説明

熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品、及び車両外装用成形品の製造方法

本発明は、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れた成型品が得られる熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下にビニル系単量体(a2)を重合して得られたアクリル系ゴム強化樹脂70質量%と、ジエン系ゴム質重合体(b1)の存在下にビニル系単量体(b2)を重合して得られたジエン系ゴム強化樹脂10質量%と、結合シアン化ビニル含有量が33質量%である芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(d2)20質量%とを含有し、上記ゴム質重合体成分(a1)及び(b1)の含有量の合計が27質量%であり、線膨張係数が10×10−5/℃以下、且つISO178における曲げモジュラスが1000〜2200MPaである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、車両外装部品などの工業部材に好適な成形材料である熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品、及び車両外装用成形品の製造方法に関する。詳しくは、塗装性、耐候性、剥離性、柔軟性に優れ、且つ線膨張係数が小さく抑えられ、寸法精度の優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物、車両外装用成形品、及び車両外装用成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
従来より、柔軟性を有する熱可塑性樹脂組成物が知られている(例えば、特開平5−171006号公報参照)。この熱可塑性樹脂組成物は、共役ジオレフィンゴム成分の含有量が30〜80質量%の共役ジオレフィンゴム強化樹脂と特定の熱可塑性共重合ポリエステル樹脂との混合物である。
上記熱可塑性樹脂組成物は柔軟性を有するが、塗装性、耐候性、剥離性、及び成形品の寸法精度について十分でない。
発明の概要
本発明の目的は、上記問題点を解決するものであり、アクリルゴム強化樹脂、ジエン系ゴム強化樹脂及びAS樹脂を特定の範囲で配合し、配合物のアセトン可溶成分に対する、配合物中のアセトン可溶成分中の結合シアン化ビニルの含有量を特定範囲にすることで、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
また、本発明の目的は、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れ、車両外装用成形品を得るのに好適な車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
更に、本発明の目的は、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れた車両外装用成形品を提供する。
また、本発明の目的は、上記特性を有する車両外装用成形品の製造方法を提供する。
本発明は以下のとおりである。
(1)下記成分〔A〕40〜90質量%、成分〔B〕0〜40質量%、及び成分〔C〕0〜60質量%を含み(但し、成分〔B〕及び成分〔C〕の少なくとも一方を含み、且つ成分〔A〕、成分〔B〕及び成分〔C〕の合計を100質量%とする。)、下記成分〔A〕を構成するアクリル系ゴム質重合体(a1)及び下記成分〔B〕を構成するジエン系ゴム質重合体(b1)の合計が、熱可塑性樹脂組成物全体に対して15〜50質量%、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中の結合シアン化ビニル化合物含有量は、該アセトン可溶分に対して27〜50質量%であり、線膨張係数が10×10−5/℃以下、且つISO178における曲げモジュラスが1000〜2200MPaである熱可塑性樹脂組成物(以下、「熱可塑性樹脂組成物1」という。)。
成分〔A〕;アクリル系ゴム質重合体(a1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(a2)の30〜95質量%を重合して〔但し、(a1)及び(a2)の合計を100質量%とする。〕得られるアクリル系ゴム強化樹脂。
成分〔B〕;ジエン系ゴム質重合体(b1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(b2)30〜95質量%を重合して〔但し、(b1)及び(b2)の合計を100質量%とする。〕得られるジエン系ゴム強化樹脂。
成分〔C〕;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(c2)の共重合体。
(2)下記成分〔A〕40〜90質量%、成分〔B〕0〜40質量%、成分〔D〕5〜60質量%及び成分〔E〕0〜30質量%を含み(但し、成分〔A〕、成分〔B〕、成分〔D〕及び成分〔E〕の合計を100質量%とする。)、下記成分〔A〕を構成するアクリル系ゴム質重合体(a1)及び下記成分〔B〕を構成するジエン系ゴム質重合体(b1)の合計が、熱可塑性樹脂組成物全体に対して15〜50質量%であり、線膨張係数が10×10−5/℃以下、且つISO178における曲げモジュラスが1000〜2200MPaである熱可塑性樹脂組成物(以下、「熱可塑性樹脂組成物2」という。)。
成分〔A〕;アクリル系ゴム質重合体(a1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(a2)30〜95質量%を重合して〔但し、(a1)及び(a2)の合計を100質量%とする。〕得られるアクリル系ゴム強化樹脂。
成分〔B〕;ジエン系ゴム質重合体(b1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(b2)30〜95質量%を重合して〔但し、(b1)及び(b2)の合計を100質量%とする。〕得られるジエン系ゴム強化樹脂。
成分〔D〕;結合シアン化ビニル含有量が30〜50質量%である芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(d2)の共重合体。
成分〔E〕;結合シアン化ビニル含有量が30質量%未満である芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(e2)の共重合体。
(3)上記(1)又は(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物。
(4)上記(1)又は(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られることを特徴とする車両外装用成形品。
(5)上記(1)又は(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を成形し、車両外装用成形品を製造することを特徴とする車両外装用成形品の製造方法。
(6)上記成形は、射出成形法、シート押出成形法、真空成形法、異形押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、差圧成形法、ブロー成形法、発泡成形法又はガス注入成形法により行われる上記(5)記載の車両外装用成形品の製造方法。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗装性、耐候性、剥離性、柔軟性に優れ且つ線膨張係数が小さいことから、成形品の寸法精度等に優れる。
本発明の車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れていることから、車両外装用成形品を得るのに好適に使用することができる。
本発明の車両外装用成形品は、柔軟性、塗装性、耐候性、剥離性及び寸法精度等に優れる。
本発明の車両外装用成形品の製造方法は、上記の優れた性質を有する車両外装用成形品を得ることができる。
【発明の開示】
本発明を以下に詳しく説明する。
まず、熱可塑性樹脂組成物1及び2を構成する成分〔A〕のアクリル系ゴム質重合体(a1)について説明する。尚、〔A〕の製造に際して、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下に用いられるビニル系単量体(a2)については後述する。
1.アクリル系ゴム質重合体(a1)
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合して得られる(共)重合体である。上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、1種単独で又は組成(単量体の種類、量等)が異なるアクリル系ゴム質重合体の2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の構成及び製造方法は特に限定がない。例えば、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、好ましくは水を媒体とした公知の乳化重合法によって製造される。また、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、(1)アルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の(共)重合体、又は(2)この(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、これと共重合可能なビニル系単量体との共重合体が好ましい。
上記アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。上記アルキル基の炭素数が1〜8のメタクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。これらの単量体のうち、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。また、これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、多官能性ビニル単量体、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体等が挙げられる。上記多官能性ビニル単量体とは、単量体一分子中に2個以上のビニル基を有する単量体をいい、(メタ)アクリル系共重合体を架橋する機能及びグラフト重合時の反応起点の役目を果たすものである。上記多官能性ビニル単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン及びジビニルトルエン等の多官能性芳香族ビニル単量体、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、及びメタクリル酸アリル等が挙げられる。これら多官能性ビニル単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、及びα−メチルスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、上記シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の好ましい単量体単位の組成は、アルキル基の炭素数が1〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位80〜99.99質量%(より好ましくは90〜99.5質量%)、多官能性ビニル単量体単位0.01〜5質量%(より好ましくは0.1〜2.5質量%)、及びこれと共重合可能な他のビニル単量体単位0〜15質量%(より好ましくは0〜7.5質量%)である。但し、単量体組成は合計100質量%とする。
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、異なる粒子径を有する粒子の集合体である。上記アクリル系ゴム質重合体(a1)全体の平均粒子径は、好ましくは80〜700nm、より好ましくは100〜650nm、更に好ましくは150〜500nmである。上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の平均粒子径がこの範囲にあると、目的の性能に一段と優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。上記粒子径は、成分〔A〕(アクリル系ゴム強化樹脂)の製造に用いるアクリル系ゴム質重合体の値である。本発明に関わるアクリル系ゴム強化樹脂〔A〕の中に分散しているアクリル系ゴム質重合体の粒子径は、上記アクリル系ゴム質重合体のそれとほぼ同じであることを電子顕微鏡により確認している。
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のガラス転移温度(T)は、好ましくは10℃以下、より好ましくは0℃以下、更に好ましくは−10℃以下である。上記Tが高すぎると、成形品の耐衝撃性が低下し、好ましくない。
また、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のゲル含量は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜99質量%、更に好ましくは70〜98質量%である。ゲル含量が上記の範囲の場合、本発明の目的である柔軟性を有し、且つ熱膨張係数が小さいので、品質のバランスが更に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
次に熱可塑性樹脂組成物1及び2を構成するジエン系ゴム強化樹脂〔B〕のジエン系ゴム質重合体(b1)を説明する。尚、〔B〕の製造に際して、上記ジエン系ゴム質重合体(b1)の存在下に用いられるビニル系単量体(b2)については後述する。
2.ジエン系ゴム質重合体(b1)
上記成分〔B〕を形成するジエン系ゴム質重合体(b1)は、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体、及び芳香族ビニル単量体・共役ジエンブロック共重合体(具体例;スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体等)等が挙げられる。
上記ジエン系ゴム質重合体は、好ましくは乳化重合法、溶液重合法、特に好ましくは乳化重合法によって製造される。
3.ビニル系単量体(a2)、(b2)、(c2)、(d2)及び(e2)
熱可塑性樹脂組成物1の成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕、及び熱可塑組成樹脂組成物2の成分〔A〕、〔B〕、〔D〕及び〔E〕を製造するために用いられる各ビニル系単量体(a2)、(b2)、(c2)、(d2)及び(e2)(以下、単に「ビニル系単量体」ともいう)について説明する。
上記ビニル系単量体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物においてそれぞれが同じ単量体であってもよいし、異なったものでもよい。また、上記ビニル系単量体の構成割合(含有量)は、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
上記ビニル系単量体は、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含むビニル系単量体である。尚、このビニル系単量体には他のビニル系単量体を含むことができる。
上記芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、及びα−メチルスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記他のビニル系単量体としては例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体及びマレイミド系単量体等が挙げられる。更には、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミノ基、アミド基、及びオキサゾリン基を有するビニル系単量体等であっても良い。この場合、構造中にこれらの官能基を1種のみ有するものであっても良いし、2種以上有するものであっても良い。
上記アクリル酸エステル単量体の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート及びシクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。上記メタクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート及びシクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。これらの単量体のうち、メチルメタクリレートが好ましい。また、これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記マレイミド系単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜4のN−アルキルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、上記マレイミド系単量体の導入は、無水マレイン酸を共重合させてイミド化する方法でも良い。
また、上記官能基を有するビニル系単量体としては、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド及びビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ビニル系単量体の(メタ)アクリル酸エステル単量体は、成形品の透明性又は透明感を与え、着色性を向上させる。更に、マレイミド系単量体を用いることで耐熱変形性を向上させることができる。
4.熱可塑性樹脂組成物の構成成分(成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕及び〔E〕)
上記成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕を形成するために用いられる、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の合計量は、上記ビニル系単量体の全量を100質量%とした場合、好ましくは40〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。また、残部の単量体は、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物以外の他のビニル系単量体である。芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の含有量が少なすぎると、成形加工性及び塗装性が劣るため好ましくない。尚、通常上記成分〔A〕及び〔B〕の各々には、ゴム質重合体にグラフトしない遊離のビニル系単量体の共重合体は含まれているが、上記成分〔C〕は、上記成分〔A〕及び〔B〕に由来するものでなく、必要に応じて加えられる成分である。
上記ビニル系単量体(a2)、(b2)及び(c2)において、上記芳香族ビニル化合物/上記シアン化ビニル化合物の割合は、上記ビニル系単量体の合計を100質量部とした場合、好ましくは50〜90質量部/10〜50質量部、より好ましくは55〜85質量部/15〜45質量部である。上記範囲であれば、成形加工性、塗装性、及び耐衝撃性の物性バランスに優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物2を構成する成分〔D〕及び〔E〕の各々を製造するために使用する芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計は、ビニル系単量体の全量を100質量%とした場合、好ましくは40〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の含有量が少なずぎると、成形加工性及び塗装性が劣るため、好ましくない。尚、通常上記成分〔A〕及び〔B〕の各々には、ゴム質重合体にグラフトしない遊離のビニル系単量体の共重合体は含まれているが、上記成分〔D〕及び〔E〕は、上記成分〔A〕及び〔B〕に由来するものでなく、上記成分〔A〕及び〔B〕とは別に、加えられるものである。
成分〔D〕の結合シアン化ビニル含有量は、上記ビニル系単量体の合計を100質量%とした場合に、30〜50質量%である。好ましくは30〜45質量%、より好ましくは31〜45質量%である。30質量%未満であると成形品に不良現象の剥離が生じ、そして塗装性が劣る。一方50質量%を超えると成型加工性、成形品の色調が劣り好ましくない。
また、成分〔E〕の結合シアン化ビニル含有量は、上記ビニル単量体の合計を100質量%とした場合に、30質量%未満である。
上記ビニル系単量体a2、b2、c2、d2及びe2において、前記官能基を有するビニル系単量体を用いる場合の含有割合は、上記ビニル系単量体の全量を100質量%とすると、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.2〜10質量%である。含有量が0.1質量%未満の場合、官能基を有するビニル系単量体の添加効果が得られないことがあり、一方、15質量%を超えると官能基による悪影響が生じることがある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物1に含有されるゴム質重合体(a1)及び(b1)の合計は、熱可塑性樹脂組成物全体の合計に対して15〜50質量%である。好ましくは15〜45質量%、より好ましくは15〜40質量%である。15質量%未満では、柔軟性が劣り、一方、50質量%を超えると、成形加工性が劣る。
本発明の熱可塑性樹脂組成物2に含有される上記両ゴム質重合体(a1)及び(b1)の合計は、熱可塑性樹脂組成物全体の合計に対して15〜50質量%である。好ましくは15〜45質量%、より好ましくは15〜40質量%である。15質量%未満では、柔軟性が劣り、一方、50質量%を超えると、成形加工性が劣る。
上記成分〔A〕及び〔B〕のグラフト率は、5〜150質量%であり、好ましくは10〜120質量%、更に好ましくは20〜100質量%である。グラフト率が小さすぎると、成形品の表面外観性が劣り、一方、大きすぎると耐衝撃性が劣る。ここで、グラフト率(%)とは、ゴム質重合体にグラフトした単量体成分の割合であり、次式により求められる値である。
グラフト率(%)=100×(T−S)/S
[但し、Tは上記各成分〔A〕又は〔B〕をアセトンに投入し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分重量、Sは上記各成分〔A〕又は〔B〕中のゴム質重合体の重量を表す。]
上記成分〔A〕及び〔B〕のそれぞれのアセトン可溶分の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、0.2〜1.2dl/gが好ましく、更に好ましくは0.2〜1dl/g、特に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
上記各成分〔A〕及び〔B〕は、各ゴム成分の存在下に、ビニル系単量体を重合させることにより製造することができる。この重合法は乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、及びこれらを組み合わせた重合法等の公知の方法とすることができる。これらのうちで好ましい重合方法は、乳化重合法である。また、重合条件は特に限定されないが、公知の重合条件を採用することができる。
また、上記各成分〔C〕〔D〕及び〔E〕は上記、ビニル系単量体を用いて乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、及びこれを組み合わせた重合法等の公知の方法により製造することができる。好ましい方法は、懸濁重合法、塊状重合法、及び溶液重合法である。重合条件は特に限定するものではなく、公知の重合条件で製造することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物1は〔A〕並びに〔B〕及び〔C〕の少なくとも一方を含有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物1の成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の含有量は、これらの合計を100質量%とした場合(但し、〔B〕及び〔C〕の少なくとも一方を含む)、それぞれ、40〜90質量%、0〜40質量%及び0〜60質量%であり、好ましくは、それぞれ、50〜85質量%、0〜30質量%及び0〜50質量%、より好ましくはそれぞれ、50〜85質量%、0〜30質量%及び5〜50質量%、更に好ましくはそれぞれ50〜80質量%、3〜25質量%、及び5〜40質量%である。上記成分〔A〕の含有量が40質量%未満では、線膨脹係数が大きくなり成形品の寸法精度が劣り、一方、90質量%を超えると塗装性が劣る。上記成分〔B〕の含有量が40質量%を超えると、線膨張係数が大きくなり、成形品の寸法精度が劣る。上記成分〔C〕の含有量が60質量%を超えると、柔軟性が劣る。
尚、上記熱可塑性樹脂組成物1の好ましい含有成分は、以下のとおりであり、各成分の含有割合は上記に従うものとする。
(1)〔A〕、〔B〕及び〔C〕を含有する組成物、
(2)〔A〕及び〔B〕を含有する組成物、
(3)〔A〕及び〔C〕を含有する組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中の結合シアン化ビニル化合物含有量は,該アセトン可溶分に対して27〜50質量%である。好ましくは27〜45質量%、より好ましくは30〜45質量%である。27質量%未満では塗装性が劣り、一方50質量%を超えると成形品の色調が劣り好ましくない。
また、熱可塑性樹脂組成物2を構成する成分の〔A〕、〔B〕、〔D〕及び〔E〕の含有量は、これらの含有量の合計を100質量%とした場合、それぞれ、40〜90質量%、0〜40質量%、5〜60質量%及び0〜30質量%である。好ましくは、それぞれ50〜85質量%、0〜30質量%、5〜50質量%及び0〜28質量%である。より好ましくはそれぞれ5〜80質量%、3〜25質量%、5〜40質量%及び5〜25質量%である(〔B〕、〔E〕は任意成分)。
上記成分〔A〕〔B〕の数値限定理由は熱可塑性樹脂組成物1のそれと同じである。
成分〔D〕の含有量が5質量%未満であると塗装性が劣り、一方、60質量%を超えると、成形加工性、成形品の色調が悪化するので好ましくない。
成分〔E〕の含有量が30%を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の結合シアン化ビニル化合物含有量は該アセトン可溶分に対して、好ましくは25〜50質量%、より好ましくは27〜50質量%、更に好ましくは27〜45質量%、特に好ましくは30〜45質量%である。
熱可塑性樹脂組成物1及び2を構成するアクリル系ゴム強化樹脂〔A〕は、アクリル系ゴム質重合体(a1)及びビニル系単量体(a2)の合計を100質量%とした場合、アクリル系ゴム質重合体5〜70質量%存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体(a2)を30〜95質量%重合したものである。好ましくは上記アクリル系ゴム質重合体は5〜65質量%及び上記ビニル系単量体は35〜95質量%である。アクリル系ゴム質重合体の含有量が少なすぎるか又はビニル系単量体の含有量が多すぎると、成形品の衝撃強度が劣る。一方、アクリル系ゴム質重合体の含有量が多すぎるか又はビニル系単量体の含有量が少なすぎると、成形品の表面外観性及び硬度が劣り、好ましくない。
熱可塑性樹脂組成物1及び2を構成するジエン系ゴム強化樹脂〔B〕は、ジエン系ゴム質重合体(b1)及びビニル系単量体(b2)の合計を100質量%とした場合、ジエン系ゴム質重合体5〜70質量%存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体(b2)を30〜95質量%重合したものである。好ましくは上記ジエン系ゴム質重合体は5〜65質量%及び上記ビニル系単量体は35〜95質量%である。ジエン系ゴム質重合体の含有量が少なすぎるか又はビニル系単量体の含有量が多すぎると、成形品の衝撃強度が劣る。一方、ジエン系ゴム質重合体の含有量が多すぎるか又はビニル系単量体の含有量が少なすぎると、成形品の表面外観性及び硬度が劣り、好ましくない。
また、上記各成分〔C〕、〔D〕及び〔E〕のそれぞれのアセトン可溶分の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、0.2〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.2〜1dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
また、熱可塑性樹脂組成物1及び2には、上記成分〔A〕、〔B〕、〔D〕及び〔E〕以外に、他の重合体を含有させることができる。例えば、他の重合体として、ビニル系単量体の(共)重合体等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2のISO178による曲げモジュラスは、1000〜2200MPa、より好ましくは1200〜2100MPa、特に好ましくは1500〜2000MPaである。本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2は、曲げモジュラスが上記範囲にあることから、特に柔軟性に優れる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2の線膨張係数は、10×10−5/℃以下、好ましくは9.7×10−5/℃以下、更に好ましくは8.0×10〜9.3×10−5/℃である。本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2は、線膨張係数が上記範囲の低い値であるから、成形品の寸法精度が十分である。尚、上記線膨張係数は、後述の実施例に記載した方法により測定された値である。
上記曲げモジュラス及び線膨張係数は、例えば、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のゲル含量、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)及び上記ジエン系ゴム質重合体(b1)の含有量、上記成分(A)〜(E)の含有量、上記ビニル系単量体(a2)〜(e2)の組成比及びグラフト率等を調整することによって調整することができる。
5.添加剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2の物性及び外観を損なわない限り、難撚剤、充填剤、着色剤、金属粉末、補強剤、可塑剤、相容化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、及び滑剤等の添加剤を適宜添加することができる。
上記難撚剤としてはリン酸化合物、例えばポリリン酸アンモニウム、トリエチルホスフェート、及びトリクレジルホスフェート等を添加することができる。その添加量は、熱可塑性樹脂組成物を100質量%とした場合に、1〜20質量%とすることができる。
また、上記充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、酸化亜鉛ウィスカー、及びチタン酸カリウムウィスカー等が上げられる。充填剤の添加量は、熱可塑性樹脂組成物を100質量%とした場合に、1〜50質量%とすることができる。
更に着色剤としては、有機顔料、有機染料、及び無機顔料等を添加することができる。
6.熱可塑性樹脂組成物1及び2及びその製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2を製造するための混合は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、及び2本ロール等の混練機等によって行われる。このとき、混練は、各成分を一括練りしても、多段添加式で混練してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2は、射出成形法、シート押出成形法、真空成形法、異形押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、差圧成形法、ブロー成形法、発泡成形法、ガス注入成形法等、公知の各種成形法によって所定形状の成形品、例えば、屋外で使用される車両等の大気に晒される成形品とすることができる。よって、本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2は、成形品の成形材料として、好適に使用することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2は、特に車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物として好適に使用することができる。
7.車両外装用成形品及びその製造方法
本発明の車両外装用成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られる成形品である。本発明の車両外装用成形品は、寸法精度に優れると共に、塗装性、耐候性、剥離性及び柔軟性に優れている。本発明の車両外装用成形品として具体的には、例えば、車両外装のサイドパネル、サイドモール、フェンダーパネル、ピラーガード、及びフロントグリル等が挙げられる。
本発明の車両外装用成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物1及び2の熱可塑性樹脂組成物を所定形状に成形することにより製造される。この成形方法には特に限定はなく、例えば、射出成形法、シート押出成形法、真空成形法、異形押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、差圧成形法、ブロー成形法、発泡成形法、ガス注入成形法等、公知の各種成形法等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。尚、以下の例において、部及び%は特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」である。
又、本実施例においては熱可塑性樹脂組成物の成分〔A〕、〔B〕、〔D〕及び〔E〕は以下のものを使用した。
(1)成分〔A〕
スチレン70部及びアクリロニトリル30部を混合して、単量体混合物(I)を調製した。撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、重量平均粒子径200nmのアクリル系ゴム質重合体ラテックス45部(固形分換算)と水100部を仕込み、攪拌しつつ、窒素気流下、40℃に昇温した。40℃に達した時点で、20部の水に、ブドウ糖0.3部とピロリン酸ナトリウム1.2部、硫酸第一鉄0.01部を溶解した水溶液(以下、「RED水溶液」と略記する)のうち、86%分、及び、30部の水にt−ブチルハイドロパーオキサイド(以下、「BHP」と略記する)0.4部、不均化ロジン酸カリウム2.4部を溶解した水溶液(以下、「CAT水溶液」と略記する)のうち、30%分を反応器に仕込み、その直後に単量体混合物(I)/CAT水溶液を、それぞれ3時間/3時間30分にわたって連続添加し、重合を開始した。重合開始から75℃まで昇温し、その後、75℃で保持した。重合を開始して180分後にRED水溶液の残14%分を反応器に仕込み、60分間、同温度で保持し、重合はほぼ完結し、グラフト共重合体ラテックスを得た。このグラフト共重合体ラテックスを凝固、水洗、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体であるアクリル系ゴム強化樹脂を得た。
得られたアクリル系ゴム強化樹脂中のアクリル系ゴム質重合体の含有量は32%、重合転化率は97%、グラフト率は40%、極限粘度は0.6dl/gであった。
(2)成分〔B〕
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、重量平均粒子径320nmのポリブタジエンラテックス50部(固形分換算)、スチレン10部及びアクリロニトリル3部を加え、撹拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート・2水和物0.2部及びイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、並びにジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応を続けた。その後、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン27部及びアクリロニトリル10部からなるインクレメンタル重合成分を3時間に渡って連続的に添加し重合反応を続けた。添加終了後、さらに撹拌を1時間続け、重合はほぼ完結した。次いで2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを塩化カルシウム2部で凝固し、反応生成物をよく水洗した後、75℃で24時間乾燥し、白色粉末であるジエン系ゴム強化樹脂を得た。
得られたジエン系ゴム強化樹脂中のポリブタジエンの含有率は51%、重合添加率は97.2%、グラフト率は50%、極限粘度は0.3dl/gであった。
(3)成分〔D〕
懸濁重合により合成した下記のAS樹脂を使用した。
組成:スチレン/アクリロニトリル=60/40(質量%)
極限粘度:0.4dl/g。
(4)成分〔E〕
溶液重合により合成した下記のAS樹脂を使用した。
組成:スチレン/アクリロニトリル=76/24(質量%)
極限粘度:0.6dl/g。
試験片の形成
成分〔A〕〜〔E〕を下記表1の組成となるようにミキサーで3分間混合した。その後、50mm押出機を用い、シリンダー設定温度200〜230℃で溶融、押し出しをしてペレット化した。得られたペレットを充分乾燥した後、シリンダー温度220℃、金型温度50℃で射出成形し、各評価用試験片を得た。
この評価用試験片を用いて、曲げモジュラス、線膨脹係数、塗装性、及び剥離性の性能試験を行った。表1に性能の評価を示す。

性能評価の方法
(1)曲げモジュラス
ISO178に従って測定した。
(2)線膨張係数
射出成形により得た50mm×10mm×4mmの試験片を80℃で2時間アニールした後、23℃の雰囲気中て基準となる成形品長さを測定した。その後30℃、50℃、及び70℃の各温度における成形品長さを測定し、23℃から70℃までの1℃当たりの長さの平均変化率を線膨張係数(単位は、×10−5/℃)とした。なお、成形品長さは、MITUTOYO製LASER SCAN MICROMETER 1000にて測定した。
(3)塗装性
150×70×3mm(t)の試験片を塗料(「レタン60−202」(関西ペイント製))を膜厚20μmとなるように塗装し、その後、塗装後5分間セッティングを行った。次いで、80℃×0.5時間焼き付けを行った。得られた試験片を吸い込みなどの表面外観を目視にて評価した。
塗装外観は、表面に生じる色ムラを目視で次の4段階で評価した。即ち、表1中、「◎」は色ムラがない。「○」は色ムラがほとんどない。「△」は若干色ムラがある。「×」は色ムラが著しい。
(4)剥離性
80×55×1.6mm(t)フィルムゲート試験片を使用し、中央部端から40mmの位置にニッパーにて20mmの切り込みを入れ、引き裂き、亀裂面を観察して目視判断した。引き裂き断面が層状となっておらず、表面剥離もみられないものを「○」とし、引き裂き断面は層状となっているが表面剥離が見られないものを「△」とし、及び引き裂き断面が層状であり且つ表面剥離が見られるものを「×」とした。
(5)アセトン可溶分の結合シアン化ビニル化合物の含有量の測定方法
熱可塑性樹脂組成物1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数:23,000rpm)で60分遠心分離し、不要分と可溶分とを分離し、可溶分を乾燥し、それを元素分析で窒素を求め結合シアン化ビニル化合物の含有量を算出した。
実施例の効果
表1に示すように、比較例1は、成分〔B〕が本発明の範囲を超えており線膨脹率が大きく好ましくない。
比較例2は、ゴム含有量が本発明の範囲未満であり、柔軟性が劣り、剥離の不良現象が見られ好ましくない。
比較例3及び4は結合シアン化ビニル単量体含有量が本発明の範囲外であり、塗装性が劣り、剥離の不良現象がみられ、好ましくない。
これに対して、表1に示すように、本実施例1〜3は全ての性能に優れ、バランスがとれている。
【産業上の利用可能性】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗装性、耐候性、剥離性、柔軟性に優れ且つ線膨張係数が小さく抑えられ、成形品の寸法精度等に優れる。従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、車両外装のサイドパネル、サイドモール、フェンダーパネル、ピラーガード、及びフロントグリル等の成形品の成形材料として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分〔A〕40〜90質量%、成分〔B〕0〜40質量%、及び成分〔C〕0〜60質量%を含み(但し、成分〔B〕及び成分〔C〕の少なくとも一方を含み、且つ成分〔A〕、成分〔B〕及び成分〔C〕の合計を100質量%とする。)、下記成分〔A〕を構成するアクリル系ゴム質重合体(a1)及び下記成分〔B〕を構成するジエン系ゴム質重合体(b1)の合計が、熱可塑性樹脂組成物全体に対して15〜50質量%、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中の結合シアン化ビニル化合物含有量は、該アセトン可溶分に対して27〜50質量%であり、線膨張係数が10×10−5/℃以下、且つISO178における曲げモジュラスが1000〜2200MPaであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
成分〔A〕;アクリル系ゴム質重合体(a1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(a2)の30〜95質量%を重合して〔但し、(a1)及び(a2)の合計を100質量%とする。〕得られるアクリル系ゴム強化樹脂。
成分〔B〕;ジエン系ゴム質重合体(b1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(b2)30〜95質量%を重合して〔但し、(b1)及び(b2)の合計を100質量%とする。〕得られるジエン系ゴム強化樹脂。
成分〔C〕;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(c2)の共重合体。
【請求項2】
下記成分〔A〕40〜90質量%、成分〔B〕0〜40質量%、成分〔D〕5〜60質量%及び成分〔E〕0〜30質量%を含み(但し、成分〔A〕、成分〔B〕、成分〔D〕及び成分〔E〕の合計を100質量%とする。)、下記成分〔A〕を構成するアクリル系ゴム質重合体(a1)及び下記成分〔B〕を構成するジエン系ゴム質重合体(b1)の合計が、熱可塑性樹脂組成物全体に対して15〜50質量%であり、線膨張係数が10×10−5/℃以下、且つISO178における曲げモジュラスが1000〜2200MPaであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
成分〔A〕;アクリル系ゴム質重合体(a1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(a2)30〜95質量%を重合して〔但し、(a1)及び(a2)の合計を100質量%とする。〕得られるアクリル系ゴム強化樹脂。
成分〔B〕;ジエン系ゴム質重合体(b1)5〜70質量%の存在下に、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(b2)30〜95質量%を重合して〔但し、(b1)及び(b2)の合計を100質量%とする。〕得られるジエン系ゴム強化樹脂。
成分〔D〕;結合シアン化ビニル含有量が30〜50質量%である芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(d2)の共重合体。
成分〔E〕;結合シアン化ビニル含有量が30質量%未満である芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とを含むビニル系単量体(e2)の共重合体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする車両外装用成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られることを特徴とする車両外装用成形品。
【請求項5】
請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物を成形し、車両外装用成形品を製造することを特徴とする車両外装用成形品の製造方法。
【請求項6】
上記成形は、射出成形法、シート押出成形法、真空成形法、異形押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、差圧成形法、ブロー成形法、発泡成形法又はガス注入成形法により行われる請求項5記載の車両外装用成形品の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/046243
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553213(P2004−553213)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014799
【国際出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】