説明

熱可塑性樹脂組成物、成形品及び波長変換材料

【課題】湿式製膜及び成形加工可能で、成形加工して得られる成形品への波長200〜400nmの紫外線照射により波長400〜800nmの可視域内で発光する熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
特定の環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とをルイス酸化合物を触媒として共重合して得られる共重合体中に、金属を10〜1000ppm含む熱可塑性樹脂組成物。また前記熱可塑性樹脂組成物の成形品からなり、波長200〜400nmの紫外線を照射した際に可視光を発光する波長変換材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とをルイス酸化合物を触媒として共重合して得られる共重合体中に金属を含む、成形加工、湿式製膜に優れる熱可塑性樹脂組成物に関する。また本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物からなり、成形加工して得られる成形品に波長200〜400nmの紫外線照射することにより波長400〜800nmの可視域内で発光する波長変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体化合物は、金属元素と配位子の選択により、蛍光発光、燐光発光、電界発光などの発光機能を発現させることが可能である。そのため、近年、活発に研究がなされている。
【0003】
例えば、アルミニウムトリスキノリノール(Alq)やトリスビピリジルルテニウム錯体などの低分子有機金属錯体が報告されている。しかしながら、低分子有機金属錯体の発光効率は高いが、薄膜形成のために真空蒸着が必要であるため、大面積化が困難、作業効率が悪いなどの問題点がある。
【0004】
このような問題点を解決する方法として、高分子自体を配位子として金属イオンに配位させる方法が知られている(非特許文献1、特許文献1及び2)。例えば、ポリ−p−クロルメチルスチレンとベータジケトンとの反応生成物を希土類金属に配位させた高分子金属錯体がブラックライトにより蛍光を発光することが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、この高分子錯体は金属架橋によりゲル化してしまう可能性がある。
【0005】
また、アルミニウムトリスキノリノールに重合性部位を導入して得られたトリス(5−(メタクリロイロキシエトキシメチル)−8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウムの溶液を基板上にスピンコートし、次いで光によりその場重合して基板上に高度に架橋した不溶性の薄膜を作製することが提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、重合時に光開始剤を使用しているため、光開始剤が薄膜中に残存してしまい発光阻害してしまう可能性や、架橋しているため、重合収縮による歪のため薄膜が剥離しやすくなる可能性がある。
【0006】
また、高分子配位子と低分子配位子とを有するAlq型の発光性有機高分子金属錯体に嵩高い置換基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体からなる低分子配位子のみを配位子とするAlq型の発光性有機金属錯体を共存させることにより、溶剤に対する上記発光性有機高分子金属錯体の溶解性が改善され、湿式法での製膜に適した発光性有機高分子金属錯体組成物が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この方法では、高分子配位子と低分子配位子を混合した溶液にアルキル金属化合物を添加することで発光性有機高分子金属錯体組成物を調製しているため、溶液中で高分子配位子同士が金属架橋することによるマクロゲル化やミクロゲル化が生じ、湿式製膜した際に不均質な薄膜となる可能性がある。
【特許文献1】特開2001−185357号公報
【特許文献2】特開2001−220579号公報
【特許文献3】WO2002/068560号公報
【特許文献4】特開2005−15752号公報
【非特許文献1】Macromolecular Symposia vol.105,223(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように従来の金属錯体化合物は、透明性や製膜性、成形加工性に問題点があった。従来の金属錯体化合物は、金属錯体が高濃度で部分的に高分子配位子と金属により金属架橋が生じやすく、マクロに不均質な構造になってしまう可能性があった。
【0008】
このように本発明では、金属と高分子配位子による金属架橋によるマクロゲル化せず、有機溶媒に容易に溶解し湿式製膜可能で、かつ成形加工性に優れた、高い透明性を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に対して鋭意検討を行い、環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とを、重合触媒としてルイス酸化合物を用いて重合させ、その共重合体中に金属を存在させることで、上記課題を解決することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とをルイス酸化合物を触媒として共重合して得られる共重合体中に、金属を10〜1000ppm含む熱可塑性樹脂組成物である。
【化3】

(1)
(式中、mおよびnは独立して0または1であり、R、R、R、Rは独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0011】
また本発明は、前記アクリル酸エステル単量体が、下記一般式(2)で表される化合物である前記熱可塑性樹脂組成物である。
【化4】

(2)
(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基または炭素数3〜20の単環あるいは多環のシクロアルキル基を表す。)
【0012】
また本願発明は、前記熱可塑性樹脂組成物の成形品であって、厚み2mmでの全光線透過率が70%以上である成形品である。
【0013】
さらに本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物の成形品からなり、波長200〜400nmの紫外線を照射した際に可視光を発光する波長変換材料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、湿式製膜かつ成形加工が可能で、耐熱性、低吸湿特性、透明性に優れ、近紫外線を照射することで可視域内で発光させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とを共重合して得られる共重合体を含む。
【化5】

(1)
(式中、mおよびnは独立して0または1であり、R、R、R、Rは独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0016】
環状オレフィン単量体の具体例としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.0.6]デク−8−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデク−3−エンなどが挙げられる。これらは2種以上を併用することもできる。本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0017】
アクリル酸エステル単量体としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形加工性等の観点から、下記一般式(2)で表される単量体を使用することが好ましい。
【化6】

(2)
(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基または炭素数3〜20の単環あるいは多環のシクロアルキル基を表す。)
【0018】
上記一般式(2)で表されるアクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.0.6]デク−8−イルなどが挙げられる。これらは1種単独で使用、あるいは2種以上を併用することができる。
【0019】
本発明において触媒として使用するルイス酸化合物の具体例としては、以下に例示する金属原子を含む化合物が挙げられる。例えば、三塩化アルミニウム、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エトキシアルミニウムジクロリド、トリエチルアルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三臭化アルミニウム、五塩化アンチモン、トリエチルアルミニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラt−ブトキシジルコニウム、テトラアセチルアセトンジルコニウム、四塩化スズ、三塩化アンチモン、三塩化鉄、四塩化チタン、二塩化亜鉛、二塩化水銀、二塩化カドミウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素および、これらのルイス酸化合物と水との反応物などが挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組合わせても使用することができる。これらのルイス酸化合物のうち、下記一般式(3)で表されるアルミニウム化合物を用いると本発明の共重合体の生成が促進されるため好ましい。
AlX3−n (3)
(式中、nは0〜3の整数、Xは塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子のいずれか、Rは炭素数1〜4の炭化水素基を表す。)
【0020】
本発明において使用可能なアルミニウム化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。例えば、三塩化アルミニウム、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エトキシアルミニウムジクロリド、トリエチルアルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三臭化アルミニウムなどが挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組合わせても使用することができる。これらのアルミニウム化合物のうち、三塩化アルミニウム、エチルアルミニウムジクロリド、トリエチルアルミニウムの中の少なくとも一つを用いると本発明の共重合体の生成が促進されるため好ましい。
【0021】
環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体を共重合する際に使用されるルイス酸化合物の使用量は、アクリル酸エステル単量体の総量を100モルとしたとき、0.1〜100モルであることが好ましく、1〜20モルであることがより好ましい。ルイス酸化合物の使用量が少なすぎると、共重合体中への環状オレフィン単量体の導入量が極端に少なくなったり、重合収率の低下が生じる可能性があるので好ましくない。また、アルミニウム化合物の使用量が多すぎると共重合体とアルミニウム化合物の金属架橋が進行し、溶剤に対する溶解性の低下や成形加工が困難になり、さらに透明性が悪くなるため好ましくない。
【0022】
環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合体を得るために使用するラジカル開始剤は、公知のフリーラジカルを発生させる有機過酸化物またはアゾビス系のラジカル重合開始剤を使用することができ、重合温度は、反応速度の観点から−20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。またアルミニウム化合物とラジカル重合開始剤との副反応抑制の観点から、重合温度は80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
【0023】
環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合体を得るために使用する重合溶媒は、得られる共重合体が溶解する溶媒であれば特に限定はないが、トルエン、シクロヘキサンが好ましい。また、使用する重合溶媒の量は、環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体の質量合計を100質量部としたとき、重合溶媒が25〜500質量部であることが好ましい。重合を均一に進行させることや触媒除去工程での重合溶液の粘度を考慮すると、重合溶媒は100〜400質量部であることがより好ましい。
【0024】
前記環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合により得られる共重合体は、反応系から公知の方法により、残存単量体、溶媒を除去して単離される。また、触媒として使用したルイス酸化合物は、必要に応じて塩化水素、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいは乳酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸を単離工程中に添加することで除去することが可能である。
【0025】
前記共重合体中の環状オレフィン単量体単位は、後述するガラス転移温度の観点から、共重合体中の全単量体単位中、30〜60モル%であることが好ましく、35〜55モル%であることがより好ましい。
【0026】
前記共重合体の重量平均分子量は、1000〜100万であることが好ましく、3万〜50万であることがさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎる場合は、得られる成形品の機械的強度が低下し、また重量平均分子量が大きすぎる場合は、熱成形加工性や溶剤に対する溶解性が低下する傾向にある。
【0027】
得られた共重合体中には金属を含む必要がある。金属を含有させるためには、重合触媒として使用した前記ルイス酸化合物を残存させて、その中に含有する金属をそのまま利用してもよいし、触媒除去工程で前記ルイス酸化合物が変性した状態(変性物)で残存させてもよい。また、一度、触媒除去工程でルイス酸化合物あるいはその変性物を除去後、新たに金属あるいは金属含有化合物を添加することで金属を含ませてもよい。前記共重合体中に金属を含む熱可塑性樹脂組成物は、該熱可塑性樹脂組成物の成形品に、波長200〜400nmの紫外線を照射した際、可視光を発光するようにすることができる。この金属含有量は、共重合体中に、10〜1000ppmである。なお、「ppm」とは質量百万分率のことをいう。金属含有量が多すぎる場合、透明性、耐光性などの低下を招く恐れがあるため、金属含有量は500ppm以下が好ましい。金属含有量が10ppm未満の場合、高い透明性を得ることが可能となるが、十分な波長変換能が得られない。
【0028】
前記金属あるいは金属含有化合物としては金属錯体化合物が好ましく、該金属錯体化合物に使用される金属としては、金属の価数が2〜4価で該金属がアルミニウム、ガリウム、チタン、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛の中の少なくとも一つであることが好ましい。使用される金属はこれらを単独で、あるいは必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。重合時の触媒能、波長変換能の観点からアルミニウムがより好ましい。
【0029】
前記金属錯体化合物としては、下記一般式(4)〜(6)で表される化合物のいずれかを配位子として有するものを使用することが好ましい。これら配位子は単独で、あるいは必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
【化7】

(4)
(式中、R、R、R、R、R、R、R、Rは、独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子及び炭素数1〜20の炭化水素基の中のいずれかを表す。)
【0030】
【化8】

(5)
(式中、R10、R11、R12、R13、R14、R15は、独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子及び炭素数1〜20の炭化水素基の中のいずれかを表す)
【0031】
【化9】

(6)
(式中、R16、R17は、独立して炭素数1〜4の炭化水素基、トリフルオロメチル基、及びフェニル基の中のいずれかを表す)
【0032】
前記共重合体中に金属を含む熱可塑性樹脂組成物は、加圧成形、押出成形、射出成形等、公知の成形方法により成形加工することができる。また前記熱可塑性樹脂組成物は溶剤溶解性が良いため、湿式で良好に製膜することができる。
【0033】
前記共重合体のガラス転移温度としては100〜300℃であることが好ましく、130〜200℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると当該樹脂組成物を波長変換材料として成形加工して使用する際、発光ダイオードや有機エレクトロルミネッセンス発光素子からの発熱により当該成形品の変形が生じてしまい好ましくない。一方、ガラス転移温度が高すぎると成形加工性が悪く、かつ成形時の熱により前記熱可塑性樹脂組成物が変性、劣化してしまう可能性がある。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品であって、厚さ2mmの全光線透過率は70%以上であることが好ましい。全光線透過率が70%以上であると、材料中の発光を有効に取り出して利用することができる。全光線透過率を高くするためには、前記金属含有量が多くなりすぎないように調整することが好ましい。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を配合することができる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、湿式製膜及び成形加工が可能であり、前記熱可塑性樹脂組成物の成形品は耐熱性、低吸湿特性、透明性に優れる。また前記熱可塑性樹脂組成物の成形品からなり、波長200〜400nmの紫外線を照射した際に、可視光を発光する波長変換材料は、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層材料、太陽電池用の波長変換材料、発光ダイオード用の波長変換材料等に適用することができる。なお「可視光」とは、波長400〜800nmの光のことをいう。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
なお、実施例で得られた重合体の共重合組成は、H−NMR(日本電子製、JNM−EX270)により求めた(溶媒:重クロロホルム)。共重合体の組成比はH−NMRにおけるアクリル酸メチル由来のメトキシ基の水素とビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン由来の炭化水素のピークの積分比から計算した。
【0039】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)はポリスチレンをスタンダードとしてGPC(東ソー製HLC−8220、カラム:TSK−GEL SUPER H−4000とTSK−GEL SUPER H−2000直列接続)により測定した(溶離液:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6mL/min)。
【0040】
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC:Seiko製、DSC220C)によって、150℃まで昇温し、クエンチした後、−30〜200℃の温度範囲で、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0041】
発光スペクトルは、以下の手順で測定した。実施例で得られた熱可塑性樹脂を温度210℃で加圧成形することで、10mm×20mm×2mmの板状成形片を作製した。紫外線照射装置(UVP製 UVGL−25)を使用して、該成形片に図1に示すスペクトルを有する紫外線(ピーク波長:365nm)を照射し、光学式薄膜測定装置(Scientific Computing Int.製FilmTek1000)を使用して発光スペクトルを測定した。図1〜5の横軸は波長、縦軸は発光の相対強度を表している。
【0042】
全光線透過率は、発光スペクトル測定に使用したものと同じ厚さ2mm平板を用い、JIS K7361−1に記載の方法に従って測定した。
【0043】
アルミニウム濃度は、樹脂を下記方法により処理し、高周波誘導結合プラズマ分光分析法により測定した。処理方法:樹脂0.2gを白金製ルツボに秤量後、ホットプレートで炭化処理を行った。700℃マッフル炉で灰化後、塩酸2mlを加えてホットプレート上で加熱・溶解・濃縮を行った。0.1mol/l塩酸に溶解させた。
【0044】
(重合例1)
冷却管、攪拌子を備えた1000mlの三口フラスコにビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン117.8g(1.25mol)、アクリル酸メチル107.5g(1.25mol)、トルエン39g、三塩化アルミニウム16.7g(0.125mol)を混合したものを加え、温度60℃に加熱した。60℃になったのを確認してから2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.45g、トルエン111gを混合した溶液を滴下漏斗を使用して、6時間かけて滴下した。反応終了後、トルエン675gを添加して希釈後、重合溶液を200gずつに分割した。
【0045】
(実施例1)
重合例1で調製し、分割した重合溶液200gにメタノール107gを添加して1時間、攪拌した。攪拌終了後、静置した。二層に分離した上層を除去後、メタノール107gを添加して1時間、攪拌後、静置した。二層に分離した上層を除去後、下層の溶媒を留去して塊状のポリマーを回収した。得られた樹脂の元素分析を行った結果、樹脂中のアルミニウム濃度は、444ppmであった。また、得られた樹脂を成形加工した成形片の全光線透過率は89%であった。紫外線(365nm)を照射した時、波長400〜600nmに発光が見られた(図2)。
【0046】
得られた樹脂の一部をクロロホルムに溶解させ、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレンを標準物質とした分子量を測定した。分子量および分子量分布は、数平均分子量Mn=44000、重量平均分子量Mw=100000、分子量分布Mw/Mn=2.3であった。また、1H−NMRで測定をした結果、共重合体の組成比(アクリル酸メチル/ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)は54/46(mol/mol)であった。得られた樹脂のガラス転移温度は131℃であった。また、得られた樹脂の飽和吸水率は0.8質量%であった。
【0047】
(実施例2)
メタノールに乳酸1.2gを添加した以外は、実施例1と同様の処理を行い、ポリマーを回収した。得られた樹脂の元素分析を行った結果、樹脂中のアルミニウム濃度は、148ppmであった。また、得られた樹脂を成形加工した成形片の全光線透過率は90%であった。紫外線(365nm)を照射した時、波長400〜600nmに発光が見られた(図3)。
【0048】
(実施例3)
メタノールに乳酸2.4gを添加した以外は、実施例1と同様の処理を行い、ポリマーを回収した。得られた樹脂の元素分析を行った結果、樹脂中のアルミニウム濃度は、42ppmであった。また、得られた樹脂を成形加工した成形片の全光線透過率は91%であった。紫外線(365nm)を照射した時、波長400〜600nmに発光が見られた(図4)。
【0049】
(比較例1)
メタノールに乳酸4.8gを添加した以外は、実施例1と同様の処理を行い、ポリマーを回収した。得られた樹脂の元素分析を行った結果、樹脂中のアルミニウム濃度は、8ppmであった。また、得られた樹脂を成形加工した成形片の全光線透過率は91%であった。紫外線(365nm)を照射した時、波長400〜600nmに発光が見られた(図5)。しかしながら、その発光は蛍光灯点灯下で目視で確認できないほど、発光強度は弱いものであった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂は、湿式製膜及び成形加工が可能で、耐熱性、耐吸湿特性、透明性に優れ、近紫外線を照射することで可視域に発光波長を有しているため、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層材料、太陽電池用の波長変換材料、発光ダイオード用の波長変換材料等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】照射光のスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた成形片に紫外線(365nm)を照射したときの発光スペクトルである。
【図3】実施例2で得られた成形片に紫外線(365nm)を照射したときの発光スペクトルである。
【図4】実施例3で得られた成形片に紫外線(365nm)を照射したときの発光スペクトルである。
【図5】比較例1で得られた成形片に紫外線(365nm)を照射したときの発光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される環状オレフィン単量体とアクリル酸エステル単量体とをルイス酸化合物を触媒として共重合して得られる共重合体中に、金属を10〜1000ppm含む熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(1)
(式中、mおよびnは独立して0または1であり、R、R、R、Rは独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
前記アクリル酸エステル単量体が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

(2)
(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基または炭素数3〜20の単環あるいは多環のシクロアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記ルイス酸化合物が下記一般式(3)で表されるアルミニウム化合物である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
AlX3−n (3)
(式中、nは0〜3の整数、Xは塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子のいずれか、Rは炭素数1〜4の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品であって、厚み2mmでの全光線透過率が70%以上である成形品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品からなり、波長200〜400nmの紫外線を照射した際に可視光を発光する波長変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−101085(P2008−101085A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283917(P2006−283917)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】