説明

熱可塑性樹脂組成物およびその成型品

【課題】 ガスバリア性と柔軟性の両方に優れた熱可塑性重合体組成物、ならびに成形体を提供することにある。
【解決手段】 (A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、分散相のアスペクト比が2以上である熱可塑性樹脂組成物、ならびに成形体。(A)成分の重量平均分子量が1万以上40万以下であり、かつ芳香族ビニル系化合物ユニットの含量が10重量%以上であることが好ましく、さらに(B)成分のエチレン含量が10モル%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体と、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる樹脂組成物であり、上記2種の樹脂成分のいずれか一方からなる分散相のアスペクト比が2以上である樹脂組成物、該組成物からなる成型品に関する。本発明の熱可塑性樹脂組成物によって、優れたガスバリア性と柔軟性を兼ね備えた樹脂組成物を得ることが可能となる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ガスバリア性と柔軟性に優れることから、チューブ、パイプ、パッキン、シート、フィルム、タンクとして有用である。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は多くのガス、有機液体に対して優れたバリア性(遮断性ともいう)を有している。そこで高いガスバリア性を活かした食品包装材のほか、有機液体バリア性を活かした自動車用ガソリンタンクなどへの適応が検討されている。エチレン−ビニルアルコール共重合体は剛直で柔軟性に欠けるために、軟質樹脂との組成物(特許文献1)、もしくは積層体の形で使用されるのが一般的である。
【0003】
エチレン− ビニルアルコール系共重合体と他の樹脂とは、通常、親和性が低く相溶性に乏しいために、エチレン− ビニルアルコール系共重合体に軟質樹脂を配合してなる組成物では、エチレン− ビニルアルコール系共重合体本来のバリア性などが大幅に損なわれることが多い。また、エチレン− ビニルアルコール系共重合体の層に対して軟質樹脂の層を積層してなる積層体においては、該エチレン− ビニルアルコール系共重合体層単独に比較して柔軟性が向上している。しかしそれでも柔軟性は十分ではなく、用途が限られる場合がある。
【0004】
また、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体とエチレン− ビニルアルコール系共重合体の組成物が知られている(特許文献2)。しかしこの組成物も、分散相の形態までは言及しておらずガスバリア性という点で十分では無い。
【特許文献1】特開平4−164947
【特許文献2】特開平10−110086
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の長所である気体、有機液体等に対する高度のバリア性などを最大限に活用し、かつ、その欠点である柔軟性の不足を改善することによって、ガスバリア性と柔軟性の両方に優れた熱可塑性重合体組成物、ならびに成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物において、(A)又は(B)成分のどちらか一方が分散相を形成し、該分散相のアスペクト比が2以上である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0007】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体の重量平均分子量が1万以上、40万以下であり、かつスチレンユニットの含量が12%以上である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のエチレン含量が10モル%以上である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、アスペクト比が2以上である分散相が(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体と(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体の重量組成比が3/97〜97/3である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、分散相のアスペクト比が2以上である熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品に関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物を射出成形により成形する製造法に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物をフラット法延伸、チューブラー法延伸により2倍以上の延伸を施すことを特徴とする製造法に関する。
【0014】
好ましい実施態様としては、(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、分散相のアスペクト比が2以上である熱可塑性樹脂組成物を用いたチューブ、パイプ、パッキン、シート、フィルム、およびタンクに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体の持つ優れた柔軟性とエチレン−ビニルアルコール共重合体の持つ優れたガスバリア性を兼ね備え、チューブ、パイプ、パッキン、シート、フィルム、およびタンクに用いるのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、(A)又は(B)成分のどちらか一方が分散相を形成し、該分散相のアスペクト比が2以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
【0017】
(A)ブロック共重合体は、芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなる。
【0018】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)は、芳香族ビニル系化合物に由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0019】
芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手性やガラス転移温度の点から、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物が好ましい。
【0020】
イソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)は、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0021】
(a)、(b)いずれの重合体ブロックも、共重合成分として、相互の単量体を使用することができるほか、その他のカチオン重合可能な単量体成分を使用することができる。このような単量体成分としては、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0023】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0024】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0025】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
本発明の(A)成分は、(a)ブロックと(b)ブロックから構成されている限り、その構造には特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましい構造としては、物性バランス及び成形加工性の点から、(a)−(b)−(a)で構成されるトリブロック共重合体が挙げられる。これらは所望の物性・成形加工性を得る為に、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
(a)ブロックと(b)ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、柔軟性およびゴム弾性の点から、(A)成分における(a)ブロックの含有量が10〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがさらに好ましい。(a)ブロックの含有量が10重量%を下回ると機械的な物性が十分に発現されない場合があり、40重量%を超えると柔軟性に課題が発生する場合がある。
【0028】
また(A)成分の分子量にも特に制限はないが、流動性、成形加工性、ゴム弾性等の面から、GPC測定による重量平均分子量で5,000〜400,000であることが好ましく、10,000〜200,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が10,000よりも低い場合には機械的な物性が十分に発現されない場合があり、一方400,000を超える場合には流動性、加工性が悪化する場合がある。
【0029】
(A)成分の製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物の存在下に、単量体成分を重合させることにより得られる。
【0030】
(CR1R2X)nR3 (1)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は多価芳香族炭化水素基または多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
上記一般式(1)で表わされる化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0031】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C6H5C(CH3)2Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH3)2)3C6H3]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CH3)2Cl)2-5−(C(CH3)3)C6H3]
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C6H4(C(CH3)2Cl)2]、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[(ClC(CH3)2)3C6H3]である。[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれ、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、トリス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはトリクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0032】
(A)成分を製造する際には、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3、SnCl4が好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜50モル当量の範囲である。
【0033】
(A)成分の製造に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって、分子量分布の狭い、構造が制御された重合体を生成することができる。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0034】
(A)成分の重合は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ、特に制約なく使用することができる。そのような有機溶媒としては、具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0035】
これらの溶媒は、(A)成分を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定する。
【0037】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下、例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0038】
本発明の(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体とは主としてエチレン単位(−CH2CH2−)とビニルアルコール単位(−CH2−CH(OH)−)とからなる共重合体である。本発明において使用されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、特に限定されることなく、例えば、成形用途で使用されるような公知のものを挙げることができる。ただし、エチレン−ビニルアルコール系共重合体のエチレン単位の含有量は、気体、有機液体等に対する遮断性の高さと成形加工性の良好さのバランスの点から、10〜99モル%であることが好ましく、20〜75モル%であることがより好ましく、25〜60モル%であることがさらに好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、後述するように、代表的にはエチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体ケン化物であるが、エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体ケン化物の場合、脂肪酸ビニルエステル単位のケン化度は、得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の遮断性と熱安定性の高さの点から、50モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、98モル%以上であることが特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトフローレート(温度210℃、荷重2.16kgの条件下に、ASTM D1238に記載の方法で測定)は、成形加工性の良好さの点から、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜50g/10分であることがより好ましく、1〜20g/10分であることが特に好ましい。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の極限粘度は、フェノール85重量%および水15重量%の混合溶媒中、30℃の温度において、0.1〜5dl/gであることが好ましく、0.2〜2dl/gであることがより好ましい。
【0039】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体には、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、少量(好ましくは、全構成単位に対して10モル%以下)であれば、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、プロピレン、イソブチレン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;酢酸ビニルエステル、プロピオン酸ビニルエステル、バーサチック酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステル、バレリン酸ビニルエステル、カプリン酸ビニルエステル、安息香酸ビニルエステル等のカルボン酸ビニルエステル;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体(例:塩、エステル、ニトリル、アミド、無水物など);ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;N−メチルピロリドン;等から誘導される単位を挙げることができる。またエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、アルキルチオ基などの官能基を末端に有していてもよい。
【0040】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の方法に従って、エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体を製造し、次いで、これをケン化することによってエチレン−ビニルアルコール系共重合体を製造することができる。エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体は、例えば、主としてエチレンと脂肪酸ビニルエステルとからなるモノマーを、メタノール、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒中、加圧下に、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤を用いて重合させることによって得られる。該脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニルエステル、プロピオン酸ビニルエステル、バーサチック酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステル、バレリン酸ビニルエステル、カプリン酸ビニルエステルなどを使用することができるが、これら中でも酢酸ビニルエステルが好ましい。エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体のケン化には、酸触媒またはアルカリ触媒を使用することができる。
【0041】
本発明の(A)成分と(B)成分の重量組成比は3/97〜97/3であることが好ましく、10/90〜90/10が更に好ましく、15/85〜85/15であることが最も好ましい。(A)成分の重量組成比が3を下回ると柔軟性に劣る可能性があり、(B)成分の重量組成比が3を下回るとガスバリア性に劣る可能性がある。
【0042】
本発明の重合体組成物では、実質的に(A)または(B)成分からなる分散粒子相のアスペクト比が2以上である。分散相のアスペクト比(層長さ/層厚の比)が2以上であることによって、優れた柔軟性とガスバリア性が効果的に併せて発揮される。
【0043】
本発明の重合体組成物において、実質的に分散粒子相のアスペクト比が2以上であることは例えば成形体の断面をTEM観察することによって確認することができる。例えばTEM観察画像から30μm×50μmの範囲内にある分散相の層の長さ/層厚を算出しその平均値を得ることで確認することができる。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、所望の性能を付与する目的で、本発明の効果が損なわれない範囲内(一般に、好ましくは重合体組成物全体の45重量%以下の範囲、より好ましくは30重量%以下の範囲)において、上記の(A)成分、(B)成分に加えて他の重合体や添加剤が含有されていても良い。配合し得る他の重合体の例としては、EPR(エチレン−プロピレン系ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム)、NR、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、IIR等のゴム;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂などが挙げられる。また、添加剤の例としては、成形加工時の流動性を向上させるための鉱物油または軟化剤;無機粉末充填剤;ガラス繊維、金属繊維などの繊維状充填剤;熱安定剤;酸化防止剤;光安定剤;粘着付与剤;帯電防止剤;発泡剤などを添加してもよい。これらの他の重合体または添加剤は、(A)成分、(B)成分、およびこれら以外の相中のいずれの相中に含まれていてもよい。例えば、リン酸、ピロリン酸、亜リン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン
酸、酒石酸、クエン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、酢酸等の酸または多塩基酸の部分塩がEVOHの分散粒子相中に含有されている場合には、重合体組成物製造のための溶融混練時または重合体組成物の溶融成形時におけるEVOHのゲル化が抑制され、色調の悪化を防止できることがある。
【0045】
本発明の重合体組成物の調製方法は特に制限されないが、所定量の(A)成分と(B)成分とを、所望により他の重合体または添加剤とともに、溶融条件下に十分に混合または混練することによって調製するのが好ましい。該溶融条件下における混合または混練は、例えば、混練機、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。混合または混練の時の温度は、使用する(B)成分の融点などに応じて適宜調節するのがよいが、通常、110〜250℃の温度範囲内の温度を採用すればよい。
【0046】
本発明の重合体組成物は一般の熱可塑性重合体に対して用いられている通常の成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工することができる。成形加工法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができる。加工温度としては150℃〜240℃が好ましく、170℃〜220℃が最も好ましい。150℃を下回ると樹脂組成物の流動性が不足し良好な成形体を得られない恐れがあり、250℃を上回ると樹脂の分解が起こりヤケ、ガスの発生があるため好ましくない。
【0047】
本発明の分散相のアスペクト比が2以上の樹脂組成物を得るには剪断速度を10/s以上にするのが好ましい。剪断速度が10/s以下であると分散相のアスペクト比が2以上にならず、ガスバリア性に劣るおそれがある。剪断速度が10/s以下の時でも次工程にて2倍以上の延伸を行うことで分散相のアスペクト比が2以上の樹脂組成物を得ることが可能である。延伸を行う方法としてはフラット法延伸、チューブラ(インフレーション)法延伸が挙げられる。フラット法延伸においては一軸延伸、二軸延伸いずれの方法でも採用できる。延伸時の温度は80℃〜150℃が好ましく、80℃〜120℃が最も好ましい。150℃を超えるとドローダウンの恐れがあり、また延伸時に分子鎖の滑りが起こりやすく分子鎖を伸張し配向させる効果が薄れる恐れがある。
【0048】
本発明の樹脂組成物からなる成形品には、パイプ、シート、フィルム、円板、リング、袋状物、びん状物、紐状物、繊維状物などの多種多様の形状のものが包含され、また、他の物質との積層体または複合体の形態のものも包含される。
【0049】
本発明の樹脂組成物からなる成形品は、優れた柔軟性と優れたガスバリア性とを兼備しているので、これらの性質が要求される日用品、包装材、機械部品などとして使用することができる。本発明の樹脂組成物の特長が特に効果的に発揮される用途の例としては、該樹脂組成物からなる飲食品用包装材、容器用パッキング、医療用輸液バッグ、タイヤ用チューブ等を挙げることができる。なお、これらの用途において、本発明の樹脂組成物は他の物質との積層体または複合体の形態であってもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらにより限定されない。
尚、実施例に先立ち各種測定法、評価法、実施例について説明する。
(最大剪断速度)
成形時に最も剪断速度が高い部分を計算式γ=6Q/BH(λ:見かけ剪断速度、Q:流量、B:幅、H:高さ)により見かけ剪断速度を算出した。
(引張弾性率)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は100mm/分とした。弾性率は歪みが0.5%〜5%の応力を基に算出した。
(引張強度)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は500mm/分とした。
(引張伸び)
JIS K 6251に準拠し、試験片としてシートをダンベルで7号型に打抜いたものを用意し、これを測定に使用した。引張速度は500mm/分とした。
(ガスバリア性)
ガスバリア性は気体透過性を評価し、酸素の透過係数を評価した。酸素の透過係数は、得られたシートから100mm×100mmの試験片を切り出し、JISK7126に準拠して、23℃、1atmの差圧法にて測定した。
(アスペクト比)
シートの断面をRuOで染色を行った後に日本電子JEM−1200FXを用いて加速電圧80kwの条件で観察することによりTEM画像を得た。TEM(透過型電子顕微鏡)画像から無差別に50個の分散粒子をサンプリングして、平均短径及び平均長径を個々にカウントし、その平均値を平均短径及び平均長径とした。ここで平均短径とは、分散粒子の短い方の辺の長さを意味し、平均長径とは、分散粒子の長い方の辺の長さを意味する。アスペクト比とは、分散粒子の平均長径/平均短径から求めた。
(実施例等記載成分の内容)
成分(A1):SIBS1 スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(商品名「SIBSTAR102T」)
成分(A2):SIBS2 スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(商品名「SIBSTAR072T」)
成分(B):EVOH エチレン−ビニルアルコール系共重合体(商品名「EVAL E105A」)
(実施例1)
成分(A1)、成分(B)を表1の割合で配合し、2軸押出機を用いて200℃で混練しペレットを得た。得られたペレットをTダイ(ダイリップ径400μm、幅200mm)を取り付け、ダイ温度200℃に設定した2軸押出機に投入し出てきたフィルムをロール速度1.0m/s、引取速度2.5m/sにて引き取りフィルムを得た。
【0051】
(実施例2)
成分(A1)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0052】
(実施例3)
実施例1と同様にペレットを得た。得られたペレットを射出成形機にて成形を行い(成形温度:200℃、金型寸法:0.5mm×120mm×120mm)シートを得た。
【0053】
(実施例4)
成分(A1)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例3と同様にしてフィルムを得た。
【0054】
(実施例5)
成分(A1)を成分(A2)に変えた以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0055】
(実施例6)
成分(A2)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
【0056】
(実施例7)
成分(A2)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
【0057】
(実施例8)
成分(A2)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
(実施例9)
成分(A2)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
(実施例10)
成分(A2)、成分(B)の配合量を変えた以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
(比較例1)
成分(A2)をTダイ(ダイリップ径400μm、幅200mm)を取り付け、ダイ温度200℃に設定した2軸押出機に投入し出てきたフィルムをロール速度1.0m/s、引取速度2.5m/sにて引き取りフィルムを得た。
(比較例2)
成分(A2)を成分(B)に変えた以外は比較例1と同様にしてフィルムを得た。
(比較例3)
成分(A1)、成分(B)を表2の割合で配合し、2軸押出機を用いて200℃で混練しペレットを得た。得られたペレットをプレス成型機にて金型温度200℃、プレス板上昇速度20mm/minにて成形を行い約500μmのシートを得た。
(比較例4)
成分(A1)、成分(B)の配合量を変えた以外は比較例3と同様にしてフィルムを得た。

各実施例の配合および特性を表1に、各比較例の配合および特性を表2にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
実施例1〜8は比較例1と比べると酸素透過係数が1/10〜1/1000と大幅にガスバリア性に優れていることが分かる。また、実施例1〜8は比較例2よりも弾性率がかなり低いものであり柔軟性に優れることが分かる。また実施例1・3と比較例3、実施例2・4と比較例4はそれぞれ配合は同じ組合せであるがアスペクト比が実施例1〜4では2以上であるが、比較例3,4では2以下であるためにガスバリア性が実施例1〜4が非常に優れている。
以上のように実施例1〜8は柔軟性とガスバリア性を兼ね備えた材料であることからガスバリア性の要求されるチューブ、パッキン、シート、フィルム、タンクといった容器、封止材に適している事が分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体、(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物において、(A)又は(B)成分のどちらか一方が分散相を形成し、該分散相のアスペクト比(層長さ/層厚の比)が2以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体の重量平均分子量が1万以上、40万以下であり、かつ芳香族ビニル系化合物ユニットの含量が10重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のエチレン含量が10モル%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アスペクト比(層長さ/層厚の比)が2以上である分散相が(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体であることを特徴とする請求項1〜3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体と(B)エチレン−ビニルアルコール系共重合体の重量組成比が3/97〜97/3であることを特徴とする請求項1〜4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成型品。
【請求項7】
請求項6記載の成型品が射出成形により成形されたことを特徴とする成型品の製造法。
【請求項8】
請求項6記載の成型品がフラット法延伸、チューブラー法延伸により2倍以上の延伸を施されたことを特徴とする成型品の製造法。
【請求項9】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなるチューブ、およびパイプ。
【請求項10】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなるパッキン。
【請求項11】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート、およびフィルム。
【請求項12】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンク。

【公開番号】特開2009−73929(P2009−73929A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244047(P2007−244047)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】