説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、〔A〕脂肪族ポリエステル系樹脂、〔B〕ポリカーボネート樹脂、〔C〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂、〔D〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔C〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位を有する(共)重合体を含む重合体、及び〔E〕リン系難燃剤を含有し、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の含有量は、これらの合計100質量%に対し、各々、22〜56質量%、22〜48質量%、5〜18質量%及び12〜45質量%、成分〔E〕の含有量は、成分〔A〕〜〔D〕の合計100質量部に対し、10〜25質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における地球温暖化の問題、石油資源等の枯渇が危惧されるなか、植物由来の材料の利用が検討されている。これは、植物由来の材料を使用することにより、石油の使用量を抑えることができるとともに、その使用後に燃焼処理を行った場合、大気中の二酸化炭素(CO)の収支がほとんど変化しないというカーボンニュートラルの概念に基づいているためである。また、生物由来の有機資源であるバイオマスを利用したバイオマスプラスチックは、環境負荷をより低くすることができるため、近年、注目されている。その中でも、燃焼時の燃焼熱量が低いこと、大量生産された場合のコスト等の観点から、ポリ乳酸系樹脂が、広く使用されており、その応用が更に拡大されつつある。そして、バイオマスプラスチックの含有割合を25質量%以上とした樹脂組成物の使用が推奨され、日本バイオプラスチック協会により、「バイオマスプラ」の識別表示が許可されている。
【0003】
ポリ乳酸系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を、各種樹脂製品の成形用材料、包装用材料、保護用材料等の形成に使用する場合には、ポリ乳酸系樹脂が、既存の石油系樹脂に比べて、機械的強度、耐久性、特に、耐衝撃性や耐湿熱性(耐加水分解性)に劣るという欠点を有することから、ポリ乳酸系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを併用した組成物が用いられている。
しかしながら、他の熱可塑性樹脂の中には、ポリ乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステル系樹脂と非相溶なものが多く、例えば、ABS樹脂を用いる場合には、通常、(メタ)アクリル系樹脂等の、他の樹脂又は重合体を相溶化剤として配合している。
【0004】
特許文献1には、ポリ乳酸樹脂と、ABS樹脂と、(メタ)アクリル系樹脂成分を含む硬質(共)重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、ポリ乳酸樹脂と、ABS樹脂と、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた硬質共重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
特許文献3には、ポリ乳酸等の生分解性樹脂と、ABS樹脂と、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、ポリ乳酸系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に、耐熱性を要求する場合には、他の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂を用いることができ、特許文献4には、芳香族ポリカーボネート樹脂、並びに、ポリ乳酸及び/又は乳酸類と他のヒドロキシカルボン酸とを用いて得られた共重合体を含有する樹脂組成物からなる、真珠光沢を有する成形品が開示されている。
更に、自動車、電子機器、家電製品、建材等の樹脂部材、日用雑貨等において、発熱体又は発熱部材の近傍に配される樹脂部材、あるいは、太陽光等を受光する樹脂部材に対して、難燃性が要求されることがある。このような樹脂部材の成形材料として、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸及び/又は乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ゴム成分のコアと、ビニル化合物を用いて形成されたシェルとを備えるコアシェル型のグラフト共重合体等の衝撃改良剤、並びに、難燃剤を含有する組成物が知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−137908号公報
【特許文献2】特開2006−161024号公報
【特許文献3】特開2007−211206号公報
【特許文献4】特開平7−109413号公報
【特許文献5】特開2005−48067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面における真珠光沢等の形成が抑制された成形品を与え、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物並びに成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.〔A〕脂肪族ポリエステル系樹脂と、〔B〕ポリカーボネート樹脂と、〔C〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂と、〔D〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(但し、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔C〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(d1)を有する(共)重合体を含む重合体と、〔E〕リン系難燃剤と、を含有し、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、上記成分〔A〕の含有量は22〜56質量%であり、上記成分〔B〕の含有量は22〜48質量%であり、上記成分〔C〕の含有量は5〜18質量%であり、上記成分〔D〕の含有量は12〜45質量%であり、上記成分〔C〕に由来するゴム質重合体の含有量は3〜10質量%であり、上記成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量は6〜26質量%であり、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量部とした場合に、上記成分〔E〕の含有量は10〜25質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
2.上記ゴム質重合体がジエン系ゴムである上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.上記成分〔E〕がリン酸エステルである上記1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.上記1乃至3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、表面における真珠光沢等の形成が抑制されて良好な外観性を有し、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れた成形品を得ることができる。そして、この熱可塑性樹脂組成物は、車両、船舶、電子機器、家電製品、建材等の部材や、日用雑貨、スポーツ用品、文具等の、耐衝撃性、耐熱性、成形外観性、難燃性等の要求される成形品の形成に好適である。
また、成分〔A〕用の原料として、植物由来樹脂を用いることができるので、得られる成形品は、環境負荷の低い樹脂成形品として好ましく用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、〔A〕脂肪族ポリエステル系樹脂と、〔B〕ポリカーボネート樹脂と、〔C〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂と、〔D〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(但し、上記成分〔C〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(d1)を有する(共)重合体を含む重合体と、〔E〕リン系難燃剤と、を含有し、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、上記成分〔A〕の含有量は22〜56質量%であり、上記成分〔B〕の含有量は22〜48質量%であり、上記成分〔C〕の含有量は5〜18質量%であり、上記成分〔D〕の含有量は12〜45質量%であり、上記成分〔C〕に由来するゴム質重合体の含有量は3〜10質量%であり、上記成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量は6〜26質量%であり、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量部とした場合に、上記成分〔E〕の含有量は10〜25質量部であることを特徴とする。
【0012】
上記成分〔A〕は、脂肪族ポリエステル系樹脂であり、従来、公知の樹脂を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。成分〔A〕の具体例としては、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸・ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート及びポリエチレンサクシネートが好ましく、ポリ乳酸系樹脂及びポリブチレンサクシネートがより好ましい。また、原料が植物由来であるポリ乳酸系樹脂が特に好ましい。
【0013】
上記ポリ乳酸系樹脂は、主たる構造単位がL−乳酸単位及び/又はD−乳酸単位であるものであれば、特に限定されない。これらの乳酸単位の(合計)含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、更に好ましくは99〜100モル%である。
尚、上記ポリ乳酸系樹脂が、他の構造単位を含む場合、その具体例としては、2つ以上のエステル結合形成可能な官能基を有するジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等に由来する構造単位等が挙げられる。
【0014】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール、ビスフェノールにエチレンオキシドが付加した化合物等の芳香族多価アルコール等が挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカルボン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、5−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸等が挙げられる。
また、ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−又はγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0015】
上記ポリ乳酸系樹脂の分子量及び分子量分布は、組成物が成形加工性を有するのであれば、特に限定されない。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)の下限値は、好ましくは10,000であり、より好ましくは50,000、更に好ましくは100,000である。但し、上限値は、通常、400,000である。尚、上記Mwに相当するMFR(温度190℃、荷重10kg)の下限値は、好ましくは3g/10分、より好ましくは5g/10分、更に好ましくは7g/10分であり、上限値は、通常、100g/10分である。
【0016】
本発明の組成物において、上記成分〔A〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0017】
上記成分〔B〕は、主鎖にカーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂であれば、特に限定されず、芳香族ポリカーボネートでもよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、耐衝撃性、耐熱性、難燃性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、この成分〔B〕は、末端が、R−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
【0018】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0019】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記芳香族ヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0021】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記成分〔B〕の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000、更に好ましくは18,000〜28,000、特に好ましくは18,000〜22,000である。この粘度平均分子量(Mv)が大きくなるほど、耐衝撃性が高くなる一方、流動性が十分ではなく、成形加工性に劣る傾向にある。尚、全体としての粘度平均分子量(Mv)が、上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量(Mv)を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の組成物において、上記成分〔B〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0024】
上記成分〔C〕は、ゴム質重合体の存在下、重合性不飽和単量体を重合すること(以下、「グラフト重合」という。)により得られた樹脂組成物(以下、「ゴム強化樹脂」という。)に含まれる、ゴム質重合体強化グラフト樹脂(以下、「グラフト樹脂」という。)である。このグラフト樹脂は、重合性不飽和単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体が、ゴム質重合体にグラフトしている樹脂であり、ゴム質重合体部と、重合性不飽和単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体部とからなる。
尚、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂は、通常、ゴム質重合体強化グラフト樹脂のほかに、ゴム質重合体にグラフトしていない(共)重合体(以下、「未グラフト重合体」という。)を含む。この未グラフト重合体の構成は、使用した重合性不飽和単量体の種類に依存する。
【0025】
上記ゴム質重合体は、25℃でゴム質であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいが、ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム」という。)及び非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム」という。)が好ましい。更に、このゴム質重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
上記ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、上記非ジエン系ゴムとしては、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位を含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%以上。)されたものであってもよい。上記非ジエン系ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明においては、上記成分〔C〕は、ゴム質重合体として、ジエン系ゴムを用いて得られたグラフト樹脂であることが好ましい。
【0029】
上記重合性不飽和単量体は、好ましくはビニル系単量体である。このビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記芳香族ビニル化合物は、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。但し、官能基等の置換基を有さないものとする。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0031】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、特に限定されない。但し、カルボン酸は含まないものとする。その例としては、エステル部が炭化水素基を含む化合物、エステル部がヒドロキシアルキル基を含む化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
エステル部が炭化水素基を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
また、エステル部がヒドロキシアルキル基を含む化合物としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルにε−カプロラクトンを付加して得られた化合物等が挙げられる。
【0033】
上記のように、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂は、通常、未グラフト重合体を含むことから、上記重合性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む場合には、この未グラフト重合体は、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(上記成分〔D〕に含まれる構造単位(d1)と同じ構造単位を意味し、以下、「(メタ)アクリル系構造単位」ということがある。)を含むこととなる。
【0034】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、2−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、3−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、p−ビニルベンジルアルコール、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明においては、上記重合性不飽和単量体は、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むことがより好ましい。
上記重合性不飽和単量体に含まれる芳香族ビニル化合物の含有量の下限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
また、上記重合性不飽和単量体が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、これらの合計量の下限値は、好ましくは70質量%、より好ましくは80質量%、更に好ましくは95質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、成形加工性、耐薬品性、耐加水分解性、耐衝撃性、剛性、寸法安定性、成形外観性等の観点から、それぞれ、好ましくは40〜95質量%及び5〜60質量%、より好ましくは50〜90質量%及び10〜50質量%、更に好ましくは60〜85質量%及び15〜40質量%である。
【0038】
上記成分〔C〕として、好ましいグラフト樹脂は、以下の通りである。これらのうち、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスの観点から、態様(1)及び(3)が特に好ましい。
(1)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
(2)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
(3)ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物からなる重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂
【0039】
上記態様(3)において、成分〔C〕における(メタ)アクリル系構造単位の含有量は、特に限定されない。但し、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスの観点から、ジエン系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む重合性不飽和単量体を重合して得られたグラフト樹脂であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位((メタ)アクリル系構造単位)の含有量の上限値が80質量%のゴム強化グラフト樹脂であることが好ましい。この(メタ)アクリル系構造単位の含有量の上限値は、より好ましくは70質量%、更に好ましくは60質量%、特に好ましくは50質量%である。
本発明においては、成分〔C〕として、いずれも、上記態様(3)のグラフト樹脂であって、(メタ)アクリル系構造単位の含有量が互いに異なるグラフト樹脂の複数を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記成分〔C〕を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合法とすることができる。
【0041】
尚、上記成分〔C〕を製造する際には、反応系において、ゴム質重合体全量の存在下に、重合性不飽和単量体を一括供給して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に供給しながら重合を行ってもよい。また、ゴム質重合体の一部存在下、又は、非存在下に、重合性不飽和単量体を一括供給して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に供給してもよい。このとき、上記ゴム質重合体の残部は、反応の途中で、一括して、分割して又は連続的に供給してもよい。
【0042】
乳化重合を行う場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0043】
上記重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、無機過酸化物、レドックス型重合開始剤等が挙げられる。
【0044】
上記有機過酸化物としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−アミル−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル−tert−ヘキシルパーオキサイド、tert−アミル−tert−ヘキシルパーオキサイド、ジ(tert−ヘキシル)パーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0045】
上記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(tert−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0046】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス型重合開始剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0047】
上記重合開始剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.05〜10質量%である。
尚、上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に供給することができる。
【0048】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
上記連鎖移動剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.01〜5質量%である。
尚、上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に供給することができる。
【0050】
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
上記乳化剤の使用量は、上記重合性不飽和単量体の全量に対して、通常、0.1〜10質量%である。
【0052】
乳化重合は、重合性不飽和単量体、重合開始剤等の種類に応じ、公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスに対しては、通常、凝固剤による樹脂成分の凝固が行われ、粉体等とされる。その後、水洗等によって精製し、乾燥して回収される。凝固に際しては、従来、公知の凝固剤が用いられ、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。本発明においては、組成物に塩が存在すると、成分〔B〕の加水分解を引き起こす場合があることから、無機酸及び有機酸を凝固剤として用いることが好ましい。
【0053】
溶液重合、塊状重合及び塊状−懸濁重合により成分〔C〕を製造する場合は、公知の方法を適用することができる。
【0054】
上記のようにして得られた、成分〔C〕を含むゴム強化樹脂から、成分〔C〕及び未グラフト重合体を分離する場合、例えば、10gのゴム強化樹脂を、100〜200mlのアセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合、アセトニトリルを使用)に投入し、振とう機等を用いて、25℃で2〜3時間の振とうを行い、生成した不溶分及び可溶分を分離・回収する方法が適用される。アセトン可溶分(アセトニトリル可溶分)は、未グラフト重合体に相当するものであり、成分〔D〕に含まれる。
【0055】
上記成分〔C〕におけるグラフト率は、成形加工性、成形品の耐衝撃性、成形外観性等の観点から、好ましくは10〜200%であり、より好ましくは15〜150%、更に好ましくは20〜100%である。このグラフト率が低すぎると、成形品の耐衝撃性及び成形外観性が低下する場合がある。一方、グラフト率が高すぎると、成形加工性が十分でない場合がある。
【0056】
上記グラフト率は、下記式により求めることができる。
グラフト率(%)={(S−T)/T}×100
式中、Sは、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂1グラムを、アセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合、アセトニトリルを使用)20mlに投入し、振とう機を用いて、振とう(温度25℃、2時間)した後、遠心分離機を用いて、遠心分離(温度5℃、回転数23,000rpm、1時間)し、成分〔C〕に相当する不溶分と、未グラフト重合体に相当する可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム強化樹脂1グラムに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0057】
上記グラフト率は、例えば、成分〔C〕の製造時に用いる重合開始剤の種類及びその使用量、連鎖移動剤の種類及びその使用量、重合性不飽和単量体の供給方法及び供給時間、重合温度等を、適宜、選択することにより調整することができる。
【0058】
上記ゴム強化樹脂のアセトン可溶分(又はアセトニトリル可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは0.1〜1.0dl/g、より好ましくは0.15〜0.9dl/g、更に好ましくは0.2〜0.8dl/gである。この極限粘度[η]が低すぎると、成形品の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、極限粘度[η]が高すぎると、成形加工性が十分でない場合がある。
【0059】
ここで、極限粘度[η]は、例えば、以下の要領で求めることができる。
上記成分〔C〕におけるグラフト率を求める際に、ゴム強化樹脂と、アセトン又はアセトニトリルとを含む混合物を、遠心分離機を用いて遠心分離した後に回収されたアセトン可溶分(又はアセトニトリル可溶分)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の還元粘度を測定することにより、極限粘度[η]が求められる。
【0060】
上記極限粘度[η]は、成分〔C〕を製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を調整することにより、制御することができる。
【0061】
本発明の組成物において、上記成分〔C〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0062】
上記成分〔D〕は、重合性不飽和単量体を重合して得られた、上記成分〔C〕を含まない重合体であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(d1)を有する(共)重合体(以下、「重合体(DX)」という。)を含む重合体である。尚、この成分〔D〕は、重合体(DX)のみであってよいし、重合体(DX)と、構造単位(d1)を含有せず、構造単位(d1)とは異なる構造単位(以下、「構造単位(d2)」という。)からなる他の(共)重合体(以下、「重合体(DY)」という。)との組み合わせであってもよい。これらの重合体(DX)及び重合体(DY)は、いずれも、上記成分〔C〕を含まないものとする。
上記成分〔D〕に含まれる重合体(DX)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。上記成分〔D〕に含まれる重合体(DY)もまた、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0063】
上記成分〔D〕を構成する構造単位(d1)の含有量は、成形外観性の観点から、この成分〔D〕を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とした場合に、好ましくは25〜100質量%であり、より好ましくは30〜90質量%、更に好ましくは35〜85質量%である。上記成分〔D〕を構成する構造単位(d1)の種類は、上記成分〔C〕を構成するグラフト部に含まれる場合の(メタ)アクリル系構造単位と同一であってよいし、異なってもよい。
【0064】
上記重合体(DX)は、構造単位(d1)のみからなる(共)重合体であってよいし、構造単位(d1)と、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な他の重合性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位(d3)」という。)とを含む共重合体であってもよい。
上記重合体(DX)に含まれる構造単位(d1)の含有量は、得られる成形品の外観性の観点から、好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは65〜100質量%である。
【0065】
上記構造単位(d1)を形成する(メタ)アクリル酸エステル化合物については、上記成分〔C〕の形成に用いられる重合性不飽和単量体として使用可能な(メタ)アクリル酸エステル化合物の例示化合物が適用される。上記重合体(DX)を構成する構造単位(d1)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0066】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、エステル部が炭素数1〜4の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル化合物(以下、「単量体(dm1)」という。)を含むことが好ましく、この単量体(dm1)と、エステル部が炭素数5以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル化合物との組み合わせであってもよい。単量体(dm1)としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれる単量体(dm1)の割合は、得られる成形品の外観性の観点から、好ましくは55〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。
【0067】
上記構造単位(d3)を形成する重合性不飽和単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、α−オレフィン、含塩素不飽和化合物(塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、含フッ素不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
上記重合体(DX)としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル・アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。これらの(共)重合体は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
一方、上記重合体(DY)は、構造単位(d2)のみからなる(共)重合体である。この構造単位(d2)を形成する重合性不飽和単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらのうち、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が好ましい。また、これらの重合性不飽和単量体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
上記重合体(DY)としては、スチレン・アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記成分〔D〕が重合体(DX)及び重合体(DY)からなる場合、これらの重合体の含有割合は、特に限定されない。耐衝撃性、耐熱性及び成形外観性の観点から、重合体(DX)及び重合体(DY)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは20〜100質量%及び0〜80質量%、より好ましくは30〜100質量%及び0〜70質量%である。
【0072】
本発明に係る成分〔D〕は、好ましくは、構造単位(d1)の含有量が60〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、特に好ましくは100質量%である(共)重合体(D1)と、構造単位(d1)の含有量が0〜40質量%、より好ましくは0〜20質量%、特に好ましくは0質量%である共重合体(D2)とからなり、これらの(共)重合体(D1)及び共重合体(D2)の含有割合を、両者の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは10〜100質量%及び0〜90質量%、より好ましくは25〜100質量%及び0〜75質量%、更に好ましくは35〜100質量%及び0〜65質量%、特に好ましくは50〜100質量%及び0〜50質量%とするものである。そして、上記(共)重合体(D1)を構成する構造単位(d1)の含有量、及び、上記共重合体(D2)を構成する構造単位(d1)の含有量の和(合計量)が、上記重合体〔D〕を構成する全ての構造単位の合計量(上記(共)重合体(D1)を構成する全ての構造単位の含有量、及び、上記共重合体(D2)を構成する全ての構造単位の含有量、の和)を100質量%とした場合に、得られる成形品の耐衝撃性、難燃性及び外観性の観点から、より好ましい割合は30〜95質量%、より好ましくは35〜95質量%、特に好ましくは35〜85質量%である。
上記構成を有する成分〔D〕を用いることにより、耐衝撃性及び/又は外観性に特に優れた成形品を得ることができる。
【0073】
上記成分〔D〕の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは0.1〜1.5dl/g、より好ましくは0.1〜1.3dl/g、更に好ましくは0.1〜1.0dl/gである。
ここで、極限粘度[η]は、以下の要領で求めることができる。
上記成分〔D〕をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の溶液の還元粘度を測定することにより、極限粘度[η]が求められる。
【0074】
上記成分〔D〕を製造する方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
【0075】
本発明の組成物において、上記成分〔D〕は、1種単独で含まれていてよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0076】
本発明の組成物において、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の含有割合は、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、22〜56質量%、22〜48質量%、5〜18質量%及び12〜45質量%であり、好ましくは25〜52質量%、24〜48質量%、6〜16質量%及び13〜40質量%、更に好ましくは25〜48質量%、26〜46質量%、7〜15質量%及び14〜38質量%、特に好ましくは27〜42質量%、28〜44質量%、8〜14質量%及び15〜35質量%である。成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の含有割合をこのようにすることにより、表面における真珠光沢等の形成が抑制されて良好な外観性を有し、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
上記成分〔B〕の含有量が少なすぎると、耐衝撃性及び難燃性に劣る。一方、成分〔B〕の含有量が多すぎると、成形加工性及び成形外観性に劣る。
上記成分〔C〕の含有量が少なすぎると、耐衝撃性に劣る。一方、上記成分〔C〕の含有量が多すぎると、難燃性に劣る。
また、上記成分〔D〕の含有量が少なすぎると、成形外観性に劣る。一方、上記成分〔D〕の含有量が多すぎると、難燃性に劣る。
【0077】
本発明の組成物において、上記成分〔C〕に由来するゴム質重合体の含有量は、得られる成形品の耐衝撃性の観点から、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、3〜10質量%であり、好ましくは4〜10質量%、特に好ましくは4〜8質量%である。尚、ゴム質重合体の含有量が少なすぎると、耐衝撃性に劣り、一方、ゴム質重合体の含有量が多すぎると、難燃性に劣る。
【0078】
本発明の組成物において、上記成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量は、成形外観性及び難燃性の観点から、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、6〜26質量%であり、好ましくは8〜24質量%、特に好ましくは10〜22質量%である。尚、構造単位(d1)の含有量が少なすぎると、成形外観性に劣り、一方、構造単位(d1)の含有量が多すぎると、難燃性に劣る。
【0079】
本発明において、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合の成分〔A〕又は〔B〕の含有量と、成分〔D〕を構成する構造単位(d1)との比が、いずれも特定の範囲にあると、耐熱性、成形外観性及び難燃性のバランスにより優れた成形品を得ることができる。
成分〔A〕の含有量(合計量)を、成分〔D〕を構成する構造単位(d1)の含有量(合計量)で除して得られた計算値、即ち、(成分〔A〕の含有量)/(構造単位(d1)の含有量)は、好ましくは1.2〜6.0、より好ましくは1.5〜3.0である。
また、成分〔B〕の含有量(合計量)を、成分〔D〕を構成する構造単位(d1)の含有量(合計量)で除して得られた計算値、即ち、(成分〔B〕の含有量)/(構造単位(d1)の含有量)は、好ましくは1.2〜6.0、より好ましくは1.5〜4.0である。
【0080】
次に、上記成分〔E〕は、リン系難燃剤であり、従来、公知の含リン化合物を、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この難燃剤の性状は、特に限定されないが、通常、常温で液状又は固体のものが用いられる。
【0081】
リン系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、これらの変性化合物、下記一般式(1)で表される縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等が挙げられる。
【0082】
【化1】

(式中、Xは、芳香環を含む芳香族基であり、R、R、R及びRは、それぞれ、独立したアリール基であって、含まれる炭素原子に結合する水素原子の1つ以上が、他の原子又は官能基に置換された基であってもよい。nは1以上の整数、j、k、l及びmは、それぞれ、独立して0又は1である。)
【0083】
上記一般式(1)におけるXは、下記に例示される。
【化2】

【0084】
これらのうち、難燃性に優れ、環境負荷の低い樹脂成形品が得られることから、縮合型のリン酸エステル化合物が特に好ましい。
【0085】
尚、難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系化合物、モリブデン系化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤;臭素化エポキシ系化合物、臭素化アルキルトリアジン化合物、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化架橋ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールシアヌレート樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン系難燃剤;グアニジン塩;シリコーン系化合物等が知られているが、必要により、併用することができる。
【0086】
本発明の組成物において、上記成分〔E〕の含有量は、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性及び成形外観性を低下させることなく、良好な難燃性が得られることから、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量部とした場合に、10〜25質量部であり、好ましくは11〜20質量部、更に好ましくは12〜16質量部である。上記成分〔E〕の含有量が多すぎると、耐熱性及び耐衝撃性が劣る。
【0087】
本発明の組成物は、他の重合体(他の樹脂)を含有してもよい。
他の重合体としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
本発明の組成物が、他の重合体(他の樹脂)を含有する場合、その含有量の上限値は、上記成分〔A〕、〔B〕、[C]、[D]及び〔E〕の合計量100質量部に対して、好ましくは30質量部、より好ましくは20質量部である。
【0088】
本発明の組成物は、目的、用途等に応じて、更に、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、滑剤、耐候安定剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、消泡剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)、蛍光増白剤、導電性付与剤等を含有したものとすることができる。
【0089】
上記充填剤としては、重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラック、クレー、タルク、フュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、カオリン、硅藻土、ゼオライト、酸化チタン、生石灰、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスバルーン、シラスバルーン、サランバルーン、フェノールバルーン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
上記可塑剤としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、多価アルコールのエステル、エポキシ系可塑剤、高分子型可塑剤、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、含硫黄化合物、含リン化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
上記老化防止剤としては、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
上記滑剤としては、ワックス、シリコーン、脂質等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面における真珠光沢等の形成が抑制された成形品を与え、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れる。
後述する条件で測定されるシャルピー衝撃強度は、好ましくは7〜28J/m、より好ましくは8〜25J/m、特に好ましくは10〜25J/mである。
後述する条件で測定される荷重たわみ温度は、好ましくは53℃〜70℃、より好ましくは55℃〜66℃、特に好ましくは57℃〜66℃である。
後述する条件で測定されるメルトフローレートは、好ましくは45〜95g/10分、より好ましくは48〜95g/10分、特に好ましくは48〜80g/10分である。
後述する条件で測定される難燃性(UL94規格)は、V−2クラスである。
【0096】
本発明の組成物は、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕及び〔E〕を含む原料を混練することにより、製造することができる。混練に際しては、従来、公知の混練装置、例えば、二軸押出機、単軸押出機、加熱可能な二軸又は単軸のスクリューフィーダー、フィーダールーダー、バンバリーミキサー、ロールミル等を用いることができる。好ましい製造方法は、二軸押出機を用いる方法である。尚、原料成分を混練するに際して、混練装置に一括してから混練してよいし、多段添加しながら混練してもよい。
【0097】
上記原料の混練温度は、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕及び〔E〕の種類によって、適宜、選択されるが、通常、220℃〜260℃の範囲の温度である。
【0098】
本発明の組成物は、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕及び〔E〕を含有することから、得られる成形品において、表面に真珠光沢等の形成が抑制され、従来よりも一段と優れた耐衝撃性、耐熱性及び難燃性を得ることができる。また、着色剤を含む組成物とした場合には、着色外観性に優れた成形品を得ることができる。即ち、無着色成形品のみならず、従来、着色外観性の不良現象が顕著となる成形品等の形成に好適である。そして、成分〔A〕として、植物由来の材料を用いることができるので、環境負荷の低い樹脂成形品を得ることができる。このような成形品は、上記優れた性質が要求される、車両、船舶、電子機器、家電製品、建材等の部材や、日用雑貨、スポーツ用品、文具等として好適であり、高度な難燃性が要求される電子機器、家電製品等の部材として、特に好適である。
【0099】
本発明の成形品は、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物、又は、その構成成分を形成することとなる原料成分を、射出成形装置、シート押出成形装置、異形押出成形装置、中空成形装置、圧縮成形装置、真空成形装置、発泡成形装置、ブロー成形装置、射出圧縮成形装置、ガスアシスト成形装置、ウォーターアシスト成形装置等、公知の成形装置で加工することにより製造することができる。
【0100】
上記成形装置を用いて、成形品を製造する場合、成形温度及び金型温度は、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕及び〔E〕の種類、又は、使用する原料成分(他の重合体を含む)の種類等によって、適宜、選択される。
本発明の組成物を射出成形に供する場合、成形品の形状にもよるが、成形時のシリンダー温度は、通常、200℃〜260℃である。また、金型温度は、通常、20℃〜90℃である。
尚、成形品が大型である場合には、一般に、シリンダー温度は、上記温度より高めに設定される。
【0101】
本発明の成形品は、目的、用途等に応じて、任意の位置に、貫通孔、溝、凹部、凸部等を備えてもよい。
【実施例】
【0102】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0103】
1.製造原料
熱可塑性樹脂組成物の製造に用いた原料(樹脂成分及び重合体成分)は、以下の通りである。尚、グラフト率、極限粘度[η]等の測定は、上記記載の方法に準じて行った。
【0104】
1−1.原料〔P〕
Nature Works社製のポリ乳酸「Ingeo Biopolymer 2003D」(商品名)を用いた。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれ、194,000及び99,000である。ASTM D1238に準ずるMFRは、温度210℃及び荷重2.16kgにおいて、6g/10分であり、温度220℃及び荷重10kgにおいて、53g/10分である。
【0105】
1−2.原料〔Q〕
住化スタイロン ポリカーボネート社製のポリカーボネート樹脂「カリバー 200−10」(商品名)を用いた。粘度平均分子量(Mv)は22,000である。
【0106】
1−3.原料〔R〕
この原料〔R〕は、下記の合成例1〜3で示される、ゴム質重合体の存在下又は非存在下にビニル系単量体を重合して得られたゴム強化樹脂又は共重合体、並びに、市販のビニル系共重合体である。ゴム強化樹脂は、本発明に係るゴム質重合体強化グラフト樹脂〔C〕と、(共)重合体〔D〕とからなる混合物である。
【0107】
合成例1(ゴム強化樹脂R−1の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水35部、ロジン酸カリウム0.25部、tert−ドデシルメルカプタン0.15部、重量平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム(ゲル含有率80%)48部を含むラテックス120部、重量平均粒子径600nmのスチレン・ブタジエン共重合ゴム(スチレン単位量30%)12部を含むラテックス30部、スチレン9部及びアクリロニトリル3部を収容し、攪拌しながら昇温した。内温が40℃に達したところで、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.007部、ブドウ糖0.22部を、イオン交換水5部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.05部を加えて重合を開始した。
30分間重合させた後、イオン交換水30部、ロジン酸カリウム0.5部、スチレン20部、アクリロニトリル8部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部及びクメンハイドロパーオキサイド0.07部を、3時間かけて連続的に添加した。その後、更に1時間重合を継続し、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.15部を添加して重合を完結させた。
次いで、反応生成物を含むラテックスに、硫酸水溶液を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ゴム強化樹脂R−1を得た(重合転化率は98.5%)。この樹脂R−1に含まれるグラフト樹脂におけるグラフト率は48%であった。また、アセトン可溶分の含有率は11.2%、その極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.35dl/gであった。
【0108】
合成例2(ゴム強化樹脂R−2の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、体積平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム45部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部及びイオン交換水100部を仕込み、次いで、スチレン3部、アクリロニトリル2部及びメタクリル酸メチル9部を仕込んだ。これら混合物を攪拌しながら昇温し、内温が43℃に達したところで、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄7水和物0.001部及びホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水和物0.08部を、イオン交換水6部に溶解した溶液、クメンハイドロパーオキサイド0.04部を加えて重合を開始した。
1時間重合させた後、スチレン9部、アクリロニトリル5部、メタクリル酸メチル27部、tert−ドデシルメルカプタン1.2部及びクメンハイドロパーオキサイド0.1部からなる単量体混合物と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01部、硫酸第一鉄7水和物0.001部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水和物0.05部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部を、イオン交換水30部に溶解した溶液とを、4時間に渡って連続的に添加し、重合を継続した。その後、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.003部、硫酸第一鉄7水和物0.0002部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水和物0.01部及びクメンハイドロパーオキサイド0.02部を、イオン交換水1部に溶解した溶液を添加して1時間撹拌を行った後、冷却して重合を完結させた。
次に、反応生成物を含むラテックスに、p−クレゾール、ジシクロペンタジエン及びイソブチレンを反応して得られた物質(東邦化学社製「SANDWIN−45」)0.67部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.5部を添加し、硫酸マグネシウムを添加して、樹脂成分を凝固した。その後、この樹脂成分を十分に水洗、脱水して、温度80℃で24時間乾燥させて、白色粉末のゴム強化樹脂R−2を得た(重合転化率は97.0%)。この樹脂R−2に含まれるグラフト樹脂におけるグラフト率は52%であり、メタクリル酸メチル単位量は38%であった。また、アセトン可溶分の構成は、メタクリル酸メチル単位、スチレン単位及びアクリロニトリル単位(質量比69:24:7)であり、樹脂R−2に含まれるアセトン可溶分の含有率は32%、その極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.24dl/gであった。
【0109】
合成例3(スチレン・アクリロニトリル共重合体R−3の合成)
リボン翼を備えたジャケット付き重合用反応器を、2基連結した重合装置を用いた。各反応器内を、窒素ガスでパージした後、第1反応器に、スチレン75部、アクリロニトリル25部及びトルエン20部からなる単量体混合物と、分子量調節剤であるtert−ドデシルメルカプタン0.15部をトルエン5部に溶解した第1溶液と、重合開始剤であるジクミルパーオキサイド0.1部をトルエン5部に溶解した第2溶液と、を連続的に供給し、攪拌しながら、温度110℃で重合を行った。重合に係る単量体混合物等の平均滞留時間は2時間であり、2時間後の重合転化率は56%であった。
次いで、第1反応器内の重合体溶液を、反応器の外部に設けられたポンプにより、連続的に取り出して、第2反応器に移液した。連続的に取り出す量は、単量体混合物等の原料を第1反応器に供給する量と同じである。即ち、第1反応器の収容成分、及び、第2反応器の収容成分が、それぞれ、同じ体積を維持するようにした。第1反応器から供給された重合体溶液を、第2反応器において、平均滞留時間を2時間として、温度130℃で更に重合した。2時間後の重合転化率は74%であった。
その後、第2反応器内の重合体溶液を排出し、2軸3段ベント付き押出機に導入した。そして、直接、未反応単量体及びトルエン(重合用溶媒)を脱揮し、スチレン・アクリロニトリル共重合体R−3を得た。
このスチレン・アクリロニトリル共重合体R−3の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.60dl/gであった。
【0110】
また、ビニル系(共)重合体R−4及びR−5として、以下の共重合体を用いた。
(1)R−4
三菱レイヨン社製アクリル系樹脂「アクリペットVH5」(商品名)を用いた。この製品は、メタクリル酸メチル単位及びアクリル酸メチル単位(質量比98:2)からなる共重合体であり、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は69,000である。
(2)R−5
メタクリル酸メチル単位、スチレン単位及びアクリロニトリル単位(質量比66:21:13)からなる共重合体であり、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は101,000である。極限粘度[η](メチルエチルケトン、30℃)は0.42dl/gである。
【0111】
1−4.原料〔S〕
難燃剤として、下記の化合物を用いた。
(1)1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート
大八化学工業社製の芳香族縮合リン酸エステル「PX−200」(商品名)を用いた。
(2)α−ジフェノキシホスホリル−ω−フェノキシポリ(n=1〜3)[オキシ−1,4−フェニレンイソプロピリデン−1,4−フェニレンオキシ(フェノキシホスホリル)]
大八化学工業社製の芳香族縮合リン酸エステル「CR−741」(商品名)を用いた。
(3)メラミンシアヌレート
日産化学工業社製「MC−4000」(商品名)を用いた。
【0112】
2.熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜14及び比較例1〜13
原料〔P〕、〔Q〕、〔R〕及び〔S〕を、表1、表2、表3、表4、表5、表6及び表7に記載の割合で用い、熱可塑性樹脂組成物を得た。
尚、原料〔R〕のうち、ゴム強化樹脂は、本発明に係る成分〔C〕と、成分〔D〕に相当する共重合体とからなる混合物である。そこで、成分〔C〕におけるグラフト率、ゴム強化樹脂におけるアセトン可溶分の組成等を用いて、ゴム強化樹脂に含まれる、本発明の成分〔D〕に相当する重合体の含有量を算出し、その計算値と、原料〔R〕のうち成分〔C〕以外の重合体成分(樹脂成分)との合計量を、熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分〔D〕とした。そして、成分〔D〕の含有量を、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の含有量とともに、各表の「構成」欄に示した。また、「構成」欄には、成分〔E〕の含有量、成分〔D〕を構成する構造単位(d1)の含有量、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量に対する構造単位(d1)及びゴム質重合体の含有割合、並びに、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合の成分〔A〕又は〔B〕の含有量と、成分〔D〕を構成する構造単位(d1)との比、を示した。
【0113】
組成物の評価に際しては、下記要領で調製した、添加剤(酸化防止剤)を含む物性評価用の熱可塑性樹脂組成物を利用した。
<物性評価用熱可塑性樹脂組成物の調製方法>
原料〔P〕、〔Q〕、〔R〕及び〔S〕をヘンシェルミキサーにより混合した後、この合計量100部に対して、酸化防止剤であるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名「アデカスタブ2112」、ADEKA社製)0.2部と、ペンタエリスチルテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名「アデカスタブAO−60」、ADEKA社製)0.2部を添加し、25℃で混合した。次いで、この混合物を、シリンダー設定温度を240℃としたプラスチック工学研究所社製2軸押出機「BT40」(型式名)に供給して溶融混練し、ペレット(物性評価用熱可塑性樹脂組成物)を得た。
【0114】
(1)シャルピー衝撃強さ
ISO 179に準じて、ノッチ付き、温度23℃の条件で測定した。単位は「kJ/m」である。
試験片は、上記ペレットを十分に乾燥した後、シリンダーの設定温度を220℃、金型温度を50℃とした日本製鋼所社製射出成形機「J110AD−180H」(型式名)を用いて作製した。
(2)荷重たわみ温度
ISO 75に準じて、荷重1.8MPaの条件で測定した。単位は「℃」である。
試験片は、上記ペレットを十分に乾燥した後、シリンダーの設定温度を220℃、金型温度を50℃とした日本製鋼所社製射出成形機「J110AD−180H」(型式名)を用いて作製した。
(3)マスメルトフローレート
ISO 1133に準じ、温度220℃、荷重98Nの条件で測定した。単位は、「g/10分」である。
(4)難燃性
UL94試験法に準じて、厚さ1.2mmの試験片を使用して評価した。
試験片は、上記ペレットを十分に乾燥した後、シリンダーの設定温度を200℃、金型温度を30℃とした東芝機械社製射出成形機「EC40」(型式名)を用いて作製した。
(5)外観
上記ペレットを十分に乾燥した後、シリンダーの設定温度を220℃、金型温度を50℃とした日精樹脂工業社製電動射出成形機「エルジェクト NEX30」(商品名)に供給して、80mm×55mm×2.4mmの平板(55mmの一方の辺の中央に4mm×1mmのサイドゲートを備える)を得た。この平板成形品の表面を目視にて観察し、下記基準にて、外観を判定した。
4:真珠光沢が全く観察されなかった。
3:真珠光沢が部分的に観察された。
2:真珠光沢が全面にまばらに観察された。
1:真珠光沢が全面に多量に観察された。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
【表7】

【0122】
表1〜表7から、以下のことが明らかである。
比較例1は、成分〔A〕の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、成形加工性、耐衝撃性及び難燃性に劣る。比較例2は、成分〔A〕及び〔B〕の含有量が、いずれも少なすぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例3は、成分〔B〕の含有量が少なすぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例4は、成分〔B〕の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、成形外観性に劣る。比較例5は、成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量が少なすぎる、本発明の範囲外の例であり、成形外観性に劣る。比較例6は、成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例7は、成分〔B〕の含有量が少なすぎて、且つ、成分〔D〕の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例8は、成分〔D〕の含有量が少なすぎる、本発明の範囲外の例であり、成形外観性に劣る。比較例9は、成分〔C〕を含有しない例であり、耐衝撃性に劣る。比較例10は、ゴム質重合体の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例11は、成分〔E〕の含有量が少なすぎる、本発明の範囲外の例であり、難燃性に劣る。比較例12は、成分〔E〕の含有量が多すぎる、本発明の範囲外の例であり、成形加工性、耐衝撃性及び耐熱性に劣る。また、比較例13は、リン系難燃剤に代えて、メラミンシアヌレートを用いた例であり、耐衝撃性及び耐熱性に劣る。
一方、実施例1〜14によれば、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、表面における真珠光沢等の形成が抑制されて良好な外観性を有し、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性、成形外観性及び難燃性のバランスに優れた成形品を得ることができる。そして、この熱可塑性樹脂組成物は、車両、船舶、電子機器、家電製品、建材等の部材や、日用雑貨、スポーツ用品、文具等の、耐衝撃性、耐熱性、成形外観性、難燃性等の要求される成形品の形成に好適である。
また、成分〔A〕用の原料として、植物由来樹脂を用いることができるので、得られる成形品は、環境負荷の低い樹脂成形品として好ましく用いられる。そして、成分〔A〕の含有量を25質量%以上とした樹脂組成物は、日本バイオプラスチック協会により、「バイオマスプラ」の識別表示が許可されるので、これにより、地球温暖化を防止し、化石燃料資源を節約し、自然環境の保全に資するとの認識を広め、その普及促進を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕脂肪族ポリエステル系樹脂と、
〔B〕ポリカーボネート樹脂と、
〔C〕ゴム質重合体の存在下に、重合性不飽和単量体を重合して得られたゴム質重合体強化グラフト樹脂と、
〔D〕重合性不飽和単量体を重合して得られた重合体(但し、上記ゴム質重合体強化グラフト樹脂〔C〕を除く)であって、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位(d1)を有する(共)重合体を含む重合体と、
〔E〕リン系難燃剤と、
を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量%とした場合に、上記成分〔A〕の含有量は22〜56質量%であり、上記成分〔B〕の含有量は22〜48質量%であり、上記成分〔C〕の含有量は5〜18質量%であり、上記成分〔D〕の含有量は12〜45質量%であり、上記成分〔C〕に由来するゴム質重合体の含有量は3〜10質量%であり、上記成分〔D〕に由来する構造単位(d1)の含有量は6〜26質量%であり、
上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計量を100質量部とした場合に、上記成分〔E〕の含有量は10〜25質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記ゴム質重合体がジエン系ゴムである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記成分〔E〕がリン酸エステルである請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2013−53284(P2013−53284A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194383(P2011−194383)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】