説明

熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた樹脂成形品および偏光子保護フィルム

【課題】耐熱性を有するアクリル系樹脂と紫外線吸収剤(UVA)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、成形時ならびに成形後におけるブリードアウトなどの欠点の発生が抑制された組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂と、25℃で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とを含み、ガラス転移温度が110℃以上である熱可塑性樹脂組成物とする。上記アクリル系樹脂は環構造を主鎖に有することが好ましく、環構造は、例えばラクトン環構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光子保護フィルムとに関する。また、本発明は、上記保護フィルムを備える偏光板と、当該偏光板を備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるアクリル系樹脂は、高い光線透過率を有するなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスに優れることから、自動車および家電製品をはじめとする各種の工業製品における透明材料として幅広く使用されている。また近年、画像表示装置に用いる光学部材など、光学関連用途への使用が増大している。
【0003】
アクリル系樹脂は、紫外線を含む光に曝されると、黄変して透明度が低下することがあり、これを防ぐ方法として、紫外線吸収剤(UVA)を添加する方法が知られている。しかし、UVAの分子量は一般に小さく、アクリル系樹脂とUVAとを含む樹脂組成物を成形する際に、発泡が生じたり、UVAがブリードアウトしたりすることがある。また、この方法では、成形時に加えられた熱によりUVAが蒸散して、得られた成形品の紫外線吸収能が低下したり、成形装置がUVAにより汚染されるなどの問題が生じることがある。
【0004】
一方、透明性と耐熱性とを兼ね備えたアクリル系樹脂として、主鎖に環構造を有する樹脂が知られている。主鎖に環構造を有する樹脂は、主鎖に環構造を有さない樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が高く、例えば、画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が容易となるなど、実用上の様々な利点を有する。例えば特許文献1、2には、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体を環化縮合反応させて得られた、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル系樹脂が開示されている。特許文献3には、環構造としてN−置換マレイミド構造を主鎖に有するアクリル系樹脂が開示されている。特許文献4には、環構造としてグルタルイミド構造を主鎖に有するアクリル系樹脂が開示されている。
【0005】
しかし、これら耐熱性を有するアクリル系樹脂は、一般のアクリル系樹脂に比べて、その成形温度を高くする必要がある。このため、耐熱性を有するアクリル系樹脂にUVAを添加すると、得られた成形品に発泡あるいはブリードアウトなどの欠点が発生しやすくなり、また、成形時にUVAの蒸散が強くなることによる紫外線吸収能の低下や、成形装置の汚染が生じやすい。
【0006】
これらの問題を考慮し、これまで、少量の添加により高い紫外線吸収効果が得られるとされるトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物あるいはベンゾフェノン系化合物が、UVAとして、アクリル系樹脂と組み合わせて用いられている。例えば、上述した特許文献4にも、上記化合物が開示されている。
【0007】
しかし、これらの化合物は、耐熱性を有するアクリル系樹脂との相容性に課題が残る。また、アクリル系樹脂とUVAとを含む樹脂組成物から光学部材を形成する際には、得られた部材の外観上の欠点を減らすために、組成物をポリマーフィルタなどにより濾過して当該組成物内に存在する異物を予め除去することが望まれるが、そのためには組成物の成形温度をさらに高くする必要がある。成形温度がさらに高くなると、発泡の発生あるいは成形装置の汚染の程度が高くなるために、上記問題のさらなる改善が望まれる。一方、アクリル系樹脂とUVAとを含む樹脂組成物を光学部材、特にフィルムとして使用する場合、フィルム成形後にUVAが徐々にブリードアウトして、当該フィルムの光線低下率が低下したり、濁度(ヘイズ)が上昇するなどの品質の低下が生じやすい。フィルムの光線低下率が低下したり、濁度が上昇すると、当該フィルムを光学部材として使用することが困難となる。
【特許文献1】特開2000−230016号公報
【特許文献2】特開2006−96960号公報
【特許文献3】特開2007−31537号公報
【特許文献4】特開2006−328334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、耐熱性を有するアクリル系樹脂と、UVAとを含む熱可塑性樹脂組成物であって、成形時ならびに成形後におけるブリードアウトなどの欠点の発生が抑制された樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂(樹脂(A))を主成分とする熱可塑性樹脂と、25℃で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(UVA(B))とを含み、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上である。
【0010】
本発明の樹脂成形品は、上記本発明の樹脂組成物からなる。本発明の樹脂成形品は、例えば、フィルムまたはシートである。
【0011】
本発明の偏光子保護フィルムは、本発明の樹脂成形品の1種であり、上記本発明の樹脂組成物からなる。
【0012】
本発明の偏光板は、偏光子と、上記本発明の偏光子保護フィルムとを備える。
【0013】
本発明の画像表示装置は、本発明の偏光板を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物では、アクリル系樹脂(A)を主成分とする熱可塑性樹脂と、25℃で液体であるベンゾトリアゾール系のUVA(B)とを組み合わせることにより、成形時ならびに成形後におけるブリードアウトなどの欠点の発生を抑制できる。即ち、本発明の樹脂組成物により、高い紫外線吸収能を有し、ブリードアウトなどの欠点が少なく、さらに、実際の使用中における、光線透過率の低下や濁度の上昇が抑制された樹脂成形品を製造できる。なお、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤とは、紫外線を吸収するための発色団として、ベンゾトリアゾール骨格を含む化合物をいう。
【0015】
また、本発明の組成物に含まれる熱可塑性樹脂の主成分である樹脂(A)がアクリル系樹脂であること、樹脂(A)とUVA(B)との相容性が高いこと、ならびに、組成物としてのガラス転移温度が110℃以上であることから、本発明の樹脂組成物により、耐熱性および透明性に優れる樹脂成形品を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[樹脂組成物]
以下、本発明の樹脂組成物について詳細に説明する。
【0017】
[樹脂(A)]
樹脂(A)はアクリル系樹脂であり、その種類は特に限定されない。ここで、アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する樹脂のことである。アクリル系樹脂が有する全構成単位における、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合の合計は、通常50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0018】
なお、本明細書におけるTgは、JIS K7121の規定に基づき、示差走査熱量計(DSC)を用いて、始点法により求めた値とする。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの単量体に由来する構成単位が挙げられる。樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、これらの構成単位を2種類以上有していてもよい。樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、樹脂(A)(ならびに樹脂組成物および当該組成物を成形して得た樹脂成形品)の熱安定性が向上する。
【0020】
樹脂(A)は主鎖に環構造を有することが好ましい。この場合、樹脂(A)のTgが向上し、樹脂組成物のTgを110℃以上とすることが容易となる。環構造の種類、ならびに樹脂(A)における環構造の含有率によっては、樹脂組成物のTgを120℃以上、さらには130℃以上とすることもできる。また、樹脂(A)が主鎖に環構造を有する場合、当該組成物を成形して得た成形品の耐熱性が向上する。
【0021】
環構造の種類は特に限定されないが、例えば、樹脂(A)は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造、およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有していてもよい。
【0022】
樹脂(A)のTgを向上させる効果が大きいことから、樹脂(A)は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有することが好ましい。
【0023】
なかでも、光学特性に優れる樹脂組成物および樹脂成形品が得られることから、樹脂(A)が、ラクトン環構造を主鎖に有することが特に好ましい。
【0024】
以下の式(3)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
【0025】
【化3】

【0026】
上記式(3)におけるR7およびR8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR9は存在せず、X1が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0027】
1が窒素原子のとき、式(3)により示される環構造は、グルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0028】
1が酸素原子のとき、式(3)により示される環構造は、無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0029】
以下の式(4)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
【0030】
【化4】

【0031】
上記式(4)におけるR10およびR11は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR12は存在せず、X2が窒素原子のとき、R12は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0032】
2が窒素原子のとき、式(4)により示される環構造は、N−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造は、例えば、N−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
【0033】
2が酸素原子のとき、式(4)により示される環構造は、無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
【0034】
なお、式(3)、(4)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体が、全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有するため、上記各方法により得た樹脂はアクリル系樹脂となる。
【0035】
樹脂(A)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れることから、5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造が挙げられるが、前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで、ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)が得られる)の重合収率が高く、前駆体の環化縮合反応により、高いラクトン環含有率を有する樹脂(A)とすることができ、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体とすることができることから、以下の式(2)により示される構造であることが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
上記式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0038】
式(2)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;であってもよい。
【0039】
ラクトン環構造は、分子鎖内に水酸基およびエステル基を有する前駆体を脱アルコール環化縮合させて形成できる。式(2)に示すラクトン環は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)との共重合体を形成した後、当該共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させることで形成できる。このとき、R4はH、R5はCH3、R6はCH3である。
【0040】
樹脂(A)における環構造の含有率は特に限定されないが、通常、5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%、および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。上記含有率が過度に小さくなると、樹脂組成物としての(ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品としての)耐熱性が低下したり、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、上記含有率が過度に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下する。
【0041】
樹脂(A)がラクトン環構造を有する場合、樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めることができる。最初に、ラクトン環構造を有する樹脂(A)に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とする。150℃は、樹脂(A)に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、樹脂(A)の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体である重合体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とする。具体的には、理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、必要に応じて、樹脂(A)の組成から導くことが可能である。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)、により、樹脂(A)の脱アルコール反応率を求める。樹脂(A)では、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率を求めることができる。
【0042】
一例として、後述の実施例1で作製した樹脂(A)の脱アルコール反応率を求める。脱アルコール反応により生成するメタノールの分子量が32であり、前駆体(MHMAとMMAとの共重合体)における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位であるMHMA単位の含有率は20重量%であり、MHMA単位の単量体換算の分子量が116であることから、上記樹脂(A)の理論重量減少率(Y)は、(32/116)×20=5.52重量%となる。一方、上記樹脂(A)の実測重量減少率(X)は、0.18重量%であったので、脱アルコール反応率は96.7%(=(1−0.18/5.52)×100(%))となる。
【0043】
次に、上記樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率を求める。前駆体におけるMHMA単位の含有率が20重量%、MHMA単位の単量体換算の分子量が116、脱アルコール反応率が96.7%、ラクトン環構造の式量が170であることから、上記樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、28.3%(=20×0.967×170/116)となる。
【0044】
樹脂(A)における環構造の含有率は、赤外分光、近赤外分光、ラマン分光、核磁気共鳴、熱分解ガスクロマトグラフィ、あるいは質量分析などの各種の分析手法を、樹脂(A)が含有する環構造の種類に応じて適宜適用して求めてもよい。
【0045】
樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよく、このような構成単位としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、などの単量体に由来する構成単位が挙げられる。樹脂(A)は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
【0046】
樹脂(A)は、当該樹脂に対して負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位を有していてもよい。この場合、樹脂組成物(ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品)の複屈折性の制御の自由度が向上し、本発明の樹脂組成物から形成した樹脂成形品(例えば、樹脂フィルム)の光学部材としての使用用途が拡大する。
【0047】
なお、固有複屈折とは、樹脂の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)における、分子鎖が配向する方向(配光軸)に平行な方向の光の屈折率n1から、配光軸に垂直な方向の光の屈折率n2を引いた値(即ち、“n1−n2”)をいう。樹脂(A)自体の固有複屈折の正負は、固有複屈折に関して当該構成単位が与える作用と、樹脂(A)が有するその他の構成単位が与える作用との兼ね合いにより決定される。
【0048】
樹脂(A)に対して負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位の一例は、スチレン単位である。
【0049】
樹脂(A)は、紫外線吸収能を有する構成単位(UVA単位)を有していてもよい。この場合、樹脂組成物(ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品)の紫外線吸収能がさらに向上し、UVA単位の構造によっては、樹脂(A)とUVA(B)との相容性が向上する。
【0050】
UVA単位の起源となる単量体(C)は特に限定されず、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、またはベンゾフェノン誘導体を用いてもよい。導入する重合性基は、樹脂(A)が有する構成単位の構造に応じて、適宜選択できる。
【0051】
単量体(C)の具体例としては、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(商品名RUVA−93、大塚化学社製)、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、が挙げられる。
【0052】
単量体(C)の上記とは別の具体例としては、以下の式(5)、(6)、(7)により示されるトリアジン誘導体、あるいは、以下の式(8)により示されるベンゾトリアゾール誘導体が挙げられる。
【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
なお、単量体(C)の具体例として上記したベンゾトリアゾール誘導体は、全て、25℃で固体である。
【0058】
樹脂(A)がUVA単位を含む場合、樹脂(A)における当該単位の含有率は、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。樹脂(A)におけるUVA単位の含有率が20重量%を超えると、樹脂組成物としての耐熱性が低下し、樹脂組成物の製造コストが非常に大きくなる。
【0059】
樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000〜300000の範囲であり、5000〜250000の範囲が好ましく、10000〜200000の範囲がより好ましく、50000〜200000の範囲がさらに好ましい。
【0060】
樹脂(A)は公知の方法により製造できる。ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報、特開2007−63541号公報に記載の方法による製造が可能である。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)、無水グルタル酸構造を主鎖に有する樹脂(A)、および、グルタルイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)は、特開2007−31537号公報、国際公開第2007/26659号パンフレット、国際公開第2005/108438号パンフレットに記載の方法により製造できる。無水マレイン酸構造を主鎖に有する樹脂(A)は、特開昭57−153008号公報に記載の方法により製造できる。
【0061】
[UVA(B)]
UVA(B)は、25℃で液体であるベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤である限り、特に限定されない。「25℃で液体」とは、UVA(B)の温度が25℃のときに流動性を保持している状態をいう。UVA(B)の25℃における粘度は、5000mPa・s以上が好ましく、15000mPa・s以上であることが特に好ましい。UVA(B)の粘度は、ブルックフィールド型の粘度計を用い、JIS K7117−1の規定に基づき測定できる。
【0062】
UVA(B)における、波長300nmから380nmの範囲の光に対する最大吸収波長のモル吸光係数は、クロロホルム溶液中において10000(L・mol-1・cm-1)以上が好ましく、15000(L・mol-1・cm-1)以上がより好ましい。
【0063】
UVA(B)は、以下の式(1)に示される構造を有することが好ましい。
【0064】
【化10】

【0065】
上記式(1)におけるR1は炭素数4以上20以下のアルキル基であり、R2は炭素数8以上20以下のアルキル基もしくはアルキルエステル基であり、R3は水素原子またはハロゲン原子である。なお、アルキルエステル基は、式「−R13−C(=O)OR14」により示される基であることが好ましく、上記式において、R13、R14はアルキル基である。R1、R13、R14は直鎖アルキル基であっても、分岐を有するアルキル基であってもよい。
【0066】
上記式(1)において、R1およびR2の分子量の和が、R1およびR2を除く部分の分子量よりも大きいことが好ましい。
【0067】
このようなUVA(B)の具体例を、以下の式(9)、(10)に挙げる。
【0068】
【化11】

【0069】
【化12】

【0070】
上記式(9)により示されるUVA(B)を主成分として含む市販の紫外線吸収剤には、例えば、TIUVIN384−2(チバスペシャリティケミカルズ社製)がある。また、上記式(10)により示されるUVA(B)を主成分として含む市販の紫外線吸収剤には、例えば、TIUVIN109(チバスペシャリティケミカルズ社製)がある。
【0071】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物におけるUVA(B)の含有量は特に限定されないが、例えば、樹脂(A)をはじめとする熱可塑性樹脂100重量部に対して、即ち、当該組成物に含まれる熱可塑性樹脂全体の重量を100重量部としたときに、0.5〜5重量部の範囲である。UVA(B)の含有量が過度に小さくなると、十分な紫外線吸収能を得ることができない。一方、UVA(B)の含有量が過度に大きくなると、紫外線吸収能が増加するメリットよりも、成形時あるいは成形後に、ブリードアウトが発生するデメリットの方が大きくなる。
【0072】
本発明の樹脂組成物におけるUVA(B)の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、UVA(B)1〜5重量部が好ましく、1〜4重量部がより好ましく、1〜3重量部がさらに好ましい。
【0073】
また、本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の主成分は樹脂(A)である。具体的には、本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂全体に占める樹脂(A)の割合は60重量%以上であり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは85重量%以上である。換言すれば、本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、当該組成物に含まれる熱可塑性樹脂全体に占める割合にして40重量%未満の範囲(好ましくは30重量%未満の範囲、より好ましくは15重量%未満の範囲)で含んでいてもよい。
【0074】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、あるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、その表面に、樹脂(A)と相溶し得る組成のグラフト部を有することが好ましく、また、ゴム質重合体が粒子状である場合、その平均粒子径は、本発明の樹脂組成物を樹脂フィルムとしたときの透明性向上の観点から、300nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。
【0075】
上記例示した熱可塑性樹脂のなかでも、樹脂(A)との相容性に優れることから、スチレン−アクリロニトリル共重合体および塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、110℃以上の高いガラス転移温度(Tg)を有する。樹脂(A)の構成(例えば、樹脂(A)が主鎖に環構造を有する場合、その環構造の種類、あるいは樹脂(A)における環構造の含有率など)によっては、本発明の樹脂組成物のTgは120℃以上、さらには130℃以上となる。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、UVA(B)に基づく紫外線吸収能を有し、例えば、厚さ100μmのフィルムとしたときに、波長380nmの光に対する透過率を30%未満、場合によっては25%以下、さらには20%以下とすることができる。この透過率は、JIS K7361:1997の規定に基づいて測定すればよい。
【0078】
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)とUVA(B)との相溶性に基づく、高い可視光透過率を有し、例えば、厚さ100μmのフィルムとしたときに、波長500nmの光に対する透過率を80%以上、場合によっては90%以上とすることができる。この透過率は、上述した波長380nmの光に対する透過率と同様に測定できる。
【0079】
本発明の樹脂組成物では、上述した樹脂(A)とUVA(B)との組み合わせにより、当該組成物(ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品)の色相を改善できる。
【0080】
本発明の樹脂組成物は、負の固有複屈折を有する重合体を含んでいてもよい。この場合、樹脂組成物(ならびに当該組成物を成形して得た樹脂成形品)における複屈折性の制御の自由度が向上し、本発明の樹脂組成物から形成した樹脂成形品(例えば、樹脂フィルム)の光学部材としての使用用途が拡大する。
【0081】
負の固有複屈折を有する重合体として、例えば、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体との共重合体が挙げられる。このような共重合体の具体的な例としては、スチレン−アクリロニトリル共重合体があり、当該共重合体は、広範囲の共重合組成においてアクリル系樹脂(A)との相容性に優れることから好ましい。
【0082】
なお、スチレン−アクリロニトリル共重合体の製造方法には、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法などの各種の重合方法があるが、本発明の樹脂組成物から光学部材を形成する場合、得られた光学部材の透明性、光学特性を向上できることから、溶液重合法またはバルク重合法により得たスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いることが好ましい。
【0083】
本発明の樹脂組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤としては特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、あるいはイオウ系などの公知の酸化防止剤を、1種で、または2種以上を併用して、用いることができる。特に、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート(例えば、住友化学工業社製スミライザーGS)、および、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(例えば、住友化学工業社製スミライザーGM)が、高温成形時における樹脂組成物の劣化を抑制する効果が高いことから好ましい。
【0084】
本発明の樹脂組成物における酸化防止剤の添加量は、例えば0〜10重量%であり、0〜5重量%が好ましく、0.1〜2重量%がより好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤など、が挙げられる。本発明の樹脂組成物における、上記その他の添加剤の添加量は、例えば0〜5重量%であり、0〜2重量%が好ましく、0〜0.5重量%がより好ましい。
【0086】
本発明の樹脂組成物は、公知の成形手法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、キャスト成形などの手法により、任意の形状、例えばフィルムあるいはシート、に成形できる。成形温度は、樹脂組成物の特性に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば150〜350℃の範囲であり、200〜300℃の範囲が好ましい。
【0087】
本発明の樹脂組成物を成形して得た樹脂成形品は、高い紫外線吸収能、耐熱性および透明性を有し、ブリードアウトなどの欠点が少なく、さらに、実際の使用中における、光線透過率の低下や濁度の上昇が低減されている。
【0088】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)を主成分とする熱可塑性樹脂とUVA(B)とを公知の方法により混合して製造できる。製造した樹脂組成物は、必要に応じて、ペレタイザーなどによりペレット化してもよい。
【0089】
熱可塑性樹脂とUVA(B)とを混合するタイミングは、樹脂組成物としての上述した諸特性が阻害されない限り、特に限定されない。熱可塑性樹脂(例えば樹脂(A))を重合中にUVA(B)を添加してもよいし、熱可塑性樹脂を重合した後、得られた熱可塑性樹脂とUVA(B)とを混合(例えば溶融混練)してもよい。熱可塑性樹脂とUVA(B)とを溶融混練する具体的な手法は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、UVA(B)およびその他の添加する成分を、同時に加熱溶融して混練してもよいし、熱可塑性樹脂およびその他の添加する成分を加熱溶融した後、そこにUVA(B)をさらに添加して混練してもよい。また、熱可塑性樹脂を加熱溶融した後、そこにUVA(B)およびその他の添加する成分をさらに添加して混練してもよい。
【0090】
[樹脂成形品]
本発明の樹脂成形品は、上記本発明の樹脂組成物からなる。本発明の樹脂成形品は、上述した本発明の樹脂組成物が有する特性に基づく、各種の特性を有する。例えば、本発明の樹脂成形品は、高い紫外線吸収能、耐熱性および透明性を有する。また例えば、本発明の樹脂成形品は、ブリードアウトなどの欠点が少ない。さらに例えば、本発明の樹脂成形品は、実際の使用中における、光線透過率の低下や濁度の上昇が低減されている。
【0091】
これらの特徴により、本発明の樹脂成形品は、光学部材として好適に用いることができる。また、その高い耐熱性により、光源などの発熱部に近接した配置が可能となる。
【0092】
本発明の樹脂成形品の形状は特に限定されず、例えば、フィルムまたはシートであってもよい。
【0093】
フィルムである本発明の樹脂成形品(本発明の樹脂フィルム)の厚さは、例えば、1μm以上350μm未満であり、好ましくは10μm以上350μm未満である。上記厚さが1μmよりも小さくなると、樹脂フィルムとしての強度が不十分となる場合があり、延伸などの後加工を行う際に、破断などが生じやすい。
【0094】
シートである本発明の樹脂成形品(本発明の樹脂シート)の厚さは、例えば、350μm以上10mm以下であり、好ましくは350μm以上5mm以下である。上記厚さが10mmを超えると、シート厚を均一にすることが難しくなり、樹脂シートを、特に光学部材として用いることが難しくなる。
【0095】
樹脂シートおよび樹脂フィルムは、例えば、本発明の樹脂組成物を押出成形して形成できる。
【0096】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、高いTgを有し、例えば、その値が110℃以上である。樹脂シートおよび樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の組成によっては、Tgを120℃以上、さらには130℃以上とすることができる。
【0097】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、高い紫外線吸収能を有する。例えば、厚さ100μmのフィルムのときに、波長380nmの光に対する透過率を30%未満、場合によっては25%以下、さらには20%以下とすることができる。
【0098】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、高い可視光透過率を有する。例えば、厚さ100μmのフィルムのときに、波長500nmの光に対する透過率を80%以上、場合によっては90%以上とすることができる。波長380nmの光、および波長500nmの光に対するフィルム(シート)の透過率の測定方法は、上述した方法に従えばよい。
【0099】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tの規定に基づいて測定した引張強度が、10MPa以上100MPa未満であることが好ましく、30MPa以上100MPa未満であることがより好ましい。上記引張強度が10MPa未満の場合、樹脂シート(フィルム)としての機械的強度が不十分となることがある。一方、上記引張強度が100MPaを超えると、その加工性が低下する。
【0100】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tの規定に基づいて測定した伸び率が、1%以上であることが好ましい。上記伸び率の上限は特に限定されないが、通常、100%以下である。上記伸び率が1%未満の場合、樹脂シート(フィルム)としての靭性が不十分となることがある。
【0101】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tの規定に基づいて測定した引張弾性率が、0.5GPa以上であることが好ましく、1GPa以上であることがより好ましく、2GPa以上であることがさらに好ましい。上記引張弾性率の上限は特に限定されないが、通常、20GPa以下である。上記引張弾性率が0.5GPa未満の場合、樹脂シート(フィルム)としての機械的強度が不十分となることがある。
【0102】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムには、必要に応じて、その表面に、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層としては、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層などが挙げられる。また、本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムに、上述した機能性コーティング層を有する部材が積層されていてもよい。樹脂シート(フィルム)への当該部材の積層は、例えば、粘着剤や接着剤を介して行うことができる。
【0103】
本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムの用途は特に限定されないが、その高い透明性および紫外線吸収能により、光学部材として好適に用いることができる。光学部材としては、例えば、光学用保護フィルム(シート)、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板の保護フィルム、あるいは、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムが挙げられる。また、例えば、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどの光学フィルムとして、あるいは、拡散板、導光体、位相差板、プリズムシートなどの光学シートとして、本発明の樹脂シートおよび樹脂フィルムを用いてもよい。
【0104】
一例として偏光子保護フィルムを説明する。LCDには、その画像形成方法に基づき、液晶セルを狭持するように一対の偏光板が配置される。偏光板は、一般に、ポリビニルアルコールなどの樹脂フィルムからなる偏光子と、当該偏光子を保護するための偏光子保護フィルムとを備える。本発明の偏光子保護フィルムによれば、その高い紫外線吸収能により、紫外線による偏光子の劣化を抑制できる。また、高い耐熱性により、偏光板を光源に近接して配置することが可能となり、高い透明性により、画像表示特性に優れる画像表示装置を形成できる。
【0105】
偏光板の構造は特に限定されないが、通常、一対の偏光子保護フィルムにより、偏光子が狭持された構造を有する。
【0106】
本発明の偏光子保護フィルムを備える偏光板(本発明の偏光板)は、LCDをはじめとする画像表示装置に用いることができる。
【0107】
[樹脂成形品の製造方法]
上述したように、本発明の樹脂成形品の製造方法は特に限定されないが、以下、樹脂成形品として樹脂フィルムの製造方法の一例を示す。この製造方法は、樹脂シートの製造方法にも適用できる。
【0108】
本発明の樹脂組成物から樹脂フィルムを製造する方法として、押出成形法がある。具体的な例としては、樹脂組成物を構成する各成分をオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練してもよい。押出混練に用いる混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、あるいは、加圧ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。
【0109】
また、別途形成した樹脂組成物を、溶融押出成形してもよい。溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。
【0110】
Tダイ法を用いる場合、押出機の先端部にTダイを取り付け、このTダイから押し出したフィルムを巻き取ることで、ロール状に巻回させた樹脂フィルムを得ることができる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御して、フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えることも可能である。また、押し出し方向と垂直な方向にフィルムを延伸して、逐次二軸延伸あるいは同時二軸延伸などを実施してもよい。
【0111】
押出成形に押出機を用いる場合、その種類は特に限定されず、単軸であっても二軸であっても多軸であってもよいが、そのL/D値は(Lは押出機のシリンダーの長さ、Dはシリンダー内径)、樹脂組成物を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、10以上100以下が好ましく、20以上50以下がより好ましく、25以上40以下がさらに好ましい。L/D値が10未満の場合、樹脂組成物を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。一方、L/D値が100を超えると、樹脂組成物に対して過度に剪断発熱が加わることで、組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0112】
またこの場合、シリンダーの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。設定温度が200℃未満では、樹脂組成物の溶融粘度が過度に高くなって、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、設定温度が300℃を超えると、樹脂組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0113】
押出成形に押出機を用いる場合、その形状は特に限定されないが、押出機が1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることによって、開放ベント部から分解ガスを吸引することができ、得られた樹脂フィルムに残存する揮発成分の量を低減できる。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよく、その減圧度は、開放ベント部の圧力にして、931〜1.3hPa(700〜1mmHg)の範囲が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲がより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高い場合、揮発成分、あるいは、樹脂の分解により発生する単量体成分などが、樹脂組成物中に残存しやすい。一方、工業的に、開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは困難である。
【0114】
光学フィルムなど、光学部材として用いる樹脂フィルムを製造する場合、必要に応じて、ポリマーフィルタで濾過した樹脂組成物を成形してもよい。ポリマーフィルタにより、樹脂組成物中に存在する異物を除去できるため、得られたフィルムの外観上の欠点を低減できる。なお、ポリマーフィルタによる濾過時には、樹脂組成物は、高温の溶融状態となる。このため、ポリマーフィルタを通過する際に樹脂組成物が劣化し、劣化により形成されたガス成分や着色劣化物が組成物中に流れだして、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。この欠点は、特に樹脂フィルムの連続成形時に観察されやすい。このため、ポリマーフィルタで濾過した樹脂組成物を成形する際には、その成形温度は、樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルタにおける樹脂組成物の滞留時間を短くするために、例えば255〜300℃であり、260〜320℃が好ましい。
【0115】
ポリマーフィルタの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルタを配したポリマーフィルタを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルタの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0116】
ポリマーフィルタによる濾過精度は特に限定されないが、通常15μ以下、好ましくは10μ以下、より好ましくは5μ以下である。濾過精度が1μ以下になると、樹脂組成物の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなる他、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、濾過精度が15μを超えると、樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
【0117】
ポリマーフィルタにおける、時間あたりの樹脂処理量に対する濾過面積は、特に限定されず、樹脂組成物の処理量に応じて適宜設定できる。上記濾過面積は、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/h)である。
【0118】
ポリマーフィルタの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
【0119】
ポリマーフィルタにおける樹脂組成物の滞留時間に特に制限はないが、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下がさらに好ましい。また、濾過時におけるフィルタ入口圧およびフィルタ出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルタの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲が好ましい。圧力損失が1MPa以下になると、樹脂組成物がフィルタを通過する流路に偏りが生じやすく、得られた樹脂フィルムの品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルタの破損が起こり易くなる。
【0120】
ポリマーフィルタに導入される樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、255〜300℃が好ましく、260〜300℃がさらに好ましい。
【0121】
ポリマーフィルタを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ない樹脂フィルムを得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で樹脂組成物の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で樹脂組成物の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルタによる樹脂組成物の濾過処理を行ってもよい。
【0122】
ポリマーフィルタによって樹脂組成物を濾過する際には、押出機とポリマーフィルタとの間にギアポンプを設置して、フィルタ内の樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
【0123】
本発明の樹脂組成物は、その製造後、そのまま押出成形して樹脂フィルムとすることが好ましい。樹脂組成物をペレット化した後に、得られたペレットを再溶融して樹脂フィルムを成形する場合に比べて、熱履歴を少なくできるため、樹脂組成物の熱劣化を抑制できる。また、この手法では、環境からの異物の混入を抑制できるため、得られた樹脂フィルムに異物が存在したり、得られた樹脂フィルムが着色することを抑制できる。なお、押出機とTダイの間に、ギアポンプおよびポリマーフィルタを配置することが好ましい。
【0124】
押出成形によって得られた樹脂フィルムは、必要に応じて、延伸してもよい。延伸の種類は特に限定されず、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。延伸により、樹脂フィルムの機械的強度を向上でき、場合によっては、樹脂フィルムに複屈折性を賦与することも可能である。なお、本発明の樹脂組成物は、その組成によっては、延伸後も光学的等方性を保つことが可能である。延伸温度は特に限定されず、樹脂組成物のTg近傍の温度が好ましい。延伸倍率および延伸速度も特に限定されない。
【0125】
樹脂フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を実施してもよい。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0127】
最初に、本実施例において作製した樹脂組成物サンプルの評価方法を示す。
【0128】
[ガラス転移温度]
各サンプルのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に従って求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0129】
[光線透過率]
各サンプルの光線透過率は、押出成形により厚さ100μmのフィルムとした後、分光光度計(島津製作所社製、UV−3100)を用いて、波長380nmおよび500nmの光に対する当該フィルムの透過率を測定することで評価した。各サンプルから、厚さ100μmのフィルムを形成する具体的な方法は後述する。
【0130】
[フィルムの濁度変化量]
各サンプルから形成したフィルムの濁度の変化量を、以下のように評価した。最初に、押出成形により、各サンプルを厚さ100μmのフィルムとし、その5cm×5cmを切り出した。次に、切り出したフィルムの濁度を、濁度計(日本電色工業社製、NDH−1001DP)を用いて測定し、測定した値を初期値とした。次に、切り出したフィルムを、100℃に保持した熱風乾燥機(タバイ社製)内に200時間放置した後、放置後のフィルムの濁度を再度測定して、上記初期値からの変化量を求めた。上述したように、成形後のフィルムの濁度が変化する要因として、UVAのブリードアウトが考えられる。
【0131】
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応釜に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエン、および酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(旭電化工業社製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0132】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業社製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。引き続き、オートクレーブにより、重合溶液を240℃で30分間加熱することで環化縮合反応を進行させた後、得られた重合溶液に、UVA(B)として2重量部のTIUVIN384−2(有効成分95重量%、チバスペシャリティケミカルズ社製)を加えた。
【0133】
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、およびフォアベント数4個であり、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μ、濾過面積1.5m2)を配置したベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=50.0mm、L/D=30)に、樹脂量換算で45kg/時の処理速度で導入し、脱揮および濾過を実施して、樹脂組成物(D−1)を得た。
【0134】
樹脂組成物(D−1)におけるUVA(B)の添加量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して(即ち、組成物(D−1)に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対して)3.8重量部である。
【0135】
(実施例2)
樹脂(A)として90重量部のグルタルイミド含有アクリル樹脂(ロームアンドハース社製、KAMAX T−240)と、10重量部のアクリロニトリル−スチレン共重合体(旭化成ケミカルズ社製、スタイラックAS783)との混合物をホッパーに仕込み、2カ所のベントを有する二軸押出機(Φ30mm、L/D=42)にて、当該混合物を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、減圧度13hPa、処理速度10kg/時の条件で、溶融させた。次に、形成した溶融物に、UVA(B)として10重量部のTIUVIN384−2(有効成分95%、チバスペシャリティケミカルズ社製)と、10重量部のトルエンとを混合した溶液を、ベント手前の注入口から0.8kg/時の速度で加圧注入して、樹脂組成物(D−2)を得た。樹脂(A)の処理速度およびUVA(B)の注入速度から算出すると、樹脂組成物(D−2)におけるUVA(B)の添加量は、組成物(D−2)に含まれる熱可塑性樹脂(グルタルイミド含有アクリル樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体)100重量部に対して3.8重量部である。
【0136】
なお、樹脂(A)として用いたグルタルイミド含有アクリル樹脂は、上記式(3)においてX1が窒素原子であり、R7〜R9がCH3であるグルタルイミド構造を主鎖に有する。
【0137】
(比較例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応釜に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエン、および酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(旭電化工業社製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0138】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業社製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。引き続き、オートクレーブにより、重合溶液を240℃で30分間加熱することで環化縮合反応を進行させた後、得られた重合溶液に、UVAとして0.75重量部のSUMISORB300(住友化学社製)を加えた。SUMISORB300は、25℃で固体の、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。
【0139】
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、およびフォアベント数4個であり、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μ、濾過面積1.5m2)を配置したベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=50.0mm、L/D=30)に、樹脂量換算で45kg/時の処理速度で導入し、脱揮および濾過を実施して、比較例である樹脂組成物(D−3)を得た。
【0140】
樹脂組成物(D−3)におけるUVAの添加量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して(即ち、組成物(D−3)に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対して)1.5重量部である。
【0141】
(比較例2)
樹脂(A)として100重量部の無水グルタル酸含有アクリル樹脂(住友化学社製、スミペックスB−TR)と、UVAとして1.5重量部のSUMISORB300(住友化学社製)との混合物をホッパーに仕込み、2カ所のベントを有する二軸押出機(Φ30mm、L/D=42)にて、当該混合物を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、減圧度13hPa、処理速度10kg/時の条件で溶融させて、比較例である樹脂組成物(D−4)を得た。樹脂組成物(D−4)におけるUVAの添加量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して(即ち、組成物(D−4)に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対して)1.5重量部である。
【0142】
なお、樹脂(A)として用いた無水グルタル酸含有アクリル樹脂は、上記式(3)においてX1が酸素原子であり、R7、R8が、それぞれCH3である無水グルタル酸構造を主鎖に有する。
【0143】
(比較例3)
液下槽および攪拌装置を備えた容積100Lのステンレス製重合槽に、42.5重量部のメタクリル酸メチル、5重量部のN−フェニルマレイミド、0.5重量部のスチレン、重合溶媒として50重量部のトルエン、有機酸として0.2重量部の無水酢酸、および連鎖移動剤として0.06重量部のn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これを回転速度100rpmで攪拌しながら、窒素ガスを10分間バブリングさせた。次に、槽内を窒素雰囲気に保ったまま、重合槽内を昇温し、槽内の温度が100℃に達した時点で、0.075重量部のt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを加え、これと同時に、液下槽にて窒素のバブリングを開始した。次に、2重量部のスチレンと、0.075重量部のt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートとの混合液を、槽内に、5時間かけて当速度で添加しながら、重合温度105〜110℃の還流下で15時間、重合反応を進行させた。
【0144】
次に、得られた重合溶液に、リン酸系の酸化防止剤として9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファネナントレン−10−オキシド(三光株式会社製、HCA)と、フェノール系酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](旭電化社製、AO−60)とを、それぞれ、0.1重量部および0.02重量部、添加した。
【0145】
次に、酸化防止剤を添加した重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、さらに、UVAとして10重量部のSUMISORB300(住友化学社製)と、10重量部のトルエンとを混合した溶液を、第3フォアベント手前の注入口より0.06kg/時の速度で加圧注入して、比較例である樹脂組成物(D−5)を得た。樹脂(A)の処理速度およびUVAの注入速度から算出すると、樹脂組成物(D−5)におけるUVAの添加量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して(即ち、組成物(D−5)に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対して)1.5重量部である。
【0146】
実施例1〜2、および比較例1〜3の樹脂組成物サンプルに対して、上記特性を評価した結果を以下の表1に示す。なお、厚さ100μmの樹脂フィルムは、シリンダー径が20mmの単軸押出機、幅120mmのTダイ、および、成形後のフィルムを巻き取るロールを用いて、以下の押出成形条件にて作製した:押出温度270℃、Tダイ温度270℃、巻き取り速度2.5m/分、ロール温度110℃。
【0147】
【表1】

【0148】
表1に示すように、実施例の各樹脂組成物では、比較例と同等の高いガラス転移温度、紫外線吸収能および可視光透過性を実現しながら、当該組成物より形成した樹脂フィルムの濁度変化量を大きく低減できた。実施例の各樹脂組成物から形成した樹脂フィルムでは、比較例に比べて、フィルム成形後のUVAのブリードアウトが抑制されたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明によれば、耐熱性を有するアクリル系樹脂とUVAとを含む熱可塑性樹脂組成物であって、高温での成形時においても、成形時ならびに成形後におけるブリードアウトなどの欠点の発生が抑制された樹脂組成物を提供できる。
【0150】
この樹脂組成物からは、高い紫外線吸収能、耐熱性および透明性を有し、ブリードアウトなどの欠点が少なく、さらに、実際の使用中における、光線透過率の低下や濁度の上昇が抑制された樹脂成形品を形成でき、得られた樹脂成形品、例えば樹脂フィルム、は、特に光学部材としての用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂と、25℃で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と、を含み、
ガラス転移温度(Tg)が110℃以上である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤が、以下の式(1)に示される構造を有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

上記式(1)におけるR1は、炭素数4以上20以下のアルキル基であり、R2は、炭素数8以上20以下のアルキル基もしくはアルキルエステル基であり、R3は、水素原子またはハロゲン原子である。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂が、主鎖に環構造を有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂が、主鎖にラクトン環構造を有する請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ラクトン環構造が、以下の式(2)により示される構造を有する請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

上記式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。
【請求項6】
前記組成物における前記紫外線吸収剤の含有量が、
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.5〜5重量部である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【請求項8】
シートまたはフィルムである請求項7に記載の樹脂成形品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる偏光子保護フィルム。
【請求項10】
偏光子と、請求項9に記載の偏光子保護フィルムとを備える偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光板を備える画像表示装置。

【公開番号】特開2009−179704(P2009−179704A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19270(P2008−19270)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】