説明

熱可塑性樹脂組成物及び医療製品

【課題】優れた耐熱性、耐水蒸気性、及び柔軟性を兼ね備え、かつ所望の形状に溶融成形することができる熱可塑性樹脂組成物、及び該組成物を用いてなる医療製品の提供を目的とする。
【解決手段】エラストマー(A)と、前記エラストマー(A)と反応する反応性基を有する熱可塑性フッ素系樹脂(B)と、前記反応性基を有さない熱可塑性フッ素系樹脂(C)とを含有し、前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)中に前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)が分散されており、前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)中に前記エラストマー(A)が分散されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。また、該組成物を用いてなる医療製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び医療製品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、摺動性、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気的性質等の特性に優れているため、自動車、産業機械、OA機器、電気電子機器、医療機器等の幅広い分野で使用されている。しかし、フッ素樹脂は柔軟性が低いため、特に柔軟性を必要とする用途への適用に制限があった。
【0003】
フッ素樹脂の柔軟性を向上させる方法としては、フッ素樹脂にフッ素ゴムを添加する方法が知られている。しかし、該方法は、フッ素樹脂とフッ素ゴムとの親和性が低いため、両者を単に溶融混練するのみでは分散不良が発生し、層間剥離や強度低下を生じてしまう。
そこで、該問題点を解決する組成物として、フッ素樹脂と、フッ素ゴムと、これらの相溶化剤として含フッ素熱可塑性エラストマーとを含有するフッ素ゴム組成物が示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−25500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の組成物は、フッ素樹脂全体が架橋されているため、所望の形状に溶融成形することができない。また、特に医療製品に用いる樹脂組成物は、高温滅菌等に耐え得る充分な耐熱性及び耐水蒸気性を有していることが求められる。
【0006】
本発明は、優れた耐熱性、耐水蒸気性、及び柔軟性を兼ね備え、かつ所望の形状に溶融成形することができる熱可塑性樹脂組成物、及び該組成物を用いてなる医療製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を達成するために以下の構成を採用した。
[1]エラストマー(A)と、前記エラストマー(A)と反応する反応性基を有する熱可塑性フッ素系樹脂(B)と、前記反応性基を有さない熱可塑性フッ素系樹脂(C)とを含有し、前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)中に前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)が分散されており、前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)中に前記エラストマー(A)が分散されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]前記エラストマー(A)の融点T(℃)、前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)の融点T(℃)、及び前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)の融点T(℃)が、T>T>Tを満たす、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)が前記反応性基を有する四フッ化エチレン−エチレン共重合体である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)が四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体である、[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]前記エラストマー(A)がエーテルエステル共重合体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いてなる医療製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性、耐水蒸気性、及び柔軟性に優れており、所望の形状に溶融成形することができる。
また、本発明の医療製品は、前記熱可塑性樹脂組成物を用いた製品であり、優れた耐熱性、耐水蒸気性、柔軟性を兼ね備えている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」という。)は、エラストマー(A)と、エラストマー(A)と反応する反応性基を有する熱可塑性フッ素系樹脂(B)(以下、「樹脂(B)」という。)と、前記反応性基を有さない熱可塑性フッ素系樹脂(C)(以下、「樹脂(C)」という。)と、を含有する組成物である。また、本樹脂組成物は、樹脂(C)中に樹脂(B)が分散されており、該樹脂(B)中にエラストマー(A)が分散されている。
【0010】
エラストマー(A)は、本樹脂組成物に柔軟性を付与する役割を果たす。
エラストマー(A)としては、ゴムと熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴムが挙げられる。
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ニトリル系、ポリアミド系、フッ素系等のエラストマーが挙げられる。
【0011】
エラストマー(A)は、本樹脂組成物の柔軟性が向上する点から、熱可塑性エラストマーであることが好ましく、ポリエステル系エラストマーであることがより好ましく、ポリエステル系エラストマーのなかでもエーテルエステル共重合体であることが特に好ましい。
【0012】
エーテルエステル共重合体とは、エーテル部位及びエステル部位を有する共重合体である。
エーテル部位は、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体等の脂肪族ポリエーテルからなる部位が挙げられる。
エステル部位としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルからなる部位が挙げられる。
【0013】
エラストマー(A)の質量平均分子量(以下、「Mw」という。)は特に限定されず、2,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜300,000であることがより好ましい。
【0014】
エラストマー(A)は、公知の合成方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
エラストマー(A)の市販品としては、例えば、エーテルエステル共重合体(ポリエーテルポリブチレンテレフタレート共重合体)であるハイトレル(東レデュポン社製)、ペルプレン(東洋紡社製)が挙げられる。
【0015】
本樹脂組成物(100質量%)中のエラストマー(A)の含有量は、3〜85質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。エラストマー(A)の含有量が3質量%以上であれば、本樹脂組成物の柔軟性が向上し、5質量%以上であればさらに柔軟性が向上する。また、エラストマー(A)の含有量が85質量%以下であれば、エラストマー(A)を樹脂(B)中に分散させることが容易になり、30質量%以下であればさらに分散が容易になる。
【0016】
樹脂(B)は、エラストマー(A)と反応する反応性基(以下、「反応性基(b)」という。)を有し、フッ素を含有する熱可塑性の樹脂である。反応性基(b)により、樹脂(B)にエラストマー(A)への接着性が付与される。樹脂(B)は、本樹脂組成物において可塑剤と相溶化剤の両方の役割を果たす。
【0017】
樹脂(B)としては、例えば、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPA)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等(以下、これらをまとめて「ETFE等」ということがある。)の樹脂に反応性基(b)が導入されたものが挙げられる。
なかでも、相溶化剤としての効果に優れる点から、樹脂(B)は反応性基(b)を有するETFEが好ましい。
【0018】
ETFEは、四フッ化エチレンに由来する構成単位と、エチレンに由来する構成単位とを有する重合体である。
ETFEにおける四フッ化エチレンに由来する構成単位とエチレンに由来する構成単位の質量比(四フッ化エチレン/エチレン)は、20/80〜80/20であることが好ましい。
【0019】
反応性基(b)としては、例えば、カルボキシ基もしくはその塩、酸無水物基、ヒドロキシ基、スルホ基もしくはその塩、エポキシ基、シアノ基、カーボネート基、カルボン酸ハライド塩が挙げられる。カルボキシ基、スルホ基の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩が挙げられる。
反応性基(b)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0020】
反応性基(b)は、従来公知の合成方法により樹脂(B)に導入することができる。例えば、反応性基(b)を有する単量体(以下、「単量体(β1)」という。)を四フッ化エチレン及びエチレンと共重合することにより、ETFEに反応性基(b)を導入することができる。
単量体(β1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸もしくはその塩、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ビニルスルホン酸もしくはその塩、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ビニルエチレンカーボネート、(メタ)アクリル酸ハライドが挙げられる。
【0021】
樹脂(B)における反応性基(b)を有する構成単位(単量体(β1)に由来する構成単位)の含有量は、0.1〜99質量%であることが好ましい。
【0022】
樹脂(B)は、本樹脂組成物の性能を低下させすぎない範囲内であれば、ETFE等を構成する単量体以外の他の単量体(以下、「単量体(β2)」という。)に由来する構成単位を有していてもよい。
単量体(β2)としては、プロピレン、六フッ化プロピレン、パーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルアリルエーテル等が挙げられる。例えば、ETFEにプロピレン、六フッ化プロピレン等が共重合されていてもよい。
樹脂(B)中の単量体(β2)に由来する構成単位の含有量は、0.1〜10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
樹脂(B)のMwは特に限定されず、2,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましい。
【0024】
樹脂(B)は、公知の合成方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
樹脂(B)の市販品としては、例えば、Fluon LM−ETFE AH(旭硝子社製)、ネオフロンEFEP(ダイキン工業社製)が挙げられる。
樹脂(B)は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0025】
本樹脂組成物(100質量%)中の樹脂(B)の含有量は、5〜87質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。樹脂(B)の含有量が5質量%以上であれば、可塑剤及び相溶化剤としての効果が得られやすく、10質量%以上であれば該効果がさらに得られやすい。また、樹脂(B)の含有量が87質量%以下であれば、エラストマー(A)及び樹脂(C)の量が増大し、それらによる効果が得られやすく、30質量%以下であれば該効果がさらに得られやすい。
【0026】
樹脂(C)は、フッ素を含有する熱可塑性の樹脂であり、前述した反応性基(b)を有さない樹脂である。樹脂(C)を含有することにより、本樹脂組成物の耐熱性及び耐水蒸気性が向上する。また、樹脂(C)により本樹脂組成物の摺動性、耐薬品性も向上する。
【0027】
樹脂(C)としては、例えば、PFA、FEP、EPA、ETFE、PCTFE、PVDFが挙げられる。なかでも、耐熱性及び耐水蒸気性に優れる点から、FEPが好ましい。
FEPにおける四フッ化エチレンに由来する構成単位と六フッ化プロピレンに由来する構成単位の質量比(四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン)は、特に制限はないが、耐熱性及び耐水蒸気性の点から、90/10〜99/1であることが好ましい。
樹脂(C)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
樹脂(C)は、本樹脂組成物の性能を低下させすぎない範囲内であれば、他の単量体(以下、「単量体(γ)」という。)に由来する構成単位を有していてもよい。
単量体(γ)としては、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、パーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルアリルエーテル等が挙げられる。例えば、FEPに、パーフルオロアルキルエーテル等が共重合されていてもよい。
【0029】
樹脂(C)のMwは、特に限定されず、樹脂の種類によっても異なるが、2,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましい。
【0030】
樹脂(C)は、公知の合成方法で合成した樹脂を用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、例えば、FEPであるテフロン(登録商標)130(デュポン社製)、ネオフロンFEP(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0031】
本樹脂組成物(100質量%)中の樹脂(C)の含有量は、10〜90質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。樹脂(C)の含有量が10質量%以上であれば、本樹脂組成物の耐熱性及び耐水蒸気性が向上し、30質量%以上であれば耐熱性及び耐水蒸気性がさらに向上する。また、樹脂(C)の含有量が90質量%以下であれば、本樹脂組成物の柔軟性が向上し、70質量%以下であれば柔軟性がさらに向上する。
【0032】
本樹脂組成物は、以上説明したエラストマー(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)を含有し、樹脂(C)中に樹脂(B)が分散されており、樹脂(B)中にエラストマー(A)が分散されている組成物である。このようにエラストマー(A)が樹脂(B)中に分散された状態で樹脂(C)中に分散されていることにより、樹脂(B)が相溶化剤として作用してエラストマー(A)と樹脂(C)が安定して混合され、耐熱性、耐水蒸気性及び柔軟性を兼ね備えた組成物が得られる。
本樹脂組成物においては、エラストマー(A)が樹脂(C)中により安定に分散され、より優れた耐熱性、耐水蒸気性、柔軟性が得られる点から、エラストマー(A)が樹脂(B)中にのみ分散されていることが好ましい。ただし、本樹脂組成物の前記特性を低下させすぎない範囲内であれば、樹脂(C)中に分散されているエラストマー(A)が存在していてもよい。
【0033】
本樹脂組成物中のエラストマー(A)の質量Wと、樹脂(B)の質量Wとの比(W/W)は、10/90〜45/55であることが好ましく、15/85〜40/60であることがより好ましい。比(W/W)が10/90以上であれば、本樹脂組成物の柔軟性が向上し、15/85以上であれば柔軟性がさらに向上する。また、比(W/W)が45/55以下であれば、樹脂(B)中にエラストマー(A)を分散させることが容易になり、40/60以下であれば分散がさらに容易になる。
【0034】
本樹脂組成物中の樹脂(C)の質量(W)と、樹脂(B)及びエラストマー(A)の合計質量(WAB)との比(W/WAB)は、55/45〜90/10であることが好ましく、60/40〜85/15であることがより好ましい。比(W/WAB)が55/45以上であれば、本樹脂組成物の耐熱性、耐水蒸気性、耐薬品性及び摺動性が向上し、60/40以上であれば前記諸性能がさらに向上する。また、比(W/WAB)が90/10以下であれば、本樹脂組成物の柔軟性が向上し、85/15以下であれば柔軟性がさらに向上する。
【0035】
エラストマー(A)の融点T、樹脂(B)の融点T、樹脂(C)の融点Tは、本樹脂組成物の耐熱性が向上する点から、T>T又はT>Tの条件を満たすことが好ましく、T>T>Tの条件を満たすことが特に好ましい。
【0036】
本樹脂組成物は、耐熱性、耐水蒸気性、柔軟性等の特性を低下させすぎない範囲内であれば、必要に応じて前記エラストマー(A)、樹脂(B)、樹脂(C)以外の他の成分(以下、「成分(D)」という。)を含有していてもよい。
成分(D)としては、例えば、公知の可塑剤、熱安定剤、導電性付与剤、帯電防止剤、離型剤、防曇剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、高級脂肪酸等の分散剤、タルク等の無機充填剤、シリコーン等が挙げられる。
【0037】
特に好ましい本樹脂組成物は、エラストマー(A)5〜20質量%と、樹脂(B)10〜30質量%と、樹脂(C)50〜70質量%と、任意成分である成分(D)0〜10質量%(ただし、(A)〜(D)の合計が100質量%である。)とを含有する組成物である。
【0038】
また、本樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、0.05〜10g/10minであることが好ましい。MFRがこの範囲内であれば、押出成形により所望の形に容易に成形することができる。ただし、MFRは、JIS K7210に準拠した方法(温度270℃、荷重2.16kg)で測定した値を意味する。
本樹脂組成物のMFRは、前記質量比W/WABを調整することにより調整することができる。
【0039】
以下、本樹脂組成物の製造方法の一例について説明する。
本樹脂組成物は、まずエラストマー(A)と樹脂(B)とを混練して混合物とした後に、該混合物と樹脂(C)とを混練することにより得ることができる。このようにして混練することにより、本樹脂組成物においてエラストマー(A)を樹脂(B)中に充分に分散させることができる。また、本樹脂組成物に成分(D)を含有させる場合は、前記エラストマー(A)と樹脂(B)の混練時、又は前記混合物と樹脂(C)の混練時に成分(D)を添加して混練すればよい。
【0040】
混練方法は、エラストマー(A)と樹脂(B)、及びそれらの混合物と樹脂(C)を充分に混練することができる方法であればよく、公知の混練方法を用いることができる。混練方法の具体例としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機等を用いる溶融混練方法、水性溶媒や有機溶媒を用いる湿式混練方法が挙げられ、溶融混練方法が好ましい。
【0041】
溶融混練時の温度は、各成分同士を充分に混練することができる温度であればよく、各成分の融点T、T、Tによっても異なるが、150〜300℃であることが好ましく、250〜280℃であることがより好ましい。前記温度が150℃以上であれば、エラストマー(A)と樹脂(B)、及びその混合物と樹脂(C)を均一に溶融混練することが容易になり、250℃以上であれば溶融混練がさらに容易になる。また、前記温度が300℃以下であれば、エラストマー(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)が劣化することを防止しやすく、280℃以下であればさらに劣化を防止しやすい。
また、エラストマー(A)と樹脂(B)を溶融混練する際の温度は、エラストマー(A)を樹脂(B)中に充分に分散できる温度であれば、それらの混合物と樹脂(C)とを混練する際の温度と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
湿式混練方法を用いる場合についても、エラストマー(A)と樹脂(B)、及びそれらの混合物と樹脂(C)を充分に混練することができれば各種条件は特に限定されず、溶媒の量、混練温度等を適宜選択して混練すればよい。
【0043】
本樹脂組成物は、用途に応じた成形品とすることにより、医療製品、機械部品、自動車部品、電気・電子部品等の様々な用途に用いることができ、特に耐熱性、耐水蒸気性及び柔軟性を必要とする医療製品に好適に用いることができる。
【0044】
以上説明した本樹脂組成物は、樹脂(C)を含有しているため優れた耐熱性と耐水蒸気性を有している。また、本樹脂組成物は、エラストマー(A)が樹脂(B)中に分散された状態で樹脂(C)中に含有されていることで、エラストマー(A)が樹脂(C)中に安定に分散されているため、優れた柔軟性を有している。また、エラストマー(A)、樹脂(B)及び樹脂(C)は架橋されていないため、本樹脂組成物は溶融成形により所望の形に容易に成形することができる。
【0045】
[医療製品]
本発明の医療製品は、前述の本樹脂組成物を用いた製品である。
医療製品としては、例えば、カテーテル、内視鏡用処置具チューブ、内視鏡可撓管等の医療用チューブ、内視鏡操作部等の内視鏡用部材等が挙げられる。本発明の医療製品としては、特に高温滅菌に耐え得る耐熱性及び耐水蒸気性と柔軟性の両方を必要とする医療用チューブが好ましい。
本発明の医療製品の製造方法は、本樹脂組成物を用いる以外は、公知の製造方法を適用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[評価方法]
本実施例で用いたエラストマー(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)について、曲げ弾性率(単位:MPa)、融点(単位:℃)を測定した。また、得られた樹脂組成物について、曲げ弾性率、メルトフローレート(MFR、単位:g/10min)、連続使用可能最高温度(単位:℃)、水蒸気透過係数(単位:g・mm/m・24hr)を測定した。
(曲げ弾性率)
曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠した方法で測定した。
(融点)
融点は、DSC(示差走査熱量計)により測定した。
(MFR)
本実施例で得られた樹脂組成物のMFRは、JIS K7210に準拠した方法(270℃、荷重2.16kg)で測定した。
(連続使用可能最高温度)
連続使用可能最高温度は、JIS K6257に準拠した方法で測定した。
連続使用可能最高温度は、医療製品として用いることを考慮すると135℃以上であれば問題ないと考えられる。
(水蒸気透過係数)
実施例及び比較例の樹脂組成物について、JIS Z0208に準拠した方法(カップ法)で135℃における水蒸気透過係数を測定した。
【0047】
[実施例1]
エラストマー(A)として曲げ弾性率95MPa、融点Tが200℃のハイトレル4777(エラストマーA1、ポリエーテルポリブチレンテレフタレート共重合体、東レデュポン社製)、樹脂(B)として曲げ弾性率600MPa、融点Tが220℃のFluon LM−ETFE AH(樹脂B1、反応性基(b)を有するETFE、旭硝子社製)、樹脂(C)として曲げ弾性率600MPa、融点Tが260℃のテフロン(登録商標)130(樹脂C1、FEP、デュポン社製)を用いた。
エラストマーA1(7質量部)と前記樹脂B1(23質量部)とを、二軸押出機を用いて、バレル温度260℃(先端部樹脂温度270℃)、回転数300rpmで溶融混練して混合物を得た。次いで、該混合物と前記樹脂C1(70質量部)とを、二軸押出機を用いて、バレル温度260℃(先端部樹脂温度270℃)、回転数300rpmで溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0048】
[実施例2〜3]
エラストマーA1、樹脂B1、樹脂C1の組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0049】
[比較例1〜3]
樹脂B1(比較例1)、エラストマーA1(比較例2)、樹脂C1(比較例3)をそれぞれ単独で100質量部用いて樹脂組成物とした。
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物に対して、曲げ弾性率、MFR、連続使用可能最高温度、水蒸気透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、エラストマーA1を分散させた樹脂B1と樹脂C1とを溶融混練した実施例1〜3の樹脂組成物は、柔軟性に優れており、また連続使用可能最高温度が高く耐熱性にも優れていた。さらに、水蒸気透過係数が低く耐水蒸気性にも優れており、MFRが0.05〜0.1g/10minであり溶融成形可能である。
【0052】
一方、樹脂B1のみを用いた比較例1の樹脂組成物は、実施例に比べて曲げ弾性率が高く柔軟性に劣っており、耐水蒸気性にも劣っていた。
エラストマーA1のみを用いた比較例2の樹脂組成物は、MFRが大きすぎて押出成形には不適であった。また、樹脂C1を用いていないため該樹脂C1により得られる耐薬品性、耐候性、摺動性等の機能が得られない。
樹脂C1のみを用いた比較例3の樹脂組成物は、実施例に比べて柔軟性が劣っており、MFRの測定において樹脂組成物が流動せず溶融成形に適していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー(A)と、前記エラストマー(A)と反応する反応性基を有する熱可塑性フッ素系樹脂(B)と、前記反応性基を有さない熱可塑性フッ素系樹脂(C)とを含有し、前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)中に前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)が分散されており、前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)中に前記エラストマー(A)が分散されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エラストマー(A)の融点T(℃)、前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)の融点T(℃)、及び前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)の融点T(℃)が、T>T>Tを満たす、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性フッ素系樹脂(B)が前記反応性基を有する四フッ化エチレン−エチレン共重合体である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性フッ素系樹脂(C)が四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エラストマー(A)がエーテルエステル共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いてなる医療製品。

【公開番号】特開2010−215768(P2010−215768A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63198(P2009−63198)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】