説明

熱可塑性樹脂構造体の製造方法及び熱可塑性樹脂組成物

【課題】 劣化した樹脂を用いて、未使用樹脂を利用した成形品と同等の強度や難燃性を持つ成形品を得ることが難しかった。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂の成形品を粉砕した粉砕物を用いる。これに、ゴム成分を添加し、混練する混練工程と、前記混練工程後に構造体を成形する成形工程とを行う。前記混練工程において、前記粉砕物と前記ゴム成分とを含む混合物が100重量%に対し、前記ゴム成分を0.5重量%以上1.5重量%以下含む熱可塑性樹脂構造体の製造方法で解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂構造体の製造方法及び熱可塑性樹脂組成物に関するものである。特に、劣化した熱可塑性樹脂のポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイからなる熱可塑性樹脂を再利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護意識の高まりと共に石油化学製品のリサイクル、特に樹脂の再生利用の動きが強まっている。使用済み樹脂の再生手段としては、燃焼に供して発生する熱エネルギーを利用するサーマルリサイクル法がある(特許文献1)。
【0003】
一方、原料として再利用するマテリアルリサイクルも存在する。マテリアルリサイクルにおいては以下のような問題がある。すなわち、樹脂組成物は、加水分解や紫外線曝露により劣化し、強度や難燃性などの特性が低下するのが一般的である。したがって、市場から回収されてきた成形品を粉砕した後にそのまま再成形しても、未使用樹脂を成形した成形品と同等の強度や難燃性を持つ成形品を得ることは難かった。そのため、再成形品を回収前の成形品と同じ分野の製品の部品とすることは困難であり、他分野の製品の部品として転用するカスケードリサイクルが主流であった。
【0004】
このような状況下において、最近は、再生前の樹脂組成物が本来有する特性を再生後の樹脂組成物にも再現し、同じ種類の未使用樹脂の特性に近い再生樹脂組成物を得ようとする動きがある。
【0005】
その中で、少なくともどちらか一方が回収材であるポリカーボネート系樹脂と、耐衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)などのスチレン系樹脂とを混合した再生熱可塑性樹脂を利用するものがある。この再生熱可塑性樹脂に、コアシェルタイプグラフトゴム状弾性体を3乃至10重量%及び/又は、フルオロオレフィン系樹脂を0乃至2重量%含有させ、元のポリカーボネート系樹脂と同等の物性を得る方法が考案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3095739号公報
【特許文献2】特開2004−352762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、ポリカーボネート樹脂とABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体)樹脂とのアロイ樹脂は、強度や難燃性などの点で優れた特性を有するため、家庭電化製品、情報機器、通信機器や自動車など、多くの製品に使用されている。
【0007】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂とABSとのアロイ樹脂を粉砕した粉砕物を、再生後に未使用樹脂と同等の強度と難燃性を持つ成形品を得るには至っていない。
【0008】
よって、ポリカーボート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂を含む劣化した熱可塑性樹脂の再利用方法の確立が強く期待されている。
【0009】
そこで、本発明は、強度と難燃性とを未使用樹脂と同程度まで回復した熱可塑性樹脂構造体(成形品)の製造方法及び熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂の成形品を粉砕した粉砕物にゴム成分を添加し、混練する混練工程と、
前記混練工程後に構造体を成形する成形工程とを備え、
前記混練工程において、前記粉砕物と前記ゴム成分とを含む混合物が100重量%に対し、前記ゴム成分を0.5重量%以上1.5重量%以下含む熱可塑性樹脂構造体の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる劣化した熱可塑性樹脂とゴム成分を含有し、全体を100重量%としたときに、前記ゴム成分を0.5重量%以上1.5重量%以下含む熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる劣化した熱可塑性樹脂にゴム成分を添加し、混練成形することにより、強度と難燃性を未使用樹脂と同等まで回復した熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【0013】
これにより、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂の再利用の選択肢を増やすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に必要な材料は、少なくとも劣化した熱可塑性樹脂とゴム成分になる。
【0015】
劣化した熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂の成形品を粉砕した粉砕物から得られる。劣化した熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂である。ABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体からなる樹脂である。劣化した熱可塑性樹脂とは、経時変化、光や熱による条件下での変化等により強度と難燃性が低下した熱可塑性樹脂のことをいう。
【0016】
例えば、後述の衝撃強度の評価に使うシャルピー衝撃強度が未使用樹脂の半分以下となったり、難燃性試験において、燃焼時間が増加したりドリップが生じたりする樹脂のことをいう。
【0017】
劣化した樹脂の成形品には、例えば、家庭電化製品、情報機器、通信機器や自動車等の構成部品であるハウジングや機構部品などであり、5乃至7年の利用を経て市場から回収される成形品が挙げられる。そして前記ハウジングや機構部品を粉砕し、分級処理した粉砕物を利用する。分級処理された粉砕物の寸法はゴム成分が良好に分散し、かつ成形機や混練機への供給のしやすさから平均粒径が10mm以下であることが好ましく、特に、粉砕物としては、3mm以上8mm以下の範囲に粉砕された樹脂材料が好ましい。
【0018】
劣化した樹脂は、アセトンを用いたソックスレー抽出液の分析により測定されるフェノール類の含有量が,同グレードの未使用樹脂に含まれる含有量と比較して5%以上多い。また、ここでいうフェノール類とは、フェノール構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物の総称である。例えば、ポリカーボネートの低分子成分や、未反応のビスフェノールAに代表される成分及び成形時の熱履歴により分解した成分などポリカーボネートに由来するものがある。また、難燃剤として含有されるリン酸エステルに由来する成分である。
【0019】
前記フェノール類は、部品を成形する際の熱履歴が生じる過程や、部品として市場で使用される過程で増加していくものと予想される。成形する際に生じるフェノール類は、5%と考察される。そして、通常環境で5年使用された部品では、2%程度増加し、7年使用された部品では、4%程度増加すると考察される。
【0020】
これらより、成形前の未使用樹脂と比較して、フェノール類含有量が5%以上多いと考えられる。本発明の再利用に使用を予定している粉砕物は、フェノール類含有量の増加率が、7%以上11%以下になる回収樹脂である。なお、使用年数が増えるに従って、フェノール類も増加するものと考察されが、一定期間を超えると、ほとんど変化がなくなる可能性もある。前記フェノール類が増加すると、耐熱性や耐湿熱性の劣化が起こるといわれており、未使用樹脂に対して劣化が進む要因の1つであるとされる。
【0021】
本発明に用いられるもう一つの材料は、ゴム成分である。本明細書でゴム成分とは、ゴムと他の有機物を含むものをいう。特に、樹脂との相溶性の点から、コアシェル構造を有したものが好ましい。ゴム成分としては、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムおよびシリコーンゴムから選ばれた少なくとも1種の成分を含むものが好ましい。具体的には、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムまたはシリコーンゴムとスチレン、メタクリル酸メチルとのグラフト共重合体が挙げられる。グラフト共重合体に含まれるゴムの含有量は40重量%以上80重量%以下であることが好ましく、45重量%以上75重量%以下であることがより好ましい。
【0022】
これらの、ゴムを含んだグラフト共重合体としては、例えば三菱レイヨン株式会社より「メタブレンCシリーズ」(商品名)や「メタブレンSシリーズ」(商品名)が市販されている。
【0023】
本発明においては、上述したポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる劣化した熱可塑性樹脂に、上述したゴム成分を添加して、成形品を再生産する。これにより、未使用の樹脂を用いて成形品を形成した場合と同等の強度と難燃性を有する物を得ることができる。
【0024】
(未使用樹脂、フルオロオレフィン成分のさらなる添加)
さらに、用途によって、粉砕物と同種で色の異なる未使用の熱可塑性樹脂を添加することや、フルオロオレフィン成分を添加することが考えられる。
【0025】
分級処理された粉砕物に、同種で色の異なる未使用の熱可塑性樹脂を混合する場合がある。このとき、未使用の熱可塑性樹脂の混合割合は、全体量100重量%に対し、0.5重量%以上1.0重量%以下含むものであることが望ましい。粉砕物と同種で色の異なる未使用の熱可塑性樹脂を混合するのは、未処理の粉砕物と物性を回復させた樹脂とを目視で簡便に区別するためである。目視で簡便に区別するためには0.5重量%以上の添加が目視で色の違いを確認できる最低量になり、粉砕物の利用率を高めるためには未使用樹脂の利用率が少なければ少ないほどよいため、1.0重量%以下とすることが望ましい。
【0026】
分級処理された粉砕物材料に、熱可塑性樹脂組成物のドリップ防止を確実にするために、フルオロオレフィン成分を混合してもよい。このとき、フルオロオレフィン成分の混合割合は、全混合物100重量%に対し、0重量%以上0.5重量%以下含むものであることが望ましい。フルオロオレフィン成分を0.5重量%以下とするのは、ブルーエンジェル規定に準拠するためである。
【0027】
フルオロオレフィン成分としては、ポリテトラフルオロエチレンを含んだものがあげられる。それは、粒子径0.05μm以上1.0μm以下のポリテトラフルオロエチレンの分散液とポリマー粒子の分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化することにより得られる。
【0028】
フルオロオレフィン成分中のポリテトラフルオロエチレンの含有量は樹脂との相溶性との観点から15重量%以上55重量%以下であることが好ましく、18重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0029】
これらのフルオロオレフィン成分は、例えば三菱レイヨン株式会社より「メタブレンAシリーズ」(商品名)として市販されている。
【0030】
上述したゴム成分や色の異なる未使用樹脂やフルオロオレフィン成分を、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂の粉砕物と混合、溶融混練して得た材料を混練工程後に成形し、成形品(熱可塑性樹脂構造体)を製造する。
【0031】
なお、成形には通常の射出成形のほか、押し出し成形、サンドイッチ成形、二色成形やコアバック成形等を用いることができるが、本発明はこれらの成形方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
劣化したポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂(以下、PC+ABS樹脂)として、5乃至7年程度の使用の後、市場から回収された事務機の外装に使用されていたPC+ABS樹脂を粉砕する。粉砕したものを振動ふるいにて粒径が3mm以上8mm以下のものを選別したものを利用した。これをA成分とする。
【0033】
A成分と、A成分と同グレードの未使用樹脂とを用意し、樹脂中のフェノール類含有量を測定し、表1に示した。
【0034】
測定は以下のとおりに行った。
【0035】
約5gに精秤した試料を、アセトンを用いて8時間ソックスレー抽出を行った。前記抽出液を濃縮し,アセトンで10mlに調製した液を試料溶液とした。試料溶液をHPLC−PDAにて分析を行った。定量は、280nm付近に最大UV吸収波長を持つ成分をフェノール類とし、ジブチルヒドロキシトルエンを用いて換算定量した。
【0036】
表1から0.47(A成分)/0.43(未使用)=1.093となり、未使用樹脂に比べて1割程度フェノール類が増加したことが分かる。
【0037】
(実施例1)
A成分、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.73kg(99.1重量%)、ゴム成分を0.15kg(0.50重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0038】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片およびJIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0039】
(実施例2)
A成分、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.67kg(98.9重量%)、ゴム成分を0.21kg(0.70重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0040】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを用い、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0041】
(実施例3)
A成分、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.58kg(98.6重量%)、ゴム成分を0.30kg(1.0重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0042】
混合後、溶融混練してペレット化した試料を用いた。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを用いて、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JISK7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0043】
(実施例4)
A成分と、A成分と同種で色の異なるPC+ABS樹脂(日本ジーイープラスチックス製サイコロC6600、黒色)、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.36kg(97.85重量%)、A成分と同種で色の異なるPC+ABS樹脂を0.225kg(0.75重量%)、ゴム成分を0.30kg(0.5重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.4重量%)として混合した。
【0044】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0045】
(実施例5)
A成分、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.43kg(98.1重量%)、ゴム成分を0.45kg(1.5重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0046】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0047】
(比較例1)
A成分、ゴム成分(三菱レイヨン製メタブレンC223A)、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を28.98kg(96.6重量%)、ゴム成分を0.90kg(3.0重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0048】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0049】
(比較例2)
A成分、フルオロオレフィン成分(三菱レイヨン製メタブレンA3800)を混合した。このとき、A成分を29.88kg(99.6重量%)、フルオロオレフィン成分を0.12kg(0.40重量%)として混合した。
【0050】
混合後、溶融混練してペレット化した。なお、溶融混練は、プラスチック工学研究所製EX−11を用い、同方向回転、250rpm、スクリュー温度220℃にて行った。作製したペレットを、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形しJIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0051】
(比較例3)
A成分のみを射出成形機のホッパーに直接投入し、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0052】
(比較例4)
未使用樹脂(グレイ)のみを射出成形機のホッパーに直接投入し、UL94規格に基づいて厚さ2.0mmのV試験用のバー試験片を成形し、JIS K7111規格に基づいてシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片を成形した。
【0053】
表2に実施例1乃至5および比較例1乃至4の成分配合比および評価結果をまとめて示す。
【0054】
表2に記した評価は以下の条件のもと実施した。
(1)衝撃強度の評価
成形したシャルピー衝撃試験用のタイプ1試験片について、JIS K7111に準拠してタイプAノッチの切削を行い、衝撃試験機を利用してシャルピー衝撃試験を行った。(2)難燃性の評価(V燃焼試験)
成形したV試験用のバー試験片について、UL94に準拠してV試験を各サンプル10本(ノーマルコンディション、エージングコンディションのサンプルを各5本)行い、相当するV試験性能を記した。また、V試験の判定基準を表3に示した。
【0055】
表2に示した結果より、ゴム成分の配合量は1重量%でも未使用樹脂と同等以上までシャルピー衝撃強度を回復することができる。一方、実施例1と比較例1との結果より、過剰量のゴム成分の添加は、難燃性能の劣化を引き起こす可能性がある。つまり、必要以上にゴム成分を添加すると、未使用樹脂と同等の難燃性能を維持することができなくなる。
【0056】
表2より、ゴム成分が、0.5重量%以上1.5重量%以下含むものが良好であることがわかる。特に、1.0重量%と1.5重量%を添加したときに強度と難燃性能とがより好ましいことがわかる。よって、1.0重量%以上1.5重量%以下のゴム成分を添加することがより好ましい成形品を提供できるものと予想される。
【0057】
以上の結果より、劣化したPC+ABS樹脂を、衝撃強度と難燃性能を未使用樹脂と同等レベルの物性まで回復するためには、衝撃強度を未使用樹脂と同程度まで回復させるのに適切なゴム成分をPC+ABS樹脂に混合することが必要である。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、劣化したプラスチックを再利用することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる熱可塑性樹脂の成形品を粉砕した粉砕物にゴム成分を添加し、混練する混練工程と、
前記混練工程後に構造体を成形する成形工程とを備え、
前記混練工程において、前記粉砕物と前記ゴム成分とを含む混合物が100重量%に対し、前記ゴム成分を0.5重量%以上1.5重量%以下含むことを特徴とする熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項2】
前記混合物100重量%に、粉砕物と色の異なる同種の未使用樹脂を0.5重量%以上1.0重量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物100重量%に、フルオロオレフィン成分を0重量%以上0.5重量%以下含むことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕物に含有するフェノール類の含有量が、前記粉砕物に使用されている樹脂の未使用樹脂に含まれるフェノール類の含有量に対して5%以上多いことを特徴とする、請求項1記載の熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ樹脂からなる劣化した熱可塑性樹脂とゴム成分を含有し、全体を100重量%としたときに、前記ゴム成分を0.5重量%以上1.5重量%以下含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
全体を100重量%としたときに、未使用樹脂を0.5重量%以上1.0重量%以下含むことを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
全体を100重量%としたときに、フルオロオレフィン成分を0重量%以上0.5重量%以下含む特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記劣化した熱可塑性樹脂に含有するフェノール類の含有量が、未使用樹脂のフェノール類含有量に対して5%以上多いことを特徴とする、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−132892(P2009−132892A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278428(P2008−278428)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】