説明

熱可塑性樹脂粒子

【課題】ゴム型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、樹脂成形品の形状、表面精度等の品質を効果的に向上させることができる熱可塑性樹脂粒子を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂粒子は、ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを投入する投入工程と、ゴム型2を介してキャビティ22内における粒子状態の熱可塑性樹脂6Aに電磁波を照射し、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを加熱して溶融させる粒子加熱工程とを含む樹脂成形方法に用いる。熱可塑性樹脂粒子は、嵩密度が0.4〜0.8g/cm3であり、平均粒子径が250〜2000μmであり、安息角が48度以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム型のキャビティ内に熱可塑性樹脂を充填して樹脂成形品を得る樹脂成形方法に用いる熱可塑性樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いて所定形状の樹脂成形品を得る方法としては、一般的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形等の種々の成形方法がある。
これに対し、特に特許文献1においては、ゴム製の成形型を用いて、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を真空注型法により成形する際に、成形型に対して熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる樹脂成形方法が開示されている。この樹脂成形方法においては、成形型のキャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する際に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射し、成形型を構成するゴムと熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム製の成形型に比べて、熱可塑性樹脂を積極的に加熱することができる。
【0003】
しかしながら、ゴム製の成形型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う際に、樹脂成形品の形状、表面精度等の品質を向上させるためには更なる工夫が必要とされる場合がある。特に、成形する樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂材料の粘度が高い場合等には、成形型のキャビティへの充填がより難しくなり、上記品質を向上させるための工夫がより必要とされることがある。
【0004】
また、例えば、特許文献2においては、金型の型面に粉末状のパウダースラッシュ材料を所望の厚さで付着溶融させ、その後、この材料を冷却させて型面に樹脂成形品を付着成形するパウダースラッシュ成形法が開示されている。しかしながら、特許文献2においては、本願の課題とする、ゴム製の成形型に対して熱可塑性樹脂を充填する場合に樹脂の充填圧力を高くできないという問題点がなく、上記品質を向上させるための工夫は何らなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−216447号公報
【特許文献2】特開2000−254930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、ゴム型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、樹脂成形品の形状、表面精度等の品質を効果的に向上させることができる熱可塑性樹脂粒子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、粒子状態の熱可塑性樹脂を投入する投入工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記粒子状態の熱可塑性樹脂に電磁波を照射し、該粒子状態の熱可塑性樹脂を加熱して溶融させる粒子加熱工程とを含む樹脂成形方法に用いる熱可塑性樹脂粒子であって、
該熱可塑性樹脂粒子は、嵩密度が0.4〜0.8g/cm3であり、平均粒子径が250〜2000μmであり、安息角が48度以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
熱可塑性樹脂粒子を用いた樹脂成形方法においては、まず、投入工程として、ゴム型のキャビティ内に、粒子状態の熱可塑性樹脂を投入する。
次いで、粒子加熱工程として、ゴム型を介してキャビティ内における粒子状態の熱可塑性樹脂に電磁波を照射する。このとき、ゴム型を構成するゴム材料と粉末状態の熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム型に比べて、粒子状態の熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型の温度上昇を抑制して、粒子状態の熱可塑性樹脂を溶融させることができる。
【0009】
それ故、本発明の熱可塑性樹脂粒子によれば、ゴム型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う場合に、樹脂成形品の形状、表面精度等の品質を効果的に向上させることができる。また、本発明による効果は、成形する樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂の粘度が高い場合等に特に顕著に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例における、樹脂成形方法における投入工程を行った状態を示す説明図。
【図2】実施例における、樹脂成形方法における粒子加熱工程及び真空工程を行う状態を示す説明図。
【図3】実施例における、樹脂成形方法における充填工程を行った状態を示す説明図。
【図4】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについての光の透過率を示すグラフ。
【図5】実施例において、粒子のサンプルについて、嵩密度(g/cm3)及び安息角(°)を測定した結果を示すグラフ。
【図6】実施例において、粒子のサンプルについて、測定した嵩密度(g/cm3)と昇温速度(℃/sec)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した本発明における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記粒子状態の熱可塑性樹脂とは、例えば、平均粒径が数百μm程度の微粒子(粉体)から、平均粒径が数mm程度の粒子まで、広く粒子状態のものをいう。
また、上記電磁波により、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる理由としては、以下のように考える。
すなわち、ゴム型の表面に照射された電磁波は、ゴム型に吸収される割合に比べて、ゴム型を透過して熱可塑性樹脂に吸収される割合が多いと考える。そのため、電磁波による光のエネルギーが熱可塑性樹脂に優先的に吸収されて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができると考える。
【0012】
上記ゴム型を介して上記熱可塑性樹脂に照射する電磁波としては、0.78〜2μmの波長の領域を含む電磁波とすることができる。
また、上記ゴム型を介して上記熱可塑性樹脂に照射する電磁波としては、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、ゴム型を介して熱可塑性樹脂に照射する電磁波又は透過電磁波は、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を、これ以外の領域の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂の加熱に、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を用いる理由は、この波長の領域の電磁波は、ゴム型を透過し易い性質を有する一方、熱可塑性樹脂に吸収され易い性質を有するためである。
【0013】
また、上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有していることが好ましい。この場合には、電磁波発生手段等の電磁波発生源として、出射する電磁波の波長に所定の分布特性を有するハロゲンヒータ、赤外線ランプ等を用いることができる。
【0014】
また、上記粒子状態の熱可塑性樹脂は、嵩密度が0.4g/cm3以上である。
これにより、粒子加熱工程において、上記電磁波によって粒子状態の熱可塑性樹脂を加熱する際に、この熱可塑性樹脂を加熱する速度が大きくなりすぎて、この熱可塑性樹脂に焦げ付き等の不具合が生じることを防止することができる。
【0015】
また、粒子状態の熱可塑性樹脂の粒径が小さいときには、嵩密度が小さくなると考えられる。そして、嵩密度が0.4g/cm3未満になるほど粒子状態の熱可塑性樹脂の粒径が小さいときには、上記焦げ付き等の不具合が生じるおそれがある。
また、粒子状態の熱可塑性樹脂は、粒径がほぼ揃ったものとすることができ、平均粒径又は粒度分級の異なる複数種類の粒子を混合したものとすることもできる。
また、粒子状態の熱可塑性樹脂は、嵩密度を大きくするために球形状に近いものを用いることが好ましい。
【0016】
粒子状態の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂のペレットを冷凍粉砕して作り出したものを用いることができる。冷凍粉砕によれば、種々の粒径の粒子状態の熱可塑性樹脂を作り出すことができる。また、粒子状態の熱可塑性樹脂としては、押出機の先端に細口径のダイスを取り付けて、いわゆる水中カット方式で作り出したものを用いることもできる。この押出水中カット方式によれば、1mm程度の粒子(粒子状態の熱可塑性樹脂)を簡単かつ安価に作り出すことができる。
【0017】
また、粒子状態の熱可塑性樹脂の嵩密度と、上記電磁波を照射したときの熱可塑性樹脂の温度上昇速度との間には、反比例する関係があると考える。そして、嵩密度が小さくなると温度上昇速度が大きくなる一方で、嵩密度が大きくなると温度上昇速度が小さくなると考える。そのため、嵩密度が0.4g/cm3未満になると、温度上昇速度が大きくなって粒子状態の熱可塑性樹脂に焦げ付き等の不具合が生じるおそれがある。具体的には、粒子状態の熱可塑性樹脂における電磁波の照射側に焦げ付きが生じる場合がある。一方、温度上昇速度が小さくなりすぎると、上記電磁波の照射時間を長くする必要が生じてゴム型に焦げ付き等の不具合が生じるおそれがある。そのため、粒子状態の熱可塑性樹脂の嵩密度は0.8g/cm3以下とすることができる。
【0018】
また、上記ゴム型に用いるシリコーンゴムの硬度は、JIS−A規格測定において25〜80であることが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂は、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)等のABS系樹脂であることが好ましい。この場合には、上記電磁波により、ゴム型をほとんど加熱することなく上記ABS系樹脂を選択的に加熱することができる。
【0019】
また、上記投入工程における上記粒子状態の熱可塑性樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましい。
ところで、結晶性熱可塑性樹脂の冷却速度が遅い場合、冷却中に結晶性が高くなることがあり、これによって、樹脂成形品の寸法精度が低下したり、樹脂成形品の耐衝撃性が低下したりすることがある。これに対し、熱可塑性樹脂を非晶性樹脂にしたことにより、上記樹脂成形品の寸法精度の低下及び耐衝撃性の低下等を防止することができる。
【0020】
非晶性樹脂としては、例えば、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)、HIPS樹脂(ハイインパクトポリスチレン樹脂、特にブタジエンを含有するもの)、変性ポリフェニレンエーテル等のゴム変性熱可塑性樹脂、又はポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート樹脂(PC)、PC/ゴム変性熱可塑性樹脂アロイ等を用いることができる。その中でも、特にゴム変性熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
また、ゴム変性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体をグラフト重合させた重合体を1種又は2種以上含むものが好ましい。
上記ゴム質重合体としては、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム等が挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリルゴムを用いることが好ましい。
【0022】
また、上記投入工程における上記粒子状態の熱可塑性樹脂は、ゴム強化スチレン系樹脂であることが好ましい。
この場合には、樹脂成形品の形状、表面精度等の品質を向上させることができる効果をより顕著に得ることができる。また、上記ゴム強化スチレン系樹脂としては、例えば、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂等のABS系樹脂とすることができる。
【実施例】
【0023】
(実施例)
以下に、本発明の樹脂成形方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の樹脂成形方法は、図1に示すごとく、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを投入する投入工程と、図2に示すごとく、ゴム型2を介してキャビティ22内における粒子状態の熱可塑性樹脂6Aに、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、この粒子状態(パウダー状)の熱可塑性樹脂6を加熱して溶融させる粒子加熱工程と、図2、図3に示すごとく、キャビティ22において残された空間220に、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを充填する充填工程と、キャビティ22内の熱可塑性樹脂6を冷却して樹脂成形品61を得る冷却工程とを含む方法である。
【0024】
以下に、本例の樹脂成形方法につき、図1〜図6を参照して詳説する。
本例においては、熱可塑性樹脂6として、非晶性樹脂であると共にゴム強化スチレン系樹脂であるABS樹脂を用いる。
また、本例のゴム型2は、透明又は半透明のシリコーンゴムからなる。このゴム型2は、成形する樹脂成形品61のマスターモデル(手作りの現物等)を液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させ、硬化後のシリコーンゴムを切り開いて、このシリコーンゴムからマスターモデルを取り出すことによって作製することができる。
また、図1に示すごとく、本例のゴム型2は、1つの分割面20を形成して2つの分割型部21を組み合わせて形成した。これに対し、ゴム型2は、成形する樹脂成形品61の形状が複雑な場合は、3つ以上の分割型部21を組み合わせて形成することもできる。
【0025】
本例の樹脂成形方法においては、成形装置1を用いて、ゴム型2への熱可塑性樹脂6の射出成形を行う。図1〜図3に示すごとく、成形装置1は、以下の圧力容器3、真空ポンプ31、注入シリンダー52、射出シリンダー53、型締め手段51、電磁波発生手段4、フィルター43を有している。
圧力容器3は、ゴム型2を収容するよう構成してあり、この圧力容器3に接続した真空ポンプ31によって真空状態を形成するよう構成してある。注入シリンダー52は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを注入するよう構成してある。射出シリンダー53は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを所定の圧力で射出するよう構成してある。本例においては、射出シリンダー53からゴム型2内へ射出する溶融状態の熱可塑性樹脂6Bの圧力は、0.5〜5MPaとする。
【0026】
型締め手段51は、ゴム型2の分割面20が開かないよう分割型部21同士の型締めを行うよう構成してある。型締め手段51は、一対の型締め用プレート51の間にゴム型2を配置し、加圧シリンダー等の加圧手段によって、一対の型締め用プレート51を介してゴム型2を加圧する構成とすることができる。なお、型締め用プレート51は、電磁波発生手段4による電磁波(特に近赤外線領域の電磁波)を透過させるために、透明又は半透明のガラス等から構成することができる。
【0027】
電磁波発生手段4は、電磁波(光)の発生源41と、この発生源41による電磁波をゴム型2の方向へ導くリフレクタ(反射板)42とを有している。本例の電磁波発生手段4としては、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いる。この近赤外線ハロゲンヒータは、0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波を出射するよう構成されている。本例のフィルター43は、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させる石英ガラスである。
なお、図2、図3において、電磁波発生手段4から出射する電磁波を矢印Xで示す。
【0028】
また、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波(光)に対する吸光度(特定の波長の光に対する吸収強度を示す尺度)は、熱可塑性樹脂6として用いるABS樹脂の方が、ゴム製のゴム型2として用いるシリコーンゴムよりも大きくなっている。なお、吸光度は、例えば、島津製作所製UV3100を用いて測定することができる。
【0029】
図4は、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについて、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、各シリコーンゴムにおける光の透過率を示すグラフである。同図において、各シリコーンゴムは、200〜2200(nm)の間の波長の光を透過させることがわかる。そのため、この波長の領域である近赤外線(0.78〜2μmの波長領域の光)をシリコーンゴム製のゴム型2の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、ゴム型2を透過させて熱可塑性樹脂6に吸収させることができる。そして、ゴム型2に比べて熱可塑性樹脂6を選択的に加熱できることがわかる。
【0030】
次に、上記成形装置1を用いて樹脂成形方法を行う順序につき説明する。
本例の樹脂成形方法においては、ゴム型2に熱可塑性樹脂6を充填して樹脂成形品61を成形するに当たり、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとを用いる。本例においては、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとには、同じ組成を有するABS樹脂を用いる。
【0031】
樹脂成形品61を成形するに当たっては、まず、図1に示すごとく、投入工程として、注入シリンダー52を成形型の注入部23にセットし、ゴム型2のキャビティ22のほぼ全体に、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを投入する。なお、この粒子状態の熱可塑性樹脂6Aは、その自重によって充填する以外にも、振動又は気流を加えて充填することもできる。次いで、図2に示すごとく、真空工程として、真空ポンプ31によって圧力容器3内の真空引きを行い、ゴム型2のキャビティ22において残された空間220を真空状態にする。
【0032】
次いで、同図に示すごとく、粒子加熱工程として、電磁波発生手段4から出射させた0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波をフィルター43を透過させ、フィルター43を透過させた後の透過電磁波を、ゴム型2を介してキャビティ22内における熱可塑性樹脂6に照射する。このとき、ゴム型2を構成するゴム材料と粉末状態の熱可塑性樹脂6との物性の違いにより、ゴム型2に比べて、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂6の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型2の温度上昇を抑制して、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを溶融させることができる。そして、キャビティ22内には、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aが溶融することによって、新たに熱可塑性樹脂6を充填するための空間220が形成される。
【0033】
次いで、図3に示すごとく、充填工程として、射出シリンダー53を成形型の注入部23にセットし、キャビティ22において残された空間220に、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを0.5〜5MPaの射出圧力で充填する。また、本例の充填工程においては、ゴム型2を介する熱可塑性樹脂6への上記透過電磁波の照射を継続し、キャビティ22内の熱可塑性樹脂6を加熱する。
上記溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを充填するとき、ゴム型2のキャビティ22内の鉛直方向下側に位置する部分には、上記粒子状態の熱可塑性樹脂6Aを溶融させた熱可塑性樹脂6が充填されており、新たに充填する溶融状態の熱可塑性樹脂6Bの充填量を少なくすることができる。
【0034】
これにより、充填圧力(射出圧力)をあまり高くすることなくキャビティ22の全体へ熱可塑性樹脂6を充填することができ、ゴム型2の変形及び開きを効果的に抑制することができる。そのため、ゴム型2における分割面(パーティング面)20からの樹脂漏れを防止することができ、冷却工程によって樹脂成形品61を得たときには、この樹脂成形品61の形状、表面精度等の品質を効果的に向上させることができる。
また、粒子状態の熱可塑性樹脂6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとには、同じ組成の熱可塑性樹脂6を用いているため、成形後の樹脂成形品61において樹脂の境界面が形成されることを防止することができる。
【0035】
それ故、本例の樹脂成形方法によれば、ゴム型2を用いて熱可塑性樹脂6の成形を行う場合に、樹脂成形品61の形状、表面精度等の品質を効果的に向上させることができる。また、本例による効果は、成形する樹脂成形品61が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂6の粘度が高い場合等に特に顕著に発揮することができる。
【0036】
(確認試験)
本確認試験においては、複数種類の粒径の粒子状態の熱可塑性樹脂6A(以下、粒子という。)を用い、この粒径の違いにより、電磁波発生手段4(近赤外線ハロゲンヒータ)によって加熱した際の昇温速度の違いを測定した。本確認試験において用いる粒子は、数種類の篩いによって分けたものとし、サンプルAは、目開き710μmの篩いの上に残ったもの、サンプルBは、目開き710μmの篩いを通過して目開き250μmの篩いの上に残ったもの、サンプルCは、目開き250μmの篩いを通過したもの、サンプルDは、体積平均粒径が55μmのものとした。また、サンプルEは、サンプルAとサンプルCとを等量(1:1)の割合で混合したもの、サンプルFは、サンプルAとサンプルDとを等量(1:1)の割合で混合したものとした。
【0037】
昇温速度の測定においては、シリコーンゴムの台の上にOリングを載置し、このOリング内に粒子を充填すると共に、Oリングの上にフィルターとしての石英ガラスを配置した。そして、近赤外線ハロゲンヒータ(電圧:80V)からフィルターを介して粒子に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、熱電対によって粒子の温度を測定した。なお、電磁波の照射は、各サンプルA〜Fの温度が250℃になるまで行い、近赤外線ハロゲンヒータとフィルターとの距離は200mmとし、石英ガラスの厚みは5mmとし、Oリングは内径が30.4mmのものを用いた。
【0038】
【表1】

【0039】
表1には、各サンプルA〜Fについて、嵩密度(g/cm3)、安息角(°)、昇温速度(℃/sec)、質量(g)の測定を行った結果を示す。そして、図5は、各サンプルA〜Fについて、嵩密度及び安息角をグラフにして示し、図6は、各サンプルA〜Fについて、嵩密度と昇温速度との関係を示す。なお、図5において、棒グラフは、嵩密度Gを示し、折れ線グラフは、安息角Hを示す。
図5においては、サンプルの粒径が小さくなるほど嵩密度が小さくなることがわかる。一方、安息角については、一概には言えないがサンプルの粒径が小さいほど安息角は大きくなる傾向があると考えられる。
【0040】
図6においては、サンプルの粒径(嵩密度)が小さくなるほど昇温速度が大きくなることがわかる。そして、粒子の粒径が小さいサンプルC、Dについては、昇温速度が速くなり過ぎ、粒子における電磁波の照射側とその反対側との温度差が大きくなり、この粒子に焦げ付きの不具合が発生した。この結果より、粒子(粒子状態の熱可塑性樹脂6A)の嵩密度は、0.4g/cm3以上とすることが好ましいことがわかった。
これに対し、粒子の粒径が大きくなって嵩密度が大きくなると、昇温速度が低下するため、粒子を加熱するための電磁波の照射時間を長くする必要が生じ、ゴム型2に焦げ付き等の不具合が生ずるおそれがある。この理由より、粒子(粒子状態の熱可塑性樹脂6A)の嵩密度は0.8g/cm3以下とすることができ、より好ましくは0.7g/cm3以下とすることができる。
【0041】
また、粒子の粒径は、サンプルA、Bの昇温速度が良好であることから、250μmよりも大きくすることが好ましいことがわかった。また、サンプルE、Fの昇温速度も良好であるため、粒径が250μmよりも大きい粒子と、粒径が250μm以下の粒子とを混合させた粒子を用いることもできることがわかった。
そして、粒子の平均粒径は、例えば、300〜2000μmとすることができ、より好ましくは、350〜1500μmとすることができる。また、粒子の安息角は、48°以下とすることができ、より好ましくは46°以下とすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 成形装置
2 ゴム型
22 キャビティ
220 空間
3 圧力容器
31 真空ポンプ
4 電磁波発生手段
43 フィルター
51 型締め手段
52 注入シリンダー
53 射出シリンダー
6 熱可塑性樹脂
61 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、粒子状態の熱可塑性樹脂を投入する投入工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記粒子状態の熱可塑性樹脂に電磁波を照射し、該粒子状態の熱可塑性樹脂を加熱して溶融させる粒子加熱工程とを含む樹脂成形方法に用いる熱可塑性樹脂粒子であって、
該熱可塑性樹脂粒子は、嵩密度が0.4〜0.8g/cm3であり、平均粒子径が250〜2000μmであり、安息角が48度以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207232(P2011−207232A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159903(P2011−159903)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【分割の表示】特願2008−91688(P2008−91688)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(594014638)日本レックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】