説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐熱性と耐薬品性および電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体を提供することである。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と耐薬品性および電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテルは機械的性質・電気的性質及び耐熱性が優れており、しかも寸法安定性に優れるため幅広い用途で使用されているが、単独では成形加工性に劣っており、これを改良するためにポリスチレンを配合することが広く知られている。しかしながら、耐熱性や耐薬品性が低下するという課題があった。
耐熱性を維持したままポリフェニレンエーテルの流動性を改良する技術として、液晶ポリエステルを配合する技術(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが、耐衝撃性、耐薬品性の観点において十分ではなかった。
一方、ポリエーテルエーテルケトンに代表されるポリアリールケトンは、原料価格が非常に高価な上、融点こそ高いものの、樹脂自体のガラス転移温度が比較的低いため、耐熱性等の改良が検討されてきた。
【0003】
また、ポリエーテルエーテルケトンに層状珪酸塩を配合するにあたって、分散性を向上させるためにポリフェニレンエーテルと層状珪酸塩とからなるマスターバッチの形で配合する組成物が開示されている(特許文献2参照。)が、これはポリフェニレンエーテルとポリエーテルエーテルケトンとのアロイを意図したものではないばかりか、電気特性等も十分ではなかった。
そこで、耐熱性と耐薬品性および電気特性のバランスに優れた樹脂組成物が待望されているのが現状であった。
【特許文献1】特開昭56−115357号公報
【特許文献2】特開2003−335867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、電気・電子部品等の精密成形品に好適であり、上述した技術では達成し得なかった、耐熱性と耐薬品性および電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が、これら特性に優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を得るために有効であることを見出し、本発明に到達した。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴及び好ましい諸態様を列挙する。
(1)(A)ポリフェニレンエーテル樹脂および(B)ポリアリールケトン樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物。
(2)(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の一部または全部がエポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂である上記(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)さらに(C)エポキシ化合物を、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含む上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)(A)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂の変性率が0.1〜50%である上記(2)または(3)記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0006】
(5)(A)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度未満の温度で変性されてなる上記(2)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)(A)成分が1〜49質量部、(B)成分が51〜99質量部である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7)(A)成分が分散相を形成し、(B)成分が連続相を形成する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(8)(B)成分がポリエーテルエーテルケトン樹脂である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(9)(C)エポキシ化合物が、グリシジル基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体である上記(3)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
(10)(D)エラストマーを含む上記(1)〜(9)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(11)(D)成分が、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体の水素添加物である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(12)(E)無機フィラーを含む上記(1)〜(11)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(13)(F)難燃剤を含む上記(1)〜(12)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体。
(15)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性と耐薬品性および電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明で使用することのできる各成分について詳しく述べる。
本発明で使用できる(A)成分のポリフェニレンエーテル樹脂とは、式(1)の構造単位からなる、ホモ重合体及び/または共重合体である。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、Oは酸素原子、R〜Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。〕
【0012】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂の具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。ポリフェニレンエーテルとして2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合の各単量体ユニットの比率は、ポリフェニレンエーテル共重合体全量を100質量%としたときに、約60〜約90質量%の2,6−ジメチルフェノールと、約10〜約40質量%の2,3,6−トリメチルフェノールからなる共重合体が特に好ましい。
【0013】
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。
本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用することのできるポリフェニレンエーテル樹脂の還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.15〜0.70dl/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.20〜0.60dl/gの範囲、より好ましくは0.40〜0.55dl/gの範囲である。
本発明においては、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテル樹脂をブレンドしたものであっても構わない。例えば、還元粘度0.45dl/g以下のポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテルの混合物、還元粘度0.40dl/g以下の低分子量ポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテル樹脂の混合物等が挙げられるが、もちろん、これらに限定されることはない。
【0015】
さらに、ポリフェニレンエーテル樹脂は分子鎖末端にフェノール性水酸基を有しているが、その位置は片末端でも両末端でもその混合物でも良い。
また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテル樹脂は、その一部または全部がエポキシ基含有化合物により変性されたものであっても構わない。
該変性されたポリフェニレンエーテルの製法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下、非存在下で80℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなくエポキシ基含有化合物と反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルとエポキシ基含有化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上、360℃以下の範囲の温度でエポキシ基含有化合物と溶融混練し反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わない。中でも、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満で反応させる方法が好ましく、溶液中で反応させる方法がより好ましい。
【0016】
ポリフェニレンエーテル樹脂の変性に使用できるエポキシ基含有化合物としては、エポキシ樹脂、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール−ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、および、これらをハロゲン化したもの等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂は、1つまたは2つ以上の種類を混合したものを用いることもできる。本発明においては、上記の様々なエポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、あるいはオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が、反応性や取り扱い性の観点から特に好ましい。なお、エポキシ基含有化合物は、後述されるエポキシ化合物と同じものであっても違うものであっても構わない。
【0017】
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際のエポキシ基含有化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、更に好ましくは3〜50質量部である。
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜2質量部である。
また、変性されたポリフェニレンエーテル中のエポキシ基含有化合物の付加率は、0.1〜50%が好ましい。より好ましくは1〜40%である。
【0018】
該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応のエポキシ基含有化合物及び/または、エポキシ基含有化合物の重合体が残存していても構わない。
(A)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂の変性率は、シート製膜性の観点から0.1〜50%であることが好ましく、より好ましくは1〜40%、さらに好ましくは3〜30%である。
また、ポリフェニレンエーテルの安定化の為に公知となっている各種安定剤も好適に使用することができる。安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤であり、これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して5質量部未満である。
【0019】
更に、ポリフェニレンエーテル樹脂に添加することが可能な公知の添加剤等もポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して10質量部未満の量で添加しても構わない。
本発明の(B)成分のポリアリールケトンとは、その構造単位に芳香核結合、エーテル結合及びケトン結合を含む熱可塑性樹脂であり、その代表例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等があり、また、本発明の主旨を超えない範囲でビフェニル構造、スルホニル基など、共重合可能な他の単量体単位を含むものであってもかまわない。本発明においては、式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に使用される。
【0020】
【化2】

【0021】
この繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンは、VICTREX社製の商品名「PEEK90G」、「PEEK151G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」などとして市販されている。なお、ポリアリールケトンは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
本発明においては、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリアリールケトンの量比は特に制限はないが、ポリフェニレンエーテル樹脂が1〜49質量部、ポリアリールケトンが51〜99質量部であることが耐熱性の観点から好ましい。より好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜40質量部、ポリアリールケトン60〜95質量部、さらに好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂20〜40質量部、ポリアリールケトン60〜80質量部である。
【0022】
本発明においては、ポリフェニレンエーテル樹脂が分散相、ポリアリールケトンが連続相を形成することが好ましい。ポリアリールケトンが連続相を形成することにより、耐薬品性に優れる。これらモルフォロジーについては、例えば透過型電子顕微鏡を用いて観察することにより容易に判断することができる。
本発明における(C)エポキシ化合物とは、エポキシ樹脂、その前駆体、及びエポキシ基含有共重合体などである。例えば、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂前駆体は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、4官能型エポキシ樹脂及びこれらの前駆体などがある。なお、エポキシ化合物としては、前述のエポキシ基含有化合物と同じものであっても違うものであっても構わない。
【0023】
また、エポキシ基含有共重合体としては、グリシジル基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体が挙げられる。ここでいうスチレンを主たる成分とするモノマーとは、スチレン成分が100重量%は何ら問題ないが、スチレンと共重合可能な他のモノマーが存在する場合は、その共重合体鎖が(A)成分であるポリフェニレンエーテル樹脂との混和性を保持する上で、少なくともスチレンモノマーを65重量%以上、より好ましくは75〜98重量%含むことが好ましい。
これら共重合体を構成するグリシジル基を有する不飽和モノマーの例として具体的には、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられ、中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが好ましい。これらグリシジル基を有する不飽和モノマーの含有量は、(C)成分の共重合体中に0.3〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは2〜10重量%である。
【0024】
またその他に、共重合成分としてエチレン、アクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が共重合されていても構わない。これら共重合体の例としては、例えば、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体等が挙げられ、さらにエチレン系共重合体にスチレン系モノマー等がグラフトした共重合体であってもよく、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマー及びアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0025】
(C)エポキシ化合物を配合する場合の配合量は、上記の(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、耐熱性、難燃性の観点から0.1質量部以上10重質部以下である。好ましくは0.15質量部以上9重質部以下、より好ましくは0.2質量部以上8質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以上5質量部以下である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物はポリアリレートを配合することができる。ポリアリレートはポリアリールエステルとも呼ばれ、主鎖に芳香環とエステル基を含むポリマーである。またこれらのポリマーは、ビスフェノールAとテレフタル酸およびイソフタル酸からなるポリマーが好適である。式(3)で表される繰り返し単位を有するポリアリレートが好適に使用される。
【0026】
【化3】

【0027】
ポリアリレートの含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、0.5〜45質量部が好ましい。より好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、特により好ましくは3〜20質量部、中でもとりわけ好ましくは4〜10質量部である。このポリアリレートの含有量は、樹脂組成物の相間剥離を抑制する観点から、0.5質量部以上が好ましく、耐熱性の観点から、45質量部以下が好ましい。
さらに、本発明ではスチレン系重合体を含んでいてもよい。本発明でいうスチレン系重合体とは、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。スチレン系重合体を含むことで、本発明の課題を達成する他に、流動性を向上することができる。スチレン系重合体の好ましい配合量としては、ポリフェニレンエーテルとポリアリールケトンの合計100質量部に対し、50質量部未満の量である。これらスチレン系重合体の添加方法に特に制限はないが、ポリフェニレンエーテル成分と同時に添加されることが好ましい。
【0028】
本発明においては、(D)エラストマーをさらに添加することができる。好ましいエラストマーとしては、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体が挙げられる。
本発明の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」とは、当該ブロックにおいて、少なくとも50質量%以上が芳香族ビニル化合物単位であることを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」に関しても同様で、少なくとも50質量%以上が共役ジエン化合物単位であることを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0029】
この場合、例えば芳香族ビニル化合物ブロック中にランダムに少量の共役ジエン化合物もしくは他の化合物が結合されているブロックの場合であっても、該ブロックの50質量%が芳香族ビニル化合物単位より形成されていれば、芳香族ビニル化合物を主体とするブロック共重合体とみなす。また、共役ジエン化合物の場合においても同様である。
芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
【0030】
ブロック共重合体の共役ジエン化合物ブロック部分のミクロ構造は1,2−ビニル含量もしくは1,2−ビニル含量と3,4−ビニル含量の合計量5〜80%が好ましく、さらには10〜50%が好ましく、15〜40%が最も好ましい。
本発明におけるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[A]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]が、A−B型、A−B−A型、A−B−A−B型から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体である事が好ましく、これらの混合物であっても構わない。これらの中でもA−B型、A−B−A型、又はこれらの混合物がより好ましく、A−B−A型がもっとも好ましい。
【0031】
また、本発明で使用することのできる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体は、水素添加されたブロック共重合体であることがより好ましい。水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加処理することにより、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの脂肪族二重結合の水素添加率を0を越えて100%の範囲で制御したものをいう。該水素添加されたブロック共重合体の好ましい水素添加率は80%以上であり、最も好ましくは98%以上である。
これらブロック共重合体は水素添加されていないブロック共重合体と水素添加されたブロック共重合体の混合物としても問題なく使用可能である。
【0032】
また、これら芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量もしくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの等を混合して用いても構わない。
また、本発明で使用するブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であっても構わない。
ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
【0033】
該変性されたブロック共重合体の製法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でブロック共重合体の軟化点温度以上250℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)の方法が好ましく、更には(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法が最も好ましい。
【0034】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物とは、変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同じものが使用できる。
本発明におけるエラストマーの配合量としては、ポリフェニレンエーテルとポリアリールケトンの合計量100質量部に対し、50質量部未満であることが好ましい。これらエラストマーの添加方法に特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルと同時に添加されることが好ましい。
【0035】
本発明においては、さらに(E)無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、カオリン、マイカ、ゾノトライト等が挙げられる。中でも、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク等が好適に使用できる。
本発明においては、さらに(F)難燃剤を添加しても構わない。難燃剤としては、ケイ素化合物、環状窒素化合物、リン系難燃剤が好ましい。
ケイ素化合物の例としては、例えば、シリコーン、籠状シルセスキオキサンまたはその部分開裂構造体、シリカ等が挙げられる。
【0036】
シリコーンは、オルガノシロキサンポリマーのことで、直鎖構造のもの、架橋構造のもの、あるいはそれらがある割合で構成された構造のものでもよく、又、単独あるいはそれらの混合物でもよい。難燃性、流動性の観点から、直鎖構造のものがより好ましい。また難燃性、耐衝撃性の観点から、分子内の末端基あるいは側鎖基として官能基を有するものが好ましい。官能基は特にエポキシ基、アミノ基が好ましい。具体的には例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製のシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンパウダー、信越化学工業株式会社製のストレートシリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイル、シリコーンパウダーKMPシリーズなどを用いることができる。液体状、固体状いずれのものも用いることができる。液体状のものは、25℃における粘度が、10〜10,000(mm/s)が好ましく、100〜8,000(mm/s)がより好ましく、500〜3,000(mm/s)が特により好ましい。固体のものは、平均粒径が0.1〜100μmが好ましく、0.5〜30μmがより好ましく、0.5〜5μmが特により好ましい。このシリコーンは、ポリフェニレンエーテルとポリアリールケトンの合計100質量部に対して、難燃効果の点から0.1質量部以上であり、また剛性低下の点から10質量部の割合で含有されていることが好ましく、0.3〜5質量部がさらに好ましく、0.5〜2質量部が特により好ましい。
【0037】
環状窒素化合物とは、窒素元素を含有する環状の有機化合物である。具体的にはメラミン誘導体である、メラミン、メレム、メロンが好ましく用いられる。中でも揮発性の観点から、メレム、メロンが好ましい。
リン系難燃剤としては、赤燐、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、フォスファゼン化合物、ホスフィン酸塩類等が挙げられる。中でもリン酸エステル化合物、ホスフィン酸塩類がより好ましい。
リン酸エステル化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノ有機リン化合物や有機リン化合物オリゴマーが挙げられるが、有機リン化合物オリゴマーが特に好ましい。
有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記式(4)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、Q、Q、Q、Qは、炭素数1から6のアルキル基または水素を表し、nは1以上の整数、m、m、m、mは0から3の整数を示し、Xは以下の式(5)のいずれかから選択される。)
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、S、S、Sはメチル基または水素を表す。n、n、nは0から2の整数を示す。)
具体的には、大八化学社製のCR−741、CR−747、CR−733Sなどが好適である。
ホスフィン酸塩類としては、下記式(6)で表されるホスフィン酸塩及び/又は下記式(7)で表されるジホスフィン酸塩、またはこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類が好ましい。
【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
(式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。)
【0045】
ホスフィン酸塩類は、本発明の効果を損ねない範囲であれば、如何なる組成で混合されていても構わないが、難燃性、モールドデポジットの抑制の観点から、上記(4)で表されるホスフィン酸塩を90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上含んでいる事が好ましい。
本発明において、好ましく使用可能なホスフィン酸の具体例としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
また好ましく使用可能な金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及び/又はプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンから選ばれる1種以上である。
【0046】
ホスフィン酸塩類の好ましく使用可能な具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。
【0047】
特に難燃性や、モールドデポジットの抑制の観点からジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。中でもジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
また、本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形品の機械的強度、成形品外観を考慮し、好ましいホスフィン酸塩類の平均粒子径の下限値は0.5μmである。より好ましい下限値は1.0μmであり、最も好ましい下限値は2μmである。また、好ましいホスフィン酸塩類の平均粒子径の上限値は40μmであり、より、好ましい上限値は20μmであり、更に好ましくは15μmであり、最も好ましくは10μmである。
【0048】
ホスフィン酸塩類の数平均粒子径を0.5μm以上とする事により、溶融混練等の加工時において、取扱い性や押出し機等への噛み込み性が向上し好ましい。また、平均粒子径を40μm以下とする事により、樹脂組成物の機械的強度が発現し易くなり、かつ成形品の表面良外観が向上するといった効果が得られ好ましい。
ホスフィン酸塩類の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、島津製作所社製、商品名:SALD−2000)を用い、水中にホスフィン酸塩類を分散させ測定解析する事が出来る。水のホスフィン酸塩類への分散方法は、超音波拡散機およびまたは、攪拌機を備えた攪拌槽へ水及びホスフィン酸塩類を加える事で可能である。この分散液をポンプを介してレーザー回折粒度分布計の測定セルへ送液し、レーザー回折により粒子径を測定する。測定によって得られる、粒子径と粒子数の頻度分布より数平均粒子径として計算する事が出来る。
【0049】
また、本発明におけるホスフィン酸塩類には、本発明の効果を損なわなければ、未反応物あるいは副生成物が残存していても構わない。
これらのリン系難燃剤の配合量としては、ポリフェニレンエーテルとポリアリールケトンの合計100質量部に対して、難燃性の点から0.1質量部以上であり、また耐熱性の点から10質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、さらに好ましくは1〜8質量部、特により好ましくは3〜5質量部である。
本発明では、上記した成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分を添加しても構わない。
【0050】
付加的成分の例を以下に挙げる。
導電性付与材(導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ等)、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)及び、帯電防止剤、各種過酸化物、硫化亜鉛、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等である。
本発明の組成物を得るための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられるが、中でも二軸押出機が好ましい。
【0051】
本発明の好ましい製造方法は、上流側供給口を備えた二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル、ポリアリールケトンを供給して溶融混練する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、樹脂組成物を製造するための好ましい温度は、345〜380℃の範囲の中から任意に選ぶことができる。中でも350〜370℃の範囲がより好ましい。
このようにして得られる本発明の組成物は、従来より公知の種々の方法、例えば、射出成形により各種部品の成形体として成形できる。
これら各種部品としては、例えば、パソコン、ハードディスクDVDドライブレコーダー、デジタルビデオカメラ、携帯型デジタル音楽プレーヤー、携帯電話などのデジタル家電製品に使用されるハードディスクの内部部品や各種コンピューターおよびその周辺機器等の内部部品、ICトレー材料、各種ディスクプレーヤー等のシャーシー、キャビネット等の電気・電子部品、リレーブロック材料等に代表されるオートバイ・自動車の電装部品、自動車用耐熱部品あるいは事務機器用耐熱部品に好適である。中でも精密成形が必要とされるハードディスクの内部部品として好適に使用される。
【0052】
ハードディスクの内部部品としては例えばブラケット、ラッチ、コウム、スポイラー、ブッシュ、マウントプレート、フックなどが挙げられる。
自動車用耐熱部品は例えば、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウウォッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、点火装置ケースなどの部品、ホイールキャップ、ランプソケット、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプリフレクターなどが好適である。
【0053】
また、事務機器用耐熱部品は、例えば、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品などに好適である。
また、本発明の組成物は、例えば、押出しシート成形によりシートに成形することもできる。ここで言うシートとは、厚みが0.001〜2.0mmのものであり、これらシートの製造方法としては、例えば、押出しチューブラー法(場合によってはインフレーション法とも呼ばれる)、Tダイ押出し法等が挙げられる。
こうして得られたシートは、難燃性や電気特性が要求される用途に好適に使用でき、例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、プリント基板製造用剥離フィルム、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用シートセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャーなどに好適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に示されたものに限定されるものではない。
(使用した原料)
(1)ポリフェニレンエーテル(以下、PPE−1と略記)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)
還元粘度:0.42dl/g、(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)
(2)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル
後述する方法により得た。
(3)ポリアリールケトン
(3−1)商品名:VICTREX PEEK 151G(登録商標)(ビクトレックス社製)(以下、PAK−1と略記)
(3−2)商品名:VICTREX PEEK 90G(登録商標)(ビクトレックス社製)(以下、PAK−2と略記)
(4)エポキシ化合物
(4−1)ノボラック型エポキシ樹脂(以下、EP−1と略記)
商品名:EPICLON N−695(登録商標)(大日本インキ社製)
(4−2)スチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(以下、EP−2と略記)
商品名:マーブルーフG−1005S(登録商標)(日本油脂社製)
【0055】
(5)難燃剤
特開2005−179362号公報の実施例に記載されている製法を参考にして、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(以下、DEPと略す)を製造した。
DEPの塊を水中で湿式粉砕後、分級して3.3μmの平均粒子径を有するDEPを得た。
(参考例−1:エポキシ基化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂[E−PPE−1]および[E−PPE−2]の製造方法)
前述の[PPE−1]450gをトルエン1300gに溶解し、該溶液を、上部に冷却管を配した10L容器に入れ、120℃に設定したオイルにより加温する。予めトルエン500gに前述の[EP−1]200gを溶解しておき、[PPE−1]のトルエン溶液に撹拌しながら加える。撹拌しながら2時間反応した後、50℃まで降温し、5400gのメタノールを徐々に添加し析出物をフィルターで濾別後、1000gのメタノールに分散させ50℃で30分間の洗浄・濾別を3回行った後、140℃で8時間減圧乾燥し、[E−PPE−1]を得た。得られた[E−PPE−1]の変性率を下記方法で測定したところ、30%であった。
【0056】
ここでの変性率とは、[PPE−1]の分子鎖末端フェノール性水酸基のうち、エポキシ変性された水酸基の割合であり、例えば[PPE−1]の1分子あたり平均の分子鎖末端フェノール性水酸基数(Np(個/ポリフェニレンエーテル1分子鎖))と[E−PPE−1]の1分子あたり平均の分子鎖末端フェノール性水酸基数(Nq(個/ポリフェニレンエーテル1分子鎖))とから、下記数式で求めることができる。
(変性率)=[(Np−Nq)/Np]×100(%)
Np及び、Nqは高分子論文集,vol.51,No.7(1994)、480頁記載の方法に従い、[PPE−1]が0.2g/Lとなるよう調整した塩化メチレン溶液と[E−PPE−1]が0.2g/Lとなるよう調整した塩化メチレン溶液に、それぞれ10wt%テトラメチルアンモニウムハイドロオキシド溶液を加えたときの318nmにおける吸光度変化を紫外可視吸光光度計で測定した値、及び、(A)ポリフェニレンエーテルの数平均分子量の値から算出することができる。
【0057】
同様の方法にて、反応時間を5時間にして、[E−PPE−2]を得た。変性率は58%であった。
(参考例−2:エポキシ基化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂[E−PPE−3]の製造方法)
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを320℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/hで、[PPE−1]と[EP−1]が10:1の割合になるように、上流側供給口より供給して溶融混練し[E−PPE−3]を作製した。得られたペレットは塩化メチレンに不溶分が7%発生したため、正確に変性率を測定することができなかった。
【0058】
(評価方法)
以下に、評価方法について述べる。
<耐熱性:荷重たわみ温度>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物ペレットを、乾燥機を用いて100℃で3時間乾燥し、射出成形機[IS−80EPN:東芝機械社製]を用いて、射出速度700mm/秒、保圧60MPa、射出+保圧時間10秒、冷却時間15秒に設定し、表1記載の温度設定条件にて、127×13×3.2mmの成形片を成形した。得られた試験片を用いてASTM D648に準拠し、1.82MPaで荷重たわみ温度を測定した。
【0059】
<耐薬品性1:臨界歪>
上記成形片を用いて、ベンディングフォーム法により、23℃、72時間の条件下でリノール酸に対する亀裂発生の臨界歪値を測定した。
<耐薬品性2:亀裂発生>
上記成形片を用いて、曲げ型を用いて1%の歪をかけて固定し、シクロヘキサンに浸漬し、23℃、72時間の条件下での亀裂発生を評価した。
<耐薬品性3:重量変化率>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物ペレットを、乾燥機を用いて100℃で3時間乾燥し、射出成形機[IS−80EPN:東芝機械社製]を用いて、射出速度700mm/秒、保圧60MPa、射出+保圧時間10秒、冷却時間15秒に設定し、表1記載の温度設定条件にて、90×50×2mmの成形片を成形した。得られた試験片の四方を切削して20×20×2mmを切り出した。この切削片を20mlのクロロホルムに24時間浸漬し、浸漬前後の重量変化を測定した。重量変化率を下記式のように算出した。
(重量変化率)={(浸漬前の重量)−(浸漬後の重量)}/浸漬前の重量×100
【0060】
<電気特性>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物ペレットを、乾燥機を用いて100℃で3時間乾燥し、テクノベル社製、15mmの2軸同方向回転押し出し機付きTダイ製膜機(KZW15TW)を用い、乾燥したペレットを第一供給口から供給し、窒素を吹き込みながら、第一供給口側からTダイへ向けてのシリンダー設定温度を320/360/360℃に設定し、Tダイの設定温度を360℃、キャストロール温度を170℃に設定し、真空ベントをひきながら、供給量と引取り速度を調整し約100μmの厚みのフィルムを得た。
得られた100μm厚みのフィルムを5cm×9cm角に切り出し、これを用い、JIS−K6911に準拠した試験方法(アルミ箔を張り合わせる方法)により、誘電率(以下「ε」と略す)、および誘電正接(以下「tanδ」と略す)を測定した。測定装置は、アジレント社製の4284Aを用いた。測定雰囲気の温度は22℃、測定周波数は1MHzにて実施した。
【0061】
<難燃性>
実施例で得られた樹脂組成物ペレットを、乾燥機を用いて100℃で3時間乾燥し、射出成形機[IS−80EPN:東芝機械社製]を用いて、射出速度700mm/秒、保圧100MPa、射出+保圧時間10秒、冷却時間15秒、金型温度170℃、溶融樹脂温度370℃に設定して、127×13×1.6mmの成形片を成形した。得られた試験片を用いて、UL−94(米国アンダーライターズラボラトリー規格)に基づき、5本の試験片について、各々2回ずつ接炎し、合計10回の燃焼時間について測定し、判定した。
【0062】
[実施例1〜2、比較例1]
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを360℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/hで、表1記載の割合となるように、上流側供給口より原料を供給して溶融混練し樹脂組成物ペレットを作製した。得られた樹脂組成物の荷重たわみ温度、耐薬品性(臨界歪)を評価した。物性値を組成と共に表1に併記した。また、実施例1および実施例2は、ポリフェニレンエーテルが連続相、ポリエーテルエーテルケトンが分散相であった。
【0063】
【表1】

【0064】
[実施例3〜9、比較例2]
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを360℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/hで、表2記載の割合となるように、上流側供給口より原料を供給して溶融混練し樹脂組成物ペレットを作製した。得られた樹脂組成物の荷重たわみ温度、耐薬品性(亀裂発生、重量変化率)を評価した。また、実施例4および比較例2に関しては、電気特性も評価した。物性値を組成と共に表2に併記した。また、実施例3〜実施例9は、ポリフェニレンエーテルが分散相、ポリエーテルエーテルケトンが連続相であった。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例10、11]
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを360℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/hで、表3記載の割合となるように、上流側供給口より原料を供給して溶融混練し樹脂組成物ペレットを作製した。得られた樹脂組成物の荷重たわみ温度、耐薬品性(重量変化率)および難燃性を評価した。物性値を組成と共に表3に併記した。
【0067】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物、および該樹脂組成物からなる成形体は、電気・電子部品、OA部品、車両部品、機械部品などの幅広い分野に使用することができ、とりわけ、精密成形が必要とされる電気・電子部品に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂および(B)ポリアリールケトン樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の一部または全部がエポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(C)エポキシ化合物を、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含む請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂の変性率が0.1〜50%である請求項2または3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)エポキシ基含有化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度未満の温度で変性されてなる請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分が1〜49質量部、(B)成分が51〜99質量部である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分が分散相を形成し、(B)成分が連続相を形成する請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
(B)成分がポリエーテルエーテルケトン樹脂である請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
(C)エポキシ化合物が、グリシジル基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体である請求項3〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
(D)エラストマーを含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
(D)成分が、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体の水素添加物である請求項10記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
(E)無機フィラーを含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
(F)難燃剤を含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。

【公開番号】特開2008−101200(P2008−101200A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242368(P2007−242368)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】