説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び光学素子

【課題】屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図る。
【解決手段】表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における有機溶媒を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び光学素子に係り、特に、レンズ、フィルタ、グレーティング、光ファイバー又は平板光導波路等に好適に用いられる屈折率の温度変化率が小さい熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MO(Magneto Optics)、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の光情報記録媒体に対して、情報の読み取り動作や、記録動作を行うプレーヤー、レコーダー又はドライブ等の情報機器には、光ピックアップ装置が備えられている。この光ピックアップ装置には、光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットが具備されており、この光学素子ユニットには、これらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子が具備されている。
【0003】
上述した光ピックアップ装置の光学素子には、射出成形等の手段によって製造コストの抑制を図ることが可能である等の観点から、プラスチックを材料として適用することが好ましく、光学素子に適用可能なプラスチックとして、環状オレフィンと、α−オレフィンとの共重合体等が知られている。
【0004】
ところで、従来、樹脂素材に対して無機微粒子等のフィラーを混合することにより、剛性又は耐熱性等の物性の改良を図る研究開発が盛んに行われている。そこで、この方法を利用して、光学材料中に無機微粒子を分散させることにより、寸法安定性や、屈折率の温度依存性の向上を図る無機微粒子分散光学材料が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、耐熱性、機械特性、低誘電性及び誘電率の等方性の向上を図ることが可能な熱可塑性樹脂組成物として、無機酸化粒子やその分散ゲル等を添加するポリ(環状式オレフィン)が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−241592号公報
【特許文献2】特開2002−88120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光学用途に用いられる樹脂材料、特に、吸湿性及び寸法安定性に優れたポリオレフィンは、構造体の中に極性基を殆ど有していないため、従来技術である繊維状の無機微粒子等の分散させる方法をそのまま適用した場合は、相互作用が発生しない。そのため、線膨張係数の抑制効果及び無機微粒子の分散効果は非常に小さく、ポレオレフィンに関する十分な検討は行われていなかった。
【0007】
また、通常、光学用の熱可塑性樹脂材料中に分散された無機微粒子の分散が不十分な場合、得られた熱可塑性材料組成物が懸濁することに伴って透明性が低下することにより、光線透過率が70%未満となるおそれが生じている。そのため、非常に高い分散性が要求され、所望の光線透過率を有する熱可塑性樹脂組成物の生成が困難となるといった問題が生じている。
例えば、屈折率の温度依存性を改良する効果のある炭酸カルシウム等の炭酸塩や、リン酸アルミニウム等のリン酸塩無機微粒子は、粒子自体の屈折率が高く熱可塑性樹脂材料の屈折率との差が大きいため、このような屈折率の差に起因して、光の散乱が発生し、光線透過率が低下する。
そのため、炭酸塩又はリン酸塩無機微粒子は、光の波長の大きさと比較して顕著に小さい粒径のものを熱可塑性樹脂中に混合しなければならないが、十分な分散性を保持しながら粉体として取り出す方法は、気相法によって作成されたSiO又はTiO等の金属酸化物を除き、現状において実現されていない。
【0008】
上述した問題を考慮した上で、液相法によって作成された無機微粒子をそのまま樹脂中に混合することが検討されているが、水を含有する反応系において作成された無機微粒子の場合、そのまま熱可塑性樹脂溶液に混合した後に溶媒の除去を行うと、無機微粒子の表面に付着した水分によって無機微粒子の凝集が発生する。また、無機微粒子に対して適切な表面処理を行わないと、熱可塑性樹脂との間に微少空間が発生し、線膨張係数を増大させるといった問題が生じている。
【0009】
そこで、水を含有する反応系において作成した無機微粒子の分散溶液を、そのまま樹脂溶媒中に分散して混合しながら加熱を行い、溶媒を除去する方法が検討されているが、作成した溶液中において安定であった無機微粒子の分散溶液が粗大化するといった問題が生じてしまう。
【0010】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図ることが可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、
熱可塑性樹脂に無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、
表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である前記無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、前記熱可塑性樹脂を当該有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における当該有機溶媒を除去することを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における有機溶媒を除去するので、無機微粒子に表面処理を施し、無機微粒子の凝集の原因となる水分が付着することを防止することで、有機溶媒等の水分除去時に発生する無機微粒子の凝集を防止するとともに、無機微粒子と熱可塑性樹脂との密着性を向上させ、微小空間の発生を抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、前記表面改質剤が、前記分散溶液及び前記熱可塑性樹脂溶液の少なくとも一方に予め配合されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、表面改質剤が、分散溶液及び熱可塑性樹脂溶液の少なくとも一方に予め配合されているので、有機溶媒等の水分除去時に凝集が発生し易い無機微粒子であっても、予め配合された表面改質剤により、凝集の発生を抑制することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、前記表面改質剤が、前記表面処理が施された無機微粒子100重量部に対して2〜25重量部の割合で配合されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、表面改質剤が、表面処理が施された無機微粒子100重量部に対して2〜25重量部の割合で配合されているので、無機微粒子と熱可塑性樹脂との密着性を向上させ、微小空間の発生を抑制することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、前記有機溶媒が、大気圧における沸点が30〜130℃の範囲内であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、有機溶媒が、大気圧における沸点が30〜130℃の範囲内であるので、有機溶媒の取り扱いが容易であるとともに、分散溶液と熱可塑性樹脂溶液との混合溶液から有機溶媒を容易に除去することで、微小空間の発生を抑制することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明に係る光学素子は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造されているので、屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における有機溶媒を除去するので、無機微粒子に表面処理を施し、無機微粒子の凝集の原因となる水分が付着することを防止することで、有機溶媒等の水分除去時に発生する無機微粒子の凝集を防止するとともに、無機微粒子と熱可塑性樹脂との密着性を向上させ、微小空間の発生を抑制することが可能となる。
この結果、屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図ることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、表面改質剤が、分散溶液及び熱可塑性樹脂溶液の少なくとも一方に予め配合されているので、水分除去時に凝集が発生し易い無機微粒子であっても、予め配合された表面改質剤により、凝集の発生を抑制することが可能となり、これによって、より効果的に屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図ることができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、表面処理が施された無機微粒子100重量部に対して2〜25重量部の割合で配合されているので、無機微粒子と熱可塑性樹脂との密着性を向上させ、微小空間の発生を抑制することが可能となり、これによって、より効果的に屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図ることができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、有機溶媒が、大気圧における沸点が30〜130℃の範囲内であるので、有機溶媒の取り扱いが容易であるとともに、分散溶液と熱可塑性樹脂溶液との混合溶液から有機溶媒を容易に除去することで、微小空間の発生を抑制することが可能となり、これによって、より効果的に屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止を図ることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造されているので、屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の向上を図ることが可能となり、これによって、優れた光学特性を有する光学素子の実現を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0027】
本実施形態における熱可塑性樹脂組成物について説明する。
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に無機微粒子が含有されており、以下、熱可塑性樹脂及び無機微粒子の詳細について、それぞれ説明する。
【0028】
本実施形態における熱可塑性樹脂は、有機重合体であって、単量体として、未置換又は置換ノルボルネン(以下、A成分という。)単独で、またはA成分と、ジシクロペンタジエン類、すなわちジシクロペンタジエン及びそのアルキル置換体、若しくはジヒドロジシクロペンタジエン類、すなわち2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン及びそのアルキル置換体(以下、B成分という。)とから構成される開環重合体を好適に用いることができる。
上述した開環重合体は、従来公知である環状オレフィンの開環重合法によって製造することができる。また、開環重合体の水素添加物は、一般的な水素添加反応方法によって製造することができる。
【0029】
A成分としては、未置換又は置換ノルボルネンであって、置換ノルボルネンとしては、5−メチル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン等のアルキル置換ノルボルネンや、エチリデンノルボルネン等のアルキリデン置換ノルボルネンが適用可能である。
【0030】
一方、B成分としては、ジシクロペンタジエン若しくは2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン(4,7−メタノ−2,3,3a,4,7,7a−ヘキサヒドロインデン:以下、HDCPという。)、またはこれらのメチル、エチル、プロピル及びブチル等のアルキル置換体が適用可能である。
これら上述した各単量体成分は、それぞれ単独で用いられてもよく、適宜混合して用いることもできる。
【0031】
また、A成分とB成分との配合割合は、A成分が100〜10mol%、B成分が0〜90mol%の範囲内であり、A成分が90〜20mol%、B成分が10〜80mol%の範囲内であることが好ましい。これは、B成分の配合割合が上昇することに伴って機械的強度の向上を図ることが可能となるが、B成分の配合割合が過大となることにより、機械的強度の向上が不充分となるとともに、可撓性が低下するおそれがあるためである。
【0032】
なお、A成分及びB成分の他に、発明の効果を実質的に妨げない範囲内で、開環重合可能な他のシクロオレフィン類を用いることができる。使用可能なシクロオレフィンの具体例としては、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン等の反応性の二重結合を1つ有する化合物が挙げられる。
また、多環ノルボルネン系モノマーは、反応性の二重結合を2つ以上含有する化合物が存在する。しかし、そのような化合物は、重合体のゲル化を惹起し易いため、可能な限り除去することが好ましい。
さらに、重合反応に際しては、A成分およびB成分の他に、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ブテン−2、ペンテン−2、1,4−ヘキサジエン等の鎖状のモノオレフィンや、鎖状の非共役ジオレフィン類を、分子量を調節する観点から、10mol%の範囲で添加してもよい。
【0033】
上述した単量体を構成単位とする開環重合体は、一般的なノルボルネン類の重合法によって製造される。この際、重合触媒としては、例えば、特公昭46−14910号公報に記載のルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金等の白金族金属化合物や、特公昭41−20111号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報及び特開昭58−127728号公報に記載のチタン、バナジウム、モリブデン及びタングステン等の遷移金属化合物と第I−IV族の有機金属化合物との触媒系等が挙げられる。
【0034】
なお、これらの触媒系に、第三級アミン等の第三成分を組み合わせた触媒系であってもよい。
また、本実施形態における重合触媒は、これらの単量体の開環重合が可能な金属化合物であれば、特に限定されるものではないが、四ハロゲン化チタン等の遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物等の有機金属とを含む触媒系や、さらに脂肪族又は芳香族第三級アミン等の第三成分を組み合わせた触媒系であることが好ましい。
【0035】
上述した熱可塑性樹脂としては、具体的に、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、環状オレフィン樹脂、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネート等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂には、相溶性のある2種類以上の樹脂が用いられてもよい。
【0036】
なお、光学材料として用いる場合には、寸法安定性の観点から、吸湿率は0.2%以下が望ましいため、環状オレフィン樹脂(日本ゼオン製:ZEONEX、三井化学製:APEL、JSR製:アートン、チコナ製:TOPAS)が好適に用いられる。
また、上述したような2種以上の樹脂を用いる場合においては、その吸水率は、個々の樹脂における吸水率の平均値と略同一と考えられ、その平均の吸水率が0.2%以下になればよい。
さらに、具体例として、特開2003−73559号公報等に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
上述した熱可塑性樹脂は、有機溶媒に溶解されており、使用可能な有機溶媒としては、ベンゼン(80.1℃)、シクロヘキサン(80.7℃)、トルエン(110.6℃)、キシレン(144.4℃)等の芳香族炭化水素類、アセトン(56.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、シクロヘキサノン(155.0℃)、2−ヘプタノン(151.5℃)等のケトン類、酢酸エチル(77.2℃)、酢酸−t−ブチル(97.8℃)、酢酸−n−ブチル(126℃)等のエステル類、1,2−ジクロロエタン(83.7℃)、クロロホルム(61.2℃)、クロロベンゼン(132.0℃)等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン(84.8℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、テトラヒドロフラン(66℃)、1,4−ジオキサン(101.1℃)等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(165℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、N−メチル−2−ピロリドン(202℃)、スルホラン(285℃)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。ここで、括弧内の温度は、大気圧における沸点を示す。
なお、これらの重合溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
また、上述した有機溶媒の大気圧における沸点は、30〜200℃の範囲内であることが好ましく、50〜130℃の範囲内であることがより好ましい。これは、沸点が30℃より低いと、取り扱い上危険であり、沸点が200℃より高いと、有機溶媒の除去が困難となるとともに、気泡、すなわち微小空間の残留や、長時間の加熱により、熱可塑性樹脂が酸化又は劣化されるからである。
【0040】
次に、無機微粒子について説明する。
無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上、30nm以下の範囲であることが好ましく、1nm以上、20nm以下の範囲であることがより好ましく、1nm以上、10nm以下の範囲であることが特に好ましい。平均粒子径が1nm未満の場合、無機微粒子の分散が困難になり所望の性能が得られないおそれがあることから、平均粒子径は1nm以上であることが好ましく、また、平均粒子径が30nmを超えると、得られる熱可塑性材料組成物が濁るなどして透明性が低下し、光線透過率が70%未満となるおそれがあることから、平均粒子径は30nm以下であることが好ましい。
ここで、平均粒子径とは、粒子と同体積の球に換算した時の直径のことを示す。
【0041】
また、熱可塑性樹脂に対する無機微粒子の割合は、特に限定されるものではないが、無機微粒子のvol%が低すぎると、期待する線膨張係数抑制効果が得られず、vol%が高すぎると、混練性及び成形性が低下する。このため、期待する寸法安定性を得るための複合熱可塑性材料中の無機微粒子における割合は、使用する無機微粒子の膨張係数等にもよるが、5〜70vol%の範囲であることが好ましく、10〜50vol%の範囲であることがより好ましい。
【0042】
さらに、無機微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状の微粒子を好適に用いることが可能である。これによって、無機微粒子の混練時における増粘を防止するためである。
また、粒子径の分布に関しても、特に制限されるものではないが、本発明の効果をより効率よく発現させるためには、広範な分布を形成するものよりも、比較的狭い分布を形成するものの方が好適に用いられる。具体的には、変動係数(測定値のばらつきの指標として標準偏差を平均で割った値、無次元数)±30の範囲であることが好ましく、±10の範囲であることがより好ましい。
【0043】
無機微粒子としては、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子、燐化物、複酸化物微粒子、オキソ酸塩微粒子、複塩微粒子、錯塩微粒子等が挙げられる。より具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、これら酸化物との組み合わせで形成されるリン酸塩、硫酸塩等、硫化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
また、無機微粒子には、半導体結晶組成の微粒子を好適に用いることができる。半導体結晶組成には、特に限定されるものではないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光又は蛍光等が生じないものが好ましい。具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム及び錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン又はテルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S)、硫化錫(IV)(SnS)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al)、セレン化アルミニウム(AlSe)、硫化ガリウム(Ga)、セレン化ガリウム(GaSe)、テルル化ガリウム(GaTe)、酸化インジウム(In)、硫化インジウム(In)、セレン化インジウム(InSe)、テルル化インジウム(InTe)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As)、セレン化砒素(III)(AsSe)、テルル化砒素(III)(AsTe)、硫化アンチモン(III)(Sb)、セレン化アンチモン(III)(SbSe)、テルル化アンチモン(III)(SbTe)、硫化ビスマス(III)(Bi)、セレン化ビスマス(III)(BiSe)、テルル化ビスマス(III)(BiTe)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(CuO)、セレン化銅(I)(CuSe)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS)、酸化タングステン(IV)(WO)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO)、酸化タンタル(V)(Ta)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO、Ti、Ti、Ti等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCrSe)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCrSe)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO)等が挙げられる。
なお、G.Schmidら、Adv.Mater.、1991年、第4巻、p.494に記載の(BN)75(BF1515や、D.Fenskeら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.、1990年、第29巻、p.1452に記載のCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0045】
さらに、無機微粒子は、線膨張係数の値が小さいほうが好ましい。これによって、無機微粒子の分散による複合体全体の線膨張係数に影響を低減させることができるからである。
上述した無機微粒子を例に挙げると、窒化ケイ素等は共有結合性が総じて強いため、線膨張係数の低い傾向があり、好適に用いることが可能である。
一方、酸化物結晶は、線膨張係数がやや大きい傾向があるが、ケイ酸塩等は線膨張係数が低く、好適に用いることが可能である。
【0046】
これらの無機微粒子は、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また、複数種類の無機微粒子を併用してもよい。複数種類の無機微粒子は、混合型、コアシェル(積層)型、化合物型、1つの母材無機微粒子中に、もう1つの無機微粒子が存在する複合型等、何れであってもよい。
【0047】
無機微粒子の作成方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることが可能であり、ハロゲン化金属や、アルコキシ金属を原料として用いて、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のために有機酸や、有機アミン等を併用する方法も用いられる。具体例として、二酸化チタン微粒子の場合には、Journal of chemical engineering of Japan、1998年、第1巻、第1号、p.21−28に、硫化亜鉛の場合には、Journal of physical chemistry、1996年、第100巻、p.468−471に記載の公知の方法を用いることが可能である。
これらの方法により、平均粒子直径5nmの酸化チタンは、チタニウムテトライソプロポキサイドや、四塩化チタンを原料として適当な溶媒中で加水分解させる際に、適当な表面修飾剤を添加することによって容易に作成することができる。また、平均粒子直径40nmの硫化亜鉛は、ジメチル亜鉛や、塩化亜鉛を原料として、硫化水素又は硫化ナトリウム等で硫化する際に、表面修飾剤を添加することによって作成することができる。
【0048】
また、酸化物微粒子の作成方法としては、酸素含有雰囲気において、バーナによって化学炎を形成し、この化学炎中に金属粉末が粉塵雲を形成しうる量を投入した後に燃焼させて、平均粒子直径が5〜100nmである酸化物微粒子を合成する方法が特開昭60−255602号公報に記載されており、この方法を利用することも可能である。
【0049】
上述したようなクラスターからのボトムアッププロセスによる無機微粒子の作成の他に、無機微粒子を粉砕することで微粒子を作成するトップダウンプロセスも提案されている。トップダウンプロセスにおいて使用される粉砕機としては、ウルトラアペックスミル(コトブキ技研製);カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業製);クロスジェットミル(栗本鉄工所製);ウルマックス(日曹エンジニアリング製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業製);クリプトロン(川崎重工業製);ターボミル(ターボ工業製);スーパーローター(日清エンジニアリング製)等が挙げられる。
【0050】
このような方法によって作成された無機微粒子は、表面処理剤であるシラン系、シリコーンオイル系、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系等のカップリング剤により、表面処理が施されている。
これらカップリング剤は、使用する無機微粒子の種類に応じて適宜選択される。また、2種以上の表面処理を施す場合には、各種表面処理が同時に又は異なる時期に施されてもよい。
【0051】
シラン系のカップリング剤としては、ビニルシラザントリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の従来公知のものを用いることが可能であるが、広範囲に渡って微粒子の表面を被覆するために、ヘキサメチルジシラザン等が好ましく用いられる。
【0052】
シリコーンオイル系のカップリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルを用いることができる。
また、これらの処理剤は、ヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン水等により、適宜希釈して用いられてもよい。
【0053】
上述したカップリング剤による表面改質手法としては、湿式加熱法、湿式濾過法、乾式攪拌法、インテグルブレンド法、造粒法等が挙げられるが、本実施形態においては、無機微粒子の混合と表面改質とを同時に行うために、インテグルブレンド法を用いて表面改質が行われている。
【0054】
カップリング剤の添加量は、無機微粒子がナノオーダーであるため、比表面積が大きいことや、インテグラルブレンド法による反応性の問題等を考慮して、比較的多量に用いられる。
具体的な添加量としては、熱可塑性樹脂組成物中における微小空間の発生による線膨張係数の増大や、無機微粒子の凝集の発生による光線透過率の低下を考慮すると、無機微粒子100重量部に対して2重量部以上が好ましく、さらに、製造コストの増加及び粘度の増大を考慮すると、無機微粒子100重量部に対して25重量部以下であることがより好ましい。
【0055】
表面処理が施された無機微粒子は、有機溶媒に分散されており、無機微粒子が水を含有する反応系で作成された場合には、最終的に、有機溶媒中に転相させることが好ましい。これは、水分を除去することによる毛細菅現象によって無機微粒子が凝集することを抑制するためである。
【0056】
使用可能な有機溶媒としては、上述した熱可塑性樹脂と同様に、ベンゼン(80.1℃)、シクロヘキサン(80.7℃)、トルエン(110.6℃)、キシレン(144.4℃)等の芳香族炭化水素類、アセトン(56.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、シクロヘキサノン(155.0℃)、2−ヘプタノン(151.5℃)等のケトン類、酢酸エチル(77.2℃)、酢酸−t−ブチル(97.8℃)、酢酸−n−ブチル(126℃)等のエステル類、1,2−ジクロロエタン(83.7℃)、クロロホルム(61.2℃)、クロロベンゼン(132.0℃)等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン(84.8℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、テトラヒドロフラン(66℃)、1,4−ジオキサン(101.1℃)等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(165℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、N−メチル−2−ピロリドン(202℃)、スルホラン(285℃)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。ここで、括弧内の温度は、大気圧における沸点を示す。
なお、これらの重合溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0057】
また、有機溶媒の大気圧における沸点は、30〜130℃の範囲内であることが好ましい。これは、沸点が30℃より低いと、取り扱い上危険であり、沸点が130℃より高いと、有機溶媒の除去が困難となるとともに、気泡、すなわち微小空間の残留や、長時間の加熱によって熱可塑性樹脂が酸化又は劣化され、屈折率の温度依存性や、光線透過率に影響を与えるからである。
【0058】
有機溶媒に無機微粒子を転相させる方法としては、有機溶媒に分散した後に水を除去する方法、界面活性剤又は各種ポリマーを用いて有機溶媒中に直接分散させる方法、界面活性剤によって表面を包んだ後に乾燥することで水分を除去し、その後有機溶媒に分散させる方法等が適用可能である。
上述した各種方法のうち、界面活性剤によって表面を包んだ後に乾燥することで水分を除去し、その後有機溶媒中に分散させる方法としては、例えば、伊藤征司郎、「超微粒子を作る」、表面、1987年、第25巻、第9号、p.562−569に記載の方法が好適に適用可能である。
【0059】
無機微粒子を有機溶媒に分散させる際には、分散剤が使用されており、使用可能な分散剤としては、AOT(エーロゾルOT)、OSP(オクチルセスキホスフェート)、DBS(ドデシルスルホン酸ナトリウム)、LA(ラウリン酸ナトリウム)及びCHC(シクロヘキサンカルボン酸)や、オレフィン−無水マレイン酸共重合物、ポリエチレンイミン各種高分子分散剤等が挙げられる。
【0060】
また、上述した最終的な混合溶媒に分散した後に水を除去する方法や、界面活性剤又は各種ポリマーを用いてダイレクトに有機溶媒中に分散させる方法を用いた場合における最終的な水と有機溶媒との比率は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。これは、非極性溶媒中に水を分散するために多量の界面活性剤も用いることにより、可塑剤として作用するとともに、樹脂の安定性が損なわれるためである。
【0061】
なお、上述した熱可塑性樹脂には、様々な種類の樹脂添加剤を単独で又は組み合わせて用いられてもよい。添加剤としては、白化剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、増量剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、加工助剤等の物質が挙げられる。また、組成物に配合し得る各種添加剤は、一般に用いられており、当業者に公知であるものを適宜選択して用いることが可能である。さらに、その範囲は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜用いることが可能である。
【0062】
また、重合体には、可塑剤又は酸化防止剤が含まれているのが好ましい。これらの重合体に対して含有される樹脂添加剤は、最終的には、熱可塑性樹脂である重合体、製造過程又は成形過程等により適宜選択されるが、熱可塑性樹脂に対する重量%は、0.1〜10w%の範囲であることが特に好ましい。
【0063】
以下、可塑剤及び酸化防止剤について、それぞれ主要なものの具体例を挙げるが、特にこれらに限定されるものではない。
可塑剤としては、特に限定されるものではないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。
【0064】
リン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等を、フタル酸エステル系可塑剤では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を、トリメリット酸系可塑剤では、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等を、ピロメリット酸エステル系可塑剤では、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等を、グリコレート系可塑剤では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を、クエン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等がそれぞれ挙げられる。
【0065】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止することが可能である。
また、酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の酸化防止剤を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、重合体100質量部に対して0.001〜5質量部の範囲であることが好ましく、0.01〜1質量部の範囲であることがより好ましい。
【0066】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが適用可能であり、特開昭63−179953号公報に記載の2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等や、特開平1−168643号公報に記載のアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)等のアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;等が挙げられる。
【0067】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0068】
イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0069】
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤等が挙げられるが、レンズの透明性又は耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)を用いることが好ましい。このようなHALSとしては、低分子量のものから中分子量、高分子量のものを適宜選択することができる。
【0070】
比較的分子量の小さいHALSとしては、LA−77(旭電化製)、Tinuvin765(CSC製)、Tinuvin123(CSC製)、Tinuvin440(CSC製)、Tinuvin144(CSC製)、HostavinN20(ヘキスト製)等が、中程度の分子量としては、LA−57(旭電化製)、LA−52(旭電化製)、LA−67(旭電化製)、LA−62(旭電化製)等が、さらに分子量の大きいものとしては、LA−68(旭電化製)、LA−63(旭電化製)、HostavinN30(ヘキスト製)、Chimassorb944(CSC製)、Chimassorb2020(CSC製)、Chimassorb119(CSC製)、Tinuvin622(CSC製)、CyasorbUV−3346(Cytec製)、CyasorbUV−3529(Cytec製)、Uvasil299(GLC製)等が挙げられる。
特に、成型体には、低、中分子量のHALSが用いられることが好ましい。一方、膜状の複合材料には、高分子量のHALSを用いることが好ましい。
【0071】
なお、熱可塑性樹脂に対するHALSの配合量は、重合体100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.02〜15質量部であることがより好ましく、0.05〜10質量部であることが特に好ましい。これは、添加量が少なすぎると、耐光性の改良効果が十分に得られず、レンズ等の光学素子として使用する場合、レーザ等の照射によって着色が生じてしまい、添加量が多すぎると、その一部がガスとなって発生し、樹脂への分散性が低下して、レンズの透明性の低下が生ずるからである。
【0072】
また、熱可塑性樹脂に、上述したような添加剤を添加するには、任意の方法で行うことが可能である。かかる方法として、例えば、タンブラーミル、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混錬ロール、押出機等で混合する方法が挙げられる。
なお、添加剤の混合時期は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂の製造工程における何れの段階で混合してもよい。
【0073】
次に、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。
本実施形態における熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、無機微粒子が高度に分散した組成物を得るために、無機微粒子と、光透過性樹脂とを溶媒中で混合しながら溶融混練装置によって剪断力を与え、分散及び表面改質することによって製造される。
ここで、無機微粒子は非常に凝集を発生させ易いため、本実施形態においては、溶媒除去前に無機微粒子表面改質剤を混合し、溶媒除去時の凝集を抑制するようになっている。
【0074】
なお、表面改質剤は、表面処理が施された無機微粒子を分散した分散液又は熱可塑性樹脂溶液のいずれか一方に添加されていればよく、両方に添加されていてもよい。
また、分散液及び熱可塑性樹脂溶液を混合した後に、別途表面改質剤を加えてもよい。
さらに、熱可塑性樹脂溶液との混合は、酸化による機能低下を防ぐため、アルゴンガスや、窒素ガス等に置換した雰囲気下で行うことが好ましい。
【0075】
溶融混練に用いられる混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられ、特に、剪断効率の高い混練装置が好ましい。具体的な混練装置としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製)、ポリラボシステム(HAAKE社製)、ナノコンミキサー(東洋精機製作所社製)、ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製)、TEM型押し出し機(東芝機械社製)、TEX二軸混練機(日本製鋼所社製)、PCM混練機(池貝鉄工所社製)、三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製)、ニーデックス(三井鉱山社製)、MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製)、バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)等が挙げられる。
【0076】
なお、混合の程度が不十分の場合には、熱可塑性や、溶融成形性等の樹脂加工性に影響を与えるおそれがあり、特に、光線透過率に影響を与えるおそれがある。このように、混合の程度は、その作成方法の影響を受けることが考えられ、使用される熱可塑性樹脂及び無機微粒子の特性を十分に勘案して、最適な方法を選択する必要がある。
【0077】
以上の方法によって作成された熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、各種成形材料を得ることができる。その成形方法としては、特に限定されるものはないが、低複屈折性、機械強度及び寸法精度等の特性に優れた成形物を得るためには、溶融成形が特に好ましい。溶融成形法としては、市販のプレス成形、市販の押し出し成形、市販の射出成形等が挙げられるが、成形性及び生産性の観点から、射出成形が好ましい。
【0078】
また、成形工程における成形条件は、使用目的又は成形方法により適宜選択されるが、射出成形における樹脂組成物の温度は、成形時に適度な流動性を樹脂に付与して成形品のヒケやひずみの発生とともに、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、さらには、成形物の黄変を効果的に防止する観点から、150℃〜400℃の範囲であることが好ましく、200℃〜350℃の範囲であることがより好ましく、200℃〜330℃の範囲であることが特に好ましい。
【0079】
成形物としては、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルム又はシート形状等の種々の形態で使用することが可能であり、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、各種光学部品への適用が可能である。
具体的な適用例としては、光学レンズや、光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)等の光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズ等のレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズ等が挙げられる。
また、その他の光学用途としては、液晶ディスプレイ等の導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム等の光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板等が挙げられる。
【0080】
上述した成形物の中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズや、レーザ走査系レンズ等の光学素子として好適に用いられ、以下、図1を参照しながら、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物によって成形された光学素子が用いられた光ピックアップ装置1について説明する。
【0081】
図1に示すように、本実施形態における光ピックアップ装置1には、光源としての3種類の半導体レーザ発振器LD1,LD2,LDが具備されている。このうち、半導体レーザ発振器LD1は、BD(又はAOD)10用として波長350〜450nm中の特定波長、例えば405nm,407nmの波長の光束を出射するようになっている。また、半導体レーザ発振器LD2は、DVD20用として波長620〜680nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。さらに、半導体レーザLD3は、CD30用として750〜810nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。
【0082】
半導体レーザ発振器LD1から出射される青色光の光軸方向には、図1中下方から上方に向かって、シェイバSH1、スプリッタBS1、コリメータCL、スプリッタBS4,BS5及び対物レンズ15が順次配設されており、対物レンズ15と対向する位置には、光情報記録媒体であるBD10、DVD20又はCD30が配置されるようになっている。また、スプリッタBS1の図1中右方には、シリンドリカルレンズL11、凹レンズL12及び光検出器PD1が順次配設されている。
【0083】
半導体レーザ発振器LD2から出射される赤色光の光軸方向には、図1中左方から右方に向けてスプリッタBS2,BS4が順次配設されている。また、スプリッタBS2の図1中下方にはシリンドリカルレンズL21、凹レンズL22及び光検出器PD2が順次配設されている。
【0084】
半導体レーザ発振器LD3から出射される光の光軸方向には、図1中右方から左方に向けてスプリッタBS3,BS5が順次配設されている。また、スプリッタBS3の図1中下方にはシリンドリカルレンズL31、凹レンズL32及び光検出器PD3が順次配設されている。
【0085】
光学素子である対物レンズ15は、光情報記録媒体としてのBD10、DVD20又はCD30に対向配置されるものであり、各半導体レーザ発振器LD1,LD2,LD3から出射された光を、BD10、DVD20又はCD30に集光するようになっている。このような対物レンズ15には、2次元アクチュエータ2が具備されており、この2次元アクチュエータ2の動作により、対物レンズ15は、上下方向に移動自在となっている。
【0086】
次に、光ピックアップ装置1の作用について説明する。
本実施形態における光ピックアップ装置1は、記録媒体の種類よってそれぞれ異なる動作をするため、以下において、BD10、DVD20及びCD30に対する動作態様の詳細について、それぞれ説明する。
【0087】
まず始めに、BD10に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
BD10への情報の記録動作時や、BD10に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD1が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L1となって、シェイバSH1を透過して整形され、スプリッタBS1を透過して、コリメータCLで平行光とされる。そして、各スプリッタBS4,BS5及び対物レンズ15を透過し、BD10の記録面10aに集光スポットを形成する。
【0088】
集光スポットを形成した光は、BD10の記録面10aで情報ピットにより変調され、記録面10aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15、スプリッタBS5及びコリメータCLを透過し、スプリッタBS1で反射した後、シリンドリカルレンズL11を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL12を透過して、光検出器PD1で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、BD10に対する情報の記録動作や、BD10に記録された情報の再生動作が完了する。
【0089】
次に、DVD20に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
DVD20への情報の記録動作時や、DVD20に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD2が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L2となって、スプリッタBS2を透過し、スプリッタBS4によって反射される。反射された光線L2は、スプリッタBS5及び対物レンズ15を透過し、DVD20の記録面20aに集光スポットを形成する。
【0090】
集光スポットを形成した光は、DVD20の記録面20aで情報ピットにより変調されて、記録面20aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15及びスプリッタBS5を透過し、各スプリッタBS4,BS2で反射した後、シリンドリカルレンズL21を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL22を透過して、光検出器PD2で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、DVD20に対する情報の記録動作や、DVD20に記録された情報の再生動作が完了する。
【0091】
最後に、CD30に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
CD30への情報の記録時や、CD30に記録された情報の再生時には、半導体レーザ発振器LD3から光が出射される。出射された光は、図1に示すように、光線L3となって、スプリッタBS3を通過し、スプリッタBS5によって反射される。反射された光線L3は、対物レンズ15を透過し、CD30の記録面30aに集光スポットを形成する。
【0092】
集光スポットを形成した光は、CD30の記録面30aで情報ピットにより変調されて、記録面30aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15を透過し、各スプリッタBS5,BS3で反射した後、シリンドリカルレンズL31を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL32を透過して、光検出器PD3で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、CD30に対する情報の記録動作や、CD30に記録された情報の再生動作が完了する。
【0093】
なお、光ピックアップ装置1には、BD10、DVD20又はCD30に対する情報の記録動作時や、BD10、DVD20又はCD30に記録された情報の再生動作時には、各光検出器PD1,PD2,PD3でのスポットの形状変化又は位置変化による光量変化を検出して、合焦検出又はトラック検出を行うようになっている。そして、このような光ピックアップ装置1は、各光検出器PD1,PD2,PD3の検出結果に基づいて、2次元アクチュエータ2が半導体レーザ発振器LD1,LD2,LD3からの光をBD10、DVD20又はCD30の記録面10a,20a,30aに結像するように対物レンズ15を移動させるとともに、半導体レーザ発振器LD1,LD2,LD3からの光を各記録面10a,20a,30aの所定のトラックに結像させるように対物レンズ15を移動させるようになっている。
【実施例】
【0094】
次に、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の実施例について説明する。
[実施例1]
300mlフラスコの内部雰囲気をアルゴンガスで置換した後、ペンタエトキシニオブ(北興化学製)30g、2−メトキシエタノール(関東化学製:特級)248.78gを添加し、十分に攪拌する。その後、水酸化リチウム1水和物(関東化学製)3.96g、イオン交換蒸留水1.7g、2−メトキシエタノール(関東化学製:特級)273.13gの混合溶液を加え、十分に攪拌する。さらに、圧力調整機能付きエバポレーター(SHIBATA製:R200 with V−800)を用いて、溶液中の生成したゾルが5w%になるまで、40℃の温度で濃縮を行った。濃縮が完了した後、0.5μPTFEフィルタ(ポールゲルマンラボラトリー製)を用いて濾過を行い、LiNbO/2−メトキシエタノール溶液を作成し、テトラヒドロフラン(以下、THF:Tetra Hydro Furan)溶液(関東化学製:特級、沸点:66℃)に溶媒置換することにより、LiNbO/THF溶液を作成した。
一方、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン製:Zeonex330R)60gを、THF溶液(関東化学製:特級)200mlに溶解させて、熱可塑性樹脂溶液を作成した。
そして、二軸混練押出装置(日本製鋼製:TEX)の内部雰囲気をアルゴンガスで置換して、分散溶液及び熱可塑性樹脂溶液を、配合割合がLiNbO30重量部、熱可塑性樹脂100重量部となるように投入した後、シランカップリング剤であるメチルトリメトキシシラン(信越化学工業製:KBE−13)6重量部を添加し、10Paに減圧し、100℃の温度で加熱し、有機溶媒を除去しながら混練を行い、熱可塑性樹脂組成物を作成した。その後、射出成形を行い、光学素子1を作成した。
【0095】
[実施例2]
実施例1におけるLiNbO/THF溶液のTHF溶液(沸点:66℃)を、シクロヘキサン溶液(沸点:80.6℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様に作成し、光学素子2を作成した。
【0096】
[実施例3]
気相法Al(日本アエロジル製:alu C、平均粒径約13nm)11.5gを、300ccナスフラスコに投入し、10Torr以下まで減圧した後、190℃の温度で1時間加熱した。そして、ナスフラスコの内部雰囲気をアルゴンガスで置換した後、ヘキサメチレンジシラザン(信越化学工業製:HMD−3)0.7gを加え、300℃の温度で、十分に攪拌する。さらに、2−メトキシエタノール(関東化学製:特級)200gと混合し、アペックスミル(コトブキ技研製)を用いて分散を行った。
上述した分散溶液を実施例1におけるLiNbO/THF溶液と変更したこと以外は、実施例1と同様に作成し、光学素子3を作成した。
【0097】
[実施例4]
硫酸アルミニウム16水和物(FLUKA製)31.5gを、純水200mlに溶解させ、pHが3.2となるように調整した。また、リン酸ナトリウム12水和物(関東化学製)38gを、純水200mlに溶解させ、pHが12.6となるように調整した。
得られた各溶液を、ポリエチレンイミン10%水溶液(日本触媒製)中で混合し、リン酸アルミニウム(平均粒径約20nm)を作成した。その後、限外濾過装置(日東電工製:C10T)を用いて脱塩を行い、リン酸アルミニウム分散溶液を作成した。
上述した分散溶液を実施例1におけるLiNbO/THF溶液と変更したこと以外は、実施例1と同様に作成し、光学素子4を作成した。
【0098】
[実施例5]
実施例1におけるLiNbO/THF溶液のTHF溶液をキシレン溶液(関東化学製:特級、沸点144℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様に作成し、光学素子5を作成した。
【0099】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で、LiNbO/THF溶液及び熱可塑性樹脂溶液を作成した後、二軸混練押出装置(日本製鋼製:TEX)の内部雰囲気をアルゴンガスで置換し、分散溶液及び熱可塑性樹脂溶液をLiNbO30重量部、熱可塑性樹脂100重量部となるように投入した後、シランカップリング剤メチルトリメトキシシラン(信越化学工業製:KBE−13)0.5重量部を添加し、10Paに減圧し、100℃の温度で加熱し、溶媒を除去しながら混練を行い、熱可塑性樹脂組成物を作成した。その後、射出成形を行い、光学素子6を作成した。
【0100】
[実施例7]
実施例1と同様に、LiNbO/THF溶液及び熱可塑性樹脂溶液を作成した後、二軸混練押出装置(日本製鋼製:TEX)の内部雰囲気をアルゴンガスで置換し、分散溶液及び熱可塑性樹脂溶液をLiNbO30重量部、熱可塑性樹脂100重量部となるように投入した後、シランカップリング剤メチルトリメトキシシラン(信越化学工業製:KBE−13)10重量部を添加し、10Paに減圧し、100℃の温度で加熱し、溶媒を除去しながら混練を行い、熱可塑性樹脂組成物を作成した。その後、射出成形を行い、光学素子7を作成した。
【0101】
[比較例1]
実施例1におけるシランカップリング剤を使用しないこと以外は、実施例1と同様に作成し、光学素子8を作成した。
【0102】
[比較例2]
実施例3における気相法Al(日本アエロジル製:alu C、平均粒径約13nm)11.5gを、気相法SiO(日本アエロジル製:OX50、平均粒径約40nm)5.7gに変更したこと以外は、実施例3と同様に作成し、光学素子9を作成した。
【0103】
最後に、樹脂組成物の評価方法について説明する。
評価項目として、光線透過率及び線膨張係数の計2項目が挙げられ、以下、各項目の測定方法の詳細について、それぞれ説明する。
【0104】
まず始めに、光線透過率の測定方法について説明する。
分光光度計(島津製作所製:UV−3150)を用いて、成形体の厚さ方向(3mm厚)の波長587.5nmにおける透過率を測定し、得られた結果を下記表2に示した。
【0105】
次に、線膨張係数の測定方法について説明する。
熱分析装置(リガク製:CN8098F1)を用いて、熱機械的分析法(TMA:Thermo Mechanical Analysis)により成形体の線膨張係数を測定した。なお、測定前に設定温度90℃で1時間アニール処理を行った後、40〜60℃(実施例7のみ40〜61℃)における線膨張係数を測定し、得られた結果を下記表2に示した。
【0106】
【表2】

【0107】
表2に示すように、表面改質剤を含有しない比較例1における光学素子8や、無機微粒子の平均粒径が40nm以下である比較例2における光学素子9は、無機微粒子の平均粒径が30nm以下であって、表面改質剤を含有する実施例1から実施例7における光学素子1,2,3,4,5,6,7と比較すると、線膨張係数の数値が高く、光線透過率の数値が低いことが判明した。
【0108】
また、実施例1から実施例7のうち、無機微粒子100重量部に対する表面改質剤の配合量が1.65重量部である実施例6における光学素子6や、同33重量部である実施例7における光学素子7は、同2〜25重量部の範囲内である実施例1及び実施例2における光学素子1,2(共に同19.8重量部)と比較すると、線膨張係数の数値は同程度であるものの、光線透過率の数値が低いことが判明した。
【0109】
さらに、実施例1から実施例7のうち、無機微粒子が分散される有機溶媒の沸点が144℃であるキシレンを用いた実施例5における光学素子5は、使用される有機溶媒の沸点が30〜130の範囲内である実施例1における光学素子1(THF溶液:66℃)及び実施例2における光学素子2(キシレン溶液:80.6℃)と比較すると、線膨張係数の数値は高く、光線透過率の数値は低いことが判明した。
【0110】
さらに、実施例1から実施例7のうち、無機微粒子の粒径が13nmである実施例3における光学素子3や、無機微粒子の粒径が20nmである実施例4における光学素子4は、無機微粒子の粒径が1〜10nmの範囲内である実施例1及び実施例2における光学素子1,2(共に5nm)と比較すると、線膨張係数の数値は高く、光線透過率の数値は低いことが判明した。
【0111】
以上より、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物によれば、表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における有機溶媒を除去するので、無機微粒子に表面処理を施し、無機微粒子の凝集の原因となる水分が付着することを防止することで、有機溶媒等の水分除去時に発生する無機微粒子の凝集を防止するとともに、無機微粒子と熱可塑性樹脂との密着性を向上させ、微小空間の発生を抑制することが可能となる。
この結果、屈折率の温度依存性の低減とともに、光線透過率の低下の防止が図られ、優れた光学特性を有する光学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】光ピックアップ装置の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0113】
15 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、
表面改質剤の存在下で、表面処理が施された平均粒径30nm以下である前記無機微粒子を有機溶媒に分散させた分散溶液と、熱可塑性樹脂を当該有機溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液とを混合した後に、混合溶液における当該有機溶媒を除去することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記表面改質剤は、前記分散溶液及び前記熱可塑性樹脂の少なくとも一方に予め配合されていることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記表面改質剤は、前記表面処理が施された無機微粒子100重量部に対して2〜25重量部の割合で配合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、大気圧における沸点が30〜130℃の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−273991(P2006−273991A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94221(P2005−94221)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】