説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 優れた難燃性を有する熱可塑性樹脂を提供すること。
【解決手段】 ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、芳香族ビニル重合体、ポリエステル、ポリアミドから選ばれる1種または2種以上の熱可塑性樹脂(A)、難燃剤(B)およびポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)から成る熱可塑性樹脂組成物において、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)中のポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量が600万以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、難燃性に優れる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】近年樹脂材料の難燃化の要請が、高まっている。例えばコンピューター、プリンター等のOA機器、テレビ、オーディオ機器等の家電製品等のハウジング材料では、火災被害低減のため、難燃化の要求が強い。さらに機器の軽量化、薄肉化あるいは形状の複雑化に伴い、樹脂材料にはより高い難燃性が要求されている。また特に燃焼時に樹脂がドリップ(滴下)しないことは、火災時の延焼を防ぐため、重要である。
【0003】熱可塑性樹脂組成物のドリップ防止性を向上させる方法として、ポリテトラフルオロエチレンの添加が一般によく知られる。
【0004】しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンの添加により、熱可塑性樹脂の難燃性が向上するものの、ポリテトラフルオロエチレンの価格は熱可塑性樹脂より非常に高いため、その添加量が数%以下であっても、熱可塑性樹脂組成物の価格を大きく上昇させてしまう。またポリテトラフルオロエチレンは、ほとんどの熱可塑性樹脂との相溶性が不良であるため、樹脂組成物中に凝集物を生じ易い。ポリテトラフルオロエチレンの凝集物は、成形外観を損ね、難燃性発現に必要な添加量を多くし価格上昇を招く他、衝撃強度等の機械的性質を損ね易いという問題がある。
【0005】以上の通り、ポリテトラフルオロエチレンを熱可塑性樹脂中へ均一に分散させ、添加量が少なくとも、難燃性を向上させる技術が、強く望まれている。
【0006】ポリテトラフルオロエチレンと有機系重合体の混合物の添加により、熱可塑性樹脂組成物の難燃性を向上させる試みが、特開昭60−258263号公報、特開平9−95583号公報、特開平10−310707号公報に記載されている。
【0007】特開昭60−258263号公報には、ポリテトラフルオロエチレン分散液と、芳香族ビニル系重合体分散液とを、混合し凝固して得られる粉体の添加により、難燃性が向上すると記載されている。特開平9−95583号公報にはポリテトラフルオロエチレン分散液の存在下有機系単量体を重合して得られる粉体は取扱性に優れると記載されている。特開平10−310707号公報には、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体およびポリオルガノシロキサン含有複合ゴム系グラフト共重合体から成る熱可塑性樹脂組成物は、難燃性、耐衝撃性に優れると記載されている。
【0008】これらの方法の中でポリテトラフルオロエチレンを含有する粉体混合物を添加する方法は比較的優れたものであるが、ポリテトラフルオロエチレンの分子量が低い場合には難燃性が不充分となるという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、優れた難燃性を有する熱可塑性樹脂を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者が鋭意検討した結果、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体中のポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量を特定以上とすることにより、熱可塑性樹脂に添加した際の難燃性がより一層向上することを見出し、本発明に到達した。
【0011】本発明の要旨は、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、芳香族ビニル重合体、ポリエステル、ポリアミドから選ばれる1種または2種以上の熱可塑性樹脂(A)、難燃剤(B)およびポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)から成る熱可塑性樹脂組成物において、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)中のポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量が600万以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物にある。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明に係る熱可塑性樹脂(A)としては、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、芳香族ビニル重合体、ポリエステル、ポリアミドが好ましい。
【0013】本発明に係るポリカーボネートとは、一般式
【化1】


で表され、二官能性フェノール(HO−Ar−OH)を、カーボネート結合で連結して得られる重合体のことである。
【0014】二官能性フェノールの例としては、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールAと略称する]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0015】得られる熱可塑性樹脂の機械的性質およびコスト考慮すると、ビスフェノールAが好ましい。
【0016】本発明に係るポリフェニレンエーテルとは、一般式
【化2】


で表され、フェノール化合物(Ar−OH)を酸化重合して、得られる重合体のことである。
【0017】フェノール化合物の例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0018】共重合成分としては、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、レゾルシン、ハイドロキノン等の二官能性フェノール化合物を挙げることができる。
【0019】本発明に係るポリオレフィンとは、α−オレフィンを主成分とするビニル重合体のことである。
【0020】α−オレフィンとは炭素数2〜10のα−オレフィンのことであり、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、3,3−ジメチルペンテンー1、3−メチルヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルヘキセン−1、5−メチルヘキセン−1、アリルシクロペンタン、アリルシクロヘキサン、アリルベンゼン、3−シクロヘキシルブテン−1、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロヘキサン、2−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ヘプテン−1、オクテン−1等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的性質およびコストを考慮すると、エチレンまたはプロピレンが好ましい。
【0021】共重合成分としては、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル1,6−オクタジエン、1,9−デカジエン等の非共役ジエン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、無水マレイン酸等のビニル単量体を挙げることができ、1種または2種以上を、重合成分全体の50重量%以下となるように用いることができる。
【0022】ポリオレフィンには、必要に応じて官能基を導入できる。導入方法の例として、ポリオレフィンと、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物、有機過酸化物とを、押出機等で加熱溶融し混練することで、カルボン酸基およびその無水物基を含有するポリオレフィンを得る方法がある。
【0023】本発明に係る芳香族ビニル重合体とは、芳香族ビニル単量体を成分として含有する単量体を重合して得られる重合体のことである。芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンを挙げることができる。芳香族ビニル重合体の例としては、芳香族ビニル単独重合体、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等の各種ゴム質重合体を含有する芳香族ビニル重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。
【0024】本発明に係るポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールから成る重縮合体のことである。
【0025】ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を挙げることができ、1種または2種以上用いることができる。得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的性質およびコストを考慮すると、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0026】ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族グリコール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;ビスフェノール類、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオール等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的性質およびコストを考慮すると、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0027】本発明に係るポリアミドとは、ジアミンおよびジカルボン酸から成る重縮合体、アミノ酸の重縮合体、ラクタムの開環重合体のことである。
【0028】ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の炭素数4〜12のジカルボン酸;およびこれらのエステル、酸塩化物等のカルボン酸を生成し得る誘導体を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0029】ジアミンの例としては、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等の炭素数2〜13の有機ジアミン;およびこれらのアミン塩等のアミンを生成し得る誘導体を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】ジアミンおよびジカルボン酸から成る重縮合体の例としては、ヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸から成るポリヘキサメチレンアジパミド[6,6ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンおよびアゼライン酸から成るポリヘキサメチレンアゼラミド[6,9ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンおよびセバシン酸から成るポリヘキサメチレンセバカミド[6,10ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンおよびドデカンジオン酸から成るポリヘキサメチレンドデカノアミド[6,12ナイロン]、ビス-p- アミノシクロヘキシルメタンおよびドデカンジオン酸から成るポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカンを挙げることができる。
【0031】アミノ酸の重縮合体の例としては、たとえばω- アミノウンデカン酸から成るポリウンデカンアミド[11ナイロン]等を挙げることができる。
【0032】ラクタムの開環重合体の例としては、ε- アミノカプロラクタムから成るポリカプラミド[6ナイロン]、ε- アミノラウロラクタムから成るポリラウリックラクタム[12ナイロン]を挙げることができる。
【0033】得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的性質およびコストを考慮すると、ポリヘキサメチレンアジパミド[6,6ナイロン]、ポリヘキサメチレンアゼラミド[6,9ナイロン]、ポリカプロラミド[6ナイロン]が好ましい。
【0034】本発明に係る熱可塑性樹脂(A)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0035】本発明に係る熱可塑性樹脂(A)としては、塩化ビニル、PMMA、各種エラストマー、ポリオキシメチレン等の上記以外の熱可塑性樹脂を、(A)全体の50重量%以下用いることができる。
【0036】本発明に係る難燃剤(B)とは、従来公知の難燃剤および難燃剤と併用して難燃作用を促進する難燃助剤のことである。例えば、リン含有化合物、ハロゲン含有化合物、金属酸化物、金属水酸化物、トリアジン化合物、赤燐、ジルコニウム化合物、ポリリン酸塩化合物、スルファミン酸化合物等を挙げることができる。
【0037】リン含有化合物の例としては、赤燐、リン酸エステル化合物を挙げることができる。リン酸エステル化合物とは、一般式
【化3】


(但し、R1 、R2 、R3、R4 は水素原子または有機基であり、R1=R2=R3=R4=Hの場合を除く。Xは2価以上の有機基である。pは0または1である。qは1〜30の整数である。rは0以上の整数である。)で表される。
【0038】有機基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を挙げることができ、各種置換基を導入することができる。置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン化アリール基を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができ、そのような有機基の例としてはアリールアルコキシアルキル基がある。これらの置換基を酸素原子、イオウ原子、窒素原子等を介して結合させることができ、そのような有機基の例としてはアリールスルホニルアリール基がある。
【0039】2価以上の有機基とは上記の有機基から、炭素原子に結合している水素原子の1個以上を除いてできる基のことであり、例えばアルキレン基、フェニレン基、ビスフェノール等の多核フェノールの誘導体を挙げることができる。2以上の遊離原子価の相対的位置は特に限定されるものではない。2価以上の有機基の例としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジフェニロールメタン、ジフェニロールジメチルメタン、ジヒドロキシジフェニル、 p,p’− ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0040】このようなリン酸エステル化合物の例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3- ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等のポリホスフェートを挙げることができ、得られる熱可塑性樹脂組成物の難燃性を考慮すると、赤燐、トリフェニルホスフェート、各種ポリホスフェートが好ましい。
【0041】ハロゲン含有化合物の例としては、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキサイド、ヘキサブロモシクロドデカン、オクタブロモジフェニルエーテル、ビストリブロモフェノキシエタン、エチレンビステトラブロモフタイルイミド、トリブロモフェノール、ハロゲン化ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応によって得られる各種ハロゲン化エポキシオリゴマー、ハロゲン化ビスフェノールAを構成成分とするカーボネートオリゴマー、ハロゲン化ポリスチレン、塩素化ポリオフィン、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。
【0042】金属酸化物の例としては、五酸化アンチモンおよび三酸化アンチモン等の酸化アンチモンを挙げることができる。
【0043】トリアジン化合物としては、メラミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジボグアナミン、メチルグルタログアナミン、メラム、メロン、リン酸メラミン、メラミン樹脂、BT樹脂、メラミンシアヌレート、エチレンジメラミンシアヌレート、トリグアナミンシアヌレート、サクシノグアナミンシアヌレート、ベンゾグアナミンシアヌレート等を挙げることができる。
【0044】本発明に係る難燃剤(B)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0045】本発明に係るポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)は粒子径10μm以下のポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるものであり、ポリテトラフルオロエチレンは粒子径が10μmを超え凝集体となっていないことが必要である。さらに、熱可塑性樹脂に配合した際の難燃性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量が600万以上である必要があるポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量が600万未満であると、高いレベルの難燃性が得られない可能性がある。なお本発明で使用されるポリテトラフルオロエチレンの分子量は、ASTM D4591で下記式によって算出されたものである。
【0046】
Log Mw=27.5345−12.1405D(式中、Mwは重量平均分子量、Dは標準比重を示す。)このようなポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)は、平均分子量600万以上、粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して凝固またはスプレードライにより粉体化する、あるいは平均分子量600万以上、粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化する、あるいは平均分子量600万以上、粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、ビニル単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化することにより得ることができる。
【0047】本発明に係わるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)を得るために用いる、平均分子量600万以上、粒子径0.05〜1.0μmポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液は、含フッ素界面活性剤を用いる乳化重合でテトラフルオロエチレンモノマーを重合させることにより得られる。
【0048】ポリテトラフルオロエチレン粒子の乳化重合の際、ポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10重量%以下であることが好ましい。
【0049】平均分子量600万以上、粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子分散液の市販原料としては、旭硝子フロロポリマー社製のフルオンAD−936、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン30J等を代表例として挙げることができる。
【0050】本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体を構成する有機系重合体としては特に制限されるものではないが、分散性の観点から熱可塑性樹脂(A)との親和性が高いものであることが好ましい。
【0051】有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヒキシルマレイミド等のマレイミド単量体;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0052】これらの単量体の中で熱可塑性樹脂(A)との親和性の観点から好ましいものとして、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体を30重量%以上含有する単量体を挙げることができる。特に好ましいものとして、スチレン、アクリロニトリルからなる群より選ばれる1種以上の単量体を30重量%以上含有する単量体を挙げることができる。
【0053】本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体は、その水性分散液を、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固した後に乾燥するか、スプレードライにより粉体化することができる。
【0054】通常のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、粒子分散液の状態から粉体として回収する工程で100μm以上の凝集体となってしまうために熱可塑性樹脂に均一に分散させることが困難であるのに対して、本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体は、ポリテトラフルオロエチレンが単独で粒子径10μmを超えるドメインを形成していないために熱可塑性樹脂(A)に対する分散性がきわめて優れている。さらにポリテトラフルオロエチレンの分子量も高いために難燃効果も高い。この結果本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレンが熱可塑性樹脂中で効率よく微細繊維化しており、難燃性が優れる上に、表面性にも優れるものとなる。
【0055】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、難燃剤(B)、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)を混合して得ることができる。
【0056】混合比は、特に限定されないが、得られる熱可塑性樹脂組成物の難燃性、機械的性質、コストを考慮すると、好ましくは(A)100重量部に対して、(B)0.1〜70重量部、(C)0.001〜50重量部であり、より好ましくは(B)2〜30重量部、(C)0.01〜10重量部である。
【0057】またポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)の比率を大きくして、熱可塑性樹脂(A)と混合したマスターバッチを予め調製しておき、その後マスターバッチと熱可塑性樹脂(A)、難燃剤(B)とを、所望の組成で混合することもできる。
【0058】混合する方法としては、特に限定されないが、単軸押出機、二軸押出機、バッチ式ニーダー、ロール等を用いた通常公知の方法を挙げることができる。
【0059】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物には、ガラス繊維、タルク、マイカ等の充填材、染料、顔料、安定剤、補強剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0060】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、OA機器、家電製品等のハウジング材料等の難燃性を要求される分野に使用することができる。
【0061】以下実施例により本発明を説明する。なお、参考例、実施例および比較例において『部』および『%』は特に断らない限り『重量部』および『重量%』を意味する。
【0062】
【実施例】なお実施例、比較例における諸物性は次の方法により測定した。
【0063】(1)固形分:粒子分散液を170℃で30分乾燥して求めた。
【0064】(2)粒子径分布、重量平均粒子径:粒子分散液を水で希釈したものを試料液として、動的光散乱法(大塚電子(株)製ELS800、温度25℃、散乱角90度)により測定した。
【0065】(3) ゼータ電位:粒子分散液を0.01mol/lのNaCl水溶液で希釈したものを試料液として、電気泳動法(大塚電子(株)製ELS800、温度25℃、散乱角10度)により測定した。
【0066】(4)燃焼試験:アンダーライタ−ズラボラトリーズコーポレーションの定めるUL94−V規格燃焼試験に準じて判定した。試験片は、ペレット状の樹脂組成物を射出成形して得た。
【0067】参考例1.ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−1)の製造蒸留水300部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を、攪拌装置、冷却器、熱電対、窒素導入口、試薬滴下装置を備えたフラスコに仕込み、窒素気流下、水浴中70℃に加熱した。硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0012部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.8部を蒸留水5部に溶かして、内容物に加えた後、アクリロニトリル30部、スチレン70部、クメンヒドロキシパーオキサイド0.5部の混合液を3時間で滴下し、その後1時間加熱攪拌を続け、アクリロニトリル−スチレン共重合体粒子分散液(P−1)を得た。P−1の固形分は25.1%、重量平均粒子径100μm、表面電位−30mVであった。
【0068】ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液として、旭硝子フロロポリマーズ社製フルオンAD936を用いた。AD936は、平均分子量1500万のポリテトラフルオロエチレン100部に対し5部のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを含み、固形分63.0%、粒子径分布は単一のピークを示し、重量平均粒子径290nm、表面電位−20mVであった。833部のAD936に蒸留水1167部を加え、固形分26.2%のポリテトラフルオロエチレン粒子分散液(F−1)とした。
【0069】239.0部のP−1(アクリロニトリル−スチレン共重合体60部)、80部のF−1(ポリテトラフルオロエチレン20部)を、攪拌装置、冷却器、熱電対、窒素導入口、試薬滴下装置を備えたフラスコに仕込み、窒素気流下室温で1時間攪拌した。その後水浴中80℃に加熱し1時間攪拌した。硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0012部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.8部を蒸留水5部に溶かして、内容物に加えた後、アクリロニトリル6部、スチレン14部、クメンヒドロキシパーオキサイド0.1部の混合液を30分間で滴下し、その後1時間加熱攪拌を続けた。固形物の分離はみられず、均一な粒子分散液を得た。粒子分散液の固形分は28.6%、重量平均粒子径は220nmであった。
【0070】この粒子分散液を塩化カルシウム水溶液へ注ぎ、固形物を分離し、濾過、乾燥してポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−1)を得た。乾燥したC−1をプレス成形機を用いて成形し、ミクロトームを用いて成形品から超薄切片を採取し、無染色のまま透過型電子顕微鏡で観察した。ポリテトラフルオロエチレンは暗部として観察され、10μmを超える凝集物は観察されなかった。
【0071】参考例2.ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−2)の製造ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液として、旭硝子フロロポリマーズ社製フルオンAD936に代えて三井デュポンフロロケミカル社製テフロン30J(平均分子量850万)を用いる以外は参考例1と同様にしてポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−2)を得た。
【0072】参考例3.ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−3)の製造ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液として、旭硝子フロロポリマーズ社製フルオンAD936に代えて旭硝子フロロポリマーズ社製フルオンAD1(平均分子量300万)を用いる以外は参考例1と同様にしてポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C−3)を得た。
【0073】実施例1、2および比較例1表1に示す熱可塑性樹脂、難燃剤、参考例1〜3で得たC−1〜3を、二軸押出機(WERNER&PFLEIDERER社製ZSK30)を用いてバレル温度240℃で溶融混練した。得られたペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100)を用いてシリンダー温度240℃で、UL94−V試験片に成形した。得られた試験片を用いて、難燃性、成形外観を評価した。
【0074】
【表1】


実施例および比較例より、本発明により得られるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体を添加した場合、得られる熱可塑性樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン含有量が少ないにもかかわらず難燃性、成形外観に優れることが明らかである。
【0075】
【発明の効果】本発明によると、高度な難燃性が要求される熱可塑性樹脂組成物において、高い難燃性と優れた表面外観の両立が可能である。
【0076】本発明は、難燃性に優れる熱可塑性樹脂組成物を、提供するものであり、OA機器、家電製品等のハウジング材料等の難燃性の要求される分野におけるその利用価値は絶大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、芳香族ビニル重合体、ポリエステル、ポリアミドから選ばれる1種または2種以上の熱可塑性樹脂(A)、難燃剤(B)およびポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)から成る熱可塑性樹脂組成物において、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(C)中のポリテトラフルオロエチレン成分の平均分子量が600万以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2000−297188(P2000−297188A)
【公開日】平成12年10月24日(2000.10.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−107817
【出願日】平成11年4月15日(1999.4.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】