説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、〔A〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂、〔B〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(成分〔A〕を除く)であって(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位を有する(共)重合体を含む重合体、及び〔C〕脂肪族ポリエステル系樹脂を含有し、成分〔B〕に含まれる上記構造単位の含有量は、成分〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量に対し55〜100質量%であり、成分〔A〕及び〔B〕の含有割合は、成分〔A〕及び〔B〕の合計100質量%に対し5〜35質量%及び65〜95質量%であり、成分〔A〕及び〔B〕の合計量並びに成分〔C〕の含有量は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計100質量%に対し45〜90質量%及び10〜55質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における地球温暖化の問題、石油資源等の枯渇が危惧されるなか、植物由来の材料の利用が検討されている。これは、植物由来の材料を使用することにより、石油の使用量を抑えることができるとともに、その使用後に燃焼処理を行った場合、大気中の二酸化炭素(CO)の収支がほとんど変化しないというカーボンニュートラルの概念に基づいているためである。その中でも、燃焼時の燃焼熱量が低いこと、大量生産された場合のコスト等の観点から、ポリ乳酸系樹脂が、広く使用されており、その応用が更に拡大されつつある。
しかしながら、このポリ乳酸系樹脂は、既存の石油系樹脂に比べて、機械的強度、耐久性、特に、耐衝撃性や耐湿熱性(耐加水分解性)に劣るという欠点を有している。
【0003】
ポリ乳酸系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を、例えば、自動車、電子機器、家電製品、建材等の部材、日用雑貨等の成形用材料、包装用材料、保護用材料等の形成に使用する場合には、ポリ乳酸系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを併用した組成物が用いられている。
しかしながら、他の熱可塑性樹脂の中には、ポリ乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステル系樹脂と非相溶なものが多く、例えば、ABS樹脂を用いる場合には、通常、他の樹脂又は重合体からなる相溶化剤が併用されている。
【0004】
特許文献1には、ポリ乳酸樹脂と、ABS樹脂と、(メタ)アクリル系樹脂成分を含む硬質(共)重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されており、重合性不飽和単量体(アクリロニトリル及びスチレン)に由来する構造単位を含む(共)重合体がゴム質重合体(ポリブタジエン)にグラフトしている樹脂(グラフト樹脂)の含有量が、ABS樹脂、及び、(メタ)アクリル系樹脂成分を含む硬質(共)重合体の合計量に対して42.1〜69.5質量%とした組成物が開示されている。
特許文献2には、ポリ乳酸樹脂と、ABS樹脂と、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた硬質共重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献3には、ポリ乳酸等の生分解性樹脂と、ABS樹脂と、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−137908号公報
【特許文献2】特開2006−161024号公報
【特許文献3】特開2007−211206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献に開示された熱可塑性樹脂組成物によれば、ポリ乳酸樹脂と、ABS樹脂とのあいだの相溶性がみられるものの、耐衝撃性が未だ十分ではなかった。また、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体を含有することで、耐熱性が劣る場合があった。更に、着色剤を含有する組成物とした場合、得られる成形品において、色分かれが発生する等、着色外観性が十分でない場合があった。
本発明の目的は、耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
1.〔A〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂と、〔B〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(但し、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(b1)を有する(共)重合体を含む重合体と、〔C〕脂肪族ポリエステル系樹脂と、を含有する熱可塑性樹脂組成物において、上記重合体〔B〕に含まれる上記構造単位(b1)の含有量は、上記重合体〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜100質量%であり、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕及び上記重合体〔B〕の含有割合は、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕及び上記重合体〔B〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜35質量%及び65〜95質量%であり、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕の含有量及び上記重合体〔B〕の含有量の合計量、並びに、上記脂肪族ポリエステル系樹脂〔C〕の含有量、の割合は、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕、上記重合体〔B〕及び上記脂肪族ポリエステル系樹脂〔C〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、45〜90質量%及び10〜55質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
2.上記重合体〔B〕が、上記構造単位(b1)の含有量が80〜100質量%である(共)重合体(B1)と、上記構造単位(b1)の含有量が20質量%以下である共重合体(B2)とからなり、上記(共)重合体(B1)及び上記共重合体(B2)の含有割合が、上記(共)重合体(B1)及び上記共重合体(B2)の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、55〜95質量%及び5〜45質量%であり、上記(共)重合体(B1)を構成する上記構造単位(b1)の含有量、及び、上記共重合体(B2)を構成する上記構造単位(b1)の含有量の合計量が、上記重合体〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜95質量%である上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕が、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位の含有量が20質量%未満である上記1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕が、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位の含有量が20〜80質量%である上記1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.上記1乃至4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、車両、船舶、電子機器、家電製品、建材等の部材や、日用雑貨、スポーツ用品、文具等の、耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等の要求される成形品の形成に好適である。
また、本発明において、着色された成形品は、植物由来の材料への置き換えが可能な脂肪族ポリエステル系樹脂〔C〕を含むため、環境負荷の低い樹脂成形品として好ましく用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、〔A〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂(以下、「成分〔A〕」ともいう。)と、〔B〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(b1)を有する(共)重合体を含む重合体(但し、上記成分〔A〕を除く。以下、「成分〔B〕」ともいう。)と、〔C〕脂肪族ポリエステル系樹脂(以下、「成分〔C〕」ともいう。)と、を含有し、上記成分〔B〕に含まれる上記構造単位(b1)の含有量は、上記成分〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜100質量%であり、上記成分〔A〕及び上記成分〔B〕の含有割合は、上記成分〔A〕及び上記成分〔B〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜35質量%及び65〜95質量%であり、上記成分〔A〕の含有量及び上記成分〔B〕の含有量の合計量、並びに、上記成分〔C〕の含有量、の割合は、上記成分〔A〕、上記成分〔B〕及び上記成分〔C〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、45〜90質量%及び10〜55質量%であることを特徴とする。
【0011】
上記成分〔A〕は、ゴム質重合体の存在下、重合性不飽和単量体を重合すること(以下、「グラフト重合」という。)により得られた樹脂組成物(以下、「ゴム強化樹脂」という。)に含まれる、ゴム質重合体強化グラフト樹脂(以下、「グラフト樹脂」という。)である。このグラフト樹脂は、重合性不飽和単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体が、ゴム質重合体にグラフトしている樹脂であり、ゴム質重合体部と、重合性不飽和単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体部とからなる。
尚、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂は、通常、ゴム質重合体強化グラフト樹脂のほかに、ゴム質重合体にグラフトしていない(共)重合体(以下、「未グラフト重合体」という。)を含む。この未グラフト重合体の構成は、使用した重合性不飽和単量体の種類に依存し、未グラフト重合体は、グラフト重合にて使用した重合性不飽和単量体の種類により、本発明に係る成分〔B〕に含まれる場合と、他の樹脂(重合体)に該当する場合とがある。例えば、重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む場合には、形成される未グラフト重合体は、成分〔B〕に含まれることがある。
【0012】
上記ゴム質重合体は、25℃でゴム質であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいが、ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム」という。)及び非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム」という。)が好ましい。更に、このゴム質重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
上記ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
また、上記非ジエン系ゴムとしては、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位を含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%以上。)されたものであってもよい。上記非ジエン系ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明においては、上記成分〔A〕は、ゴム質重合体として、ジエン系ゴムを用いて得られたグラフト樹脂であることが好ましい。
【0016】
上記重合性不飽和単量体は、好ましくはビニル系単量体である。このビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
上記芳香族ビニル化合物は、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。但し、官能基等の置換基を有さないものとする。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0018】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、特に限定されない。但し、カルボン酸は含まないものとする。その例としては、エステル部が炭化水素基を含む化合物、エステル部がヒドロキシアルキル基を含む化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
エステル部が炭化水素基を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
また、エステル部がヒドロキシアルキル基を含む化合物としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルにε−カプロラクトンを付加して得られた化合物等が挙げられる。
【0020】
上記のように、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂は、通常、未グラフト重合体を含むことから、上記重合性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む場合には、この未グラフト重合体は、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(上記成分〔B〕に含まれる構造単位(b1)と同じ構造単位を意味し、以下、「(メタ)アクリル系構造単位」ということがある。)を含むこととなる。
【0021】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、2−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、3−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、p−ビニルベンジルアルコール、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明においては、上記重合性不飽和単量体は、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むことが好ましい。
上記重合性不飽和単量体に含まれる芳香族ビニル化合物の含有量の下限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
また、上記重合性不飽和単量体が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、これらの合計量の下限値は、好ましくは70質量%、より好ましくは80質量%、更に好ましくは95質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、成形加工性、耐薬品性、耐加水分解性、耐衝撃性、剛性、寸法安定性、成形外観性等の観点から、それぞれ、好ましくは40〜95質量%及び5〜60質量%、より好ましくは50〜90質量%及び10〜50質量%、更に好ましくは60〜85質量%及び15〜40質量%である。
【0025】
上記成分〔A〕として、好ましいグラフト樹脂は、以下の通りである。
(1)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
(2)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
(3)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
【0026】
本発明において、好ましい成分〔A〕は、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む重合性不飽和単量体((メタ)アクリル酸エステル化合物を含んでもよい。)を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位((メタ)アクリル系構造単位)の含有量が20質量%未満のゴム強化グラフト樹脂(以下、「ゴム強化樹脂(I)」という。)、及び、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位((メタ)アクリル系構造単位)の含有量が20〜80質量%のゴム強化グラフト樹脂(以下、「ゴム強化樹脂(II)」という。)である。
上記ゴム強化樹脂(I)における(メタ)アクリル系構造単位の含有量は、より好ましくは0〜10質量%、特に好ましくは0質量%である。
また、上記ゴム強化樹脂(II)における(メタ)アクリル系構造単位の含有量は、より好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは20〜60質量%、特に好ましくは30〜50質量%である。
本発明においては、上記成分〔A〕として、ゴム強化樹脂(I)及びゴム強化樹脂(II)を組み合わせて用いてよいし、いずれか一方を用いてもよい。
上記成分〔A〕が(メタ)アクリル系構造単位を含む場合、その含有量は、特に限定されない。
【0027】
上記成分〔A〕を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合法とすることができる。
【0028】
尚、上記成分〔A〕を製造する際には、反応系において、ゴム質重合体全量の存在下に、重合性不飽和単量体を一括供給して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に供給しながら重合を行ってもよい。また、ゴム質重合体の一部存在下、又は、非存在下に、重合性不飽和単量体を一括供給して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に供給してもよい。このとき、上記ゴム質重合体の残部は、反応の途中で、一括して、分割して又は連続的に供給してもよい。
【0029】
乳化重合を行う場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0030】
上記重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、無機過酸化物、レドックス型重合開始剤等が挙げられる。
【0031】
上記有機過酸化物としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−アミル−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル−tert−ヘキシルパーオキサイド、tert−アミル−tert−ヘキシルパーオキサイド、ジ(tert−ヘキシル)パーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0032】
上記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(tert−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0033】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス型重合開始剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0034】
上記重合開始剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.05〜10質量%である。
尚、上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に供給することができる。
【0035】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記連鎖移動剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.01〜5質量%である。
尚、上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に供給することができる。
【0037】
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記乳化剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.1〜10質量%である。
【0039】
乳化重合は、重合性不飽和単量体、重合開始剤等の種類に応じ、公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスに対しては、通常、凝固剤による樹脂成分の凝固が行われ、粉体等とされる。その後、水洗等によって精製し、乾燥して回収される。凝固に際しては、従来、公知の凝固剤が用いられ、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
【0040】
溶液重合、塊状重合及び塊状−懸濁重合により成分〔A〕を製造する場合は、公知の方法を適用することができる。
【0041】
上記のようにして得られた、成分〔A〕を含むゴム強化樹脂から、成分〔A〕及び未グラフト重合体を分離する場合、例えば、10gのゴム強化樹脂を、100〜200mlのアセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合、アセトニトリルを使用)に投入し、振とう機等を用いて、25℃で2〜3時間の振とうを行い、生成した不溶分及び可溶分を分離・回収する方法が適用される。アセトン可溶分(アセトニトリル可溶分)は、未グラフト重合体に相当するものであり、上記のように、グラフト重合にて使用した重合性不飽和単量体の種類により、成分〔B〕に含まれることがある。
【0042】
上記成分〔A〕におけるグラフト率は、成形加工性、成形品の耐衝撃性、成形外観性等の観点から、好ましくは20〜120%であり、より好ましくは30〜100%、更に好ましくは35〜80%である。このグラフト率が低すぎると、成形品の耐衝撃性及び成形外観性が低下する場合がある。一方、グラフト率が高すぎると、成形加工性が十分でなく、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0043】
上記グラフト率は、下記式により求めることができる。
グラフト率(%)={(S−T)/T}×100
式中、Sは、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂1グラムを、アセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合、アセトニトリルを使用)20mlに投入し、振とう機を用いて、振とう(温度25℃、2時間)した後、遠心分離機を用いて、遠心分離(温度5℃、回転数23,000rpm、1時間)し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム強化樹脂1グラムに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0044】
上記グラフト率は、例えば、成分〔A〕の製造時に用いる重合開始剤の種類及びその使用量、連鎖移動剤の種類及びその使用量、重合性不飽和単量体の供給方法及び供給時間、重合温度等を、適宜、選択することにより調整することができる。
【0045】
上記ゴム強化樹脂のアセトン可溶分(又はアセトニトリル可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは0.2〜0.9dl/g、より好ましくは0.25〜0.85dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
【0046】
ここで、極限粘度[η]は、例えば、以下の要領で求めることができる。
上記成分〔A〕におけるグラフト率を求める際に、遠心分離後に回収されたアセトン可溶分(又はアセトニトリル可溶分)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の還元粘度を測定することにより、極限粘度[η]が求められる。
【0047】
上記極限粘度[η]は、成分〔A〕を製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を調整することにより、制御することができる。
【0048】
本発明の組成物において、上記成分〔A〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0049】
上記成分〔B〕は、重合性不飽和単量体を重合して得られた、上記成分〔A〕を含まない重合体であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(b1)を有する(共)重合体(以下、「重合体(BX)」という。)を含む重合体である。尚、この成分〔B〕は、重合体(BX)のみであってよいし、重合体(BX)と、構造単位(b1)を含有せず、構造単位(b1)とは異なる構造単位(以下、「構造単位(b2)」という。)からなる他の(共)重合体(以下、「重合体(BY)」という。)との組み合わせであってもよい。これらの重合体(BX)及び重合体(BY)は、いずれも、上記成分〔A〕を含まないものとする。
上記成分〔B〕に含まれる重合体(BX)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。上記成分〔B〕に含まれる重合体(BY)もまた、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0050】
上記成分〔B〕を構成する構造単位(b1)の含有量は、着色外観性の観点から、この成分〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜100質量%であり、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%である。上記成分〔B〕を構成する構造単位(b1)は、上記成分〔A〕に含まれる場合の(メタ)アクリル系構造単位と同一であってよいし、異なってもよい。
【0051】
上記重合体(BX)は、構造単位(b1)のみからなる(共)重合体であってよいし、構造単位(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な他の重合性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位(b3)」という。)とを含む共重合体であってもよい。
上記重合体(BX)に含まれる構造単位(b1)の含有量は、着色外観性の観点から、好ましくは55〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、更に好ましくは65〜100質量%である。
【0052】
上記構造単位(b1)を形成する(メタ)アクリル酸エステル化合物については、上記成分〔A〕の形成に用いられる重合性不飽和単量体として使用可能な(メタ)アクリル酸エステル化合物の例示化合物が適用される。上記重合体(BX)を構成する構造単位(b1)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0053】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、エステル部が炭素数1〜4の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル化合物(以下、「単量体(bm1)」という。)を含むことが好ましく、この単量体(bm1)と、エステル部が炭素数5以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル化合物との組み合わせであってもよい。単量体(bm1)としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれる単量体(bm1)の割合は、着色外観性の観点から、好ましくは55〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%である。
【0054】
上記構造単位(b3)を形成する重合性不飽和単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、α−オレフィン、含塩素不飽和化合物(塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、含フッ素不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
一方、上記重合体(BY)は、構造単位(b2)のみからなる(共)重合体である。この構造単位(b2)を形成する重合性不飽和単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が好ましく、上記重合体(BY)としては、スチレン・アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。
【0056】
上記成分〔B〕が重合体(BX)及び重合体(BY)からなる場合、これらの重合体の含有割合は、特に限定されない。耐衝撃性、耐熱性及び着色外観性の観点から、重合体(BX)及び重合体(BY)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは55〜100質量%及び0〜45質量%、より好ましくは65〜100質量%及び0〜35質量%である。
【0057】
本発明に係る成分〔B〕は、好ましくは、構造単位(b1)の含有量が80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である(共)重合体(B1)と、構造単位(b1)の含有量が0〜20質量%、より好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0質量%である共重合体(B2)とからなり、これらの(共)重合体(B1)及び共重合体(B2)の含有割合を、両者の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは55〜95質量%及び5〜45質量%、より好ましくは57〜90質量%及び10〜43質量%、更に好ましくは60〜85質量%及び15〜40質量%とするものである。そして、上記(共)重合体(B1)を構成する構造単位(b1)の含有量、及び、上記共重合体(B2)を構成する構造単位(b1)の含有量の和(合計量)が、上記重合体〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量(上記(共)重合体(B1)を構成する全ての構造単位の含有量、及び、上記共重合体(B2)を構成する全ての構造単位の含有量、の和)を100質量%とした場合に、好ましくは55〜95質量%とするものである。このとき、耐衝撃性の観点から、より好ましい割合は55〜85質量%、特に好ましくは60〜75質量%である。また、着色外観性の観点から、より好ましい割合は70〜95質量%、特に好ましくは75〜90質量%である。
上記構成を有する成分〔B〕を用いることにより、耐衝撃性及び/又は外観性に特に優れた成形品を得ることができる。
【0058】
上記成分〔B〕の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは0.2〜0.9dl/g、より好ましくは0.25〜0.85dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
ここで、極限粘度[η]は、以下の要領で求めることができる。
上記成分〔B〕をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の溶液の還元粘度を測定することにより、極限粘度[η]が求められる。
【0059】
本発明の組成物において、上記成分〔B〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0060】
上記成分〔C〕は、脂肪族ポリエステル系樹脂であり、従来、公知の樹脂を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。成分〔C〕の具体例としては、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・カーボネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸・ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート及びポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネートが好ましく、ポリ乳酸系樹脂及びポリブチレンサクシネートが特に好ましい。
【0061】
上記ポリ乳酸系樹脂は、主たる構造単位がL−乳酸単位及び/又はD−乳酸単位であるものであれば、特に限定されない。これらの乳酸単位の(合計)含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、更に好ましくは99〜100モル%である。
尚、上記ポリ乳酸系樹脂が、他の構造単位を含む場合、その具体例としては、2つ以上のエステル結合形成可能な官能基を有するジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等に由来する構造単位等が挙げられる。
【0062】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール、ビスフェノールにエチレンオキシドが付加した化合物等の芳香族多価アルコール等が挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカルボン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、5−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸等が挙げられる。
また、ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−又はγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0063】
上記ポリ乳酸系樹脂の分子量及び分子量分布は、組成物が成形加工性を有するのであれば、特に限定されない。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)の下限値は、好ましくは10,000であり、より好ましくは50,000、更に好ましくは100,000である。但し、上限値は、通常、400,000である。尚、上記Mwに相当するMFR(温度190℃、荷重10kg)の下限値は、好ましくは3g/10分、より好ましくは5g/10分、更に好ましくは7g/10分であり、上限値は、通常、100g/10分である。
【0064】
本発明の組成物において、上記成分〔C〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0065】
本発明の組成物において、成分〔A〕及び〔B〕含有割合は、成形品の耐衝撃性及び耐熱性の観点から、成分〔A〕及び〔B〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜35質量%及び65〜95質量%であり、好ましくは5〜30質量%及び70〜95質量%、更に好ましくは5〜25質量%及び75〜95質量%である。
【0066】
本発明の組成物において、成分〔A〕及び〔B〕の合計量、並びに、成分〔C〕の含有量、の割合は、成形品の耐衝撃性及び耐熱性の観点から、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、45〜90質量%及び10〜55質量%であり、好ましくは45〜85質量%及び15〜55質量%、更に好ましくは45〜80質量%及び20〜55質量%である。
【0067】
本発明の組成物は、他の重合体(他の樹脂)を含有してもよい。
他の重合体としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
本発明の組成物が、他の重合体(他の樹脂)を含有する場合、その含有量は、上記成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量100質量部に対して、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部である。
【0068】
本発明の組成物において、成分〔A〕に由来するゴム質重合体の含有量は、成形加工性及び成形品の耐衝撃性の観点から、組成物全体に対して、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
【0069】
本発明の組成物は、目的、用途等に応じて、更に、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、滑剤、耐候安定剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、消泡剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)、蛍光増白剤、導電性付与剤等を含有したものとすることができる。
【0070】
上記充填剤としては、重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラック、クレー、タルク、フュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、カオリン、硅藻土、ゼオライト、酸化チタン、生石灰、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスバルーン、シラスバルーン、サランバルーン、フェノールバルーン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
上記可塑剤としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、多価アルコールのエステル、エポキシ系可塑剤、高分子型可塑剤、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、含硫黄化合物、含リン化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
上記老化防止剤としては、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
上記難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
有機系難燃剤としては、臭素化エポキシ系化合物、臭素化アルキルトリアジン化合物、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化架橋ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールシアヌレート樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、これらの変性化合物、縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン、グアニジン塩、シリコーン系化合物、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。
【0077】
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系化合物、モリブデン系化合物、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
また、反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0078】
上記滑剤としては、ワックス、シリコーン、脂質等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
本発明の組成物は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕を含む原料を混練することにより、製造することができる。混練に際しては、従来、公知の混練装置を用いればよく、例えば、二軸押出機、単軸押出機、加熱可能な二軸又は単軸のスクリューフィーダー、フィーダールーダー、バンバリーミキサー、ロールミル等を用いることができる。
【0080】
上記原料の混練温度は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の種類によって、適宜、選択されるが、通常、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕のうち、溶融温度が最も低い成分の溶融温度以上の温度であり、好ましくは、その溶融温度より10℃程度高い温度である。
【0081】
本発明の組成物は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕を含有することから、得られる成形品において、従来よりも一段と優れた耐衝撃性及び耐熱性を得ることができる。また、着色剤を含む組成物とした場合には、着色外観性に優れた成形品を得ることができる。即ち、無着色成形品のみならず、従来、着色外観性の不良現象が顕著となる成形品等の形成に好適である。そして、得られる成形品は、このような性質が要求される、車両、船舶、電子機器、家電製品、建材等の部材や、日用雑貨、スポーツ用品、文具等に好適である。
【0082】
本発明の成形品は、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物、又は、その構成成分を形成することとなる原料成分を、射出成形装置、シート押出成形装置、異形押出成形装置、中空成形装置、圧縮成形装置、真空成形装置、発泡成形装置、ブロー成形装置、射出圧縮成形装置、ガスアシスト成形装置、ウォーターアシスト成形装置等、公知の成形装置で加工することにより製造することができる。
【0083】
上記成形装置を用いて、成形品を製造する場合、成形温度及び金型温度は、上記成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の種類、又は、使用する原料成分(他の重合体を含む)の種類等によって、適宜、選択される。
例えば、上記成分〔A〕が、ジエン系ゴムを用いてなるゴム強化樹脂を含有する場合には、成形時のシリンダー温度は、通常、180℃〜250℃である。また、金型温度は、通常、20℃〜90℃である。
尚、成形品が大型である場合には、一般に、シリンダー温度は、上記温度より高めに設定される。
【0084】
本発明の成形品は、目的、用途等に応じて、任意の位置に、貫通孔、溝、凹部、凸部等を備えてもよい。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0086】
1.製造原料
熱可塑性樹脂組成物の製造に用いた原料(樹脂成分及び重合体成分)は、以下の通りである。尚、グラフト率、極限粘度[η]等の測定は、上記記載の方法に準じて行った。
1−1.原料〔P〕
この原料〔P〕は、下記の合成例1〜3により得られたゴム強化樹脂であり、ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕と、未グラフトの(共)重合体(重合体〔B〕に含まれる場合がある。)とからなる樹脂組成物である。
【0087】
合成例1(原料P1の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水35部、ロジン酸カリウム0.25部、tert−ドデシルメルカプタン0.15部、平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム(ゲル含有率80%)48部を含むラテックス120部、平均粒子径600nmのスチレン・ブタジエン共重合ゴム(スチレン単位量30%)12部を含むラテックス30部、スチレン9部及びアクリロニトリル3部を収容し、攪拌しながら昇温した。内温が40℃に達したところで、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.007部、ブドウ糖0.22部を、イオン交換水5部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.05部を加えて重合を開始した。
30分間重合させた後、イオン交換水30部、ロジン酸カリウム0.5部、スチレン20部、アクリロニトリル8部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部及びクメンハイドロパーオキサイド0.07部を、3時間かけて連続的に添加した。その後、更に1時間重合を継続し、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.15部を添加して重合を完結させた。
次いで、反応生成物を含むラテックスに、硫酸水溶液を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ゴム強化樹脂(P1)を得た。この樹脂のグラフト率は48%、アセトン可溶分の含有率は11.2%であった。
【0088】
合成例2(原料P2の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水35部、ロジン酸カリウム0.25部、tert−ドデシルメルカプタン0.12部、平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム(ゲル含有率80%)60部を含むラテックス150部、スチレン3部、アクリロニトリル0.7部及びメタクリル酸メチル8.7部を収容し、攪拌しながら昇温した。内温が40℃に達したところで、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.007部、ブドウ糖0.22部を、イオン交換水5部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.05部を加えて重合を開始した。
30分間重合させた後、イオン交換水30部、ロジン酸カリウム0.5部、スチレン6.5部、アクリロニトリル1.5部、メタクリル酸メチル19.6部、tert−ドデシルメルカプタン0.08部及びクメンハイドロパーオキサイド0.07部を、3時間かけて連続的に添加した。その後、更に1時間重合を継続し、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.15部を添加して重合を完結させた。
次いで、反応生成物を含むラテックスに、硫酸水溶液を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ゴム強化樹脂(P2)を得た。この樹脂のグラフト率は43%、アセトン可溶分の含有率は14.2%であった。
【0089】
合成例3(原料P3の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水42部、ロジン酸カリウム0.35部、tert−ドデシルメルカプタン0.2部、平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム(ゲル含有率80%)32部を含むラテックス80部、平均粒子径600nmのスチレン・ブタジエン共重合体ゴム(スチレン単位量30%)8部を含むラテックス19部、スチレン14部及びアクリロニトリル6部を収容し、攪拌しながら昇温した。内温が40℃に達したところで、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
30分間重合させた後、イオン交換水45部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.13部及びクメンハイドロパーオキサイド0.1部を、3時間かけて連続的に添加した。その後、更に1時間重合を継続し、反応系に、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を完結させた。
次いで、反応生成物を含むラテックスに、硫酸水溶液を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ゴム強化樹脂(P3)を得た。この樹脂のグラフト率は55%、アセトン可溶分の含有率は38.0%であった。
【0090】
1−2.原料〔Q〕
原料〔Q〕として、下記の市販品、及び、合成例4〜5により得られた共重合体を用いた。
【0091】
原料(Q1)として、三菱レイヨン社製アクリル系樹脂「アクリペットVH5」(商品名)を用いた。この製品は、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルの共重合体(重合比98:2)であり、GPCによる重量平均分子量(Mw)は69,000である。
【0092】
合成例4(スチレン・アクリロニトリル共重合体の合成)
リボン翼を備えたジャケット付き重合用反応器を、2基連結した合成装置を用いた。各反応器内に、窒素ガスをパージした後、1基目の反応器に、スチレン75部、アクリロニトリル25部及びトルエン20部からなる混合物と、分子量調節剤であるtert−ドデシルメルカプタン0.15部をトルエン5部に溶解した溶液と、重合開始剤である1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)0.1部をトルエン5部に溶解した溶液とを連続的に供給し、110℃で重合を行った。供給した単量体等の平均滞留時間は2時間であり、2時間後の重合転化率は56%であった。
次いで、得られた重合体溶液を、1基目の反応器の外部に設けられたポンプにより、連続的に取り出して、2基目の反応器に供給した。連続的に取り出す量は、1基目の反応器に供給する量と同じである。尚、2基目の反応器においては、130℃で2時間重合を行い、2時間後の重合転化率は74%であった。
その後、2基目の反応器から、重合体溶液を回収し、これを、2軸3段ベント付き押出機に導入した。そして、直接、未反応単量体及びトルエン(重合用溶媒)を脱揮し、スチレン・アクリロニトリル共重合体を回収した。このスチレン・アクリロニトリル共重合体を、原料(Q2)として用いた。
この原料(Q2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.60dl/gであった。
【0093】
合成例5(メタクリル酸メチル・スチレン・アクリロニトリル共重合体の合成)
単量体を、スチレン75部及びアクリロニトリル25部に代えて、メタクリル酸メチル72部、スチレン21部及びアクリロニトリル7部とした以外は、合成例4と同様にして、メタクリル酸メチル・スチレン・アクリロニトリル共重合体を得た。尚、1基目の反応器における2時間後の重合転化率は61%であり、2基目の反応器における2時間後の重合転化率は76%であった。
このメタクリル酸メチル・スチレン・アクリロニトリル共重合体を、原料(Q3)として用いた。
この原料(Q3)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.33dl/gであった。
【0094】
1−3.原料〔R〕
原料〔R〕として、下記の市販品を用いた。
原料(R1)として、ユニチカ社製ポリ乳酸「テラマック TE−7000」(商品名)を用いた。MFR(温度190℃、荷重10kg)は、22g/10分である。
原料(R2)として、ユニチカ社製ポリ乳酸「テラマック TP−4000」(商品名)を用いた。MFR(温度190℃、荷重10kg)は、19g/10分である。
原料(R3)として、ダイアケミカル社製ポリブチレンサクシネート「GSPla AZ91TD」(商品名)を用いた。MFR(温度190℃、荷重10kg)は、36g/10分である。
【0095】
2.熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜14及び比較例1〜8
原料〔P〕、〔Q〕及び〔R〕を、表1、表2及び表3に記載の割合で用いて熱可塑性樹脂組成物を得た。尚、組成物の評価に際しては、予め、評価項目に応じた添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物を製造し、これを利用した。
また、原料〔P〕は、その合成方法によって、本発明に係る成分〔A〕と、成分〔B〕に相当する共重合体とからなる混合物である場合があるので、グラフト率、アセトン可溶分(アセトニトリル可溶分)等を用いて、原料〔P〕に含まれる、本発明の成分〔B〕に相当する重合体の含有量を算出し、その計算値と、原料〔Q〕との合計量を、熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分〔B〕とした。
【0096】
(I)物性評価用組成物
原料〔P〕、〔Q〕及び〔R〕の所定量を、ヘンシェルミキサーに供給した後、これらの合計100部に対して、酸化防止剤であるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名「アデカスタブ2112」、ADEKA社製)0.2部と、テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(商品名「IRGANOX1010」、チバスペシャリティケミカルズ社製)0.2部を添加し、25℃で混合した。次いで、この混合物を、プラスチック工学研究所社製2軸押出機「BT40」(型式名)に供給して溶融混練し、ペレット(物性評価用組成物)を得た。尚、溶融混練の際のシリンダー設定温度は、180℃〜220℃とした。
その後、上記ペレットを十分に乾燥した後、シリンダーの設定温度を180℃〜240℃とした東芝機械社製射出成形機「EC60」(型式名)を用いて、評価項目に適した試験片を作製し、評価に供した。
(1)シャルピー衝撃強さ
ISO 179に準じて、23℃で測定した。単位は「kJ/m」である。
(2)荷重たわみ温度
ISO 75に準じて、曲げ応力1.8MPa及び0.45MPaで測定した。単位は「℃」である。尚、各表においては、曲げ応力1.8MPaのときの荷重たわみ温度を、「耐熱性(i)」と示し、曲げ応力0.45MPaのときの荷重たわみ温度を、「耐熱性(ii)」と示した。
(3)曲げ強度
ISO 179に準じて、23℃で測定した。単位は「MPa」である。
(4)曲げ弾性率
ISO 179に準じて、23℃で測定した。単位は「MPa」である。
【0097】
(II)着色外観評価用組成物
原料〔P〕、〔Q〕及び〔R〕の所定量を、ヘンシェルミキサーに供給した後、これらの合計100部に対して、酸化防止剤であるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名「アデカスタブ2112」、ADEKA社製)0.2部と、テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(商品名「IRGANOX1010」、チバスペシャリティケミカルズ社製)0.2部を添加し、更に、酸化チタン1.17部、チタンイエロー1.08部、ベンガラ0.12部、カーボンブラック0.33部、ヒマシ油水添硬化油(商品名「K−3ワックス」、川研ファインケミカル社製)0.30部を添加し、25℃で混合した。次いで、この混合物を、プラスチック工学研究所社製2軸押出機「BT40」(型式名)に供給して溶融混練し、ペレット(物性評価用組成物)を得た。尚、溶融混練の際のシリンダー設定温度は、180℃〜220℃とした。
その後、上記ペレットを十分に乾燥した後、最大長さが約10mmであるリブ形状のキャビティ空間を連続的に備える金型を配設した、FANUC社製射出成形機「ROBOSHOT α−150IA」(型式名)を用いて、射出成形に供した。シリンダー設定温度は、180℃〜210℃とし、射出速度は、毎秒15mm、30mm、60mm及び180mmとした。得られた成形品を、目視観察し、下記基準で判定した。
◎:射出速度によらず、リブの裏にも、表面のいずれの場所にも、色別れは見られなかった。
○:射出速度によって、一部のリブの裏に色別れが見られたが、表面のいずれの場所にも色別れは見られなかった。
△:射出速度によって、一部のリブの裏と表面に色別れが見られた。
×:すべての射出速度において、リブの裏だけでなく、表面全体に色別れが見られた。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
表1、表2及び表3から、以下のことが明らかである。
比較例1は、本発明に係る構造単位(b1)の含有量が、成分〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量に対して43.7%と少なく、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性及び着色外観性に劣る。比較例2は、成分〔A〕及び〔B〕の合計量に対する成分〔A〕の割合が1.8%と少なく、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性に劣る。比較例3は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量に対する成分〔C〕の割合が60%と多く、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性及び耐熱性に劣る。比較例4は、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量に対する成分〔C〕の割合が5%と少なく、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性に劣る。比較例5は、特開2006−137908号公報における実施例3に対応する実験例であり、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量に対する成分〔C〕の割合が、60%と多く、また、成分〔A〕及び〔B〕の合計量に対する成分〔A〕の割合が、55.5%と多く、いずれも、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性、耐熱性及び着色外観性に劣る。比較例6は、成分〔A〕及び〔B〕の合計量に対する成分〔A〕の割合が52.4%と多く、本発明の範囲外の例であり、着色外観性に劣る。比較例7は、特開2006−137908号公報における実施例1に対応する実験例であり、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量に対する成分〔C〕の割合が、80%と多く、また、成分〔A〕及び〔B〕の合計量に対する成分〔A〕の割合が、66.6%と多く、いずれも、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性、耐熱性及び着色外観性に劣る。更に、比較例8は、特開2006−137908号公報における実施例4に対応する実験例であり、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の合計量に対する成分〔C〕の割合が、60%と多く、また、成分〔A〕及び〔B〕の合計量に対する成分〔A〕の割合が、55.5%と多く、いずれも、本発明の範囲外の例であり、耐衝撃性、耐熱性及び着色外観性に劣る。
一方、本発明に係る成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕を含有し、特定の構成とする組成物である実施例1〜14においては、耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等のバランスに優れていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、耐熱性、着色外観性等に優れた成形品を与えることから、無着色成形品のみならず、従来、外観性の不良現象が顕著となる着色成形品等の形成に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂と、
〔B〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(但し、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(b1)を有する(共)重合体を含む重合体と、
〔C〕脂肪族ポリエステル系樹脂と、
を含有する熱可塑性樹脂組成物において、
上記重合体〔B〕に含まれる上記構造単位(b1)の含有量は、該重合体〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜100質量%であり、
上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕及び上記重合体〔B〕の含有割合は、該ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕及び該重合体〔B〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜35質量%及び65〜95質量%であり、
上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕の含有量及び上記重合体〔B〕の含有量の合計量、並びに、上記脂肪族ポリエステル系樹脂〔C〕の含有量、の割合は、該ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕、該重合体〔B〕及び該脂肪族ポリエステル系樹脂〔C〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、45〜90質量%及び10〜55質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記重合体〔B〕が、上記構造単位(b1)の含有量が80〜100質量%である(共)重合体(B1)と、上記構造単位(b1)の含有量が20質量%以下である共重合体(B2)とからなり、
上記(共)重合体(B1)及び上記共重合体(B2)の含有割合が、該(共)重合体(B1)及び該共重合体(B2)の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、55〜95質量%及び5〜45質量%であり、
上記(共)重合体(B1)を構成する上記構造単位(b1)の含有量、及び、上記共重合体(B2)を構成する上記構造単位(b1)の含有量の合計量が、上記重合体〔B〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、55〜95質量%である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕が、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位の含有量が20質量%未満である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔A〕が、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であり、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位の含有量が20〜80質量%である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2012−116899(P2012−116899A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265671(P2010−265671)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】