説明

熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品

【課題】耐候性、耐熱性に加え、かつ、加熱成形時の金型汚染性に優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品を提供する
【解決手段】(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)からなる樹脂組成物100重量部に対して、融点が100℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を0.5〜15重量部含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
【化1】


(上式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収能を有し、かつ、成形時の金型汚染性に優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下PMMAと称する)やポリカーボネート(以下PCと称する)といった非晶性製樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品をはじめとする広範囲な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に、光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレー用シート、またはフィルム、導光板などの、より高性能な光学材料に幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性、成形加工性および耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また、現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドライトといった自動車等の灯具部材としても使用される。近年、車内空間を大きくするためやガソリンの燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源間隔を小さくすること、あるいは、部材の薄肉化が図られ傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性および耐油性も要求される。
【0005】
一方、これらの透明樹脂は、各種光学用途フィルムや、波板を初めとするシート用途、各種機器の窓部材などにも使用されているが、特に、屋外で使用される際の耐候性改良や、紫外線吸収層を形成する目的に使用されたりすることから紫外線吸収能についても要求が高くなってきている。
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0007】
これらの問題点を解決する方法として、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を、環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体が、開示されている。(例えば特許文献1〜5)一方、紫外線吸収能を添加する方法としては、非特許文献1に示すように、紫外線吸収剤を配合することで付与することが一般的であるが、樹脂の種類と紫外線吸収剤の種類の組み合わせによっては、透明性や機械物性に大きく影響を与えることがある上に、加熱成形する際に紫外線吸収剤がブリードアウトしてきて、金型を著しく汚染する問題があった。
【特許文献1】特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開平01−103612公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】特開昭58−217501号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献4】特開2002−284816号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献5】特開2002−60424号公報(第1−2頁、実施例)
【非特許文献1】経営開発センター出版部著 高分子劣化・崩壊のトラブル対策と最新の改質・安定化技術総合資料集(P863) 経営開発センター出版部、昭和56年5月31日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、耐候性、耐熱性に加え、かつ、加熱成形時の金型汚染性に優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的の達成について鋭意検討した結果、無水グルタル酸単位、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する熱可塑性共重合体に対して、特定の紫外線吸収剤を添加することにより、耐候性、耐熱性に加え、かつ、成形時の金型汚染性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明に想到した。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
1. (i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)100重量部に対して、融点が100℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を0.5〜15重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
2.前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)が、次の一般式(2)または一般式(3)で示される構造を有する化合物である1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
【化2】

【0014】
(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかであり、Xは炭素数1〜5のアルキレン基のいずれかを示す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかであり、Yはハロゲン原子を示す。)
3.熱可塑性共重合体(A)が上記(i)、(ii)、(iii)の単位にさらに、(iv)その他のビニル系単量体を10重量%以下含有する共重合体である1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.さらにゴム質含有共重合体(C)を配合してなる1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.熱可塑性共重合体(A)とゴム質含有共重合体(C)の合計を100重量%として、ゴム質含有共重合体(C)を1〜50重量%配合してなる4記載の熱可塑性樹脂組成物。
6.前記ゴム質含有重合体(C)が、内部に少なくとも1層以上のゴム層を有する多層構造重合体であることを特徴とする4または5記載の熱可塑性樹脂組成物。
7.多層構造重合体の最外層を構成する重合体が前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位を含有する6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
8.多層構造重合体のゴム層を構成する重合体がアクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有する6または7記載の熱可塑性樹脂組成物。
9.(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む共重合体(a)を加熱処理し、(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造し、その後前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を添加し溶融混練する1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
10.(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む共重合体(a)を加熱処理し、(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造し、熱可塑性共重合体(A)とゴム質含有共重合体(C)を溶融混練し、その後前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を添加し溶融混練する4〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
11.ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を常圧で溶融混練する9または10記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
12.溶融混練を二軸押出機で行う9〜11のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
13.溶融混練する際のスクリュー回転数が100〜400rpmである9〜12のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
14.溶融混練する際の樹脂温度が230〜310℃である9〜13のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
15.1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐候性、耐熱性に加え、かつ、成形時の金型汚染性に優れたており、その熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、OA機器、家電製品および一般雑貨等の種々の用途に好適な耐候性に優れた成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品について、具体的に説明する。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性共重合体(A)と融点が100℃以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を配合してなるものである。
【0020】
本発明の熱可塑性共重合体(A)は、(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位を5〜50重量%含有することが必要である。好ましくは、5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
【0021】
5重量%未満だと耐熱性に劣るだけではなく、耐溶剤性や光学特性に劣る。50重量%を越えると靱性や成形性に劣る。
【0022】
上記熱可塑性共重合体(A)は、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%含有することが必要である。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)としては下記一般式(4)で示される構造を有するものが好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す。)
【0025】
(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の含有量は50〜95重量%が必要である。好ましくは55〜95重量%、より好ましくは60〜90重量%である。
【0026】
上記熱可塑性共重合体(A)は、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含むことが必要である。不飽和カルボン酸単位(iii)としては下記一般式(5)で示される構造を有するものが好ましい。
【0027】
【化5】

【0028】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0029】
(iii)不飽和カルボン酸単位の含有量は0〜10重量%が必要である。好ましくは0〜8重量%、より好ましくは0〜6重量%である。10重量%をこえると、多湿環境での寸法変化特性が著しく劣る。
【0030】
本発明の熱可塑性共重合体(A)における各成分単位の定量には、一般的に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物含有単位は1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法ではスペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、グルタル酸無水物含有単位、メタクリル酸単位、およびメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークはメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmののピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸(−COOH)の水素である。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有している共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香環の水素がみられ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0031】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)は、上記(i)、(ii)および(iii)の単位に加え、(iv)その他のビニル単量体単位を含有することができる。ここで、(iv)その他のビニル単量体単位とは、上記(i)〜(iii)のいずれにも属さない共重合可能なビニル単量体単位である。
【0032】
(iv)その他のビニル単量体単位の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中、10重量%以下であることが好ましい。また、(iv)その他のビニル単量体単位としては芳香環を含まない方が好ましい
スチレンなどの芳香族ビニル単量体単位の場合、含有量が高いと、無色透明性、光学等方性、耐溶剤性が低下する傾向があるので、含有量は5重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以下である。
【0033】
また、熱可塑性共重合体(A)は、重量平均分子量が3〜18万であることが好ましく、より好ましくは5〜15万、特に好ましくは6〜13万である。重量平均分子量が、この範囲にあることにより、後工程の加熱脱揮時の着色を低減でき、黄色度の小さい重合体を得ることができると共に、成形品の機械的物性も強くすることができる。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパー未エーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0034】
本発明で用いる熱可塑性共重合体(A)はガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが、耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度は、115℃以上がより好ましく、120℃以上が特に好ましい。また、上限として、通常170℃である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(島津製作所社製DSC−60)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0035】
このような本発明の上記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物含有単位を含有する熱可塑性共重合体(A)は、基本的に以下に示す方法によって製造することができる。すなわち、後の加熱工程により上記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物含有単位(i)を与える不飽和カルボン酸単位および不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を共重合させ、共重合体(a)を得る。その際、前記その他のビニル単量体単位(iv)を含む場合には該単位を与えるビニル単量体を共重合させても良い。得られた共重合体(a)を適当な触媒の存在下もしくは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより、熱可塑性共重合体(A)を製造することができる。この場合、典型的には、共重合体(a)を加熱することにより、隣接する2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基間の脱水反応により、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)の間の脱アルコール反応により、1単位の前記(i)グルタル酸無水物含有単位が生成される。
【0036】
この際に用いられる不飽和カルボン酸単量体としては、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体としては、下記一般式(6)で表される化合物、
【0037】
【化6】

【0038】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを示す。)
マレイン酸、および無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。
【0039】
特に熱安定性が優れる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上を用いることができる。なお、上記一般式(6)で示される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(4)で示される不飽和カルボン酸単位(iii)を与える。
【0040】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい例として、下記一般式(7)で表されるものを挙げることができる。
【0041】
【化7】

【0042】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す。)
【0043】
これらのうち、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(7)の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(4)に示す、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を形成する。
【0044】
不飽和カルボン酸アルキルエステルの好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0045】
また、本発明で用いる共重合体(a)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他ビニル単量体を用いてもかまわない。このその他ビニル単量体は、共重合すると、前記のその他ビニル単量体単位(iv)を与える。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルジエチルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0046】
共重合体(a)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、沈殿重合等の公知の重合方法を用いることができる。不純物がより少ない点で、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、沈殿重合が好ましい。
【0047】
重合温度については、色調の観点から、160℃以下の重合温度で重合することが好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい重合温度は150℃以下であり、特に好ましくは140℃である。また、重合温度の下限値については、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、50℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。また、重合時間は筆湯女十五ウドを得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の面から60〜360分間の範囲が好ましく、120〜360分間が特に好ましい。
【0048】
本発明においては、共重合体(a)の製造時に用いられるこれらの単量体混愚物の好ましい割合は、該単量体混合物全体を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体が10〜50重量%、より好ましくは13〜45重量%、、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は50〜90重量%、より好ましくは55〜87重量%である。これらに共重合可能な他のビニル系単粒対を用いる場合は、その好ましい割合は0〜10重量%である。他のビニル系単量が芳香族ビニル系単量体の場合には、その好ましい割合は0〜5重量%であり、より好ましくは0〜3重量%である。
【0049】
不飽和カルボン酸単量体の含有量が10重量%未満の場合には、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位(i)の生成量が少なくなり、熱可塑性共重合体(A)の耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体の含有量が50重量%を越える場合、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に不飽和カルボン酸単位(iii)が多量に残存する傾向にあり、熱可塑性共重合体(A)の滞留安定性が低下する傾向がある。
【0050】
また、前記のように、本発明の熱可塑性共重合体(A)は、重量平均分子量が3〜18万であることが好ましい。このような分子量を有する熱可塑性共重合体(A)は、共重合体(a)の製造時に、共重合体(a)の重量平均分子量を3〜18万に予め制御しておくことで、達成することができる。
【0051】
共重合体(a)の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリメチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取扱の容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用できる。
【0052】
本発明における共重合体(a)を加熱し、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応を行い、グルタル酸無水物含有単位を含有する熱可塑性共重合体(A)を製造する方法は、特に制限はないが、共重合体(a)をベントを有する加熱した加熱容器を通す方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮する方法が好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向にあるため、系内を窒素等の不活性ガスで十分に置換することが好ましい。特に好ましい装置としては、例えば、ユニメルトタイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、単軸・二軸複合型連続混練押出機、三軸押出機、連続型またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを使用することができる。
【0053】
なお、上記方法により加熱環化する温度は、脱水および/もしくは脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜320℃の範囲、特に好ましくは200〜310℃の範囲である。また、この際の加熱環化する時間は、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1〜180分が好ましく、より好ましくは2〜120分、とりわけ好ましくは3〜90分である。
【0054】
さらに本発明では、共重合体(a)を上記方法により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加しても良い。その添加量は、共重合体(a)100重量部に対して0.001〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルスルホン酸、リン酸メチル等が上げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。ただし、熱可塑性重合体の透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド類、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ゴム質含有共重合体(C)を添加することもできる。
【0056】
ゴム質含有共重合体(C)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、内部に1層以上のゴム質重合体を含む層を有する構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体等が好ましく使用できるが、特に、多層構造共重合体が透明性の点で優れており、好ましい。
【0057】
本発明に使用される多層構造重合体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であっても良いが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有する多層構造重合体であることが好ましい。
【0058】
本発明の多層構造重合体において、ゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル系単量体、シリコーン系単量体、ニトリル系単量体、共役ジエン系単量体、ウレタン結合を生成する単量体、エチレン系単量体、プロピレン系単量体、イソブテン系単量体などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチルなどのアクリル系単位、ジメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル単位およびブタジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましい。例えば、(1)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位とジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位から構成されるゴム、(2)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位とスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴム、(3)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位とブタジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴム、および(4)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴムなどが挙げられる。このうち、アクリル酸アルキルエステルと置換もしくは無置換のスチレン単位を含有するゴムが、透明性および機械特性の面から、特に好ましい。また、これら成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
【0059】
本発明の多層構造重合体において、ゴム層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他ビニル単位などから選ばれる1種以上の単位を含有する重合体が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含有する重合体が好ましく、それに加えて、不飽和グリシジル基含有単量体、不飽和カルボン酸単位および不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれる1種以上の単位を含有する重合体が好ましい。
【0060】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0061】
上記不飽和カルボン酸系単量体としては特に制限が無く、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、およびさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上が用いられる。
【0062】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体は、特に限定されるものではなく、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0063】
上記不飽和ジカルボン酸無水物単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸等が挙げられ、耐衝撃性を向上させる効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましい。これらはその1種または2種以上が用いられる。
【0064】
また、上記脂肪族ビニル単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを用いることができる。上記芳香族ビニル単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを用いることができる。上記シアン化ビニル単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを用いることができる。上記マレイミド単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどが挙げられる。上記不飽和ジカルボン酸単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などが挙げられる。上記その他のビニル単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクリロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを用いることができる。これらはその1種または2種以上が用いられる。
【0065】
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体において、最外層(シェル層)の種類は、上述の通り不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位およびその他のビニル単位などの1種類以上の単位を含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和カルボン酸無水物単位などを含有する重合体などから選ばれた1種が好ましい。
【0066】
本発明においては、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む熱可塑性共重合体との溶融混練に供するゴム質含有共重合体(C)として、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を最外層とする多層構造共重合体を用いることが最も好ましい。
【0067】
最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不和カルボン酸単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明の熱可塑性共重合体(A)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位が生成する。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する多層構造重合体を(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む熱可塑性共重合体に配合して溶融混練する際の加熱により、最外層に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が得られる。これにより、連続相(マトリックス相)となる(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む熱可塑性共重合体中に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が良好に分散することが可能となり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性等の機械特性向上と共に、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0068】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらにはアクリル酸メチルもしくはメタクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0069】
また、不飽和カルボン酸単位の原料となる単量体としては、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含有せしめる多層構造重合体の好ましい例としてはコア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体であり、最外層が最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸からなる共重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル共重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がブタジエン/スチレン共重合体であり、最外層が最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられ。ここで“/”は共重合を示す。さらには、ゴム層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジルを含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸からなる共重合体であるものが、マトリックス相との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0071】
本発明の多層構造重合体の平均粒径については、0.01μm以上、1000μm以下であることが好ましい。平均粒径は0.02μm以上、100μm以下がより好ましく、0.05μm以上、10μm以下がさらに好ましく、0.05μm以上、1μm以下が最も好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する傾向を生じ、上記の範囲を超えると透明性が低下する場合がある。なお、多層構造重合体の平均粒子径は、小角光散乱測定によるギニエプロットあるいは透過型電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0072】
本発明の多層構造重合体において、コアとシェルの重量比は、多層構造重合体に対して、コア層が50〜90重量%であることが好ましく、さらに、60〜80重量%であることがより好ましい。
【0073】
本発明の多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また、公知の方法により作製して用いることもできる。
【0074】
多層構造重合体の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン(登録商標)”、鐘淵化学社製“カネエース(登録商標)”、呉羽化学工業社製“パラロイド(登録商標)”、ロームアンドハース社製“アクリロイド(登録商標)”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド(登録商標)”およびクラレ社製“パラペット(登録商法)SA”等が挙げられ、これらは、単独ないしは2種以上を用いることができる。
【0075】
また、本発明のゴム質含有共重合体(C)として使用されるゴム質含有グラフト共重合体の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(その具体例は前述と同様である。)、不飽和カルボン酸単量体(その具体例は前述と同様である。)、芳香族ビニル単量体(その具体例は前述と同様である。)、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体(その具体例は前述と同様である。)の1種以上から選択される単量体(混合物)を(共)重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0076】
グラフト共重合体に用いられるゴム質重合体としては、ジエンゴム、アクリルゴムおよびエチレンゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレンアクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0077】
本発明におけるグラフト共重合体を構成するゴム質重合体の重量平均粒子径は、0.1〜0.5μm、特に0.15〜0.4μmの範囲が好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を超えると透明性が低下する場合がある。なお、ゴム質中具体の重量平均粒子径は「Rubber Age. Vol. 88. p.484−490(1960). by E. Schmidt、 P. H. Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0078】
本発明におけるグラフト共重合体は、ゴム質重合体10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%の存在下に、上記単量体(混合物)20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記未満、または上記の範囲を超える場合には得られた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と表面外観が低下する場合がある。
【0079】
なお、グラフト共重合体は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成する、グラフトしていない共重合体を含んでも良い。衝撃強度の観点から、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の重量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度は、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましい。
本発明におけるグラフト共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0080】
本発明におけるグラフト共重合体の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの公知の重合法により得ることができる。
【0081】
また、マトリックス相である(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む熱可塑性共重合体とゴム質含有共重合体(C)のそれぞれの屈折率が近似している場合、透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができるため、好ましい。具体的には、両者の屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすにはマトリックス相の各単量体単位組成を調整する方法、および/またはゴム質含有共重合体(C)のゴム質重合体あるいは単量体の組成を調整する方法などが挙げられる。
【0082】
なお、ここでいう屈折率差とは、以下に示す方法で測定した値である。マトリックス相が可溶な溶媒に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を適当な条件で溶解させ、白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離する。この可溶部分(マトリックス相を含む)と不溶部分(ゴム質含有共重合体(C)を含む)をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を屈折率差と定義する。
【0083】
また、樹脂組成物中でのマトリックス相とゴム質含有共重合体(C)の共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作の後に、各成分を個別に分析する。
【0084】
本発明において、ゴム質含有共重合体(C)は、熱可塑性共重合体(A)とゴム質含有共重合体(C)の合計を100重量%として、1〜50重量%含有することが好ましく、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。
【0085】
上記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を可根知処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体とゴム質含有共重合体(C)を溶融混練する方法としては、適度な剪断場の下で加熱溶融混合する方法を用いる。製造する熱可塑性樹脂組成物中のゴム質含有共重合体(C)粒子の凝集抑制するためには、比較的低温かつ回転数を低めにして過剰な剪断力がかからないように溶融混練することが好ましい。具体的にはニーディングゾーンにおける樹脂温度をTとすると、(マトリックス相を形成する樹脂のTg+100℃)<T<(ゴム質含有共重合体(C)の1%分解温度)の範囲に制御することが好ましく、さらには(マトリックス相を形成する樹脂のTg+120℃)<T<(ゴム質含有共重合体(C)の0.5%分解温度)の範囲に制御することがより好ましい。ここで、ゴム質含有共重合体(C)の1%分解温度とは、窒素中での示差熱重量同時測定装置(セイコー電子工業社製、TG/DTA−200)を用いて、100〜450℃の温度領域wp20℃/分の昇温速度で行った加熱試験により、加熱前の重量を100%とした際の受領減少率が1%に達した時の温度である。樹脂温度が本発明の範囲より低い場合、溶融粘度が極めて高くなり、溶融混練が事実上不可能となり好ましくない。また、樹脂温度が本発明の範囲より高い場合、ゴム質含有共重合体(C)の再凝集および着色が著しくなり、好ましくない。
【0086】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、融点が100℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を熱可塑性共重合体(A)100重量部に対して、0.5〜25重量部含有することが必要である。一般的に、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線の他に、トリアジン系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系およびアクリレート系の紫外線吸収剤が使用されるが、本発明では、紫外線吸収能と金型汚染性の観点から、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)が好ましい。
【0087】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)の種類については、融点が100℃以上であれば、特に制限はなく、一般的に市販されているものが使用できる。融点が、100℃未満だと金型汚染性がひどく、成形時に外観不具合が発生する。好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0088】
具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタミジルメチル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−((2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール))などが挙げられる。
【0089】
なかでも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)が、次の一般式(2)で示された示された構造を有する化合物や、次の一般式(3)で示された構造を有する化合物であるあることも好ましく、一般式(2)で示される構造を有する化合物の具体例としては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−((2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール))、次の一般式(3)で示された構造を有する化合物の具体例としては、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、熱可塑性共重合体(A)との相溶性に優れ、金型汚染性、透明性に優れる。
【0090】
本発明のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)の分子量については、特に制限はなく、一般的な分子量である200以上のものが使用できる。
【0091】
また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)の紫外線吸収性についても、特に制限はないが、特にプラスチック等の劣化に起因する波長であるUVA領域の紫外線を効率的に吸収するため、340nm以上に吸収を持つことが重要であり、345nm以上に吸収極大を持つことが好ましい。
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(B)に、さらに、ヒンダードアミン系光安定剤を併用することが可能である。ヒンダードアミン系光安定剤を併用することで、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)との相溶効果により、プラスチックの劣化を抑制できる。ヒンダードアミン系非仮安定剤を光安定剤を併用する場合は、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、0.5〜15重量部配合することが好ましい。
【0093】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、特に制限はなく、一般的に市販されているものが使用できる。例えば、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケイト、ビス−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケイト、ビス−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル―4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネイト、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレイト、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレイトなどが挙げられる。
【0094】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造する際、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を添加する方法や、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造した後、熱可塑性共重合体(A)100重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を溶融混練する方法が挙げられる。特に、加熱処理時に発生する水や熱履歴によるによるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の分解および揮散を防ぐために、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造した後、熱可塑性共重合体(A)100重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を溶融混練する方法が好ましい。
【0095】
熱可塑性樹脂組成物がゴム質含有共重合体(C)を含有する場合の製造方法としては、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体を製造する際、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を添加する方法や、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体を製造した後、ゴム質含有共重合体(C)を溶融混練し、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を溶融混練する方法および、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体を製造した後、ゴム質含有共重合体(C)を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を製造し、得られた熱可塑性樹脂組成物と、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を溶融混練する方法が挙げられる。特に、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(iii)不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体(a)を可根知処理装置内で加熱処理し、グルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体を製造した後、ゴム質含有共重合体(C)を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を製造し、得られた熱可塑性樹脂組成物に、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)0.5〜15重量部を溶融混練する方法が好ましい。
【0096】
上記製造方法において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を熱可塑性共重合体(A)と溶融混練する際には、常圧で溶融混練することが好ましい。減圧下で溶融混練すると、紫外線吸収剤が揮発する可能性があり、好ましくない。また、使用できる溶融混練装置としては制限はなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダー混練機等が挙げられる。好ましくは、単軸押出機および二軸押出機であり、より好ましくは二軸押出機である。
【0097】
二軸押出機を使用して溶融混練する際の、製造条件については特に制限はないが、スクリュー回転数が100〜400rpmであることが好ましい。この範囲より低い場合には熱可塑性共重合体との相溶性に劣り、この範囲より高い場合には熱可塑性共重合体が熱劣化を起こす可能性があり、好ましくない。また、樹脂温度についても特に制限はないが、230〜310℃が好ましい。樹脂温度が本発明の範囲より低い場合、溶融粘度が極めて高くなり、溶融混練が事実上不可能となり好ましくない。また、樹脂温度が本発明の範囲より高い場合、着色が著しくなり、好ましくない。
【0098】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物はには、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など、から選ばれた1種以上をさらに含有させることができる。また、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、高級アルコールのような滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤などの添加剤を任意に含有させても良い。
【0099】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形、プレス成形などが可能であり、フィルム、シート、管、ロッド、その他の希望する任意の形状と大きさを保有する成形品に成形して使用することができる。
【0100】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの製造方法には、公知の方法を使用することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、インフレーション法、T−ダイ法、流延法およびホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造方法の場合、単軸もしくは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し、溶融混練する場合、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練することが好ましい。また、流延法により本発明のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能である。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。該フィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を前記の1種以上の溶剤に溶かし、その溶液をバーコーター、T−ダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶剤を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることができる。
【0101】
かくして得られる成形品またはフィルムは、その優れた耐熱性を活かして、電気電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0102】
本発明の成形品またはフィルムは、特に、透明性および耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VYR、プロジェクションTV等の撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録または光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD(登録商標)、DVD、MD、LD、ブルーレイディスク等)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、自動車等の輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージング等、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セル等、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、証明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料等、の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0104】
参考例1:熱可塑性重合体(A−1)
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応容器に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。単量体が完全に、重合体に転化するまで反応続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液を懸濁剤として使用した。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、前記メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給して、400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物を反応系内に攪拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−1)を得た。重合率は98%であった。
メタクリル酸メチル 28重量部
メタクリル酸 72重量部
t−ドデシルメルカプタン 1.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0105】
次いで得られた共重合体(a−1)を流量調整バルブを備えた非噛合異方向回転の二軸・単軸複合型連続混練押出機であるHTM38mm(二軸部分L/D=34、単軸部分L/D=14、CTE社製)を用いて、酢酸リチウム0.2重量部を添加し、原料供給速度10kg/h、スクリュー回転数 75rpm、シリンダ設定温度280〜305℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)を得た。なお、ホッパー部より窒素を10L/分でパージしながら反応を進めた。
【0106】
得られた熱可塑性共重合体(A−1)を赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1および1780cm−1に吸収ピークが観測され、この熱可塑性共重合体(A−1)中にグルタル酸無水物単位が精製していることを確認した。ついで、H1−NMRにより定量した各共重合成分組成および各種特性評価結果を表1に示す。
【0107】
参考例2:熱可塑性重合体(A−2)
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応容器に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。単量体が完全に、重合体に転化するまで反応続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液を懸濁剤として使用した。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、前記メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給して、400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物を反応系内に攪拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−2)を得た。重合率は98%であった。
メタクリル酸メチル 15重量部
メタクリル酸 85重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0108】
次いで得られた共重合体(a−2)を流量調整バルブを備えた非噛合異方向回転の二軸・単軸複合型連続混練押出機であるHTM38mm(二軸部分L/D=34、単軸部分L/D=14、CTE社製)を用いて、酢酸リチウム0.2重量部を添加し、原料供給速度10kg/h、スクリュー回転数 75rpm、シリンダ設定温度280〜305℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を得た。なお、ホッパー部より窒素を10L/分でパージしながら反応を進めた。
【0109】
得られた熱可塑性共重合体(A−2)を赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1および1780cm−1に吸収ピークが観測され、この熱可塑性共重合体(A−2)中にグルタル酸無水物単位が精製していることを確認した。ついで、H1−NMRにより定量した各共重合成分組成および各種特性評価結果を表1に示す。
【0110】
参考例3:熱可塑性重合体(A−3)
上記参考例3で得られた共重合体(a−2)を二軸押出機(池貝社製、PCM30、30mm)を用いて、原料供給速度10kg/h、スクリュー回転数 75rpm、シリンダ設定温度280〜305℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−3)を得た。なお、ホッパー部より窒素を10L/分でパージしながら反応を進めた。
【0111】
得られた熱可塑性共重合体(A−3)を赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm−1および1780cm−1に吸収ピークが観測され、この熱可塑性共重合体(A−3)中にグルタル酸無水物単位が精製していることを確認した。ついで、H1−NMRにより定量した各共重合成分組成および各種特性評価結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
参考例4:ゴム質含有共重合体(C−1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルホコハク酸ジオクチル0.5重量部および過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌後、アクリル酸ブチル51重量部、スチレン19重量部およびメタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部を仕込んだ。これらの混合物を70℃で30分反応させ、コア層重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21重量部、メタクリル酸9重量部および過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、さらに90分保持して、シェル層を重合したこの共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して2層構造のゴム質含有共重合体(C−1)を得た。この重合体粒子の窒素中での1%分解温度は295℃であった。
【0114】
参考例5:紫外線吸収剤(B)
(B−1)ADEKA社製アデカスタブ(登録商標)LA36(2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、融点:139℃、320〜400nm間最大吸収波長:354nm)を使用した。
【0115】
(B−2)チバスペシャリティーケミカルズ社製チヌビン(登録商標)360(2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−((2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、融点:195℃、320〜400nm間最大吸収波長:348nm)を使用した。
【0116】
(B−3)シプロ化成社製シーソーブ(登録商標)704(2−(3,5−ジ−t−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、融点:80℃、320〜400nm間最大吸収波長:347nm)を使用した。
【0117】
(B−4)チバスペシャリティーケミカルズ社製チヌビン(登録商標)1577FF(2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−{(ヘキシル)オキシ}−フェノール、融点:148℃、320〜400nm間最大吸収波長:342nm)
[実施例1〜6、比較例1〜8]
表1に示した、熱可塑性共重合体(A)およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を表2の割合で配合し、2軸押出機PCM30(池貝社製)を用いて設定温度270℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0118】
得られた熱可塑性樹脂組成物は80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、次いで射出成形機(住友重機社製、”プロマット40/25”)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3に示す。
【0119】
[実施例7、8、比較例9、10]
表1に示した、熱可塑性共重合体(A)およびゴム質含有共重合体(C)を配合し、2軸押出機PCM30(池貝社製)を用いて設定温度270℃、スクリュー回転数100rpmで、200Torrの真空下で混練した後、得られたペレットを80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、得られたペレット100重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を表2に示す割合で配合し、2軸押出機PCM30(池貝社製)を用いて設定温度270℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0120】
得られた熱可塑性樹脂組成物は80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、次いで射出成形機(住友重機社製、”プロマット40/25”)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3に示す。
【0121】
[実施例9]
表1に示した、熱可塑性共重合体(A)およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を表2の割合で配合し、2軸押出機PCM30(池貝社製)を用いて設定温度270℃、スクリュー回転数100rpm、200Torrの真空下で混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0122】
得られた熱可塑性樹脂組成物は80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、次いで射出成形機(住友重機社製、”プロマット40/25”)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3に示す。
【0123】
[実施例10]
表1に示した、熱可塑性共重合体(A)、ゴム質含有共重合体(C)およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を表2の割合で配合し、2軸押出機PCM30(池貝社製)を用いて設定温度270℃、スクリュー回転数100rpm、200Torrの真空下で混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0124】
得られた熱可塑性樹脂組成物は80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、次いで射出成形機(住友重機社製、”プロマット40/25”)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3に示す。
【0125】
実施例で使用した各種物性の測定方法を以下に記載する。
【0126】
(1)透明性
本発明の熱可塑性樹脂ペレットを、80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で射出成形して、80mm×80mm×1mm厚の試験片を得た。得られた試験片のヘイズ値および全光線透過率を東洋精機社製直読ヘイズメータを使用して測定した。
【0127】
(2)流動性
本発明の熱可塑性樹脂組成物ペレットを、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1mm、ダイス長5mm)を用いて、剪断速度1216s−1における見掛けの溶融粘度を測定した。
【0128】
(3)耐熱性
本発明の熱可塑性共重合体ペレットを、80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で、127mm×12.7mm×3.2mm厚の試験片を成形した。得られた板状成形品を用いて、ASTM D648(1988年度版、3.2mm、0.46MPa荷重)に準拠して荷重たわみ温度を測定し、耐熱性を評価した。
【0129】
(4)金型汚染性
本発明の熱可塑性共重合体ペレットを、80℃に設定した熱風乾燥機で10時間乾燥した後、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で、80mm×80mm×1mm厚の試験片を成形した。連続50ショット成形後の金型の状況を確認した。
【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
実施例1〜10の結果より、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特定構造を有する熱可塑性共重合体(A)に特定の紫外線吸収剤を添加することで、金型汚染性を悪化させることなく紫外線吸収能を付与することができている。
【0133】
一方、特定紫外線吸収剤の添加量が本発明の範囲より少ない(比較例1,3)場合、紫外線吸収能が十分ではなく、多い(比較例2、4)場合、金型汚染性が著しく劣る。また、熱可塑性共重合体(A)中のグルタル酸無水物単位が本発明の範囲より少ない(比較例5、6)場合、耐熱性に劣り、紫外線吸収剤の融点が本発明の範囲より低い(比較例7、9)場合、金型汚染性が劣り、紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール系ではない(比較例8、10)場合、紫外線吸収能、金型汚染性ともに劣る結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)100重量部に対して、融点が100℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を0.5〜15重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)が、次の一般式(2)または一般式(3)で示される構造を有する化合物である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかであり、Xは炭素数1〜5のアルキレン基のいずれかを示す。)
【化3】

(上式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかであり、Yはハロゲン原子を示す。)
【請求項3】
熱可塑性共重合体(A)が上記(i)、(ii)、(iii)の単位にさらに、(iv)その他のビニル系単量体を10重量%以下含有する共重合体である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
さらにゴム質含有共重合体(C)を配合してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性共重合体(A)とゴム質含有共重合体(C)の合計を100重量%として、ゴム質含有共重合体(C)を1〜50重量%配合してなる請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ゴム質含有重合体(C)が、内部に少なくとも1層以上のゴム層を有する多層構造重合体であることを特徴とする請求項4または5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
多層構造重合体の最外層を構成する重合体が前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位を含有する請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
多層構造重合体のゴム層を構成する重合体がアクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有する請求項6または7記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む共重合体(a)を加熱処理し、(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造し、その後前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を添加し溶融混練する請求項1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む共重合体(a)を加熱処理し、(i)前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物構造単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%を含む熱可塑性共重合体(A)を製造し、熱可塑性共重合体(A)とゴム質含有共重合体(C)を溶融混練し、その後前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を添加し溶融混練する請求項4〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)を常圧で溶融混練する請求項9または10記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
溶融混練を二軸押出機で行う請求項9〜11のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
溶融混練する際のスクリュー回転数が100〜400rpmである請求項9〜12のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
溶融混練する際の樹脂温度が230〜310℃である請求項9〜13のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2009−191089(P2009−191089A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29999(P2008−29999)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】