説明

熱可塑性樹脂組成物、それを用いた積層体およびタイヤ

【課題】ポリアミド樹脂の低温耐久性(繰り返し疲労性)を改善するために、ポリアミド樹脂マトリックス中に低温耐久性に優れる変性ゴムを分散充填した熱可塑性樹脂組成物において、変性ゴムを高充填しても流動性を維持し、フィルム製膜が可能であり、かつ低温耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)0.05〜5質量部を、ポリアミド樹脂(A)の融点以上で溶融ブレンドさせて得られる変性ポリアミド樹脂(C)と、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴム(D)とからなる熱可塑性樹脂組成物である。化合物(B)は、好ましくは単官能エポキシ化合物である。この熱可塑性樹脂組成物は、タイヤ、ホース等の製造に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂と変性ゴムとからなる熱可塑性樹脂組成物に関する。特に、本発明は、ポリアミド樹脂の低温耐久性(繰り返し疲労性)を改善するために、ポリアミド樹脂マトリックス中に変性ゴムを分散させた熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明は、また、その熱可塑性樹脂組成物を用いた積層体、タイヤ、ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の熱可塑性樹脂マトリックス中に特定のゴムエラストマー成分を不連続相として分散させてなる、耐空気透過性と柔軟性とのバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物は知られている(特許文献1)。
【0003】
また、当該熱可塑性エラストマー組成物における熱可塑性樹脂成分の溶融粘度(η)とゴムエラストマー成分の溶融粘度(η)および該エラストマー成分と熱可塑性樹脂成分の溶解性パラメーターの差(ΔSP)を特定の関係式を満たすようにすることで高エラストマー成分比率を達成し、それによって一層柔軟性に富み、耐気体透過性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られること、そしてそれを気体透過防止層に使用した空気入りタイヤも知られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、熱可塑性樹脂を連続相としゴム組成物を分散相とする熱可塑性エラストマー中に、偏平状に分散してなる相構造を有するバリヤ樹脂組成物を存在させることで、耐ガス透過性が大巾に向上して、しかも柔軟性、耐油性、耐寒性および耐熱性を有するような熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献3)。
【0005】
さらに、層状珪酸塩で変性した脂肪族ポリアミド樹脂に酸無水物変性エチレン系改質ポリマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−259741号公報
【特許文献2】特開平10−25375号公報
【特許文献3】特開平10−114840号公報
【特許文献4】特開2000−160024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常のポリアミド樹脂と、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴムとをブレンドした場合、ポリアミド樹脂と酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体が反応するため、変性ゴムを高配合すると、溶融時の流動性が極端に低下し、フィルム製膜性が大幅に悪化する問題があった。
本発明は、ポリアミド樹脂の低温耐久性(繰り返し疲労性)を改善するために、ポリアミド樹脂マトリックス中に低温耐久性に優れる変性ゴムを分散充填した熱可塑性樹脂組成物において、変性ゴムを高充填しても流動性を維持し、フィルム製膜が可能であり、かつ低温耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)0.05〜5質量部を、ポリアミド樹脂(A)の融点以上で溶融ブレンドさせて得られる変性ポリアミド樹脂(C)と、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴム(D)とからなる熱可塑性樹脂組成物である。
【0009】
本発明において、ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)は、好ましくは、単官能エポキシ化合物である。
また、本発明において、ポリアミド樹脂(A)は、好ましくは、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン612、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン66612、および芳香族ナイロンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0010】
また、本発明において、変性ゴム(D)は、好ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体である。
また、本発明において、変性ゴム(D)は、好ましくは、変性ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して、50〜150質量部である。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、さらにエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含む。
変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の質量比は、好ましくは、90/10〜10/90であり、変性ゴム(D)は、好ましくは、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の合計量100質量部に対して50〜150質量部である。
【0012】
本発明は、また、前記熱可塑性樹脂組成物のフィルムを少なくとも1層、およびジエン成分を含むゴム組成物シートを少なくとも1層含むことを特徴とする積層体である。
本発明の積層体は、好ましくは、ゴム組成物シート中のポリマー成分のうち、ハロゲン化ブチルゴムが30〜100質量%である。
【0013】
本発明は、また、前記熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは前記積層体を含むタイヤである。
【0014】
本発明は、また、前記熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは前記積層体を含むホースである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリアミド樹脂にあらかじめポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物0.05〜5質量部を溶融ブレンドさせて得られる変性ポリアミド樹脂を用いることにより、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴムを高充填しても流動性を維持し、フィルム製膜が可能であり、かつ低温耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムおよび該フィルムを含む積層体は、タイヤのインナーライナーやホースなど、低温耐久性が要求される用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリアミド樹脂(C)および酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴム(D)からなる。
【0017】
本発明において使用する変性ポリアミド樹脂(C)は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)0.05〜5質量部を、ポリアミド樹脂(A)の融点以上で溶融ブレンドさせて得られるものである。
【0018】
ポリアミド樹脂(A)は、限定するものではないが、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン612、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン66612、および芳香族ナイロンが単独でまたは混合物として使用できる。なかでも、ナイロン6およびナイロン666が耐疲労性とガスバリヤ性の両立という点で好ましい。
【0019】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)としては、単官能エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、酸無水物基含有化合物、ハロゲン化アルキル基含有化合物などが挙げられるが、ポリアミド樹脂の末端アミノ基との反応性という観点で、好ましくは、単官能エポキシ化合物である。
【0020】
単官能エポキシ化合物としては、エチレンオキシド、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、5−メチル−1,2−エポキシへプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、5−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシへプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、6−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−エポキシプロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシブタン、4−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノ−ル、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−へプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−3−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−5−ノナノ−ル、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロドデカン、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデセン、1−ブトキシ−2,3−エポキシプロパン、1−アリルオキシ−2,3−エポキシプロパン、ポリエチレングリコールブチルグリシジルエーテル、2−エチルへキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリアミド樹脂の相溶性の観点から、炭素数が3〜20、好ましくは3〜13であり、エーテルおよび/または水酸基を有するエポキシ化合物が特に好ましい。
【0021】
ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)を溶融ブレンドする方法は、特に限定されないが、たとえば、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)を2軸混練機に投入し、ポリアミド樹脂(A)の融点以上、好ましくは融点より20℃以上高い温度で、たとえば240℃で溶融混練する。溶融混練する時間は、たとえば、1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0022】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)として単官能エポキシ化合物を溶融ブレンドした場合は、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基に単官能エポキシ化合物
【0023】
【化1】

【0024】
が結合し、たとえば末端アミノ基は次のように変化する。
【0025】
【化2】

【0026】
この反応により、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基は消滅または減少するので、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴム(D)を高充填しても流動性を維持し、フィルム製膜が可能になる。
【0027】
ポリアミド樹脂(A)の変性に用いるポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)の量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05〜5質量部であり、好ましくは1〜3質量部である。ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)の量が少なすぎると、変性ゴム(D)を高充填した際の流動性改善効果が小さいため好ましくない。逆に、多すぎると、ポリアミド樹脂の低温耐久性(繰り返し疲労性)を悪化させるので好ましくない。
【0028】
本発明に用いる変性ゴム(D)は、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する。ポリアミド樹脂との相溶性という観点から、特に好ましくは、変性ゴム(D)は酸無水物基を有する。
【0029】
変性ゴム(D)を構成するゴムとしては、エチレン−α−オレフィン共重合体、またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体などが挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
【0030】
酸無水物基を有する変性ゴムは、たとえば、酸無水物とペルオキシドをゴムに反応させることにより製造することができる。また、酸無水物基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP−0620)、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MP−7020)などがある。
エポキシ基を有する変性ゴムは、たとえば、グリシジルメタクリレートをゴムに共重合させることにより製造することができる。また、エポキシ基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、住友化学株式会社製エポキシ変性エチレンアクリル酸メチル共重合体(エスプレン(登録商標)EMA2752)などがある。
カルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴムは、たとえば、エチレンアクリレートをゴムに共重合させることにより製造することができる。また、カルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、デュポン株式会社製カルボキシル変性エチレンアクリル酸エチル共重合体(米マックG)などがある。
特に好ましい変性ゴム(D)は、酸無水物基でグラフト変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体であり、その例としては、前述の三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP−0620)がある。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物中の変性ポリアミド樹脂(C)と変性ゴム(D)の比率は、変性ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して、好ましくは、変性ゴム(D)が50〜150質量部であり、より好ましくは70〜120質量部である。変性ゴム(D)の比率が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると、溶融時の流動性が極端に低下し、フィルム製膜性が大幅に悪化する。本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、変性ポリアミド樹脂(C)が連続相を形成し、変性ゴム(D)が分散相を形成していることが好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含むことが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体を配合することにより、熱可塑性樹脂組成物のガスバリヤ性を向上させることができる。使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、特に限定されるものでなく、市販のものを使用することができ、たとえば株式会社クラレ製EVAL−H171Bを使用することができる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含む場合は、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の質量比は90/10〜10/90であることが好ましく、より好ましくは80/20〜20/80である。エチレン−ビニルアルコール共重合体(E)が少ないとガスバリヤ性の向上がほとんど見られず、逆に多いと低温耐久性が極端に悪化するため好ましくない。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含む場合は、変性ゴム(D)の配合量は、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の合計量100質量部に対して50〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは70〜120質量部である。変性ゴム(D)の比率が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると、溶融時の流動性が極端に低下し、フィルム製膜性が大幅に悪化する。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリアミド樹脂(C)および変性ゴム(D)を(本発明の熱可塑性樹脂組成物がエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含む場合は、変性ポリアミド樹脂(C)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(E)および変性ゴム(D)を)、たとえば変性ポリアミド樹脂の融点より20℃高い温度で溶融混合することによって製造することができる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの樹脂およびゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができる。そのフィルムは、ガスバリヤ性、耐熱性、耐屈曲疲労性に優れるため、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に使用することができる。また、そのフィルムは、ジエン成分を含むゴム組成物シートと積層して、積層体とすることができる。
【0038】
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂組成物のフィルムを少なくとも1層、およびジエン成分を含むゴム組成物のシートを少なくとも1層含む。ジエン成分を含むゴム組成物を構成するゴムとしては、天然ゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴム、高シス−ブタジエンゴム、低シス−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴムが挙げられるが、なかでもハロゲン化ブチルゴムが、本発明で得られる熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、熱をかけることにより直接接着するという点で、好ましい。好ましくは、ゴム組成物中のポリマー成分のうち、ハロゲン化ブチルゴムが30〜100質量%である。ハロゲン化ブチルゴムの含有量が少ないと、本発明で得られる熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、熱により直接に接着できず、接着剤等を介して接着する必要があるため好ましくない。
また、ジエン成分を含むゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリ力などのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの樹脂およびゴム組成物用に一般に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0039】
本発明のタイヤは、前記熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは前記積層体を含むタイヤであり、好ましくは空気入りタイヤである。タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物のフィルムを空気入りタイヤのインナーライナーとして用いる場合は、予め本発明の熱可塑性樹脂組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0040】
本発明のホースは、前記熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは前記積層体を含むホースである。本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いてホースを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、次のようにしてホースを製造することができる。まず、本発明の熱可塑性樹脂組成物のペレットを使用し、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、樹脂押出機によりクロスヘッド押出方式で、熱可塑性樹脂組成物を押し出し、内管を形成する。さらに内管上に他の本発明の熱可塑性樹脂組成物または一般の熱可塑性ゴム組成物を押し出し内管外層を形成してもよい。次に、内管上に必要に応じ、接着剤を塗布、スプレー等により施す。さらに、内管上に、編組機を使用して、補強糸または補強鋼線を編組する。必要に応じ補強層上に、外管との接着のために接着剤を塗布した後、本発明の熱可塑性樹脂組成物または他の一般的な熱可塑性ゴム組成物と同様にクロスヘッドの樹脂用押出機により押し出し、外管を形成する。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。内管上、または補強層上に塗布する接着剤としては、イソシアネート系、ウレタン系、フェノール樹脂系、レゾルシン系、塩化ゴム系、HRH系等が挙げられるが、イソシアネート系、ウレタン系が特に好ましい。
【実施例】
【0041】
(1)原材料
ポリアミド樹脂として、次の2種類を用いた。
ナイロン6:宇部興産株式会社製ナイロン6「UBEナイロン」1022B
ナイロン666:宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B
【0042】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物として、次の3種類を用いた。
グリシドール:日油株式会社製エピオール(登録商標)OH
フェニルグリシジルエーテル:日油株式会社製エピオール(登録商標)P
p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル:日油株式会社製エピオール(登録商標)SB
【0043】
可塑剤として次のものを用いた。
n−ブチルベンゼンスルホンアミド:大八化学工業株式会社製BM−4
【0044】
変性ゴムとして次のものを用いた。
無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体:三井化学株式会社製タフマー(登録商標)MP−0620。以下「MA−EPM」ともいう。
無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体:三井化学株式会社製タフマー(登録商標)MH−7020。以下「MA−EBM」ともいう。
無水マレイン酸変性エチレン−オクテン共重合体:エクソンモービルケミカル株式会社製Exxelor(登録商標)VA1803。以下「MA−EOM」ともいう。
無水マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体:三井デュポンポリケミカル株式会社製HPR(登録商標)AR201。以下「MA−EEM」ともいう。
エポキシ変性エチレン−アクリル酸メチル共重合体:住友化学株式会社製エスプレン(登録商標)EMA2752。以下「E−EMA」ともいう。
【0045】
エチレン−ビニルアルコール共重合体として、株式会社クラレ製エバール(登録商標)H171Bを用いた。
【0046】
(2)変性ポリアミド樹脂の調製
ポリアミド樹脂、単官能エポキシ化合物および可塑剤を、表1に示す質量比率で、2軸混練機(日本製鉄所製TEX44)に投入し、混練機温度230℃で溶融混練し、11種類の変性ポリアミド樹脂MPA−1〜MPA−11を得た。なお、単官能エポキシ化合物を添加せずに、同様の条件で、2種類の未変性ポリアミド樹脂PA−1およびPA−2を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
(3)熱可塑性樹脂組成物の調製
上記のように調製した変性ポリアミド樹脂または未変性ポリアミド樹脂、および無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体を、表2〜表5に示す質量比率で、2軸混練機に投入し、混練機温度220℃で溶融混練し、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
さらに、上記のように調製した変性ポリアミド樹脂または未変性ポリアミド樹脂、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体を、表6に示す質量比率で、2軸混練機に投入し、混練機温度220℃で溶融混練し、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0049】
(4)熱可塑性樹脂組成物の評価方法
得られた熱可塑性樹脂組成物について、溶融粘度、フィルム成形性および−35℃定ひずみ試験(平均破断回数)を次の方法により評価した。
【0050】
[溶融粘度]
溶融粘度とは、混練加工時の任意の温度、成分の溶融粘度をいい、各ポリマー材料の溶融粘度は、温度、剪断速度および剪断応力の依存性があるため、一般に細管中を流れる溶融状態にある任意の温度、特に混練時の温度領域でのポリマー材料の応力と剪断速度を測定し、下記式より溶融粘度を測定する。
η=剪断応力/剪断速度
本発明においては、東洋精機社製キャピラリーレオメーターキャピログラフ1Cを用いて、250℃、剪断速度250sec−1において、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度(Pa・s)を測定した。溶融粘度が1800Pa・s以下であることが、フィルム成形性の観点から好ましい。
【0051】
[フィルム成形性]
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=200/210/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度4m/分の押出条件で、平均厚み150μmのフィルムに成形した。フィルムが成形できたときは○、フィルムが成形できなかったときは×とした。
【0052】
[−35℃定ひずみ試験(平均破断回数)]
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=200/210/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度0.7m/分の押出条件で、平均厚み1mmのシートに成形した。次いでJIS 3号ダンベルで切断し、−35℃下で40%の繰り返し変形を与えた。5回の測定を行い、破断した回数の平均値を算出し、平均破断回数とする。平均破断回数が10万回以上であるものを合格、10万回未満であるものを不合格とした。
【0053】
(5)熱可塑性樹脂組成物の評価結果
評価結果を表2〜表6に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜17)は、溶融粘度が低く、フィルム成形が可能であった。一方、未変性ポリアミド樹脂を用いた比較例1〜6、13および14は、溶融粘度が大きく、フィルム成形が不可能であった。ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)の配合量が0.01質量部の比較例7および9は、溶融粘度が大きく、フィルム成形が不可能であった。ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)の配合量が6質量部の比較例8および10は、−35℃定ひずみ試験で不合格であった。なお、実施例1〜3の比較により、変性ゴムの配合量が多いほど、−35℃定ひずみ試験において優れた結果を示した。
【0060】
(6)ゴム組成物の調製
ゴム組成物を調製するために次の原料を使用した。
ハロゲン化ブチルゴム:LANXESS Rubber社BROMOBUTYL X2
天然ゴム:PT.NUSIRA社製SRI20
乳化重合SBR:日本ゼオン株式会社製NIPOL 1502
GPFカーボンブラック:新日化カーボン株式会社製HTC#G
湿式シリカ:Rhodia社製Zeosil(登録商標)165GR
アロマオイル:昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S
亜鉛華:正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油株式会社製ビーズステアリン酸YR
硫黄:鶴見化学工業株式会社製キンカジルシビフンイオウ150メッシュ
加硫促進剤:大内新興化学工業株式会社製ノクセラーDM
【0061】
以上の原料を用い、表7に示す配合において、加硫剤を除く各原料を1.7リットルのバンバリーミキサーにて、設定温度70℃にて5分間混練してマスターバッチを得た後、次いで8インチロールで加硫剤を混練し、厚さ2mm、および0.5mmの未加硫ゴム組成物4種類を得た。
【0062】
【表7】

【0063】
(7)積層体の調製と評価
熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形性を評価するために用いた方法および条件で、実施例2、3、10および14ならびに比較例11の熱可塑性樹脂組成物を150μmに成形して熱可塑性樹脂組成物フィルムを作製した。一方、上記の未加硫ゴム組成物1〜4を2mmまたは0.5mmに圧延して未加硫ゴム組成物シートを作製した。作製した熱可塑性樹脂組成物フィルムと未加硫ゴム組成物シートを積層して積層体を作製した。作製した積層体について、下記の評価方法で、積層体接着評価、タイヤ走行評価1、タイヤ走行評価2、およびタイヤエア漏れ性能評価を行なった。結果を表8に示す。
【0064】
[積層体接着評価]
150μmに成形した熱可塑性樹脂組成物フィルムおよび2mmに圧延した未加硫ゴム組成物シートを積層した積層体を、180°Cで10分加硫し、JIS2号ダンベルで切断し、次いで、熱可塑性樹脂組成物フィルムの中央部に、幅方向にカット傷を入れたサンプルを作製した。これを70℃下で40%の繰り返し変形を20万回与えた。試験後、カット傷からのフィルムの剥がれを目視で観察し、以下の基準で評価した。
合格:フィルムの剥がれがまったく見られなかったもの、またはカット傷から2mm未満の微小な剥がれが見られるもの、またはゴムの材料破壊であるもの。
不合格:カット傷から2mm以上、10mm以下の剥がれが生じ、界面剥離となっているもの、またはカット傷から大きな剥がれか生じ、界面剥離となっているもの。
【0065】
[タイヤ走行評価1]
150μmに成形した熱可塑性樹脂組成物フィルムおよび0.5mmに圧延した未加硫ゴムシートを積層した積層体をタイヤ用インナーライナー(空気透過防止層用材)として用い、常法によりラジアルタイヤ(195/65R15)を作製した。JATMA規格で規定された標準リムにて140kPaの圧力で空気を封入し、外形1700mmのドラム上を用い、38℃の室温にて、荷重300kN、速度80km/hで距離10000kmを走行させ、走行後の空気透過防止層端部の剥がれ有無を確認した。
合格:まったく剥がれがない場合、または剥がれが2mm未満である場合。
不合格:剥がれが2mm以上である場合。
【0066】
[タイヤ走行評価2]
150μmに成形した熱可塑性樹脂組成物フィルムおよび0.5mmに圧延した未加硫ゴムシ一トを積層した積層体をタイヤ用インナーライナー(空気透過防止層用材)として用い、常法によりラジアルタイヤ(195/65R15)を作製した。JATMA規格で規定された標準リムにて140kPaの圧力で空気を封入し、外形1700mmのドラム上を用い、−20℃の低温下にて、荷重300kN、速度80km/hで距離2000kmを走行させ、走行後の空気透過防止層のクラックの有無を確認した。
合格:10mm未満のクラックが10個未満である場合。
不合格:10mm未満のクラックが10個以上である場合、または10mm以上のクランクが発生した場合。
【0067】
[タイヤエア漏れ性能評価]
150μmに成形した熱可塑性樹脂組成物フィルムおよび0.5mmに圧延した未加硫ゴムシートを積層した積層体をタイヤ用インナーライナー(空気透過防止層用材)として用い、常法によりラジアルタイヤ(195/65R15)を作製した。空気圧250kPa、25℃雰囲気下で3か月間内圧変化を測定し、ブチルゴム/天然ゴム80/20量%の標準インナーライナーを使用した同サイズのタイヤと比較し、内圧保持率が同等以上であるものを合格、同等未満であるものを不合格とした。
【0068】
【表8】

【0069】
実施例の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとゴム組成物のシートとの積層体は、タイヤ走行評価2において合格であった。一方、比較例の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとゴム組成物のシートとの積層体は、タイヤ走行評価2において不合格であった。すなわち、実施例の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとゴム組成物のシートとの積層体は、低温耐久性に優れることが分かる。
ゴム組成物4のシートとの積層体を除き、実施例の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとゴム組成物のシートとの積層体は、積層体接着評価およびタイヤ走行評価1において合格であった。一方、比較例の熱可塑性樹脂組成物のフィルムとゴム組成物のシートとの積層体は、積層体接着評価およびタイヤ走行評価1においても不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、タイヤ、特に空気入りタイヤのほか、各種樹脂ホースとして、またその他各種の気体(ガス・空気等)の透過制御に係わるゴム製品、たとえば、防舷材、ゴム袋、燃料タンク等に使用する積層体材料としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)0.05〜5質量部を、ポリアミド樹脂(A)の融点以上で溶融ブレンドさせて得られる変性ポリアミド樹脂(C)と、酸無水物基、エポキシ基、またはカルボキシル基もしくはその誘導体を有する変性ゴム(D)とからなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基と結合し得る化合物(B)が単官能エポキシ化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(A)が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン612、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン66612、および芳香族ナイロンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
変性ゴム(D)が、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
変性ゴム(D)が、変性ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して、50〜150質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
さらにエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の質量比が90/10〜10/90であり、変性ポリアミド樹脂(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(E)の合計量100質量部に対して変性ゴム(D)が50〜150質量部であることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物のフィルムを少なくとも1層、およびジエン成分を含むゴム組成物のシートを少なくとも1層含むことを特徴とする積層体。
【請求項9】
ゴム組成物中のポリマー成分のうち、ハロゲン化ブチルゴムが30〜100質量%であることを特徴とする請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは請求項8もしくは9に記載の積層体を含むタイヤ。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物のフィルムまたは請求項8もしくは9に記載の積層体を含むホース。

【公開番号】特開2010−132850(P2010−132850A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46905(P2009−46905)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】