説明

熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】高温時の強度・剛性・低比重化を維持したまま、燃焼残渣を低減し得る樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂70〜99wt%と、黒鉛粉末1〜30wt%とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
上記黒鉛粉末が、上記熱可塑性樹脂組成物中でアスペクト比(平均粒径/平均厚み)が平均30以上300未満で分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の部品では、汎用性に優れるポリプロピレン系樹脂が使われている。ポリプロピレン系樹脂をエンジンルーム等の高温下で使用すると、強度や剛性が不足する。このため、無機フィラー等の強化材を多量に配合する事でこれらの特性を改善させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、無機フィラーを非常に多く配合すると、成形時の流動加工性が低下したり、充填不足が発生する等の問題があった。
特に、近年の自動車技術においては材料面からの軽量化が求められおり、比重が大きい無機フィラーの添加量を増やすと部品の重量が増えるために、無機フィラーの添加量を増やすことはできなかった。
更に近年のエンジンルーム内の省スペース化に伴う温度上昇から、ポリプロピレン系樹脂にタルク等の無機フィラーを配合しても高温時の強度・剛性が不足するという問題があった。
【0004】
一方、サーマルリサイクル(燃焼によるエネルギー回収)の面から、燃焼残渣を低減する技術が求められており、この点からも無機フィラーの添加量を増やすことができなかった。
【0005】
また、ガラス繊維は、通常使われているタルクと比較してアスペクト比が大きく、より少量で剛性の改質効果が得られる。しかし、ガラス繊維のような繊維状のフィラーを用いると成形時に反り変形が発生する。このため、板状フィラーであるマイカを使用して、反り変形を抑え、より少ないフィラーの添加量で同等以上の剛性を得ることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、燃焼残渣を減らすために、炭素繊維を使用する例もある(例えば、特許文献3参照)。但し炭素繊維単体では成形時に反り変形が発生するため、無機成分を適量配合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−023164号公報
【特許文献2】特開平05―096532公報
【特許文献3】特開平06―041389公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、一般的な無機フィラーを配合した樹脂と比較し、高温時の強度・剛性を維持したまま、燃焼残渣を増やさずに軽量かつ反り発生を改善する樹脂が求められていた。
従って、本発明の目的は、高温時の強度・剛性・低比重化を維持したまま、燃焼残渣を低減し得る樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂中に、特定の割合の黒鉛粉末を特定のアスペクト比で分散させることにより、上記目的を達成できることを見出し、この発明を完成した。
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂70〜99wt%と、黒鉛粉末1〜30wt%とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
上記黒鉛粉末が、上記熱可塑性樹脂組成物中でアスペクト比(平均粒径/平均厚み)が平均30以上300未満で分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温時の強度・剛性・低比重化を維持したまま、燃焼残渣を低減し得る内燃機関の吸気系部品に好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(1)熱可塑性樹脂70〜99wt%と、(2)黒鉛粉末1〜30wt%とを含み、
上記(2)黒鉛粉末が、上記熱可塑性樹脂組成物中でアスペクト比(平均粒径/平均厚み)が平均30以上300未満で分散していることを特徴とする。
【0012】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0013】
(1)熱可塑性樹脂について
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、A B S 樹脂、A S 樹脂、アクリル樹脂等の汎用樹脂材料、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられ、これらの中でも、耐熱性、強靭性、成形性のバランスの観点から、ポリアミド樹脂が好ましい。
上記ポリアミド樹脂は、主鎖中に酸アミド結合(−CONH−)を有するものであり、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、及びそれらの組み合わせ又は組み合わせに相当する(共)重合体から選ばれる樹脂を少なくとも1種類含むポリアミド樹脂が挙げられる。ポリアミド樹脂を構成するモノマー単位は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0014】
上記脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂及び/又は芳香族ポリアミド樹脂としては、ラクタム、アミノカルボン酸、又はジアミンとジカルボン酸の組み合せから誘導されるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0015】
上記ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−ラウロラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等を、上記アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンドデカン酸、12−アミノドデカン酸等を挙げることができる。
【0016】
上記のジアミンとジカルボン酸から誘導されるポリアミド樹脂の原料となるジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、2,2,4/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3/1,4−シクロヘキシルジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3/1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、5−アミノ−2,2,4−トリメチル−1−シクロペンタンメチルアミン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジン、ノルボルナンジメチレンアミン等の脂環式ジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等を挙げることができる。
【0017】
上記のジアミンとジカルボン酸から誘導されるポリアミド樹脂の原料となるジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、トリデカンジオン酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3/1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン−4,4’−ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4/1,8/2,6/2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0018】
これらのポリアミド樹脂の中でも、経済性、汎用性の観点から、脂肪族ポリアミド樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂が好ましく、更に加工性、得られる物性バランスの観点から、脂肪族ポリアミド樹脂が特に好ましい。
尚、ポリアミド樹脂として、これらのポリアミドを、それぞれ単独で用いることもできるし、また、2種類以上を混合して用いることもできる。更に、2種類以上の組合せからなる共重合ポリアミドを用いることができる。
【0019】
上記脂肪族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン−6)、ポリアミノウンデカン酸(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンジアミノアジピン酸(ナイロン−66)、ポリヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−610)、ポリヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−612)の如き重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン−6/11)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸共重合体(ナイロン−6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/アミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−6/66/610)、及びカプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/612)等の(共)重合体等を挙げることができる。これらの脂肪族ポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を混合して用いることもできる。
【0020】
上記脂肪族ポリアミド樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン6/66/12から選ばれる単独又は併用された脂肪族ポリアミドが好ましく、融点やコスト等の観点から、特に好ましくはナイロン6及びナイロン66であり、最も好ましくはナイロン6である。
【0021】
また、上記芳香族ポリアミド樹脂としては、芳香族系モノマー成分を少なくとも1種含む芳香族ポリアミド樹脂であり、溶融粘度を高めるためと結晶化速度を抑制するために用いられ、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミン、又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、(1)熱可塑性樹脂の配合量は、70〜99wt%であり、好ましくは70〜95wt%、特に好ましくは70〜90wt%である。配合量が70wt%未満では、強化材の配合比が増え量産性を悪化させる他、靭性を損ない構造部材として使用できない。99wt%を超えると、強化剤の配合量が減り、黒鉛の補強効果が得られない。
【0023】
(2)黒鉛粉末について
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、(2)黒鉛粉末は、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の反り・変形を防止し、強度・剛性を付与させる成分である。
【0024】
(2)黒鉛粉末としては、板状で樹脂を補強させるという観点から、鱗片状黒鉛や膨張化黒鉛が好ましい。鱗片状黒鉛は、天然黒鉛を精錬し純度を上げ鱗片状に加工したものである。また膨張化黒鉛は、特殊な硫酸処理製造工程により一般の黒鉛よりも黒鉛粒子の層間を膨張化させたものである。これらの中でも、曲げ弾性率を向上させる補強フィラーとしての観点から、より薄片化された膨張化黒鉛が更に好ましい。
【0025】
(2)黒鉛粉末は、本発明の熱可塑性樹脂組成物中でアスペクト比(平均粒径/平均厚み)が平均30以上300未満、好ましくは平均30以上200未満、より好ましくは平均30以上150未満で分散している。(2)黒鉛粉末のアスペクト比が平均30未満では補強効果が十分に発揮されず、平均300以上であれば、補強効果は十分に発揮できるものの耐衝撃性の低下が大きくなり、製品として割れ・折れが発生するため好ましくない。実用上、アスペクト比が平均100付近であれば補強効果が十分にあり耐衝撃性とのバランスが取れ製品として実用化できる。尚、アスペクト比は、以下の方法により黒鉛粉末の平均粒径と平均厚みを求め、平均粒径/平均厚みをアスペクト比とする。
1.黒鉛粉末の平均粒径
無酸素雰囲気中(簡易的密閉容器内)の加熱炉で樹脂成分を昇華させた後の残渣分をJIS R 1629に準じ、レーザー回折散乱法で測定する。
2.黒鉛粉末の平均厚み
射出成形された試験片を厚み方向から観察したSEM画像から黒鉛の厚みを測定する。
【0026】
(2)黒鉛粉末としては、市販品を用いることもでき、その具体例としては、例えば、SP−10、CMX−20H(日本黒鉛工業社製)等が挙げられる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、(2)黒鉛粉末の配合量は、1〜30wt%であり、好ましくは10〜25wt%であり、特に好ましくは15〜25wt%である。配合量が1wt%未満では、反り低減効果が期待できずかつ剛性不足となる。30wt%を超えると、組成物又は組成物から得られる成形体自体の密度が大きくなり(重くなる)、黒鉛粉末を用いる利点(低密度)が損なわれる。
【0028】
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これから得られる成形体の、ASTM D790に準拠して測定される曲げ弾性率が5.0GPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率が5.0GPa未満であると、構造部材としての剛性が不足する。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の燃焼残渣測定試験における、熱可塑性樹脂組成物由来の燃焼残渣は、好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。燃焼残渣が3%超えると、焼却残渣が増え熱エネルギーへの回収が減る他、残渣の埋め立て等による環境負荷が甚大である。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常、次のようにして製造することができる。
先ず、(1)熱可塑性樹脂、(2)黒鉛粉末、及び任意成分として以下に説明する(3)種々の添加剤を用意する。
次に、(1)熱可塑性樹脂、(2)黒鉛粉末、及び(3)種々の添加剤の混合を行う。
上記原料を混合(ドライブレンド)後、押出機で溶融混練することで製造することができる。押出機は、二軸押出機、単軸押出機、多軸押出機、バンバリミキサー、ロールミキサー、ニーダー等の公知のものが使用できる。高濃度で黒鉛粉末と樹脂を溶融混練(マスターバッチ化)後、ドライペレットブレンドや溶融混練等の手法を用いて希釈させても良い。上記混合(ドライブレンド)後、押出機で溶融混練することで製造することができる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機等の公知のものが使用できる。
混合の順序は特に制限されず、全てを同時に混合してもよいし、予め混合しておいた複数の成分を他の成分と混合してもよいし、或いはまた予め混合しておいた複数の成分同士をさらに混合してもよい。尚、黒鉛粉末については、他の原料とともに混合投入しても、別途サイドフィードから投入してもよい。その他、特開昭62−60625号公報、特開平10−264152号公報、国際公開第WO97/19805号公報等に記載の方法を用いることもできる。
また、混合は以下の条件で行うことが好ましい。
1.設定温度:通常220〜310℃、好ましくは220〜290℃
2.回転数:通常100〜350rpm、好ましくは200〜350rpm
3.吐出量:通常1〜14kg/h、好ましくは1〜12kg/h
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲内において、(3)種々の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、例えば、耐熱剤、着色剤、酸化防止剤、金属不活性剤、カーボンブラック、増核剤、離型剤、滑剤、耐電防止剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車のエンジンルーム内部品の原料として好適に使用できる。エアダクト、レゾネータ、サイドブランチ、エアクリーナ、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる部品は、十分な強度・剛性と寸法安定性を有し、かつ高温時の剛性を付与している。また、無機フィラーとして黒鉛粉末を使用しているため、燃焼残渣がほとんど無く、サーマルリサイクル性に優れる(燃焼による熱エネルギーでの回収に優れる)。
【実施例】
【0032】
実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物に使用した成分は以下の通りである。
1.ナイロン樹脂
ナイロン樹脂(ポリアミド6):1013B(宇部興産社製)
ナイロン樹脂(ポリアミド66):2020B(宇部興産社製)
【0033】
2.酸変性ポリプロピレン系樹脂
マレイン酸変性ポリプロピレン(MAH−PP):ZP648(プライムポリマー社製 MFR55g/10分)
【0034】
3.黒鉛粉末
CMX−20H(日本黒鉛工業社製、膨張化黒鉛粉末、平均粒径33μm、嵩密度0.08g/cm3
SP−10(日本黒鉛工業社製、鱗状黒鉛粉末、平均粒径31μm、嵩密度0.18g/cm3
【0035】
4.タルク
LS408T(宇部マテリアルズ社製、平均粒径13μm、嵩密度0.40g/cm3)
【0036】
実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物の特性の測定方法は以下の通りである。
1.アスペクト比
以下の方法により黒鉛粉末の平均粒径と平均厚みを求め、平均粒径/平均厚みをアスペクト比とした。
【0037】
(1)黒鉛粉末の平均粒径
無酸素雰囲気中(簡易的密閉容器内)の加熱炉で樹脂成分を昇華させた後の残渣分をJIS R1629に準拠し、レーザー回析散乱法で測定した。
【0038】
(2)黒鉛粉末の平均厚み
射出成形された試験片の厚み方向より観察したSEM画像から黒鉛厚みを測定した。
【0039】
2.比重
JIS K5101に準拠し静置法で測定した。
【0040】
3.機械物性
(1)引張り強さ及び伸び:ASTM D638に準拠した方法にて測定した。
(2)曲げ強さ及び曲げ弾性率:ASTM D790に準拠した方法にて測定した。
(3)アイゾット衝撃強さノッチ付き:ASTM D256に準拠した方法にて測定した。
【0041】
4.灰分量(燃焼残渣)
実施例又は比較例で得られた組成物を溶融混練法によりペレットを製造した。このペレットを用いて以下の手順で灰分量を測定した。
(1)坩堝の重量を測定し、この重量をW0とした。
(2)坩堝に灰分量を測定するペレットを入れ、重量を測定し、この重量をW1とした。
(3)坩堝ごとマッフル炉へ入れ、1000℃で灰化を行なった。
(4)灰化終了後、装置より坩堝を取り出し重量を測定し、この重量をW2とした。
(5)以下の式より灰分量を計算した。
灰分量〔%〕=(W2−W0)/(W1−W0)×100
尚、測定には以下の機器を使用した。
(1)電子天秤:研精工業株式会社製 ER180A
(2)マッフル炉:ヤマト科学株式会社製 Muffle Furnace FP 310
【0042】
実施例1
ポリアミド樹脂(ナイロン6)(1013B)80wt%及び黒鉛粉末(膨張化黒鉛)CMX−20H 20wt%を、混合して熱可塑性樹脂組成物を製造した。混合条件は、東芝機械製混練機:TEM35Bを用いて、設定温度230℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量を10kg/hとした。
得られた組成物について、比重、引張り試験、曲げ試験、衝撃試験、樹脂中の黒鉛粉末のアスペクト比、及び燃焼残渣(灰分量)を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例2
実施例1において、混合条件:吐出量を12kg/hに変えた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、これを評価した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
実施例1において黒鉛粉末をSP−10に変えた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、これを評価した。結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
実施例1においてポリアミド樹脂(ナイロン6)をポリアミド樹脂(ナイロン66)に変えた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、これを評価した。結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
実施例1において、混合条件:吐出量を15kg/hに変えた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、これを評価した。結果を表1に示す。
【0047】
比較例2
組成物の配合をポリアミド樹脂(ナイロン6)60wt%及びタルク(LS−408T)40wt%に変えた他は実施例と同様にして組成物を製造し、これを評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、実施例の1は、従来技術の比較例2に比べ、残渣量が少なく、サーマルリサイクル性(熱エネルギーの回収)に優れる。また比重が低く軽量化できる上、製品上十分な剛性を有している。これらは、比重と曲げ弾性率の測定値から確認ができる。
【0050】
表1から、実施例の1及び2と比較例1では、混合条件:吐出量を変化させて熱可塑性樹脂組成物を製造したが、吐出量が少ない方が装置内での滞留時間が長くなり、黒鉛が分散化され、曲げ弾性率が向上することが分かる。このことは、熱可塑性樹脂中における黒鉛粉末のアスペクト比から確認が出来る。
【0051】
表1から、実施例1は実施例3よりも曲げ弾性率が高い事が分かる。これは、膨張化黒鉛を用いることで、より分散化された黒鉛が、熱可塑性樹脂中に分散し、高アスペクト比な状態で存在することで、曲げ弾性率の向上に寄与するためであると考えられる。
【0052】
但し、膨張化黒鉛を用いても、実施例1と比較例1に示す通り、曲げ弾性率は向上してない。これは、曲げ弾性率の向上が、原料の違いによる物性発現ではなく、熱可塑性樹脂中に分散している黒鉛粉末のアスペクト比が起因しているためと考えられる。
【0053】
表1から、実施例4では、熱可塑性樹脂をナイロン6から、ナイロン66に変えて熱可塑性樹脂組成物を製造したが、ナイロン6を用いた熱可塑性樹脂組成物と同等の効果が得られた。
【0054】
高アスペクト比な状態で分散された黒鉛粉末を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物は、低比重化はもちろんの事、高強度・高剛性を発揮する。即ち、本発明の熱可塑性樹脂は、剛性が高いため、これを用いた製品の薄肉化が可能となり、製品重量の低減につながる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車のエンジンルーム内の部品に使用できる。特に、エアダクト、レゾネータ、サイドブランチ、エアクリーナ、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー等が挙げられ、自動車の軽量化へ寄与させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂70〜99wt%と、黒鉛粉末1〜30wt%とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
上記黒鉛粉末が、上記熱可塑性樹脂組成物中でアスペクト比(平均粒径/平均厚み)が平均30以上300未満で分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記脂肪族ポリアミド樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12及びナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン6/66/12から選ばれる単独若しくは併用された脂肪族ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
燃焼残渣測定試験において、上記熱可塑性樹脂組成物由来の燃焼残渣が3%以下である請求項1から4の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2010−254822(P2010−254822A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106970(P2009−106970)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】