材同士を擦り表面を磨耗させる方法(例えば、特許文献4および5参照)が提案されている。
【0006】
その他、樹脂を一旦劣化させてから破砕する方法、具体的には、樹脂をオゾン雰囲気中に放置し且つ紫外線を照射することにより樹脂を劣化させた後に破砕する方法が提案されている(例えば、特許文献6および7参照)。尚、この方法によって得られる破砕材は、ほぼ均一な大きさの細かい小片に細分化される。
【0007】
また、原子力用ケーブルの処理において、紫外線を照射して表面を劣化させ、その劣化した樹脂を溶剤に溶解することで表面部分を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3275462号公報
【特許文献2】特開2006−123193号公報
【特許文献3】特開平7−80839号公報
【特許文献4】特開2004−122575号公報
【特許文献5】特開2004−42461号公報
【特許文献6】特許第3307629号公報
【特許文献7】特許第3761161号公報
【特許文献8】特開2002−174695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させた後破砕を行わない場合に比べ、表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで大きさの異なる破砕片を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させる表面劣化工程、
および、前記表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで、その平均最長径が異なるように破砕する破砕工程を有する熱可塑性樹脂成形体の破砕方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の破砕方法によって破砕され得られた前記破砕片(A)および前記破砕片(B)のうち、前記破砕片(B)を分離する分離工程を有する熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、
請求項2に記載の熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法によって製造された破砕片(B)を用いて、熱可塑性樹脂成形体を成形し再生させる再生熱可塑性樹脂成形体成形工程を有する再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させた後破砕を行わない場合に比べ、表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで大きさの異なる破砕片が形成される。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に記載の破砕方法によって破砕された熱可塑性樹脂成形体を用いない場合に比べ、品質の高い破砕片が製造される。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、請求項2に記載の製造方法によって得られた熱可塑性樹脂成形体の破砕片(B)を用いない場合に比べ、品質の高い再生熱可塑性樹脂成形体が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る樹脂成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法は、熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させる表面劣化工程、および、前記表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで、その平均最長径が異なるように破砕する破砕工程を有することを特徴とする。
【0018】
また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法は、前記本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法によって破砕され得られた前記破砕片(A)および前記破砕片(B)のうち、前記破砕片(B)を分離する分離工程を有することを特徴とする。
【0019】
更に、本実施形態に係る再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、前記本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法によって製造された破砕片(B)を用いて、熱可塑性樹脂成形体を成形し再生させる再生熱可塑性樹脂成形体成形工程を有することを特徴とする。
【0020】
市場にて使用された後に回収されたプラスチック(熱可塑性樹脂)は、市場での使用条件により表面に異物が付着していたり表面が劣化しており、リサイクルする場合、劣化した表面部分と劣化していないその他の部分とを効率的に分離することが望まれている。
これに対し本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法によれば、劣化した表面部分と劣化していないその他の部分とで大きさの異なる破砕片が形成される。また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法によれば、上記大きさの異なる破砕片の中から劣化していないその他の部分のみを効率的に分離し、品質の高い破砕片が製造される。更に、本実施形態に係る再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法によれば、上記品質の高い破砕片を用いて、品質の高い再生熱可塑性樹脂成形体が製造される。
【0021】
この効果は、必ずしも明確ではないものの、以下のメカニズムによるものと推察される。即ち、熱可塑性樹脂は、紫外線を照射することによって表面部分のみが加速的に劣化される。紫外線照射により表面部分のみが劣化した熱可塑性樹脂は、該表面部分に色変化(主に黄変)、割れ目の発生、分子量の低下等が生ずる。分子量が低下すると耐衝撃強度が低下し、この状態で熱可塑性樹脂を破砕するとその部分は紫外線照射による劣化が生じていない部分に比べて細かく破砕される。従って、紫外線照射によって表面部分を劣化させた後破砕することにより、表面部分は極めて小さい破砕片(破砕片(A))となり、一方紫外線照射による劣化が生じていない部分は、該表面部分の破砕片よりも最長径の大きい破砕片(破砕片(B))となるものと推察される。
また、表面部分とその他の部分とで大きさの異なる(平均最長径が異なる)破砕片が形成されることにより、表面部分とその他の部分とを分離することが容易に行われ、市場での使用による劣化や異物の付着が生じていない上記その他の部分の破砕片のみを用いることで、品質の高い再生熱可塑性樹脂成形体が製造される。
【0022】
即ち、本発明者らは、表面部分のみを紫外線照射によって劣化させ(表面劣化工程)、その後破砕する(破砕工程)ことにより、表面部分もその他の部分も同じ条件によって破砕を行っても、大きさの異なる破砕片が容易に得られることを見出した。
【0023】
尚、本実施形態に係る破砕方法に用いられる熱可塑性樹脂成形体とは、表面に塗膜等が形成されていない同一材料からなる熱可塑性樹脂の成形体を指す。従って、表面に塗膜等が形成された熱可塑性樹脂成形体の場合は、塗膜等を除去した後の熱可塑性樹脂成形体について本実施形態に係る破砕方法を用いる。
【0024】
以下、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法、熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法および再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法における各工程について、それぞれ詳述する。
【0025】
<熱可塑性樹脂成形体の破砕方法>
(熱可塑性樹脂成形体)
まず、本実施形態の破砕方法に用いる熱可塑性樹脂成形体について説明する。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系(PC系)樹脂等の熱可塑性樹脂が、家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用され、また事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも、PC系樹脂にスチレン系(PS系)樹脂やアクリロニトリルスチレン系(ABS系)樹脂を配合したアロイ樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されている。上記の部品等が製造される際や該部品等の使用後においては上記熱可塑性樹脂の廃材が大量に排出され、これらの廃材がリサイクルの目的で回収される。
本実施形態に係る破砕方法には、これらの回収された熱可塑性樹脂成形体が用いられる。尚、回収された熱可塑性樹脂成形体は、樹脂部品の刻印等に基づいて同一グレードもしくは近いグレードの樹脂部品を分別して用いることが望ましい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば以下の樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂、シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂等である。中でも、本実施形態に係る破砕方法には、ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂成型体が好適に用いられる。
【0027】
ここで、ポリカーボネート(PC)系樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂環式ポリカーボネートなどが挙げられる。上記の中でも、芳香族ポリカーボネートが望ましい。
【0028】
また、上記ポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネート系樹脂の少なくとも1種と、スチレン系樹脂の少なくとも1種と、を組み合わせたアロイ樹脂として用いてもよい。
上記スチレン系樹脂としては、例えば、GPPS樹脂(一般ポリスチレン樹脂)、HIPS樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)、SBR樹脂(スチレンブタジエンゴム)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などが挙げられる。上記の中でも、HIPS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等が望ましい。
【0029】
ポリカーボネート/スチレン系アロイ樹脂の市販品としては、帝人化成社製のPC/ABSアロイ樹脂である「TN7300」、出光興産社製のPC/HIPSアロイ樹脂である「NN2710AS」、UMGABS社製のPC/ABSアロイ樹脂である「ZFJ61」、SABIC社製のPC/ABSアロイ樹脂である「C6600」等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る破砕方法に用いられる熱可塑性樹脂成形体中における上記熱可塑性樹脂の含有量としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上50質量%以下であることが望ましい。
【0031】
(表面劣化工程)
本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法における表面劣化工程は、熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させる工程である。
尚、熱可塑性樹脂成形体の表面部分に紫外線を照射する際、劣化される部分の厚さは表面から1mm以下であることが望ましく、更には0.2mm以下であることがより望ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂に紫外線を照射すると、光エネルギーを吸収して劣化が生じる。光エネルギーは波長が短いほど大きく、本実施形態においては波長が400nmより短波長の紫外線を使用する。
【0033】
紫外線を照射する光源としては、耐光性試験用のサンシャインウェザーメーターや、各種紫外線照射装置が用いられる。サンシャインウェザーメーターとしては例えば、スガ試験機社製WEL−SUN−HCなどが使用され、また各種紫外線照射装置としては、ウシオ電機社製の紫外線照射装置等が使用される。紫外線ランプは、水銀を封入した水銀ランプ、水銀とハロゲンガスを封入したメタルハライドランプ等が使用され、またエキシマーレーザーも紫外線を照射する装置として使用し得るが、水銀ランプおよびメタルハライドランプがより望ましい。
【0034】
尚、熱可塑性樹脂成形体に対する紫外線の照射は、以下の条件にて行われることが望ましい。
・照射強度:200W/m以上2000W/m以下
(より望ましくは500W/m以上1000W/m以下)
・照射時間:1時間以上24時間以下
(より望ましくは2時間以上5時間以下)
・温度:10℃以上80℃以下
(より望ましくは25℃以上60℃以下)
・湿度:30%RH以上80%RH以下
(より望ましくは50%RH以上60%RH以下)
・光源との距離:50mm以上1000mm以下
(より望ましくは100mm以上200mm以下)
【0035】
尚、熱可塑性樹脂に対する紫外線の照射については、「高分子の劣化機構と安定化技術(CMC出版)」に詳しい記載がある。
【0036】
また、光を吸収した物質はエネルギーが高い状態(励起状態)にあり、結合が切れることによる劣化のほかに、熱劣化や酸化劣化を誘発する。従って、上記表面劣化工程においては、上記紫外線照射により劣化される部分の厚さを超えない範囲で、上記紫外線照射に加えて、熱可塑性樹脂成形体を加熱したり、熱可塑性樹脂成形体に吸湿させることによって、より劣化を促進してもよい。但し、加熱は熱可塑性樹脂が流動するガラス移転温度未満であること、24時間を超えて加熱しないことが望ましい。
尚、熱可塑性樹脂成形体の劣化については、「汎用プラスチックの寿命評価に関する研究(山梨県工業技術センター 研究報告No.19(2005))に詳しい記載がある。
【0037】
(破砕工程)
本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法における破砕工程は、前記表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)および前記劣化した部分以外の部分(その他の部分)から得られる破砕片(B)で平均最長径が異なる破砕片が形成されるように破砕する工程である。尚、本明細書において「破砕」とは物理的な動作でエネルギーを与え破壊することを意味する。
【0038】
破砕工程では、前述の通り、前記表面劣化工程により劣化した部分(即ち表面部分)から得られる破砕片(A)およびその他の部分から得られる破砕片(B)で、平均最長径が異なる破砕片が形成されるように破砕が行われる。
具体的には、その他の部分から得られる破砕片(B)の平均最長径が1mm以上20mm以下、劣化した部分(表面部分)から得られる破砕片(A)の平均最長径が0.05mm以上1mm以下であることが望ましく、更には破砕片(B)の平均最長径が3mm以上15mm以下、破砕片(A)の平均最長径が0.1mm以上0.5mm以下であることがより望ましい。
【0039】
尚、上記平均最長径は、後述の「分離工程」によって劣化した部分(表面部分)から得られる破砕片(A)とその他の部分から得られる破砕片(B)とを分離した後、以下の方法によって測定される。
体積濃度5%以下になるように水中にそれぞれの破砕片100gを分散させ、各種目開き(呼び径)のふるいを振動を加えながら通過させる。通過後の乾燥質量を測定し、50g以上通過したふるいの目開き(呼び径)をもって平均最長径とした。本明細書に記載の数値は、上記方法によって測定されたものである。
【0040】
前述の通り、表面部分のみを紫外線照射によって劣化させ(表面劣化工程)、その後破砕する(破砕工程)ことにより、表面部分もその他の部分も同じ条件によって破砕を行っても、劣化した部分(表面部分)とその他の部分とで大きさの異なる破砕片(A)と破砕片(B)とが容易に形成される。
【0041】
尚、破砕を行う方法としては、乾式または湿式の破砕機を用いる方法が挙げられる。破砕機としては、回転刃に対象物を押し付けて少しずつ削りとりながら破砕する一軸破砕機、はさみで切るように破砕する二軸破砕機、ハンマーで叩き割るハンマー破砕機、メディアと共に攪拌して破砕するメディア破砕機、その他対象物を飛ばし金属にぶつけて破砕する破砕機等がある。尚、破砕工程では、効率良く破砕を行うため粗破砕と微破砕とに分けて処理してもよい。破砕機の設定条件は、前述の通り、紫外線照射により劣化した部分以外の部分(その他の部分)から得られる破砕片(B)の平均最長径が1mm以上20mm以下となるよう設定することが望ましく、更には3mm以上15mm以下となるよう設定することがより望ましい。
【0042】
ここで具体的に、破砕機(一軸破砕機)として株式会社タナカ製の湿式破砕機(PR30−360S−800)を用いた場合の望ましい設定条件としては、処理量が10kg/時以上250kg/時以下であることが望ましく、50kg/時以上150kg/時以下がより望ましい。
【0043】
<熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法>
(分離工程)
本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法における分離工程は、前記本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕方法によって破砕され得られた前記破砕片(A)および前記破砕片(B)のうち、前記破砕片(B)を分離する工程である。
【0044】
分離方法としては、例えば、フィルターを通過させることによる分離方法や、風力によって分離する方法が挙げられる。
フィルターを通過させることによる分離方法では、目開きが、劣化した部分(表面部分)から得られた破砕片(A)の平均最長径よりも大きく、且つその他の部分(劣化した部分以外の部分)から得られた破砕片(B)の平均最長径よりも小さいフィルターを通過させることによって、破砕片(B)が分離される。また、風力によって分離する方法では、風速等を調整して小さい破砕片である劣化した部分(表面部分)から得られた破砕片(A)が除去されるよう風を当てることにより、その他の部分(劣化した部分以外の部分)から得られた破砕片(B)が分離される。
【0045】
尚、分離工程に用いる分離方法には、前述した破砕機等に付属しているフィルター等の分離装置を用いてもよい。
【0046】
<再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法>
(再生熱可塑性樹脂成形体成形工程)
本実施形態に係る再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法における再生熱可塑性樹脂成形体成形工程は、前記本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法によって製造された破砕片(B)を用いて、熱可塑性樹脂成形体を成形し再生させる工程である。
【0047】
まず、前記分離工程によって得られた破砕片(B)(劣化した部分以外の部分から得られた破砕片)には、水等によって洗浄を施してもよい。清浄方法の例としては、洗濯機のごとき渦式の回転槽に投入して攪拌することで清浄する方法が挙げられる。尚、水による洗浄は、熱可塑性樹脂の加水分解を抑制する観点から、温度10℃以上40℃以下の範囲で行うことが望ましい。
【0048】
本実施形態に係る再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法では、前記分離工程によって得られた破砕片(B)(劣化した部分以外の部分から得られた破砕片)を用い、更に例えば、難燃剤やその他の成分等を溶融して混練し、その後成形することで、再生熱可塑性樹脂成形体が製造される。
【0049】
ここで、溶融混練の手段としては公知の手段が用いられ、例えば、二軸押出し、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。また、成形する手段としては公知の手段が用いられ、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などの成形方法が挙げられる。
【0050】
尚、前記射出成形は、例えば日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行われる。この際、シリンダ温度としては、220℃以上280℃以下とすることが望ましく、230℃以上270℃以下とすることがより望ましい。また、金型温度としては、40℃以上80℃以下とすることが望ましく、50℃以上70℃以下とすることがより望ましい。
【0051】
次いで、上記再生熱可塑性樹脂成形体に添加される、難燃剤やその他の成分について説明する。
【0052】
・難燃剤
前記再生熱可塑性樹脂成形体おいては、難燃剤を含有させてもよい。難燃剤としては、従来公知の各難燃剤が用いられるが、特に有機リン系難燃剤が望ましい。
上記有機リン系難燃剤としては特に限定はないが、例えば、ポリリン酸メラミン、芳香族系リン化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスフィン酸塩、ホスホン酸塩、ホスファゼン化合物、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。本実施形態においては、燃焼時に有害物質を発生させるハロゲン系化合物を含まない縮合リン酸エステルを難燃剤として用いることが望ましい。
【0053】
前記再生熱可塑性樹脂成形体中における上記難燃剤の含有量は、特に限定されるものではないが、5質量%以上40質量%以下であることが望ましい。
【0054】
・その他成分
前記再生熱可塑性樹脂成形体は、更にその他の成分を含んでいてもよい。再生熱可塑性樹脂成形体中における上記その他の成分の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが望ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより望ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
該その他の成分としては、例えば、各種顔料、改質剤、ドリップ防止剤、相溶化剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐候剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等が挙げられる。また、本実施形態における再生熱可塑性樹脂成形体は、その他の成分として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、例えば0.1質量%以上1質量%含んでいてもよい。
【0055】
前記再生熱可塑性樹脂成形体は、事務機器、電子機器、電気機器、家電製品等の筐体、容器、自動車の各種部品、筐体等の用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材、自動車の各種部品などである。
【0056】
ここで、本実施形態に係る製造方法によって得られる再生熱可塑性樹脂成形体の一用途について説明する。
図1は、前記再生熱可塑性樹脂成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0057】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0058】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0059】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0060】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0061】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、前記再生熱可塑性樹脂成形体が用いられている。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0063】
(回収材の準備)
画像形成装置(複写機)のカバーとして3年使用されたポリカーボネート/スチレン系(PC/PS系)アロイ樹脂を回収し、金属部品やシールを取り除いた。
【0064】
(バージン材の準備)
上記回収材と同グレードであって未使用のポリカーボネート/スチレン系(PC/PS系)アロイ樹脂(帝人化成社製、商品名:TN7300)を準備した。
【0065】
<実施例1>
(表面劣化工程)
前記回収材を、メタルハライド式耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス株式会社製、ダイプラメタルウェザー(KU−R5A))を用い、以下の条件で紫外線照射を行った。
・照射強度:650W/m
・照射時間:24時間
・温度:60℃
・湿度:60%RH
・光源からの距離300mm
【0066】
(破砕工程および分離工程)
表面に紫外線を照射した前記回収材を、株式会社タナカ製の湿式破砕機(一軸破砕機、商品名:PR30−360S−800)を用い、100kg/時の条件にてシャワー中で破砕し、目開き12mmのフィルターを通過させ破砕材を洗浄機に導入した。洗浄機では水中で磨耗洗浄し、更に上記湿式破砕機に付属されたフィルター(目開き:1mm)を通過させて小さい破砕片を排水とともに分離し除去した。その後、フィルター上に残った破砕片から水を遠心分離により十分除去し、再生用の破砕片を得た。
【0067】
尚、再生用の破砕片(フィルターを通過しなかった破砕片)の平均最長径は10mmであり、フィルターを通過した小さな破砕片の平均最長径は0.3mmであった。フィルターを通過した小さな破砕片を目視観察したところ、紫外線照射によるものと思われる黄変が見られた。
【0068】
<比較例1>
前記実施例1において、表面劣化工程を経ず、即ち紫外線照射を行わずに破砕工程および分離工程を行って破砕片を得た。
尚、フィルターを通過しなかった破砕片の平均最長径は10mmであり、一方フィルターを通過した小さな破砕片はなかった。
【0069】
<参考例1>
前記バージン材を用いた。
【0070】
[評価]
−ボリュームレートの測定−
実施例にて得られた再生用の破砕片、比較例にて得られた破砕片、および参考例のバージン材のボリュームレート(MVR)を、メルトインデクサ(株式会社東洋精機製作所製、F−F01)にて測定した。尚、測定はASTM D1238に準拠して行い、シリンダ温度260℃、荷重2.16kgの条件とした。結果を表1に示す。
【0071】
−色差の測定−
実施例にて得られた再生用の破砕片、比較例にて得られた破砕片、および参考例のバージン材を射出成形機「NEX500」(日精樹脂工業株式会社製)に投入し、シリンダ温度235℃、金型温度60℃の条件で射出成形し、板状試験片(90mm×50mm、2mm厚)を作製した。
色差計「Macbeth Color−Eye 3100」(グレダグマクベス社製)を用いて、前記板状試験片の色相(L値,a値,b値)を測定し、参考例(バージン材)における色相を基準として、実施例および比較例における板状試験片の色差ΔEを求めた。結果を表1に示す。
【0072】
−異物量の測定−
実施例にて得られた再生用の破砕片、および比較例にて得られた破砕片を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、2D25S)にてフィルターをつけず260℃で溶融混練して粒状化した。小型熱プレス機(AH−1TC、アズワン株式会社)を用いて、粒状化した実施例の破砕片、および粒状化した比較例の破砕片により、再生熱可塑性樹脂成形体であるパンケーキを作製し、またそれとは別に参考例のバージン材によりパンケーキを作製した。これらのパンケーキにおける異物の量を目視および顕微鏡観察によってカウントした。尚、異物とは、主に熱可塑性樹脂成形体の使用時(即ち回収前)における表面の劣化や表面への異物付着に起因する、パンケーキ上に観察される黒点を指し、具体的にはφ50あたりに存在する異物の量を大きさ毎(0.3mm以上、0.1mm以上0.3mm未満、0.1mm未満)にカウントした。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】



【0074】
比較例1に比べ実施例1では、MVRが若干低くなった。これは、劣化した表面部分の樹脂が取り除かれているためと思われる。
比較例1に比べ実施例1では、色差が劇的に改善されており、参考例1(バージン材)との色差はわずかに0.3であった。この程度の色変化であれば、調色を施すことなく使用し得る。
実施例1では、0.3mm以上の目視でその存在が判別される異物については発見されなかった。
【符号の説明】
【0075】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂成形体に紫外線を照射して表面を劣化させる表面劣化工程、
および、前記表面劣化工程により劣化した部分から得られる破砕片(A)と前記劣化した部分以外の部分から得られる破砕片(B)とで、その平均最長径が異なるように破砕する破砕工程を有する熱可塑性樹脂成形体の破砕方法。
【請求項2】
請求項1に記載の破砕方法によって破砕され得られた前記破砕片(A)および前記破砕片(B)のうち、前記破砕片(B)を分離する分離工程を有する熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の熱可塑性樹脂成形体の破砕片の製造方法によって製造された破砕片(B)を用いて、熱可塑性樹脂成形体を成形し再生させる再生熱可塑性樹脂成形体成形工程を有する再生熱可塑性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190359(P2011−190359A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58057(P2010−58057)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】