説明

熱可塑性樹脂用相溶化剤及びそれを含有する樹脂組成物

【課題】ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂の相溶性を改善し、安定なドメイン分散構造をとり、有機溶剤耐性、機械的強度および外観に優れる樹脂組成物を与える相溶化剤、該相溶化剤を含有する樹脂組成物、その成形体を提供する。
【解決手段】α−オレフィンモノマーと下記一般式(1):
【化1】


(式中、Xは重縮合系樹脂の連結基とエステル交換反応またはアミド交換反応し得る官能基を示し、nは0〜10の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、oは1〜4の整数を示す。)
で表される化合物との共重合体からなることを特徴とする熱可塑性樹脂用相溶化剤、該相溶化剤とポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂用相溶化剤、該相溶化剤を含有する樹脂組成物、該樹脂組成物よりなる成形体に関し、更に詳しくは、α−オレフィンモノマーとノルボルネン骨格をもつ化合物との共重合体からなり、特性の異なる熱可塑性樹脂を相溶化して、機械的強度、耐有機溶剤性および外観に優れた樹脂組成物を与える相溶化剤、該相溶化剤とポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物、該樹脂組成物よりなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂は成形加工性、耐有機溶剤性、耐吸水性等が優れ、低比重で安価であることから広く成形品の製造に利用されているが、耐熱性がそれほど高くなく、エンジニアリングプラスチック用途への利用には障害となっている。一方、ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐候性および寸法安定性に優れた樹脂として知られているが、流動性が悪いために射出成形、押出成形が困難であり、また、耐溶剤性にも難点があり、成形品は衝撃強さの厚み依存性が強く、厚さの厚い領域では耐衝撃強度が大幅に低下してしまうという欠点がある。
【0003】
このように、単独の樹脂材料では、所望の諸性質を十分に満たすことができない場合の試みの一つとして、他の樹脂材料を混合することにより、不十分な性質を相補うという手法はよく行われている。これにより、ポリカーボネート樹脂とポリオレフィン樹脂の両者の良好な性質を併せ持ち、望ましくない点を相補う組成物が得られれば利用分野の広い優れた樹脂材料の提供が可能となる。しかし、ポリカーボネート樹脂とポリオレフィン樹脂とは非相溶であり、親和性を有していないため、単に両成分を混合した場合には、この二相構造の界面の接着性は良好ではない。そのため、得られた成形品の相界面が欠陥部となり、機械的強度が低下する。また、この二相は均一かつ微細な分散形態となり難く、射出成形等の成形加工時にせん断応力を受けたとき、層状剥離(デラミネーション)を生じやすい。
【0004】
ポリカーボネート樹脂とポリオレフィン樹脂との相溶性を向上させるために、変性ポリオレフィン等の相溶化剤を配合する方法が知られている。たとえば、特許文献1には、相溶化剤として水酸基変性ポリプロピレンを用いる方法が開示されているが、樹脂材料の特性を出すためには相溶化剤を大量に必要としている。すなわち水酸基変性ポリプロピレンの相溶性の改良効果は小さく、機械的物性の改良効果も小さく実用上満足できるものではない。また、特許文献2には、相溶化剤として官能基含有オレフィン系ブロックポリマーを用いる方法が開示されているが、相溶化剤の製造工程が複雑であるため実用性に欠け、より簡便な製造技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−271718号公報
【特許文献2】特開2007−262325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート樹脂の相溶性を改善し、従来技術では到達し得なかった安定なドメイン分散構造をとり、機械的強度や外観に優れる樹脂組成物、相溶化剤として好適なポリオレフィン系相溶化剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ノルボルネン骨格を有する特定の化合物とα−オレフィンモノマーとの共重合体が、ポリオレフィン樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶化に有効で、安定なドメイン分散構造をとることができ、該共重合体を相溶化剤として溶融混練した樹脂組成物は、特に機械的強度、耐有機溶剤性および外観に優れることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明の要旨は、下記の〔1〕〜〔14〕に存する。
【0008】
〔1〕α−オレフィンモノマーと下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは重縮合系樹脂の連結基とエステル交換反応またはアミド交換反応し得る官能基を示し、nは0〜10の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、oは1〜4の整数を示す。)
で表される化合物との共重合体からなることを特徴とする熱可塑性樹脂用相溶化剤。
〔2〕ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂とを相溶させる、〔1〕に記載の相溶化剤。
〔3〕極性基をもつ熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂である、〔2〕に記載の相溶化剤。
〔4〕共重合体が、α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物のランダム共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)が500〜1,000,000である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の相溶化剤。
〔5〕共重合体が、α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物のランダム共重合体と、α−オレフィンモノマーの単独重合体とのブロック共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)が500〜1,000,000である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の相溶化剤。
〔6〕α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物との共重合体が、一般式(1)で表される化合物を含む反応系に、α−オレフィンモノマーを連続供給しながら重合して得られたものである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の相溶化剤。
〔7〕共重合体中の一般式(1)で表される化合物に由来する構成単位の割合が、0.01〜10モル%の範囲内である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の相溶化剤。
〔8〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の相溶化剤と、ポリオレフィン樹脂(A)と、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)の少なくとも3成分に由来する単位を含有することを特徴とする樹脂組成物。
〔9〕極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)が、ポリカーボネート樹脂である、〔8〕に記載の樹脂組成物。
〔10〕相溶化剤に由来する単位の割合が、ポリオレフィン樹脂(A)と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)に由来する単位の合計量に対して、0.01〜30重量部の範囲内である、〔8〕又は〔9〕に記載の樹脂組成物。
〔11〕ポリオレフィン樹脂(A)に由来する構成単位と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)に由来する構成単位の割合が、重量比(A)/(B)として、1/99〜99/1の範囲内である、〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔12〕3成分を溶融混練して得られたものである、〔8〕〜〔11〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔13〕相溶化剤と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練した後に、残りの成分を溶融混練して得られたものである、〔8〕〜〔12〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔14〕〔8〕〜〔13〕のいずれかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記一般式(1)で表されるノルボルネン骨格を有する化合物とα−オレフィンモノマーとの共重合体が、反応性相溶化剤として作用し、ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート樹脂を相溶化しているので、ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート樹脂の組成物に配合することにより、安定なドメイン分散構造をとり、機械的強度、耐有機溶剤性および外観に優れた樹脂組成物、該組成物よりなる成形品を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1、2で製造した樹脂組成物の分散形態を示す走査電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【図2】比較例1〜4で製造した樹脂組成物の分散形態を示す走査電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
【図3】実施例1および比較例1〜4で製造した樹脂組成物の分散形態を示す透過電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【図4】実施例3、4、比較例5で製造した樹脂組成物の分散形態を示す透過電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0012】
〔1〕熱可塑性樹脂用相溶化剤
本発明の相溶化剤は、α−オレフィンモノマーと下記一般式(1):
【化2】

〔式(1)中、Xは重縮合系樹脂の連結基とエステル交換反応またはアミド交換反応し得る官能基を示し、nは0〜10の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、oは1〜4の整数を示す。〕
で表される化合物との共重合体よりなるものである。以下、本発明の相溶化剤を、単に「相溶化剤(C)」又は「(C)成分」ということがある。
先ず、上記共重合体〔相溶化剤(C)〕を構成する各成分、共重合体の製造法や物性等について説明する。
【0013】
〔1−1〕α−オレフィンモノマー
本発明の共重合体〔相溶化剤(C)〕を構成する単量体のα−オレフィン(α−オレフィンモノマー)は、炭素数が2〜12のオレフィン、ジオレフィン、環状オレフィン、アルケニル芳香族炭化水素等であって、上記式(1)で表される化合物と共重合し得るものであれば特に制限されないが、後述する樹脂組成物に用いるポリオレフィン樹脂(A)の構成単位と同一であることが好ましく、特に好ましく用いられるのはエチレンである。
【0014】
これらのα−オレフィンは1種でもよく、また2種以上用いても差し支えない。2種以上のα−オレフィンを用いる場合は、各α−オレフィンは共重合体中にランダムまたはブロック的に分布していてもよい。
【0015】
〔1−2〕一般式(1)で表される化合物
本発明の共重合体〔相溶化剤(C)〕を構成する上記一般式(1)で表される化合物(ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマー)において、Xは、重縮合系樹脂の連結基とエステル交換反応またはアミド交換反応し得る官能基である。Xとしては、かかる反応性をもつものであれば特に限定されず、任意の官能基が使用できる。具体的には、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸基、酸無水物基、エステル基等が挙げられる。これらの中で、水酸基が特に好ましい。
【0016】
nは0〜10の整数であり、好ましくは0〜8、より好ましくは0〜3の整数である。nが8より大きいと共重合性が悪くなり、(C)成分中のXの含有量が低下し、相溶性が下がる傾向がある。
mは0〜10の整数であり、好ましくは0〜8、より好ましくは0〜3の整数である。mが8より大きいと共重合性が悪くなり、(C)成分中のXの含有量が低下し、相溶性が下がる傾向がある。
oは1〜4の整数であり、好ましくは1〜2、より好ましくは1の整数である。oが2より大きいと分散性が低下し、樹脂組成物中に相溶化剤が塊となって分散する傾向がある。
【0017】
上記一般式(1)表される化合物(ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマー)を具体的に例示すれば、次のとおりである。
【0018】
5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2−エタノール、5−ノルボルネン−2−プロパノール、5−ノルボルネン−2−ブタノール、5−ノルボルネン−2−ペンタノール、5−ノルボルネン−2−ヘキサノール、5−ノルボルネン−2−ヘプタノール、5−ノルボルネン−2−オクタノール、5−ノルボルネン−2−ノナノール、5−ノルボルネン−2−デカノール等のモノアルコール;
【0019】
5−ノルボルネン−2,2−ジオール、5−ノルボルネン−2,2−ジメタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジエタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジプロパノール、5−ノルボルネン−2,2−ジブタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジペンタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジヘキサノール、5−ノルボルネン−2,2−ジヘプタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジオクタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジノナノール、5−ノルボルネン−2,2−ジデカノール、5−ノルボルネン−2,3−ジオール、5−ノルボルネン−2,3−ジメタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジプロパノール、5−ノルボルネン−2,3−ジブタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジペンタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジヘキサノール、5−ノルボルネン−2,3−ジヘプタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジオクタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジノナノール、5−ノルボルネン−2,3−ジデカノール等のジオール;
【0020】
5−ノルボルネン−2,2,3−トリオール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリメタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリエタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリプロパノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリブタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリペンタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリヘキサノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリヘプタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリオクタノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリノナノール、5−ノルボルネン−2,2,3−トリデカノール等のトリオール;
【0021】
2,2,3,3−テトラヒドロキシ−5−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラメタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラエタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラブタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラペンタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラヘキサノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラヘプタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラオクタノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラノナノール、5−ノルボルネン−2,2,3,3−テトラデカノール等のテトラオール;
【0022】
2−アミノ−5−ノルボルネン、2−アミノメチル−5−ノルボルネン、2,3−ジアミノ−5−ノルボルネン等のアミノ化合物;
N−アルキル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド(N−メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等のイミド;
【0023】
5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸等のカルボン酸;5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等の酸無水物;5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチル等のエステル等。
【0024】
これらの中で、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジメタノールが好ましく、5−ノルボルネン−2−オールがより好ましい。
【0025】
〔1−3〕共重合体〔相溶化剤(C)〕の製造方法
上記共重合体は、後述するニッケル金属錯体触媒の存在下、上記α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物を重合させることにより製造できる。ここで、ニッケル金属錯体触媒の製造や重合方法は、J.Am.Cham.Soc. 2001, 123, 5352-5353、Organometallics 2007, 26, 5339-5345、Organometallics 2008, 27, 2273-2280、特開2006−519300号公報、特開2006−519914号公報等に記載の方法に準じて行うことができる。以下にその概要を説明する。
【0026】
〔1−3−1〕ニッケル金属錯体触媒及びその調製方法
本発明において、ニッケル金属錯体触媒としては、下記一般式(2)で表されるものが好ましく用いられる。
【0027】
LNiXpq (2)
〔式(2)中、Niはニッケル原子を示し、Lは酸素原子、窒素原子、リン原子、ヒ素原子、硫黄原子および炭素原子よりなる群から選ばれる何れかの原子でNiにキレート配位する配位子を示し、XはNiとσ結合を形成する配位子を示し、mは1〜4の整数を示し、Yはルイス塩基であって、Niに孤立電子対で配位する配位子を示し、nは1〜4の整数を示す。〕
【0028】
ここで、上記式(2)中、Niはニッケル原子である。このニッケル原子の価数は、0価、1価または2価であり、好ましくは0価または2価である。
Lは酸素原子、窒素原子、リン原子、ヒ素原子、硫黄原子及び炭素原子よりなる群から選ばれる何れかの原子で、中心金属であるNiにキレート配位する配位子である。この配位子Lは、好ましくは二座配位子である。
【0029】
Niに配位する原子としては、窒素、酸素、リン、硫黄が好ましく、更に窒素、酸素、リンが特に好ましい。
【0030】
Xは、Niとσ結合を形成する配位子である。配位子Xとしては、Niとσ結合を形成し得るものであれば特に限定されないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、アミノ基、置換アミノ基または窒素含有炭化水素基等が挙がられる。
【0031】
本発明において、重合反応時に、配位子XのNi−X結合間にモノマーが挿入されて反応するため、Ni−X結合が強すぎると反応性が落ち、助触媒等の反応助剤を必要とすることがある。また、Ni−X結合が弱すぎると、触媒が不安定となり重合反応用途に適さなくなることがある。そのため、配位子Xは適度な結合性を有するものが好ましい。
【0032】
かかる配位子Xとしては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換アミノ基もしくは窒素含有炭化水素基等が挙げられる。それらの中でも反応性の面で、水素原子、塩素原子、メチル基、i−ブチル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が好ましく、水素原子、メチル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいベンジル基が更に好ましく、メチル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいベンジル基が特に好ましい。ここで、置換基として好ましいものはC1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、塩素原子、置換アミノ基である。
【0033】
pは、配位子Xの数であり、通常1〜4の整数である。配位子Xの数(p)は、1または2が好ましく、1が更に好ましい。
【0034】
Yは、ルイス塩基であって、Niに孤立電子対で配位(σ配位)する配位子である。配位子Yとしては、ルイス塩基となり得るもので、かつNiとσ配位を形成し得るものであれば特に限定されないが、例えば、酸素含有炭化水素化合物;アミノ化合物、置換アミノ化合物、窒素含有炭化水素化合物等が挙がられる。
【0035】
それらの中で、配位子Yとしては、具体的には、ジエチルエーテル、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、アニリン、ジフェニルアニリン、ピリジン、2,6−ルチジン、ピラゾリル、インドリルが好ましく、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニリン、ピリジン、2,6−ルチジンが更に好ましく、ピリジン、2,6−ルチジンが特に好ましい。
【0036】
qは、配位子Yの数であり、通常1〜4の整数である。配位子Yの数(q)は、1または2が好ましく、1が更に好ましい。
【0037】
さらに、式(2)で表されるニッケル金属錯体として、配位子Lが、下記一般式(a)で表されるものが好ましい。
【0038】
【化3】

【0039】
〔式(a)中、A1〜A5は、それぞれ独立して、隣り合う置換基A1〜A5同士で環を形成していてもよい(但し、A2とA3とで環を形成することはない)炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基または窒素含有炭化水素基を示し、Dは炭素原子またはケイ素原子を示し、jは0〜2の整数を示し、Tは炭素原子、窒素原子またはリン原子のいずれかを示し、Gは酸素原子、置換基を有する窒素原子および置換基を有するリン原子よりなる群から選ばれる何れかの原子であって、Niとσ結合またはσ配位する原子を示す。〕
【0040】
ここで、上記式(a)中、A1〜A5は、それぞれ独立に、炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基または窒素含有炭化水素基のいずれかである。好ましくは炭化水素基であり、その炭素数は、通常1〜20である。それらの中で、A1〜A5としては、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基が好ましく、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基が更に好ましい。
【0041】
また、A1〜A5は、二つの基同士が互いに結合して環を形成していてもよいが、A2とA3とで環を形成することはない。
【0042】
Dは、炭素原子またはケイ素原子であり、炭素原子が好ましい。
jは、0〜2の整数であり、0又は1が好ましい。
Tは、炭素原子、窒素原子またはリン原子であり、窒素原子またはリン原子が好ましい。
【0043】
Gは、酸素原子、置換基を有する窒素原子および置換基を有するリン原子よりなる群から選ばれる何れかの原子であって、Niとσ結合またはσ配位する原子である。具体的には、酸素原子、PR23、NR2、NR23(ここで、R2、R3はC1〜C8の置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)のいずれかである。これらの中で、NR2、NR23、酸素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。なお、酸素原子、NR2の場合はNiとσ結合し、PR23、NR23の場合はNiとσ配位する。
【0044】
さらに、上記式(2)で表されるニッケル金属錯体として、下記一般式(3)で表されるものがより好ましい。
【0045】
【化4】

【0046】
〔式(3)中、R1は炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基または窒素含有炭化水素基を示し、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、XはNiとσ結合を形成する配位子を示し、mは1〜4の整数を示し、Yはルイス塩基であって、Niに孤立電子対で配位する配位子を示し、nは1〜4の整数を示す。〕
【0047】
すなわち、式(3)で表される金属錯体は、式(2)において、Lが、配位する原子の組み合わせが窒素−酸素、配位形式がσ配位−σ結合であって、R1、Ar1及びAr2をもつ特定構造の二座配位子であり、XとYは、式(1)と同義であり、mとnが1である化合物である。
【0048】
ここで、式(3)において、R1は炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基または窒素含有炭化水素基を示し、好ましくは炭化水素基であり、その炭素数は、通常1〜12、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8である。
【0049】
それらの中で、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基が好ましく、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基が更に好ましい。
【0050】
また、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、通常はNiの配位子場に影響を与えるような芳香族炭化水素基である。(ここで、有していてもよい置換基としてはハロゲン原子、酸素原子を有する置換基が好ましい。)
【0051】
それらの中で、Ar1及びAr2として、特に好ましい基は次のとおりである。
フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−メチルフェニル基、2−i−プロピルフェニル基、2−i−ブチルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、2−ベンジルフェニル基、2−ジフェニル基、2−(1−ナフチル)フェニル基、2−(2−ナフチル)フェニル基、2−メトキシフェニル基、2−フェノキシフェニル基、2−(メトキシフェニル)フェニル基、2−(フリル)フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジ−i−プロピルフェニル基、2,6−ジ−i−ブチルフェニル基、2,6−ジシクロヘキシルフェニル基、2,6−トリフェニル基、2,6−ジメト
キシフェニル基、2,6−ビス(フェノキシ)フェニル基、2,6−ビス(メトキシフェニル)フェニル基、2,6−ビス(フリル)フェニル基。
【0052】
これらの化合物の中で、Rがメチル基、Ar1とAr2が2,6−ジイソプロピルフェニル基、Xがベンジル基、Yが2,6−ルチジンである下記の錯体2が特に好ましい。
【0053】
【化5】

【0054】
以上に詳述した式(2)で表される金属錯体は、それ自体既知の化合物である。例えば、式(3)で表される金属錯体は、例えば上記Organometallics, 2007, 26, pp.5329に記載の方法に準じて製造することができる。
以下、式(2)で表される金属錯体の製造方法の具体例として、式(3)で表される金属錯体の製造方法について説明する。
【0055】
式(3)で表される金属錯体は、下記一般式(6)で表されるイミノアミド配位子と金属水素化合物(水素化カリウム及び水素化ナトリウム)との反応で生成した金属塩を、目的とするニッケル金属錯体の前駆体と反応させることにより製造することができる。
【化6】

〔式(6)中、R1、Ar1、及びAr2は、上記式(3)と同義である。〕
【0056】
ここで、ニッケル金属錯体の前駆体(以下これを単に「前駆体」ということがある)は、一般的なニッケルの有機又は無機の塩、或いは錯体の形を原料から合成できる。
【0057】
それら原料としては、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、二臭化ジ(π-アリル)ジニッケル、ビス(π-アリル)ニッケル、ビス(シクロオクタジエニル)ニッケルが好ましく、二臭化ジ(π-アリル)ジニッケル、ビス(π-アリル)ニッケル、ビス(シクロオクタジエニル)ニッケルが更に好ましい。
【0058】
前駆体は、通常、上記Ni化合物と化合物X−R"とYとを混合することにより得られる。ここで、X及びYは、上記式(2)と同義である。
X−R"化合物は、ニッケル化合物に酸化的付加する化合物であり、R"は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフラート等である。
【0059】
X−R"としては、例えば、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化フェニル、臭化フェニル、フェニルトリフラート、ベンジルヨウジド、ベンジルブロミド、ベンジルクロリドが好ましく、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化フェニル、臭化フェニル、ベンジルヨウジド、ベンジルブロミド、ベンジルクロリドが更に好ましく、ベンジルヨウジド、ベンジルブロミド、ベンジルクロリドが特に好ましい。
【0060】
上記Ni化合物と化合物X−R"とYの混合方法は特に制限されないが、通常X−R"とYとの混合物の溶液(無溶媒でもよい)をNi化合物の溶液(無溶媒でもよい)に添加すればよい。X−R"とNi化合物の割合(mol/mol)は、通常1当量以上、好ましくは1.01当量以上、より好ましくは1.1当量以上であり、通常5当量以下、好ましくは3当量以下、より好ましくは2当量以下である。
【0061】
YとNi化合物の割合(mol/mol)は、通常2当量以上、好ましくは3当量以上、より好ましくは4当量以上であり、通常50当量以下、好ましくは40当量以下、より好ましくは30当量以下である。
【0062】
用いる溶媒は特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;n−ブチルアセテート、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン等の極性溶媒類等が挙げられる。
【0063】
前駆体の原料化合物の濃度は特に限定されないが、反応液1Lに対して、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは25g以下であり、通常0.0001g以上、好ましくは0.01g以上、より好ましくは1g以上である。
【0064】
金属塩と前駆体の反応方法に特に制限はないが、前駆体の製造を行った反応液に引き続き金属塩を加えてもよいし、前駆体を製造する原料と金属塩をすべて混合させて反応させてもよいが、好ましくは前駆体の製造を行った反応液に金属塩を加える方法である。
【0065】
前駆体の製造時および金属錯体の製造時(金属塩と前駆体を反応させる際)の反応温度、反応圧力および反応時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行えばよい。
すなわち、反応温度は、通常−80℃以上、好ましくは−10℃以上、より好ましくは0℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは90℃以下である。また、反応圧力は、通常は常圧であり、微加圧・微減圧になってもよい。反応時間は、通常1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上であり、通常100時間以下、好ましくは70時間以下、より好ましくは50時間以下である。
【0066】
かくして製造される金属錯体は、重合反応系に添加し、反応触媒として用いることができる。
【0067】
〔1−3−2〕重合反応方法
上記共重合体〔相溶化剤(C)〕の製造において、重合反応様式に特に制限はなく、それ自体既知の重合方法、例えば、回分式(バッチ)重合、連続重合のいずれの方式によって行うことができる。
【0068】
重合反応には、溶媒を用いても用いなくてもよい。溶媒の具体例としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の炭化水素類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;n−ブチルアセテート、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類等が挙げられる。これらの中で、炭化水素類が好ましい。また、これらの混合物を溶媒として使用してもよい。
【0069】
上記ニッケル金属錯体触媒は、溶媒を使用する溶液(懸濁)重合に適用される他、実質的に溶媒を使用しない液相無溶媒重合、気相重合にも適用される。
【0070】
上記各触媒成分の混合は、α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物(ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマー)との共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0071】
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。たとえばバッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0072】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
【0073】
あらかじめ2種類のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法では、2種類のモノマーがランダムに導入された共重合体(ランダム共重合体)が製造される。一方、最初に1種類のモノマーと触媒を反応器に供給して所定時間のホモ重合を行い、続いてもう1種類のモノマーを追加して供給して所定時間の共重合を行うことにより、ホモポリマー(A)とランダムポリマー(B)のセグメントを有するA−Bブロック共重合体を製造することができる。
【0074】
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する方法等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキル等を使用することができる。
【0075】
重合温度、重合圧力及び重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。
すなわち、重合温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常150℃以下、好ましくは120℃以下である。また、重合圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、特に好ましくは0.1MPa以上であり、通常100MPa以下、好ましくは20MPa以下、特に好ましくは7MPa以下である。重合時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.2時間以上、特に好ましくは0.3時間以上であり、通常30時間以下、好ましくは25時間以下、より好ましくは20時間以下、特に好ましくは15時間以下である。
【0076】
重合反応終了後の後処理方法には特に制限はないが、通常は未反応モノマーや溶媒を使用した際の溶媒を、生成共重合体から分離する。分離した未反応モノマーや溶媒は、リサイクルして使用してもよく、リサイクルの際、これらのモノマーや溶媒を、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成した共重合体と未反応モノマーおよび溶媒との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈等の方法が使用できる。好ましくは濾過による方法である。
かくして得られる共重合体は、後述するとおり、熱可塑性樹脂用の相溶化剤(C)として好適に用いることができる。
【0077】
〔1−4〕共重合体〔相溶化剤(C)〕の物性、反応性
上記共重合体の分子量に特に制限はないが、熱可塑性樹脂用の相溶化剤(C)として用いる際には、反応性や成形性等を考慮して、組成物として用いる熱可塑性樹脂の物性に応じて適切な分子量のものを用いる必要がある。このため、分子量の好ましい範囲は、重量平均分子量(Mw)として、通常500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000である。500未満では耐衝撃性、耐熱性等の物性低下が大きくなる傾向があり、1,000,000を超えると相溶性が劣る傾向がある。
なお、分子量の好ましい範囲は、ランダム共重合体もブロック共重合体も同様である。
【0078】
分子量分布に特に制限はないが、熱可塑性樹脂用の相溶化剤(C)として用いる際には、反応性や成形性等を考慮して、組成物として用いる熱可塑性樹脂の物性に応じて適切な分子量分布のものを用いる必要がある。このため、分子量分布の好ましい範囲は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で、通常1〜10、より好ましくは1〜5である。分子量分布が小さすぎると、分子量見合いでの溶融粘度が高いために成形性が悪くなる傾向があり、大きすぎると、共重合体の反応性にむらができ、相溶性が悪くなる傾向がある。
【0079】
上記共重合体において、一般式(1)で表される化合物(ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマー)に由来する構成単位の含有量は、好ましくは0.01〜10mol%、より好ましくは0.1〜5mol%である。含有量が0.01mol%未満では、熱可塑性樹脂用の相溶化剤として用いる場合、エステル交換またはアミド交換の反応性に乏しく、10mol%を超えると、分散性が低下し、樹脂組成物中に共重合体〔相溶化剤(C)〕が塊となって分散する傾向がある。
【0080】
上記共重合体〔相溶化剤(C)〕と、後述する本発明の樹脂組成物に用いる極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)〔以下これを「(B)成分」ということがある〕を高温で溶融混合することにより、無溶媒条件下においても相溶化剤(C)中の官能基(例えば水酸基)と(B)成分中の連結基(例えばカーボネート結合)が反応し、求核置換反応が起こり、(C)成分と(B)成分が化学結合を形成すると考えられる。すなわち、相溶化剤(C)は、本発明の樹脂組成物に用いるポリオレフィン樹脂(A)〔以下これを「(A)成分」ということがある〕と(B)成分の反応性相溶化剤として機能し、これにより、格別に優れた相溶性を発現し得るものと考えられる。
【0081】
〔1−5〕ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマーの定量方法
上記共重合体における一般式(1)で表される化合物(ノルボルネン骨格を有する官能基含有モノマー)に由来する構成単位の測定は、NMRやIRを利用して、それ自体既知の方法で行うことができる。例えば、5−ノルボルネン−2−オールを例とすれば、その定量法は下記の通りである。
【0082】
構造と帰属番号を[化7]に、またそれぞれの水素に由来する化学シフトの範囲を表1に示す。なお、それぞれの構造に由来するピークのケミカルシフトは、NMRの測定条件によって多少の変動があること、ピークは必ずしも単一ピーク(single peak)ではなく、微細構造にもとづく複雑な分裂パターン(split pattern)を示すことが多い点に注意して帰属を行う必要がある。
【0083】
【化7】

【0084】
【表1】

【0085】
5−ノルボルネン−2−オールユニットのシグナルをendo体は4.1ppm(H25)に、exo体は3.7ppm(H15)に検出し、コモノマーの存在を確認した。積分比から、ポリマー総量を100mol%とした時のコモノマーの含有量を、下記式で計算した。
【0086】
exo-NBOHの含有量:Xexo=4×Ib/(Ia-8×(Ib+Ic))×100
endo-NBOHの含有量:Xendo=4×Ic/(Ia-8×(Ib+Ic))×100
NBOHの含有量:XNBOH=Xexo+Xendo
(上記式中、Iaは化学シフト範囲aの積分値を意味する。)
【0087】
〔2〕樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂(A)〔(A)成分〕と、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)〔(B)成分〕と、相溶化剤(C)〔(C)成分〕の少なくとも3成分に由来する単位を含有するものである。次に、本発明の樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
【0088】
〔2−1〕ポリオレフィン樹脂(A)
(A)成分のポリオレフィン樹脂は、付加重合性二重結合を持つ単量体を主要な構成単位とするオレフィン重合体である。付加重合性二重結合を持つ単量体としては、オレフィン、ジオレフィン、環状オレフィン、アルケニル芳香族炭化水素等を挙げることができる。かかる単量体としては、例えば、次の化合物が挙げられる。
【0089】
エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1―ヘキセン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、ビニルシクロヘキサン等のオレフィン;
【0090】
1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ペンタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロオクタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等のジオレフィン;
【0091】
ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン等の環状オレフィン;
【0092】
アルケニルベンゼン(スチレン、2−フェニルプロピレン、2−フェニルブテン、3−フェニルプロピレン等)、アルキルスチレン(p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、3−メチル−5−エチルスチレン、p−第3級ブチルスチレン、p−第2級ブチルスチレン等)、ビスアルケニルベンゼン(ジビニルベンゼン等)、アルケニルナフタレン(1−ビニルナフタレン等)等のアルケニル芳香族炭化水素等。
【0093】
これらの単量体は、単独重合で用いても共重合として用いてもよい。これらの中で好ましく用いられるのは、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体、または、これらの混合物である。
【0094】
工業部品に応用する場合、一般的には、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体が、好適に用いられ、特に好ましいのはエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体である。
【0095】
オレフィン重合体のメルトフローレート(MFR)は特に制限されず、目的に応じて好適なMFRのエチレン単独重合体やプロピレン単独重合体を使用することができる。しかしながら、成形性と物性のバランスを考慮すると、MFRは、通常0.01(g/10min)以上、好ましくは0.1(g/10min)以上であり、通常1000(g/10min)以下、好ましくは100(g/10min)以下、より好ましくは50(g/10min)以下である。MFRが0.01(g/10min)未満では樹脂組成物の成形性が劣り、1000(g/10min)を越えると耐熱性や機械物性が劣る場合がある。
【0096】
オレフィン重合体の構造、たとえば、立体規則性、分子量、分子量分布等は特に制限されず、目的に応じて必要な構造を有するものを使用することができる。
【0097】
〔2−2〕極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)
(B)成分の極性基をもつ熱可塑性樹脂としては、一般式(1)で表される化合物に由来する、相溶化剤(C)中の置換基Xとエステル交換反応またはアミド交換反応し得る結合、例えば、アミド結合、カーボネート結合、エステル結合の少なくとも一つの結合を連結基としてもつ重縮合系樹脂が好ましい。具体的には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、それらのブロック共重合体が挙げられる。これらの中で、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0098】
さらに具体的には、(B)成分のうちポリエステル樹脂としては、芳香環含有ポリエステルおよび脂肪族ポリエステルが挙げられる。ここで、芳香環含有ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリアルキレン(C2〜24)テレフタレート;ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート等のポリアルキレン(C2〜24)イソフタレート;ポリ−p−フェニレンマロネート、ポリ−p−フェニレンアジペート、ポリ−p−フェニレンテレフタレート等のポリ−p−フェニレンエステル等が挙がられ、脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0099】
ポリアミド樹脂としては、ポリカプラミド(6−ナイロン)、ポリヘキサメチレンアジポアミド(6,6−ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10−ナイロン)、ポリウンデカンアミド(11−ナイロン)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(7−ナイロン)およびポリ−ω−アミノノナン酸(9−ナイロン)等が挙がられる。
【0100】
ポリエーテル樹脂としては、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシフェニレン(PPO)およびポリ−1,3−ジオキソラン等が挙げられる。
【0101】
これらの樹脂は、それ自体既知の通常用いられるものであり、必要に応じて、市販品を購入して使用することができる。
【0102】
本発明の樹脂組成物において、(B)成分として好ましく用いられるポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法や、ジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法等によって得られる重合体または共重合体である。これらの中で、代表的なのもとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)とホスゲンから製造された芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0103】
上記原料としてのジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、例えば、次の化合物が挙がられる。
【0104】
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0105】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンの等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3‘−ジメチルジフェニルエーテルの等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0106】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドの等のジヒドロキシアリールスルフィド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドの等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンの等のジヒドロキシジアリールスルホン類等。
【0107】
これらの化合物は、ポリカーボネート樹脂の製造に際し、単独または2種以上混合して使用されるが、これらの他にピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル類を混合して使用してもよい。
【0108】
本発明に使用するポリカーボネート樹脂の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)として、機械的強度と流動性(成形加工性容易性)の観点から、通常10,000〜50,000、好ましくは12,000〜40,000、更に好ましくは14,000〜35,000、特に好ましくは16,000〜32,000である。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0109】
〔2−3〕相溶化剤(C)
(C)成分は、上記した共重合体である。(C)成分として好ましい相溶化剤は、上記した好ましい共重合体と同様である。
【0110】
〔2−4〕その他の成分
本発明の樹脂組成物には、上述した成分の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が配合されていてもよい。このような配合成分としては、相溶化剤(C)以外の他の相溶化剤、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系等の酸化防止剤;帯電防止剤、ヒンダードアミン等光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤、難燃剤等が挙げられる。
【0111】
〔2−5〕各成分の配合比率、樹脂組成物中の含有量
(A)成分と(B)成分との配合比率に特に制限はなく、得られる樹脂組成物の用途により好ましい範囲が異なるが、(A)成分と(B)成分との配合比率は、(A)/(B)(重量比)として、通常1/99〜99/1、好ましくは5/95〜90/10、より好ましくは10/90〜70/30である。
【0112】
また、(C)成分の配合量にも特に制限はなく、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、好ましくは0.01〜30重量部、より好ましくは0.1〜20重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。配合比率が0.01重量部未満では、相溶性が劣る傾向があり、30重量部を超えると、耐衝撃性、耐熱性等の物性低下の傾向がある。
【0113】
なお、本発明の樹脂組成物に用いる相溶化剤(C)は、上記のとおり、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)とエステル交換反応またはアミド交換反応し得るものであり、樹脂組成物中では、熱可塑性樹脂(B)と化学結合して存在している可能性がある。本明細書において、各成分に由来する単位の含有量は、樹脂組成物中に存在する未反応の成分と反応した成分の合計量を意味するものであり、その量は、上記した各成分の配合量(割合)と同様である。
【0114】
〔2−6〕樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、それ自体既知の方法で製造することができる。すなわち、樹脂組成物の用途に応じた組成となるように、上記した各成分を、適当な機器により、溶融混練することにより製造できる。
【0115】
各成分は、必要に応じて、またその物性に応じて、任意の形態で配合すればよい。たとえば、固体で配合してもよいし、溶剤に溶解した溶液として、あるいは、溶剤に分散させたスラリーとして配合してもよい。
【0116】
溶融混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の、樹脂組成物の製造に通常用いられるものが挙げられる。
【0117】
溶融混練に際して、各成分の分散を良好にすることができる混練方法を選択することが好ましく、通常は二軸押出機やブラベンダープラストグラフを用いのが好ましい。これらの機器を使用する混練では、各成分の配合物を同時に混練しても、各成分を分割して混練してもよい。特に後者の方法を採用することにより、樹脂組成物の性能が大きく向上する。具体的には、まず、相溶化剤(C)の一部または全部と、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)、例えばポリカーボネート樹脂とを混練し、その後に残りの成分を混練するのが好適である。最初に混練する相溶化剤(C)の最小量は、その全量に対して0.01部程度でよい。
【0118】
さらに本発明において、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)、例えばポリカーボネート樹脂マトリックス内にポリオレフィン樹脂(A)を微分散化させ、良外観、ならびに高い耐溶剤性と耐衝撃性を併せ持つ成形品を得るための好ましい混練条件としては、用いる極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)及びポリオレフィン樹脂(A)の物性、その配合割合、その他の添加剤の有無等により異なり、一概には言えないが、例えば、以下のような条件を採用すればよい。
【0119】
即ち、例えば、ポリカーボネート/ポリエチレン系複合樹脂組成物(成形品)の製造に際しては、前述の如く、配合しブレンドした組成物をシリンダー温度200〜300℃、スクリュー回転数80〜400rpmで混練する。このとき、ポリカーボネートと相溶化剤(C)、ポリオレフィンを一括供給して混練してもよい。しかしながら、一括供給で混練を行うと相溶化剤(C)が親和性の高いポリオレフィン中に取り込まれてしまい、ポリカーボネートとのエステル交換反応が進行しにくいことから、相溶化剤として働きにくい。そのため、より好ましくは、多段混練法やサイドフィード法を用いることで、ポリカーボネートと相溶化剤(C)を先に混練し、エステル交換反応を進行させた後にポリオレフィンを添加し、さらに練りを加えた後に押出す手法を用いると相溶化効果がより高くなる。押し出されたストランドは冷却し、切断してペレット化する。
【0120】
混練の際にはスクリュー回転数と吐出量をバランスさせ、ダイスにおける樹脂圧を2〜40MPa程度として、樹脂圧力を一定にかけながら押し出すことで、効果的にせん断応力がかかり、ポリカーボネート樹脂中におけるポリオレフィン成分の分散性が向上する。シリンダー内に樹脂が充填されない状態で混練しても十分なせん断応力がかからず、ポリオレフィン成分の分散性が上がらない為、大きなドメインを形成しやすくなってしまう。
【0121】
〔3〕成形物
本発明の樹脂組成物は、それ自体既知の各種方法により成形し、各種用途の成形体とすることができる。成形方法としては、例えば、射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等が挙がられる。このうち、射出成形、射出圧縮成形がより好ましい。
【0122】
本発明の樹脂組成物及びその成形体は、機械的強度、耐有機溶剤性および外観に優れているので、各種の用途に用いることができる。具体的な用途としては、例えば、自動車部品、家電部品、包装用資材、建築用資材、農業用資材、土木用資材、繊維、濾過材、漁業用資材、衛生・医療材料その他工業用資材等が挙げられる。より具体的には自動車外板部品、自動車内装部品、自動車エンジン周辺部品、家電筐体、電気機器部品、トレイ、ボトル、緩衝用発泡体、魚箱等、農業用資材、医療器具等が挙げられる。
【実施例】
【0123】
次に実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれら実施例によって制約を受けるものではない。
【0124】
以下の諸例における各種物性の測定は、次の要領に従って行った。
(1)NMR測定
Varian社製Inova500分光計を使用し、以下の方法で測定を行った。
試料10〜100mgを、直径5mmのNMR用サンプル管中で、0.55mlのオルトジクロロベンゼンを用いて130℃で完全に溶解させる。次いで、ロック溶媒として0.1mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃で測定を行う。
【0125】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
DuPont社製熱分析システムTA2000を使用し、以下の方法で測定を行った。
試料(約5〜10mg)を、200℃で5分間融解後、10℃/minの速度で20℃まで降温し、5分間同温度で保持した後に、10℃/minで200℃まで昇温することにより融解曲線を得て、最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点として求めた。融解熱量は、この主吸熱ピークとベースラインとで囲まれる領域の面積から求めた。ところで、融解熱量が小さい場合、ベースラインの変動と真の吸熱ピークとの判別が困難な場合がある。この場合には、上述の降温過程において、結晶化による発熱ピークが存在し、それが、吸熱ピークと対応するかどうかを確認する。対応する発熱ピークが存在すれば、結晶融解にもとづく真の吸熱ピークが存在すると判別し、そうでない場合には、ベースラインの変動と判別する。
【0126】
(3)メルトフローレート(MFR)
ポリエチレンは、JIS K6922−2に準拠し、190℃、2.16kg荷重で行った。
ポリカーボネートは、ISO 1133に準拠し、300℃、1.2kg荷重で行った。
【0127】
(4)ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)
以下の条件で測定した。
装置:Waters社製GPCV 2000
カラム温度:135℃
溶媒:o−ジクロロベンゼン
流量:1.0ml/min
カラム:東ソー社製TSKgel GMH−HT(30cm×4、カラム径7.8mm)
注入量:0.5ml(濾過処理後)
溶液濃度:0.1wt%
試料調製:試料は高温GPC用前処理装置PL−SP 260VS中でBHT添加(0.5g/L)したODCBに溶解(溶解温度135℃)、グラスフィルター(穴径1μm)にてろ過後測定。
較正曲線:東ソー社製ポリスチレン標準サンプル(商品名:TSK標準ポリスチレン、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)<1.2)を使用する。
検量線次数:3次
【0128】
(5)外観評価
(5−1)添加剤(色材)なしの場合
引張試験の試験片(厚さ0.2mm)の外観を、層間剥離(デラミネーション)を中心に以下の3段階で評価した。
○:全体的になめらかで均一。
△:多少ムラがある。
×:ムラがひどく、場合によっては筋や亀裂が見られる。
【0129】
(5−2)添加剤(色材)ありの場合
目視により、試験片の外観を観察し、その黒色度を以下の3段階で評価した。
○:全体的にほぼ良好な黒。
△:全体的にうっすらと白化。
×:全体的に著しい白化が見られる。
【0130】
(6)分散粒子径
マトリクス、ドメインの分散状況を定量的に解析するため、成形品断面の分散形態写真画像に基づき、ドメイン分散粒子径を画像解析により計測した。
電子ファイルに保存された画像を入力し、原画像とした。Image-Pro Plusにて二値化(自動閾値または手動)を行い、径が0.01μm以上の粒子を抽出したのち、手動処理により重なっている粒子の分離を行った。面積、サイズ(長さ)、サイズ(幅)を計測し、エクセルファイルに保存した。なお、サイズ(長さ)は近似楕円の長軸方向に投影した最大長を表し、サイズ(幅)は、近似楕円の短軸方向に投影した最大長を表す。エクセルにて計測した面積から等面積円径を計算し、平均値を出力した。その等面積円径の最小値と最大値の範囲を記載した。
【0131】
(7)マトリクスの成分
成形品断面の分散形態写真画像に基づき、ドメインを取り囲んで連続している樹脂相をマトリクスと判断した。
【0132】
(8)引張試験
JIS−K7113に準拠して次のとおり行った。
エー・アンド・デイ社製テンシロンSTA−1225を使用して23℃、相対湿度55%で測定する。試験速度は50 mm/min、試験片は厚さ0.2mm厚のJIS−K7113,2号型試験片に準拠したものを使用する。
試験片の作成方法は次のとおりである。
樹脂組成物3.2gを、試験用プレス機(上島製作所製)と金属スペーサー(厚さ0.2mm)を用いて、220℃予熱3分、脱気1分、加圧(50kg/cm2)1分行い、0.2mm厚シートを作成する。得られたシートから、ダンベル型打ち抜き機を用いてJIS−K7113、2号型試験片に準拠した試験片を作成する。
【0133】
<錯体の調製>
下記の製造例で用いた錯体1、錯体2、Ni(COD)2(COD:シクロオクタジエン)は、[化8]に示す構造を有するものである。
【0134】
【化8】

【0135】
上記錯体1、錯体2は、共重合体〔相溶化剤(C)〕の製造方法の項に挙げた文献に記載されている方法に準じて次のとおり合成した。合成工程は、標準的なグローブボックスとシュレンク技術とを使用して精製窒素雰囲気下で行い、THFはNa−ベンゾフェノンで乾燥したものを用いた。トルエン及びn−ヘキサンは関東化学社から購入した脱水溶媒を用いた。
【0136】
合成例1:N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)プロパンアミデート−κ2N,O)(η1−ベンジル)(トリメチルフォスフィン)ニッケル(錯体1)の合成
(1)配位子のナトリウム塩の合成
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)プロパンアミド(1.5g、3.69mmol)と水素化ナトリウム(0.13g、5.45mmol)のTHF(40mL)縣濁液を40℃で1時間攪拌した後、室温で3時間攪拌を行った。その後、濾過して得られた濾液の溶媒を溜去し、配位子のナトリウム塩(1.58g、100%収率)を得た。
【0137】
(2)錯体の合成
(1)で得られた配位子のナトリウム塩をトルエン(40mL)で溶解させた。ニッケル(η3−ベンジル)クロロ(トリメチルフォスフィン)(1.25g、3.69mmol)のトルエン(10mL)溶液を室温で滴下し、2.5時間攪拌後、濾過して副生した塩を除いた。濾液の液量が5mLになるまで溶媒を溜去し、ヘキサン20mLを加え、−30℃で再結晶を行った。得られた錯体のヘキサン洗浄(4mLx2)を行い、赤色粉末の表題錯体(0.93g、40%収率)を得た。
【0138】
合成例2:N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)プロパンアミデート−κ2N,O)(η1−ベンジル)(2,6−ルチジン)ニッケル(錯体2)の合成
(1)配位子のナトリウム塩の合成
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)プロパンアミド(7.18g、17.8mmol)と水素化ナトリウム(0.63g、26.3mmol)のTHF(86mL)縣濁液を40℃で1時間攪拌した後、室温で3時間攪拌を行った。
【0139】
(2)錯体の合成
Ni(COD)2(4.87g、17.7mmol)のTHF(220mL)溶液に、ベンジルクロリド(2.2mL、19.1mmol)と2,6−ルチジン(7.0mL、53.1mmol)のTHF(20mL)溶液を室温で加えた。室温で5分攪拌後、混合物に(1)で合成した配位子のナトリウム塩のTHF溶液((1)の濾液)を室温で滴下し、同温度で終夜攪拌した。THFを完全に溜去した後、副生した塩を取り除くため目的錯体をトルエンで抽出し、溶媒溜去し、粗錯体をヘキサン洗浄(20mLx3)した。下に示す精製工程を3回繰り返すことにより、オレンジ粉末の表題錯体(3.83g、32%収率)を得た。精製工程:トルエン/ヘキサン(30/30mL)抽出を2回、溶媒溜去、ヘキサン洗浄(30mLx3)。
【0140】
<共重合体〔相溶化剤(C)〕の製造>
上記合成例1、2で調製した錯体1、2を触媒として用い、次のとおり相溶化剤(C)を製造した。重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は、モレキュラーシーブ(MS−4A)で脱水した後に、精製窒素でバブリングして脱気して使用した。5−ノルボルネン−2−オールは、endo/exo異性体混合物である市販品を昇華精製または再結晶精製した後に使用した。
【0141】
製造例1:エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体1)の製造
乾燥して窒素置換した1L−オートクレーブに、錯体1のトルエン溶液(40μmol;25.3mgの錯体1を5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、Ni(COD)2のトルエン溶液(100μmol;27.5mgのNi(COD)2を10mLのトルエンに溶解させた溶液)と、5−ノルボルネン−2−オールのトルエン溶液(9mmol;991mgの5−ノルボルネン−2−オールを5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、トルエン溶液の全体積が60mLになる量のトルエンを加えた。
【0142】
オートクレーブをエチレン置換(0.2MPaG×2回)後、エチレンを導入して反応器圧力が3.45MPaに到達した時点を重合開始時刻とし、圧力一定となるようにエチレンを連続供給して、加圧された該反応混合物を約20℃で60分間攪拌した。60分後にアセトン約5mLを加えて重合を停止し、エチレンをパージした後に、反応器内を窒素で置換した。
【0143】
その後、オートクレーブを開放し、生成したポリマーを溶媒ごと回収した後に、攪拌しながら溶媒とほぼ同量のアセトンを加えて、トルエンに膨潤しているポリマーを粒子化した。そのまま30分ほど攪拌を継続した後に、吸引濾過によりポリマーを濾別し、さらにアセトンによる洗浄及び濾別を3回繰り返した。この操作により、洗浄液は錯体の色が消失し、無色透明となった。
【0144】
得られたポリマー粒子を、真空乾燥機にて80℃−3hr乾燥を行い、エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体1)を2.89g得た。この共重合体1の物性は次のとおりであった。
GPC分析:Mw=1.87×105、Mw/Mn=1.7。
DSC分析:Tm(1)=95.9℃(幅広のピーク)、Tm(2)=120.5℃(小さいピーク)。
1H−NMR分析:水酸基含量は5.0mol%。
【0145】
製造例2:エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(ブロック共重合体)(共重合体2)の製造
乾燥して窒素置換した、破裂板付きコモノマーフィーダー付設の1L−オートクレーブの胴側に、錯体1のトルエン溶液(40μmol;25.3mgの錯体1を5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、Ni(COD)2のトルエン溶液(100μmol;27.5mgのNi(COD)2を10mLのトルエンに溶解させた溶液)と、トルエン溶液の全体積が60mLになる量のトルエンを加えた。また、コモノマーフィーダーには窒素気流下で5−ノルボルネン−2−オールのトルエン溶液(9mmol;991mgの5−ノルボルネン−2−オールを5mLのトルエンに溶解させた溶液)を加えた。原料の仕込まれたオートクレーブを重合温度付近(4℃)まで冷却し、反応器内温度を設定温度−1〜2℃で安定させた。
【0146】
オートクレーブをエチレン置換(0.2MPaG×2回)後、エチレンを導入して反応器圧力が0.69MPaに到達した時点を重合開始時刻とし、圧力一定となるようにエチレンを連続供給して、加圧された該反応混合物を約4℃で20分間攪拌した。その後、触媒フィーダー側をエチレンで加圧し、破裂板を割ってコモノマーをオートクレーブ内へ投入し、引き続きエチレン圧が0.69MPa、反応器内温度約4℃で20分間攪拌した。重合開始時刻から40分後にアセトン約5mLを加えて重合を停止し、エチレンをパージした後に、反応器内を窒素で置換した。
【0147】
その後、オートクレーブを開放し、生成したポリマーを溶媒ごと回収した後に、攪拌しながら溶媒とほぼ同量のアセトンを加えて、トルエンに膨潤しているポリマーを粒子化した。そのまま30分ほど攪拌を継続した後に、吸引濾過によりポリマーを濾別し、さらにアセトンによる洗浄及び濾別を3回繰り返した。この操作により、洗浄液は錯体の色が消失し、無色透明となった。
【0148】
得られたポリマー粒子をドラフトにて風乾した後に、真空乾燥機にて80℃−3hr乾燥を行い、エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体2)を1.6g得た。この共重合体2の物性は次のとおりであった。
GPC分析:Mw=5.48×104、Mw/Mn=1.5。
DSC分析:Tm=127.1℃。
1H−NMR分析:水酸基含量は1.4mol%。
【0149】
製造例3:エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体3)の製造
乾燥して窒素置換した1L−オートクレーブに、錯体1のトルエン溶液(200μmol;126mgの錯体1を5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、Ni(COD)2のトルエン溶液(500μmol;138mgのNi(COD)2を30mLのトルエンに溶解させた溶液)と、5−ノルボルネン−2−オールのトルエン溶液(9mmol;991mgの5−ノルボルネン−2−オールを5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、トルエン溶液の全体積が300mLになる量のトルエンを加えた。
【0150】
オートクレーブをエチレン置換(0.2MPaG×2回)後、エチレンを導入して反応器圧力が3.45MPaに到達した時点を重合開始時刻とし、圧力一定となるようにエチレンを連続供給して、加圧された該反応混合物を約20℃で10分間攪拌した。10分後にアセトン約10mLを加えて重合を停止し、エチレンをパージした後に、反応器内を窒素で置換した。
【0151】
その後、オートクレーブを開放し、生成したポリマーを溶媒ごと回収した後に、攪拌しながら溶媒とほぼ同量のアセトンを加えて、トルエンに膨潤しているポリマーを粒子化した。そのまま30分ほど攪拌を継続した後に、吸引濾過によりポリマーを濾別し、さらにアセトンによる洗浄及び濾別を3回繰り返した。この操作により、洗浄液は錯体の色が消失し、無色透明となった。
【0152】
得られたポリマー粒子をドラフトにて風乾した後に、真空乾燥機にて80℃−3hr乾燥を行い、エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体3)を12.7g得た。この共重合体3の物性は次のとおりであった。
GPC分析:Mw=1.13×105、Mw/Mn=1.5。
DSC分析:Tm=122.6℃。
1H−NMR分析:水酸基含量は0.5mol%
【0153】
製造例4:エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体4)の製造
乾燥して窒素置換した1L−オートクレーブに、錯体1のトルエン溶液(200μmol;126mgの錯体1を5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、Ni(COD)2のトルエン溶液(500μmol;138mgのNi(COD)2を30mLのトルエンに溶解させた溶液)と、5−ノルボルネン−2−オールのトルエン溶液(9mmol;991mgの5−ノルボルネン−2−オールを5mLのトルエンに溶解させた溶液)と、トルエン溶液の全体積が300mLになる量のトルエンを加えた。
【0154】
オートクレーブをエチレン置換(0.2MPaG×2回)後、エチレンを導入して反応器圧力が3.45MPaに到達した時点を重合開始時刻とし、圧力一定となるようにエチレンを連続供給して、加圧された該反応混合物を約20℃で60分間攪拌した。60分後にアセトン約10mLを加えて重合を停止し、エチレンをパージした後に、反応器内を窒素で置換した。
【0155】
その後、オートクレーブを開放し、生成したポリマーを溶媒ごと回収した後に、攪拌しながら溶媒とほぼ同量のアセトンを加えて、トルエンに膨潤しているポリマーを粒子化した。そのまま30分ほど攪拌を継続した後に、吸引濾過によりポリマーを濾別し、さらにアセトンによる洗浄及び濾別を3回繰り返した。この操作により、洗浄液は錯体の色が消失し、無色透明となった。
【0156】
得られたポリマー粒子をドラフトにて風乾した後に、真空乾燥機にて80℃−3hr乾燥を行い、エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体を36.2g得た。この共重合体4の物性は次のとおりであった。
GPC分析:Mw=2.72×105、Mw/Mn=1.6。
DSC分析:Tm=124.6℃。
1H−NMR分析:水酸基含量は0.3mol%
【0157】
製造例5:エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体5)の製造
乾燥して窒素置換した、破裂板付き触媒フィーダー付設の2L−オートクレーブの胴側に、トルエンを1,200mL投入した。その後、窒素気流下で触媒フィーダーに錯体2のトルエン溶液(453μmol;300mgの錯体2を7mLのトルエンに溶解させた溶液)を、続いてオートクレーブ胴側に5−ノルボルネン−2−オールのトルエン溶液(40.7mmol;4.49gの5−ノルボルネン−2−オールを10mLのトルエンに溶解させた溶液)を加えた。オートクレーブ胴側をエチレン置換(0.2MPaG×10回)した後に、重合温度付近(50℃)まで昇温し、反応器内温度を設定温度−1〜2℃で安定させた。
【0158】
その後、触媒フィーダー側をエチレンで加圧し、破裂板を割って触媒をオートクレーブ内へ投入した直後に、触媒フィーダーを通じてエチレンを導入し、反応器内を0.5MPaGまで加圧した。そのまま、圧力一定となるようにエチレンを導入しながら設定温度(50℃)を維持して攪拌を5分間継続した後に、エチレン導入量を増やして、5分間かけて重合温度を維持しながら反応器の圧力を1.8MPaGまで昇圧した。反応器圧力が1.8MPaGに到達した後に、圧力一定となるようにエチレンを連続供給して、加圧された該反応混合物を50℃で60分間攪拌した。60分後、アセトンを約30ml加えて反応を停止し、未反応モノマーをパージした後に、反応器内を窒素で置換した。
【0159】
その後、オートクレーブを開放し、生成したポリマーを溶媒ごと回収した後に、攪拌しながら溶媒とほぼ同量のアセトンを加えて、トルエンに膨潤しているポリマーを粒子化した。そのまま30分ほど攪拌を継続した後に、吸引濾過によりポリマーを濾別し、さらにアセトンによる洗浄及び濾別を3回繰り返した。この操作により、洗浄液は錯体の色が消失し、無色透明となった。
【0160】
得られたポリマー粒子(あるいは凝集体)をドラフトにて風乾した後に、真空乾燥機にて80℃−3hr乾燥を行い、エチレン/5−ノルボルネン−2−オール共重合体(共重合体5)を145g得た。この共重合体5の物性は次のとおりであった。
GPC分析:Mw=1.28×105、Mw/Mn=2.2。
DSC分析:Tm=110.2℃。
1H−NMR分析:水酸基含量は0.58mol%。
【0161】
<樹脂組成物の製造>
(A)成分としてポリエチレン樹脂(市販品)、(B)成分としてポリカーボネート樹脂(市販品)、(C)成分として上記共重合体1〜5、市販の相溶化剤(比較例)を用いて、実施例1〜5、比較例1〜5のとおり、樹脂組成物を製造し、その物性評価を行った。
各例で使用した(A)成分、(B)成分、比較例の相溶化剤は、次のとおりである。
【0162】
(A)成分
・ポリエチレン(A1)〔日本ポリエチレン社製、商品名:HE492、MFR=24(g/10min〕〕
・ポリエチレン(A2)〔日本ポリエチレン社製、商品名:HY420、MFR=0.37(g/min)〕
・ポリエチレン(A3)〔日本ポリエチレン社製、商品名:HF310、MFR=0.06(g/min)〕
【0163】
(B)成分
・ポリカーボネート樹脂〔三菱エンジニアリングプラスチック社製、商品名:ユーピロンS2000、Mv=24000、MFR=12(g/min)〕
【0164】
(比較例の相溶化剤)
・エチレン/GMA(グリシジルメタアクリレート)共重合体(住友化学社製、商品名:ボンドファースト−E)
・エチレン/酢酸ビニル共重合体(三菱化学社製、商品名:EVA−A543)
・エチレン/メタクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製、商品名:ニュクレル−N0903HC)
【0165】
実施例1〜2、比較例1〜4:樹脂組成物の製造と物性評価(1)
(1)混練および物性評価
表2に示した配合組成により、ポリオレフィン樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(B)及び相溶化剤を配合し、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名:IRGANOX 1076)0.5重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名:Irgafos 168)0.5重量部と共にドライブレンドした後、ブラベンダー(東洋精機社製30C150)を用いて、ミキサー回転速度150rpm、ミキサー温度220(Cの条件で5分間溶融混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を用いて、上述の方法により試験片を作成後、各種物性を評価した。評価結果を表2に示す。なお、下記表中、「PE」はポリエチレンを、「PC」はポリカーボネートを意味する。
【0166】
(2)分散形態
成形品の一部を切り取り、日立走査電子顕微鏡S−4500(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い倍率500倍および1000倍又は日立透過電子顕微鏡H−9000UHR(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い倍率1000倍で分散相の分散形態を観察した。分散形態写真を図1〜3に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
実施例3〜4、比較例5:樹脂組成物の製造と物性評価(2)
(1)混練および物性評価
表3に示した配合組成により、ポリオレフィン樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(B)及び相溶化剤(C)を配合した。まず、ポリカーボネート樹脂(B)と相溶化剤(C)を、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名:IRGANOX 1076)0.5重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名:Irgafos 168)0.5重量部と共にドライブレンドした後、微量型高せん断成形加工機(井元製作所社製、HSE3000mini)に導入し、ミキサー回転速度1200rpm、ミキサー温度280℃の条件で2分間溶融混練した。引き続き、ポリオレフィン樹脂(A)を導入して2分間溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、上述の方法により試験片を作成後、各種物性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0169】
(2)分散形態
成形品の一部を切り取り、日立透過電子顕微鏡H−9000UHR(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い倍率1000倍で分散相の分散形態を観察した。分散形態写真を図4に示す。
【0170】
【表3】

【0171】
実施例5:樹脂組成物の製造と物性評価(3)
成形に用いた樹脂ペレットは二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30α)にて、L/D=52.5、シリンダー径=32mm、シリンダー温度=280℃とし、スクリュー回転数200rpmで、各配合成分〔(A)成分[PE(F310)]/(B)成分[PC(S2000)]/(C)成分(共重合体5)/添加剤(Royal Black 904)=5/93/1/1〕を溶融混練した。
【0172】
各配合成分のうちポリエチレン樹脂〔(A)成分:PE(F310〕以外をブレンドして第一の投入口から投入し、混練部位を通過させた後、第二の投入口より、ポリエチレン樹脂を添加して、混練後、ストランドとして押し出した。この時のダイスにおける樹脂圧10〜15MPa、吐出量30kg/hとして押し出した。押出されたストランドは冷却ベルトコンベアを用いて、冷却水をかけることで冷却し、3〜6mmの長さにカッティングしてペレット化することで樹脂ペレットを得た。
得られた樹脂組成物の物性を上述の方法で評価した結果、外観は「○」、マトリクスの成分は「PC(ポリカーボネート)」であった。
【0173】
上記実施例1〜5に示すとおり、ノルボルネン骨格を有する相溶化剤(共重合体1〜5)を使用することにより、これらの相溶化剤を使用しなかった比較例1と5、他の相溶化剤を使用した比較例2〜4と較べて、ポリエチレン樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶性が大幅に改良(分散微細化)され、ポリエチレン樹脂とポリカーボネート樹脂の有する特性を兼ね備えた、機械的強度と耐薬品性が良好で、しかも外観の優れた樹脂組成物が得られた。
【0174】
以上のように、本発明の相溶化剤を使用することにより、例えば、ポリオレフィン樹脂の優れた耐有機溶剤性とポリカーボネート樹脂の優れた機械的特性とを兼ね備え、しかも成形品の外観が優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。これにより、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして、優れた機械的強度を有するポリカーボネート樹脂と耐溶剤性に優れたポリオレフィン樹脂とを混合した組成物で、分散相をなすいずれか一方の樹脂が数ミクロン程度の微細な分散を示し、従来の混合方法では、到達しえなかった物性を有する組成物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の相溶化剤は、ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂を、安定なドメイン分散構造をとるように相溶化させ、機械的強度、耐有機溶剤性および外観に優れた樹脂組成物、該組成物よりなる成形品を与えることができる。本発明の相溶化剤、ポリオレフィン樹脂および極性基をもつ熱可塑性樹脂を含有する本発明の樹脂組成物やその成形体は、機械的強度、耐有機溶剤性、外観に優れており、自動車部品、家電部品、包装用資材、建築用資材、農業用資材、土木用資材、繊維、濾過材、漁業用資材、衛生・医療材料その他工業用資材等の各種の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィンモノマーと下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは重縮合系樹脂の連結基とエステル交換反応またはアミド交換反応し得る官能基を示し、nは0〜10の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、oは1〜4の整数を示す。)
で表される化合物との共重合体からなることを特徴とする熱可塑性樹脂用相溶化剤。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂と極性基をもつ熱可塑性樹脂とを相溶させる、請求項1に記載の相溶化剤。
【請求項3】
極性基をもつ熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂である、請求項2に記載の相溶化剤。
【請求項4】
共重合体が、α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物のランダム共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)が500〜1,000,000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の相溶化剤。
【請求項5】
共重合体が、α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物のランダム共重合体と、α−オレフィンモノマーの単独重合体とのブロック共重合体であり、その重量平均分子量(Mw)が500〜1,000,000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の相溶化剤。
【請求項6】
α−オレフィンモノマーと一般式(1)で表される化合物との共重合体が、一般式(1)で表される化合物を含む反応系に、α−オレフィンモノマーを連続供給しながら重合して得られたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の相溶化剤。
【請求項7】
共重合体中の一般式(1)で表される化合物に由来する構成単位の割合が、0.01〜10モル%の範囲内である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の相溶化剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の相溶化剤と、ポリオレフィン樹脂(A)と、極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)の少なくとも3成分に由来する単位を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項9】
極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)が、ポリカーボネート樹脂である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
相溶化剤に由来する単位の割合が、ポリオレフィン樹脂(A)と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)に由来する単位の合計量に対して、0.01〜30重量部の範囲内である、請求項8又は9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ポリオレフィン樹脂(A)に由来する構成単位と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)に由来す構成単位の割合が、重量比(A)/(B)として、1/99〜99/1の範囲内である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
3成分を溶融混練して得られたものである、請求項8〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
相溶化剤と極性基をもつ熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練した後に、残りの成分を溶融混練して得られたものである、請求項8〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1433(P2011−1433A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144672(P2009−144672)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】