説明

熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】
本発明の課題は、濃色着色品においても良好な外観の成形品を得るだけでなく、機械特性と耐熱性にバランスが取れたポリ乳酸樹脂系の熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】
成分(A)としてゴム含有グラフト共重合体、成分(B)としてビニル系共重合体、成分(C)として(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ならびに成分(D)ポリ乳酸樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、成分(A)〜成分(D)の各成分が、成分(A)15〜60重量%、成分(B)10〜55重量%、成分(C)0〜50重量%、成分(D)5〜55重量%であり、かつ成分(B)ビニル系共重合体、および成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体とからなる樹脂組成物(E)と成分(D)ポリ乳酸樹脂の220℃、1000s−1における溶融粘度の関係が、0.30≦η成分(D)/η成分(E)≦0.80の範囲にあることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形時の外観に優れている成形品が得られるポリ乳酸樹脂系の熱可塑性樹脂組成物であって、本熱可塑性樹脂組成物を成形してなる外観に優れた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の射出成形材料は、ポリエチレン樹脂、ポリプロプレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂などあらゆる分野に使用されてきた。製品の使用後には、埋め立てや焼却処分されてきたため、半永久的な地中への残留または、焼却時の二酸化炭素の発生など地球環境に対し大きく負荷を与えてきた。近年、地球温暖化の要因として、温室効果ガスである二酸化炭素の上昇が指摘され、地球規模での二酸化炭素排出抑制の機運が高まってきている。このような環境保全の見地から、リニューアブルの樹脂として、二酸化炭素を吸収し固着する植物資源の活用が注目されており、石油資源の代替検討はなされている。射出成形用の材料においてもこのバイオマスを活用し、石油原料使用量の削減および二酸化炭素排出量の抑制可能な植物由来のプラスチックが注目されている。
【0003】
このような植物由来の樹脂として、ポリ乳酸樹脂をはじめとする脂肪族ポリエステルの検討がなされているが、上記の既存石油系樹脂と比較して、機械的強度や耐熱性に劣るため、各種改良検討が行われている。その改良手法としては、ポリ乳酸樹脂自身の改良だけでなく、上記既存の樹脂とのポリマーアロイによって、各種特性の改善が盛んに行われている。
【0004】
その中の一つとして、成形性、二次加工性、表面外観性などの優れた特性を有するABS樹脂とポリ乳酸樹脂をアロイすることによってポリ乳酸系樹脂にABS樹脂の特徴を付加する検討がABS樹脂メーカを中心になされ、ABS樹脂とポリ乳酸樹脂の多くが市販されている。ところが、従来のABS樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイ材は、射出成形した際のウェルド部の外観や非ウェルド部のフローマークが出やすく、ABS樹脂の主用途の外観部品への適用が制限されることがあった。
【0005】
これらの改善を試みたものとして、以下の特許文献1〜6が提案されているが、従来のABS樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイよりは射出成形品の表面外観は、改善されているが、これらのABS樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイは、着色剤を添加して使用されることが多く、着色した色によってフローマークやウェルドラインが目立つことがあるという点で不十分であった。さらに特許文献7では、特定の不飽和カルボン酸アルキルエステルと着色剤の酸化チタンを多量に添加することで、薄い色、淡い色については、良好な外観の成形品が得られる。しかし白色の酸化チタンを多量に添加するため、濃色には対応でき難いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−209263号公報
【特許文献2】特開2009−197079号公報
【特許文献3】特開2009−132777号公報
【特許文献4】特開2009−132776号公報
【特許文献5】特開2009−13339号公報
【特許文献6】特開2009−7528号公報
【特許文献7】特開2008−214469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、背景技術に示した課題を解消し、濃色着色品においても良好な外観の成形品を得るだけでなく、機械特性と耐熱性にバランスが取れたポリ乳酸樹脂系の熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物を成形してなる外観に優れた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の(1)〜(6)で構成される。
【0009】
(1)成分(A)としてゴム質重合体(ア)30〜70重量部ならびにシアン化ビニル系単量体(イ)0〜10重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜90重量%からなる単量体混合物70〜30重量部をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体、成分(B)として少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)0〜10重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%および(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)50〜90重量%からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体、成分(C)として(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ならびに成分(D)としてポリ乳酸樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
成分(A)〜(D)の各成分が、成分(A)15〜60重量%、成分(B)10〜55重量%、成分(C)0〜50重量%、成分(D)5〜55重量%であり、
かつ成分(B)ビニル系共重合体および成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体とからなる樹脂組成物(E)と成分(D)ポリ乳酸樹脂の220℃、1000s−1における溶融粘度(η)の関係が次の範囲にあることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
0.30≦η成分(D)/η成分(E)≦0.80。
【0010】
(2)前記成分(A)の単量体混合物が、シアン化ビニル系単量体(イ)2〜8重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜85重量%からなることを特徴とする、(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
(3)前記成分(B)のビニル系共重合体が、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)2〜8重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜85重量%からなる単量体混合物を共重合してなることを特徴とする、(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
(4)成分(A)のゴムグラフト共重合体中のゴム質重合体以外の(イ)、(ウ)、(エ)成分、成分(B)および成分(C)の混合物のSP値が19.8〜21.1(J/cm1/2の範囲にあることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
(5)成分(D)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量部含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、濃色着色品においても良好な外観の成形品を得るだけでなく、機械特性と耐熱性にバランスが取れたポリ乳酸樹脂系の熱可塑性樹脂組成物、本熱可塑性樹脂組成物を成形してなる外観に優れた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物について、具体的に説明する。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)ゴム含有グラフト共重合体、成分(B)ビニル系共重合体、成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体、成分(D)ポリ乳酸樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする。
【0018】
成分(A)のゴム含有グラフト共重合体は、ゴム質重合体(ア)にシアン化ビニル系単量体(イ)、芳香族ビニル系単量体(ウ)およびアクリル酸エステル系単量体(エ)からなる単量体混合物をグラフト重合してなるものである。
【0019】
成分(A)のゴム含有グラフト共重合体を構成するゴム質重合体(ア)としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴム等が挙げられ、具体的には、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレンージエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)およびポリ(エチレン−アクリル酸エチル)等が挙げられる。ゴム質重合体(ア)は、上記に例示したものを1種類のみの使用には限定されず、2種以上混合して使用することもできる。中でも、ゴム質重合体(ア)としては、耐衝撃性改善効果の点から、ポリブタジエンおよびポリ(ブタジエン−スチレン)が好適に使用され、ポリブタジエンがより好適に用いられる。
【0020】
前記ゴム質重合体(ア)の重量平均粒子径は、耐衝撃性、成形加工性、流動性および外観の点から、0.1〜2.0μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.15〜1.5μmの範囲である。
【0021】
成分(A)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタアクリロニトリル等が挙げられるが、アクリロニトリルが好ましく用いられる。これらのシアン化ビニル系単量体(イ)は必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0022】
成分(A)を構成する芳香族ビニル系単量体(ウ)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。これらの芳香族ビニル系単量体(ウ)は、必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0023】
成分(A)を構成する(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられるが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましく用いられ、特に好ましくはメタクリル酸メチルが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)は、必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0024】
さらに、成分(A)を構成する必須成分以外にも特性を損なわない範囲で、これらに共重合可能な単量体を適用することができる、例えば、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドおよびN−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、アクリルアミド等の不飽和アミドが挙げられ、これらは必ずしも1種で使用する必要はなく、2種以上混合して使用することもできる。
【0025】
成分(A)のゴム含有グラフト共重合体中のゴム質重合体(ア)の割合は、30〜70重量部であり、好ましくは35〜60重量部、より好ましくは40〜55重量部である。30重量部未満である場合には、樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがあり、一方70重量部を超える量を添加した場合には成形加工性が悪くなり、成形品の外観にフローマーク等の不良が発生しやすくなる場合がある。
【0026】
成分(A)のシアン化ビニル系単量体(イ)の割合は、単量体混合物の0〜10重量%であり、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%である。シアン化ビニル系単量体(イ)の割合が10重量%を超えると本発明の樹脂組成物からなる成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがある。
【0027】
また、成分(A)中の芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合は、単量体混合物の10〜40重量%であり、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%である。芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合が10重量%未満では成形性が低下することがあり、40重量%を超えると耐衝撃性が低下や、本発明の樹脂組成物からなる成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがある。
【0028】
さらに(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)の割合は、単量体混合物の50〜90重量%であり、好ましくは60〜80重量%、より好ましくは65〜75重量%である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)の割合が50重量%未満では成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがあり、一方90重量%を超える場合には、成形品の外観やウェルドの外観は問題ないが、耐衝撃性が低下することがある。
【0029】
成分(A)のゴム含有グラフト共重合体におけるグラフト率は、15〜80%の範囲であることが好ましく、20〜70重量%の範囲であることがより好ましい。グラフト率が15%未満では耐衝撃性が低下する場合があり、80%を超えると成形加工性が悪くなり成形品の外観にフローマーク等の不良が発生しやすくなる場合がある。
【0030】
成分(A)のゴム含有グラフト共重合体の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法においても製造することができる。また、各単量体の仕込方法については特に制限はなく、初期一括仕込み、あるいは共重合体の組成分布を抑えるために仕込み単量体の一部または全部を連続的または分割して仕込み重合してもよい。
【0031】
成分(B)のビニル系共重合体は、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)、芳香族ビニル系単量体(ウ)および(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)からなる単量体混合物を共重合してなるものである。ここで、成分(B)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)、芳香族ビニル系単量体(ウ)および(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)としては、それぞれ、既述の成分(A)ゴム含有グラフト共重合体の項で説明した各単量体(イ)、(ウ)および(エ)と同種のものが使用される。また、上記以外に共重合可能な単量体についても同様である。
【0032】
成分(B)中のシアン化ビニル系単量体(イ)の割合は0〜10重量%であり、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%である。シアン化ビニル系単量体(イ)の割合が10重量%を超えると本発明の樹脂組成物からなる成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがある。
【0033】
また、成分(B)中の芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合は10〜40重量%であり、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%である。芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合が10重量%未満では成形性が低下することがあり、40重量%を超えると耐衝撃性が低下や、本発明の樹脂組成物からなる成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがある。
【0034】
さらに(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)の割合は、50〜90重量%であり、好ましくは60〜80重量%、より好ましくは65〜75重量%である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)の割合が50重量%未満の場合には、成形品の外観、特にウェルド部の外観が低下することがあり、一方90重量%を超える場合には、成形品の外観やウェルドの外観は問題ないが、耐衝撃性が低下することがある。
【0035】
成分(B)のビニル系共重合体の、メチルエチルケトン0.4g/dlの濃度に調製した溶液の30℃における固有粘度は、0.25〜1.50dl/gであることが好ましく、0.30〜1.20dl/gがより好ましく、0.30〜1.10dl/gがさらに好ましい。固有粘度が0.25を下回る場合には、樹脂組成物の成形品の強度特に衝撃性が低下することがあり、一方1.50を越える場合には、射出成形時の流動性が損なわれ、成形品の外観が損なわれるだけでなく、大型の成形品では、成形できなくなる恐れがある。
【0036】
成分(B)のビニル系共重合体の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法によっても製造することができる。また、各単量体の仕込方法については特に制限はなく、初期一括仕込み、あるいは共重合体の組成分布を抑えるために仕込み単量体の一部または全部を連続的または分割して仕込みながら重合してもよい。
【0037】
成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなどからなる重合体である。これらは、必ずしも1種からなる重合体である必要は無く、2種類以上共重合した重合体も使用できる。さらに単独重合体を2種以上ブレンドして使用することもできる。中でも、本発明においてはメタクリル酸メチルを重合したポリメタクリル酸メチルを好適に用いることができる。
【0038】
成分(D)のポリ乳酸樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいても良い。他の共重合成分としてのモノマー単位としては、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4‘−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸および5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸およびヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトンおよび1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような他の共重合成分は、全単量体成分中、通常0〜30モル%の含有量とすることが好ましく、より好ましくは0〜10モル%である。
【0039】
また、成分(D)のポリ乳酸樹脂には、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体や、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などの別の種類の脂肪族ポリエステル樹脂を含んでいてもよい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸およびポリラクトンなどが挙げられる。また、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートおよびこれらの共重合体などが挙げられる。ポリ乳酸樹脂に加えて使用できる上記の脂肪族ポリエステル樹脂は、必ずしも1種で使用する必要は無く、2種類以上の混合物や共重合体としても用いることができる。
【0040】
成分(D)のポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であればよく、重量平均分子量としては、好ましくは1万以上であり、より好ましくは2万以上であり、特に好ましくは4万以上である。ここでいう重量平均分量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分量である。また、ポリ乳酸樹脂の融点は、90℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上である。
【0041】
また、ポリ乳酸樹脂の使用により高い耐熱性を得るためには、乳酸成分の光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分のうち、L体あるいはD体が80モル%以上含まれていることが好ましく、さらには90モル%以上含まれていることが好ましく、95モル%以上含まれることがより好ましい。
【0042】
成分(D)のポリ乳酸樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法やラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記成分(A)〜(D)の各成分が、成分(A)15〜60重量%、成分(B)10〜55重量%、成分(C)0〜50重量%、成分(D)5〜55重量%であることが必要である。
【0044】
成分(A)ゴム含有グラフト共重合体が15重量%未満である場合には、樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがあり、一方60重量%を超える場合には、射出成形時の流動性が損なわれ、成形品の外観が損なわれるだけでなく、大型の成形品では、成形できなくなる恐れがある。本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(A)の好ましい割合としては20〜50重量%、より好ましくは30〜40重量%である。
【0045】
成分(B)ビニル系共重合体が10重量%未満である場合には、樹脂の流動性が損なわれ、成形品の外観が低下することがあり、55重量%を超えると、耐衝撃性が低下することがある。本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B)の好ましい割合としては20〜50重量%、より好ましくは20〜40重量%である。
【0046】
成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体の添加量が50重量%を超える量用いた場合には、樹脂組成物の耐衝撃性が損なわれることがある。本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(C)の好ましい割合としては30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0047】
成分(D)ポリ乳酸樹脂が5%未満である場合には、成形性など問題は無いが、二酸化炭素の削減という根本的目的を達成するには効果が極めて少なく、一方55重量%を超えると樹脂組成物の耐熱性が大幅に低下する。本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(D)ポリ乳酸樹脂の好ましい割合は、10〜50重量%であり、より好ましくは25〜50重量%である。
【0048】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物では、成分(B)ビニル系共重合体および成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体とからなる樹脂組成物(E)と成分(D)ポリ乳酸樹脂の220℃、1000s−1における溶融粘度(η)の関係が次の範囲にあることを必要とする。
0.30≦η成分(D)/η成分(E)≦0.80。
【0049】
前記式で表される溶融粘度の比が0.30を下回る場合は、成形品の外観が損なわれることがあり、また射出成形時の流動性が不足し、成形品の大きさによっては成形できないことがある。一方0.80を超える場合には、流動性は問題ないものの樹脂組成物の強度が不足することがある。220℃、1000s−1における溶融粘度が、0.40〜0.70の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.45〜0.65の範囲である。溶融粘度は、オリフィスは、長さ20mm、径1mm、220℃、せん断速度1000s−1における値を用いることにより算出することができる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、成分(D)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量部含有することが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(D)ポリ乳酸樹脂100重量部に対してカルボジイミド化合物を0.1〜10重量部含有することにより、ポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基が封鎖され、耐湿熱特性が向上する。なお、成分(D)ポリ乳酸樹脂100重量部に対するカルボジイミド化合物0.1重量部未満での使用は、ポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基の封鎖効果が見られず、一方、10重量部を超えて使用した場合には金型の汚れに起因する場合があり、熱可塑性樹脂組成物を連続成形する場合において好ましくない。
【0051】
本発明に用いられるカルボジイミド化合物の具体例としては、同一分子内に1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミドとして、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジブチルカルボジイミド、ジ−tert−ブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tertブチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N´−フェニルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N´−トリルカルボジイミド、N−トリル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0052】
また、同一分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドとしては、脂肪族(脂環族)ポリカルボジイミド(例えば日清紡績株式会社“カルボジライトLA−1”、“HMV−8CA”など)、芳香族ポリカルボジイミド(例えばラインヘミー社製“スタバックゾールP”、“スタバックゾールP−100”など)が挙げられ、好ましくは“カルボジライトHMV−8CA”が用いられる。
【0053】
その他、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)ゴム含有グラフト共重合体中のゴム質重合体(ア)以外の(イ)、(ウ)、(エ)成分、成分(B)および成分(C)の混合物のSP値(相溶性パラメータ)が、19.8〜21.1(J/cm31/2の範囲にあることが好ましい。このSP値は、Robert F. Fedors氏が提案したSP値の計算方法(文献:Polymer Engineering and Science ,February, 1974, Vol.14, No2、Title:A Method for Estimating Both The Solubility Parameters and Molar Volumes of Liquids)に基づくものである。SP値が19.8(J/cm31/2を下回る場合、もしくは21.1(J/cm31/2を超える場合には、樹脂組成物全体の相溶性が低下することがあり、成形品のウェルド部の外観が損なわれることある。機械的特性と成形品の外観を両立する意味において好ましいSP値の範囲は、20.0〜21.1(J/cm31/2であり、更に好ましくは20.2〜20.8(J/cm31/2である。
【0054】
また、成分(A)ゴム含有グラフト共重合体のゴム質重合体(ア)以外の(イ)、(ウ)、(エ)の各成分、成分(B)ビニル系共重合体および成分(C)の23℃における屈折率は、1.485〜1.530の範囲にあることが好ましい。屈折率値が1.485未満の材料を使用する場合は成形品の外観が損なわれることがある。また、屈折率値が1.530を超える場合には、成形品のウェルド部の外観が損なわれることがある。機械的特性と成形品の外観を両立する意味において好ましい範囲は、1.490〜1.525であり、更に好ましくは1.505〜1.520である。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の樹脂を添加することもできる。添加することができる樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6やナイロン66、ナイロン4,6、ナイロン6T等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。これらは必ずしも1種類で使用する必要はなく、2種類以上混合して使用することもできる。
【0056】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種エラストマーを添加することもできる。エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート/一酸化炭素共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/オクテン−1共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体などのポリオレフィン系ゴム、またはカルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、オキサゾリン基等で変性されたポリオレフィン系ゴムから選ばれる。これらは、必ずしも1種類で使用する必要はなく、2種類以上混合して使用することもできる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じてヒンダードフェノール系酸化防止剤、含硫黄化合物系酸化防止剤、含リン有機化合物系酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サクシレート系などの紫外線吸収剤、デカブロモビフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、塩素化ポリエチレン、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネート、三酸化アンチモン、縮合リン酸エステルなどの難燃剤・難燃助剤、銀系抗菌剤に代表される抗菌剤、帯電防止剤、抗カビ剤、カーボンブラック、酸化チタン、離型剤、潤滑剤、顔料および染料などを添加することもできる。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて結晶核剤を混合することができ、その具体例としては、例えば、タルク、シリカ、グラファイトなどの無機微粒子、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などが挙げられる。これらの中でも無機微粒子が好ましく、特にタルクが好ましく用いられる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維および金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物を構成する各共重合体成分を溶融し各成分を混合して得ることができる。各成分の溶融混合方法に関しては、加熱装置、ベントを有するシリンダーで単軸または二軸のスクリューを使用して溶融混合する方法などが採用可能である。溶融混合の際の加熱温度は、通常210〜320(℃)の範囲から選択されるが、本発明の目的を損なわない範囲で、溶融混合時の温度勾配等を自由に設定することも可能である。また、二軸のスクリューを用いる場合は、同一回転方向でも異回転方向でも良い。
【0061】
各成分の溶融混合の順番としては、グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(C)およびポリ乳酸樹脂(D)を初期に配合してから溶融混合する方法や、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(C)を予め溶融混合させて得られた樹脂組成物に、後からポリ乳酸樹脂(D)を混合して溶融させるなどが挙げられる。また、カルボジイミド化合物を用いる場合には、どの工程において配合しても問題は無いが、好ましくはポリ乳酸樹脂を配合する工程で添加することが好ましい。
【0062】
上記によって得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形および、ガスアシスト成形などの現在の熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、特に制限されるものではない。好ましくは、射出成形である。射出成形は、好ましくは210〜260℃の通常成形する温度範囲で実施することができる。また、射出成形時の金型温度は、好ましくは30〜80℃の通常成形に使用される温度範囲である。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形品表面の外観およびウェルド部の外観に優れるだけでなく、耐衝撃性などのその他の特性も良好であることから、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、各種雑貨やシートに適している。
【実施例】
【0064】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、種々の変形することもできる。
【0065】
実施例に使用した原料の製造方法を以下に示す。
【0066】
成分(A)ゴム含有グラフト共重合体
<成分A−1の製造方法>
窒素置換した反応器に、純水150重量部、ブドウ糖0.5重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.005重量部および重量平均ゴム粒子径が0.8μmとなるポリブタジエンラテックス35重量部を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン(16重量部)、アクリロニトリル(3重量部)、メチルメタクリレート(46重量部)および連鎖移動剤t−ドデシルメルカプタン混合物(0.2重量部)を4時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤クメンハイドロパーオキサイド(0.2重量部)およびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間掛けて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)をラテックス固形分100重量部に対して1部添加し、続いて、このラテックスを硫酸で酸凝固後、水酸化ナトリウムで硫酸を中和し、洗浄濾過後、乾燥し、パウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A−1)を得た。このゴム含有グラフト共重合体(A−1)のグラフト率は45%であった。成分A−2〜成分A−8については、表1に示した添加量にした以外はA−1と同様の方法で調製した。
【0067】
【表1】

【0068】
成分(B)ビニル系共重合体
<成分B−1の製造方法>
バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、特公昭45−24151号公報の実施例1に記載の水中でのラジカル重合方法で製造したアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05重量部を、イオン交換水165重量部に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、スチレン,アクリロニトリル,メチルメタクリレートの合計100重量部とt−ドデシルメルカプタン:0.05重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4重量部、脱イオン水:150重量部の混合溶液を攪拌下の系内に添加し、60℃に昇温して重合を開始した。重合開始後、15分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、50分かけて100℃の温度まで昇温した。以後、系内を室温まで冷却し、ポリマーの分離、洗浄および乾燥することでビニル系共重合体(B−1)を得た。
【0069】
B−1はスチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレート=24/5/71の重量比率で調製した。得られたB−1の固有粘度は、0.35dl/gであった。
【0070】
成分B−2〜成分B−8については、表2に示したスチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレートの比率を変化させた以外はB−1と同様の方法で調製した。
【0071】
【表2】

【0072】
成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体
住友化学株式会社製 ポリメチルメタクリレート樹脂 “スミペックスMH”を使用した。
【0073】
成分(D)ポリ乳酸樹脂
NatureWorks社製のポリ乳酸(重量平均分子量20万、D−乳酸単位1%、融点175℃のポリ−L−乳酸)を使用した。
【0074】
カルボジイミド化合物
日清紡績株式会社製 “カルボジライトHMV−8CA”を使用した。
【0075】
樹脂組成物の製造方法および物性評価方法
グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、(メタ)アクリル酸エステル(C)を表3および4に示した組成で配合し、スクリュー径30mmの同方向回転の二軸押出機(温度範囲:220℃〜230℃)で溶融混練を行い樹脂組成物ペレットを得た。さらに、ポリ乳酸樹脂(D)を表3に示した比率で配合かつ、(A)〜(D)の合計100重量部に対し、着色剤としてカーボンブラック2重量部を全てに配合し、スクリュー径30mmの同方向回転の二軸押出機(温度範囲:220℃〜230℃)で溶融混練を行い、ペレットを得た。カルボジイミドを使用する系では、ポリ乳酸樹脂と配合時に所定量添加した。得られたペレットまたは、原料を次項で示す各物性評価で評価した。また、物性評価の試験片作成は、成形機(成形温度220℃、金型温度60℃)にて作製した。
【0076】
以下に実施例で行った評価方法について示す。その結果は、表1〜4に示した。
【0077】
(1)ゴム質重合体(ア)の重量平均ゴム粒子径
Rubber Age Vol.88 p.484-490(1960), by E.Schmidt, P.H.Biddisonに記載のアルギン酸ナトリウム法、即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率から累積重量分率50%の粒子径を求めた。
【0078】
(2)成分(A)ゴム含有グラフト共重合体のグラフト率
80℃の温度で4時間真空乾燥を行った成分(A)ゴム含有グラフト共重合体の所定量(m;1g)にアセトン100mlを加え、70℃の温度の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を80℃の温度で4時間真空乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、下記式により算出した。ここでLは、グラフト共重合体のゴム含有量である。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100。
【0079】
(3)成分(B)ビニル系共重合体の固有粘度
0.2gに秤量した成分(B)または成分(C)を50mlのメスフラスコに入れ、メチルエチルケトン溶媒を50mlまで添加し、0.4g/dlの溶液を30℃に調整した高温槽内で、ウベローデ粘度計にて固有粘度を求めた。
【0080】
(4)SP値
Robert F. Fedors氏が提案した以下文献のSP値の方法にて算出した。
文献:Polymer Engineering and Science ,February, 1974, Vol.14, No2
Title:A Method for Estimating Both The Solubility Parameters and Molar Volumes of Liquids。
【0081】
(5)屈折率
ポリスチレンの屈折率:1.591、ポリアクリロニトリルの屈折率:1.514
ポリメチルメタクリレートの屈折率:1.490
を使用し、モル分率から、(A)中の(イ)、(ウ)、(エ)からなるビニル系共重合体成分、(B)ビニル系共重合体(B)の屈折率値を算出した。
【0082】
(6)溶融粘度
220℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度をキャピラリーグラフ測定装置(株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1C型)により測定した。オリフィスは、長さ20mm、径1mmのものを使用した。
【0083】
(7)MFR(メルトフローレート測定)
ISO1133(温度220℃、10N荷重条件で測定)に準じて測定した。
【0084】
(8)熱変形温度
ISO75−1,2に準じて測定した
(8)シャルピー衝撃強度
ISO179に準じて測定した。
【0085】
(9)ウェルド表面外観
成形品の塗装性評価試験は、次のように評価した。射出成形機を使用して、シリンダー温度を220℃および金型温度を60℃にそれぞれ設定し、角板外寸70×240×2mmtでゲートから50mmの位置に直径40mmの円形の穴が存在する角板を成形した。その角板の円形穴の反ゲート側に形成されるウェルドの外観観察を目視にて行った。ウェルド部外観評価は、確認されるウェルドラインの長さによって以下の基準を設けて判定し、◎〜△を合格レベルとした。
◎:ウェルドラインが見られない
○:ウェルドラインが15mm未満
△:ウェルドラインが15mm以上20mm未満
×:ウェルドラインが20mm超。
【0086】
実施例1〜8と比較例1〜8との比較から、成分(A)または成分(B)の構成、あるいは熱可塑性主旨組成物の溶融粘度比が本発明の範囲を外れた場合、成形品表面のウェルド外観が悪化することが分かった。また、流動性が著しく低下したり、シャルピー衝撃が著しく低下することが分かった。
【0087】
実施例9,10と比較例8,9との比較では、成分(A)または成分(B)の組成比が本発明の範囲を外れた場合には、成形品のウェルド外観が悪化することが分かった。また、流動性が著しく低下したり、シャルピー衝撃が著しく低下することが分かった。
【0088】
実施例11,12と比較例11との比較では、成分(C)の組成比が本発明の範囲を外れた場合には、成形品表面の外観は問題ないが、樹脂組成物自身の耐熱性が低下する傾向にあることが分かった。
【0089】
実施例16,17と比較例10との比較では、成分(C)の組成比が本発明の範囲を外れた場合には、外観には問題ないが、樹脂組成物のシャルピー衝撃性が低下することが分かった。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、濃色着色品においても良好なウェルド外観の成形品が得られるだけでなく、機械特性と耐熱性にバランスが取れているため、本熱可塑性樹脂組成物を成形してなる外観に優れた成形品を提供することができる。その成形品は、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、各種雑貨やシートに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)としてゴム質重合体(ア)30〜70重量部ならびにシアン化ビニル系単量体(イ)0〜10重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜90重量%からなる単量体混合物70〜30重量部をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体、成分(B)として少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)0〜10重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%および(メタ)アクリル酸エステル系単量体(エ)50〜90重量%からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体、成分(C)として(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ならびに成分(D)としてポリ乳酸樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
成分(A)〜(D)の各成分が、成分(A)15〜60重量%、成分(B)10〜55重量%、成分(C)0〜50重量%、成分(D)5〜55重量%であり、
かつ成分(B)ビニル系共重合体および成分(C)(メタ)アクリル酸エステル系重合体とからなる樹脂組成物(E)と成分(D)ポリ乳酸樹脂の220℃、1000s−1における溶融粘度(η)の関係が次の範囲にあることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
0.30≦η成分(D)/η成分(E)≦0.80
【請求項2】
前記成分(A)の単量体混合物が、シアン化ビニル系単量体(イ)2〜8重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜85重量%からなることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(B)のビニル系共重合体が、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)2〜8重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)10〜40重量%およびアクリル酸エステル系単量体(エ)50〜85重量%からなる単量体混合物を共重合してなることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(A)のゴムグラフト共重合体中のゴム質重合体(ア)以外の(イ)、(ウ)、(エ)成分、成分(B)および成分(C)の混合物のSP値が19.8〜21.1(J/cm1/2の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
成分(D)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量部含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。


【公開番号】特開2011−99048(P2011−99048A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254871(P2009−254871)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】