説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 成形品外観や機械的強度などを阻害することなく、摺動特性の改良された熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 A)熱可塑性樹脂100重量部に対して
(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂1〜100重量部
含有してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が、直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基をジアミノポリシロキサン化合物で置換してなるポリエステル共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、機械的性質および摺動性などの改良された熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくはポリシロキサン変性ポリエステル樹脂を含有せしめることにより、摺動特性、成形性、および機械的性質などの改良された熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の摺動特性、成形性、機械的性質などの特性改良のために、それぞれ添加剤を配合することが行われている。例えば摺動特性を改良するためにはシリコンオイルの配合が行われているが、機械的性質が低下したり、成形時のガスの発生によって成形品表面外観を悪化させたりするなどの問題がある。
【0003】
また、ポリエステル樹脂の改質の手法の一つとして、ポリシロキサン化合物を用いる変性方法が知れられているが、ポリエステル樹脂とポリシロキサン化合物の反応が不十分であるため、成形品からポリシロキサン化合物の滲み出し(ブリード現象)が生じたり、十分な改質方法を得るためには、ポリシロキサン化合物を多量に使用するため、ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂としての重合度が低くなったりする等の問題があったが、特許文献1には、このような問題を解決したポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の製造法が示され、この方法ではテーバー式摩耗特性の改善、及びブリード現象が認められないことが報告されている。しかし、該特許文献1は、それ自体、耐摩耗性を有するポリシロキサン変性ポリステル樹脂の製造方法であって、他の樹脂と混合して樹脂組成物の摩擦摩耗特性、その他の特性を改良することについての記述は全くなされていない。
【0004】
【特許文献1】特開平9−316185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、成形品外観や機械的強度などを阻害することなく、摺動特性の改良された熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を実施したところ、特定のポリシロキサン変性ポリエステル樹脂を含有せしめることにより、摺動特性、成形性および耐衝撃性の優れた熱可塑性樹脂組成物を見出し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、
(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して
(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂1〜80重量部含有してなる熱可塑性樹脂組成物であり、
該(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が、直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基をジアミノポリシロキサン化合物で置換してなるポリエステル共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に存するものであり、更に詳しくは、
該(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が、直鎖状ポリエステル樹脂の1モル(繰り返し単位で計算)に対して、
【0008】
【化1】

【0009】
[但し、R、Rは、同一若しくは異なっていてもよく、ハロゲン原子で全部或いは一部が置換されていてもよい、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Rは、2価の有機基を表わし、nは、10〜100の整数を表わす]で表わされるジアミノポリシロキサン化合物0.001〜0.05モルを、溶融状態下において剪断作用を加えつつ、反応せしめ、該直鎖状ポリエステル樹脂のOH基を該ジアミノポリシロキサン化合物にて置換せしめたポリエステル共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、摺動特性、成形性および耐衝撃性の優れた熱可塑性樹脂組成物が提供されるので、歯車などの機械部品ばかりでなく、自動車や電気電子部品、建材用途などに利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては特に制限はないが、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン系樹脂。ABS樹脂などが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂の1種または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0012】
このような熱可塑性樹脂の中で、いわゆるエンジニアリングプラスチックといわれる耐熱性の高い樹脂が、(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の融点などとの関係から望ましく、更に(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂との相溶性の点から、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0013】
好ましい熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリ(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート)共重合体、ポリ(ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート)共重合体およびこれらの混合物などが例示できる。この中でも、成形性の良さから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが望ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂の固有粘度は0.5〜1.5dl/gであり、更に好ましくは、0.6〜1.3dl/gである。0.5より小さいと、十分なプラスチック材料としての特性が得られにくく、1.5より大きくなると溶融粘度が高く、流動性が低下して成形性が損なわれやすいので好ましくない。ここで固有粘度とは30℃でのフェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)混合溶媒中での測定値である。また、末端カルボキシル基濃度は、120eq/ton以下、好ましくは80eq/ton、更に望ましくは40eq/tonである。末端カルボキシル基濃度が120eq/tonより多いと、ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂との反応が進行しやすく、成形性が悪化する傾向がある。
【0015】
また、ポリカーボネート樹脂としては、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネ−ト等の炭酸エステルを反応させるエステル交換法によって得られる重合体又は共重合体が用いられる。ジヒドロキシジアリール化合物としてはビスフェノールAが代表的な例として挙げられる。分子量としては、12000〜40000が好ましく、更に18000〜32000が好ましい。分子量が12000より低いと、摺動性材料としての強度を維持し辛くなり、40000より高いと、成形性が悪くなる傾向がある。
【0016】
本発明において使用される(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂とは、直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基をジアミノポリシロキサン化合物で置換してなるポリエステル共重合体であり、より詳しくは、直鎖状ポリエステル樹脂の1モル(繰り返し単位で計算)に対して、ジアミノポリシロキサン化合物0.001〜0.05モルを、該直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基に該ジアミノポリシロキサン化合物を置換反応せしめたポリエステル共重合体である。
【0017】
本発明において、(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の原料としての直鎖状のポリエステル樹脂とは、一般には、有機ジカルボン酸またはその誘導体化合物からなるジカルボン酸成分と2価アルコール化合物または2価フェノール化合物からなる2価のOH成分とから重縮合反応によって得られたものである。かかる有機ジカルボン酸またはその誘導体化合物としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジクロライド、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその誘導体や、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体を挙げることが出来る。また、2価アルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、テトラメチレングリコール等のアルキレングリコールや、シクロヘキサンジオール等が挙げられる。更に、2価フェノール化合物としては、ビスフェノール等が挙げられる。これらジカルボン酸成分や2価のOH成分は、各々、これらの単独または2種以上が使用できる。
【0018】
そして、本発明で使用される好ましい直鎖状ポリエステル樹脂の例には、ジカルボン酸として、主としてテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸を用い、また2価アルコールとして、主としてエチレングリコールやブタン−1,4−ジオール等のアルキレングリコールを用い、更に2価フェノールとしてビスフェノールAを用いて得られるポリアルキレンフタレート樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、或いはポリアリレート樹脂等が挙げられる。その中でも、好ましい例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ4,4’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマー(商品名:U−ポリマー、ユニチカ株式会社製)等のポリアリレート樹脂等である。また、前記ポリアルキレンテレフタレートと、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステル等との共重合体であるポリエステルエラストマーも好ましい樹脂の例として挙げることが出来る。
【0019】
ところで、本発明で用いられる直鎖状ポリエステル樹脂の極限粘度は、ヘキサフロロイソプロパノールを溶媒として用いた、30℃の温度での測定にて、一般に0.3dl/g以上、好ましくは0.5dl/g以上とされる。しかし、0.3dl/g未満の極限粘度では、本発明によって得られるポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の強度が弱くなり易いからである。また、本発明に用いられる直鎖状ポリエステル樹脂の含水率は、一般に1000ppm以下、好ましくは500ppm以下とされる。
【0020】
また、本発明におけるジアミノポリシロキサン化合物とは、下記一般式
【0021】
【化2】

[但し、R、Rは、同一若しくは異なっていてもよく、ハロゲン原子で全部或いは一部が置換されていてもよい、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Rは、2価の有機基を表わし、nは、10〜100の整数を表わす]にて示される化合物である。
【0022】
上記において、RまたはRとして表わされる炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基及びアルキルアリール基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ビニル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることが出来、また、これらの基は、全部或いは一部においてハロゲン原子、例えばフッ素原子、塩素原子又は臭素原子、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子にて置換されていても良く、そのようなハロゲン原子にて置換された基の例としては、クロルメチル基、3,3,3−トリフルオロメチル基、パーフルオロブチル基、及びパーフルオロオクチル基を挙げることが出来る。そして、その中でも、好ましくは、メチル基、フェニル基である。なお、R及びRは、上述の基から選ばれたものである限りにおいて、同一の基であっても、異なる基であっても良い。
【0023】
また、Rとして表わされる2価の有機基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、アルキレンアリーレン基、−R−(NHCHCH)a−基[但し、Rはアルキレン基、aは1〜5の整数]、及び−(CHCHO)b−[但し、bは1〜50の整数]或いは−〔CHC(CH)HO〕c−[但し、cは1〜50の整数]等のオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基等を挙げることが出来る。中でも、好ましい例は、エチレン基、プロピレン基である。
【0024】
さらに、nが10〜100の整数に限定されているが、それは、nが10より小さい場合には、ジアミノポリシロキサン化合物によるポリエステル樹脂の変性効果が低くなるからであり、またnが100より大きい場合には、ポリエステル樹脂にポリシロキサン化合物を溶融混練することが困難となって、得られるポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の特性が低下するからである。
【0025】
そして、前記一般式化3にて表わされるジアミノポリシロキサン化合物の具体例としては、前記R、Rが共にメチル基であり、Rがエチレン基であるジアミノエチルジメチルポリシロキサンを挙げることが出来る。
【0026】
また、本発明で使用されるジアミノポリシロキサン化合物の量は、ポリエステル樹脂の繰り返し単位の1モルに対して、0.001〜0.05モルである必要があり、中でも好ましくは0.001〜0.03モルであることが望ましい。ジアミノポリシロキサン化合物の使用量が、0.001モル未満では、ポリシロキサン化合物の構造にて与えられる特性の付与効果が少なくなるからであり、また0.05モルを越えるようになると、得られるポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の分子量が低下して、劣化が著しくなるからである。
【0027】
本発明で言うところの溶融剪断作用状態下での反応は、所謂樹脂に対して、通常の溶融剪断作用状態を形成し得る装置、具体的にはロール、押出機、ニーダ等の装置を用い、それに、直鎖状ポリエステル樹脂の1モルに対して、前記一般式化3にて示される所定のジアミノポリシロキサン化合物が0.001〜0.05モルの割合となるように、直鎖状ポリエステル及びジアミノポリシロキサン化合物を供給することにより、容易に達成される。特に、押出機としては、単軸、多軸でベント付きのものを採用することが、原料の供給、副生成物の除去、製品の取り出しが容易である点から好ましいのである。
【0028】
なお、溶融剪断作用温度は、原料のポリエステル樹脂の溶融流動温度以上、好ましくは溶融流動温度より20℃以上高く、分解温度以下の温度とされる。また、その溶融剪断作用時間は、通常0.1分以上30分以下、好ましくは0.5分以上10分以下である。溶融剪断時間が0.1分より短い場合には、ポリエステル樹脂とジアミノポリシロキサン化合物との反応が不充分となるからであり、また溶融剪断時間が30分より長い場合には、得られるポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が分解し易くなるからである。
【0029】
このような方法に従って得られるポリシロキサン変性ポリエステル樹脂は、前記直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基の少なくとも一部が、前記ジアミノポリシロキサン化合物にて置換せしめられている構造を有するものであるところから、一般に、下記一般式
【0030】
【化3】

【0031】
[但し、Rは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ビフェニルジイル基、若しくはナフチレン基等の二価芳香族、或いはその誘導体、又はエチレン基、ブチレン基、オクチレン基、ビニレン基等の2価の脂肪族基、或いはその誘導体を表わしており、R は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、又はビフェニルジイル基等の2価芳香族基を表わす]にて示されるエステル結合を有する単位構造と、下記一般式
【0032】
【化4】

【0033】
[但し、R、R、R及びnは、前記化3の場合と同様であり、Rは、上記化4の場合と同様である]にて示されるアミド結合を有する単位構造とを、主要な構成単位構造とするポリエステル共重合体である。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、難燃性を付与する目的で広く用いられている(C)難燃剤を配合することができる。好適な難燃剤としては、臭素化ビスフェノールA系ポリカーボネート類、臭素化ビスフェノールA系エポキシ樹脂類、臭素化された置換基を有するビニル系ポリマー(例えば、ペンタブロモベンジルポリアクリレート)などの臭素系難燃剤、ならびに赤燐や燐酸系難燃剤、水酸化マグネシウムなどの水和無機化合物等が挙げられる。
【0035】
(C)難燃剤の配合量は、成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、1〜80重量部である。1重量部より少ないと、難燃性改良の効果は得られないし、80重量部より多いと機械的強度が低下する傾向がある。無機充填剤の配合を行った場合、また難燃助剤を併用した場合には難燃剤の配合量を少なくできるが、好ましくは2重量部以上配合するのが良い。また上限は30重量部が好ましい。
【0036】
更に、難燃効果を助長する目的で難燃助剤を配合することができる。好適な難燃助剤の例として、Sb及び/又はxNaO・Sb・yHO(x=0〜1,y=0〜4)を挙げることができる。難燃助剤の粒径は特に限定されないが、0.02〜5μmが好ましい。また所望により、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されたものを用いることができる。難燃助剤は(A)と(B)の合計量100重量部に対して0〜15重量部配合できるが、効果的に難燃性を付与するためには難燃剤に対して20〜70重量%となるように配合することが好ましい。なお、添加量が15重量部を超えると、樹脂や配合剤の分解を促進し、成形品の特性が低下することがあるので好ましくない。
【0037】
本発明において使用される(D)無機充填剤としては繊維状、板状、粒状物などの一般的に樹脂組成物において使用されるものであり、またこれらの混合物が挙げられる。具体的にはガラス繊維、鉱物繊維、セラミックスウイスカー、ワラストナイト、カーボン繊維等の繊維状物;ガラスフレーク、マイカ、タルクなどの板状物;シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、カーボンブラック、炭酸カルシュウム等の粒状物など周知のものが挙げられる。これらの選定の基準は製品の必要とされる特性によるが、機械的強度や剛性については繊維状物、特にガラス繊維が選定され、成形品の異方性および反りの低減が重要な際は板状物、特にマイカが選ばれる。また、粒状物は成型時の流動性も加味された全体的なバランスのもとで最適なものが選ばれる。ガラス繊維は、一般に樹脂強化用に使用されるものならば特に限定されない。例えば、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)などから選択して用いることができ繊維径は6〜15μmが一般的である。また、ガラス繊維は集束剤(例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル等)、カップリング剤(例えば、シラン化合物、ボロン化合物等)、その他の表面処理剤等で処理されていてもよい。その中でも、強度の点からアミノシラン化合物とノボラックエポキシ化合物で表面処理されたものが好ましい。
【0038】
上記(D)無機充填剤の配合量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂の合計量100重量部に対して1〜100重量部であり、好ましくは3〜80重量部であり、更に(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂のコストの面、及びあまり多量に使用しても、改善効果に変化が無かったり、あるいは過度の性状変化となる場合もあったりすることから、5〜30重量部が実用的である。100重量部より多いと、機械的性質が低下する傾向にあり、1重量部より少ない配合量では、機械的強度を十分に改善できない傾向がある。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、(A)熱可塑性樹脂、(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂、ならびに(C)難燃剤、(D)無機充填剤の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、所望により、核剤(例えば、タルク)、滑剤(例えばパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸およびそのエステルまたは塩、シリコンオイル)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、耐衝撃性改良剤等の改質剤、エポキシ化合物などの、耐加水分解性改良剤等の通常の添加剤を含有することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。すなわち、(A)熱可塑性樹脂、(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂、ならびに必要に応じて添加される(C)難燃剤、(D)無機充填剤を、ペレット、粉末、細片状態などで、ブレンダーなどを用いて均一混合した後、バンバリーミキサ、加熱ロールや単軸または多軸押出機等を用いて230〜320℃、好ましくは230〜290℃の温度で溶融混練する方法など種々の方法により製造することができる。また、(A)熱可塑性樹脂に高濃度の(B)ポリシロキサン変性ポリエステルなどを予め混練しておき、後に熱可塑性樹脂で希釈して所定の配合比に調節して混練する方法も可能である。
【0041】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常の成形方法、すなわち射出成形、押出成形、圧縮成形、中空成形などで種々の電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野等の成形品が得られる。特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜290℃にコントロールするのが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げ、本発明を詳述する。なお実施例中の部は重量部を意味する。
<ポリシロキサン変性ポリエステルの製造法>
ポリエステル樹脂としてのポリアリレート樹脂(ユニチカ株式会社製、商品名:U−100)と、ジアミノポリシロキサン化合物(東レダウコーニングシリコーン社製、商品名:BY16−853B、アミノ当量:2200)とを、シリンダー温度が300℃に設定された二軸押出機(株式会社池貝製、PCM30、L/D=30、1ベント)に対し、ポリアリレート樹脂はホッパー口から、またジアミノポリシロキサン化合物はベント口から、それぞれ供給した。なお、この際、ポリアリレート樹脂の1モル(繰り返し単位で計算)に対してジアミノポリシロキサン化合物が0.015モルとなる割合で、且つ1時間当たりの供給量の合計が10kg/hとなるように、供給した。そして、スクリューを250rpmで回転させて、ポリアリレート樹脂とジアミノポリシロキサン化合物を、溶融剪断下において反応せしめた後、押出機のダイス口からストランド状に押出し、それを水中で冷却せしめた後、ペレット状に切断した。得られたポリシロキサン変性ポリエステル樹脂のジメチルシリコン化合物含有量は12.5重量%であり、また極限粘度は0.55dl/gで、極限粘度([η]、単位:dl/g)の測定は、ヘキサフロロイソプロパノールを溶媒とし、30℃の温度で行なった。
【0043】
実施例及び比較例の各樹脂組成物を得るに当たり、次に示す原料を準備した。
(A−1)PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品、商品名:ノバデュラン(登録商標) 5010
(A−2)PC:ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品、商品名:ユーピロン(登録商標) S−3000
(B)MSPAR:上記ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂。
(C−1)難燃剤:テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテルコポリマー、坂本薬品工業社製 商品名:SR−T5000
(C−2)難燃助剤:三酸化アンチモン、森六社製
(D)GF:ガラス繊維、日本電気硝子社製、商品名:T187
(E)DMS:シリコンオイル、東レダウコーニング・シリコーン社製、商品名:SH−200
【0044】
実施例および比較例の樹脂組成物を次のようにして得た。
二軸押出機(日本製鋼所製、商品名:TEX30XCT、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて、表−1に示す割合にて成分(A)および(B)および無機充填剤以外の添加剤をタンブラーミキサーにて均一に混合した後、バレル1よりフィードし溶融混合させて組成物を作成した。溶融混練の際、無機充填剤を押出機の途中から供給することにより、破損しないように工夫した。得られた組成物に対して次の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0045】
<評価方法>
(1) 離型性:小型射出成形機(住友重機械工業製、商品名:SE50D)を用いて、摩擦係数測定用試験片(外径φ25、内径φ20、高さ15mm)を、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形し、金型温度80℃で冷却時間10秒の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡の付き具合から、次の基準により離型性を評価した。
【0046】
○:離型可能で、ピン跡がない。
△:離型可能であるが、ピン跡がある。
×:離型できない。
(2)成形品外観:成形表面が鏡面である3mm厚み円板金型を用いて連続50ショット射出成形し、成形品を観察して、材料からのガスの発生による曇りまたは添加剤などの遊離剥離があるか調べた。全くにみとめられないものを○、10%ほどの成型品に認められるものを△、20%以上に認められるものを×と表記した。
(3)動摩擦係数:小型射出成形機(住友重機械工業製、商品名:SE50D)を用いて、にてシリンダー温度270℃、金型温度100℃で摩擦係数測定用試験片(外径φ25、内径φ20、高さ15mm)を成形サイクル1分で成形した。スラスト摩擦摩耗試験機(オリエンテック製)を用いて同じ樹脂製摩耗リングを上下にセットし、面圧0.3MPa、線速度7.2cm/secで摩擦力を測定し、動摩擦係数を求めた。また、異音の発生の有無をチェックした。
(4)すべり摩耗量:上記の同一条件でのスラスト摩擦摩耗試験にて、24時間運転することにより摩耗量を測定し、比摩耗量を計算した。
(5)ざらつき摩耗量:小型射出成形機(住友重機械工業製、商品名:SE50D)にて、金型温度80℃で冷却時間40秒の条件でテーバー摩耗試験片を、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した。ざらつき摩耗の代表的な測定法のテーバー摩耗試験機にて測定した。摩耗輪としてはH−18を用い、1000回転後の樹脂成形品の摩耗量(単位mg)を求めた。
(6)表面硬度:ISO 3167に準じた試験片(金型温度80℃)を、マイクロビッカース硬度計(株式会社アカシ製 商品名:HM124)にて、荷重1kgf、負荷時間10secの圧痕の面積(mm)を測定した。硬度は、荷重(kgf)/面積(mm)で算出した。硬度の数値が大きいほど傷付きにくいことを示す。
(7)シャルピー衝撃強さ:ISO 179に準じて、ノッチつきにて測定した。
(8)凝集破壊率:ASTM D638に準じた試験片のチャック部分に、シリコーン接着剤(スリーボンド製1207B)を15mm×20mmの面積に塗布し、もう1本の試験片をチャック部分のみ重なるように貼り合わせ、接着剤を23℃−65%RHで1週間硬化させた。この試験片に引張せん断力を加え、被着部分を破壊し、接着剤の凝集破壊部分の割合を測定した。この数値が高いほど、シリコーン系の接着剤との接着性が良好であることを示す。
(9)難燃性:小型射出成形機(住友重機械工業製、商品名:SE50D)にて、金型温度80℃で冷却時間40秒の条件で1.6mm厚みの燃焼試験片を、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した。UL94に準じて難燃性を測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
上記の結果より、次のことがわかった。
(1) PBTにポリシロキサン変性ポリエステルを配合した実施例1〜3と、ポリシロキサン変性ポリエステルを配合してない比較例1との比較において、離型性、摩擦係数、滑り摩耗量、シャルピー衝撃、凝集破壊率が改善された。しかし、特許文献1において改善が示されたざらつき摩耗はほとんど変わらなかった。また、実施例2と同等のポリシロキサン量になるようにDMSを配合した比較例2は、成形時にガスの発生が多く成形品表面に曇りが認められた。また、シャルピー衝撃、凝集破壊率が低い。
(2) ポリカーボネートについても同様に実施例4および比較例3と4に示したが、上記(1)と同様な結果であった。
(3) 難燃剤、または無機充填剤を配合し、ポリシロキサン変性ポリエステルを配合した実施例5〜6、無配合の比較例5と7およびポリシロキサン変性ポリエステルの代わりに相当量のポリシロキサンを配合した比較例6と8の比較において、上記(1)と同様な結果であった。ただ、難燃剤を配合した実施例5からわかるようにポリシロキサン変性ポリエステルの配合は難燃性を低下する程度が小さく、難燃レベルをV−0に維持できた。
【0050】
以上より、ポリシロキサン変性ポリエステルの熱可塑性樹脂への配合は、摩擦摺動特性を改善するばかりでなく、離型性、表面硬度、シャルピー衝撃、凝集破壊率を改善し、成形品外観などを阻害することがないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、摺動特性、成形性および耐衝撃性の優れた熱可塑性樹脂組成物であるので、歯車などの機械部品ばかりでなく、自動車や電気電子部品、建材用途などに利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して
(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂1〜100重量部
含有してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が、直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基をジアミノポリシロキサン化合物で置換してなるポリエステル共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1の(B)ポリシロキサン変性ポリエステル樹脂が、直鎖状ポリエステル樹脂の1モル(繰り返し単位で計算)に対して、下記一般式:
【化1】

[但し、R、Rは、同一若しくは異なって、ハロゲン原子で全部或いは一部が置換されていてもよい、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Rは、2価の有機基を表わし、nは、10〜100の整数を表わす]で表わされるジアミノポリシロキサン化合物0.001〜0.05モルを、溶融状態下において剪断作用を加えつつ、反応せしめ、該直鎖状ポリエステル樹脂中のOH基を該ジアミノポリシロキサン化合物にて置換せしめたポリエステル共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1の(A)熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1の(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、(C)難燃剤1〜80重量部含有したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物において、成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、(D)無機充填剤1〜100重量部含有したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−249348(P2006−249348A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70547(P2005−70547)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】