説明

熱可塑性樹脂組成物及び熱可塑性樹脂成形体

【課題】 熱可塑性樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、添加量が微量であっても、高い靭性のある成形体となる熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物により得られる熱可塑性樹脂成形体の提供。
【解決手段】 糖類化合物単独、糖類化合物及び多価フェノール化合物の少なくともいずれかの含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部〜1.5質量部である熱可塑性樹脂組成物であり、該糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類の少なくともいずれかを含み、該多価フェノール化合物が、タンニン化合物を含む熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に対して、糖類化合物及び多価フェノール化合物などを添加することにより、靭性の高い成形体を得ることができる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などは、成形性が良好であり、各種成形体や繊維、フィルム、コーティング材など様々な分野に広く用いられている。
しかし、上記の熱可塑性樹脂のみからなる成形体は、機械的強度、特に材料が外力によって破壊されにくいねばり強さを表す靭性が充分ではなく、その向上が求められ、引張り強度や曲げ強度に優れ、剛性、柔軟性及び耐衝撃性を併せ持った靭性の高い優れた成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物が求められている。
【0003】
そこで、前記靭性の高い優れた熱可塑性樹脂組成物を得るために、従来より、熱可塑性樹脂に添加剤を添加する下記4種類の添加法が知られており、それぞれが成形体の用途や熱可塑性樹脂の種類に応じて使用されている。
第一は、アロイやブレンドと呼ばれる添加法であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)にポリカーボネート(PC)やゴム成分を5〜50質量部添加することにより、靭性を高める添加法である。
第二は、熱可塑性樹脂に反応性モノマーを数〜十数質量部添加し、熱可塑性樹脂の分子に架橋反応などを起こさせ、溶融粘度増大を防ぎ、これによって靭性を高めようとするもので、前記分子の両端にエポキシ基やアミン基など、化学反応性に富む官能基を持つ反応性モノマーを添加し、架橋反応などを高分子と分子間に起こさせようという添加法である。
第三は、熱可塑性樹脂に無機や有機の剛性の高い材料、例えば、無機材料として、カーボン繊維、ガラス繊維、雲母やタルクなどの鉱物など、有機物として、ポリイミド繊維やアミドイミド繊維、液晶樹脂などを添加し、靭性を高める添加法である。
第四は、熱可塑性樹脂に多価フェノール化合物、タンニン化合物などを添加することにより、前記熱可塑性樹脂中に生成したラジカルを補足して熱安定効果を高め、成形工程における溶融時の劣化防止などを図る添加法である(特許文献1〜4参照)。
【0004】
しかし、前記第一の添加法の場合、アロイ、ブレンドする樹脂が必ずしも経済的でなかったり、あるいは非相溶性であったりして、成形体として得られた物が不透明なものが多く、成形不良であるジェッティング、シルバーマークなどが発生しやすいという問題がある。更に、エステル交換反応などのため、必ずしも高い靭性が得られないという問題がある。
前記第二の添加法の場合、エポキシ基の開環反応時にラジカルが生成し、このラジカルによって高分子が分解したり、アミン系モノマーの場合には、塩基性を示すため、ポリエステルのエステル分解が加速され、高分子の分子切断が発生しやすくなるという問題がある。結果として、高い靭性は得られず、むしろ高分子の分子切断により物性が低下し、脆性が発現することが多く見られるという問題もある。
前記第三の添加法の場合、剛性の高い物質の混合であるため、剛性は向上しても全体のしなやかさが失われ、脆性破壊を生じ、求める柔軟性や靭性が得られないという問題がある。
前記第三四の添加法の場合、前記タンニン化合物などで処理した添加物により、熱可塑性樹脂の溶融工程における安定性の向上を図り、更に前記タンニン化合物の添加による衝撃強度の低下を防止しようとするものであるが、高い靭性のある熱可塑性樹脂を得るには満足できるものではないというのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特許第3046963号
【特許文献2】特許第3046964号
【特許文献3】特許第3068614号
【特許文献4】No.US6,194,489号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、熱可塑性樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、添加量が微量であっても、高い靭性のある成形体となる熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物により得られる熱可塑性樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 糖類化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部〜1.5質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
<2> 多価フェノール化合物を含有してなり、糖類化合物及び前記多価フェノール化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部〜1.5質量部である前記<1>に記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<3> 糖類化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05質量部〜0.5質量部である前記<1>から<2>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<4> 糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、及び多糖類の少なくともいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<5> 糖類化合物が、ブドウ糖、果糖、蔗糖、及び麦芽糖の少なくともいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<6> 多価フェノール化合物が、タンニン類、カテキン類、ロイコアントシアン類、及びクロロゲン酸類の少なくともいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<7> 糖類化合物及び多価フェノール化合物の質量比(多価フェノール化合物:糖類化合物)が、1:0.2〜1:8である前記<1>から<6>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<8> 熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ホリブチレンテレフタレート、及びポリカーボネートの少なくともいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物により形成されたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、熱可塑性樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、添加量が微量であっても、高い靭性のある成形体となる熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物により得られる熱可塑性樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、糖類化合物単独、糖類化合物及び多価フェノール化合物の混合物の少なくともいずれかの含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002〜1.5質量部であり、必要に応じて適宜選択したその他の成分を含む熱可塑性樹脂組成物である。
【0010】
<糖類化合物>
前記糖類化合物は、糖を熱可塑性樹脂に添加することにより、該熱可塑性樹脂の靭性を向上させる機能がある。即ち、糖は単糖類、多糖類を問わずその化学構造として水酸基を多く持つ化合物であるため、例えば、エステル系樹脂に添加すると水素結合などによって架橋するものと考えられる。この水素結合は、反応性モノマーなどが作る共有結合と異なり、極めて弱い結合であることはよく知られている。こうした弱い(剛性が小さい)結合は、ある程度高分子を拘束するものの、一定負荷以上では切断に至ると考えられ、適度の弱さで架橋した樹脂は、靭性が向上すると考えられる。このような化学反応だけでなく、更に、糖と熱可塑性樹脂との他の化学作用によっても該熱可塑性樹脂の靭性は向上するものと考えられる。
前記糖類化合物は、添加量が微量でも十分な靭性の向上効果を有し、更に微量であるため樹脂の物性変化に悪影響がない点で好適である。また、前記糖類化合物は自然界に存在し、かつ食品として摂取してきたことから、人体に優しい化合物であり、同じ添加物として用いられるハロゲン元素、リン元素などのように人体に悪影響を及ぼす化合物を含まない点で、取り扱いなどの点で安全性にも極めて優れている。
【0011】
前記糖類化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらは、天然植物から抽出されたものでも、合成されたものでも、更にはこれらの混合物であってもよい。
これらの中でも、セルローズの硫酸触媒による加水分解などによって高純度に精製することができ、安価であり経済的な観点からも単糖類、各種のオリゴ糖が好ましい。
前記単糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マンノースなどが挙げられる。
前記二糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マルトース(麦芽糖)、サッカローズ(蔗糖(砂糖))、セロビオース、ラクトースなどが挙げられる。
前記オリゴ糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記単糖類が3〜10個程度結合したいわゆる少数糖などが挙げられる。
前記多糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デンプン、セルローズなどが挙げられる。
これらの中でも、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、サッカローズ(蔗糖(砂糖))及びマルトース(麦芽糖)が特に好ましい。
【0012】
<多価フェノール化合物>
前記多価フェノール化合物も、前記糖類化合物と混合し併用することにより前記糖類化合物と同様の機能、効果を有する。前記多価フェノール化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンニン化合物などが挙げられる。
前記タンニン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンニン、タンニンの脱水縮重合物、タンニン酸などのタンニン酸類、カテキン類、ロイコアントシアン類、クロロゲン酸類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのタンニン化合物は、広く自然界の植物に含まれる。このようなタンニン化合物の分類は、「村上孝夫、岡本敏彦:天然物化学.P98(1983)廣川書店」に記載されている。なお、前記タンニン酸は、タンニンとも呼ばれており、本発明では特に区別はしない。
【0013】
前記タンニン化合物であるタンニン酸類及びカテキン類は、加水分解型タンニンと縮合型タンニンの2種類に分けられるが、いずれも天然化合物であるため構造の異なる化合物が多数存在する。
前記加水分解型タンニンとしては、例えば、チャイナタンニン、エラグタンニン、カフェ酸、キナ酸などのデプシドからなるクロロゲン酸などが挙げられる。
前記縮合型タンニンとしては、例えば、ケプラコタンニン、ワットルタンニン、ガンビルタンニン、カッチタンニン、フラバタンニンなどが挙げられる。
【0014】
前記チャイナタンニンは、没食子酸又はその誘導体がエステル結合したものであり、代表的な加水分解型タンニンである。該チャイナタンニンは、下記構造式(1)で表される。前記チャイナタンニンは、没食子酸基10個がブドウ糖残基の周囲に配座し、更に2つの没食子酸を垂直方向に結合させた(構造式(1)の:*の部位に配置される)ことが明らかになっている。ただし、化合物は必ずしもブドウ糖に限られることはなく、セルローズ型の化合物であってもよい。
また、タンニン酸の加水分解で得られる下記構造式(2)で表される没食子酸のジデプシドなども使用することができる。
このようにタンニン酸類は広く自然界の植物に含まれる化合物であるため、部分的に
化学構造が異なることは容易に類推できる。
【0015】
また、カテキン類は、下記構造式(3)〜(6)で表される化合物である。また、ケプロタンニンは、下記構造式(7)で表される化合物である。また、トルコタンニンは、下記構造式(8)で表される化合物である。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
前記脱水重縮合タンニンは、前記タンニンを70〜230℃で数分〜数時間加熱して脱水縮重合させたものである。加熱されたタンニンは、分子量が平均して1.6分子程度が脱水反応を伴いながら結合する。この結合は概ねタンニン分子間によるものもあるが、分子内のとなり合った水酸基2個より、1分子の水が脱水されると考えられる。前記タンニンは70〜230℃で加熱、脱水し、いくつかのタンニンが脱水縮重合しているものが好ましい。この場合、タンニンがある程度脱水されていることが好ましく、必ずしも縮重合化されなくてもよい。ここで、前記「脱水縮重合タンニン」は熱処理後の名称であり、タンニンの構造型を指す「縮重合型タンニン」は分類上の名称であり、それぞれ異なる。
【0025】
なお、染料固定効果や皮の鞣し効果を持つ多価フェノール化合物は、「合成タンニン」又は「シンタン」と呼ばれている。このような合成タンニンも本発明において効果的に用いることができる。前記タンニンは日用品として、例えば、インクなどに用いられ、医薬品として、例えば、止血剤などに用いられ、工業用として、例えば、皮の鞣し剤や染色時の媒染剤などに用いられ、最近では、食品添加剤としても幅広く用いられている。
【0026】
前記多価フェノール化合物は、熱可塑性ポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET),ホリブチレンテレフタレート(PBT)、又はポリエステル樹脂に近似的構造を持つカーボネート結合を持つポリカーボネート(PC)と良好な相溶性が認められ、これら熱可塑性ポリエステル系樹脂に添加しても、十分な透明性が得られる。
【0027】
<熱可塑性樹脂>
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、塩化ポリエチレンアクリロニトリルスチレン(ACS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリルブチルアクリレートスチレン(AAS)、ブタジエンスチレン、スチレンマレイン酸、スチレンマレイミド、エチレンプロピレンアクリロニトリルスチレン(AES)、ブタジエンメタクリル酸メチルスチレン(MBS)などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート、分岐ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ3−メチルブテン、ポリ3−メチルペンテンなどのα−オレフィン重合体又はエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン/プロピレンブロック又はランダム共重合体などのポリオレフィン系樹脂及びこれらの共重合体、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)などのポリアミド系樹脂、ポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂、ポリフェニレンスルフォン(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)、石油樹脂、クマロン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ホリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、又はポリエステル樹脂に近似的構造を持つカーボネート結合を持つポリカーボネート(PC)などが好ましい。
【0028】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、樹脂組成物に使用される公知の添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機繊維であるガラス繊維、カーボン繊維、又はウィスカーなどが含まれてもよく、有機繊維としてはケブラー繊維などが含まれてもよい。また、鉱物であるシリカ、タルク、マイカ、ウォラストナイト、クレー、炭酸カルシウムなどの無機粒子が含まれてもよい。なお、更に必要に応じて、抗菌剤、難燃剤などを配合することもできる。
【0029】
<熱可塑性樹脂組成物の含有量>
本発明の糖類化合物単独、糖類化合物及び多価フェノール化合物の混合物の前記熱可塑性樹脂への添加量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し0.002〜1.5質量部が好ましく、0.01〜1.0質量部がより好ましく、0.05〜0.5質量部が特に好ましい。前記添加量が0.002質量部未満であると、熱可塑性樹脂に靭性を十分に付与することが困難となることがあり、1.5質量部を超えると、熱可塑性樹脂の分子間に前記糖類化合物などが多量に存在し、熱可塑性樹脂の熱的特性や機械的強度を低下させてしまうことがある。
【0030】
前記熱可塑性樹脂組成物の添加方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状の糖類、タンニン化合物を同時に混ぜて直接樹脂に加えてもよいし、あるいは対象となる樹脂に予め高濃度に混合した混合物(マスターバッチ)を調整しておき、該マスターバッチを樹脂中に加えてもよい。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、フィルム成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファ成形、カレンダ成形、熱成形、流動成形、積層成形、などが挙げられる。これらの方法により、本発明の熱可塑性樹脂組成物から、高い靭性のある熱可塑性樹脂成形体が得られる。
【0032】
<糖類化合物及び多価フェノール化合物の質量比>
前記熱可塑性樹脂組成物においては、前記糖類化合物及び多価フェノール化合物との質量比(糖類化合物:多価フェノール化合物)は、1:0.2〜1:8が好ましく、1:1〜1:3がより好ましい。前記糖類の質量比が、前記糖類化合物1に対して、前記多価フェノール化合物が0.2未満であると、靭性付与効果が得られないことがあり、前記糖類化合物1に対して、多価フェノール化合物が8を超えると、熱可塑性樹脂に添加した場合に熱可塑性樹脂の物性が劣化することがある。また、前記多価フェノールの混合量が少なくなりすぎると、同様に靭性付与効果が得られないことがあり、一方多くなりすぎると、樹脂に添加した場合に成形加工性が悪くなることがある。
【0033】
<熱可塑性樹脂成形体>
前記熱可塑性樹脂成形体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種形状、構造、大きさの成形体などが挙げられる。具体的には、パソコン、プリンター、テレビ、ステレオ、コピー機、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、ステレオ、などの各種家電OA製品の筐体や部品などに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<熱可塑性樹脂組成物の調製>
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に、糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を含有させた。
前記蔗糖の含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号1・・・・・・・・・0.005質量部
ロット番号2・・・・・・・・・・0.05質量部
ロット番号3・・・・・・・・・・・0.1質量部
ロット番号4・・・・・・・・・・・0.2質量部
ロット番号5・・・・・・・・・・・0.5質量部
ロット番号6・・・・・・・・・・・・・1質量部
ロット番号7・・・・・・・・・・・・・5質量部
とし、以下のように、実施例1の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
まず、除湿乾燥機(PO−200型:株式会社松井製作所製)に被添加物である前記ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂をセットし、110℃にて10時間乾燥した後、該PET樹脂に、前記ロット番号1〜7の量の蔗糖を加えてタンブラー、タンブルミキサー(TM−50型、8枚羽:日水加工株式会社製)を用いて攪拌羽回転速度約300rpmで4分間、攪拌及び混合し、前記ロット番号1〜7の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
【0036】
<強度測定試験>
次に、得られた前記ロット番号1〜7の熱可塑性樹脂組成物について、試験片を作製し、以下のようにして、強度測定試験を行った。
前記ロット番号1〜7の熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(F−85型、型締め圧力85ton:クロックナー社製)を用い、JIS−K7113で示される各厚みの引張り試験片が共取りできるように設計された金型を用いて成形し、試験片を作製した。試験片のロット番号は、実施例1ロット番号1に対して試験片のロット番号1というように、実施例と同一のロット番号を用いた。
得られたロット番号1〜7の試験片について、引張り試験機(V10−C型:東洋精機株式会社製)を用い、引張り試験、曲げ試験を行った。この時の引張り、曲げの速度は両方とも2mm/分とした。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に、多価フェノール化合物であるチャイナタンニン(試薬1級:カライテスク株式会社製)及び糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を含有させた。
前記チャイナタンニン及び蔗糖の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号8・・・チャイナタンニン・・・0.02質量部
蔗糖・・・・・・・・・0.04質量部
ロット番号9・・・チャイナタンニン・・・0.05質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.1質量部
ロット番号10・・チャイナタンニン・・・・0.1質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.2質量部
ロット番号11・・チャイナタンニン・・・・0.2質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.4質量部
ロット番号12・・チャイナタンニン・・・・0.5質量部
蔗糖・・・・・・・・・・・・1質量部
とし、実施例1と同様にして、実施例2の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた各熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0038】
(実施例3)
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
熱可塑性樹脂組成物として、多価フェノール化合物であるカテキン(試薬1級:関東化学株式会社製)及び糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を用いた。
前記カテキン及び蔗糖の含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号13・・カテキン・・・・・・・0.02質量部
蔗糖・・・・・・・・・0.04質量部
ロット番号14・・カテキン・・・・・・・0.05質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.1質量部
ロット番号15・・カテキン・・・・・・・・0.1質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.2質量部
ロット番号16・・カテキン・・・・・・・・0.2質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.4質量部
ロット番号17・・カテキン・・・・・・・・0.5質量部
蔗糖・・・・・・・・・・0.5質量部
とし、実施例1と同様にして、実施例3の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた各熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0039】
(実施例4)
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に、糖類化合物であるブドウ糖(試薬1級:ナカライテスク株式会社製)を含有させた。
前記ブドウ糖の含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号18・・・・・・・・・0.1質量部
とし、実施例1と同様にして、実施例4の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた前記熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0040】
(実施例5)
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に、多価フェノール化合物であるチャイナタンニン(試薬1級:ナカライテスク株式会社製)と糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を含有させた。
前記チャイナタンニンと蔗糖は、質量比で、1:8の割合で混合し、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0質量部〜10質量部の範囲で選択した16種類の質量部を添加し熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様に、強度測定試験を行い、引張り強度(MPa)及び曲げ強度(MPa)の結果を図1に示す。
図1及び図2の結果から、多価フェノール化合物及び糖類化合物の添加により熱可塑性樹脂組成物からなる熱可塑性樹脂の強度は明らかに増大する効果が顕著に認められた。
【0041】
(実施例6)
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート(PC)樹脂(パンライトL1250Y:帝人化成株式会社製)を使用した。
ポリカーボネート(PC)樹脂に、糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を含有させた。
前記蔗糖の含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号23・・・・・・・・・0.1質量部
ロット番号24・・・・・・・・・0.2質量部
とし、実施例1と同様にして、実施例6の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた各熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0042】
(実施例7)
熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ジュラネックス2000:ウィンテックポリマー株式会社製、)を使用した。
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂に、糖類化合物である蔗糖(白砂糖:日新製糖株式会社製)を含有させた。
前記蔗糖の含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号27・・・・・・・・・0.1質量部
ロット番号28・・・・・・・・・0.2質量部
とし、実施例1と同様にして、実施例7の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた各熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、蔗糖を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1ロット番号19の試験片について、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0044】
(比較例2)
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井PETJ120:三井化学株式会社製)を使用した。
熱可塑性樹脂組成物として、糖類化合物であるチャイナタンニン(試薬1級:ナカライテスク株式会社製)を用いた。
前記チャイナタンニンの含有量は、該熱可塑性樹脂100質量部に対し、
ロット番号20・・・・・・・・0.005質量部
ロット番号21・・・・・・・・・0.02質量部
ロット番号22・・・・・・・・・・0.1質量部
とし、実施例1と同様にして、比較例2の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
得られた前記熱可塑性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0045】
(比較例3)
実施例6において、蔗糖を添加しなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例3ロット番号25の試験片について、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0046】
(比較例4)
実施例7において、蔗糖を添加しなかった以外は、実施例7と同様にして、比較例4ロット番号28の試験片について、強度測定試験を行い、結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から、実施例1ロット番号1〜7の蔗糖を添加したPETは、比較例1ロット番号19の無添加のPET及び比較例2ロット番号20〜22のチャイナタンニンを添加したPETに比べいずれも引張り強度及び曲げ強度が向上し、含有量が0.1〜0.5質量部において、顕著であることが判った。
実施例2ロット番号8〜12のチャイナタンニン及び蔗糖を添加したPETは、比較例1ロット番号19の無添加のPET及び比較例2ロット番号20〜22のチャイナタンニンを添加したPETに比べいずれも比べ引張り強度及び曲げ強度が向上し、含有量が0.05/0.1質量部において、顕著であることが判った。
実施例3ロット番号13〜17のカテキン及び蔗糖を添加したPETは、比較例1ロット番号19の無添加のPET及び比較例2ロット番号20〜22のチャイナタンニンを添加したPETに比べいずれも引張り強度及び曲げ強度が向上し、含有量が0.1/0.2質量部において、顕著であることが判った。
実施例4ロット番号18のブドウ糖を添加したPETは、比較例1ロット番号19の無添加のPET及び比較例2ロット番号20〜22のチャイナタンニンを添加したPETに比べ引張り強度及び曲げ強度がPETに対して最も向上していることが判った。
実施例6ロット番号23〜24の蔗糖を添加したPCは、比較例3ロット番号25の無添加のPCに比べ引張り強度及び曲げ強度がいずれも顕著に向上していることが判った。
実施例7ロット番号26〜27の蔗糖を添加したPBTは、比較例4ロット番号28の無添加のPBTに比べ引張り強度及び曲げ強度がいずれも顕著に向上していることが判った。
いずれの実施例においても、本発明の糖類化合物単独、糖類化合物及び多価フェノール化合物の混合物のいずれかを添加すると、引張り強度及び曲げ強度が共に向上し、靭性に優れた成形体となる熱可塑性樹脂組成物が得られることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、糖類化合物単独、糖類化合物及び多価フェノール化合物の混合物を少なくともいずれかを、熱可塑性樹脂、特にポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂に添加して優れた靭性を付与することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、パソコン、プリンター、テレビ、ステレオ、コピー機、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、ステレオ、などの各種家電OA製品の部品などの成形体に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、実施例5における糖類及び多価フェノール化合物の添加量と引張り強度及び曲げ強度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部〜1.5質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
多価フェノール化合物を含有してなり、糖類化合物及び前記多価フェノール化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部〜1.5質量部である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
糖類化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05質量部〜0.5質量部である請求項1から2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、及び多糖類の少なくともいずれかである請求項1から3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
糖類化合物が、ブドウ糖、果糖、蔗糖、及び麦芽糖の少なくともいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
多価フェノール化合物が、タンニン類、カテキン類、ロイコアントシアン類、及びクロロゲン酸類の少なくともいずれかである請求項1から5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
糖類化合物及び多価フェノール化合物の質量比(多価フェノール化合物:糖類化合物)が、1:0.2〜1:8である請求項1から6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ホリブチレンテレフタレート、及びポリカーボネートの少なくともいずれかである請求項1から7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物により形成されたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225444(P2006−225444A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38414(P2005−38414)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】