説明

熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた成形品

【課題】難燃性、機械特性、電気絶縁性に優れ、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生が少なく、環境問題に対応した難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物と成形部品を提供する。
【解決手段】樹脂成分が(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂100〜70質量%並びに(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン樹脂0〜30質量%からなり、樹脂成分中のエチレン以外の共重合成分が15〜60質量%である熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水和物を50〜300質量部および(C)芳香族ポリマーを1〜100質量部含有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性と柔軟性、耐熱性に優れ、しかも難燃性に非常に優れた熱可塑性樹脂組成物と該組成物を被覆材とする配線材、光ファイバコード、その他の成形部品に関するものである。
より詳しくは、本発明は、電気・電子機器の内部または外部配線に使用される絶縁電線、電気ケーブル、電気コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの成形部品の被覆材として、または電源コード等のモールド材料、チューブ、シートとして好適な難燃性の熱可塑性樹脂組成物およびそれを導体に被覆した成形部品、その他の成形部品に関する。特に、埋立、燃焼などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害ガスの発生が少なく、かつ、使用後のリサイクル処理に適し、環境問題に対応したものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどには、難燃性、耐熱性、機械特性(例えば、引張特性、耐摩耗性)など種々の特性が要求されている。
このため、これらの配線材に使用される被覆材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや、分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドが主として使用されていた。
しかし、これらを適切な処理をせずに廃棄し、埋立てた場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出したり、また燃焼した場合には、被覆材料に含まれるハロゲン化合物から有害ガスが発生することがあり、近年、この問題が議論されている。
【0003】
このため、環境に影響をおよぼすことが懸念されている有害な可塑剤や重金属の溶出や、ハロゲン系ガスなどの発生の恐れがないハロゲンフリー難燃材料で被覆した配線材の検討が行われている。
ハロゲンフリー難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させており、例えばエチレン−1-ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−−プロピレン−ジエン三元共重合体などのエチレン系共重合体に、難燃剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水和物を多量に配合した材料が配線材に使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、芳香族ポリアミド等と金属水和物からなる難燃剤とポリエチレン樹脂と混合した難燃性樹脂組成物がある(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械特性(例えば引張特性、耐摩耗性)などの規格は、UL、JISなどで規定されている。特に、難燃性に関しては、要求水準(その用途)などに応じてその試験方法が変わってくる。したがって実際は、少なくとも要求水準に応じた難燃性を有すればよい。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験に合格する難燃性などがそれぞれ挙げられる。
【0005】
電子機器用に使用される電子機器用配線においてはUL規格で規定されている特に厳しい垂直難燃規格(UL1581 VW−1)に合格することが必要となる。この場合は、共重合成分の多いエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン系共重合体を主体とした樹脂成分に、金属水和物を多量に配合することが必要であるが、この処方は電子機器用途としては重要な電気絶縁性を著しく低下させてしまう。また、力学的特性についても、例えば、伸び150%、抗張力10.3MPa以上がUL規格で規定されており、従来のノンハロゲン材料ではこれらの特性を同時に満足することは困難であった。
【特許文献1】特開2001−135142号公報
【特許文献2】特開2001−316537号公報
【特許文献3】特開2007−297564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、難燃性、機械特性および電気絶縁性に優れ、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生が少なく、昨今の環境問題に対応し、難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物と成形部品を提供することを目的とする。
さらに本発明は、これらの特性を満足しながら、被覆材料の再溶融による再利用が可能であり、その熱可塑性樹脂組成物を成形した電子機器用途として重要である難燃性、電気絶縁性及び機械的特性の優れたコネクタ、プラグ等の成形品、或いは再溶融することによって再利用が可能な熱可塑性樹脂を適用した電線、ケーブル、光ファイバ心線、光ファイバコード等の成形部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、特定の共重合体、変性ポリエチレン、金属水和物および芳香族ポリマーを組み合わせて、難燃性、電気絶縁性及び機械的特性を併せ持った熱可塑性樹脂組成物を得た。
すなわち、本発明は、
(1)樹脂成分が(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂100〜70質量%並びに(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン樹脂0〜30質量%からなり、樹脂成分中のエチレン以外の共重合成分が15〜60質量%である熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水和物を50〜300質量部および(C)芳香族ポリマーを1〜100質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
(2)前記芳香族ポリマーが、芳香族ポリイミド樹脂であることを特徴とする(1)記載の熱可塑性樹脂組成物、
(3)前記(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を導体の外側に被覆層として有することを特徴とする成形部品、
(4)前記(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を導体の外側に被覆層として有することを特徴とする電線またはケーブル、および
(5)前記(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形部品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、難燃性、電気特性に優れるため、これを用いた成形品は電子・電機機器内の部品へ使用することができる。特に、VW−1に合格するだけの十分な難燃性を達成しながら、高い電気特性および機械的特性を維持することができるため、電線やケーブルの被覆材として使用することができる。
通常、十分な難燃性を得るためには樹脂成分中の共重合成分の含有率を高くし、かつ金属水和物などのフィラーを多量に含有する必要があるため、電気特性は著しく低下してしまうが、本発明においては、共重合体と芳香族ポリマーを組合わせ含有することにより、優れた難燃性を維持しながら、機械的特性および電気特性の低下を抑えることができるという効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい実施の態様について詳細に説明する。
まず、本発明の熱可塑性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0010】
(A)熱可塑性樹脂成分
熱可塑性樹脂成分(A)は、(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂を含有し、さらに(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン樹脂を含有していてもよい。
【0011】
(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、またはエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本発明の(a)成分としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えばエチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)の少なくとも1種が用いられる。これらのエチレン系共重合体は、金属水和物などのフィラーに対する受容性が高いため、フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持する効果がある。また、これらのエチレン系共重合体は樹脂自体が難燃性を有する。
この共重合体の含有量は樹脂成分(A)中100〜70質量%であり、好ましくは100〜80質量%、より好ましくは95〜85質量%である。この共重合体含有量が少なすぎると、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が著しく低下する。
難燃性を向上させるためには、さらに、エチレン以外の共重合成分の含有量が樹脂成分(A)中15〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜50質量%である。共重合成分の含有量が多すぎると、加工性が悪くなり、少ないと機械的強度が著しく低下する。
また、この共重合体のメルトフローレート(ASTM D−1238に準拠)は流動性の面から0.1g/10分以上、強度保持の面から10g/10分以下が好ましい。
【0012】
(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン樹脂
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されるポリオレフィン樹脂のポリオレフィンとしては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。本発明において成分(b)とは、これらの樹脂を不飽和カルボン酸やその誘導体(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等という)で変性した樹脂のことである。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。
ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量は通常0.1〜7質量%程度である。
【0013】
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂の配合は必ずしも必須ではないが、これを加えることにより、得られる熱可塑性樹脂組成物の伸びを大きくすると共に強度を保持する効果がある。
特に(b)成分の不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂の中でも不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリエチレンが好ましい。不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリエチレンを加えることにより、力学的強度が増大する。
(b)成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)中0〜30質量%、好ましくは20質量%以下である。これが本発明の規定量を超えると押出負荷が著しく高くなり、成形性に問題が発生する。
【0014】
(B)金属水和物
本発明において用いることのできる金属水和物の種類は特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。
また、上記金属水和物は未処理でも表面処理されていてもよい。本発明で用いることができる水酸化アルミニウムとしては、表面未処理のもの(「ハイジライトH42M」(商品名、昭和電工製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「ハイジライトH42S」(商品名、昭和電工製)など)などがあげられる。また、本発明で用いることができる水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(「キスマ5」(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「キスマ5A」(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたもの(「キスマ5J」(商品名、協和化学社製)など)、ビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理されたもの(「キスマ5L」(商品名、協和化学社製)など)がある。
垂直難燃性を維持させる場合、その含有量が熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、50〜300質量部、好ましくは150〜250質量部加える。あまり多く加えると力学的強度、電気的特性、耐熱性が著しく低下したり、外観が悪くなるためであり、少なすぎると所望の難燃性を維持させることができない。
【0015】
(C)芳香族ポリマー
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、芳香族ポリマーを含有する。芳香族ポリマーは、熱分解温度が高いため、樹脂自体が非常に高い難燃性を有する。また、分子内に芳香環を有するため、炭化層を形成し延焼を抑制する効果がある。本発明における芳香族ポリマーとしては、例えば、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリエーテルサルフォン、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリスチレンなどが挙げられる。
本発明において、芳香族ポリマーの形状はペレット状、粉末状いずれでもよいが、熱可塑性樹脂成分の加工温度の範囲内で加工する場合、粉末状の方が好ましい。さらに、その際には、芳香族ポリマーの粒経は100μm以下であることが好ましい。
(C)成分である芳香族ポリマーの配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、1〜100質量部、好ましくは3〜50質量部、さらに好ましくは5〜30質量部である。これが多すぎると加工性が悪くなったり、機械的強度が著しく低下し、少なすぎると十分な電気的特性が得られない。
【0016】
本発明の難燃性の熱可塑性樹脂組成物には、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
酸化防止剤としては、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0017】
金属不活性剤としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
特に、シリコーンゴム、シリコーンオイルなどのシリコーン化合物は、難燃性を付与、向上させるだけでなく、電線やコードにおいては、絶縁体(前記熱可塑性樹脂組成物を含んでなる被覆層)と導体の密着力を制御する効果があり、ケーブルにおいては、滑性を付与することで、外傷を低減させる効果がある。このような本発明で用いられるシリコーン化合物の具体例としては、「SFR−100」(商品名、GE社製)、「CF−9150」(商品名、東レ・ダウシリコーン社製)などの市販品が挙げられる。
【0018】
添加する場合、シリコーン化合物は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部配合される。0.5質量部より少ないと難燃性や滑性に対して実質的に効果がなく、5質量部を越えると電線、コード、ケーブルの外観が低下したり、押出成形速度が低下し量産性が悪くなる場合がある。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で前記添加物や他の樹脂を導入することができるが、少なくとも前記熱可塑性樹脂成分(A)を主樹脂成分とする。ここで、主樹脂成分とするとは、本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂成分中、通常70質量%以上、好ましくは85質量%以上が好ましい。
【0020】
以下、本発明の難燃性の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明する。
熱可塑性樹脂成分(A)の成分(a)および(b)、金属水和物(B)、芳香族ポリマー(C)、さらに必要に応じて他の樹脂や添加物を加え、加熱混練する。混練温度は、好ましくは160〜240℃であり、混練温度や混練時間等の混練条件は、樹脂成分(a)および(b)が溶融する温度で適宜設定できる。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0021】
次に、本発明の絶縁電線、ケーブル、光ファイバコード等の成形部品について説明する。
本発明は、例えば導体の外側に上記の本発明の熱可塑性樹脂組成物が被覆された絶縁電線やケーブルなどがあり、難燃性を有する熱可塑性樹脂組成物は電気・電子機器の内部および外部配線に使用される配線材や光ファイバ心線、光ファイバコードなどの被覆、製造に適する。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を導体の被覆材として使用する場合には、好ましくは押出成形により、導体の外側に形成した少なくとも1層の前記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層を有するものであり、被覆層が多層構造であってもよく、本発明の熱可塑性樹脂組成物で形成した被覆層のほかに他の樹脂で形成した中間層など特に制限はなく、外側に形成した被覆層とは必ずしも最外層の被覆層を意味するものではない。
導体としては、軟銅の単線若しくは撚線など又は光ファイバ素線若しくは光ファイバ心線を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。
本発明の電線等の成形部品は、本発明の難燃性樹脂組成物を、押出成形機を用いて、導体周囲や絶縁電線周囲に押出被覆することにより製造することができる。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
【0023】
本発明の成形部品である電線、例えば絶縁電線においては、導体の周りに形成される絶縁層(本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが0.15mm〜5mmが好ましい。
また、本発明の成形部品においては、難燃性樹脂組成物を押出成形してそのまま被覆層を形成しても良いが、耐熱性を向上させることを目的として、押出成形後の被覆層を架橋させることも可能である。
架橋を行う場合の方法として、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。
電子線架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋をおこなう。電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、被覆層を構成する難燃性樹脂組成物に、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は、難燃性樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に常法により加熱処理により架橋をおこなう。
【0024】
本発明の導体の外側に熱可塑性樹脂組成物を被覆層として有する成形部品として、光ファイバ心線または光ファイバコードがある。これは、押出成形機を使用して、光ファイバ素線の周囲に、または抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバ心線の周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆することによって製造される。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、光ファイバ等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の光ファイバ心線は、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないでそのまま使用される。被覆層の厚さ、光ファイバ心線に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバコードの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
本発明のケーブルは、上記した絶縁電線、光ファイバコード、光ファイバ心線等をさらにシース(保護被覆)で被覆したものである。このシースには、上記した本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用してもしなくても良い。使用する場合は、シースは少なくとも1層の前記本発明の熱可塑性樹脂組成物を有していればよく、多層構造であってもよく、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の樹脂で形成した層を有していてもよい。
【0025】
本発明の成形部品としては、その形状は制限されるものではなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。本発明の成形部品は、通常の射出成形等の成形方法により本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される。
またシートやチューブ等についても電線被覆と同様な方法で押出し可能である。また電線と同様、化学架橋法や電子線架橋法により架橋を行ってもよい。
また、本発明の成形部品として、例えば電子部品等の射出成形品を得る場合は、樹脂種類によるが、シリンダー温度220℃程度、ヘッド温度230℃程度で射出成形可能である。射出成形装置としては通常のPVC樹脂等の成形に用いられている射出成形機を用いることにより、成形可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1〜9および比較例1〜5]
表1に実施例1〜9および表2に比較例1〜5の樹脂組成物の各成分の含有量(表中の数字は、断りのない限り質量部である)を示す。表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各樹脂組成物を製造した。なお、表中の「共重合成分」は、エチレン以外の共重合成分である。
【0027】
表中に示す各成分材料は以下の通りである。
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体
・商品名:エバフレックスV5274 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:ウルトラセンYX−21K 東ソー社製
・商品名:レバプレン800HV ランクセス社製
(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
・商品名:エバフレックスEEA A714 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:ベイマックDP デュポン社製
(a´)直鎖低密度ポリエチレン
・商品名:ノバテックPE UE320 日本ポリエチレン社製
(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン
・商品名:アドテックスDU8300 日本ポリエチレン社製
【0028】
(B)金属水和物
・商品名:キスマ5L 協和化学社製
(C1)芳香族ポリイミド
・商品名:UIP−S 宇部興産社製
(C2)ポリスチレン
・商品名:SX−350 綜研化学社製
(添加剤)アクリル系架橋助剤
・商品名:NKエステルAPG200 新中村化学工業社製
【0029】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、予め溶融混練した各樹脂組成物を導体(銅体径0.76mmΦの錫メッキ軟銅撚線、構成17本/0.16mmΦ)上に外径2.44mmΦとなるように押出被覆して、絶縁電線を製造した。これに加速電圧750keV、照射量5Mradの電子線を照射して架橋絶縁電線を得た。
製造した熱可塑性樹脂組成物被覆の絶縁電線に対して、下記の評価を行った。得られた実施例1〜9の評価結果を表1に、比較例1〜5の評価結果を表2に示す。
【0030】
(1)機械特性
UL1571に準拠し、上記の電線より管状片を作成し引張試験を行った。標線間25mm、引張速度500mm/分で試験を行った。伸び150%以上、引張り強さ10MPa以上が必要である。
(2)難燃性(垂直難燃性試験)
各絶縁電線について、UL1581の Vertical Flame Test を行った。同様に5個のサンプルを用いて評価を行った。残炎時間が60秒以内が合格である。全数合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
(3)電気絶縁性
各絶縁電線50mの把を20℃の水道水に浸漬し、1時間後、24時間後の絶縁抵抗を測定した。電線やケーブルとして用いるには、100MΩ・km以上の絶縁抵抗が必要である。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1および表2の結果から、本発明の実施例1〜9のものは、優れた機械特性(引張り強さ、伸び)、難燃性、電気絶縁性等を有することが明らかとなった。
これに対し、熱可塑性樹脂組成物中にエチレン以外の共重合成分を含有しない比較例1および2は、難燃性に劣り、抗張力、伸びも規定に達していない。エチレン以外の共重合成分が本発明で規定する範囲に入らない比較例3および4は難燃性あるいは抗張力のいずれかに欠陥があり、水浸漬後の電気絶縁性が劣る。また、芳香族ポリマーを含有しない比較例5は、水浸漬後の電気絶縁性が極めて悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分が(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂100〜70質量%並びに(b)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン樹脂0〜30質量%からなり、該樹脂成分中のエチレン以外の共重合成分が15〜60質量%である熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水和物を50〜300質量部および(C)芳香族ポリマーを1〜100質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリマーが、芳香族ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物を導体の外側に被覆層として有することを特徴とする成形部品。
【請求項4】
請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物を導体の外側に被覆層として有することを特徴とする電線またはケーブル。
【請求項5】
請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形部品。

【公開番号】特開2010−126649(P2010−126649A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303250(P2008−303250)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】