説明

熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品

【課題】耐衝撃性、耐剥離性及び成形品表面外観性に優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル(A)5〜95質量%、オレフィン系樹脂(B)4〜94質量%、以下の(C1)〜(C3)から選ばれた少なくとも1種の芳香族ビニル系重合体(C)1〜40質量%(成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計量は100質量%)である熱可塑性樹脂組成物。
上記の芳香族ビニル系重合体(C1)は芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体から成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C2)は芳香族ビニル系重合体(C1)を水素添加して成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C3)はオレフィン系重合体存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品に関し、詳しくは、耐衝撃性、耐剥離性及び成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは、生分解性を有する材料として注目を集めている。更に、脂肪族ポリエステルの一部については、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックの開発がなされており、地球温暖化対策および将来枯渇が予想される石油資源の代替化を図るのもとしても注目を集めている。
【0003】
しかしながら、一般に、脂肪族ポリエステルは、耐衝撃性が低く、その使用用途が大きく制限されている。斯かる欠点を改良する目的でポリオレフィン系重合体を配合する種々の方法が提案されている。例えば、ポリ乳酸と変性オレフィン化合物から成る組成物(特許文献1)、脂肪族ポリエステルとシンジオタクティックポリプロピレンから成る組成物(特許文献2)、更には、ポリ乳酸とエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)系熱可塑性エラストマーから成る組成物(特許文献3)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−316310号公報
【特許文献2】特開平10−251498号公報
【特許文献3】特開2002−37987号公報
【0005】
ところが、上記の方法では、耐衝撃性の改善効果が少なく、更に、本方法で得られた組成物を射出成形して得た成形品においては剥離現象が見られる場合があるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、耐衝撃性、耐剥離性およ及び成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、脂肪族ポリエステルとポリオレフィン系樹脂を混合する際、特定のブロックを有する共重合体を配合することにより、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物物が得られることを見出した。また、上記の組成物にスチレン系樹脂を配合するならば、更に耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることも見い出しった。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その第1の要旨は、脂肪族ポリエステル(A)5〜95質量%、オレフィン系樹脂(B)4〜94質量%、以下の(C1)〜(C3)から選ばれた少なくとも1種の芳香族ビニル系重合体(C)1〜40質量%(成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計量は100質量%)であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に存する。
【0009】
上記の芳香族ビニル系重合体(C1)は芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体から成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C2)は芳香族ビニル系重合体(C1)を水素添加して成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C3)はオレフィン系重合体存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である。
【0010】
更に、本発明の好ましい態様においては、以下の(D1)及び/又は(D1)から成るスチレン系樹脂(D)を含有し、その割合が、成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し、3〜100質量部である。
【0011】
上記のスチレン系樹脂(D1)はゴム質重合体〔但し、芳香族ビニル系重合体(C1)及び(C2)を除く〕の存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂であり、上記のスチレン系樹脂(D2)は上記のゴム質重合体の不存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を(共)重合して得られるスチレン系樹脂である。
【0012】
そして、本発明の第2の要旨は、上記の熱可塑性樹脂組成物から成ることを特徴とする樹脂成形品に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物物および樹脂成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合および共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0015】
本発明においては、必須成分として、脂肪族ポリエステル(A)、オレフィン系樹脂(B)、特定の芳香族ビニル系重合体(C)を使用する。また、本発明においては、好ましい態様として特定のスチレン系樹脂(D)を使用する。
【0016】
<脂肪族ポリエステル(A)>
本発明で使用する脂肪族ポリエステルとしては、特に限定されず、(i)脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸またはその機能的誘導体を主体とする成分を重縮合させて得られる脂肪族ポリエステル(A1)、(ii)脂肪族オキシカルボン酸を主体とする成分を重縮合させて得られる脂肪族ポリエステル、(iii)ε−カプロラクトン等のラクトン化合物を主体とする成分を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル等が挙げられが、好ましくは上記(i)及び上記(ii)であり、特に好ましくは上記(i)である。
【0017】
上記の脂肪族ジオールは以下の一般式(1)で表すことが出来る。
【0018】
【化1】

【0019】
一般式(1)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を表す。Rの炭素数は通常2〜11、好ましくは2〜6である。Rはシクロアルキレン基を包含し、また、分岐鎖を有していてもよい。Rは、好ましくは「−(CH)n−」であり、ここで、nは2〜11の整数、好ましくは2〜6の整数を示す。
【0020】
上記の脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、得られる脂肪族ポリエステルの物性の面から、特に1,4−ブタンジオールであることが好ましい。上記の脂肪族ジオールは2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記の脂肪族ジカルボン酸は以下の一般式(2)で表すことが出来る。
【0022】
【化2】

【0023】
一般式(2)中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を表す。Rの炭素数は、通常2〜11、好ましくは2〜6である。Rはシクロアルキレン基を包含し、また、分岐鎖を有していてもよい。Rは、好ましくは「−(CH)m−」であり、ここで、mは0又は1〜11の整数、好ましくは0又は1〜6の整数を示す。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スバリン酸、ドデカン二酸などが挙げられ、その誘導体としては、これらの低級アルキルエステル及び酸無水物が挙げられる。誘導体としては、2個のカルボキシル基の双方が例えばエステル基などに変換されている化合物が好ましい。これらの中では、得られる脂肪族ポリエステルの物性の面から、コハク酸またはアジピン酸が好ましく、特にコハク酸が好ましい。上記のジカルボン酸は2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記の脂肪族オキシカルボン酸としては、分子中に1個の水酸基と1個のカルボン酸基を有するものであれば、特に制限されないが、以下の一般式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸が好適である。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(3)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を表す。Rの炭素数は、通常1〜11、好ましくは1〜16であるる。Rはシクロアルキレン基を包含することも出来る。好ましいRは鎖状炭化水素である。ここで、鎖状とは分岐鎖を包含するものとする。
【0028】
脂肪族オキシカルボン酸としては、好ましくは、1つの炭素原子に水酸基とカルボキシル基を持つ化合物であり、特に、以下の一般式(4)で表される化合物である。
【0029】
【化4】

【0030】
一般式(4)式中、zは0又は1以上の整数、好ましくは0又は1〜10、更に好ましくは0又は1〜5である。
【0031】
脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては,乳酸(L−乳酸および/またはD−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸、これらの混合物などが挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、ラセミ体の何れでもよく、形状としては、固体、液体、水溶液の何れであってもよい。特に使用時の重合速度の増大が顕著であり且つ入手が容易である、乳酸またはグリコール酸およびこれらの水溶液が好ましい。乳酸やグリコール酸は、50%、70%、90%水溶液が一般に市販されており、入手が容易である。
【0032】
前記(i)の脂肪族ジオール化合物と脂肪族ジカルボン酸化合物から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族オキシカルボン酸化合物を共重合してもよく、更に、前記(ii)のオキシカルボン酸から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族ジオール化合物や脂肪族ジカルボン酸化合物を共重合してもよい。更に、前記(iii)のラクトン化合物から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族オキシカルボン酸化合物、脂肪族ジオール化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物の何れか1種以上を共重合することが出来る。
【0033】
更に、前記(i)、(ii)及び(iii)の脂肪族ポリエステルには、その他の化合物として、3官能脂肪族オキシカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、ヒドロキシ安息香酸などの芳香族オキシカルボン酸などを適宜共重合することが出来る。
【0034】
エステル化反応に使用される触媒としては、ゲルマニウム、チタン、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの反応系に可溶の金属化合物が挙げられる。これらの中では、ゲルマニウム化合物が好ましく、その具体例としては、テトラアルコキシゲルマニウム等の有機ゲルマニウム化合物、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易性から、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム又はテトラブチキシゲルマニウムが特に好ましい。
【0035】
触媒の使用量は、使用するモノマー量の合計量に対し、通常0.001〜3重量%、好ましくは0.005〜1.5重量%である。触媒の添加時期は、ポリエステル生成以前であれば特に制限されないが、原料仕込み時に添加してもよく、減圧開始時に添加してもよい。原料仕込み時に2官能脂肪族オキシカルボン酸と同時に添加するか、または2官能性脂肪族オキシカルボン酸およびその水溶液に触媒を溶解して添加するのが特に好ましい。
【0036】
エステル化反応の温度、時間、圧力などの条件は、目的物である脂肪族ポリエステルが得られる条件であれば特に限定されないが、反応温度は、通常150〜260℃、好ましくは180〜230℃、反応時間は、通常1時間以上、好ましくは2〜15時間、反応圧力は、通常10mmHg以下、好ましくは2mmHg以下である。
【0037】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、本発明の目的である耐衝撃性の面から、通常1〜20万、好ましくは2〜20万である。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnは、通常3以上、好ましくは4以上である。
【0038】
本発明においては、本発明の目的の1っである耐衝撃性をより向上させる観点から、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を構成するジオール成分およびジカルボン成分(誘導体を含む)の少なくとも何れかが植物由来であることが好ましく、両原料とも植物由来であるとが更に好ましい。
【0039】
<オレフィン系樹脂(B)>
本発明で使用するオレフィン系樹脂(B)は、炭素数2〜10のオレフィン類の少なくとも1種から成る。このオレフィン系樹脂(B)は2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記のオレフィン類の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1等のα−オレフィンがあり、好ましくは、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチル−ブテン−1、4−メチルペンテン−1であり、特に好ましくはエチレン及びプロピレンである。これらは2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、上記オレフィン類として、環状オレフィンを使用することが出来る。環状オレフィンは、通常、上記の非環状オレフィンと併用して使用される。環状オレフィンとしては、二重結合を1つ有する脂環式化合物であれば、特に限定されず、例えば、特開平5−310845号公報などに例示された化合物が挙げられる。好ましい環状オレフィンは、炭素数が11以下の化合物である。
【0042】
上記の環状オレフィンとしては、ノルボルネン類が好ましく、炭素数11以下のノルボルネン類(ノルボルネン及び/又はノルボルネン誘導体)が環状オレフィン全体の50質量%以上を占めることが好ましい。ノルボルネン類の具体例としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、6−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、1−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、6−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、6−n−ブチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、6−イソブチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、7−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン等のビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン誘導体、トリシクロ〔4.3.0.12.5〕−3−デセン、2−メチルトリシクロ〔4.3.0.12.5〕−3−デセン、5−メチルトリシクロ〔4.3.0.12.5〕―3−デセン等のトリシクロ〔4.3.0.12.5〕−3−デセン誘導体、トリシクロ〔4.4.0.12.5〕―3−ウンデセン等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。なお、炭素数が12以上の環状オレフィンを単独で又は上記の炭素数が11以下の化合物と併用することが出来る。
【0043】
オレフィン系樹脂(B)の形成において必要に応じて使用することの出来る他の単量体としては、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、1,9−デカジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。
【0044】
オレフィン系樹脂(B)として好ましいものは、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのプロピレン単位を主として含む重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体が好ましく、更に好ましくは、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体等のプロピレン単位を主として含む重合体である。これらは2種以上を併用してもよいく、その場合の好ましい組み合わせは、ポリプロピレンとポリエチレン、ポリエチレンとエチレン−ノルボルネン共重合体の組み合わせである。
【0045】
なお、上記のプロピレン−エチレン共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体などの何れでもよいが、表面外観性からはランダムタイプが好ましい。また、ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の何れでもよい。
【0046】
上記のオレフィン系樹脂(B)は、例えば、高圧重合法、低圧重合法、メタロセン触媒重合法などの方法で製造されるが、重合触媒を脱触媒化したもの、低分子化合物を除去したもの、各種の変性剤(酸無水物基、カルボキシル基、エポキシ基など)で変性したものの何れのであってもよい。
【0047】
オレフィン系樹脂(B)の結晶性の有無は問わないが、室温下、X線回折による結晶化度が10%以上であるものを少なくとも1種使用することが好ましい。また、オレフィン系樹脂(B)のJISK7121に準拠して測定した融点が40℃以上であるものを少なくとも1種使用することが好ましい。
【0048】
オレフィン系樹脂(B)としてポリプロピレン系樹脂を使用する場合、そのメルトフローレート(JISK7210:1999(230℃、荷重2.16kg)に準拠して測定)は、通常0.01〜500g/10分、好ましくは0.05〜100g/10分であり、ポリエチレン系樹脂を使用する場合は、そのメルトフローレート(JISK6922−2(190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定)は、通常0.01〜500g/10分、好ましくは0.05〜100g/10分である。
【0049】
オレフィン系樹脂(B)には、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤などの各種添加剤を配合することが出来る。また、使用される用途によっては、成形品から発生ガス成分となる前記各種添加剤を配合していないもの、低分子量の炭化水素化合物の少ないもの又は除去したもの、脱触媒したものを使用した方が好ましい場合がある。
【0050】
<芳香族ビニル系重合体(C)>
本発明で使用する芳香族ビニル系重合体(C)は、以下の芳香族ビニル系重合体(C1)〜(C3)から選ばれた少なくとも1種である。
【0051】
<芳香族ビニル系重合体(C1)>
芳香族ビニル系重合体(C1)は、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(C−a)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(C−b)とを含有するブロック共重合体から成るエラストマーである。
【0052】
上記の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレン又はα―メチルスチレンであり、特に好ましくはスチレンである。また、共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられれ、好ましくはブタジエン又はイソプレンである。これらは2種以上を併用してもよい。
【0053】
更に、ブロック(C−b)は、2種以上の共役ジエン化合物を使用し、それらがランダム状、ブロック状、テーパー状の何れの形態で結合したブロックであってもよい。また、ブロック(C−b)は、芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロックを1〜10個の範囲で含有していてもよく、ブロック(C−b)の共役ジエン化合物に由来するビニル結合含有量の異なる重合体ブロック等が適宜共重合していてもよい。
【0054】
芳香族ビニル系重合体(C1)の好ましい構造は次の構造式(I)〜(III)で表される重合体である。
【0055】
【化5】

【0056】
構造式(I)〜(III)中、の各符号の意義は次の通りである。
【0057】
符号Aは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを表し、実質的に芳香族ビニル化合物から成る重合体ブロックであれば、一部共役ジエン化合物が含まれていてもよい。芳香族ビニル化合物の含有量は通常90質量%以上、好ましくは99質量%以上である。
【0058】
符号Bは、共役ジエン化合物の単独重合体ブロック又は芳香族ビニル化合物などの他の単量体と共役ジエン化合物との共重合体ブロックを表し、符号Xはカップリング剤の残基を表し、符号Yは1〜5の整数を表し、Zは1〜5の整数をそれぞれ表す。符号Bが芳香族ビニル化合物などの他の単量体と共役ジエン化合物との共重合体である場合、当該他の単量体の含有量は、共役ジエン化合物と当該他の単量体との合計に対し、通常50質量%以下である。
【0059】
芳香族ビニル系重合体(C1)における、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との使用割合(芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物)は、通常10〜70/30〜90質量%、好ましくは15〜65/35〜85質量%、更に好ましくは20〜60/40〜80質量%である。
【0060】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とから成るブロック共重合体は、アニオン重合の技術分野で公知のものであり、例えば、特公昭47−28915号公報、特公昭47−3252号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭48−20038号公報などに開示されている。また、テーパーブロックを有する重合体ブロックの製造方法については、特開昭60−81217号公報に開示されている。
【0061】
芳香族ビニル系重合体(C1)の共役ジエン化合物に由来するビニル結合量(1,2−及び3,4−結合)含有量は、通常5〜80%の範囲であり、芳香族ビニル系重合体(C1)の数平均分子量は、通常10,000〜1,000,000、好ましくは20,000〜500,000、更に好ましくは20,000〜200,000である。これらのうち、上記の構造式(I)〜(III)において符号Aで表した重合体ブロックの数平均分子量は3,000〜150,000、符号Bで表した重合体ブロックの数平均分子量は5,000〜200,000の範囲であることが好ましい。
【0062】
共役ジエン化合物のビニル結合量の調節は、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジアゾシクロ(2,2,2)オクタアミン等のアミン類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等を使用して行うことが出来る。
【0063】
上記の方法で重合体を得た後、カップリング剤を使用して重合体鎖がカップリング剤残基を介して延長または分岐された重合体も本発明の(C1)成分に好ましく含まれる。ここで使用されるカップリング剤としては、アジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、メチルジクロロシラン、四塩化珪素、ブチルトリクロロ珪素、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、ジメチルクロロ珪素、テトラクロロゲルマニウム、1,2−ジブロモエタン、1,4−クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネート等が挙げられる。
【0064】
上記のブロック共重合体のうち、耐衝撃性の点から好ましいものは、ブロック(C−b)に芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロックを1〜10個の範囲で有する重合体および/またはカップリング処理されたラジアルブロックタイプの重合体である。
【0065】
<芳香族ビニル系重合体(C2)>
芳香族ビニル系重合体(C2)は、前記の芳香族ビニル系重合体(C1)を水素添加して成るエラストマーである。水素添加は共役ジエン部分の炭素―炭素二重結合の50%以上が水素添加される部分水素添加または完全水素添加の何れでもよい。
【0066】
水素添加反応は、公知の方法で行うことが出来る。また、公知の方法で水素添加率を調節することにより、目的の重合体を得ることが出来る。具体的な方法としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公昭63−5401号公報、特開平2−133406号公報、特開平1−297413号公報などに開示されている方法がある。
【0067】
なお、前記の芳香族ビニル系重合体(C1)及び(C2)は、他の重合体がブロック重合体および/またはグラフト重合体として化学的に結合したものであってもよい。この場合、他の重合体は100質量%が化学的に結合している必要はなく、他の重合体の少なくとも10質量%が化学的に結合していれば本発明の目的が達成できる。他の重合体としては、好ましくは芳香族ポリカーボネート及び/又はポリウレタンであり、更に好ましくは芳香族ポリカーボネートである。芳香族ポリカーボネートブロック共重合体混合物は、例えば、特開2001−220506号公報に記載の方法などで製造することが出来る。更に、クラレ社製TMポリマーシリーズの「TM−S4L77」、「TM−H4L77」(商品名)等として入手することが出来る。
【0068】
また、他の重合体をグラフト重合させるための好ましい方法は、前記の芳香族ビニル系重合体(C1)及び/又は(C2)に存在下にビニル系単量体をグラフト重合する方法である。ここで使用するビニル系単量体としては、後述する成分(D)のビニル系単量体(b)が好ましく使用される。グラフト重合する方法としては、成分(D)において後述する乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などが全て使用できるが、好ましくは溶液重合およびび塊状重合である。
【0069】
<芳香族ビニル系重合体(C3)>
芳香族ビニル系重合体(C2)は、オレフィン系重合体存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である。
【0070】
上記のオレフィン系重合体としては、上記(B)成分で述べたものが全て使用できるが、耐衝撃性の面から、好ましくはプロピレンまたはエチレンの単独重合体および共重合体であり、更に好ましくはプロピレンの単独重合体およびプロピレン系共重合体である。
【0071】
上記の芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体としては、成分(D)で後述するビニル系単量体が全て使用できるが、好ましくは、芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物を必須成分とし、これらと共重合可能な他のビニル単量体を任意成分として含む混合単量体である。
【0072】
ここで使用される芳香族ビニル化合物としては、スチレン又はα−メチルスチレンが好ましく、シアン化ビニル化合物としてはアクリロニトリルが好ましい。また、任意成分としての他のビニル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0073】
芳香族ビニル系重合体(C3)におけるオレフィン系樹脂の含有量は、オレフィン系樹脂と単量体成分の合計が100質量%として、通常10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%である。芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体における芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の質量比率は、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物として、通常30/70〜98/2、好ましくは60/40〜95/5である。
【0074】
共重合可能な他のビニル単量体の使用量は、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の合計100質量部に対し、通常50質量部以下、好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0075】
芳香族ビニル系重合体(C3)の製造方法としては、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合などの公知の方法を使用することが出来るが、特に品質の観点から、溶液重合が好ましい。また、溶液重合は、回分式重合法と連続式重合法の何れの方法によっても実施できるが、経済性の観点から、連続式重合法が好ましい。
【0076】
溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素を主体とする不活性溶剤が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、i−プロピルベンゼン等が挙げられるが、経済性および品質の観点から、トルエンが好ましい。また、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、ハロゲン化炭化水素などの極性溶媒を溶媒中の30質量%以下で使用することは差し支えないが、脂肪族炭化水素との併用は好ましくない。溶剤の使用量は、オレフィン系樹脂とビニル単量体成分との合計100質量部に対し、通常50〜200質量部、好ましくは60〜180質量部である。重合温度は、通常80〜140℃、好ましくは90〜135℃、更に好ましくは100〜130℃である。
【0077】
グラフト共重合を行う際、オレフィン系樹脂は10〜60質量%、ビニル単量体は90〜40質量%(両者の合計は100質量%)の割合で使用することが好ましい。また、予め溶媒にオレフィン系樹脂を溶解した後、ビニル単量体を添加してグラフト共重合を行うことが好ましい。この際、オレフィン系樹脂は必ずしも均一に溶解している必要はなく、一部が溶解または膨潤している状態でもよい場合がある。オレフィン系樹脂を溶解する際の溶媒温度は、通常100℃以上、好ましくは105℃以上、更に好ましくは110〜200℃、特に好ましくは110〜170℃である。オレフィン系樹脂の溶解は、上記温度範囲で2〜5時間程度の時間をかけて行うことが好ましい。オレフィン系樹脂の溶解性は、反応容器の仕様によって異なるが、一般に、100℃未満では溶解性が低く、グラフト率が下がり、目的とする性能を得ることが出来ない。グラフト共重合を行う際の重合時間は、通常1〜10時間、好ましくは1.5〜8時間、更に好ましくは2〜6時間である。重合時間が短すぎると重合率が上がらず、グラフト率が低くなる場合があり、長すぎると生産性が低下する。
【0078】
グラフト共重合に際しては、重合開始剤を使用してもよいし、重合開始剤を使用せずに熱重合で重合してもよいが、重合開始剤を使用する方が好ましい。重合開始剤としては、従来公知のものを制限なく使用することが出来るが、グラフト反応に効果的な有機過酸化物を使用するのが好ましい。
【0079】
上記の有機過酸化物としては、パーオキシエステル系化合物、ジアルキルパーオキサイド系化合物、ジアシルパーオキサイド系化合物、パーオキシジカーボネート系化合物、パーオキシケタール系化合物などが挙がられる。パーオキシエステル系化合物としては、例えば、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイド系化合物としては、例えば、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙がられる。ジアシルパーオキサイド系化合物としては、例えば、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジコハク酸パーオキサイド、ジ−(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド等が挙げられる。パーオキシジカーボネート系化合物としては、例えば、ジ−n―プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート等が挙がられる。パーオキシケタノール系化合物としては、例えば、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n―ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレート、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらのうち、好ましくはパーオキシエステル系化合物、更に好ましくは10時間半減期温度(T10)が80〜120℃であるパーオキシエステル系化合物、特に好ましくはt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートである。
【0080】
上記の重合開始剤の使用量は、オレフィン系樹脂とビニル単量体の合計100質量部に対し、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部、更に好ましくは0.1〜2質量部である。また、例えば、メルカプタン類、α―メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を使用することも出来、更に、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよく、その添加方法としては、最終製品に混合してもよいし、重合反応前後に添加してもよい。
【0081】
重合開始剤として10時間半減期温度(T10)が80〜120℃であるパーオキシエステル系化合物を使用して溶液重合を行う場合、以下の式(1)を満たす温度(Tr)の範囲で重合を行うことが好ましい。
【0082】
【数1】

【0083】
芳香族ビニル系重合体(C3)のグラフト率は、通常20〜200質量%、好ましくは30〜150質量%、更に好ましくは40〜120質量%である。このグラフト率は、以下の式(2)により求められる。
【0084】
【数2】

【0085】
上記の式(6)中、Tはオレフィン系樹脂グラフト共重合体1gをアセトン200mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは当該オレフィン系樹脂グラフト共重合体1gに含まれるポリオレフィン系樹脂の質量(g)である。
【0086】
芳香族ビニル系重合体(C3)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.1〜1.2dl/g、好ましくは0.2〜1dl/g、更に好ましくは0.2〜0.8dl/gである。
【0087】
また、芳香族ビニル系重合体(C3)のメルトフローレート(220℃、10kgの条件で測定)(MFR)は、通常5g/10分以上、好ましくは10〜200g/10分であり、IZOD(アイゾット)衝撃強度は、通常20〜200J/m、好ましくは90〜200J/mであり、曲げ弾性率は、通常1400〜3000MPa、好ましくは1500〜3000MPaである。
【0088】
なお、芳香族ビニル系重合体(C3)には、通常、ビニル単量体がオレフィン系樹脂にグラフトした共重合体とビニル単量体がオレフィン系樹脂にグラフトしていない未グラフト成分(すなわちビニル単量体同士の単独および共重合体)が含まれる。
【0089】
<スチレン系樹脂(D)>
本発明で使用するスチレン系樹脂(D)は、以下のスチレン系樹脂(D1)及び/又はスチレン系樹脂(D2)から成る
【0090】
<スチレン系樹脂(D1)>
スチレン系樹脂(D1)はゴム質重合体〔但し、芳香族ビニル系重合体(C1)及び(C2)を除く〕の存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂である。
【0091】
上記のゴム質重合体としては、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらのうち、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴムが好ましい。ゴム質重合体は2種以上を併用してもよい。
【0092】
上記のゴム質重合体のゲル含率は、特に限定されないが、乳化重合でスチレン系樹脂(D1)を得る場合、ゲル含率は、通常98質量%以下、好ましくは40〜98質量%である。斯かる条件を満足することにより、特に、一層耐衝撃性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物を得ることが出来る。
【0093】
上記のゲル含率は、以下に示す方法により求めることが出来る。すなわち、ゴム質重合体1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置した後、100メッシュの金網(質量をW1グラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量W2グラムとする)し、以下の記式(3)により算出する。
【0094】
【数3】

【0095】
ゲル含率は、ゴム質重合体の製造時に、分子量調節剤の種類および量、重合時間、重合温度、重合転化率などを適宜設定することにより調節することが出来る。
【0096】
スチレン系樹脂(D1)中のゴム質重合体の含有量は、スチレン系樹脂(D1)を基準として(100質量%として)、通常3〜80質量%、好ましくは5〜70質量%、更に好ましくは10〜60質量%である。
【0097】
前記のビニル単量体を構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物は2種以上を併用してもよい。
【0098】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、その他の各種官能基含有不飽和化合物などが挙げられる。
【0099】
本発明の好ましい態様においては、芳香族ビニル化合物を必須単量体成分とし、必要に応じ、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物およびマレイミド化合物から成る群より選ばれる1種または2種以上が単量体成分として併用され、更に必要に応じ、その他の各種官能基含有不飽和化合物の少なくとも1種が単量体成分として併用される。その他の各種官能基含有不飽和化合物としては、その他の各種官能基含有不飽和化合物としては、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、オキサドリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0100】
シアン化ビニル合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。シアン化ビニル化合物を使用すると耐薬品性が付与される。シアン化ビニル化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0101】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用すると、表面硬度が向上し、また、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(D1)の相溶性が向上する場合がある。(メタ)アクリル酸エステル化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜80質量%、好ましくは5〜80質量%である。
【0102】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N―フェニルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。また、マレイミド単位を導入するために、無水マレイン酸を共重合させ、後イミド化してもよい。マレイミド化合物を使用すると耐熱性が付与される。マレイミド化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0103】
不飽和酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。エポキシ基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。
【0104】
水酸基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N―(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。
【0105】
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。
【0106】
置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N―ビニルジエチルアミン、N―アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N―メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N―メチルアク
リルアミド、p―アミノスチレン等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。
【0107】
その他の各種官能基含有不飽和化合物を使用した場合、スチレン系樹脂(D1)と他のポリマーとをブレンドした際、両者の相溶性を向上させることが出来る。斯かる効果を達成するために好ましい単量体は、エポキシ基含有不飽和化合、不飽和酸化合物または水酸基含有不飽和化合物である。その他の各種官能基含有不飽和化合物の使用量は、スチレン系樹脂(D1)中に使用される当該官能基含有不飽和化合物の合計量として、スチレン系樹脂(D1)体に対し、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である
【0108】
全ビニル単量体中の芳香族ビニル化合物以外の単量体の使用量は、全ビニル単量体を基準として(100質量%とし)、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0109】
ビニル単量体の好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/(メタ)アクリル酸、スチレン/N―フェニルマレイミド、スチレン/メタクリル酸メチル/シクロヘキシルマレイミド等であり、特に好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル=65/45〜90/10(質量比)、スチレン/メタクリル酸メチル=80/20〜20/80(質量比)、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=スチレン量20〜80質量%、アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの合計量20〜80質量%である。
【0110】
スチレン系樹脂(D1)は、公知の重合法、例えば、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合およびこれらを組み合わせた重合法で製造することが出来る。これらのうち、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体を(共)重合する好ましい方法は、乳化重合および溶液重合である。
【0111】
乳化重合で製造する場合、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などが使用されるるが、これらは公知のものを使用できる。
【0112】
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p―メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert―ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方などのレドックス系を使用することが好ましい。
【0113】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n―ドデシルメルカプタン、t―ドデシルメルカプタン、n―ヘキシルメルカプタン、ターピノーレン類などが挙げられる。乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩などが挙げられる。
【0114】
なお、乳化重合において、ゴム質重合体およびビニル系単量体の使用方法は、ゴム質重合体の全量の存在下にビニル系単量体を一括添加して重合してもよく、分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体の一部を重合途中で添加してもよい。
【0115】
乳化重合の後、得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、水洗、乾燥することにより、スチレン系樹脂(D1)の粉末を得る。この際、乳化重合で得た2種以上のスチレン系樹脂(D1)のラテックスを適宜ブレンドした後、凝固してもよい。凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩、または硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの酸を使用することが出来る。凝固剤として酸を使用した場合は、凝固後、アルカリ性水溶液で中和処理をすることが好ましく、斯かる中和処理により、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性や耐加水分解性が向上する場合がある。中和処理に使用するアルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0116】
溶液重合によりスチレン系樹脂(D1)を製造する場合に使用することの出来る溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒であり、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N―メチルピロリドン等が挙げられる。
【0117】
重合温度は、通常80〜140℃、好ましくは85〜120℃の範囲である。重合に際し、重合開始剤を使用してもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物などが好適に使用される。また、連鎖移動剤を使用する場合、例えば、メルカプタン類、ターピノレン類、α―メチルスチレンダイマー等を使用することが出来る。また、塊状重合、懸濁重合で製造する場合、溶液重合において説明した重合開始剤、連鎖移動剤などを使用することが出来る。上記の各重合法によって得たスチレン系樹脂(D1)中に残存する単量体の量は、通常10,000ppm以下、好ましくは5,000ppm以下である。
【0118】
また、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体を重合して得られるスチレン系樹脂(D1)には、通常、ビニル系単量体がゴム質重合体にグラフト共重合した共重合体とゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分が含まれる。スチレン系樹脂(D1)のグラフト率は、通常20〜200質量%、好ましくは30〜150質量%、更に好ましくは40〜120質量%であり、グラフト率は、以下の式(4)により求めることが出来る。
【0119】
【数4】

【0120】
式(8)中、Tはスチレン系樹脂(D1)1gをアセトン20mlに投入し、振とう
機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sはスチレン系樹脂(D1)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。
【0121】
また、スチレン系樹脂(D1)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.2〜1.2dl/g、好ましくは0.2〜1.0dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。更に、スチレン系樹脂(D1)中に分散するグラフト化ゴム質重合体粒子の平均粒径は、通常500〜30,000Å、好ましくは1,000〜20,000Å、更に好ましくは1,500〜8,000Åのである。平均粒径は電子顕微鏡を使用する公知の方法で測定することが出来る。
【0122】
<スチレン系樹脂(D2)>
スチレン系樹脂(D2)は前述のビニル系単量体の重合体である。すなわち、スチレン系樹脂(D1)と異なり、ゴム質重合体の不存在下にビニル系単量体を(共)重合して得られる重合体である。従って、スチレン系樹脂(D2)に関する説明は、前述のスチレン系樹脂(D1)の説明において、ゴム質重合体)を使用しない点を除いて同じであり、「その他の各種官能基含有不飽和化合物」等の種類や使用量についても同様である。ただし、ゴム質重合体の不存在下にビニル系単量体を(共)重合する好ましい方法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合である。塊状重合および懸濁重合は公知の方法を採用することが出来、溶液重合および乳化重合は、前述のスチレン系樹脂(D1)において説明したのと同様である。
【0123】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前述の脂肪族ポリエステル(A)5〜95質量%、オレフィン系樹脂(B)4〜94質量%、芳香族ビニル系重合体(C)1〜40質量%(成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計量は100質量%)から成る。
【0124】
脂肪族ポリエステル(A)の割合が5質量%未満の場合は、成形品表面外観性が劣り、かつ、生分解性の観点から好ましくなく、95質量%を超える場合は耐衝撃性が劣る。脂肪族ポリエステル(A)の割合は、好ましくは10〜92質量%、更に好ましくは20〜85質量%、特に好ましくは30〜80質量%である。
【0125】
オレフィン系樹脂(B)の割合が4質量%未満の場合は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣り、94質量%を超える場合は耐衝撃性が劣り、かつ、生分解性の観点から好ましくない。オレフィン系樹脂(B)の割合は、好ましくは5〜90質量%、更に好ましくは10〜85質量%、特に好ましくは15〜80質量%である。
【0126】
芳香族ビニル系重合体(C)の割合が1質量%未満の場合は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣り、40質量%を超える場合は成形品表面外観性が劣る。芳香族ビニル系重合体(C)の割合は、好ましくは3〜35質量%、更に好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。
【0127】
芳香族ビニル系重合体(C)は、脂肪族ポリエステル(A)とオレフィン系樹脂(B)の相溶性を向上させて上記の優れた各物性を得ることを目的として使用されるが、要求される性能により、芳香族ビニル系重合体(C)の種類(C1)〜(C3)を使い分けるのが好ましい。
【0128】
例えば、耐衝撃性が要求される場合は、芳香族ビニル系重合体(C1)又は(C2)を使用するのが好ましく、特に芳香族ビニル系重合体(C2)を使用するのが好ましい。成形品表面外観性が要求される場合は、芳香族ビニル系重合体(C3)を使用するのが好ましい。そして、耐衝撃性と成形品表面外観性が要求される場合は(C1)及び/又は(C2)50〜95質量%と(C3)5〜50質量%を併用するのが好ましい。ここで上記の(C1)、(C2)及び(C3)の合計は100質量%である。
【0129】
更に、本発明の好ましい態様においては前記のスチレン系樹脂(D)を含有するが、その割合は、上記の成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し、通常3〜100質量部、好ましくは5〜85質量部、更に好ましくは5〜70質量部、特に好ましくは5〜60質量部である。スチレン系樹脂(D)の割合が3質量部未満の場合は、耐衝撃性を向上させる効果が十分に得られず、100質量部を超える場合は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る傾向がある。
【0130】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、公知の耐候(光)剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、シリコーンオイル、可塑剤、摺動剤、着色剤、染料、発泡剤、加工助剤(超高分子量アクリル系重合体、超高分子量スチレン系重合体)、難燃剤、結晶核剤、加水分解抑制剤(カルボジイミド化合物など)を適宜配合するこが出来る。
【0131】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、公知の無機・有機充填材を配合することが出来る。ここで、使用される充填材としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維のミルドファイバー、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、炭素繊維、炭素繊維のミルドファイバー、銀、銅、黄銅、鉄などの粉体あるいは繊維状物質、カーボンブラック、錫コート酸化チタン、錫コートシリカ、ニッケルコート炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、炭酸カルシウムウイスカー、ワラストナイト、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ヘクトライト、酸化亜鉛ウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、板状アルミナ、板状シリカ、有機処理されたスメクタイト、アラミド繊維、フェノール繊維、ポリエステル繊維、ケナフ繊維、木粉、セルロース繊維、澱粉などが挙げられれ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0132】
上記の充填材は、分散性を向上させる目的から、公知のカップリング剤、表面処理剤、集束剤などで処理して使用することが出来る。公知のカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等がある。上記の無機・有機充填材の使用量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、通常1〜200質量部である。
【0133】
更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、他の公知の重合体を適宜配合することが出来る。斯かる重合体としては、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、PMMA、メタクリル酸メチル・マレイミド化合物共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられる。
【0134】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の各構成成分を、各種の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、連続ニーダー、ロール等により溶融混練することにより製造される。混練処理に際し、各成分を一括添加して分割して添加してもよい。
【0135】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、カランダー成形、Tダイ押出成形、インフレーション成形、ラミネーション成形、真空成形、異形押出成形などの公知の成形法により樹脂成形品とされる。樹脂成形品としては、射出成形品、シート成形品(多層シートを含む)、フィルム成形品(多層フィルムを含む)、異形押出成形品、真空成形品などがある。
【0136】
上記の様にして得られた樹脂成形品は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性に優れることから、家電分野、建材分野、サニタリー分野、車両分野などにおいて、各種部品、ハウジング等として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において、「部」及び「%」は、特に断らない限り。質量基準である。また、実施例および比較例中の各種測定は、以下の方法に拠った。
【0138】
<評価方法>
【0139】
(1)ゴム質重合体のゲル含率:前記の方法に従った。
【0140】
(2)ゴム質重合体ラテックスの平均粒子径:
スチレン系樹脂(D)の製造に使用するゴム質重合体ラテックスの平均粒子径は、光散乱法で測定した。測定機は大塚電子社製「LPA―3100型」を使用し、70回積算でミュムラント法を用いた。なお、芳香族ビニル系重合体(C3)中の分散グラフト化ゴム質重合体粒子の粒子径は、ラテックス粒子径と略同じであることを電子顕微鏡で確認した。
【0141】
(3)スチレン系樹脂(D)のグラフト率:前記の方法に従った。
【0142】
(4)芳香族ビニル系重合体(C3)及びスチレン系樹脂(D)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕:前記の方法に従った。
【0143】
(5)耐衝撃性:
成形品(寸法2.4mm×50mm×100mm)を使用し、1/2インチ径、先端R1/2インチの打撃棒を使用し、2.4m/secの速度で成形品を打ち抜いた際の破壊エネルギー(kgf・cm)を求めた。
【0144】
(6)耐剥離性:
上記(5)の破壊面を目視観察し、「〇:剥離がない,×:明らかに剥離がみられる。」の2段階の基準で評価した。
【0145】
(7)成形品表面外観:
上記(5)の成形品の表面を目視観察し、「〇:成形品にフローマークがなく且つ平滑性がある,×:成形品にフローマークが発生しているか又は表面が平滑でない」の2段階の基準で評価した。
【0146】
<熱可塑性重合体組成物の成分>
【0147】
(1)脂肪族ポリエステル(A):
A1:コハク酸/1,4−ブタンジオールを主体とする脂肪族ポリエステル{三菱化学社製「GSPlaAZ91T」(商品名)}
A2:ポリ乳酸系脂肪族ポリエステル{三井化学社製「LACEAH−100J」(商品名)}
【0148】
(2)オレフィン系樹脂(B):
B1:ランダムタイプポリプロピレン、メルトフローレート0.8g/10分{日本ポリプロ社製「ノバテックPPEG8」(商品名)}
B2:ホモタイプポリプロピレン、メルトフローレート2.4g/10分{日本ポリプロ社製「ノバテックPPFY6C」(商品名)}
B3:ブロックタイプポリプロピレン、メルトフローレート2.5g/10分{日本ポリプロ社製「ノバテックPPBC6C」(商品名)}
B4:メタロセン系ポリエチレン、メルトフローレート2.0g/10分{日本ポリエチレン社製「ハーモレックスNF464N」(商品名)}
【0149】
(3)芳香族ビニル系重合体(C):後述の製造例1〜3で得られたものを使用した。
【0150】
(4)スチレン系樹脂(D):後述の製造例4及び5で得られたものを使用した。
【0151】
製造例1(スチレン−ブタジエンラジアルテレブロック共重合体(C1)の製造):
攪拌機およびジャケット付きオートクレーブを乾燥、窒素置換し、窒素気流中でシクロヘキサンとテトラヒドロフラン2.75部を投入した。スチレン25部を加え、60℃に昇温した後、n―ブチルリチウムを含むシクロヘキサン溶液を添加し、重合反応を60分間行った(1段目)。次いで、スチレン3部、ブタジエン20部の混合物を添加し、60分間重合反応を行った(2段目)、また、スチレン3部、ブタジエン20部の混合物を添加し、60分間重合反応を行った(3段目)、更に、ブタジエン29部を添加し、転化率100%になるまで重合して完結した。カップリング剤として四塩化珪素0.1部を添加した後、カップリング反応を完結させた。重合終了後、2,6−ジ−tert−ブチルカテコールを上記で得られた共重合体100部に対して0.3部添加し、その後、溶媒を除去してテーパーブロックを有するカップリングタイプのスチレン−ブタジエンブロック共重合体C1を得た。このもののスチレン含有量は31%、数平均分子量は200,000であった。
【0152】
製造例2(完全水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(C2)の製造):
攪拌機及びジャケット付きオートクレーブを乾燥、窒素置換し、窒素気流中でスチレン15部を含むシクロヘキサン溶液を投入した。次いで、n―ブチルリチウムを添加し、70℃で1時間重合した後、ブタジエン70部を含むシクロヘキサン溶液を加えて1時間重合した。その後、スチレン15部を含むシクロヘキサン溶液を添加し1時間重合し、得られたブロック重合体溶液の一部をサンプリングし、2,6−ジ−tert−ブチルカテコールをブロック共重合体100部に対して0.3部添加し、その後、溶媒を加熱除去した。このものの、スチレン含量は30%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量は35%、数平均分子量は74,000であった。残りのブロック共重合体溶液にチタノセンジクロライドとトリエチルアルミニウムをシクロヘキサン中で反応させた溶液を加え、50℃、50kgf/cmの水素圧下、3時間水素化反応を行った。2,6−ジ−tert−ブチルカテコールをブロック共重合体100部に対して0.3部添加し、その後、溶媒を除去し、ブタジエン部分の水素添加率100%の重合体C2を得た。
【0153】
製造例3(ポリプロピレン樹脂グラフト共重合体(C3)の製造):
リボン型攪拌翼付きステンレス製オートクレーブを窒素で置換した後、窒素気流中でポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ノバテックPPMA3」(商品名)、メルトフローレート11g/10分)40部、トルエン140部を仕込み、内温を120℃に昇温してこの温度を保持しながら、2時間攪拌し溶解操作を行った。その後、内温を95℃に降温して、スチレン42部、アクリロニトリル18部、重合開始剤としてtert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを0.5部添加して、再び、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら3時間反応を行った。その後、内温を100℃に冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留を行って未反応単量体と溶媒を留去した。得られたポリプロピレン系樹脂グラフト共重合体のググラフト率は40.8%、極限粘度〔η〕は0.225dl/gであった。
【0154】
製造例4(ゴム強化スチレン系樹脂(D1)の製造):
攪拌機を備えたガラス製フラスコに窒素気流中で、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(平均粒子径:2000Å、ゲル含率:85%)30部(固形分)、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(スチレン含量25%、平均粒子径6000Å)10部(固形分)、スチレン15部、アクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。1時間重合させた後、更に、イオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部、クメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加し、更に、1時間重合を継続させた後、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、水酸化カリウム水溶液で洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥してゴム強化スチレン系樹脂D1を得た.このもののグラフト率は68%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0155】
製造例5(スチレン系樹脂(D2)の製造):
リボン翼を備えたジャケット付き重合反応容器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン75部、アクリロニトリル25部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert―ドデシルメルカプタン0.12部およびトルエン5部の溶液、重合開始剤として1、1′―アゾビス(シクロヘキサンー1−カーボニトリル)0.1部およびトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤、重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し、2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は130℃、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を使用し、直接に未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度〔η〕0.48のスチレン系樹脂D2を得た。
【0156】
実施例1〜16及び比較例1〜10:
表1及び表2に記載の配合割合で、ヘンシエルミキサーにより混合した後、二軸押出機(シリンダー設定温度210℃)を使用して溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを十分に乾燥した後、射出成形(シリンダー設定度200℃)により試験片を得た。評価結果を表1及び表2に示した。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

【0159】
表1及び表2に記載された結果から以下のことが明らかである。
【0160】
(1)実施例1〜7は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性に優れる。これに対し、比較例1は、成分(A)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、成形品表面外観性が劣る。比較例2は、成分(A)の使用量が本発明の範囲外で多く、成分(B)及び成分(c)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性が劣る。比較例3は、成分(B)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る。比較例4は、成分(B)の使用量が本発明の範囲外で多く、成分(A)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性が劣る。比較例5は、成分(C)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る。比較例6は、成分(C)の使用量が本発明の範囲外で多いため、成形品表面外観性が劣る。
【0161】
(2)実施例8〜16は、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性に優れるが、実施例1〜7に比し、更に所定量の成分(D)を使用したことにより、耐衝撃性が一層優れる。これに対し、比較例7は、成分(A)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、成形品表面外観性が劣る。比較例8は、成分(C)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る。比較例9は、成分(D)の使用量が本発明の範囲外で多いため、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る。比較例10は、成分(B)の使用量が本発明の範囲外で少ないため、耐衝撃性、耐剥離性および成形品表面外観性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル(A)5〜95質量%、オレフィン系樹脂(B)4〜94質量%、以下の(C1)〜(C3)から選ばれた少なくとも1種の芳香族ビニル系重合体(C)1〜40質量%(成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計量は100質量%)であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
上記の芳香族ビニル系重合体(C1)は芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体から成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C2)は芳香族ビニル系重合体(C1)を水素添加して成るエラストマーであり、上記の芳香族ビニル系重合体(C3)はオレフィン系重合体存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である。
【請求項2】
更に、以下の(D1)及び/又は(D2)から成るスチレン系樹脂(D)を含有し、その割合が、成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し、3〜100質量部である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
上記のスチレン系樹脂(D1)はゴム質重合体〔但し、芳香族ビニル系重合体(C1)及び(C2)を除く〕の存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂であり、上記のスチレン系樹脂(D2)は上記のゴム質重合体の不存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を(共)重合して得られるスチレン系樹脂である。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル(A)がポリ乳酸系樹脂である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル(A)が1,4−ブタンジオールとコハク酸から主として得られる脂肪族ポリエステルである請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル(A)が他の成分として乳酸を共重合した脂肪族ポリエステル共重合体である請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物から成ることを特徴とする樹脂成形品。

【公開番号】特開2008−88315(P2008−88315A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271442(P2006−271442)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】