説明

熱可塑性樹脂架橋発泡体

【課題】黄色度が低くかつ白色度が高く、凹凸が少なく光沢感のある表面外観に優れた特性を持っており、柔軟性、軽量性、断熱性、良成型性を有している熱可塑性樹脂架橋発泡体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)を含有する樹脂組成物からなり、発泡体表面において、L値が80以上、a値が0以下、b値が10以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂架橋発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色度が低くかつ白色度が高く、表面外観に優れた熱可塑性樹脂架橋発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂架橋発泡体は、一般的に柔軟性、軽量性、断熱性に優れており、従来から、天井、ドア、インストルメントパネル等の自動車等の車両用内装材、食器、粘着テープ、カーペット、パイプカバー、緩衝材として用いられてきた。特にこれらの用途でも、食器、粘着テープ、シール材、緩衝材は、製品の風合や高級感を重視する場合が多く、明るさがある白色質の製品外観を持つ製品が増加してきている。また、表面外観にも優れた凹凸が少なく光沢感のある材料が要求されている。しかしながら、発泡体を構成する樹脂の特性から、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどの黄色度の強い熱分解型発泡剤を使用しなければならない場合、不完全な熱分解による着色を防止する目的で、他の顔料を添加する検討が行われてきた。例えば、特許文献1では、ポリオレフィン系樹脂にチタン系化合物と群青を配合した組成物を発泡体にすることで、発泡体の着色防止に効果があると記載がされている。
【0003】
また、発泡剤の不完全な熱分解を抑制する目的で発泡温度を上げて着色を抑制する方法もあった。しかしながら、発泡温度を上げることで樹脂表面の劣化や焼けた外観の不具合が生じるため、発泡温度を下げながらも発泡剤の分解効率を上げる検討がなされてきた2例を挙げる。特許文献2では、アゾジカルボンアミドを発泡剤として使用した場合、直鎖状高級脂肪酸マグネシウム塩又は直鎖状高級脂肪酸カルシウム塩、酸化亜鉛又は直鎖状高級脂肪酸亜鉛塩を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を発泡させることで、発泡高速化と安定化効果を高めて、実施例に記載されているように黄色度(ΔYI)を下げることが可能とある。また、特許文献3では、熱分解型発泡剤を使用したポリオレフィン系高分子材料に亜鉛化合物、ペンタエリスリトールまたはその誘導体を含有してなる組成物を発泡させることで、急激な発泡の進行により、実施例に記載されているように黄色度(b値)を下げることが可能とある。
【0004】
さらに、自動車内装材用途に発泡体を使用する場合に問題となった例として、内装部品からのフォギングの発生があるが、フォギングの発生量を抑制するために、フォギング抑制剤の添加が検討されていた。例えば、特許文献4では、フォギング成分となるアンモニアをトラップする目的で、フォギング抑制剤を添加して、加熱してもフォギング原因の結晶物が発生しない効果があると記載がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−184032号公報
【特許文献2】特開2004−123832号公報
【特許文献3】特開平11−269294号公報
【特許文献4】特開2008−156620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載の方法は、発泡体の黄色着色を目立たなくする効果はあるものの、その効果は不十分であり、チタン系化合物の色と、さらに別の原料に由来する群青色の組合わせにより色が重なって明るくならず、安定した白色外観を出すことは非常に困難である。
【0007】
また特許文献2に記載の方法では、直鎖状高級脂肪酸マグネシウム塩又は直鎖状高級脂肪酸カルシウム塩、酸化亜鉛又は直鎖状高級脂肪酸亜鉛塩を使用することで、低温での発泡高速化を促進し、黄色度を下げるのに有効であるが、脂肪酸金属が表面にブリードして表面外観を悪化させる場合や、急激な発泡により発泡体が破れてしまい、製造できなくなる懸念がある。
【0008】
また特許文献3の方法でも、亜鉛化合物、ペンタエリスリトールまたはその誘導体を含有することで、発泡促進効果を出し、黄色度を下げるのに有効であるが、急激な発泡により発泡体が破れてしまい、製造できなくなる懸念点がある。表面状態も凹凸が存在し、表面外観性に乏しくなる懸念がある。
【0009】
また特許文献4の場合、フォギング抑制剤を添加して、発泡体から発生するフォギング原因の結晶物をトラップして、自動車内の曇りを無くす効果は確認されているが、この発明だけでは、発泡体の白色度を高めることも、良好な表面外観を得ることも十分にはできない。
【0010】
そこで本発明では、黄色度が低くかつ白色度が高く、凹凸が少なく光沢感のある表面外観に優れた特性を持ち、かつ、柔軟性、軽量性、断熱性、良成型性を有している熱可塑性樹脂架橋発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成するための手段として本発明は、以下の熱可塑性樹脂架橋発泡体が有用であることを見出した。
(1) 熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)を含む樹脂組成物からなり、
L値が80以上、a値が0以下、b値が10以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(2) 前記アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)が、硫酸塩構造を有する化合物であることを特徴とする、前記(1)に記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(3) 前記二酸化チタン(C)が、ルチル型構造を有していることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(4) 前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)0.1〜15質量部、ニ酸化チタン(C)0.1〜15質量部を含有することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(5) アゾジカルボンアミド及び/又はヒドラゾジカルボンアミドの熱分解型発泡剤を熱分解して得られることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(6) ゲル分率が5〜70%であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(7) 前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体からなる成型体。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、黄色度が低くかつ白色度が高く、凹凸が少なく光沢感のある表面外観に優れた特性を持ち、かつ、柔軟性、軽量性、断熱性、良成型性を有している熱可塑性樹脂架橋発泡体を得ることができる。このような特性を活かすことで、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、電子・電気部品の梱包緩衝材、時計・貴金属・文法具などの梱包緩衝材、粘着テープ、パッキンなどのシール材、食器などの成型体として好適に使用することができる。さらに本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体からなる成型体は、柔軟性、軽量性、断熱性、良成型性といった観点で優れた成型体である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を具体的に説明する。本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)を含む樹脂組成物からなり、L値が80以上、a値が0以下、b値が10以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含むことが重要である。熱可塑性樹脂(A)としては、ラジカル反応により、2次元的または3次元的に架橋構造を形成することができ、かつ気泡を取り込み、その形態を維持した発泡体構造を持つことができれば、限定されない。熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂などに代表されるアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリエステル系樹脂、ナイロン−6、ナイロンなどに代表されるポリアミド系樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)などに代表されるポリオレフィン系樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂(A)は、例示した単独重合体でも良く、これらの単独重合体を構成するモノマーと他の共重合可能なモノマーとの共重合体でも良い。また、これらの熱可塑性樹脂(A)は、1種類のみではなく、2種類以上をブレンドしても良い。
【0015】
発泡体が架橋構造を有さない場合には、加熱成型加工性や表面外観に劣る発泡体となるために、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、架橋構造であることが重要である。そのため、熱可塑性樹脂(A)としては、架橋構造を取りやすいポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。
【0016】
ここでいう熱可塑性樹脂(A)に好適なポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの単独重合体、これら単独重合体を構成するモノマーと他の共重合可能なモノマーがあらゆる比率範囲であるランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレンまたはプロピレンと、50質量%以下の例えば酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸エステル、芳香族アルキルエステル、芳香族ビニルなどのビニル化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体などが挙げられ、これらは、1種類または2種類以上を混合して使用すれば良い。
【0017】
また、これらのポリオレフィン系樹脂の重合方法には特に制限がなく、高圧法、スラリー法、溶液法、気相法のいずれでも良く、重合触媒についても、チーグラー触媒やメタロセン触媒等、特に限定されるものではない。熱可塑性樹脂(A)であるポリオレフィン系樹脂は、2種以上の重合法で得られたポリオレフィン系樹脂を組み合わせて使用しても良い。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物は、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)を含むことが重要である。熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物が、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)を含まない場合には、十分な白色度を有する発泡体にすることが困難である。
【0019】
なおアンモニア吸着剤(B)とは、系内に存在するアンモニアを吸収する能力を有する化合物を意味する。後述する好適な熱分解型発泡剤(アゾジカルボンアミド及び/又はヒドラゾジカルボンアミド)を使用して発泡体を製造する場合、得られる発泡体の白色度向上という点では効果的であるが、これら熱分解型発泡剤の使用は、発泡体内にアンモニアが発生する問題がある。しかし、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物がアルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)を含むことにより、アンモニアを吸収することができ、結果として得られる発泡体には十分な白色度を付与することが可能となる。
【0020】
なお、ある特定の化合物がアンモニア吸着剤であるか否かは、アンモニア吸着剤の存在下において、密容器内のアンモニアガス濃度の減少が確認されるかどうかで判断する方法などがある。
【0021】
アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)としては、特に限定されないが、硫酸塩構造を有する化合物と珪酸塩構造を有する化合物が挙げられる。
【0022】
アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として好適な、硫酸塩構造を有する化合物としては、AlK(SO・12HO、AlK(SO、Al(SO・16HO、AlNH(SO・12HOなどが挙げられる。
【0023】
アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として好適な、珪酸塩構造を有する化合物としては、(NH)[AlSiO]、Na[AlSiO]・HO、Na[AlSi18]・6HO、Li[AlSi]・HO、KNa[AlSi32]・10HO、Ca[AlSi10]・5.3HO、Ba[AlSi10]・4HO、Ca[AlSi]・4.5HO、Na[AlSi1132]・12HO、Ca[AlSi16]・5HO、LiCa[BeSi12]・F、Ca[AlSi1648]・18HO、K[AlSi]、Na[AlSi10]・2HOなどが挙げられる。アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として好適な、珪酸塩構造を有する化合物には、一般的にゼオライトと総称される微細孔を持つ多孔質体が含まれている。
【0024】
アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)は、好ましくは、硫酸塩構造を有する化合物であり、特に好ましくは、硫酸カリウムアルミニウム(化学式:AlK(SO)である。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物は、二酸化チタン(C)を含むことが重要である。熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物が、二酸化チタン(C)を含まない場合には、十分な白色度を有する発泡体にすることが困難である。
【0026】
二酸化チタン(C)としては、構造により、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタンなどが挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体に用いられる二酸化チタン(C)としては、いずれの構造の二酸化チタンであっても特に限定されないが、特に好ましいのは分解耐性に優れる点から、ルチル型構造を有している二酸化チタンである。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物中の、熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)の含有量は、特に規定されるものではない。より白色度が高く、表面外観の優れた熱可塑性樹脂架橋発泡体を得るという点から、樹脂組成物における好ましい含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)0.1〜15質量部、ニ酸化チタン(C)0.1〜15質量部を含有する態様である。本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物は、更に好ましくは、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)を0.1〜10質量部、二酸化チタン(C)を0.1〜10質量部含有する態様である。
【0028】
また本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の含有量は特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)が質量的に最も多い成分となっていることであり、より好ましくは樹脂組成物100質量%において、熱可塑性樹脂(A)の含有量が70質量%以上98質量%以下である。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、架橋構造を有してさえいれば、その架橋構造の形成方法は、特に制限されるものではない。公知である有機過酸化物を用いた化学架橋法や、電離放射線架橋法などが適用できる。
【0030】
ここでいう有機過酸化物としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサオド、t−ブチルパーオキシゼンボエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタンなどが挙げられる。また、ここでいう電離放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、中性子線などが挙げられる。表面外観をより良好にする観点から、電離放射線架橋法を適用するのが好ましい。
【0031】
さらに本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、ゲル分率5%〜70%であることが好ましい。ゲル分率の上限は、伸びが小さく深入り形状の成型ができないことから70%までが好ましい。ゲル分率の下限は、成型時に偏伸びして破壊することや発泡体の気泡径サイズが安定しないために起きる表面外観の悪化が懸念されることから5%までが好ましい。さらに好ましいゲル分率の範囲は、15%〜60%である。なお、ゲル分率を5%〜70%に制御するためには、例えば電離放射線を利用して架橋させる場合は、使用する電離性放射線の照射量や強度を調整することで可能である。
【0032】
なお、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の架橋時に、熱可塑性樹脂のみでは架橋構造を導入することが困難な場合には、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の原料となる樹脂組成物中に、架橋助剤を含有させて、上記方法と併用することで架橋構造を導入することができる。架橋助剤としては特に制限はないが、多官能モノマーを使用するのが好ましい。多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート、エチルビニルベンゼンなどを使用することができる。これらの多官能モノマーは、それぞれ単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0033】
また、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を製造(発泡)する際に使用する発泡剤は、公知の発泡剤を用いることが可能である。本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、熱分解型発泡剤を熱分解することで得ることが好ましく、白色度の向上に効果的である観点から、アゾジカルボンアミド及び/又はヒドラゾジカルボンアミドの熱分解型発泡剤を熱分解して得ることがより好ましい。特に、発泡体を構成する樹脂組成物の溶融温度と同等以上の分解温度を持つ熱分解型発泡剤を使用することで、発泡時の安定性に優れるという理由から、熱分解型発泡剤としてはアゾジカルボンアミドを含むことが、特に好ましい。なお、アゾジカルボンアミド及び/又はヒドラゾジカルボンアミドを熱分解するとアンモニアが発生する事は前述した通りであるが、本発明の発泡体はアンモニア吸着剤(B)を含むために、アンモニアが発生する事に由来する現象、例えば臭気、高黄色度、低白度などの問題は縮小されるのである。
【0034】
これらの発泡剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。熱分解型発泡剤の配合量は、前述の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、一般に2〜40質量部程度であり、所望の発泡倍率に応じて設定される。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の外観色は、高い白色度を持つことが特徴である。その白色度の指標として、L値、a値、b値(以後、総称してLabと記載する)を測定した数値を用いることが多く、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、L値が80以上、a値が0以下、b値が10以下であることが重要である。ここでいうLabは、JIS Z8722(2000)に準じて測定をおこなった数値を使用する。
【0036】
L値は明度の指標であり、80より小さい場合、明度が暗くなり白色度が弱くなり、a値とb値は補色の指標であり、a値が0より大きく、b値が10より大きい場合、白色度の妨害となる補色が外観に現れることになり、黄色度が高くなり、高級感のある白色外観を得ることができない。本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、L値が85以上、a値が−1以下、b値が9以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体を、L値80以上、a値0以下、b値10以下とするための方法は特に限定されないが、発泡体を構成する樹脂組成物中のアンモニア吸着剤(B)の含有量を調整したり、二酸化チタン(C)の含有量を調整したりすること、発泡工程において前述の好適な熱分解型発泡剤を使用する方法、後述する白色度を強化する顔料を含有させる方法等を適用することで、前記Labの値に制御することが可能である。さらには、これらの方法を好適な範囲にすることで、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体のL値を85以上、a値を−1以下、b値を9以下とすることができる。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体のL値の上限は特に制限がなく、またa値とb値の下限には特に制限がないが、現実的に達成可能な値としては、L値の上限は99程度、a値の下限は−5程度、b値の下限は2程度の値と思われる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体のYI値は、特に制限されるものではない。黄色度が低く、白色度の高い本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体という観点からは、YI値3〜15の範囲であることが好ましい。さらには、4〜12の範囲であることが好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の密度は、軽量性や柔軟性が要求される場合には、発泡体密度は小さい程好ましいため、密度が20〜500(kg/m)であることが好ましい。
【0041】
また、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の厚みについて、成型加工時には、製品が嵩張らないことや加工性が要求されるため、厚みは薄い程好まれる場合は多いが、一般的には、厚み0.10〜10.0(mm)である。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、発泡体の厚みを縮小させる目的で、発泡体の厚み方向と直角に、発泡体の面方向に水平裁断することも可能である。該水平裁断方法は公知の装置により、規定の厚みに調整することができる。また、厚みを縮小させる他の方法として、加熱延伸することも可能である。発泡体表面を公知の加熱装置などで加熱することによって軟化させ、長手方向、幅方向に1軸もしくは2軸に1.0〜3.0倍延伸することができる。このとき延伸方法は公知の方法が使用できる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体の製造法は、例えば、熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)、熱分解型発泡剤、有機過酸化物、各種添加剤を均一に配合後、押出機内で溶融混練させる工程で架橋反応を進めてシート形状に成型した後、高温塩浴、熱風や熱媒等に接触させ、熱分解型発泡剤を分解させることで架橋発泡体を製造することができる。他に、架橋反応と熱分解型発泡剤の分解反応を押出機内で連続的に進めることによっても、架橋発泡体を製造することができる。
【0044】
また、電離放射線を使用する場合の製造法は、例えば、熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)、熱分解型発泡剤、各種添加剤を均一に配合後、溶融混練させてシート形状に成型した後、電離性放射線を照射させたシートについて、高温塩浴、熱風や熱媒等に接触させ、熱分解型発泡剤を分解させることで、架橋発泡体を製造することができる。
【0045】
これらの製造工程における温度は、配合する樹脂や発泡剤にもより、適宜選択される。
【0046】
その他、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体には、必要に応じて熱安定剤、耐候剤、白色度を強化させる顔料(例えば、群青系顔料やマクロバイオレット系顔料などのブルーイング剤)、流動性改良剤、離型剤、充填剤、帯電防止剤、分解促進剤、アルカリ調整剤などの添加剤を含有させても良い。
【0047】
なお、熱可塑性樹脂架橋発泡体を構成する、熱可塑性樹脂(A)やアルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)等を含む樹脂組成物を溶融混練する方法は、公知の方法で可能である。例えば、ベント付き単軸押出機、異方向2軸押出機、同方向2軸押出機などが連続で効率的に生産することが好ましいが、スーパーミキサー、バンバリーミキサー、加圧式ニーダー、タンブラー、コニーダーなど公知の混練装置を用いることも可能である。これらの混練装置で熱可塑性樹脂(A)等の原料を溶融混練させている途中で、熱分解型発泡剤を添加する等の方法も可能である。
【0048】
また、本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、必要に応じて、他の樹脂と融着や接着を行うことで、発泡体の表面部分を覆うことも可能である。例えば、熱可塑性樹脂を溶融させる押出ラミネート法、接着剤を塗布した後貼り合わせる接着ラミネート方法、表皮材と加熱して貼り合わせる熱ラミネート法、ホットメルト法、蒸着法、高周波ウェルダー法、金属めっき法などの方法が挙げられる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体は、押出成型、真空成型、スタンピング成型、ブロー成型などの成型法によって成型体とすることができる。これらの成型体は、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などで、必要に応じた形状に加工することもできる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂架橋発泡体からなる成型体は、白色度が高く、凹凸が少なく光沢感のある表面外観に優れた特性を持っており、柔軟性、軽量性、断熱性、良成型性を有している。このような特性を活かすことで、電子・電気部品の梱包緩衝材、時計・貴金属・文法具などの梱包緩衝材、粘着テープ、パッキンなどのシール材、食器などの成型体として好適に使用することができる。
【実施例】
【0051】
実施例、比較例で用いた測定法は以下の通りである
(1)密度 (kg/m
密度はJIS K6767(1999)「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」に準じて測定を行った値である。3回測定した値から求めた平均値を表記した。
【0052】
(2)ゲル分率(%)
1〜5mm程度に細かく裁断した熱可塑性樹脂発泡体約50mgを精密に秤量し、130℃のテトラリン25mlに3時間浸漬した後、200メッシュのステンレス製金網で濾過して、アセトンで洗浄して付着しているテトラリン溶解分を除去して、金網上の不溶解分からアセトンを真空乾燥した。この不溶解分の質量を精密に秤量して、下記の式(1)に従って算出した。2回測定した値から求めた平均値を表記した。
【0053】
ゲル分率(%)=[不溶解分の質量(mg)/テトラリンに浸漬前の熱可塑性樹脂架橋発泡体の質量(mg)]×100 ・・・・式(1)
(3)加熱成型加工性
真空成型時の成型絞り比で評価を行った。直径D、深さHの垂直円筒状の雌型カップにおいて、発泡体を加熱し、真空成型機を用いてストレート成型したときに、発泡体が破れることなく、円筒状に展開、伸長したときの、H/Dの数値が最も大きい値を比較することで実施した。なお、直径Dは50mmのカップを使用し、発泡体の表面温度が170℃時の成型絞り比を測定し、その値から、以下の通り5段階で評価を行った。
5:成型絞り比が0.60以上
4:成型絞り比が0.50以上0.60未満
3:成型絞り比が0.40以上0.50未満
2:成型絞り比が0.30以上0.40未満
1:成型絞り比が0.30より低い。
【0054】
(4)表面外観
得られた熱可塑性樹脂架橋発泡体の表面状態を、目視による観察、触感による評価を実施した。その状態を、以下の通り5段階で評価を行った。
5:表面が平滑で光沢がある。
4:触った感触では表面が平滑でない部分もあるが、目視では判らない。
3:触った感触では表面が平滑とはいえず、目視でも僅かに表面状態の粗さが確認された。
2:触った感触でも、目視でも、表面の凹凸が確認される。
1:表面の凹凸が斑になって不規則に存在するのが確認される。
【0055】
(5)発泡体色調・白色度(YI値、Lab値)
色調・白色度は、JIS Z8722(2000)に準じて測定を行った。得られた熱可塑性樹脂架橋発泡体の表面について、スガ試験機のデジタル式黄色度計(SMカラーコンピューター)を使用した。
【0056】
実施例1
表1に示した組成の通り、熱可塑性樹脂(A)として、低密度ポリエチレン樹脂(MFR=3.5(g/10min) 尚、MFRの値とはJIS K7210(1999)に準じて測定した数値であり、ポリエチレン系樹脂においては190℃で測定した数値のことである。以下同様。)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として、硫酸カリウムアルミニウム、二酸化チタン(C)として、ルチル型酸化チタン、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(大塚化学製)を用いて、150℃にて溶融混練し、シート状態に押出成型した。
【0057】
この発泡性シートに電子線を照射して架橋シートを得た後、230℃の横型亜硝酸ナトリウム塩浴上にて発泡した。その発泡体の表面を純水で水洗して乾燥させ、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0058】
実施例2
熱可塑性樹脂(A)として、低密度ポリエチレンと線状低密度ポリエチレン(MFR=9.0(g/10min))を使用した点、アゾジカルボンアミドの添加量を増加した以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0059】
実施例3
アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として、バレル沸石を使用した点以外は、実施例2と同様に製造を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0060】
実施例4
二酸化チタン(C)をアナターゼ型二酸化チタンを使用した点以外は、実施例2と同様に製造を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0061】
実施例5、6、7
原料樹脂組成を表1のように変更した以外は、実施例2と同様に製造を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0062】
実施例8
架橋剤にジクミルパーオキサイトを使用した点以外は、実施例2と同様な原料樹脂組で、150℃にて溶融混練して架橋シートを得た。さらに、本架橋シートを熱風発泡炉を使用して、発泡温度235℃で発泡を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0063】
実施例9
実施例2と同様に押出成型して得られた発泡用シートに電子線を照射して、架橋シートを得た後、230℃の横型亜硝酸ナトリウム塩浴上にて発泡した。その発泡体の表面を純水で水洗して乾燥させ、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0064】
実施例10
熱可塑性樹脂(A)として、塊状重合で得られたアクリロニトリル・スチレン共重合体(樹脂組成:アクリロニトリル28質量部、スチレン72質量部)(30℃エチルメチルケトン溶媒で測定した場合の[η]=0.52)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)として、硫酸カリウムアルミニウム、二酸化チタン(C)として、ルチル型酸化チタン、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(大塚化学製)、架橋剤にジクミルパーオキサイトを用いて、170℃にて溶融混練し、架橋シートを得た。さらに、本架橋シートを熱風発泡炉を使用して、発泡温度235℃で発泡を行い、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂架橋発泡体を得た。
【0065】
比較例1〜3
原料樹脂組成を表2のように変更した以外は、実施例2と同様に製造を行い、ポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得た。
【0066】
比較例4
表2に示した組成の通り、表1実施例2と同様に原料を150℃にて溶融混練し、シート状態に押出成型した。そのシートを型内で熱風発泡して製品の厚みを整えて、無架橋のポリエチレン樹脂発泡体を得た。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実施例及び比較例について、評価結果を表に示した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の樹脂架橋発泡体は、高い白色度と高級感のある表面外観を要求される用途に用いられることが多く、例えば、電子・電気部品の梱包緩衝材、時計・貴金属・文法具などの梱包緩衝材、粘着テープ、パッキンなどのシール材、食器などの成型体などに利用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)、二酸化チタン(C)を含む樹脂組成物からなり、
L値が80以上、a値が0以下、b値が10以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項2】
前記アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)が、硫酸塩構造を有する化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項3】
前記二酸化チタン(C)が、ルチル型構造を有していることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、アルミニウムを含有するアンモニア吸着剤(B)0.1〜15質量部、ニ酸化チタン(C)0.1〜15質量部を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項5】
アゾジカルボンアミド及び/又はヒドラゾジカルボンアミドの熱分解型発泡剤を熱分解して得られることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項6】
ゲル分率が5〜70%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂架橋発泡体からなる成型体。

【公開番号】特開2011−190337(P2011−190337A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57112(P2010−57112)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】