説明

熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】耐熱性、耐熱水性に優れたポリ乳酸含有熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メルトマスフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が3〜25g/10分のポリ乳酸40〜90重量部、およびメルトマスフローレート(MFR:220℃、10kg荷重)が1〜10g/10分の変性ポリフェニレンエーテル60〜10重量部を含む樹脂成分100重量部と、アスペクト比が5以上の繊維状充填材5〜40重量部とを含む。変性ポリフェニレンエーテルが連続相であるマトリクスを形成していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含む熱可塑性樹脂組成物および該組成物を成形してなる成形品に関する。さらに詳しくは、耐熱性、耐熱水性の改善されたポリ乳酸含有熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性樹脂からなる各種成形品は、原油などの埋蔵化石資源を原料に用いて合成されるものが多く、埋蔵化石資源の使用量抑制の観点から、近年、植物由来の原料を用いて合成される熱可塑性樹脂の利用が強く要求されてきている。
【0003】
植物由来の原料を用いて合成される熱可塑性樹脂は、植物の成長過程で二酸化炭素を吸収しているため、たとえば、廃棄時に焼却された場合でも、環境中の二酸化炭素濃度が増大しないという性質も有している。そのため、植物由来の原料を用いて合成される熱可塑性樹脂は、埋蔵化石資源の使用量抑制という点に加えて、二酸化炭素発生量を削減でき、ひいては地球温暖化防止などの環境問題を解決し得るものとして期待されている。
【0004】
このような植物由来の原料を用いて合成される熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸が知られている。ポリ乳酸は、高い融点を持ち、また溶融成形が可能で、しかも、生分解性を有するため、植物由来の原料を用いて合成される熱可塑性樹脂として特に期待されている。しかしながら、ポリ乳酸は、耐熱性、耐熱水性が不充分であり、実際上、使用できる分野が限られていた。
【0005】
耐熱性の改善のため、たとえば、特許文献1では、ポリ乳酸と、該ポリ乳酸よりも高いガラス転移温度を有する非晶性樹脂とを含む生分解性樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、非晶性樹脂として、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート等が実施例において使用されているが、変性ポリフェニレンエーテルも使用可能な樹脂として例示されている。特許文献1によれば、ポリ乳酸に高ガラス転移温度の非晶性樹脂を配合することで、強度および耐熱性が維持された成型品が得られる旨が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−60637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、高ガラス転移温度の非晶性樹脂を添加することで、ポリ乳酸含有樹脂組成物の耐熱性はある程度改善される。しかし、様々な用途への展開においては、耐熱性のさらなる向上が要望される。また、ポリ乳酸は易加水分解性であり、このため耐熱水性が充分ではなく、容器としての使用など多用途展開を図る上では、耐水性、特に耐熱水性の向上が要望される。
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、耐熱性、耐熱水性に優れたポリ乳酸含有熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決する本発明は、以下の事項を要旨として含む。
(1)メルトマスフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が3〜25g/10分のポリ乳酸40〜90重量%、および
メルトマスフローレート(MFR:220℃、10kg荷重)が1〜10g/10分の変性ポリフェニレンエーテル60〜10重量%を含む樹脂成分100重量部と、
アスペクト比が5以上の繊維状充填材5〜40重量部とを含む熱可塑性樹脂組成物。
(2)前記樹脂成分が、
前記ポリ乳酸50〜80重量%、および
前記変性ポリフェニレンエーテル50〜20重量%を含む(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記変性ポリフェニレンエーテルが連続相であるマトリクスを形成している(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)前記変性ポリフェニレンエーテルがスチレン変性ポリフェニレンエーテルである(1)〜(3)の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)前記繊維状充填材が、アスペクト比が5以上のウォラストナイトである(1)〜(4)の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)前記(1)〜(5)の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、耐熱水性に優れたポリ乳酸含有熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物および該組成物を成形してなる成形品について説明する。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂成分と、繊維状充填材とを含む。
【0012】
樹脂成分中のポリ乳酸の含有量は、40〜90重量%であり、好ましくは50〜80重量%、より好ましくは55〜75重量%である。また、変性ポリフェニレンエーテルの含有量は、60〜10重量%であり、好ましくは50〜20重量%、より好ましくは45〜25重量%である。ポリ乳酸の含有量が少なすぎると、ポリ乳酸を用いる利点(環境負荷の低減効果等)が小さくなり、また、成形加工性が悪化する場合がある。一方、多すぎると、耐熱性、耐熱水性に劣る場合がある。
【0013】
また、繊維状充填剤は、ポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテルの合計100重量部あたり、5〜40重量部、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは15〜30重量部の割合で含まれる。繊維状充填材の配合量が少なすぎても、また多すぎても、耐熱性、耐熱水性の改善が図られない。
まず、本発明で使用するポリ乳酸、変性ポリフェニレンエーテル、繊維状充填材について、さらに具体的に説明する。
【0014】
ポリ乳酸
本発明で用いるポリ乳酸としては、乳酸の単独重合体である乳酸ホモポリマーの他、乳酸と他の化合物とを共重合させた乳酸コポリマー、さらには、これらをブレンドしたブレンドポリマーが挙げられる。
【0015】
ポリ乳酸は、射出成形できる程度の加工性を有し、そのメルトマスフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、3〜25g/10分であり、好ましくは5〜23g/10分である。ポリ乳酸のMFRが低すぎると、加工性が低下し、また変性ポリフェニレンエーテルとの混和性が低下するおそれがある。一方、ポリ乳酸のMFRが高すぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性、耐熱水性が低下する。また、ポリ乳酸におけるL−乳酸単位とD−乳酸単位との構成重量比W/Wは、特に限定はされないが、融点を高くすることができるという点より、L−乳酸、D−乳酸のいずれか一方の単位を75重量%以上含有していることが好ましく、90重量%以上含有していることがより好ましい。本発明では、L−乳酸単位を、好ましくは75重量%以上、特に、90重量%以上含有するものが好ましい。
【0016】
乳酸コポリマーは、乳酸モノマー、または乳酸モノマーにより合成することができるラクチドと共重合可能な他の成分が、乳酸モノマーとともに共重合されたものである。このような共重合可能な他の成分としては、エステル結合を形成可能な官能基を2個以上有する化合物が挙げられ、たとえば、ジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどや、これらを構成成分とする各種ポリエステル、各種ポリエーテルなどが挙げられる。
【0017】
ポリ乳酸の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法で製造することができるが、たとえば、次の方法により製造することができる。
【0018】
まず、原料となるサトウキビ、とうもろこし、芋類などから乳酸の濃縮・精製品を生成させる。具体的には、原料となるサトウキビ等を絞ることにより、粗糖溶液を採取し、得られた粗糖溶液を濃縮する。そして、濃縮した粗糖溶液に発酵菌体を投入し、発酵させて粗乳酸を生成させる。次いで、粗乳酸溶液から発酵菌体を取り除き、濃縮処理を行う。最後に、得られた濃縮処理液を、蒸発精製処理により再び濃縮することにより、乳酸の濃縮・精製品(液状)を得る。
【0019】
次いで、上記にて得られた乳酸の濃縮・精製品を重合させ、ポリ乳酸を得る。
具体的には、まず、乳酸の濃縮・精製品をさらに濃縮した後、脱水縮合反応させることによりオリゴマーを生成させる。次いで、得られたオリゴマーを反応させて粗ラクチドとし、得られた粗ラクチドを溶融晶析してラクチドを精製する。そして、得られたラクチドを開環重合させることにより、ポリ乳酸を得ることができる。
【0020】
なお、ポリ乳酸を乳酸コポリマーとする場合には、乳酸モノマーからオリゴマーを生成させる際、オリゴマーから粗ラクチドを生成させる際、またはラクチドを開環重合させる際に、乳酸モノマーと共重合可能な他の成分を適宜添加すれば良い。
【0021】
変性ポリフェニレンエーテル
変性ポリフェニレンエーテルは、芳香族ポリエーテル構造を持つポリフェニレンエーテル(PPE)を主成分とした、熱可塑性樹脂に属する合成樹脂ポリマーアロイの総称である。
本発明で使用する変性ポリフェニレンエーテルは、射出成形できる程度の加工性を有し、そのメルトマスフローレート(MFR:220℃、10kg荷重)は、0.5〜10g/10分であり、好ましくは1〜8g/10分である。変性ポリフェニレンエーテルのMFRが低すぎると、加工性が低下し、またポリ乳酸との混和性が低下するおそれがある。一方、変性ポリフェニレンエーテルのMFRが高すぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性、耐熱水性が低下する。
【0022】
上記変性ポリフェニレンエーテルとしては、上記MFR値を有する限り、特に限定されず、市販品なども使用することができるが、好ましい変性ポリフェニレンエーテルとしては、下記化1で表されるポリフェニレンエーテルの重合体、スチレン系モノマーをグラフト共重合してなるポリフェニレンエーテル、および下記化2で表されるフェノール系モノマーとスチレン系モノマーとを銅(II) のアミン錯体などの触媒存在下で酸化重合させて得られるブロック共重合体などと、ポリスチレンまたはポリオレフィンなどと、をブレンドした結果得られる、スチレン変性ポリフェニレンエーテルやポリオレフィン変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。中でも、変性に(ポリ)スチレンが関与している、スチレン変性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。なお、変性ポリフェニレンエーテルは1種単独で用いられても併用されてもよい。
【0023】
【化1】

(R1 、R2 は炭素数が1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは重合度を示す。)
【0024】
上記化1で表されるポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロロフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジブロモフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−メチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−イソプロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−ブロモ−6−メチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−ブロモフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−クロロ−6−エチルフェニレン−1,4−エーテル)などが挙げられ、これらは単独で用いられても併用されてもよく、又、上記重合度nは、10〜5000のものが好適に用いられる。
【0025】
【化2】

(R3 、R4 は炭素数が1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)
【0026】
上記化2で表されるフェノール系モノマーとしては、例えば、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジクロロフェノール、2,6−ジブロモフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2−クロロ−6−メチルフェノール、2−メチル−6−イソプロピルフェノール、2,6−ジ−n−プロピルフェノール、2−ブロモ−6−メチルフェノール、2−クロロ−6−ブロモフェノール、2−クロロ−6−エチルフェノールなどが挙げられ、これらは単独で用いられても併用されてもよい。
【0027】
ポリフェニレンエーテルにグラフト共重合され、あるいはフェノール系モノマーとブロック共重合するスチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン;α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどのアルキル化スチレン;モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレンなどが挙げられる。
【0028】
上記スチレン変性ポリフェニレンエーテルとしては、フェニレンエーテル成分が15〜60重量%で且つスチレン成分が85〜40重量%であるスチレン変性ポリフェニレンエーテルが好ましく、フェニレンエーテル成分が20〜60重量%で且つスチレン成分が80〜40重量%であるスチレン変性ポリフェニレンエーテルがより好ましく、フェニレンエーテル成分が25〜50重量%で且つスチレン成分が75〜50重量%であるスチレン変性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。
【0029】
スチレン変性ポリフェニレンエーテルなどの変性ポリフェニレンエーテル中のフェニレンエーテル成分は、少ないと、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下することがある。一方、フェニレンエーテル成分が多いと、成形性が低下するおそれがある。
【0030】
繊維状充填材
繊維状充填材のアスペクト比は、5以上が好ましく、より好ましくは5〜100、さらに好ましくは10〜50、特に好ましくは15〜35である。アスペクト比が大きすぎても小さすぎても、得られる成形体の耐熱性、耐熱水性や耐衝撃性が不十分となる場合がある。
【0031】
なお、本発明において充填材のアスペクト比とは、充填材の平均長軸径と50%体積累積径との比である。ここで、平均長軸径は光学顕微鏡写真で無作為に選んだ100個の充填材の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均長軸径である。また、50%体積累積径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる値である。
【0032】
繊維状充填材の50%体積累積径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。50%体積累積径が大きすぎても小さすぎても、得られる成形体の耐熱性や耐衝撃性が不十分となる場合がある。
【0033】
繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポット型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、針状炭酸カルシウム、針状ベーマイトなどを挙げることができる。なかでも、少ない添加量で耐熱性や耐衝撃性を改善できることから、ウォラストナイトが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記したポリ乳酸と変性ポリフェニレンエーテルと繊維状充填材とを混練、あるいは、溶剤に溶解または分散後、混合して、その後、溶剤を除去することなどにより製造することができるが、混練により製造することが好ましい。
ポリ乳酸と変性ポリフェニレンエーテルと繊維状充填材とを混練する方法としては、特に限定されないが、予めこれらをペレット化しておき、ペレットの状態で、混練機により、180〜300℃、特には190〜250℃にて剪断を与えつつ混練する方法が好ましい。混練機としては、特に限定されないが、ブラベンダ、ラボプラストミルなどのバッチ式混練機;単軸押出機、二軸押出機などの連続式混練機;などを用いることができる。
【0035】
これらの混練機を用いて混練する際には、予めポリ乳酸と変性ポリフェニレンエーテルと繊維状充填材とを、タンブラーミキサー等の乾式混合機を用いて混合しておき、混合品の状態で混練機に投入しても良い。また、連続式混練機を用いる場合には、これらを別々の供給機から連続的に供給する方法を採用しても良い。
【0036】
得られる熱可塑性樹脂組成物では、ポリ乳酸と変性ポリフェニレンエーテルとが相分離したマトリクスが形成される。本発明の熱可塑性樹脂組成物では、変性ポリフェニレンエーテルが連続相を形成する事で耐熱性が向上し、また、特に、ポリ乳酸が島相、変性ポリフェニレンエーテルが海相であるマトリクスを形成してなることが好ましい。このようなマトリクスを形成することで、熱可塑性樹脂組成物の耐熱水性が向上する。
【0037】
非相溶系の樹脂混合物(ポリマーアロイ)では、各成分同士が微分散し、海島構造といわれるマトリクスを形成することがある。海島構造では、一方の樹脂成分が不連続相(島相)として、他方の樹脂成分からなる連続相(海相)中に分散する。いずれの成分が海相を形成し、また島相を形成するかは、樹脂の物性(極性、流動性)、配合割合、混練法等に依存する。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、上記したように特定のMFRを有するポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテルからなる樹脂成分に繊維状充填材を配合することで、ポリ乳酸が島相、変性ポリフェニレンエーテルが海相となるマトリクスが得られる。このようなマトリクス構造では、耐熱性、耐熱水性の劣るポリ乳酸相が、耐熱性、耐熱水性に優れる変性ポリフェニレンエーテル相に囲まれた構造を形成する。このため、樹脂組成物が高温、熱水に曝された場合であっても、マトリクス構造が維持される。この結果、優れた耐熱性、耐熱水性が発現される。
【0039】
一方、繊維状充填材を配合しない場合には、上記のマトリクス構造は形成されず、ポリ乳酸が海相、変性ポリフェニレンエーテルが島相となったり、少なくとも変性ポリフェニレンエーテルが連続相を形成しない。このようなマトリクス構造では、樹脂組成物が、熱水に曝された場合に、ポリ乳酸が加水分解を起こし成形品に亀裂が入ったり、ワレが生じたりする可能性がある。
【0040】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、老化防止剤;滑剤;ダスティング剤;などの、ゴムや樹脂に一般的に配合される配合剤を配合して用いてもよい。これらは必ずしも配合しなくても良いが、配合する場合における配合量は、ポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテルの合計100重量部に対し、0.05〜50重量部程度とする。
【0041】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテル以外の樹脂やゴムを配合しても良い。このような樹脂やゴムとしては、たとえば、アクリル共重合体ゴム;ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリアクリロニトリル;スチレン−アクリロニトリル共重合体;などが挙げられる。これらは必ずしも配合しなくても良いが、配合する場合における配合量は、ポリ乳酸および変性ポリフェニレンエーテルの合計100重量部に対し、0.1〜50重量部程度とする。
【0042】
成形品
本発明の成形品は、上記のようにして製造した本発明の熱可塑性樹脂組成物を、成形することにより得ることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形する方法としては、特に限定されず、通常の熱可塑性樹脂と同様に、押出成形、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形、カレンダー成形などの方法が挙げられる。また、成形温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜270℃である。
【0043】
こうして得られる本発明の成形品は、耐熱性、耐熱水性が良好であり、耐衝撃性が高く、しかも、優れた成形安定性を有している。そのため、各種用途に用いることができ、具体的には、電気・電子機器用部品、自動車用部品、各種容器、トレー、日用雑貨などとして好適に使用される。
【実施例】
【0044】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。これらの例中の〔部〕および〔%〕は、特に断わりのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性の評価は下記の方法により行った。
【0045】
メルトマスフローレート(MFR)
樹脂成分のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して測定した。具体的には、ポリ乳酸に関しては、測定温度190℃、2.16kg荷重にて測定し、変性ポリフェニレンエーテルに関しては、測定温度220℃、10kg荷重にて測定した。
【0046】
アイゾット衝撃強さ(耐衝撃性)
熱可塑性樹脂組成物のアイゾット衝撃強さ(耐衝撃性)は、JIS K 7110に準拠して測定した。
まず、アイゾット衝撃強さを測定するための評価用成形品を製造した。具体的には、熱可塑性樹脂組成物を、厚さ3mm×100mm×170mmの金属枠を用いて12.0MPaの圧力および200℃の温度で10分間プレス成形して板状の成形品を得た。
【0047】
次いで、得られた評価用成形品から幅12.7mm、長さ64mm、厚み3mmの試験片を切り出し、長手方向中央部に深さ2.54mmのノッチ(2号試験片用Aノッチ)を、試験片の片側に付けた。そして、JIS K 7110にて規定された専用試験機の試料支持台に前記試験片を固定し、ノッチを形成した片側面をハンマーで打撃して、打撃、試験片破断時の吸収エネルギーから、アイゾット衝撃強さを求めた。
【0048】
荷重たわみ温度(DTUL)
荷重たわみ温度(DTUL)は、上記にて得られた成形品から幅12.7mm、長さ170mm、厚み3mmの試験片を切り出し、JIS K 7191−2に準拠して、支点間距離64mm、0.45MPaの荷重で測定した。
【0049】
熱水浸漬試験
上記にて製造した評価用成形品を80℃の熱水中に100時間浸漬し、外観を観察した。
外観に変化が無かったものを「良好」と、亀裂等が発生したものを「不良」と評価した。
【0050】
また、実施例、比較例で熱可塑性樹脂組成物の製造に使用した成分を以下に示す。
(A)ポリ乳酸
(A1)ポリ乳酸ペレット(トヨタ自動車株式会社製 エコプラスチックU’z 品番S−17)
MFR(190℃、2.16kg荷重)=11.2g/10分
【0051】
(B)変性ポリフェニレンエーテル
(B1)ノリル115(商品名、日本GEプラスチックス株式会社製、スチレン変性ポリフェニレンエーテル、MFR(220℃、10kg荷重):1.9g/10分)
【0052】
(C)充填材
(C1)繊維状充填材:ウォラストナイト(キンセイマテック株式会社製 SH-400 50%体積累積径:20μm、アスペクト比:18)
【0053】
実施例1
ポリ乳酸ペレット(A1)75重量部と、変性ポリフェニレンエーテル(B1)25重量部および(A1)と(B1)との合計100重量部に対し30重量部の繊維状充填材(C1)とをタンブラーミキサーにより乾式混合し、ペレット混合物を得た。そして、得られたペレット混合物を、フィーダー(ペレット供給機)に入れ、バレル内径40mmの二軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BT−40型)に供給することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。具体的には、バレル内にて、ペレット混合物を200〜220℃にて加熱溶融・混練し、二軸押出機の先端に備え付けられたダイより溶融・混練物をストランド状で吐出させるとともに、水槽にて冷却して固化させ、ペレタイザーでストランド状の吐出物をカットすることにより、ペレットを作製した。
【0054】
そして、得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を用いて、上記した条件により評価用成形品を作製し、アイゾット衝撃強さ、荷重たわみ温度、熱水浸漬試験の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例2,3
熱可塑性樹脂組成物を調製する際に、ポリ乳酸(A1)と、変性ポリフェニレンエーテル(B1)と繊維状充填材(C1)の比率を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
また、図1に実施例2で得た評価用成型品のTEM写真を示す。写真中、濃色部はポリ乳酸相を示し、淡色部は変性ポリフェニレンエーテル相を示す。白色部は充填材の脱落によると思われる。
【0056】
比較例1
繊維状充填材(C1)を使用せずに、ポリ乳酸(A1)70重量部と変性ポリフェニレンエーテル(B1)30重量部とを配合した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
また、図2に比較例1で得た評価用成型品のTEM写真を示す。写真中、濃色部はポリ乳酸相を示し、淡色部は変性ポリフェニレンエーテル相を示す。
【0057】
比較例2
変性ポリフェニレンエーテル(B1)および繊維状充填材(C1)を使用せずに、ポリ乳酸単独で用いた以外は、実施例1と同様にして、ペレットを作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0058】
表1より、次の点が確認できる。
ポリ乳酸単独(比較例2)に比べ、変性ポリフェニレンエーテルおよび繊維状充填材を配合することで、耐熱性、耐熱水性が向上する(実施例1〜3)。一方、繊維状充填材を使用せずに、ポリ乳酸と変性ポリフェニレンエーテルのみを配合しても(比較例1)、耐熱性、耐熱水性は改善されない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例2で得られた成形品のTEM写真である。
【図2】比較例1で得られた成形品のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトマスフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が3〜25g/10分のポリ乳酸40〜90重量%、および
メルトマスフローレート(MFR:220℃、10kg荷重)が1〜10g/10分の変性ポリフェニレンエーテル60〜10重量%を含む樹脂成分100重量部と、
アスペクト比が5以上の繊維状充填材5〜40重量部とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分が、
前記ポリ乳酸50〜80重量%、および
前記変性ポリフェニレンエーテル50〜20重量%を含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリフェニレンエーテルが連続相であるマトリクスを形成している請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性ポリフェニレンエーテルがスチレン変性ポリフェニレンエーテルである請求項1〜3の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維状充填材が、アスペクト比が5以上のウォラストナイトである請求項1〜4の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7477(P2009−7477A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170374(P2007−170374)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】